●リプレイ本文
●受付開始
華やかな学園祭の人ごみで、チラシ配をするメイド服をきた可愛い女子。ではなく男子のマルセル・ライスター(
gb4909)がいた。
「少ない資源を大切に使いましょう! ゴミもきちんと分別してリサイクル! これを機に学園、来場者の皆々様、に資源ゴミに関心を持ってもらいたいのです!」
エコ活動のPR活動の最中らしい。その不思議な容姿もその一環――との噂。配布しているチラシから覗いたのは『エコでええ子‥‥』というキャッチフレーズ。
アピールの為学園を巡っていたマルセルは、丁度ナヤンの出店の前を通りかかった。その内容に、自身が行なう活動に繋がるものを感じ受付に声を掛けるのだった。
――資源を大切にしているということをアピールすれば学園の好感度が上がる、と。
飲食店が賑わうお昼時、寂れた一角の出店を訪れたのはマヘル・ハシバス(
gb3207)。 昼の混雑を予想し早めに昼食をすませ、ゴミ箱を探している最中だった。
「ん‥‥ゴミ拾い、か。腹ごなしに丁度いいかも」
ナヤンの説明を聞くと参加者名簿に名前を記した。
「ええと、色々借りられるのね。‥‥清掃中とか示せる襷みたいなの、ありますか?」
雑然と並べられた用具を見渡しながら問うと、リストを渡された。マヘルはその中からいくつかを選ぶ。
「時間は90分、と。わかりました」
マヘルは穏やかに微笑み、テントを後にした。
その後、何人かの名前が名簿に記載されることとなる――。
●いざ挑戦
背の高い生垣が並列するその間、緑の絨毯の上を歩いているのは紅桜舞(
gb8836)。
「お掃除♪ お掃除〜♪ らん、ららんらん〜♪」
ゴミ袋を片手に、にこやかに歌を口ずさんでいる。のんびりとした動きだが、その捜索眼に抜かりはない。
「‥‥あや?」
ふと能力者としての力、何モノをも見逃さない眼を用いた時、目の端に不穏な影が映りこんだ。
息を殺してそっと近づくと、花壇の土を掘り返している人物と傍らの妖しい物体が見えた。
(「美化委員? 球根? にしては様子が‥‥」)
もっとよく見ようと身を乗り出した時、足元で乾いた音が響いた。小枝が折れた。
不審人物も気づいたようで、紅桜の姿を視認するやいなやその場から逃げ出すように走り出した。
「あ、そっちは!」
声が早いか事象が早いか。ガチャンと金属音が響いて、人が転んだ。見事に顔面から倒れ動かない。金属音の正体はトラバサミ。置いておいたものが丁度その脚に噛み付いたのだった。ナヤンはキメラ小屋の『掃除』に使う道具と言っていた。
「え〜っと‥‥変なもの、げっと? どうしようかな、これ」
掘り返された跡を警戒しながら窺うと、球根のようなものが動いていた。
「ま、まさかキメラとか〜!?」
また植物関係か、と過去の記憶がフラッシュバック。携えていたイアリスを抜き、何度も何度も突き刺した。球根も意図せぬことだったろう、反撃もなく簡単に砕かれた。
「‥‥一応コレもゴミにしておこぅっと」
紅桜はキメラの残骸をゴミ袋に回収し、昏倒している人物をひきずり、生垣から抜け出した。
尚、不審人物は学園を通してUPCに引き渡されたとのことです。
一方休憩所。そこには魔天使ことメデュリエイル(
gb1506)がいた。丁度お昼時ということもあり、多くの人で賑わっている。
「こほん‥‥あー、あー、うん。‥‥要らないゴミがあったら、特別に、この私が、回収してあげるわぁ!」
咳払いの後艶やかな声を張り上げ、アピール。その大声に一同の視線が集まるや、にこにこと笑みを浮かべ、一枚のゴミ袋をその場に広げた。『あるなら持ってきなさい』という暗示らしい。
