●リプレイ本文
●拠点への道
「全力で遊んじゃうよっ!」
ノリノリに茂みを掻き分けて進んでいくのは平野 等(
gb4090)。
「宝って何かしらね。キャンプというとアレっぽいけど」
しおりを眺めながら百地・悠季(
ga8270)は艶っぽく口元に指をあてた。
「でもまずは拠点を作らないとね」
ヴァレス・デュノフガリオ(
ga8280)は細やかな見た目に反してかなりの荷物をこともなげに運ぶ。
「うーん‥‥蒸し蒸しなのです」
シーク・パロット(
ga6306)は『ねこぐろーぶ』で額の汗を拭った。
「場所は‥‥川の近くで風通しのよい場所が好ましいですね」
フィルト=リンク(
gb5706)は地図と方位磁石を照らし合わせながら道を指示していく。地図によると丁度川の近くにキャンプ跡があるようだ。
「たまには、こういうのも良いだろ‥‥っと、水音が聞こえる。川が近いな」
森歩きに慣れているということで先頭を歩いていた皇 流叶(
gb6275)は湿った暑さに混ざる涼やかな風を感じ取った。
ちなみにジョンは到着後、自身のフィールドワークの為といち早く森の中に姿を消した。
丁度川も近く過去にキャンプに使われたであろう広場に一同は荷物を展開。
「俺が張り抑えておくからその間に固定頼んでいいかな♪」
長身を生かしたヴァレスが保持。
「ああ、持っててくれよ‥‥せーのっ!」
「おっけー! こっちも‥‥せーのっ!」
皇、平野は互いに声を掛け合い固定。しおりの内容を警戒してテントは男女別に2つ設置された。
●食料を求めて
「じめじめはしていますけどやはり自然深い森はよいですね」
フィルトは森林浴を楽しみながら集めてきた乾いた流木や朽ちた古木を拠点で留守番をしていたヴァレスと皇に手渡した。そして今度はバケツを手に川へ向かう。
「おし、じゃやろうか流叶〜」
ふいに覚醒したヴァレスは真紅の瞳を鋭く輝かせると大鎌「紫苑」を構えた。
「じゃ‥‥投げるよ? せいっ!」
皇は深く息をつくと、一気に複数の古木を宙に投げ放った!
同時に、煌く一閃が古木の数だけ瞬く。
カラン――乾いた音が響き地に落ちたそれは全て中心で縦に割れていた。
「ふぅ、薪はこれでいいかな。次は火をおこそうか〜」
覚醒を解き、のほほんと微笑むヴァレス。そして手ごろな石で簡易釜戸を作り上げると薪を放り込んだ。古新聞を丸めライターの火を移し釜戸の薪に乗せる。
「あら、丁度いい具合でしょうか」
フィルトがバケツいっぱいの水を携えて戻ってくると、ちょうど薪に火が移りぱちぱちと燃え始めたところだった。
「飲み水は一度煮沸しておいた方がよいですからね」
火にかけた鍋に川の水を移した。
水遊びもいいけど課題が先、ということで果実採取のため百地は森を歩いていた。
「植物の生態調査って感じでいいわよね」
ふと見上げると赤い実をつけた木があった。甘酸っぱい香りが鼻腔をくすぐる。
「プラムかしら」
担いでいた脚立をおろし足場にして一つの枝に手を掛けた。いくつかの真っ赤な果実に触れて触感を確認すると固くもなく熟しすぎてもなく丁度いいことがわかった。その中でも茶腐れのない綺麗なものをいくつか回収する。
「あら?」
もいでいる最中、枝に絡まる荒縄をみつけた。
「何かが吊り下げられていたみたいだけど‥‥」
そこにあった何かはどこかへ移った後のようだった。枝への食い込み跡からそこそこ重いものであっただろうと想像できる。アレではなさそうかな、とその場を後にした。
シークは釣竿を背負い許可範囲の川原を散策していた。
人の手が加わっていない透き通った水面から水中が見て取れる。緩やかな流れの中で魚が上流を目指し泳いでいた。
「お魚は気持ちよさそうなのです」
川辺に屈みこむと、水中に手を沈めると手ごろな川底の岩を持ち上げた。
