タイトル:サラサラで奇麗マスター:青峰輝楽

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/01/29 23:33

●オープニング本文


「‥おい、いたか?」
「いないぞ、どこにもいない」
「本当によく探したのか?!」
「勿論だ! フロア内、すべてチェックした」
 時刻は深夜。押し殺した声で交わされる会話は、数人の男によるものだ。
「まさか‥まさか逃がした‥のか?」
 その言葉に、鍛えられた男達の面に、緊迫の色が走る。
「馬鹿な。警備は完璧だった筈だ」
「上に知られたら‥大変だ」

 リーダー格の男が、他の者よりは一応落ち着きを見せて、可能性を探ってみる。
「机の下は見たか?」
「見ました」
「先週のように、寝こけて椅子から滑り落ちて、そのまま寝ている、という事は、ないのか?」
「ありません。机の下もベッドの下も確認しました」
「まさか‥‥先月のように、冷蔵室に隠した酒とツマミを取りに忍び込んで、お前が知らずに外から扉を閉めてしまって、危うく凍死‥なんて状況ではないだろうな?」
「それも確認済みです」
「そうか‥」
 落胆した声を出すリーダー。
 その時。背後の、パソコンの画面が、ふっと明るく輝いた。
 場の雰囲気にまるでそぐわない、やけに明るい音楽が流れた後、ちかちか光る文字が画面上に現れた。

『えっと、ちょっと息抜きしてきま〜す♪ 2、3日で帰るから、心配しないでねっ!(テヘ☆)』

 頃合いを見計らって、画面に出るよう、前もってセットされていたらしい。
 屈強な男達は、がくりと膝を折った。またしても‥脱出されてしまったのだ。
「御嬢おおお‥‥!!」
 複数の野太い呻き声が、夜のしじまに響いたようだった。

 翌朝。
 黒服のリーダーは、憔悴した表情でUPC本部を訪れた。
 徹夜で彼女の捜索を行ったものの、手がかりは得られなかったのだ。
「どうか、お力を貸して頂きたいのです」
「わかりました、ミスター・キーン。家出人の捜索ですね」
 と、UPC職員。
「シャルロット・バーンズ、24歳女性。眼鏡をかけた童顔で、高校生とよく間違われる。プラチナブロンドで、まあ美人。超名門大を飛び級で15歳で卒業し、同年に博士号も取得した才媛で、現在ドローム社の研究者‥という事でよろしいですね?」
「そうです。御嬢‥いや、彼女は、極めて優秀な研究者で、このラストホープの支社内に、自分のラボを与えられ、日夜研究に勤しんでいます。我々は、彼女のボディガード‥兼見張り役なのです」
「見張り役?」
 やや不思議そうにキーンの顔を見返した職員に、キーンは困惑した顔つきで説明した。
「彼女は、とても優秀で責任感もあり、研究意欲に燃えています。自分の研究で世界を救うのだ、と‥。ガチガチの研究者タイプではなく、他人にも優しい。ただし‥二つだけ、大きな欠点があるのです」
「欠点?」
「そうです‥‥。一つは、無類の酒好きという点です。アルコールはインスピレーションの泉だとか言っては、いくら取り上げても、どこからか酒を入手しては、色々な所に隠し持っているのです」
「‥‥」
「今回逃げたのは、その酒が切れた為と思われます。ああっ、もうすぐ上の視察が入るのに‥出さないといけない書類もたくさん溜まっているのに‥」
「‥‥もうひとつの欠点は?」
 頭をかきむしるキーンに、職員はあくまで冷静な態度を保ちながら尋ねる。
「‥もうひとつの欠点は‥‥。いくら酒が入っても、彼女は普段、見た目も態度も全く変わりません。ただ‥ひとつだけ、スイッチが入ってしまうのです」
「スイッチ?」
「そう‥それは‥『サラサラヘアー大好きスイッチ』なんです!」
「‥‥‥」
「彼女は、老若男女問わず、サラサラの髪が大好きなんです。酒が入った状態で、理想的なサラサラヘアーの持ち主に会ってしまうと‥‥」
「会ってしまうと?」
 職員もつられて緊張した声になった。キーンは声をひそめてこう答えた。
「なつきます」
「‥‥‥‥」
「異様になついて、どこまでもついて行ってしまいます! だから困るんです。彼女を引き抜こうと、ライバル社から狙われてもいるんです。サラサラヘアーで合法的に拉致されてしまうかも知れません。彼女がそんな事になれば一大事です。どうか、そんな事になる前に、彼女を見つけて下さい!」
「‥‥わかりました。事は重大なんですね」
 職員は、微かに溜息をつく。確かに重大な事だが、どことなく馬鹿馬鹿しい気がするのは何故だろう?
「‥そりゃあね、私だって、御嬢を可哀想に思う気持ちもあるんですよ。若い娘があんな所にカンヅメになって研究に明け暮れて。息抜きしたい気持ちだってわかります。でも、こっちだって仕事なんですよ。家族を養わんといかんのです。毎回毎回、どうして御嬢は我々の裏をかけるのか。何が『テヘ☆』だよ、そんな齢じゃないだろう?! そりゃあ、私はサラサラヘアーじゃないよ、でもしょうがないじゃないか、好きで髪をなくした訳じゃないんだよ!」
 職員は、ちらりとキーンの頭髪に乏しい頭に目をやって慌てて視線を逸らし、長い愚痴は聞かなかった事にした。

