タイトル:紅く白い干支の守マスター:ArK

シナリオ形態: ショート
難易度: 不明
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/01/10 18:47

●オープニング本文


「せんぱ〜い、提出期限もうすぐだよ〜」
 豪奢な部屋の中、机に突っ伏し、手足をばたつかせている青年が1人。
「わかってる、わかっているわよ!」
 部屋中央のコタツへ潜り込み、白紙のノートと格闘している女性が1人。
「今年はどれも成果が芳しくなかったわ。どうにかしないと――」
 ただっぴろい空間に2人だけがいた。そして部屋の隅に置かれたテレビには、部屋の雰囲気とは対照的に笑顔の人々が映し出されていた。
「は〜、毎年毎年飽きもせず、同じこと繰り返してるよね〜」
 気分転換にと、テレビ前へ移動する青年。市場からの中継だった。
「ん‥‥毎年同じ? つまり状況に左右されない? ‥‥それよ!」
 女性は閃いた――次に狙うは神社。
 初詣のため、人々は願いを胸に足を運ぶだろう。だがそれを叶わぬものと破壊し、自分達の願いを叶える一石二鳥の好機。
 時間がないため2人作業で設計は進んでいった。
「ねえ、『初詣中止のお知らせ』とか‥‥ないよね?」
「今のところない――わね」


 ニッポンの四国、2人の調査は完璧。最も人が集まる神社を割り出し、狙いをつけた。
 23時。
 二年参りの為だろう、徐々に人が集まり出す。
 社に向け、列を成して歩いている人の列。石畳の上は流れに逆らうのも困難な程の人で溢れていた。
 0時少し前。
 社の前の開けた空間が人で埋め尽くされている。各々寒そうに、手をもみ合わせ、白い息を吐き出していた。
『今年も残すところ僅か。今年も侵略者への対応は世界中で行なわれたが勢力図は変わりがないようです』
 神主のような出で立ちの男性が拡声器で挨拶を始めると、その場の全員がおしゃべりをやめ、話に集中した。
『来年こそはこの地球を取り戻すべく、みなの願いを込め、新年に祈りましょう!』
 時針分針秒針が重なる――0時。
『あけましておめで――!!』
 神主が叫んだ丁度その時、上書きするように低く重いうなり声が頭上から響いてきた。刹那全員が空を仰ぎ見る。
 深淵の闇の中、神社の屋根を越えて、白地に紅のストライプを持つトラが、咆哮と共に舞い降りてきた。
 心にゆとりのある者ならこう考えることも出来ただろう。2010年の干支は虎。趣向を凝らした神社側の演出である、と。
 しかし違った。
 飛来したトラは人垣をものともせず着地し、多くの人を下敷きにした。とも同時に周囲に激しい風が舞い上がり、人が弾き飛ばされる。
 誰もが呆気にとられた。何がおきたか即座に理解したものは少なかったろう。暴れ狂うトラ、悲鳴を上げる一般人、なぎ払われるトラ周囲の人間。最速で導き出された答えは――キメラの襲撃。
 しかし、この神社、幸か不幸か比較的多くの能力者が初詣にやってきていた。つまり対キメラの手は有り余っていたのだ。
 だが問題もあった。近接攻撃クラスは前へ駆け寄ろうとし、遠距離攻撃・後方支援クラスは後ろへ下がろうとする。そして逃げ場を求めて行く手を掻き分ける一般人。それぞれの行く手がかち合い乱れる場。多すぎる人が個々の行動を制限してしまっていたのだ。
 それは互いに絡み合う利と不利の狭間――。

●参加者一覧

西島 百白(ga2123
18歳・♂・PN
百地・悠季(ga8270
20歳・♀・ER
紅 アリカ(ga8708
24歳・♀・AA
神撫(gb0167
27歳・♂・AA
キング(gb1561
22歳・♂・SN
小笠原 恋(gb4844
23歳・♀・EP
榊 那岐(gb9138
17歳・♂・FC
ブロンズ(gb9972
21歳・♂・EL

