●リプレイ本文
●ようこそ能力者様
通報のあった村に到着すると熱烈歓迎を受けることとなる。
あの英雄達が自分達を助ける為に現れた、そんな歓喜だ。
是非にお泊りになり、ご自由にお使い下さいと民宿の一室に通された。
「キメラは、迷惑ですね‥‥」
クラゲ自体は癒し効果があるとかで見ているだけならば可愛いのに、と憂うるのはハミル・ジャウザール(
gb4773)。
そのぼやきに男性が割り込んだ。
「あ〜ハミル君、任務が終わったらちょっと実験に付き合ってくれたまえ〜」
ドクター・ウェスト(
ga0241)は裏のあるような笑みを浮かべハミルに協力を求めた。
「は、はい‥‥僕にできることでしたら」
「なぁに簡単なことだよ〜」
けひゃひゃ、という独特の笑い声を上げ、首に書けていた十字架のネックレスを置荷の中に放り込んで準備完了。
「あっつぅぅぅい!」
カラカラ音を立てて回る扇風機の前に座っているのは古末 菜(
gb4030)。セーラー服の襟元を煽り自らに風を送っている。今回が初陣と張り切ってきたものの、残暑の蒸し暑さに少々まいり気味の様子。
一方、廊下では百地・悠季(
ga8270)が村の子供達に捕まっていた。
「えーっと‥‥、今回の現場ではくらげキメラが大発生。駆けつけた、あたしたち能力者はこれから駆逐に向かうのよ。だから――」
これから行うことをレポーターのように解説していた。子供達の輝く瞳。明らかに興味をもたれている。
こういうことしてる場合じゃないんだけど、と思いながらもつい相手をしてしまう。
●駆除作戦
海岸を一望できる松深く茂る岬から様子を伺う影二つ。
「どうやら能力者サンがきたようですね」
背の高い女性が双眼鏡で姿を確認し呟く。
「やっとお客さん、だね。がんばれボクのキメラ‥‥!」
女性よりも若い青年は見守る手に力を込めた。
金色に輝く砂浜に降り立つ。砂はサンダルを通してもじりじりと熱を感じるほどだ。
現状を確認する為に水際に近寄ると、小さな半透明のクラゲたちが波の満ち引きに合わせて漂っていた。
降りる前、高台から見た様子では本部の依頼票にあった通りに船着場の方に違和感がある。しかし一行は先に浅瀬を漂うクラゲの一掃作戦を決行することにした。
「どれがキメラかわっかんなぁーい!!!」
真っ先に悲鳴を上げたのは古末。
そう、数もわからず通常のクラゲとの区別もつかなかったから。
「うーむ、地球の生命に能力者の力は使いたくないのだがね〜」
ドクターは後方に待機して、様子をうかがいながら感傷を宿した言葉を誰にでもなくこぼす。可能な限りキメラ以外の命を粗末にしたくない、仲間の誰もがそれは思っていた、が漁師の言うには通常のクラゲも漁の邪魔になっているので気にしないでよいとのこと。
まずはハミルと百地が斥候としてクラゲたちに近づく。
普通のクラゲでも刺されれば痺れることも、深手を負うこともある。その危険を加味してブーツより深いところに入らぬようハミルは注意した。
「とりあえず‥‥」
つんつん、と試作型水陸両用槍「蛟」の先端、射程ぎりぎりでつついて反応を観察する。ハミルは違いをみて普通のクラゲとキメラを識別しようとしていた。
ぷにっ、と抵抗もなく先端が刺さる。多分これは普通のクラゲさん。
その隣のも、と先端で軽く突くと――硬い抵抗を感じた。
「あ――」
「あら、そのちっちゃいのキメラ?」
同様に他のクラゲを確認していた百地の声に後方のドクターと古末が武器を構えた。
前衛二人は一度キメラと距離をとる。
つつかれたキメラも攻撃対象として人間を感知したようで数本の触手を水面に上げた。多少なら水から離れられるようだ。
「えい、えい、えーいっ!」
緑の髪を一層深い緑に変貌させた古末は、ドクターに練成強化を施してもったアサルトライフルの弾丸をキメラに向けて連射した。水しぶきが同じ数だけ上がりキメラと一同の間を遮った。その中から一本の触手が長く、長く伸びてきた。それが攻撃手段なのだろう。
しかし備えていたハミルがそれを「蛟」でなぎ払うとその袂目掛けて「蛟」を一突き。貫いた手ごたえ、あり。
同時に水しぶきが収まった後にはクラゲたちが浮いていた。古末の放ったアサルトライフルの弾丸が貫いたものだろう。しかし、ハミルが貫いたはずのキメラの姿は「蛟」の先になかった。確かに手ごたえはあったのに――。
百地がそのクラゲの集団を確認すると攻撃性を示す固体はいなかった。この中にはもうキメラもいないのだろう。後方ではドクターがなにやら記録をとっていた。口からなにやら白い煙のようなものが出ているように見えるが‥‥?