 手続きを済ませて席を立とうとする職員に、キーンはもう一言を添えた。
「あ、あと、博士とか呼ぶと怒りますから。御嬢様か御嬢と呼んでやって下さい」
 職員は、何か一言言ってみたくなったが、結局無難に、わかりました、とだけ答え、まだ何かぶつぶつ呟いているキーンを残し、その場を離れた。

●参加者一覧

クロード(ga0179
18歳・♀・AA
ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
ロジー・ビィ(ga1031
24歳・♀・AA
角田 彩弥子(ga1774
27歳・♀・FT
リュイン・グンベ(ga3871
23歳・♀・PN
海薙 華蓮(ga4079
10歳・♀・ST
瓜生 巴(ga5119
20歳・♀・DG
香倶夜(ga5126
18歳・♀・EL

●リプレイ本文

●UPC本部
「うーん‥」
 能力者たちの口から、呟きとも溜息ともつかないものが漏れた。
 ここはUPC本部の一室。相談の為に集まり、キーンに、ターゲットの写真を借り受けたところである。
「この子が‥酒豪で髪フェチ‥」
 角田 彩弥子(ga1774)が、皆の思いを代弁するかのように独りごちた。

 シャルロット・バーンズ24歳女性。
 しかし、写真を見るととても成人女性には見えない。
 高校生に間違えられる、という事前情報の通り、かなり童顔。目はくりくり大きく、あどけない雰囲気だが、顔立ちは整っており、写真の中の彼女は、ふんわりと微笑を浮かべ、優しく魅力的な娘に見える。
 そして‥童顔なのに巨乳。
 なかなかに、インパクトの強い外見だった。

「まあ、とりあえず」
 瓜生 巴(ga5119)が口を開いた。
「御嬢の好みの酒とか教えて欲しいですね。それから、一人で飲むのが好きなのか、誰かと飲むのが好きなのか」
 この問いに、反応した者が室内にいた。キーンの隣に座る若者。シャルロットの研究室の副主任である彼は、涙目で言った。
「御嬢はみんなで賑やかに飲むのが好きなんですよ。なのにキーンさんが駄目ばっかり言って‥。可哀想な御嬢。今頃、どこの寒空の下をさまよっているのか」
 キーンはうるさそうに副主任を見たが、何も言わなかった。
 瓜生は密かに笑う。
「‥好きなんですか?」
「えっ?!」
 慌てふためく副主任にそれ以上の反論を許さず、シャルロットの酒の好みを聞き出す。
 しどもどしながらも、捜索に必要な情報だからと言われ、彼は知っている事を話してくれた。
 酒は何でもいける。元々はバーボンが好きだったが、ラストホープに来てからは、泡盛にはまる。
「これで、当たるべき店が絞れたな」
 リュイン・カミーユ(ga3871)が言った。
 班を分け、情報収集する事に。
 クロード(ga0179)、海薙 華蓮(ga4079)は宿泊施設に、ロジー・ビィ(ga1031)、香倶夜(ga5126)は泊まり客や宿泊施設近隣に聞き込み。
 カミーユ、角田は酒屋、飲み屋を捜索。ドクター・ウェスト(ga0241)は夜に合流する。
 そして瓜生はUPC本部で、シャルロットを狙うライバル社の動きをチェック。

