タイトル:【CA】秘密の補強薬マスター:ArK

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/10/08 00:40

●オープニング本文


 KV対KVの闘技場を作る。その話が、カンパネラにもたらされたのは、夏も終わりのとある日の事だった。
「最近の学生は、精神性と言うか、血の気が多すぎると言うか、そう言うモンにかけておるのう。そうは思わんか?」
 老師ことカイレンが、例によって生徒会室に居座っている。聖那、ティグレスにじろりと睨まれているせいか、笑みを浮かべてこう答えた。
「血の気もUPCの活動には役立ってますから、よろしいじゃございませんの」
「‥‥生ぬるい! そもそも、闘うと言う事はじゃなぁ‥‥」
「老師、その講義は授業でお願いいたします」
 なんぞと、すっかりお茶の間トークシリーズになっている最中、UPCから管理部経由で、聖那に通信が来る。
「あら、そんな老師にぴったりのお仕事が舞い込んできましたわ☆」
 聖那はにこやかにそう言って、プロジェクターに【カンパネラ地下KV闘技場設置協力願い】という名の書面を映し出した。
 カンパネラ地下階層‥‥。
 演習場の事ではない。そのさらに地下、普段は閉鎖され、立ち入り禁止となっている区域「旧研究階層」である。
 すでにグリーンランドのアンサマリクに主要な研究施設は移設されているが、移設されなかった研究施設は封鎖された状態で取り残されている。
 どうやらそこに、UPCはKV同士の闘技場を作ろうと言う算段のようだった。


「‥‥あー、わりぃ。それ、今無理だわ」
 様々な色の遮光瓶が保管されている棚と保管薬品在庫票を確認しながら、学園の理科担当教師のジョン・クーレルは参ったとばかりに言葉を発した。
 ここは学園研究棟の薬品保管室。実験や実習、補修に使うための特殊な薬品が保管されている。
 ジョンは連絡係の生徒を振り返った。
「作ることは出来るんだが、それだけの量となるとここにある量の材料だけじゃまかなえねぇな」
 現在学園地下が改装作業中なのは既に学園中に広まっている。掃除も進み、資材の手配も始まっているようだ。
 そして今ジョンのところに生徒が持ってきた『特殊薬品手配依頼の件』という連絡書もそれに関係していた。
 KVが組み手をするとなれば、かなりの負荷がかかることは誰にでも予想できる。一般的な工事や材料ではその衝撃に耐え切れないだろう。そこで建設につかう補強用の薬品が求められたのだ。
 目を伏せ、誰に聞かせるでもない小声を発し、計算を行なう。あるものないもの必要量、体育会系の見た目に反し、計算能力は極めて高く正確。生徒はそれが終るのを黙って待った。
 そして小声が完全に止まり、
「おし、場所教えてやっから生徒集めて採って来い」
 と、一言だけ楽しそうに告げた。
 そして近くにあった連絡用紙を一枚机に広げて内容を綴る。

 【材料採取依頼】
 連絡書の件ですが準備するには材料が足りません。
 つきましては添付資料の通り必要材料の収集を願います。
 中でも青色をした苔は在庫がなく、要採取となります。
 採取可能場所で過去にキメラと遭遇したことがあり、
 今回も想定しておいた方がよいでしょう。
 場所は――――

 まるでコンピュータでからプリントアウトしたような機械的な筆跡だ。そして最後に作成者欄に自分の承認を押して生徒に渡した。
「期間も短いようだし、ちゃんと目的のもんじゃねーと作れねぇから注意しろ。見分ける自信がなけりゃオレがついていってもいいが‥‥」
 採取に出かけている間に他の準備を進めておく必要があるから余裕はない、と続けた。
「だが地味に区別がつきにくいし、取扱も地味に面倒だし‥‥」
 自分の中でもどうするべきか悩んでいるようだった。
 ひとまず連絡係の生徒は依頼書を担当者へ渡すべく、薬品室を後にした。
「新種の植物も得られるかもしれんしなぁ‥‥」
 ジョンは誰もいなくなった部屋でひとり呟いた。

