タイトル:【授業】夕暮れの市街戦マスター:ArK

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 5 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/07/29 11:07

●オープニング本文


 照明の落とされた会議室。
 一同は己らを照らす唯一の光源、煌々と輝く正面のスクリーンを真剣に注視していた。
 スクリーンは次々に映像を切り替え、さまざまな角度から戦況を示していく。
 空が、建物が、夕日に赤く染まっている。
 割れたガラス、穿たれたアスファルト、壁が抉られ鉄骨がむき出のビル。
 そこは高層ビルが立ち並び、大通りと裏通りが交錯するオフィス街だった。
 突如キメラの襲撃を受け、避難勧告が発せられたが逃げ遅れた人がいるという。
 時折地上をうろつく犬型キメラや空から様子を伺う鳥型キメラの姿がとらえられたが人の姿はなかった。屋内に避難しているのだろうか?

「――と、これらキメラの排除と逃げ遅れた人の保護が今回の授業内容です」

 緊張に満たされた刻の終わりを告げたのは穏やかな女性の声だった。同時に部屋の照明が灯される。
 ここはカンパネラ学園で、見ていたのは市街戦用訓練施設の説明映像だった。
 彼女は体育科指導教員エルシー。小柄で少々丸みを帯びた体型をしており、齢は30手前くらい。いつも朗らかな微笑みを浮かべている。

「要救助者は5名。うち4人は一般人――射撃訓練用のベニヤ板でできたダミー人形ですが、お肉をくっつけてありますので空腹のキメラにかじられないように守ってあげてください。それと粗雑に扱わないように」

 ――救出前や運搬時に損傷があった場合は減点。

「残り1人は生身の人間。うちの生徒です」

 ――5人目はうちの生徒――って、え?
 ちらほらと困惑する声が上がるがエルシーは続ける。

「適度な緊張感は必要だろう、と申し出た方がいまして採用することにしました。もしかするとキメラ退治やお人形の救出より、逃げ回っている彼を捕まえる方が大変かもしれませんね」

 最後に最高の笑みを浮かべて説明を終わらせた。

●参加者一覧

地堂球基(ga1094
25歳・♂・ER
水瀬 深夏(gb2048
18歳・♀・DG
愛栖 くりむ(gb5282
15歳・♀・ST
フィルト=リンク(gb5706
23歳・♀・HD
ノーン・エリオン(gb6445
21歳・♂・ST

●リプレイ本文

●事前ミーティング
「最近体鈍ってたからな〜、いい運動になるぜっ!」
 カンパネラ学園の制服を着用した水瀬 深夏(gb2048)は上体反らしや屈伸等の準備運動をしていた。
 今回は授業だが実戦なら負傷で動けない者や意識のない者の救助活動になることも少なくない。力仕事が必要になることは容易に想定できる。そして身体をほぐし終えると覚醒しAU−KVを装着した。
「はぁ‥‥」
 その様子をみていたノーン・エリオン(gb6445)は小さなため息を漏らした。制服の女子生徒が装甲の中に消えた――残念。そういえば救出対象の生徒が女子だったらもっとやる気が、と思ったことを思い出した。
 女子生徒はもう1人いる。ノーンの知り合い、フィルト=リンク(gb5706)。彼女は諸事情により制服を着用せず私服登校をしている上、今はAU−KV装着の身。
 そんなノーンの視線に気づいたのかフィルトは、
「あ、ノーンさん‥‥せっかく訪ねて来て下さいましたのに授業でして‥‥用件はこのあとでよろしいですか?」
 と、彼が用件を言い出しかねているのだと受け取り授業後の約束をする。
「い、いえっ、これはこれで楽しみですから! がんばりますよ!」
 ノーンは慌てて満悦の笑顔で返事をした。
「さて、開始前に役割の確認といこうか」
 それぞれの準備が終わったのをみると地堂球基(ga1094)は告げた。迅速な救助活動には密な打ち合わせは不可欠だ。
 施設内部の見取り図をエルシー教員から受取ったが、本当に簡単なもの。コピー用紙にフリーハンドで施設範囲を示す四角と距離、大通りだけが描かれている。人数分コピーしてもらったがこれでは心持たない。
 その後さらに何人かが同じく見取り図を求めたことで大きな建物の配置を追記してもらえた。
 目下必要なのは集合場所と連絡方法。それには施設内を中央で十字に区切る大通りの交差点を使うことにした。幸い近くに大きなビルがある。救助者はここに搬送すればいい。
「ボ、ボクはあんまり戦うのむいてないから皆の援護をするよっ」
 『自称』魔法少女の愛栖 くりむ(gb5282)は可愛く元気な声で希望を告げる。訓練とはいえ初めての戦闘、若干声が震えているようだ。
「じゃあきみは‥‥人形の捜索と保護担当で。多分屋内にある――いや、いる可能性が高いだろうからそちらをたのもうか。ペアはノーンでどうだ?」
「うんっ、がんばるよ☆ よろしくねっ!」
「おっけー!」
 愛栖とノーンは元気に了解を返した。
「じゃ、俺と球基は屋外を巡回してキメラの排除だな! ああ、救助者を発見したら救助もするが安全確保優先だ!」
「ああ、俺は後方支援する。前衛、よろしくたのむ」
 水瀬はこぶしを強く握り締め決意を示した。地堂と組み、主に屋外を巡回する。
「おうっ、まかしとけ!」
「それでは私はキメラの目をひきつけ、皆さんの救助活動をしやすくしますね」
 フィルトは感情もなく静かに告げた。危険といえば危険な役割だがためらいは微塵もない。
「救助者を発見したときは無線で連絡しますのでフォローお願いします。区画は‥‥大通りを基準として示します」
 チームは3つに分かれた。それぞれ無線機を所持する者がいるため連絡はそれで取り付けることが出来る。
「ええっと‥‥逃げてる子はどうするの?」
 人形の確保とキメラ撃破については決まったが?
「見つけたら考えればいいんじゃ? 男だし」
「戦闘完了後でいいんじゃないか? 仮にも生徒だし」
「そうですね‥‥ひきつけ中に発見しましたら確保しておきます」
 つまり――後でいい。
「う、うん。じゃあボクも見つけたらってことでっ!」
 一同は目の前の重い扉を開くスイッチを押した。