●リプレイ本文

●年頭の奇襲
 事件発生少し前。
 年の挨拶を前に神職が慌しく駆け回る社の中で、百地・悠季(ga8270)は1人薄暗い欄干路から、集まってくる参拝客を眺めていた。
(「このまま夜が明けるまで平穏だと良いわよね‥‥」)
 時がたつにつれ、厳かな空気に充たされていく周囲。大衆が集まる場ということで、万が一に備え警備役としている己の出番がないに越したことはないと願う。
 その見つめる先に親しそうに会話をしている2人組がいた。榊 那岐(gb9138)とその親友である一般人。
「いや、供えあれば憂いなし、って。‥‥え、いや着物は‥‥はは!」
 他の音にかき消され、社までは届かなかったが、大きすぎる荷物と装いについて笑いながら語らっているようだった。
 ゴォォォン、と正午、新年を知らせる鐘が境内に鳴り響いた。それと同時に神主が声高らかに新年の挨拶を唱える。
「あけましておめ――!」
 それに唱和するよう、大衆と共に神撫(gb0167)が叫んだのと同時だった。
 太く地鳴りのように響く咆哮が、巨大な重力を伴って彼の上に降ってきた。確認する間も、抗う間もなく押しつぶされる神撫。
「ぐぇ‥‥!?」
 息苦しさと共に、背に何かとがった先端が刺さるのを感じた。同時に周囲の風が乱れ、付近にいた人々が吹き飛ばされる悲鳴を聞くことになる。
「干支のトラ‥‥? いえ、これはキメラ!」
 飛来地の比較的近くにいた小笠原 恋(gb4844)が襲撃者の正体を察知する。爆風に吹き飛ばされまいと踏みとどまりながら状況を冷静に判断。
「キメラの襲撃よ! 一般人の避難誘導をお願い! 少しでも時間を稼ぐわ!」
 ほぼ同時刻、百地も異常事態を察知し、襲撃を呼びかけながら欄干路から飛び出していた。

●千客万来
「新年早々厄介な‥‥。面倒だが仕方あるまい」
 虎の異名を持つ西島 百白(ga2123)が、惨事を目の前にしても臆することなく腰を上げる。行き場を見失い入り乱れる場を整理するため一般人の避難誘導に勤める。
「って、キメラかよ! まだ参拝もしてねえってのに‥‥ちっ」
 前線から離れていたキング(gb1561)が状況を見るや、誰にでもなく舌打ちをした。少しでも身動きが取りやすく、戦況を確認する為、列の脇に飛び出し声を張り上げる。
「慌てず落ち着いて避難して下さい! 落ち着いて!!」
 ブロンズ(gb9972)は境内の外へ向かおうとする波を誘導していた。わざわざ敵に向かい駆けて行くのは能力者くらい、として後方の陣へ、境内へ入らないよう指示していたのだ。しかし、つい先ほど遠くから聞こえた咆哮が、すぐ目の前に降って来た。
「増援とか、‥‥まじかよ‥‥」
 外への出口を塞ぐように、巨大なトラがブロンズの前に現われた――。