●参加者一覧

白鐘剣一郎(ga0184
24歳・♂・AA
藤田あやこ(ga0204
21歳・♀・ST
ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
高村・綺羅(ga2052
18歳・♀・GP
ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416
20歳・♂・FT
優(ga8480
23歳・♀・DF
ヴィンフリート(gb7398
20歳・♂・DF
紅桜舞(gb8836
14歳・♀・EP

●リプレイ本文

●依頼を受ける者達
 ドクター・ウェスト(ga0241)は、闘技場建設プロジェクトの総合受付窓口に顔を出していた。
「いやぁ、ついコノ間も建設現場でキメラと戦闘になってね〜」
 依頼を受けに来た者かと思い、受付嬢が依頼書に手を伸ばしたところ――予想は外れた。
 続いた言葉はキメラの出所から保管方法、ついては現在作業中の場所に問題があるのではないかと次々に問題点を指摘される。
 思わぬ事態に受付嬢が返答の言葉を捜していると、
「何をしているドクター」
 別の窓口で受付を済ませたホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416)が横から口を挟んだ。そして二人の様子を交互に見、なんとなく状況を察する。
「ほら、いくぞ。あ、この者の参加申込書はこれで」
 と、いつの間に用意していたのか一枚の申込書を提出。ウェストの白衣を掴み、引きずるようにその場を退出した。
「な、ホ、ホアキン君ではないか! な、何をする〜! 我が輩は〜」
 遠ざかる声に受付嬢は安堵したとのことでした。

「――ってコケを育ててるんだけど〜、丸くてかわいいの♪」
 熱心にコケについて語っていたのは藤田あやこ(ga0204)。
「ふむ、コケ界のロマンスグレーといわれるあれだな――」
 その相手は今回のコケ収集依頼発信者、学園の理科教師ジョン・クーレル。
「薬品を作ると聞いていたが‥‥その材料が苔?」
 説明と熱弁が入り混じる二人。その会話の合間に高村・綺羅(ga2052)が尋ねた。
返答は簡潔一言「必要不可欠だ」。
「地図、人数分焼いてきました。原紙は先生にお返ししますね」
 奥の準備室で地図をコピーしていた優(ga8480)が戻ってき、写しを参加者に配布していく。
「はい、はーい。灯りとか無線機は借りられないでしょうか〜」
 地図を受け取りながらヴィンフリート(gb7398)が挙手した。他にも持参の照明よりも高性能ならば、と望む者は数名いた。
「無論苔っていうのは――っと、ちと古いのでよけりゃ貸す。ものによっちゃ、お前らのヤツのが明るいかもな」
 と、対談の合間に流し返答。無線機はおいてねぇ、と一蹴。
「地図はもって、怪我したら応急セットを使って‥‥ええっと」
 一方で、荷物をおっとりと確認しながらバックパックに詰め込んでいるのは紅桜舞(gb8836)。
「苔、彼らは現在の生物学において、頂点、神秘‥‥そう、不可能なことがないほどの力をもって――」
「それだけ熱意をもって普通の授業に挑んでくれるヤツがいりゃぁ――」
 相変わらず展開される自論だったが、ウェストとホアキンが合流したところでそれは中断され、依頼内容の最終確認が行われる。
「ええっと、先生? 今回の採取に当たり対比できる実物のサンプル等、お借りすることは可能ですか?」
 白鐘剣一郎(ga0184)が対象物について尋ねる。他にもその地域に毒等の危険分子がないかと確認。
「ん〜‥‥オレが行った時にゃなかったな。んで、標本はある。詳しいヤツもいるようだし任せても大丈夫だろ」
 と保管庫の青いコケを少々ピンセットで摘み、強化ガラスのシャーレに移して蓋をしたものを手渡した。
「あは、先生のためならがんばっちゃう♪」
「オレじゃなくてコケの為に、あ、いや、オレでいいのか?」
 と、藤田の発言に真面目に悩むジョン先生でした。

