タイトル:【授業?】星ノ遺蹟マスター:ArK

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/03/14 13:47

●オープニング本文


 ここはカンパネラ学園、理科教師準備室。
 険しい面持ちで端末を操作しているのは教員のジョン・クーレルだ。
(「やっぱ、空気が澄んでるときこそ天体観測なんだが‥‥」)
 目の前のモニターに映し出されているのは古びた石造りの建物の画像。天には複数の光点が浮かんでいる。
(「ここでの観測が一番いいんだが‥‥どーしたもんか」)
 ジョンは、深く椅子にもたれかかり思考を巡らせた――。


「つーわけで、今回の理科の授業なんだが戦闘に備えてくれ」
 ジョン教員、は教室で資料を配布しながらそう切り出した。
 冬の課題第2弾として、天体観測を用意したのだが、絶好のスポットに問題がおきていた。
 そこは周囲に人里もなく静か。澄んだ寒空の下、多くの人が星の観測に訪れたというが、あるときから多くのキメラが巣食い、近寄れなくなってしまっているのだという。そこでこの機会に清掃戦をかけて欲しい、とのことだった。
 ――あくまで授業遂行のために。
「キメラの正確な種類や能力はわからん。ただ、ある程度の数は覚悟しとけ。そして遺跡は壊すな! 以上」

●参加者一覧

須佐 武流(ga1461
20歳・♂・PN
辰巳 空(ga4698
20歳・♂・PN
百地・悠季(ga8270
20歳・♀・ER
橘川 海(gb4179
18歳・♀・HD
天原大地(gb5927
24歳・♂・AA
美沙・レイン(gb9833
23歳・♀・SN
カルミア(gc0278
16歳・♀・PN
ソウマ(gc0505
14歳・♂・DG

●リプレイ本文

●古ノ森
「気をつけろ、また来る!」
 深い森の中、天原大地(gb5927)が仰ぎ見て叫ぶ。
「これは任せて――はっ!」
 透かさず百地・悠季(ga8270)が長弓「百鬼夜行」の弦を引き、射撃。
 光の矢は軌跡を描き、滑空してくる獲物を貫いた。乾いた音を立て地面に横たわる亡骸、鳥型キメラだ。
「‥‥前方に獣臭さを感じる。足音から、2というところか」
 須佐 武流(ga1461)が仲間に囁いた。同時に靴に装着した脚爪「オセ」に力を込める。
「まったく、次から次へと。でもセラフィムの初陣に丁度よくもあるかしら?」
 新調した銃剣「セラフィム」を手に、美沙・レイン(gb9833)は須佐の隣に立ち、構える。
 茂みを掻き分けて飛び出してきたのは二匹の狼だった。いずれもキメラ、鋭利な牙をむき出し飛び掛ってくる。
 兵舎を同じくする者として直感的連携だろうか、須佐と美沙は慣れた動作で敵を一刀に切り捨てた。
「ああっ! こっちに来ちゃだめー!」
 元気な叫び声が響く。隊列の中程でバイク形態のバハムートに乗る橘川 海(gb4179)だ。荷台には観測器具があり、搬送中の為、装着することが出来ない。
 そんな彼女の隙を察し、木々の合間から鳥型キメラが襲来。ハンドルから手を離すことも出来ず、救援を求める橘川。
「お任せあれ」
 エンジェルシールドを携え、辰巳 空(ga4698)が素早く駆けつけた。瞳を真紅に輝かせ、白銀の光沢をもってキメラの突進を受け流す。
「とどめはわたくしが、っと」
 軽快なステップで一気に間合いを詰め、近接するカルミア(gc0278)。冷ややかに輝くアイスエッジを煌かせ、瞬く間に切り刻んだ。
「ありがと!」
 橘川は、己と機材を護りに付いてくれた2人に笑顔を返した。
「すぐに襲ってくるような気配は今のところなさそうです、進みましょう」
 探査の眼で周囲を見回したソウマ(gc0505)が報告する。得意とする探索系の為、森に入ってから主に隊の眼としての役を担っていた。


