タイトル:【薔薇】過去からの贈物マスター:碧風凛音

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/06/05 14:07

●オープニング本文


「エヴァンシスさん、宅配便です」
「はい」
 何気なくその荷物を受け取ったローザ・ギネ・エヴァンシスは差出人の名前を見て、驚きのあまり荷物を落とした。
 ディエンティス・デ・リオン。
 死んだはずの彼女の恋人。
 それが今頃になって、なぜ?
 よく見ると日時が書いてあった。荷物が発送されたのは何ヶ月も前だ。そして今日届けるように指定されている。
「あの、この荷物は一体? 何ヶ月も前の荷物がなぜ今日届くように指定されてるのですか?」
 ローザは宅配便の男性に尋ねる。
「さぁ‥‥なんでも、特例とかなんとか。普通なら長期間の荷物の保存はやってないんですが、私も確認したところ送り主の方はうちの大株主だそうでして‥‥」
 株主だから日時を指定した特別な宅配便が送れたのだろうか?
 それはともかく、彼女は荷物を受け取って恐る恐るダンボールを開封する。
 そこに入っていたのは一枚のDVDと彼岸花をモチーフにしたブローチ。そして四枚のトランプ。そして銀行のカードが一枚と株券。
 トランプの絵柄はハートのA、10、7、3。
 なんだろう。
 意味がわからない。
 とにかくDVDを再生してみる。すると、そこには生前のジラソール(筆名)の姿があった。
「やあ、僕の愛しい薔薇。誕生日おめでとう。この動画が再生されている頃には僕はもうこの世にいないだろう。
 だから、ちょっと株主の特権を使って無理をさせてもらった」
 そう、今日5/27はローザの誕生日だった。
「ジラソール‥‥」
 ローザはすでに涙ぐんでいた。
「これらは君への誕生日プレゼントだ。僕からの最後のプレゼントになる。ぜひ受け取って欲しい。
 銀行のカードの暗証番号は君の誕生日だ。それから、僕は基本的に照れ屋でね‥‥トランプとブローチには僕の気持ちを込めさせてもらった。
 まあ、また君は遠回しなんだと怒るだろうがね。これが僕の性分だ。仕方がない。
 もし、僕がいなくなったあと君が困っていなければいいなと思って、私の持ち株も送らせてもらった。勿論、君に贈るための手続きも全部終わっているから、安心して受け取ってほしい。
 もう、僕にはこんなことくらいしか出来ないが、許しておくれ。
 できれば、君と一緒に道を歩み続けたかったが、それは無理だからね。
 それじゃあ、僕の愛しい薔薇、君が美しく大輪の花を咲かせることを祈っている」
 そこで映像は途切れた。
「ジラソール‥‥こんな、こんなものいらないのに。貴方と一緒に生きていけた方が幸せだったのに‥‥」
 ローザの涙は決壊した堤防のようにあとからあとから溢れてくる。
 そして、やがて泣き止んだ彼女は、ULTにひとつの依頼を出した。
 死んだ恋人が過去から送り届けたトランプとブローチの謎をとくこと。
「彼岸花の花言葉‥‥なんだったかしら?」
 ローザも、彼岸花の花言葉がジラソールの込めた思いであることくらいは見抜いている。
 ただ、忘れてしまったのだ。3つか4つくらいあったはずなのだが‥‥

●参加者一覧

ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416
20歳・♂・FT
終夜・朔(ga9003
10歳・♀・ER
レイン・シュトラウド(ga9279
15歳・♂・SN
柳凪 蓮夢(gb8883
21歳・♂・EP
神翠 ルコク(gb9335
21歳・♀・DF
夢守 ルキア(gb9436
15歳・♀・SF
希崎 十夜(gb9800
19歳・♂・PN
アクセル・ランパード(gc0052
18歳・♂・HD
樹・籐子(gc0214
29歳・♀・GD
四十万 碧  (gc3359
22歳・♂・SN

●リプレイ本文

 人の思いと言うものは、死してもなお生き続けるものなのだろうか?
 それならば、彼の思いは、私に届いている思いは、今も生き続けているのだろうか?
 であるならば、彼は、私の中ではまだ死んでいないのかもしれない。
 これは私の逃避だろうか?
 でも、私は思いたくないのだ。ジラソールが死んだと。