●洞窟に潜る者達
 高速移動艇を利用し目的地に向かう。付近に降り、山の中を徒歩移動。そしてたどり着いたのは岩肌にぽかりと口を開けた地下への入り口だった。
「キメラが何処にいるか分からない、気をつけていきましょう」
 優をはじめとしてそれぞれ覚醒し、洞窟の闇に降りていく。ハンドライトを肩口に固定装着した白鐘が先行して道を確認。
「ここまでは地図通りだなぁ〜」
 同じく前を歩くヴィンフリートは地図を一見後、後は直感と荷物にしまいこんだ。
「流石にあるきづらいわねぇ〜」
 後方を歩く藤田は水濡れ対策に体操着と水着という軽装をしている。
入り口から続く、細く狭い通路をしばらく進むと少々開けた場所にでた。
「ここ、道が分かれているな‥‥、先生はこっちの道から進んだようだが、同じ場所で採れると限らないとのことだし――」
 高村が地図と道を見比べる。どの道も最終的には同じ川付近に繋がっている。
「以前採取できた場所の確認は必要と思います、全採取していなければ再生しているかもしれませんし」
 結果、優の意見もあり、以前の採取場所へ向かう組と別の道から向かう組に分かれることとなった。


 別道組は慎重に歩を進めていた。
「に、しても結構随分本格的な洞窟だな‥‥」
 白鐘はコツコツ、と軽く岩肌を叩く。地図上に道はあるが起伏等の詳細は書かれておらず視認しながら進むしかなかった。
「う〜ん、コケって本当難しいのよね〜」
 靴底の違和感を確認しながら藤田はコケの情報を再確認していた。道中も岩肌に張り付く様々な植物が見て取れる。成熟しすぎると変色することもある、預かったサンプルと若干色が変わっているかも知れないことを危惧する。
「一応音叉借りてみたけど、キメラにも効果でるのかな‥‥って」
 高村は実験室から借用した音叉を手に、天井に注意を向ける。暗い道を進んでいくにつれ、干からびた何かが張り付いているのが目についた。おそらく普通の蝙蝠だろう、破損具合から見てキメラの餌となったのだろう、その存在が、近く待ち構える敵の存在を匂わせた。
「‥‥おっと、なんかいるぜ」
 前を歩いていたヴィンフリートが一つの影に気づいた。狭い幅通路ギリギリに飛膜を広げる影。
「来たか‥‥迎え撃とう」
 白鐘の言葉を皮切りに、4人は身構えた。周囲は狭い、藤田はすばやくエナジーガンに持ち替えると、前衛の2人に練成強化を施し壁際に後退。
 飛来したコウモリは、極めて精度の高い狙いでヴィンフリートにその爪を向けた。自身は仲間の支援を信じ、怯まずイアリスを構える。コウモリの翼が頬をかすめ、イアリスが飛膜をかする。
「コレくらい余裕、余裕〜‥‥ちょっと痛いけど」
 頬に出来た赤い筋を手の甲で拭いながら敵に向き直る。
「どうだ、音叉!」
 ここぞと音叉を叩き、振動を発生させる高村だったが、キメラ変化はなかった。一般の蝙蝠とは異なるのだろう。残念、と音叉をジャケットのポケットに押し込むと両手にアーミーナイフを構え、藤田の前に位置取る。
 翼をたたみ天井に吊り下がったコウモリは超音波を発した。その振動が全員を襲う。思わず耳を覆うが全身がそれに振るわされる感覚がやまない。僅かに隙が出来た。全身の痺れが取れない中、再び襲い来る。
 いち早く麻痺から回復した白鐘が月詠を構え、高村と藤田を襲うコウモリに向かい走った。深い息を吐き、二人に被害がないよう狙いを定めた一撃で片翼を落とす。
「あん‥‥まったく、迷惑な攻撃ね〜」
 続いて回復した藤田が飛べなくなったコウモリへエナジーガンを放った。ジュッ、という音と、ギィッという小さな断末魔。焼け焦げた臭いが上がり動かなくなった。
「く、くらくらする‥‥」
 回復しきらないヴィンフリートと高村、そして自らの負った傷に練成治療を施して小休止。その後、目的地に向けて歩を進めた。


