●リプレイ本文
●そのとき
「あ、もしかしておねーさんたち記者!? 最近全然取材なかったから、心配してたんだ〜、よかったぁ」
真っ白な服を着せられ、職員に付き添われた青年――城野シロウ――は尋問室で最初の質問へ、そう返した。
「‥‥ん、まぁ色々話を聞かせてもらうことにはかわらんけど」
質問のはじめを数年前の受賞記事に関するものにした為か、あまりにも警戒心もなく喜ぶ城野の姿を見、ユステズ(
gc3154)は言葉を詰まらせた。
(「彼が話したいように話させておいた方が得策じゃないかなぁ、俺は様子に注意しておくから」)
記録を執っていた御守 剣清(
gb6210)が小声でユステズに耳打つ。
「じゃぁ確認からさせてもらうよ。君は城野シロウ君で間違いないんかな?」
「そうだよ?」
検査結果からも分かってはいたが、当人の口から改めて確認するユステズ。簡単に認める本人。
「取材がなかったっていう『最近』は何をしてたのかなぁ?」
「先輩とプロジェクトに入って研究の缶詰! も〜久々の取材だってのに先輩どこいっちゃったんだろ‥‥」
御守の質問をにこやかに応えた後、城野は心配そうに辺りを見回した。小さな四角い部屋、取材室には決して見えないのだが――。
「ん? シロウ君覚えてないん? 君は雨ん中で保護されたんよ?」
「――え?」
当人、まったく記憶にないという表情。
(「本当に覚えてないようですねぇ‥‥つついてみます?」)
(「そやね、プロジェクトいうのが気になるわぁ」)
「まぁええわ。よかったら先輩とプロジェクトについて教えてくれへん?」
暫らく呆けていた城野も、ユステズの問いかけで意識を引き戻し、にこやかに答を返した。
「あ、先輩っていうのは、よく一緒に受賞することが多かった羽根石コウさん。知らないの? 勉強不足だなぁ」
「そういえば雑誌でみたよぅな」
尋問前に調べていた雑誌の中で、城野と並んで目についた女性の名が確か。
「背の高い人、すぐ分かるよ。プロジェクト名はkimeraっていっ――っ!」
城野が突如言葉を詰まらせたのは、ユステズ、御守の表情が険しくなった為だった。尋ねる予定ではいたが、不意に出された韻に、つい反応してしまう。それもつかの間、2人も気付き、取り直し、続きを勧めた。
「え、っと‥‥kimeraは先輩から誘われて入ったんだけど、僕はまだ未熟だからって、製作には立ち合わせて貰えてないんだ。だから実のところ詳しくはわかんないんだよね。設計案の提出だけしてるんだ!」
「プロジェクトに誘われたのはいつなのかな?」
警戒されないよう、気をつけて尋ねる御守。
「中学の時かな? つい最近だよ。今も学校の研究室で研究――ってあれ? ‥‥僕、ここ、どこ‥‥? あなたたちは‥‥ダレ? 記者さんって、どこの‥‥?」
嘘。見た目は少年のようだが、実際は高卒でもおかしくない年齢、『最近』ではない。本人もようやく違和感に気付いたのか言動が虚ろに霞んだ。頭も力なく揺らぐ。
「質問はしてるけど記者じゃなくて、正確には能力者。俺は、能力者の御守剣清。こっちは、」
御守が心配し、安心させるべく声を掛け、手を伸ばした途端、
「の、能力者!? ち、近づかないで!! 先輩言ってた、能力者は悪者だって! 町を壊したんだ! 救助隊を殺したんだ!」
「な、ちょっまち! 何いってん! 落ち着き!」
正面に座っていたユステズが慌てて立ち上がり、暴れる城野の腕を掴む。細い腕、ユステズでも容易に拘束できる非力。城野は拘束されながらも頭を振り、その場から逃れようと必死に足掻く。
「能力者は町を救いにいったんだ! 町はキメラに襲われていた!」
「違う違う! そうだ、町は能力者が暴れたから壊れたんだ! 先輩がキメラを連れてきてくれてなかったら僕もきっと壊されてた!」
御守も拘束に加わるが非力な抵抗は止まない。
「キメラは町を助けてくれようと――!」
これまでと判断したのか、職員が手にしていた鎮静剤を押さえつけられた城野へ投与。まもなく、彼は眠りにつくよう、徐々に力を失っていった。
「ふぅ〜、一時はどうなるかと思ったよ」
意識不明の城野を見送った後、休憩室で御守がため息を零した。
「意外に好感青年やったなぁ。バグア側の兵器っちゅーには非力やったし、本当に素で当人なんかもな。となると‥‥」
「『先輩』を探しが必要かもね。おっと、今分かったことだけでもあっちに報告しとかないと」
城野が先輩と呼ぶ、やはり実在する女性。そして同じ町の住人、羽根石コウ。城野は彼女の現存を決して否定しなかった。それを含め、調査組と相互連絡を取る為、御守は電話を手にした。
●このとき