●攻城
 一同は観測器具を引率のジョン教員に預け、外での一時待機を願った。その間に1層目の制圧を行なう。
「‥‥こんな遺跡がありましたとは‥‥世界はまだ知らないことばかりですね」
 ひんやりとした石に掌を当て、辰巳が呟いた。
 晴天が効し、窓からの光で外周通路は明るかった。隊列を組み警戒しながら進む。
「GooDLuckっと! 運も実力の内、思わぬものが舞い込んで――」
 観光地化している為トラップ類はないとのことだが、運が良いことに越したことはない――とソウマが特殊能力を発動させた矢先、
「痛っ! きゃ、ネズミ〜!」
 下駄の足先に痛みを感じたカルミアが叫ぶ。反射的に足に齧りついていたネズミを振り払い後退。
「く、いつの間に」
 足元に、小さな鼠らが終結していた。天原は蛍火を短く持ち、地面に突き立てるよう鋭い突きを放つ。
「一匹一匹はたいしたことないけど数が! みなさん気をつけてっ!」
 橘川は、グローブ型の超機械「クロッカス」を翳し、一匹一匹丁寧に電磁波で焼いていく。他の面々も小さな標的に照準を絞り集中。どうにか一群の処理を終える。
「これも手ごたえ的にキメラね。案内図だと中央に部屋があるみたい、そっちも見ておきましょ」
 視界が遮蔽物で遮られている以上、その陰に何者かが潜んでいる可能性は拭えない。美沙が少し先に目を向けながら言い放った。
「ひとまず私が」
 率先して動いたのは辰巳。盾に鏡を取り付け、反射で室内を覗こうと試みた。しかし薄暗い内部をうかがい知ることは出来なかった。陽光が反射し、室内に光の窓が作られる。そうして光を移ろわせていると、まもなく動く物体を捉えた。
「狼!」
 一言だけ叫び、入り口から飛び退く辰巳。間もなく狭い隙間から狼が飛び出してきた。
「あまり曲がり角に近づきすぎるな。そっち側にも潜んでいる可能性がある」
 須佐は跳びかかってきた狼の腹にローキックを見舞い、仲間に注意する。
 狭い通路である以上、回避行動は後衛へ危険が及ぶ確立が増す。その為受けと迎撃に徹していた。
「あら? こっちにも‥‥」
 灯りを持っていた百地は、明り取り用の窓から侵入してくる影を見逃さなかった。軽く矢を放ち、狼と戦闘中の仲間に負担が廻らないよう優先して排除。
 狼が事切れたことを確認した後、警戒しながら室内に侵入。木屑と化した椅子や机があったが、キメラの姿はないようだ。
「次へゆくぞ、壁の反対‥‥別の部屋にまだ動きがあるようだ」
 須佐は壁越しの僅かな振動を感じ取り呟く、まだ戦いは続くらしい。
 角を越え、部屋を視認し、層内をぐるりと廻るように移動したとき、目の前に急な階段が現れた。
「見事に急ごしらえ、ってかんじの手すりですね、ここでの戦闘は難しそう‥‥」
 カルミアは高く続く石段を見上げため息を付いた。となると――
「上ってる間の援護は任せてね、一応気をつけるけど‥‥流れ矢に当たらないよう上る方も注意してちょうだい」
 百地は、上層へ向けて長弓を構えながら悪戯気味に微笑んで見せた。
「何かが待ち伏せている感じがありますね、百地さん、宜しくお願いします」
 ソウマ自身も銃を片手に、足元と手すりを確かめながら昇っていった。