 一方開拓路を歩む組は――
「ふむふむ、コノ道は彼らの対岸に出るようだね〜」
 方位磁石と地図を小まめに確認しながら、ウェストは道を指示していった。以前の採取に使われた道というだけあって所々に目印のような石が積んであった。地図にも同じものが記されている。
「キメラってどこにいるのかな〜?」
 遅れず慌てずの足取りで周囲の岩肌を照らしながら進むのは紅桜。
「出会わないに越したことはない、今は急ぎ採取後、戻るのが先だ」
 ホアキンもそう口にしながらイアリスを左手に、エネルギーガンを右手に構え先の安全に注意を施す。
「あ、この先坂になっているようです、滑らないよう注意を」
 無感情に淡々と語るのは優。コケむしている岩が、ぬめって見える。何色か、とウェストが灯りを近づけて確認したが『黒』。目的の色とは違った。
「う‥‥きゃっ!?」
 足場は先を進む2人が確認していたが、ふとした弾みで紅桜が足をとられた。
「危ないっ!」
 闇の先へ吸い込まれそうに滑りかけた所、ぎりぎりの腕をホアキンがかろうじて掴んだ。己がブーツに体重を込め、自分も滑らぬようしっかりと支える。
「あああぁ〜、気をつけないから‥‥、戦闘前にケガをしてどうするつもりかね〜」
 額を押さえ大げさな溜め息をつくウェスト。
「うう〜、ありがとうございました〜」
 あちこちに擦り傷をつくりながらも、寸でのところで捕らえてくれたホアキンに感謝し体制を整える。
その坂を降り終えたところで救急セットを使い、己の傷の手当て。最初に自分が使うことになるとは、と隅で小さく丸く行なった。
 進み続けて程なく、奥からより湿った空気が流れてくるのを頬に感じた。耳にも激しい濁流の流れる音が届き始めた。
「ふむ、どうやらついたようだね〜」
 かさかさ、と地図を折りたたみ荷物へしまいこむ。同時に周波数を合わせたトランシーバーを取り出し相手側へ報告を行なう。
『あーテステス、我が輩はドクター・ウェストであ〜る』
 茶化すような声で相手の応答を待つが――返事がない。ノイズだけが聞こえてくる。範囲外なのか、手元にないのか壊れたのか、結論は出ないが通じないのでは仕方がない。
「まずは周辺の確認をしましょう、採取中に襲われてはかないません」
 優は月詠と照明を手に音の聞こえる場へ踏み出し、あたりを照らしていく。水音の聞こえる方を照らすと、黒く濁った水がごうごうという激しい音を立てて流れていた。天井を見ようと照明を向けると結構な高さがあった。
「まさに秘境、だな」
 外界から完全に切り離された世界、ホアキンも周囲を確認しながら、これで何か光るものでもあれば神秘的に見えるだろうが――あいにく人工の照明しかなかった。
「どこにあるのかな〜?」
 紅桜は水辺の岩を確認していく。水に足を取られ転ばないように今度こそ注意。
 ふいに水面が跳ねた。
「なんだろ?」
 照明の先には魚がいた。――水中ではなく、空中。徐々に上昇する光源に照らされたのは巨大なコウモリだった。どうやら魚を捕っていたらしい。
「退いて!!」
 優が叫んだ。すとんとしりもちを付いたのが幸いして頭上を越える魚を回避。
「ふむ‥‥」
 紅桜の照明を頼りに、ウェストが練成強化と電波増幅を施したエネルギーガンを放った。予告無しの光一閃、それは僅かに本体をかすめたが、貫くには至らなかった。
「体制を整えろ! 来る」
 巨大な翼が闇に広がる。こちらの照明に反射し二つの眼球が不気味に輝く。
 ――こっちで音が――!
 濁流を越えて微かに声が聞き取れ、対岸に灯りがともった。息きらせ走ってきたのか彼らは肩で息をしていた。
「はぁ、はぁっ‥‥ごめんなさぁい、途中の道、岩が塞いでて」
 藤田が息を整えつつ早口の説明、平行して武器を構える。途中の道が崩れた岩で封鎖されており、どかすのに時間がかかったとのこと。小柄なら通れそうだったのだが流石にそれぞれの身長を考えると厳しかった。
 主に力仕事を担当した白鐘とヴィンフリートはまだ呼吸が整わない。
「‥‥! こっちもいる‥‥」
 高村が照明を向けた先に、あちら側ほど巨大ではないが先ほど対峙したのと同じだろうコウモリがいた。飛び来るそれを防ぎながら捌いて行く。可能な限りその場を動かず、群生するコケを守るよう意識する。
 対岸の巨大コウモリが羽ばたいた。
 ホアキンが降下してくる巨大コウモリに向かいイアリスを振るう。優も同じように足場を気にしながら月詠を振り下ろした。連携を意識し動く。
 正面に回ったかと思うと流し斬りで側面に回りこみ一撃、ウェストがエネルギーガンで牽制し、ホアキンが急所突きで流れるような一撃を当てた。
 最後の抵抗だろうか、大きな超音波を一帯に放った後、濁流の中に姿を消した。