「困ったお嬢様ですわね」
 ビィが微笑して言った。
「‥‥気持ちは‥‥お察しします。‥‥依頼者と、お嬢様、両方の‥‥」
 クロードは、ビィに答える、という風でもなく、一人そっと呟いた。
「見た目はともかく実年齢は24歳なんだから、取り上げたりせずに普通に飲ましてやりゃーいいんじゃねーの? そうすれば、少なくとも酒を調達しに外に出たりはしないと思うんだけど」
 角田の感想に、キーンは真面目な顔で答えた。
「御嬢は本当に底なしなんです。若い娘があんなに飲んで‥いつかは子供を産む身だろうに、それまでに身体を壊してしまいます。その点、うちの嫁さんは‥」
 要するに、過保護なのかも知れない。台詞の後半は、単なる嫁自慢なので、能力者たちはあまり聞いていなかった。
「サラサラヘアー大好きスイッチ‥世の中、様々な人間がいるものだと、愉快になる」
 カミーユは静かに笑う。
「シャルロット‥‥罪作りな奴め‥‥」
 他の能力者には意味不明な独り言。なぜか、サラサラヘアーに関して、メンバーにライバル意識を燃やしているらしい。
「これが初めての任務ですけれども、私も精一杯頑張りますので、皆さんよろしくお願いしますね」
 海薙はふわふわとした笑いを浮かべ、お辞儀をした。
 各自、髪の手入れは欠かさないよう、心に留めながら別れた。

●宿泊施設
 クロードと海薙は、宿泊施設で情報収集をする。
 シャルロットの写真をフロントで提示し、宿泊していないか尋ねたが、どこでも最初の反応は、「お客様の宿泊の有無など個人情報に関しては、お答え致しかねます」というようなものだった。
 クロードは、その場で覚醒して見せた。瞳の形が四角になり、虹彩が紫水晶色に、そして前髪が一房だけ紫色に変化した。
「の、能力者さんですか‥」
「私たちはUPCから正式に依頼を受けて来た者。情報は、包み隠さず提供して下さい」
「そ、そうですか‥」
 フロント係はあっけにとられながらも、記憶を探るような顔つきになる。
「本日は、お一人で宿泊なさっている未成年のお客様はおられませんねえ‥」
「‥未成年じゃあないんだけど‥」

 大勢の客がいるホテルフロントで覚醒したクロードは、かなり目立つ存在だった。
「ママ見て! あのお姉ちゃん急に髪の色が変わったよ!」
 子供の叫び声に、周囲の視線が集まる。ざわざわ。
「の、能力者さんの捜索‥」
 あるホテルの、フロアの隅で、二人の姿を見て慌てる者がいた。
「まずいわ、捕まる前に、さっさと飲みに行きましょう‥」
 呟くと、その姿はもう消えていた。

●宿泊施設近隣
 ビィと香倶夜は、宿泊施設近隣で聞き込みを行った。
 ある24時間営業の店の店員が、シャルロットの写真に反応した。
「ああ、このお客さん」
「濃い色のサングラスを買っていかれましたよ。何かアフロっぽい鬘をつけておられて」
 ‥どうやら彼女は変装しているらしい。宿泊前に変装道具を購入していたようだ。

●飲み屋・酒屋
 角田とカミーユは、酒屋や開店準備中の飲み屋で聞き込みを行う。
「あっ、このねーちゃん。また脱走したの?」
 どうやら、この界隈では有名なようだ。
 副主任からの情報で、泡盛や日本酒を主に扱う店、と絞れていたのがよかったかも知れない。
「飲む約束してたのに行方くらますなんて、美味しいお酒独り占めはズルイと思いません?」
「おもろいねーちゃんだよね。顔色変えずに飲んでたかと思うと、突然‥あん時はたまげたなあ」
 主人はにやにやと思いだし笑いをする。
 笑いの意味がよくわからないまま、二人は、更に質問を重ねた。
「それで、あのコ、最近はどこの飲み屋さんが贔屓なんでしょう? 今晩は飲みに付き合って、明日は家に帰るように説得しますわ」
「そうだねー。前に来た時、いい雰囲気の店を見つけたって言ってたな。なんか床屋みたいな名前の‥」

●UPC本部
 ライバル社は、サラサラヘアーの能力者に依頼を出しているかも知れない。
 そう踏んで、依頼を調べに訪れた瓜生。
 みていくと、それらしい依頼が見つかった。
「求む! サラサラヘアーで酒が強く、女性の扱いがうまい能力者」
 ‥なんだかすごく怪しげである。この依頼を受けたは、いないようだった。

●夜・街の高所
 未成年であるクロード、海薙、香倶夜は、街を見渡せる小高い場所に双眼鏡を手に待機する。
 ビィと香倶夜の聞き込みにより、シャルロットは変装している可能性が高い事がわかったので、アフロっぽい髪の人物にも注意する。