 友人を一足先に避難させ、奇襲現場に戻った榊は冷静に辺りを見渡した。
 周囲には風に吹き飛ばされ打ち所が悪かったのか、動けず倒れている人々を次々に運搬していく小笠原の姿。
「すぐに、安全な所までおつれしますから‥‥もう少し耐えて下さいね」
 細身の身体のどこからそんな力が沸いて来るのか、懸命な救命活動が続く。
「手伝います! どちらに運べばよいですか!」
 額に汗浮かべる姿に助力を申し出る榊。
 そんな救助作業を続けていられるのも、キメラの足止めをしてくれている者がいるからだ。
「干支が神社襲撃なんて罰当たりもいいとこね‥‥踏まれてる人もいるみたいだし、大丈夫かしら」
 紅 アリカ(ga8708)は丁度その場にやってきたところだった。混乱の具合から事態を把握し、トラの牽制に協力していた。両手に刀を構え行く手を遮る。
 そしてその足元でも、
「この、でかぶつ! さっさと降りろ!」
 初撃で踏みつけられた神撫がどうにか懐から短剣を抜き取り、白い毛皮に包まれた足へ攻撃を仕掛ける。思うように自由が利かなかったが、上乗せした急所突きの効果もあり、僅かに相手の押さえつける力が緩む。
「よしっ、今度はこっちの番‥‥!」
「‥‥神撫!?」
 誘導と救助を行ないながら、トラへ近づいた百地が知り合いを認知する。それは当人も呪縛から逃れ、紅と共にトラと向き合おうとした瞬間だった。
「っと、百地さん!?」
 思わぬところで会合を果たすも挨拶をしている暇はない。それぞれ場数を潜り抜けたもの同士、合図は目馳せで十分だった。
「ちょっと場所も状況も不利よ、気をつけて戦いましょう」
「黒刀の切れ味‥‥味あわせてあげる!」
「OK、OK‥‥」
 神撫はトラの正面に立ち、他から注意をそらすべく挑発を行なった。低い唸り声が聞こえる。すうっと息を吸い込む仕草、
「避けて! 多分――」
 百地が言うが早いか、トラの雄叫びが周囲にカマイタチを発生させた。とっさにサイドステップで回避する神撫。紅はその場に踏みとどまり衝撃に耐えた。いく筋かの裂傷を受けたが致命傷には至らない。
「ここから動かさないようにしないと」
「でも、風を使われちゃ近づけないわね、連携して一気に畳み掛けましょう」
 無言の合図。
「はああああ!」
 先手を切り、相手の鼻先へ一気に詰めよったのは神撫だった。踏みつけられている間の攻撃が功を奏し、相手の挙動は鈍い。そこへ紅蓮衝撃を込めて蛇剋で鼻先に一撃。同時に側面から紅も刃を煌かせ、皮膚に赤い模様を増やした。
 それらの衝撃に唸りながら首を竦め、後退するそぶりを見せる。
「‥‥せいっ!」
 振り回すことで周囲の物体を引っ掛けぬよう、胴体へイアリスの突きを繰り出す百地。顔は潰され、足もままならず、身をよじるしかないトラ。
 3人は渾身の一撃を叩き込み、その一体を沈めた。しかしまだ混乱の声は収まってはいない。

 社の裏、倉庫前を一時的な待避所として一般人を集めていた。深手を負ったものへは救急セット等で応急手当を施し、周囲の警戒を続ける。
「この傷はちょっと深いですね‥‥はやく騒ぎを鎮めて病院へ――」
 小笠原が1人の負傷者を相手していたとき、背後の藪林がガサガサと騒音を上げた。小さな悲鳴と、緊張に包まれる場。
「俺が見てくる‥‥狩りの始まり、かもな‥‥」
 立ち上がろうとした榊を手で制し、西島が息を殺し、足音を潜めて音源を探りに向かった。藪の外から暗がりをうかがう。赤い篝火に照らされて、揺らめく蔭――の中に光る二つの瞳。
「ちっ‥‥‥!」
 苦々しく舌打ちをした後、後方へ跳んだ。僅かに遅れて、飛び出してきた白く紅い巨体が地面を抉る。
「面倒な‥‥」
 周囲を見渡し、障害物の多さを確認する西島。倉庫前では一般人達が身を互いに寄せ合い震えている。一般の警備員のような者が周囲を固めているが、相手がキメラではどうにもなるまい。
「まだいたなんて!」
 警備員に応急手当を任せた小笠原と榊が西島と並ぶ。
「巻き込まないように戦わないといけませんね‥‥私がひきつけます!」
 一言言い放ち駆け出す小笠原。イアリスを両手に、正面から特攻。トラは大手を上げて、目標目掛け振り下ろす――が、彼女には至らない。
「射撃は‥‥面倒なんだが‥‥」
 西島のハンドガンが硝煙を上げていた。その弾丸がトラの威を削いだのだ。その隙に、小笠原は喉元に飛び込み双刃から二段撃を見舞う。無論トラ自身も撃たれるばかりではない、牙の射程に飛び込んだ対象へ齧り付く。とっさに自身障壁を展開するも近距離の一撃は重かった。
「く‥‥でも、――今です!」
 首が定位置で固定されるということは相手も動けないということ。そして小笠原には味方がいる。
「こっ、のおおおおお!!」
 一瞬にして迅雷を発動した榊が一気に間合いを詰めて斧を振り下ろす。胴体を抉る刃。続けざまに円閃を放ち、遠心力を込めて、トラを一般人から離れた場所へ突き飛ばす。同時に小笠原も牙の脅威から解放された。
「大丈夫ですか!?」
「それよりまだ!!」
 肩口を押さえ膝を付く小笠原を心配した榊だったが、まだ脅威は去っていないと激を受ける。
「本当、面倒だけは‥‥嫌いなんだが‥‥」
 トラが吹き飛ばされた先で待ち構えていたのは西島。いつのまに移動したのか、さもそこにたどり着くのが当然であったかのように身構えていた。金色に変わった瞳が獲物を捉える。
 ソニックブームを載せた両手剣の刃でその胴体を貫く。しかしそれで絶える生命力ではない。命の危機は獰猛な抗いへ変わる。無事な四肢を使って身を捩り、戟から逃れ、突進。
 しかし西島もただ待ち構えるだけではない。身を低くし足を撃った。
「‥‥虎を‥‥なめるな‥‥。虎、モドキ‥‥ガァァァァッ!!!」
 西島は虎の如き雄叫びと共に、剣を一気に押し上げ、真上にある首を狙った。渾身の連撃により、流石のトラも無事ではいない。喉が掻き切れ、滴る体液。千鳥足になったところへ、駆け寄ってきた小笠原と榊も追撃を加え、その絶命を確認した。