●ミッション
 集合場所確認の為、一同は中央に位置する大通りの交差点を訪れた。
「はー、さすが軍学校に準じただけあるな。こんな施設があるとは」
 地堂は周辺を見渡しながら言った。照明もエリアを覆う壁も全てが実際にそうであるようにみえる。夕焼けがそこかしこを赤く染めている。キメラによって荒らされたであろう痕跡もある。
「それでは急ぎましょう、いずれも何処にいるかわかりません‥‥みなさんもお気をつけて」
 フィルトは地図を手に奥へ走り去った。キメラをさがし注意を引く為に、救助組の安全を確保するために。


 愛栖とノーンはまず救助者を収容する予定の建物の調査を行う。
 電源に異常があるのか入り口の自動ドアは開かなかったが側面に回ってみると一角が崩れて入り口のようになっていたのでそこから進入する。
「うわぁ、暗いねー」
「だな。照明はっと‥‥」
 スイッチをいくら押しても灯りは付かなかった。あらかじめ用意していたランタンを灯し内部捜索を開始。
 警戒して捜索をおこなったが内部にキメラの気配はかった。そして3階から上はいけないことがわかった。そこが天井なのだろう。
「あ、ノーンくん、きてみてみてっ! お人形がある‥‥いるよっ」
 愛栖は小柄なのを利用してちょろちょろとフロアの隙間という隙間を散策していたところ、倒れたロッカーと机の隙間の中で人形を発見した。
「なるほど、崩れたものの下敷きになって動けない、ってとこか」
 おそらくロッカーをどかさないと出せないだろう。
「うーん‥‥このお肉は救急セットじゃ元に戻せないかな〜」
 ――中で何をして‥‥? むしろどうにかなるなら見てみたい、かも。
「とりあえずロッカー起こすから内側からも押してくれ」
 二人は力を合わせてロッカーを元に戻すと要救助者を保護した。


 吸気音と排気音を響かせながらフィルトは路地を駆け抜ける。
 背後を空腹の飢えた獣、二匹の犬型キメラ―ジャッカル―がその跡を追う。
(「ひきつけられたのは二匹‥‥他は‥‥どこ‥‥」)
 追いつかれぬように、そして諦めさせないように速度を調整する。何度か小銃「ルナ」にて狙撃をしているのもあり相手の足は若干鈍い。
(「そろそろ壁が近い‥‥次の角を右――」)
 きゅっ、と足をならして直角に曲がる。投影のおかげで風景に見えるがこの先が施設の壁であることを知っていた。
 キメラはそのことを知らなかったが衝突時にフォースフィールドが展開したのだろう、何事もなかったかのように方向を修正しフィルトを再び追い始めた。
(「こちらに男子生徒の姿はなし。あの建物の人影は――人形ですね」)
 逃げながらも冷静に周囲を確認し、内容は逐次無線で仲間に知らせる。連絡時に多少のスキが出来てしまうがそこは一度大きく引き離してから行うことで補った。
(「もう一周回ったら一度戻りましょう」)
 フィルトはジャッカルを引き連れながら外周を走り続ける。