「川底の虫をしらべるのです」
露呈した土をバケツで掬い上げ、その土を探ると何種かの水生昆虫が姿を現した。
「お〜絶滅危惧種もいるのです、きっとここは水がいいのですよ」
いきもの図鑑と照らし合わせながら記録をとり、釣りの餌を数匹確保すると他は川に戻した。
「自然が元気なのはいいことなのです」
再び調査のため歩き出す。
一方そのころ平野は身軽さを生かして登った木の上で、風景を眺めながら途中で見つけたマルベリーを口にしていた。
「ふふふ〜、いろいろ採取しちゃうよ!」
ひらりと地に下りて草むらを掻き分けて行動を開始。
岩をひっくり返しては隠れていた虫を捕まえ回収。蛇の抜け殻を見つけては回収。明らかに毒々しい色のキノコを見つけては回収。
そして蜂の巣を発見して――
「蜂蜜だね!」
近くにあった枝で巣を叩くと住人が飛び出して来た。流石に多対一では不利、すぐさま方向転換、疾風脚で逃げる。しかし怒りに燃える住人の追撃は執拗だった。
そんな彼の目前に泥の川が現れた。平野は携帯品を投げ出すと勢いよくダイブ。
泥が跳ね上がり平野の姿が消える。蜂たちはしばらく周囲を飛び回っていたがやがて諦めたようにその場を去った。その頃を見計らい、
「にゃはは〜♪ 危なかったぜぃ」と顔を出すと、携帯品を回収し清水の川へ向かうことにした、泥を落とすために。
食材採取第参部隊、もといヴァレスと皇は山菜集めに出ていた。
「これはどうかな〜?」
山菜についてあまり詳しくないヴァレスは山菜取りを日常に生活していたという皇に逐次確認する。
「って待て! それドクゼリ、毒草だ!」
「セリじゃないの?」
食用にしている類似の植物を思い浮かべる。
「似ているからな、間違いやすい」
他にも全部採らないようにしろとか、食用に適した大きさがどうとか色々と皇は解説を連ねてゆく。
「ん〜キメラとか出てきてくれたらお肉ゲット♪ なんだけどなあ」
山菜を籠に収めながら周囲をぐるりと見渡した。虫の鳴き声は聞こえどキメラはいなそうと思ったその時、近くで大きな水音が聞こえた。身構える二人。
「まさか噂をすればか!?」
皇はアルティメットフライパンを片手に音の聞こえた方へ駆け出した。追ってヴァレスも大鎌を手に後を追う。危険があれば先行排除すべき、と。
すぐ目の前に濁った川が現れた。川べりから森に向かって人の足跡が続いている。警戒を緩めず窺い続けると突如泥の中から何かが現れた。
硬質の鱗、ぎょろりとした目、鋭い牙――ワニ。
「キメラではない、ようだな」
「‥‥ワニ‥‥食べられるか?」
気抜けしたように覚醒を解く皇と大鎌を構えたまま真面目につぶやくヴァレス。しかしワニはまたすぐに泥の中に姿を消した。
フィルトは百地と火の番を変わるとシークと合流し、釣りに望んだ。
釣り糸をたらすシークの隣には吊り上げた魚の名前とサイズを記録したノートが置いてあった。水の中には釣った魚を入れる網がゆらゆらと漂っている。
「物陰は逆に逃げ場が少ないので捕まえやすいのです」
フィルトはアドバイスを元にブーツを脱いで水に浸かり、静かに水草の陰を窺う。そこには数匹の川魚の姿があった。こちらに気づいていないようだ。
「はい、猫さんのおっしゃる通り‥‥います」
察知されぬように気配を殺し、すっと捕らえる。キメラと戦うよりも容易なことだ。捕らえた魚をシークの網に移し次の獲物を捕らえに行く。
「それと、ちょっと深いところもあるから気をつけるのです」
「了解いたしました」
二人は手際よく魚を確保していく。
尚、このとき二人から離れた下流で平野が泥落としをしていた。釣りの邪魔にならないように離れたその場を選んだのだ。
●陽が暮れて
それぞれ自由研究を兼ねた食材集めを終わらせたところで成果物を吟味していた。
「それじゃ何をつくろうか?」
