タイトル:兄の願いマスター:青峰輝楽

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2007/12/27 02:10

●オープニング本文


 ひとはとふたばは、生まれた日時と両親を共有していた。
 つまり、双生児だった。
 兄のひとはと妹のふたばは、生まれ落ちた時からずっと、いっしょだった。
 ひとはが、ふたばを庇って死んだ、あの日までは。

 仕事が忙しい両親は、子供達を顧みる事は殆どなく、二人は物心つく以前から、某市郊外の広い邸宅で、必要な事以外滅多に喋らない家政婦と、指示を押しつけるばかりで何の言い分も聞こうとしない世話係と共に過ごしてきた。
 幼い頃は、ひたすら互いを庇い合いながら成長したふたりだったが、就学して外の世界を知ってからは、ふたばは徐々に社会に適応し、友達にも恵まれ、街もバグアの襲撃を受ける事もなく、時折ニュースに怯えつつも、普通の学生生活を送っていた。
 一方ひとはは、小学校でいじめに遭い、不登校となり、幼い頃と同様に、ふたばだけに心を開き、自宅から滅多に出る事もないままに過ごしていた。

 そんな二人が高校生の年齢に達したある日、遂に街はバグアの襲来を受けた。
 郊外の一軒家である二人の家には避難勧告が届かず、何の準備もないまま、キメラを目の当たりにした。
 家政婦は、街の噂を聞いた時点で逃げ、知らずに残っていた世話係は、愚かにも能力者気取りでキメラに立ち向かい、惨殺された。
 人ほどもあろう昆虫型のキメラが、鋭い爪でふたばに襲いかかった時、ひとはは、躊躇うことなく、その身を妹と怪物の間に投げ出した。


「ひとは、しっかりして!」
瀕死の兄に、泣き縋るふたば。病院の一室である。
逃げ遅れた者がいるという情報を得て駆けつけてくれた兵士のおかげで、兄妹はここにいる。その助けがなければ、今頃は二人とも、瓦礫の下で冷たくなっていた筈だ。
「‥‥ふたば、無事だった?」
うっすらと目を開けたひとはだったが、その視線は定まらず、妹の貌に焦点を合わせる事も、もう出来なかった。それでも、彼は、最後の力を振り絞って、妹に頼みたい事があった。
「ふたば‥‥」


 数日後、ふたばは、UPCを訪れた。
「キメラに破壊された私の家へ行って、取ってきて欲しいものがあるんです。兄が大切にしていた箱です。中身は、私にさえ、教えてくれなかった。でも、それをバグアに奪われない事が、兄の最後の願い。どうかお願いします」
 彼女の父親は言った。
「どうせ、子供の小遣いで買ったようなものだ。そんな事に金など出さんぞ!」
 ふたばは、口座の貯金をすべておろしてきたが、大した額にはならず、肩を落とした。

●参加者一覧

稲葉 徹二(ga0163
17歳・♂・FT
雪野 氷冥(ga0216
20歳・♀・AA
陽気な復讐者(ga1406
20歳・♀・FT
流々河 るる子(ga2914
25歳・♀・FT
佐間・優(ga2974
23歳・♀・GP
寿 源次(ga3427
30歳・♂・ST
アルヴァイム(ga5051
28歳・♂・ER
クールマ・A・如月(ga5055
20歳・♀・BM

●リプレイ本文

●出発前
 稲葉 徹二(ga0163)と寿 源次(ga3427)は、父親と共にラスト・ホープのホテルに滞在しているふたばの元を訪れていた。母親は、離れられない仕事があるという事で、息子の葬儀にちらりと顔を出しただけで、慌ただしく出て行ってしまっている。
 訪れたのは、家屋の構造や襲ってきたキメラの特徴を聞き出す為である。
 ふたばは、生まれ育った家の事については、ひとつひとつの部屋が広く、片付いていた事、階段横は1階から3階までの吹き抜けになっている事など、悲しげな微笑を浮かべながら懐かしそうに詳細に語ったが、キメラの話になると、恐怖の記憶が甦る為か、顔を強張らせ、暫し口をつぐんだ。
「辛いだろうが、思い出してくれないか。ひとは君の想いが詰まった箱を守る為に協力を頼みたい」
 寿が淡々と、だがどこか優しさを含ませた口調で彼女を励ましたが、同席したふたばの父親は、苛々した口調で言った。
「もういいだろう! あんた達はプロだろう? こんな子供を問い詰めてる暇があったら、さっさと頼まれた事をやりたまえ!」
「自分達はふたば君の依頼で来ている。貴方にとやかく言われる筋合いも無い」
 寿が無表情に応えると、ふたばは彼を制して言った。
「お父様、時間をとってすみません。能力者さん、私、大丈夫です。キメラの特徴‥‥」
 ふたばは、しっかりした口調で応じた。
「大人は餓鬼の尊敬に値する物であって欲しくあります。常に」
 稲葉は、父親から目をそらし、小さく呟いた。