「あー、これ‥‥か?」
 水瀬と地堂はフィルトから受けた連絡を元に人形が目撃された建物に進入し、それを確認した。
 窓の外から見えるように人型の板が立てかけられている。半開きの窓から外の空気が入ってきた。
「おっし、じゃこいつを連れていこうぜ」
 水瀬は人形を抱えると出入口に向かった。地堂が足元を照らしながら先を歩く。
 いざ建物から出ようかとしたとき、扉の窓越しに徘徊する二匹のジャッカルがみえた。窓から肉の匂いが流れていたのか自分達を追ってきたか、建物の周囲を回りながら獲物が出てくるのを待っているようだった。
「これは開けると同時に飛び掛ってきそうだな‥‥」
 外の様子を伺いながら地堂は頭をぽりぽりと掻いた。水瀬は人形を地に置くと同じように外を見る。
「空腹だって話だし危ないだろうな‥‥」
「やっぱり安全確保が先、だな。逃げ切れるとは限らない」
「んじゃいくか!」
 ジャッカルがわずかに扉のから離れるタイミングを見計らい、まず水瀬が飛び出した。追って地堂が飛び出しすぐさま扉を閉め救助者を守る。
 速攻、ジャッカルが飛び掛ってくるよりも早く水瀬は自分のリーチが届く懐にもぐりこんだ。相手の牙は装甲が受け止める。
「うりゃりゃりゃ!!!」
漢の勲章、「激熱」を相手の身に何度も打ち込んでいく。ギャという短い呻きを上げ一匹がその場に崩れる。
 水瀬の背後からもう一匹が飛びかかろうとしたところを地堂が電波増幅と練成強化を施した超機械「PB」で牽制。電磁波が命中しジャッカルは軌道からはじかれ地に転がる。
「大丈夫か!」
「ああ、十分だ! まだまだいくぜ!」
 水瀬は一気に立ち上がりかけるジャッカルへ一気に間合いを詰め竜の爪を発動、途端腕にスパーク巻き起こり、
「必殺、『激熱竜爪拳』!!!」
 己の必殺技、強烈な一撃で仕留めた。
 2匹の処理をしたという連絡をしようとしたときだ、地堂の無線機からノイズ交じりの音声が流れてきた。
『――繰り返す、こちらノーン、レイヴンと遭遇、今、追われている! 場所は――』
 二人は顔を見合わせると頷き、『了解』と返し走り出した。


「うわああああん、おいかけてくるよぉぉぉ!」
 愛栖が懸命に逃げていた。魔女っ子衣装がぱたぱたとゆれる。使い魔に追われる見習い魔女、そんな風に見えなくもない。
 レイヴンは狙うべき獲物を愛栖に定めたようで大きな翼を羽ばたかせ追いかける。
「む、正面から‥‥地堂たちか!」
 仲間を見つけ速度が緩んだ。その一瞬を狙ったようにレイヴンはまっすぐに降下してきた。
「おい! お前ら後ろ!」
 水瀬が気づき注意を促すが遅い。地堂の超機械も射程が届かない。それぞれが息を呑んだその時、何かがレイヴンを貫き、羽ばたきが止まった。
 同じく無線を聞きつけ、細い路地を抜けて現れたフィルトのルナがレイヴンを狙撃したのだ。
「‥‥ぎりぎりでしたね」
「フィルトさんありがとぉ!」
 愛栖が感謝し、一同が安堵したのも束の間。
「後ろからジャッカル二匹がきます、迎撃を」
 フィルトは冷たく告げると二組の間を抜け、向きを変えた。彼女を追いかけていたジャッカルがその場に現れる。
 グルルル、と威嚇の唸りを上げる。
 フィルトは槍―おもいやり―に持ち替え正面からなぎ払う。ジャッカルはそれぞれ横とびで左右に逃れた。
「ボ、ボクだってやれるんだから!」
「飛んで火にいるなんとやら〜」
 1匹は練成強化した愛栖、ノーンの超兵器の電磁波が命中し撃破。
 その様子をみた残り1匹となったジャッカルは不利と判断したのかその場を逃だそうとした。
「逃がすかっ!!」
 水瀬はすぐさま竜の翼を発動、開けた路地を一気に駆け抜ける。
「必殺技、その二! 『旋風竜翼波ぁぁぁぁ』!!!」
 低い体勢からアッパーカットを決めた。宙に浮くジャッカル、地堂がそれをPBで追撃し、ジャッカルは力なく地に落ち動かなくなった。