慣れている料理も皆で一緒に行い食べるそれもきっと楽しいだろう、と思いを馳せながら皇はメニューを相談した。
「新鮮な魚と山菜‥‥ホイル包みと炊き込みご飯はいかがでしょう?」
「お魚はやはり塩焼きなのです」
フィルトとシークの意見。
「山菜をシチューにいれるってどう?」
キャンプといえばコトコト煮込むアレと意見する百地。
「じゃあ俺は食材切るからまかせてよ♪ 何でもきれるよ〜」
ヴァレスの大鎌が夕陽を受けて煌いた。
「それじゃ米炊きしてようかな、俺」
フィルトから受取ったタオルで水気を拭いつつ、平野は飯盒と白米を持って川に向かった。そしてそれが調理開始の合図であるように夕飯作りは始まった。
シークは川魚の内臓を綺麗に抜き取ると串を差し入れ、化粧塩を施す。
「生焼けは危険なのです」
下ごしらえを終えた串を地面に差し込み、じぃっと焼けるのを待つ。
ふと宝のことを思い出し先人が野営したであろう焚き火の痕跡を掘り返してみたが、特に何も見つからなかった。噂の宝はここではないらしい。
皇のまな板を借りてヴァレスは柄を短く持った大鎌でせっせと山菜を切り刻んでいた。煮込んでは灰汁をすくい捨てる繰り返し。ちょっと地味だが重要な作業。
「ぁ、灰汁抜きおわったやつ取ってくれ」
「こちらにもおねがいします」
百地の作る山菜シチューを手伝う皇と炊き込みご飯用にと求めるフィルトが代わる代わる訪れる。
平野は借りた団扇で火を煽りながら米が炊けるのを待った。
そんなこんなで完成しました晩御飯。
すでに陽も暮れて食卓を照らすのは下火になった釜戸の火とランタンの光。切り株の食卓を囲んで7人は「いただきます」と手を合わせた。
「おう、なかなかいい具合に出来てるな」
――あれ、7人?
6人が不自然な1人の居所を見ると、そこにはジョン先生がいた。あっけに取られる一同。しかし当人は平然としている。
「ん、どうした? あー‥‥課題の回収だぞ? 気にするな」
一品一品の味見しながらメモを取っている。『現地で採れたもので作った料理』を確認しに来たらしい。
そういえば、と百地が口を開いた。
「先生、宝なのだけど見つからないのよね。ずばり『花火』だと思って探したけど」
地域的に湿度が高いこと、花火は湿気ると機能しないことを告げ回答を待つ。
「ん、読みはいいなぁ。ほぼ正解。まーそこまでわかってりゃ‥‥」
ごそごそとジョンは自分の荷物を漁り、一同の前に花火セットをどん、と置いた。
「ほい、これだ」
地図に書いていないのはその目標物が固定された場所にないから、現地に隠したとは書いてない等とちょっと小学生レベルのいじわるナゾナゾに似た解説をして「ごちそうさん」とジョンはその場を去った。
――なんだか腑に落ちない気がしないでもない。
デザートにプラムとマルベリーをいただいて楽しい夕食は過ぎていった。
●帳が落ちて
「ははは♪ まさかこんな落ちだったとはねぃ」
楽しそうに花火を手に円を描いて遊ぶ平野。ぱちぱちと火花が散っている。
「猫はこれにするのです」
地面に広げた花火の中から好みのものを選んで火をつける。
「下界の明かりがないからかもしれないが星も月もよくみえるなぁ」
ヴァレスは開けた川原の空を見上げてほう、っと感慨に耽った。
笑いながら楽しむ一同と――
(「‥‥人工の煌きというのも捨てたものではない、な」)
と、煌く花火を見つめる皇。
(「この戦い旦那も含めて生きて居られたら‥‥」)
百地は左の薬指に光る指輪を見つめながら、今も戦地に居るかも知れない夫の無事を祈った。
●真の戦いはこれから
花火も終わり火の始末もし「おやすみなさい」とそれぞれのテントに別れた。
百地は小さなオルゴールのぜんまいを巻き、蓋を開けた、静かなメロディが眠りまでのBGMということだろう――と思いきや?