●家屋周辺
「自分の貯金まで全部おろしてきて仕事を頼むたぁ、健気だねぇ。ま、例え額が少なかろうが報酬が貰えるんならキッチリ仕事はこなす。それが傭兵ってもんさ」
 そう言って、流々河 るる子(ga2914)は笑った。
「‥‥ひとはが大事にしてた物が何なのかを知りたい。ただそれだけのために我は舞台に上がる。好奇心、というものか」
 誰に向かってともなく、陽気な復讐者(ga1406)は呟いた。
 アルヴァイム(ga5051)とクールマ・A・如月(ga5055)、寿は、半壊したふたば邸から充分に距離をとり、双眼鏡で周辺を偵察する。
「ええっと‥‥外にはキメラの気配はないようですね‥‥」
「見える限り、回収物のある3階付近には、キメラの姿はないようです。いるとしたら、邸内を徘徊しているのでしょう」
 報告に、能力者達は作戦を練る。
「俺が囮としていったん中に入って、キメラの気を引く。敵に見つかって、追いかけてきたら、瞬天速を使って一気に建物の外へ飛び出すから、皆で一気に打ち倒そうぜ」
 佐間・優(ga2974)の提案に、皆は頷く。疾風の闘姫と呼ばれる彼女なら、囮役も案ぜずに任せられるだろう。

●屋外での戦闘
 佐間は玄関の扉を開けた。少し歪んだ扉は、無理に開くと周囲の壁に亀裂が走り、大きな音を立てたが、囮なのでこれは丁度よい。
 玄関の床は大理石張りで、佐野が歩くたび、かつんと音がする。靴のままあがり、埃にまみれた高級そうなカーペットを踏んで廊下を進み、リビングの扉を開けると‥‥目の前にキメラがいた!
「出たな!」
 事前の情報通り、人間ほどもあろう巨大なトンボのキメラ。かさかさと音を立て、複眼が佐間を捉える。かなり気持ちの悪い大きさだが、情報を得ていたので、慌てる事もない。佐間は迷わず、瞬天速で表へ引く。
 構えた能力者たちの前に、三体のトンボ型キメラが佐間に続いて現れた!
 練成治療ができる寿が声をあげた。
「遠慮なく怪我してくれ。限度はあるがな」
 飛行するキメラの情報があったので、能力者達は飛び道具を装備している。
 陽気な復讐者は、剣の柄にキスをし、飛来したキメラに、ハンドガンで弾を撃ち込む。
 弾は急所に命中し、キメラは地に落ちた。
「あははははは!! 蟲のわりには良く踊るじゃないか!」
 稲葉、アルヴァイム、流々河は、残る敵をスコーピオンで撃ち落す。
 落ちてもがくキメラに、如月がとどめの一撃を加えた。

●邸内
 ほんの少し前まで人が生活していたというのに、崩れ落ちた壁や天井の瓦礫が至る所に散らばり、家は最早廃墟の態を示していた。
 それでも、造りや装飾から、この家がいわゆる豪邸であった事は、誰の目にも明らかである。
 2階の応接間で、繊細なフォルムを思わせながら砕けた美術品を、残念そうに眺めながら、寿が言った。
「ハム持ってるけど。キメラにハムを投げ、気を引けるかな」
「いや、トンボよ? ハムは食べないんじゃない?」
 流々河が当然の突っ込みを入れる。
「無駄口叩いてる暇はねえぜ」
 佐間が会話を断ち切るように言った。吹き抜け部から突如、一体のキメラが能力者たちの方へ突っ込んできたのだ。
 キメラの体当たりにより、アルヴァイムが負傷する。寿がすぐに治療を施す。
 陽気な復讐者と流々河は、3階の遺品が破損する事を恐れ、飛び道具を使わず直接攻撃を試みるが、キメラが素早い為、なかなか攻撃が当たらない。
 稲葉は、階段を駆け上がり、階段上からキメラに銃弾を浴びせた。羽に被弾したキメラが、バランスを崩し落ちかけた所に、佐間が一気に距離を詰め、床に叩きつける。
「これで全部片付いたようだ」

 3階に上がった能力者たちは、ひとはの部屋の扉を開けた。
 この部屋は、たまたまキメラの破壊を免れたようで、崩れる事もなく、きちんと片付いていた。
 広いウォークインクロゼットの中に、目標物を発見。
 事前に決めておいた運搬役の如月・稲葉・流々河が、慎重に木箱を抱え上げる。
 ずっしりと腕に重みがかかり、中で、がらり、と金属と金属がぶつかるような音がする。
「箱の中身は何だろね」
 と流々河。
「我も早く知りたい」
 復讐者も同意した。