「さーて、おねぃさん張り切って採取しちゃうぞ〜♪」
 にこやかに張り切る藤田のアドバイスを元に、目的であるコケの採取開始。
「繊細な作業って難しいよね‥‥戦ってる方が気楽かも‥‥」
 と、途中まで指示を参考にあちこち探した高村だったが、結局キメラが残っていないかと警戒の為、辺りをふらついている。
「ドレドレ〜‥‥ほほう〜」
 岩壁に生している色とりどりのコケたちをじっくりと眺めつつ、手当たり次第に採取を進めていくのはウェスト。採取容器にはとにかくコケが詰め込まれていく。
「‥‥全部同じ色にみえるような気がしてきた‥‥」
 優はサンプルと見比べながら、助言を元に水を切り、似通った色ごとに分類をしていた。
「あれ? あやこさんは?」
 集めたコケを見てもらおうと、藤田を探すのは紅桜。
「ん‥‥さっき水辺で見たな」
 見分け難い、とコケに集中していた白鐘が顔を上げて答え、方向を指でしめした。確かに川沿いに一点の灯りがある。
「ありがと〜、いってみます」
 お辞儀をしてから灯りの元へ向かうと、
「あーん‥‥やっぱり濡れるのね‥‥ん〜」
 水際を探索していたところ、魚に濡らされたらしい。藤田は上に着ていた体操着を脱ぎ、水を絞っているところだった。
 いろいろあったものの、濁流越しの双方無事収集を終えた。質は戻って確認してもらわないことには分からないが藤田が確認する限り問題はなさそうとのこと。――正しいものに関しては。
「もういいくらいか? こんなしみったれたとこ早いとこでようぜ」
「時間的にもそろそろ、そうだな」
 ヴィンフリートの言葉に白鐘も洞窟に潜ってからの経過時間を思い返した。
「うーん、そうね〜。湿っぽい場所に長居、っていうのも採取後のコケ状態に影響する可能性が高いし〜、ね」
 全体に合図を送り、お互いにコケの扱いに注意しながら、元来た道を急ぎ戻ることにした。

●依頼を終える者達
 学園に戻った時、ジョン先生は調薬室の中にいた。採取報告と確認のため呼び出してもらう。
「ん‥‥依頼のシナは問題なし。合格点だ」
 サンプルのシャーレを回収し、採取物を確認した結果、質、量共に問題ないとのこと。その他の関係ない採取物も、とても嬉しそうに受領した。
「ところで‥‥どんな薬になるのかな?」
 誰もが抱いていた疑問をホアキンが口にする。おのずと全員の視線が2人に集中。ただの調薬にしてはジョン先生の化学防護服のようにも見えるものものしい装いに、思わずにはいられなかっただろう。
作業服のまま出てきたのがまずかった、と返す言葉を探したがそういうときに限ってすぐに見つからない。
「まー、作ってんのは地下のアレにつかうソレ。このコケはソレに使う――その、ああ、消臭剤みたいなもんだ」
 と言い捨て、ジョン先生は「作業途中だ!」と足早に調薬室に戻っていった。

 ――本当に消臭効果の為のものであったかは不明です――。