「さて、と」
女性3人はにこやかに向かい合って座る。
「それでははじめましょうか」
フィルトが中央にトランプを厳かに置く。
「ルールは、いいわよね」
何やら企むように、艶やかに微笑む百地。
どうやらカードゲームをしようというらしい。且つ勝者と敗者にはもれなく特典が与えられるというルール。
「ゲームは階級闘争――大貧民――でいいですよね?」
「勝者――上官の命令に従え、ってことね」
「ああ、異論はない。徹底的にやらせてもらうとしよう」
基本ルールの下に全カードが均等に配られゲームスタート。
「手堅く‥‥これでいこうか」
親、こと皇が最初のカードをおいた。
「ふむ‥‥それなら之、かな」
手札と場のカードを交互に見ながら次の手を置く百地。
「あら、それはちょっと‥‥ええと」
場の札を見て思考に入るフィルト。初戦の敗北が後半の戦況――手札――に影響する。ここで負けるわけにはいかない。
「待ったはなし、だぞ?」
「‥‥わかっています」
百地の勝ち誇った笑みを受けフィルトは覚悟。
「虎の子ですが、これを」
とん、と出したのは今のところ最強の1枚。
「ああっ!」
揃えて悲鳴を上げた2人。無論パス、パスと続いて親はフィルトへ。
「はい、それでは」
強めの1手を――2枚セットで。
「ん〜パス、だな。ってか最初からそんな飛ばして大丈夫か?」
皇が百地に手番を譲りながら探りを入れる。が、当のフィルトは冷ややかな微笑みを浮かべ「私は冷静ですよ」と一言。さりげなく瞳の色が藍色だったような気がした。
かくして夜が更けるまで歓喜と嘆きの悲鳴が交互に響き渡り、気づいたときにはカードを手にしたまま仲良く川の字に眠っていたとのこと。
●夜が明けて
「ひゃっほーいっ!」
大きな水しぶきと水音を上げて川の深みへ水着の平野が飛び込んだ。
「ん〜やっぱり暑い盛りは水遊びね」
まぶしいオレンジ色の水着を纏った百地も優雅に水の中を泳ぐ。
冷たい水がじめじめ湿った肌を優しく癒してくれるように感じる。
「そういえば昨夜はかなり元気にはしゃいでたようだけど何してたの〜?」
岩に腰掛け、足を水に浸しながらヴァレスは百地に声をかけたが
「あら、そっちまで聞こえてた? ちょっと猫が増えただけよ」
彼女はにこり、と意味深に微笑むだけだった。
早めに起き、水浴びを済ませていたフィルトは昨晩の後片付け、及び撤収準備を手際よくすすめていた。それを手伝うのは『ねこみみふーど』を付けたシーク、ではなくて皇。
昨夜の勝負は1位百地、2位フィルト、3位皇という結果になっていた。そのため皇は百地の用意した罰ゲームに準じていたのだ。
(「猫語よりまし、猫語よりまし――」)
自分にいいきかせながら勝負は勝負、と恥ずかしさをかみ殺して頑張る。
尚、本当の猫さんシークは時間ぎりぎりまで水辺の調査をすると出かけていた。
かくして夏の宿泊自由研究は終わりを迎えた。
課題は全て回収されたが意外にも一番高い評価を受けたのは、平野の目論んだ「提出されたら困るだろうもの」だったとのこと。
特に蛇の抜け殻はジョンのサイフに納められ、金運のお守りになっているらしい。