 全員が上の階に向かった訳ではなく、橘川と天原は階下に残った。そして外で待機していたジョンと合流、観測器具の護衛と光源装置の復旧を試みを告げる。
「光源を復旧できないかって?」
「はい。電球があるのはわかったんですけど点かなくて。灯りが点けば戦いやすくなると思うんです」
 橘川のかいつまんだ状況説明を受け、僅かに考えるそぶりを見せるジョン。
「もし電球交換しても点かなかったってんなら、送電線が切られてる可能性がある。鼠がいたんだろ?」
 電源を供給する自家発装置は問題なく稼動していた。ともすればその間でのトラブルだろうと言う。そしてそれを補修する道具は持ち合わせていない。
「そうすると上って行った仲間を信じて待つしかないな」
 何気なく遺跡を見上げる天原。
「変わりに直ぐに使えるよう、器具の点検をしておきましょうっ!」
「‥‥そんなのんびりもしてられんって感じもするが、な」
「え?」
 きょとんとする橘川。それに対し、天原がはっとして辺りを見渡す。
 枝の合間に鳥、大地の茂みに狼の影が見て取れた。話している間に森に残っていた数体のキメラが集まってきたようだった。
「落ち着いてる場合じゃないってか!」
 天原は森に向かい拳銃「バラキエル」を発砲。悠長に構えている鳥型キメラを狙う。鋭い銃声は開戦の合図となり、打ち落とした鳥以外が一斉に羽ばたく。
「先生はここにいて下さいっ、私もいってきます!」
 再びバハムートに身を包み、橘川も走る。クロッカスは信頼の証、狼と格闘する天原が集中して戦えるよう、それをついばもうとする鳥を打ち落とすのが己の役割。
「大地さんも、器具も、全部護ります!」
 竜の角で錬力を流し込み、電磁波を強化。一体ずつ確実に仕留めてゆく。
「くっ、まったく‥‥屋外の方がすばしっこくねーか!?」
 対して天原は自在に野を走り、己を囲む狼に苦戦。片方を狙えば片方が跳びかかってくる。空からの追撃がないのがせめてもの救いだろう。
(「一気に陣を崩すしか!」)
 決意と共に、天原を包む黄金の光が強さを増す。目標以外の攻撃はあえて受け止め、確実に仕留めに向かう。流し斬りで四角を取り、翻ろうとする身へ向けて渾身のスマッシュ。
「っつ‥‥」
 骨を砕く感覚と、骨に噛付かれる感覚が同時に襲い来る。無防備になった身体への攻撃ほど重いものはない。振り払おうと身を捩るが、余計に牙は食い込み、血を滲ませた。
「だめーーーっ!」
 最後の鳥を落とすと同時に、橘川が竜の翼で突進、強力な電磁波を喰らいつく狼にあびせた。天原にも若干ダメージが渡ったようだが、流血を続けるよりはとの決断。狼は一瞬のけぞった後で力を失ったように項垂れた。
 硬直する前に顎を外し、牙から逃れる天原。力なくその場に座り込む。
「ご、ごめんなさい! すぐ治療しますから!」
 橘川は携帯品から救急セット、エマージェンシーキットを取り出し、その場に店を広げるのだった。


 遺跡探索組も順調に足を進めていた。狼タイプは2、3層目にはいなかった。殆どが鼠タイプ。
『記号記号そう、よかった。じゃそっちも気を抜かないで頑張って』
 百地は無線機で屋外と情報の交換をしていた。通信を終え、切る。
「どうだって?」
 気になったソウマが尋ねると、
「ん、外の敵は殲滅終了と。ちょっと天原がケガしたみたいだけど心配しないで、って」
「こちらもそろそろ終点のようだ、合流して荷を運び上げた方がいいかもな」
 百地の言葉に、反応を示す須佐。戻りながら再度潜んでいるものが居ないか確認するのも重要な作業だ。
「ちょっと待って。この辺りの壁、ちょっとおかしくない? ‥‥焦げてる?」
 戻ろうとした一行を、美沙の言葉が留める。3層も終わりに近づいた区画、その壁の一部がすすけて黒くなっていたのだ。用心しながら指で掬い取る。
「昔、火事でもあったとか?」
 カルミアが首を傾げて直感をこぼす。
「普通に考えればそれも有効ですが‥‥状態は新しいようです。先生曰く、キメラ達が住み着いたのもごく最近――」
 壁に近づき様子を観察する辰巳。通路全体に及ぶ直線的な煤に嫌な予感を覚える。
「何か居る、と見た方がいいか」
 一行は警戒用の人員を数名残し、最後の敵索をしながら合流を目指した。


●古ノ守
 合流後煤部の確認を求めたところ、ジョンも異常に同意した。毎年観測の為訪れているが昨年はこんなものなかったし、火事が起きたという情報も聞いては居ない、と。
「開放に先駆けて見に来た時にはもうキメラの巣だったからなー‥‥」
 この遺跡がキメラの巣になっているのを発見したのはジョン本人だった。1人では手に余ると学園に戻り、応援を――と思ったところで大規模作戦が舞い込み資料の山に埋めてしまっていたのだという。発見が早かったのは幸いだが、討伐隊の派遣を漏らしたのは不手際だ。
「ともあれ暗くなる前に終わらせましょ」
 百地の促しで一行は決し、階段を上っていった。器具を階下に残して。