 角田、カミーユ、ビィ、瓜生、ドクター・ウェストは、夜の街へと繰り出した。
 カミーユ達が得た情報から、2軒の飲み屋に特に注意する。
『バー・ビューティヘアー』『居酒屋・髪自慢』。
 どちらも怪しげだ。

●夜・『バー・ビューティヘアー』
「さあ、教えるのだ〜。こうゆう女性はよく来るかね?」
 ドクター・ウェストは、シャルロットの写真を手に、『バー・ビューティヘアー』のバーテンに迫っていた。
「そ、その方は、何度かご来店頂いております」
 ドクターの雰囲気に畏れをなしたのか、あっさり口を割るバーテン。
「よし、我が輩はここで待ち伏せをするとしよう〜。君、紅茶をいれてくれたまえ」
 バーで、紅茶を注文するドクター。バーテンは困った顔つきになったが、角田が、経費で落ちる事を確認した上で、高い酒を注文したので、一緒に、薄い紅茶が運ばれてきた。
「まあ、安物とはいえ、これがなくては何事も始まらないね〜」
 嬉しそうにドクターは紅茶を啜った。
 角田は、ドクターと共にこの店で待ち伏せをする事にした。
 白衣のドクターとメイド服の女性の組み合わせは、店の客の好奇の視線を集めたが、二人とも気にしなかった。

●夜・『居酒屋・髪自慢』
 ここの方が当たりの確率が高いように思われた。
 シャルロットの好む泡盛が揃っているという話だからだ。
 店に入ろうとした時、瓜生の携帯が鳴った。
「いました、緑のアフロの女性。直前にその店に入りました」
 海薙からだった。
 ビィ、カミーユ、瓜生は頷きあい、店に入った。

 ‥怪しい人物はすぐに見つかった。
 緑のアフロヘアーで、銀色のサングラスをかけ、嬉しそうに酒が来るのを待ちながら、お通しに箸をつけている女性。
 自然な感じで、一緒に飲もうと声をかけようとした時。
 三人の目前を、ひとつの影が横切った。
「シャルロット・バーンズ女史〜! ふっふっふ、見つけたぞお〜!」
 男の声に、シャルロットは嫌そうに顔を上げた。女史と呼ばれたからだ。
 シャルロットの目の前には、彼女自身に劣らず、目立つ人物が立っていた。
 足元まで届くサラサラの金髪。照明を受けてキラキラと輝くその髪は、光の滝のようだ。美しい。髪フェチでなくとも、虜になりそうな美しさだ。‥‥後ろ姿は。
「‥‥また、あなたですの? ミスター・スミス。いい加減にして頂けません?」
 怒りのこもったシャルロットの声。
「‥‥あれ? え? なんでだ? なんでなつかない?」
 慌てふためく男。さまよう視線が、シャルロットのテーブル上にとまった。
「しまったああああ!!! まだ飲んでなかったああああ!!!」
 
「傭兵‥‥にしては、変ですね」
 囁く瓜生。
 ビィが、床に座り込んだ男に近づこうとした時、床に流れた金髪を踏んでしまった。
「あら、ごめんなさ‥‥い?」
 謝ろうとしたビィの顔が引きつる。グロテスクな事が目前で起きたからだ。
 ずるり。男の髪が、頭皮ごと、ビィの足元に落ちてきた。
「‥‥‥!!」
「‥‥‥なんだ。鬘か」
 カミーユが髪の正体に気づき、拍子抜けした声を出す。
 サラサラの髪の中にうずくまっていたのは、バーコード頭の冴えない中年男だったのだ。
 どう見ても、能力者とは思えない、ただのオッサンである。

「また失敗‥‥ううっ、折角、サラサラヘアーの傭兵を雇う案でうまくいくと思ったのに、誰も受けてくれないし‥‥大金はたいてサラサラヘアーの鬘を買ったのに‥自費でこんな、他に何の役にも立たないものを買ったのに‥‥また失敗‥‥ああ、母ちゃんになんて言ったらいいんだろう‥‥」
 悲哀に溢れる嘆きの声。どうやら、傭兵が雇えず、ライバル社のスカウト係が、自ら出向いた結果らしい。
「少し、哀れだな」
 カミーユが呟く。
「そうですか? 自業自得でしょう」
 瓜生はあっさりと言った。
「楽しい時間を壊させませんわ。お引取り下さいな」
 ビィは、男に向かってきっぱりと告げた。男は肩を落とし、金髪を拾ってすごすごと去っていった。