声に反応し、ゴミを持ってくる人がちらほら現れる。
その様子に満足そうなメデュリエイル。持ち込まれるものを回収しながら、自身も人の居なくなったベンチを中心にゴミの捜索をする。
「意外とこういう影に、こっそり置いていく人がいるのよねぇ‥‥ほらあった」
案の定ベンチの下には飲みかけのペットボトルが置いてあった。火ばさみで摘みゴミ袋へ。
そんな風に意識を清掃に向けていた時、背後で人が動く気配があった。振り返ると一組の男女が残骸を残してベンチを発とうとしていた。メデュリエイルの目が妖しく輝く。
「ちょっとぉ〜? そこの貴方達?」
二人がびくリ、と肩を跳ね上げる。
「ゴミは、ゴミ箱に、って‥‥ママに教わらなかったのかしら」
笑顔の奥の瞳が怒っている。二人は顔を見合わせると、ベンチに戻り自分達の残骸をゴミ袋に放り込んだ。
(「まったく‥‥」)
その後もゴミを置いていこうとする人種に厳重注意をしながら回収を進め、あっという間にゴミ袋は満杯になった。
「ん、代えの袋もらってこないとねぇ。ちゃんと用意してあるといいけど〜」
受付時ナヤンに残した言葉が守られているかを確かめるように、一度テントに戻ることにした。
ほぼ同刻、マルセルも休憩所にいた。メイン通路の出店で説いて歩いたが、忙しい店員は残念ながら聞いている余裕はないようだった。仕方ないのでチラシのみを置いてきた。
「ここもゴミが出る場所! 出す人の意識改革を目指さないとっ」
そう決意してメイド服をひらめかせる。
「ゴミはゴミ箱へ! ゴミ拾いに興味があればこのチラシの印のところへ! 食べ残しも肥料に使えます! ゴミは資源の眠る宝の山なのです!」
チラシに謳われる言葉を声にする。同時に休憩している人たちへチラシを配布していく。「あ、タバコ!」
ゴミ箱に吸殻を入れようとした人物をみつけ詰め寄り、その中に含まれる資源について語るのだった。
『――以上でスナイパーとヘヴィガンナーによる射撃実演を終了いたします』
運動場のイベントスペースでは新クラスの紹介がされていた。
「うわ〜、名前通りっていうかすごいね〜」
最後列で見学していた、鷹崎 空音(
ga7068)が感嘆の息を漏らした。その横にはゴミ袋を積んだ台車と、
「あれだけの重機を扱って息一つ乱さないとは‥‥頼もしくなりそうだな」
ペアを組み、ゴミ拾いに参加していたジャンガリアン・公星(
ga8929)がいた。
「さって、ゴミ集めに戻ろ〜♪」
人が動き出す前に台車を動かさないと邪魔になる、と早めに道を退く二人。同時にジャンガリアンは空のゴミ袋を手に回収を呼びかけている。
「不要なゴミがあればこちらへ。次のステージに備え不要なものがあれば引き取る」
その声に動かされ、手にしていた整理券をゴミ袋に入れにくる人の流れ。
また、鷹崎はジャンガリアンの後ろに台車を置くと、人のいない観覧席に落ちているチラシ類を拾っていた。
「もー‥‥なんでおいてっちゃうのかなぁ」
意識、無意識含めて色々なモノが跡地に残されていた。
「あや?」
ふと拾い上げた一枚の紙の内容に手がとまる。
『〜抽選券〜5枚で1回チャレンジ☆』
チラシに混ざって捨てられたらしい。周囲を見渡すと他にも何枚か落ちているように見えた。
(「5枚あるかなっ♪」)
ゴミ拾いとは別の目標が出来た。そうなると面倒な作業にも宝探しのような楽しみが生まれる。2枚、3枚、とそれは出てきた。
そのうちジャンガリアンの声が耳に届いた。
「おい、そこの白衣の歩きタバコ! 灰皿は携帯していないのか! 灰をその辺に撒くんじゃない」