 一方塞がれてしまった境内から一般道への道。非戦闘員はどうにか退出さているが、まだ全てが完了したわけではない。ブロンズと、合流したキングが少ない手勢で苦戦を強いられていた。
「くっ‥‥手が足りねえ‥‥」
 足技を駆使してトラの侵攻を阻むブロンズ。冷静に状況を分析し、隙が出来れば一般人を促し逃す。無論己の注意も怠らない。
「そっちへはいかせねぇ!」
 キングは積極的に強弾撃を放ち、牽制している。他所での騒動が収まってきているのは、断末魔とも取れる咆哮から察しが付いていた。しかしここでの戦闘に気付き、応援が来るまではまだ――かかるだろう。
 カマイタチが周囲の土を巻き上げ視界を奪う。避難者を背に陣取り、ブロンズは小銃のリロードを行ないながらディフレクト・ウォールを展開。耳を澄ませて収まるのを待った。しかし五感という点で相手が勝っていたのだろう、突如砂埃の中から白い巨体が出現、突進してきた。
「くっ」
 回避には若干間に合わなかった。ブロンズはどうにか踏みとどまり衝撃に耐えた。飛び退いた瞬間を計り、ロウ・ヒールを使用。僅かにその傷が癒えた。
「数の問題じゃなく、力の問題‥‥ってか。全くついてねぇ」
 何度か咽、呼吸を整えるブロンズ。キングも二挺銃を撃ち続けている。お互いに互いを助け、隙を作り、一撃を繰り出す。連携を意識して繰り返してはいるが、力不足が否めない。どうにか万能型のエクセレンター、ブロンズ、援護射撃のキングで持ちこたえている状態だ。
 次の咆哮が来る――相手の動作からそれを悟ったその時、
「3枚におろしてあげる‥‥?」
 突如蒼い陽炎がトラの脇に現われた。それは瞬く間に連撃、トラに悲鳴を上げさせた。
「無事だったようでよかったわ‥‥終わらせましょ?」
 それは社の高台から、入り口付近の騒動に気付いた紅達だった。突然の不意打ちに、昏倒するトラ。
「ほら、一気に畳み掛けて!」
 今が好機、と集中攻撃を促す百地。
「顔面が狙えたら狙ってくれ、あとは交互に仕掛けて注意を分散させるんだ」
 キングの隣に立ち、耳打ちするのは神撫。
「あ、ああ。大丈夫だ」
 キングは銃の狙いを定め、タイミングを見計らい、射撃。その隙にブロンズが銃から機械剣に持ち直し、飛躍。
「これならどうだぁぁ!!」
 応援の3人から援護を受け、対象を絞りかねているトラの頭上から体重を乗せた一撃を叩き込む。固い部位もものともせず、見事粉砕貫通。
 着地し、トラを振り返ると、動きを止め、身震いしているところだった。そこへ畳み掛けるようにキングの鋭覚狙撃が決まる。
 しばらく予備の武器を手に、相手の出方を伺っていたが、そのまま地に倒れた為終わったことを確信する一同。
 ブロンズは無言でトラ頭頂部の愛剣を引き抜いた。