 階段を上り切ると、間もなく澄んだ風が肌を掠めた。扉もなく、直ぐ屋外に出る構造。
「ここから見える範囲だと何もいないな」
「まあ、何も居ないでくれるならそれに越したことはないけど」
 須佐と美沙が互いに五感を働かせて外部を探る。
「でも、六感目は何か居るっていってるわよね」
「私が先行して飛び出します、何かの時は援護を」
 盾を身構えた辰巳が外へ飛び出した。四方を落下防止の柵に囲われた平坦な石畳の広場、眼下には枯れた木々の森が広がっている。
「特に何も、――ッ!」
 そう言って振り返ったとき気付いた。仲間が見守る階段部を覆う屋根、その上に異様な影が居た。大きく息を吸い込む動作、そしてそれは炎を吐き出した。
 とっさに盾の陰に身を隠し炎から身を護る辰巳。
「な、何!?」
 階段部に居た一行にとっても不意の事態。突然視界が紅蓮に染まったのだから。それが炎であり、石を煤けさせた原因であるのを間もなく悟る。
「灯台下暗し、って言うべきか、この屋根の上に居たみたいだな!」
 天原が叫び飛び出し、辰巳のそばへ駆け寄る。幸い大事に至っていなかった。同時、屋根の上にいたそれが屋上広場へ降り立った。
 狼の身体に鳥の翼、尾は――鼠。
「どこかで見たような、というよりここで遭遇したキメラの集大成‥‥でしょうか」
 対峙した辰巳が呟く。
「さしずめマルコシアス崩れ、って造形か? お前ら頑張れよ!」
「言われずとも、キメラは倒すべき敵だ」
 見学に徹するジョンの言葉も、須佐にとってどうでもよかった。降り立った瞬間の不意をつくべく突進して爪を立てる、が、刃が通らない。まるで鋼のような剛毛。
「援護するわ!」
 美沙も銃弾を放ち攻撃を試みた。命中、するも弾丸はすべり落ちた。
「物理的な耐性が高い!? だったらこれはっ!」
 尾を振り、反撃に転じようとしたキメラに向い、百地の両断剣を付与した射撃。光の矢は吸い込まれるように貫通した。
「知覚系か、じゃわたくしは注意を逸らす方に専念します!」
 カルミアは武装状態から、相手の牽制に務めることに決定。
「空へ行かれると厄介だ、まず翼を落とす!」
 武器を古めかしい巻物に持ち替えた須佐が叫ぶ。今まさに羽ばたこうとする翼へ向かい雷遁の電磁波。それは羽を焦がし、動作を鈍くした。
「その翼、斬る!」
 特殊な剣を掲げ、辰巳が駆ける。キメラは尾を振りながら近接を赦さないが全周囲というわけではない。その合間を縫い近接、渾身の力を込めて翼を根元から断ち切った。
「炎、きますっ!」
 援護しながら様子を見ていた橘川が警告を発する。空へ逃げることが出来なくなってもまだ炎があった。扇状に繰り出されるそれを、須佐は風圧で、ソウマは障壁をもって回避した。僅かに焼け焦げた臭気が備考を燻る。
「たたみかけましょ!」
 百地と美沙は示し合わせたように矢を、弾丸を連続で左右から放ち相手の行動を制する。
 その隙に須佐による雷遁が追撃の牽制、
「これで、どうですっ!」
 辰巳の構えたラジエルが急所狙いの一突きを繰り出した。各方面から放たれる強力な知覚攻撃に、鋼鉄の剛毛を持つキメラも抗いきれず、崩れ落ちるしかなかった。
「えーっと、これ何処に片付けましょう?」
 本来の目的の為ここに転がしたままでは邪魔とばかりに、カルミアが掃除に取り掛かった。


●星見
 どうにか日没ギリギリに亡骸処理、テント設営、望遠鏡設置に観測機器の準備を終えた一行。春とはいえ、まだ肌寒かったが、辰巳が申請しておいた毛布のおかげで防寒を得られた。
「えーっと、‥‥北が北斗で南がオリオン、っと。海はどの星座が好き?」
 星座盤と方位磁石を照らし合わせながら観測していた百地が、不意に声を掛ける。
「ん〜、どの星もよく見えてキレイですよっ。あ、百地さんもココアどうです? 寒いから風邪に気をつけないとっ」
 橘川は少し考えてからそう応えた。百地も礼と共にココアを受取る。
「大分データもとれたかしら。やっぱり屋内戦闘は勝手が違うわね、次に繋げなくちゃね」
 美沙は初陣のセラフィムの手入れをしつつ、
(「‥‥須佐さんは見回りに行くといってたけど大丈夫かしら‥‥いえ、ただ心配なだけよ!?」)
 想い浮かんだ想いを掻き消した。
「先生提案です! キメラが巣食うようになった原因を究明し、対策をすべきだと思うんです!」
 勢いよくソウマがジョンに進言する、が――
「狙いは一時的に増える星見客だろ? だからって封鎖すりゃ解決ってわけでもない。被害拡大前にお前らが出てって処理するしかないだろうよ」
 と、一蹴。
 そうして各々夜明けまで撮影と観測、おしゃべりに興じるのだった。