「ねえ、まだ連絡とれないの?」
背高く伸びた雑草を掻き分けて進む百地・悠季(
ga8270)が、長らく電話と格闘している桂木穣治(
gb5595)へ声を掛けた。
「うん。だめだなぁ、出発前は使えてたから、壊れてはないはずなんだけど‥‥圏外なのかなぁ?」
電話を振ったり、向ける方向を変えてみたりしているが、一向に繋がる気配はなかった。
「いや、それ効果ないらしいから。でも、無線機もおかしいんだよね、こんな近くに居るのに雑音しか聞こえないんだ」
番 朝(
ga7743)は無線機をいじりながら、雑草の海原も意に介す事無く軽快に進む。
「特殊な磁場なのか、あるいは何かジャミングのようなものが出されているのか」
通じない無線機を仕舞い、ジャック・ジェリア(
gc0672)は周囲を見渡した。胸の高さはあろうという雑草、その先に見える瓦礫の山。周囲には瓦礫よりも高い緑の丘。中央に集中している住居を調べる為移動中だった。
「わ、っと! 流石に両手ふさがっては歩き難いですね」
張り出した木の根に足を取られたのか、ソウマ(
gc0505)が何かに躓き転びそうになった。服はジーンズにシャツというラフ、しかし手を拘束されていた。
「確かに危ないかもしれませんね‥‥キメラが出たとき困りますし、外してしまいましょうか」
水無月 魔諭邏(
ga4928)は握っていた綱紐を手繰り、解いた。ソウマの様相は、かの城野シロウをまねたもの。出身地の調査とあって、何らかの接触を誘発するための変装だった。住民は居ないはずであるが――。
「あの残骸がシロウ君が通ってた学校だと思うよ」
先を進む番が広いグラウンドのある校舎を見つけ、仲間に告げるのだった。
学校はほぼその形を残していた。所々焼け焦げてはいたが骨組みはしっかりとしていた。埃が堆積し、ややもろそうに見える足場に注意しながら進み入っていく一行。
「書類とか結構当時のままみたいだけど‥‥字は掠れてて読めるもんじゃないな」
教職室と思われる一室を漁りながらジャックはぼやいた。一動作するたびに埃が舞い上がる次第。
「この鍵つきの戸なんか妖しくないかな?」
あちこちの棚を開けていたなかで、ひとつ鍵がかかった棚の戸に目を留める桂木。
「ん、じゃあ折角だし開けてみちゃったりする? これ使えばどうにかなるかも」
百地が戸の前で何やら操作。間もなく、壊したのか開錠したのか不明だが、戸は開かれた。
「お、さっすが。どれどれ‥‥ん〜中身は生徒名簿の原本?」
「何年分あるのかしら。でも、城野の詳細がわかるものがあるかもしれないわね、探しましょ」
「あ、わたくしもお手伝いいたしますわ」
百地と桂木、そして水無月が加わり、資料探しが開始された。
また、隣の校長室では、
「賞状の山。名前は‥‥シロウ君のだ」
額に入り、壁狭しと並べられた賞状を見上げながら番がつぶやく。
「ケースの中のトロフィーも結構彼の名前入りが多いですね。あ、それに次ぐ違う名前もあります。――羽根石コウ? 年数的に彼在学中の人じゃなそうだけど」
リボンに書かれた名前を一つ一つ調べながら報告するソウマ。無論他にも運動部のものもあったり、彼らのもの限りではないが、総数からみれば個人名では目立つ数。
「あ、これを写真に撮ってもって帰ったらどうだろう。穣治くんがデジカメもってたよね、頼んでみる」
思い立った番は、名を呼びながら教職室に駆け込んでいった。
その後学校で入手出来た彼の住所へ、地図を元に訪れたが、全壊と言っていいほど形は残っていなかった。瓦礫をどかして残骸、手がかり探しを試みたが殆ど何も見つけることは出来なかった。周囲の風景だけでも残そうと、ここでも撮影をして終了とした。
子供の遊び場になっていると噂のあった丘に踏み入るなり出迎えがあった――キメラだ。
無言で大剣を振るい、丘の上から駆け下りてくる猟犬を切り捨てていく番。
「これが噂のキメラ、ってことか? 踏み入った途端これとは、まるで番犬だなぁ」
迫り来る敵を前にしても陽気に飄々と構えているのは桂木。調査した限り、町の中は古傷を除いて、全くと言っていいほど何の痕跡もなかった。しかし林に入ると一転の襲撃。
「っ! この蝶もキメラよ! 鱗粉に気をつけて!」
木々の間から姿を見せた蝶を見て百地が叫んだ。同時に口、目等の保護を促す。
「まったく、こんな人がいないようなとこにキメラなんて、バグアは何を企んでいるやら‥‥って、ぅわ!」
間合いを取ろうと一歩後退したソウマが穴にはまりバランスを崩し転倒。そこを好機と突撃をかけてくる猟犬。超機械で迎え撃つべく身体を固定しようと地に手をつくとそこにも穴。
「げ――っ」