「あ!」
 瓜生が大声をあげた。他の二人もすぐに気づく。
「ターゲットが逃げた!!」

●夜・『バー・ビューティヘアー』
 息を切らせながら、シャルロットは店に駆け込んだ。本日二軒目にしようと思っていた『バー・ビューティヘアー』。美髪のバーテンが多いので、程よく飲んでから、髪を愛でようと思っていたのだ。
「キーンさんの雇った傭兵さん‥まったく、油断できないですわ‥」

 その時。
「けひゃひゃひゃ、君がシャルロット君だね〜」
 紅茶を飲むドクター・ウェストに、スポットライトが当たる。店員に、事前に演出を頼んでおいたのだ。
「お嬢様。どうぞこちらへ。美味しいお酒を用意致しております」
 にこやかに声をかけながら近づく、メイド姿の角田。

「!! ここにも傭兵さんが〜!!」
 素早く身を翻すシャルロット。
「我が輩の知覚からは、そうそう逃げられないね〜!」
 ドクターの目が光り、電波増幅で知覚強化。
 同時に、入り口に見張り組から連絡を受けた瓜生達と、見張り組の海薙たちが現れた。
「‥‥流石に逃げられませんわ〜」
 がっくりとシャルロットは肩を落とした。

「お嬢さん、一緒に飲み直しません?」
「え?」
 ビィの言葉に、驚いて顔を上げるシャルロット。
「あなたの身の安全を確保した事を、ミスター・キーンに連絡しました。それから、今夜はどうか、何も考えずに楽しませてあげて欲しいという事も‥。私たちが一緒ならば、帰るのは明朝でも許すそうですわ」
 面々は優しく頷く。
「ミッション、コンプリートですね♪」
 嬉しそうに海薙が言った。

●その後・『バー・ビューティヘアー』
 未成年の能力者達は、ソフトドリンクを頼み、大人達は各々好きな酒を楽しんだ。
 ドクターのみ、アルコールが苦手な為、紅茶を飲み続ける。
 飲み始めて約30分。
 礼儀正しく、素直でおっとりとした可愛いお嬢様‥‥だった、シャルロットの様子が変化して来た。
「は‥は‥」
「どうしたの、お姉ちゃん、大丈夫?」
 突然息遣いが荒くなってきたシャルロットの顔を海薙が心配そうに覗き込む。
「は‥は‥‥はううううう〜〜〜ん!!!」
 がばっとシャルロットは海薙に抱きついた。
「きゃ‥‥」
「か、か、かわい〜っ!!」
 叫びながら、海薙の頭を触りまくるシャルロット。
「この髪、光の加減で色が変わるのね! あふ〜ん、素敵〜!」
 シャルロットの巨乳に顔が埋まり、海薙は苦しそうにもがいた。
「ちょっと、お嬢様‥‥」
 呆れ顔で止めに入った角田は、たちまち押し倒された。
「あああーーーっ! この髪もステキ!! なんで今まで気づかなかったのかしら〜〜!!」
 他の女性達も次々にシャルロットに揉まれ、愛でられてゆく。

「あーあ、またスイッチが入ってるよ。今日は、ターゲットが他にたくさんいて、よかったな」
 美髪のバーテン達が、シャルロットの視界に入らないようにしながら呟いている。
「た、ターゲットはお嬢様の方じゃなかったのお〜?!」
 香倶夜が思わず叫んだ。一般人相手に能力を使う訳にもいかず、優秀な傭兵達もされるがままである。

 そんな香倶夜に、更なる災難が襲いかかった。
 顔面に、いきなり吹きかけられた液体。
「ぶほ! こ、これはアルコール!?」
 他人事のように騒ぎを眺めながら紅茶を飲んでいた筈のドクターが、間違えて紅茶カクテルを口にしてしまったのだ。
 カクテルを香倶夜の顔に噴き出した後、ドクターの顔はすぐに真っ赤になる。微量のアルコールでも、すぐに酩酊状態になる体質らしい。
「お、お前は我が妹、フリーディア!」
 酔ったドクターの目には、居並ぶ女性能力者たちとシャルロットが、大きくぶれながらも、亡き妹の姿に見えてくる。
「フリーディア〜、何で死んでしまったのだよ〜」
 抱きついて来たドクターを、シャルロットは同じように赤い顔で、しっかりと胸に抱き留めた。
「辛い思いをなさったのですわね‥‥この綺麗な髪の色も、その辛い経験から‥‥」
 慰めながらも、ドクターの髪をいじり回すシャルロットと、妹の名を呼びながらシャルロットの胸で眠ってしまうドクター。
 夜は、ゆっくりと更けてゆく‥‥。