 運搬役を残った者が護衛したが、新たなキメラの出現はなく、無事に荷物を依頼人の元へ届ける事ができた。
 如月は安堵の笑みを浮かべ、覚醒により破けた服を着替え、気に入りの煙草に火をつけた。

●ふたばへ
 錠を壊してもらった後、能力者たちと父親が立ち会う中、ふたばは木箱の蓋を開けた。
 中に入っていたのは‥‥多数の武器だった。
 錆び付いて使い物にならない物が多いが、きちんと手入れされ、厚い布に包まれているものもある。
 驚きの色を隠せない能力者たち。
「これは、いったいどういう事でありますか?」
 と稲葉。
「あ、SES搭載のものもあります」
 とアルヴァイム。

 そんな中、ふたばは突然、感極まった声をあげた。
「ひとは、ひとは‥‥!」
 ふたばが見ているのは、木箱の蓋の裏側だ。そこには、彫刻刀で、こう記されていた。
『ふたばを、まもる』

「‥‥ひとはさんは、能力者になりたかったんですね。ふたばさんを守る為に」
 如月がぽつりと呟いた。
「しかし、どうやってこれだけのものを集めたんだ?」
 寿が当然の疑問を口にする。その疑問に、涙を拭いながらふたばが答えた。
「最近は繋がりにくくなっていましたが、以前からひとはは、インターネットで色々なやりとりをしていたようです。学校にも行かずに一日中部屋に籠もっている事が多かったので、そういう方面から何か収入を得ていたのかも知れません」
「一般人の少年が、よくもまあ、これだけ。ひとは君には、この方面の才能があったんだろうね。いいものは、きちんと手入れしてある」
 流々河が感心したように言った。
「ひとはは、適性検査を受けて、適性がないと知り、随分落ち込んでいました‥‥」
 ふたばが悲しげに言った。

「この中で、使えそうなものを、どうか皆様、お持ち帰り下さい」
 ふたばが唐突に言った。
「しかし、大切な遺品ではないのか」
 復讐者の問いに、ふたばは首を振った。
「私が持っていても、何の役にも立ちません。それより、皆様がバグアを倒すことに、少しでも役立てて下さるなら、それが何よりひとはの喜ぶ事の筈。価値のあるものではないかも知れないけど、ひとはの思いの詰まったもの、バグアに奪われる事だけは避けたいと、ひとはが願ったもの。どうか‥‥」
 だがその時、それまで口を閉ざしていた父親が、ふたばの言葉を遮った。
「待て、ふたば。まずは、これを鑑定士に見せて、価値を判断してからだ。値打ち物があるかも知れん。それは、安々とくれてやれるものじゃないぞ。この、錆びているようなものは、好きにすればいいが」
「お父様、そんな失礼なこと。価値のあるものこそ、この方たちに役立てて頂きたいです」
 思わずふたばはそう言っていた。これまで、父親に逆らうような言葉など一切口にしなかった娘の台詞に、父親の顔が怒りに染まる。
「なんだと! 子供のくせに、親に逆らうのか!」
 父親の手が、ふたばの頬を打った。倒れるふたば。更に振り上げた父親の手を、寿が掴む。
「今更親のつもりですか。その面の皮ならば、キメラの攻撃とて防げるでしょう」
「何を‥‥」
寿は、生まれて初めて父親に逆らい、呆然として座り込んでいるふたばに声をかけた。
「ふたば君。君は立てる筈だ。彼の想いと共に」
「身を呈して大切な人を守る。ひとはさんの想いと行いは、決して無駄ではないと信じます」
 如月も、重ねて言う。
 ふたばは頷き、立ち上がった。
 能力者たちの射すくめるような視線を一身に受け、さすがに父親はばつが悪くなったらしく、
「勝手にしろ! そんながらくた!」
 と吐き捨て、荒々しく部屋を出て行った。
「ありがとう‥‥皆さん」
 ふたばはアルヴァイムの手を借り、立ち上がった。
「本当は、私自身が、能力者になって、ひとはの敵をうちたい。でも、私も、適性がないんです。‥‥悔しい。だから、せめて、皆さんに‥‥」
「なあ。俺もあんたと同じで、双子の兄弟をバグアに殺された」
 突然の佐間の告白に、一同は軽い驚きの視線を彼女に集中する。
「あんたの気持ち、ちっとはわかるつもりだ。だが、俺みてえに恨みを持ったまま成長しないで欲しいと思う。寂しいだけだからな」
 そんな事は、兄貴も望んでなかった筈だ、と佐間が付け加えると、ふたばは深く頷いた。
「そうですね。恨みではなく‥‥私のような悲しみを抱く人がいなくなるように、その為に、皆様、どうかバグアを倒して下さい。私も、私に出来る事をやってみるつもりです」
 ふたばは頭を下げた。
 能力者たちは、それぞれの言葉で彼女を励まし、遺品はそのままに、室を後にした。
 ふたばの未来が力強いものである事を信じながら。