そうしているうちに波が来て、それら残骸を攫っていった。同時に次の波で別のクラゲ集団が現れる。
「‥‥え?」
どうやら大きな波にごとに別々のクラゲの集団がやってくるようだ。
再び迎え撃つために備える。
同じようにつついて確認し反応を待つ。一匹のキメラが反応を示すと、今度は連鎖するように複数のクラゲが顔をあげた。
「うわわ、今度はいっぱいだ!」
後ろで慌てた悲鳴を上げる古末。普通のクラゲよりも小さなキメラのほうが多いようにみえた。水面から顔を上げないので普通のものの数はわからなかった。
中には普通のクラゲにかじりついているキメラもいた。
「これは‥‥一掃した方が早いわよね」
「そうですね‥‥」
百地とハミルが顔を見合わせうなずき合う。その様子をみてドクターが、
「駆除許可を受けたにしても地球の生命に使っていい力ではないのだから、なるべく、ほら‥‥」
その杞憂も一理あるがこれだけまとまった数がいてはこの方がはやい、と百地は大口径ガトリングを腰だめに構え、集団に向けて発射した。
「はっ!」
凄まじい反動、次第に銃身が熱く赤く変わっていくがそれに耐える百地。
「ああ〜‥‥」
弾を撃ちつくした後で原型もあいまいに浮かんだクラゲたちを視認すると額に手をあてドクターは嘆いた。
「しかたないでしょう、嘆かれてもこの方がはやいもの」
どんっ、とガトリング砲を砂浜に下ろした百地はドクターへ向き直り弁明する。背中の五対の翼が陽に反射して輝いていた。
尚、先ほどと同様に立ち上がったキメラたちの姿は消えていた。いぶかしむが考えていても仕方がない、任務が優先と次の波を待った。
何度か繰り返すうちに要領を得、キメラだけを倒したり、諦めて一掃したりとやってくる集団に合わせた方法でなるべく被害を抑えるように退治していった。
何度繰り返しただろうか、見たところもういないと思うけど一応、と百地がパーカーを浜辺に脱ぎ捨て水中へ確認に向かう。
ハミルや古末、ドクターも波打ち際を警戒しながら散策するが弾痕以外は綺麗なものだった。
潮が変わったのか、百地の捜索の結果、周囲には一匹のクラゲも見当たらなかった。
「海、平気だとおもうわよー!」
水面に顔を上げ、声を張り上げ浜辺の仲間に敵影なしの合図を送る。
そして合流し、それぞれ消耗した体力を癒した後で船着場へ向かうことにした。
一方岬では。
「‥‥なぜキメラが消えるのですか?」
経過を記録しながらその様子に疑問を抱く女性。
「ん〜‥‥ちきゅーにやさしく? 負けると潮に溶けるようにしてみたんだ。あ、完全に消えるわけじゃなくて、なめくじみたく浸透圧が変化することで――」
こともなげに解説を連ねる青年。能力者の手にも渡りにくくなるでしょ、と怪しい笑みを浮かべていた。
一同は削られた船着場の境界で足を止めた。
初見では沢山のクラゲがみっしりと船に張り付いている、ように見えたのだがそれは表面がでこぼこに膨らんだ巨大な1匹のクラゲであることがわかった。
「これはこれは、ノーマルの視力では見間違えても仕方ないかね〜」
巨大なキメラを目の前にしてドクターは憎悪交じりに笑った。ちなみにドクターは非能力者のことを『ノーマル』と呼んでいる。
「これは間違いなく、キメラ‥‥ですよね」