 やや離れた藪の中。己が成果を確認するように、背の高い女性が目を細め戦況を見届けていた。
「まぁ、これだけの悲鳴が聞けたならいいほうね‥‥ふふ」
 その場にいつもいるはずの、パートナーの青年の姿は――なかった。

●今年の願い
「ああ‥‥異常は‥‥無い、ようだ」
 次々にキメラが現われたことで、他にも潜んでいるのではないかと各自警戒に当たったが、周囲に妖しい影は見受けられなかった。
 西島は、それでも念のため引き続き警戒を続けると告げ、藪の中に入っていった。
「あたしももうちょっと見回ってくるわ、仕事だしね」
 本来の警備の方に戻る、と百地も共に戦った仲間に挨拶をして、本殿周囲の警備に戻っていく。

 本殿の前では、奇襲に応戦した能力者たちを中心に、治療や重傷者の運搬が手際よく進められている。あるものは感謝し、あるものは今年もお願いしますと願いを込める。
「ええ‥‥今年こそ、バグアを全て倒せますように‥‥と願いましょう」
 エマージェンシーキットの蓋を閉じながら紅が応えた。決意に満ちた漆黒の瞳に炎が映りこむ。
 共にきていた親友を探し出し、榊は無事を確認した。能力者でなければ守れない存在、僅かながらにも日々増えていく能力者。もしかしたらこの親友ともいつか肩を並べて戦う日がやってくるかもしれない、と互いに言葉を掛け合った。
(「僕の願いは自力で叶える‥‥だから、こいつの願いが叶いますように‥‥」)
 榊は口に出さず、何度も何度も心の中で繰り返した。

 幸い本殿の被害は屋根瓦が吹き飛ばされた程度で済んでいた。神職達も窮地を救ってくれた傭兵達へ礼を述べ、年頭の言葉、挨拶の列に加わってほしいと述べた。
 ソレに応じて何人かが前に並ぶ。多くの、助けることが出来た一般人の注目を浴びる。
(「もっと、強くなりたい‥‥これらの人々を守る為にも‥‥」)
 まぶたをうっすらと下ろし、ブロンズは年に誓う。
(「何を願うか‥‥うーん、よし。今年子を彼女ができますように! あ、バグアも消えて平和になればもっとよし!」)
 己の心に正直に、そして多くの人が望む平和を誓うのはキング。キメラ退治の直後は今年の干支が虎でよかったと安堵する様子も見せていた。――辰に飛ばれては敵わない――と。
 治療に専念するため、と列に加わらなかった者もいる。それでも願いを込める瞬間には同じように、冀う。
(「今年も、お友達と楽しくすごせますように。‥‥そして、素敵な恋人なんかできちゃったら、嬉しいです」)
 手を清め、礼にならった完璧な詣り。小笠原は日常の幸せと、新しい幸せの到来を祈る。

 普段は穏やかで笑顔を絶やさない神撫だったが、ここばかりは極めて真剣な表情で小さな箱を手に持っていた。丹念に祈りを込めて振るう。
「今年こそ、今年こそ、しっと神の庇護下から抜け出せますように、はずれますように、はずれますように‥‥!」
 と、祈りながら引いたおみくじ、――それが示すのは『大吉』。
 それが願う、あたりなのかはずれなのか、この時点では判断をすることは出来なかった。