いかつい体格に白衣を羽織った男性を注意していた。遠目からでよく確認できなかったが男性は面倒臭そうに頭をかいている。
「ん、あー、あの用務員の出店参加者か? んじゃ、空き缶一個くれや、それ灰皿代わりにするから」
やたら声かかるなぁとぼやきつつ、男性はゴミ袋から適当な空き缶を拾い上げ、その中に灰を叩き落とした。
「いい年してそのようなことでは格好悪いぞ! 大人として他の見本になる行動を取る必要がある!」
男性は適当に相槌を打ちながらその場を去っていった。
色々な人間が集まる場となれば仕方のない人種もいる。1人を注意することで類似する行動者にも、注意を促せれば、とジャンガリアンは思った。
実際それは功を奏し、集まるゴミは増え、散らかるゴミは減った。
「公星さ〜ん♪ 観客席の方片付いたよ〜」
えへん、と胸を張って周囲の美化完了を告げる鷹崎。
「じゃ、丁度お昼だし休憩かねて一息いれようか。空音ちゃん、欲しいものあるなら奢ってあげるよ」
ジャンガリアンが時間を確認しながら尋ねる。するとすかさず鷹崎は応えた。
「これ、コレがもらえるところのが欲しい! あと1枚で10枚になるんだよ!」
ゴミと共に拾い集めていた抽選券、それは今9枚だった。10枚になれば2人で1回ずつ挑戦できると目を輝かせ主張。
(「抽選券‥‥って、ゴミというより落し物じゃ‥‥。でも持ち主探しは難しい、か」)
「じゃあ配っているところを探そうか」
2人は抽選券が配布される出店へ向かった。
鹿島 綾(
gb4549)はゴミを目立たせないようにと加工した台車を引いていた。その引渡しの際に思い立ち、ナヤンからバケツと箒を借りた。そして出店の購入待ちで列を成す一角に立つと、水で充たしたバケツに箒を浸し、一声。
「行列待ちの皆! 合間に余興はいかが!?」
最大ボリュームの声は一瞬で人々の注目を集める。
(「昔取った杵柄、ってね。あの頃の学園祭じゃ、売り上げNo.1目指してはりきったっけな〜」)
それは自身の学生時代に行なった催しだった。水を含ませた箒で地面に絵を描く。そのことを示すと人々は場所を開けてくれた。
「さぁ、リクエストあれば頑張るよ!」
ぶっきらぼうながらも温かみのある声に、「あれはどうか」、「これはどうか」という声があがってくる。
太陽の日差しも味方し、すぐに別の絵を描くことができた。
乾くまでに次のリクエストを待っていると、1人の大人しそうな女生徒が小声で、「猫‥‥」との囁き。
「OK〜」
快く承諾し手馴れた手つきで描く。女生徒は鹿島の動きと完成された絵に小さな拍手を送った。他の見物人も歓声を上げている。
出店の列が捌かれるのとほぼ同時、バケツの水は底をつき、催しはお開きとなった。
「さぁて、ゴミ拾いもう一巡り、って行きたいトコだけど小腹が空いたかな」
そんな時、客のはけた出店の店員が差し入れを持って来た。行列のトラブルなく昼の列が捌けたのは鹿島のおかげだ、とお礼らしい。
「あ〜ありがと! 甘いヤツ好きなんだ!」
差し出されたのはメープル味のワッフル。その声を聞きつけ他の店からもクレープや饅頭等が届けられた。
人が多く、歩くのもままならないメイン通路。アリエイル(
ga8923)はそこに面する出店を廻っていた。
「ゴミはいっぱいになっていませんか? よろしければ回収させて頂きたいのですが」
店の裏手から店員を務める生徒に声を掛けていと、大抵が「自由にもっていってくれ」と忙しそうに応えてくれた。
手早く満載のゴミ袋を抜き取り、新品のゴミ袋に交換する。
「交換完了です。がんばってくださいね」
一言声を掛けて、また隣の店で同じように声を掛けていく。