傘の部分が広がった大きさで2m程度、頭から触手先端までが2m程度、一般的に知られているものよりもかなり大きい。それが船の先端部分に張り付いていたのだ。半分は水中に浸かっている。
船着場の損害はこのクラゲの触手によるものだろう。
こちらも能力者――生命体の存在を感じとってだろう、巨大なキメラは長い触手を現した。数多数、先端にぎょろりとした目のようなものがついていて、それがこちらを見ている。
「あ、あたしは先輩達が仕事に専念できるようフォローするから!」
古末は、おそらく自分の力では他の仲間には及ばないだろうと懸念、今自分に出来ることは――と周囲を見渡した時、高台に村の子供達が集まっていることに気づいた。
おそらく能力者の戦いを一目見ようという興味で集まったのだろう。あの子たちを避難させてくるね、と言うや否や古末は駆けた。
「さて、では、始めるかね〜」
ドクターの言葉に3人は短く同意を返して臨戦態勢に入った。それぞれの武器に練成強化が施されるとほぼ同時、複数の長い触手が一同めがけて振り下ろされた。
各々飛びのいて回避、散開。
「この触手をどうにかしないと本体? には近づけそうにないわね」
百地はリロード済みのガトリング砲を構え、向かってくる2本の触手目掛けて発射した。砂に足がとられない分、足場が安定している。
触手の動きも早かったが弾丸の数と威力には逆らえなかった。百地にたどり着く前にちぎれ、コンクリート上でひと跳ねした後で海に墜ちた。
ハミルはエナジーガンと真デヴァステイターを持ち替え双方で効果を試してみた。彼においてはエナジーガンでの効果が高いように見える。
(「‥‥こちらのほうが有効ですね」)
それ以後エナジーガンを使うことにした。
「ふむ、この触手をサンプルとして採取しようかね〜」
強く目を輝かせているドクター。出来るだけ砂浜、水のない方へと誘うように動く。理由は不明だがこれまでの戦果から退治後、海からの回収は難しいことを判断、実験も兼ねて水に浸からない位置で打ち落とそうと考えていた。それにしてもどこまで伸びるのか。
ドクターは電波増幅を施すと向かい来る触手にエネルギーガンを放った。根元までは届かないが採取するには少量で十分、と目の付いた先端部分を打ち落とす。砂浜に落ちた部分がしばらく動いていたが砂まみれになったころで動きを止めた。
「けひゃひゃ」
イカゲソのようにも見える、が一応キメラの一部であることは間違いない。
同時に『目』を失ったその触手は奇怪な行動を始めた。まだほとんどの部分が残っているからだろうか、本体に向かい縮んでゆくと同時に目標もなく暴れ踊っている。
地に打ち付ける振動、巻き上がる金色の砂埃。
「な‥‥なんですか!?」
ハミルが驚いてそちらをみると鞭のような触手が向かってくるところだった。今の自分は別の触手と戦闘状態、百地もリロード中――これは、と覚悟したときだった。
一発の弾丸が何処からか放たれて、触手に当たり、触手が反れた。ハミルが回避するにその一瞬で十分だった。
「あ‥‥あたったっ!」
子供の誘導に向かっていた古末の放った一撃だった。仲間の援護をしようと、且つ船に当てないように注意して照準を合わせていたことで本来の射撃タイミングより遅まったことがよい意味で効果を発揮したのだ。