 残った人形を集めて情報を整理する。まだ見つかっていないのはレイヴン1匹と男子生徒。
「ここの区画はまだ確認していませんから可能性が高いでしょう、移動していなければ、ですが」
 フィルトが見取り図を見せながら意見を述べた。
「こことここはさっき回収時にいったけどいなかったな〜」
 ノーンが補足する。肉付き人形の運搬が堪えたのか少々げんなりしてみえる。深層の叫びは違うようだが。
「では決まりだな。この区画を重点的にいこう。分かれて各方向から」
 地堂の声で3チームは再び分かれた。


 ばさばさ、大きな羽音が聞こえてきた。
「うっ、なんか嫌な予感がするよぉ‥‥」
 愛栖が先ほど追いかけられたばかりの状況を思い出し、きょろきょろと周りを見渡す。
「鳥は地面にいないだろ、いるなら上だ」
 ノーンは双眼鏡を取り出すと空を探った。黒い塊が何かを追っているのが見える。誰かが見つかったのだろうか。
「あ、AU−KVがいるよ!」
 地上部分を見ていた愛栖は路地の隙間からそれを見つけた。
「フィルトさんなら連絡くれるだろうし、水瀬さんも‥‥逃げなそうだよな」
「ってことは生徒さんだね!」
 二人は確信すると追いかけた。同時にノーンは発見の連絡を他の仲間に入れる。
そして路地をぬうように走ると丁度生徒のAU−KVと向かい合う位置に飛び出した。
「生徒さんみつけたよ! 助けにきたからね!」
 しかし飛び出してきた二人に驚いたのか生徒は二人を避けるように、逆にレイヴンの方へ向かって走りだした。
「ちっ、なんでそっちにむかうかな!」
 ノーンはスパークマシンαの照準をあわせ、放つ。しかしレイヴンには当たらず‥‥生徒のAU−KVにみごとヒット。そしてかれはその場にばたりと倒れこんだ。すぐさまノーンは生徒に駆け寄りなにやら小箱を取り出して作業を始める。
「ああああ、大丈夫かな!?」
 生徒を心配しながらも愛栖は超機械「マジシャンズロッド」 の先端をレイヴンに向け、
「いっけぇぇぇぇっ!」
 と叫び電磁波を放った。目標を生徒に定めていたためか愛栖の行動に気づかずそれを全身で受け止めた。
 同時に左右から交差するように電磁波と銃弾が打ち込まれた。地堂のPBとフィルトのルナによるものだった。レイヴンはぐしゃりと墜ち、動かなくなった。焼け焦げた匂いが漂う。
 全員が揃った。
 男子生徒は気を失っている。AU−KVにはところどころ茶色や黒の染みが出来ていた。
「見つけたときにはもうこんなことに‥‥!」
 ノーンは若干大げさな悔しさを浮かべ男子生徒を示した。
(「‥‥きっといわないほうがいいんだよね、うん!」)
 地堂が生徒に練成治療を施している中、愛栖は先ほどみた事実を心の中にしまうことにした。
「ボクも治療手伝うよ!」
 そして駆けつけると救急セットを取り出し治療に加わった。
「それではこれで完了ですね」
 フィルトはまだ意識のない男子生徒をAU−KVごと担ぎ上げると周囲をうかがいながら告げた。
「だな、んじゃーこいつを運んで救助完了の報告しようぜ!」
 報告までが任務―授業―。水瀬は全員に合図を送ると大通りへ向かった。


●事後ミーティング
 全員はじめに集った会議室に戻り、席についていた。
「一般人の要救助者は無傷。生徒はキメラに襲われていましたが治療が間に合い無事保護ですね」
 エルシーは穏やかなに評価表に記録をつけていく。
「生徒を後回しにしたのは正解です、孤立しているとはいえ能力者ですからね。流れ弾―−攻撃を避けることが出来なかったのは修練不足ですね」
(「あ、ばれてる‥‥」)
 ノーンはなんともいえない表情を浮かべた。
 ――総評、迅速、連携、優先順位どれも良評価に値する。
「今回の授業はこれで終了です、本番はもっと過酷でしょうけれど頑張って下さいね」
 授業開始前と同じ笑顔を浮かべた。
「起立、礼」
 終了の告知を受けると、フィルトは礼儀正しく授業を締め、
「みんなお疲れさまだよっ!」
 愛栖はまだどきどきしている胸から、精一杯の元気な声を全員へ送った。