 5/27 Rosa Ginnue Evansis


●彼岸花
「ジラソールは‥‥何と言うか、ロマンチストだったんだな」
 ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416)はブローチと4枚のトランプを見つめ微笑する。
「それよりもほら、そこでかわいいお姫様が出番を待ってるぜ」
 前回の依頼でのことが恥ずかしいのか、物陰に隠れながらもじもじとしている終夜・朔(ga9003)。
「まあ、朔さん。こんにちわ」
 ローザがそう言うとトテトテと歩いていって、静かに抱きつく。
「うにゅ‥‥ローザさんなの」
「はい、ローザですよ」
「えっとね、彼岸花の花言葉を並べて意味を考えていくと
 私が「想うのはあなた一人」、自分の死が「悲しい思い出」でも時が過ぎたいつか「また会う日を楽しみに」しています。
 だから其の時にまた笑って会えるように笑って下さい。
 ってなるの。これがきっと、ジラソールさんのメッセージなの」
「そうですか‥‥やっぱり遠回しが好きな人ね、あの人は」
「僕達は、寒い時はこの花の根を齧り生き伸びました‥‥強い命や、生かしてくれる糧。見えなくとも共にある、『相思花』
 君がいたからこうして生きて来れた、見えなくとも傍にいる。そんな意味もあるのではと‥‥」
 神翠 ルコク(gb9335)がそうつぶやいた。過酷な環境で生きてきたからこそ話せる言葉。それはローザの胸に響いた。
「推理小説はよく読みますけど、実際に謎解きするのは初めてです」
 レイン・シュトラウド(ga9279)が4枚のトランプをあれこれ並べ替えながら話す。
「分かりそうですか?」
「難しいですね‥‥」
 ローザの問にレインはそう答える。
「これがあるといいかな?」
 柳凪 蓮夢(gb8883)がそう言って鏡を持ってくる。
 蓮夢はなにか謎に気がついたようだ。
「なんですか、これは?」
「ん? 見ての通り鏡さ。でも、これがヒントだ」
「なるほど! わかった、ような‥‥わからないような‥‥」
 レインはそれがヒントで鏡に映ったトランプを見て答えがわかったようだったが、あくまでもローザに気付かせようと分からない振りをする。
「トランプにメッセージを込めるかぁ‥‥いーかも、誕生日まで毎日文字の書いたプレゼントを贈るトカ
 繋げれば言葉になりますよーってさ‥‥でも、冷たいかもしれないケド死者は生者に何も出来ない、生者も死者に何もできないように
 失っても私はこんなものかって思うから、ちょっと羨ましいかも、ホンキって感じでさ」
 夢守 ルキア(gb9436)がそう呟くと希崎 十夜(gb9800)が
「‥‥どうしよう、なんか良いセンは行ってた見たいだけど、答えが解らなかった」
 と呟く。
「語呂合わせとかも、可能性はありますか。ハートのAの解釈が鍵かもしれない‥‥
 ハートは愛、他の数字の読み方と組み合わせて文章ができたりしないかな。でも安直すぎるね」
 四十万 碧(gc3359)がずれた方向の解釈をする。
 トランプのリドルはそれほどまでに難しかっただろうか?
「手紙ですか‥‥ジラソールさんは一体幾つまで先を見据えてたんでしょう?
 あの依頼が無ければ、この場に俺は居ないでしょうが‥‥生きてる内に一度お会いしたかったですね‥‥
 彼の生き方は、色んな意味で目標です。
 ――但し、生き抜いてこそ、ですが」
 そう言ってアクセル・ランパード(gc0052)は悲しそうな顔のローザを見る。
 自らの誕生日だというのに、それをよろこぶという雰囲気はない。
「時限仕掛けの贈り物と、そりゃあ、びっくりするわよね。そして謎掛けの数々にはお姉ちゃん思わず頭抱えるわね‥‥
 自称都市戦闘コーディネーターだから、そっち方面なら自信有るけど、純粋な謎解きにはね‥‥
 当事者のローザちゃんの方がもっとなのだけれど、まあ、頭が良いプロデューサーが揃って方向性を示してる事だし