来るだろう衝撃に備えたソウマだったが、それはこなかった。胴の1点から血を噴出させながら倒れるところを見た。
「銃はあまり得意ではないのですが、間に合ってよかったです」
水無月の射撃だった。妙な格好で穴にはまっているソウマに手を貸し、立ち上がる手助けをした。
「GooDLuckを使っているようにみえましたがどうして‥‥」
「う〜ん、狂った方が発動してるのかもなぁ」
変わった運の持ち主と定評のソウマ、その運が変な発動をした、と本人は結論付ける。
「蝶を一気に打ち落とす! 射線に気をつけてくれ!」
いつの間にか丘の上、つまりは敵の背に回っていたジャックが拳銃を構えていた。それぞれ交戦中の相手を切り捨て、または足止めし、場を退避。そのタイミングを見計らい制圧射撃を放つ。蝶は翅を打ち抜かれ地に落ち、猟犬の一部も流れ弾によって傷を負っているようだった。残りは全員での掃討戦、傷を負い鈍ったキメラは彼らの敵ではなかった。
「ふぅ、『彼』が目撃される現場でたびたび目撃された蝶。それがここにいるということは益々妖しいですわね」
覚醒を解除し、穏やかさを取り戻した水無月が蝶の残骸を見ながら呟いた。
「人の気配は俺達以外なし、動物の気配もなし‥‥キメラも近くにはいなそうかな」
傷の手当のため小休止を挟んでいる間、軽く周囲を見回ってきた番の感想。
「ここの頂上からなら町も見渡せるし、外部からの進入者も発見しやすいような気がするなぁ、うん。怪しい」
意見交換の結果、警戒しながらも丘を中心に調査することにする。
そして――
「隠してるつもりのようですが‥‥洞窟の入り口のようですね」
ソウマの探査の眼に捉えられた妖しい入り口。足場はしっかり踏み固められており、町のように放置されている感じはなかった。雑草が生えていない。
「でもやっぱり何の気配もなし、俺達だけだね」
眼を凝らし、耳を澄まして気配を探るが何もないと番が告げる。入り口の左右に分かれ、正面に立たぬよう位置取る一行。
「どうする? 突入してみる?」
「う〜ん‥‥中も気がかりだけど、背後も気がかりだね。何があるかわかったものじゃないし」
それは百地とジャックの声。相談が進む中、提出用の写真を撮ろうと桂木がデジカメを構えるや、眼を見張った。
「待て、センサーが張られてる」
人の眼で見ることができずとも、デジカメ等を通して見える光がある。
「まぁ‥‥これは――」
カメラに映りこむ入り口の絵と、実際の絵を見比べ、水無月も息を飲むのだった。
●これから
「何度もかけたんだが、まったく繋がらなかった」
「こっちも端末を変えて試したんだけどダメだったねぇ」
支部に戻り合流を果たした一行は、報告を含め互いに情報の交換を行なっていた。御守と桂木が用意した携帯電話は、尋問結果と調査対象を関連付ける為の連絡手段であったが、終始繋がることはなかった。
「キメラは小山のひとつに集中。街中を含めてその他には居なかったよ。詳細はこれを見ておいて。町が巣っていうより、この山が巣じゃないかな」
目撃したキメラ種と撃破数をジャックと番がまとめ、報告。
「そして同じ小山の頂上付近に洞窟の入り口がありました。自然窟でしたが中はちょっとした生活空間になっておりましたわ。でも‥‥それだけです」
センサーに触れぬよう進入し、軽く調査した見取り図を提出する水無月。
「彼の姿を真似てみたけど、何者もの接触はなし、接近の気配も少なくとも僕は感じられなかったね」
変装を解いたソウマが説く。見る視線がもしあったのなら、受ける側が一番感じるはず。
「尋問の方で何か収穫は?」
「ん〜、詳細はこっちも調書を見てほしいところやね。途中ぷっつんしてまって最後まできけへんかったわぁ」
百地の問いに、ユステズは肩をすくめるのだった。少なくとも何かにおうものがあるのは誰もが感じていたが、その決め手がなかった――。
「これはどういうこと! ひと月以上戻っていないとは!!」
怪しげな光を放つ機械に囲まれた部屋。その中で、背の高い女性が激昂していた。
「これだから本当、お前達は使えない‥‥私が留守にしている間の監視すらまともに出来ないなんて!」
暗がりの中で何かがおびえ竦んでいる、反論する声を持たないのか女性が一方的にがなり続けるのみ。
「――ん、報告? 監視モニターに人の影、アレのじゃなくて? まわしなさい」
大きなモニターがノイズを映し、その直後、こちら――中の様子を窺う影が6つ、なにやら話し合い、丁度センサーを避けるように手を、足を動かしている場面。
「これは一般人ではないな。キメラも配置しておいた。それにあの影は――」
女性はただ、じっと画面を見据えていた。