流石に排出されるゴミの量は相当なものだった。中には何をどう間違えたのか原型不明の炭の塊が詰まっているものもあった。
そんなゴミ袋を手に歩いていると、見知った顔に出会った。相手は新しいゴミ袋を携えていた。
「あ‥‥メデュリエイル? 逆十字の魔天使を自称する貴女もゴミ拾いとは…珍しいことで」
彼女は同小隊仲間だった。
「まぁ‥‥ちょっとした気まぐれねぇ。魔天使だって、たまーにはちゃんとした天使になる時もあるわよぉ?」
姉と敬うアリエイルに対しにっこりと微笑を返すメデュリエイル。
「そう‥‥ですか。ともあれ沢山拾って綺麗にいたしましょう」
またあとで、と短い挨拶を交わし、2人は別れた。沢山の人がいようとも、縁がある人というのは必ずどこかで出会ってしまうもの。妹分の彼女のように。
(「学園祭、私も‥‥このような過去を過ごしたことがあったのでしょうか‥‥? それとも――」)
祭りの喧騒の中、自分の記憶を探すように周囲を見渡してみるが何も思い出せない。もしもこの中に自分を知っている人がいたら、何かわかるのだろうか、掌から零れ落ちる砂のように掴めない記憶と、流れていく時間。
アリエイルと交差するよう、同じようにメイン通路の清掃を進めるのはマヘル。通路で配布されている宣伝のチラシの多くは、受取った者の手から地面へと滑り落ちた。
「捨てるのならもらわなければいいのに」
そう呟きながら、雑踏の中に散らばるチラシを拾い集める。散らかっているから余計に散らかる、ゴミがあるからゴミを捨てる、そんな悪循環を回避するため目立つ場所を中心に清掃を進めていく。
清掃活動中の旨が記載された腕章をつけているおかげか、人の流れの中でも比較的余裕をもって行動することが出来た。
仮設ゴミ箱、チラシ配布の着ぐるみ、手元の案内パンフレットを元に順々に巡っていく。
「そういえば‥‥こんなふうにのんびりと学園を散策するのははじめてかもしれませんね」
普段は生徒、聴講生、学園関係者が緊張感――例外もあるが――の中訓練にいそしんでいることが多い。なかなかゆっくりと学園を巡る機会はない。
そんな一般的な日常に、マヘルは深く息を吐くのだった。
●戦果発表
「やーやぁ、お疲れ様! これは参加賞だよ〜」
ナヤンは元気に出迎え、それぞれに学園印の記念品と妖しい飲料を配布する。
「はぁぁ、楽しかったぁ〜。なんか変なもの居たけどっ」
連行された不審人物を思いながら紅桜が一言。
「ちょっとした腹ごなしの予定だったけど‥‥お腹すきましたね」
「あっちに美味しいワッフルの店あったよ?」
マヘルがぼやくと、すかさず鹿島が先ほど味わった感想を述べる。
「ちょっと汚れた、かな。早いところ自分自身も綺麗にしたいわねぇ」
メデュリエイルは集められたゴミと、自分の衣服を交互に見やった。
「あ‥‥そういえば、『競争』とのことでしたが‥‥どうなったのです?」
ふと思い出したようにアリエイルが、なにやら集計中のナヤンに尋ねた。
「ん、あー、見るからちょっと待ってね〜」
話に依ると『参加者同士の競争』ではなく、ナヤンが10分で集めた量を越えればその景品、30分で集めた量を超えれば、な形式だったようだ。ということで参加賞とは別に、個人個人の収集結果に応じた景品が配布される。
「これを機に学園の美化とエコ活動が広がるといいですねっ。正直お祭りではゴミ処理まで気が回らない部分も多かったと思います」
マルセルは景品を受け取りながら活動の成果と今後への影響を考えていた。
また、無事に10枚の抽選補助件を集めた鷹崎、ジャンガリアンのペアは抽選へ向かい、ハロウィンにちなんだ景品を獲得したのだった。