全ての触手が打ち落とされると、キメラは船体から離れ水中に潜った。腕を失った体で何が出来るのかはわからないがこのままにしておくわけにはいかない。
百地は試作型水中剣「アロンダイト」を手に海中へ潜った。ドクターは 船着場で水面に現れたときのことを考え、試作型水陸両用アサルトライフルを構えていた。
船着場だけあって船が座礁しないように、ここは少々深くなっているようだった。澄んだ水のおかげでゴーグルがなくとも視界は確保できた、首をめぐらせ周囲を散策しているうちに傘を開いたり閉じたりして泳いでいるキメラを発見した。
近づいたところ体当たりを仕掛けてきた。それ幸いと両断剣と流し斬りを併用して「アロンダイト」迎え撃つ。相手の推進力と剣の威力が相乗して、真っ二つに分断することに成功。
巨大キメラクラゲ処理を確認した後でもう一度他にいないか全員で安全を確認すると、報告の為に村へ戻った。
日が暮れて暗闇に溶け行く影二つ。
「うーん、ざんねん。もっとお客さんきてくれればよかったのにな」
「能力者サン以外の、でしょう。次は時事についても検討してください」
女性は無表情に告げると同時に手帳へ人被害ゼロ、資源被害二割程度、と書き込む。
●貸し切りビーチ
村民達は朝のうちに海岸へ打ち上げられた残骸を片付けようと動いていたのだが、そこへ――
「あら、先客?」
百地が現れた。彼女は残務処理として残骸を集めておこうとやってきたのだった。
「ああああ、能力者さま、お、おはようございます」
声が上ずっている男達をよそに、
「あたしにも手伝わせてね」
と微笑んで掃除を手伝った。
他の仲間達がやってきた時にはビーチパラソルやレジャーシート、チェアが用意されていた。
「あ、我が輩にアルコールは結構〜」
麦藁帽子に遊泳スタイルのドクターは薦められる地酒を断り、昨日採取したキメラの一部を眺めていた。どうしたものか。
「あ、ええ‥‥こういうの、慣れているので‥‥」
ハミルは海女に混ざって料理を手伝っていた。手際のよさに、時折黄色い歓声を上げるおばちゃんたち。いくつかの海女料理を教わることが出来た。
一方、古末は波打ち際を素足で歩いていた。
「あっついけど、やっぱり海はこうじゃなきゃ楽しくないよね♪」
真夏の日差しに冷たい水際。これがあるから楽しめる。
しばらくして海の幸を使った料理が一同の元に届けられた。
「うわぁ、美味しい!」
「うん、これはいけるわね」
運ばれてくる料理を次々に口に運んでいく。
「はい、これも美味しいから食べとくれよ」
次に海女さんがハミルと共に運んできたのは巨大な丸々一匹の茹蛸。
百地はぎょっとした表情になった。最近受けた依頼の様子が一瞬脳裏をよぎった。
「どうしたのかね〜?」
「さ、さーて。食後のビーチフラッグでもどうかしら」
話題をそらすように布を結んだ流木を仲間に見せた。
「あたしも参加する〜!」
古末が賛同して立ち上がる。
「ふむ、では、こちらは‥‥ハミル君〜、例の実験に付き合ってくれないかね〜?」
伊達眼鏡の奥の瞳に怪しい光が宿る。
「え、えーっと、僕も遊んでこようかと‥‥」
実験に悪寒を感じたハミルは言葉を濁し百地達と遊ぶ方を選んだ。
「そうかね〜、まぁ、若い者はそういうものなのだろうね〜」
なにやらつまらなそうなドクター。
彼らの守った砂浜は金色に輝いていた。