 そちらでは脳筋のお姉ちゃんとしては乗っかってみるわよね。うん」
 そう言って樹・籐子(gc0214)は笑う。
「びっくりしましたわ‥‥ジラソールは本当にどれだけ先を見ていたのでしょうか?
 でも、先を見通せる目があるなら、手術をして欲しかった。私のそばにいて欲しかった‥‥そう思えてなりません」
「ローザちゃん‥‥」
 籐子はそう呟くとローザを抱きしめる。
「彼の思いは生きているさ。ローザちゃんと一緒にね」
「そう‥‥ですね。私も、彼が死んだとは思えないのです」
 アクセルと蓮夢がアイコンタクトをする。
(「これはいけない」)
「ローザ、私の目を見て‥‥そうだ」
 蓮夢が暗示の技術を応用してローザの心理状態を誘導する。
「ジラソールは死んだ。それは事実だ。でも、彼の死を悼むだけではいけない。逃避をすることもいけない。
 事実は事実として厳粛に受け止め、彼の気高き生きざまを称えるんだ‥‥」
「ジラソールは、死んだ‥‥」
「そうだ。ジラソールは死んだんだ。朔姫が言ったでしょう
 私が「想うのはあなた一人」、自分の死が「悲しい思い出」でも時が過ぎたいつか「また会う日を楽しみに」しています。
 だから其の時にまた笑って会えるように笑って下さい。って。
 ジラソールは死んだのです。ジラソールは死んだのです。でも、彼のために、彼のために、貴方は生き続けなければならない」
 蓮夢の言葉をアクセルが受け継ぐ。
「俺たちが集まったとき、ローザさんはこういいましたよね
 『ジラソール音楽事務所のモットー、それは人々に共感される、人の心に響く音楽を届け、人々の癒しとなることです。
 皆さんは未来に向かってまかれる希望の種。人々の心に希望の花を咲かせてください』
 こう言いましたよね。
 そして我々はシャンリークィ、向日葵です。向日葵とは、常に太陽を見ているものです。
 俺たちの太陽は、ローザさん、貴方なんですよ。
 その太陽が曇っていたら、その太陽が陰っていたら、俺たちだって萎れてしまいます」
 二人の言葉を聞いて、ローザの顔が歪んだ。ポツリ、と涙がこぼれ両手で顔を覆う。
「ああ、私は、私は‥‥いつの間にかまた歌を忘れたカナリヤになっていたのですね。
 あの時、決意したはずなのに。ジラソールの思いを受け継いで生きていくと決意したはずなのに」
「ローザさんが悲しいと朔も悲しいの。でも、ローザさんが思い出してくれたから嬉しいの」
 朔が笑顔で猫耳をパタパタとさせる。
 ローザが朔の頭をなでる。
「皆さん、ありがとうございます。私は一時の感情に流され道を間違えるところでした。
 今この晴れた空の続くどこかで、涙の雨が降っています。私たちの仕事は、そこに虹の架け橋を作ること、そうでしたね?」
「そうだよ、ローザちゃん。あたしは歌をスイスの妹まで届けること、それが目標だけど、その道中に笑顔の花を咲かせるのも悪かないと思ってるさ」
 籐子がローザの頭を胸に抱く。
 ローザが手を籐子の背中に回す。すすり泣きをするローザ。そのローザの頭をなでる籐子。
「‥‥少し頭を休めたらどうだい?」
 ホアキンが小休止を提案する。
 そして、3、A、10、7の絵柄を6面全部に描いたシガーボックスでジャグリングを披露する。
 絵柄を上下さかさまにしたりあべこべにしてみせたり‥‥
 そして、ある絵柄になったときローザが叫んだ。
「まって! 止めて!」
 そこには、7、10、A、3が逆さまになって並んでいた。
「これって、これってもしかして‥‥ジラソールのメッセージって」

●LOVE
 L そして10の1を隠してO Aが逆さまになってV 3がE
「LOVE‥‥」
 ローザが呆然とする。その意味は
「愛しています‥‥」
「正解です。ボク達の口から言うのも、無粋ですからね。気付いていただけるのを待ってました」
 レインがそう言って笑う。
「皆に注いだ紅茶に反射した数字で気がつきました。
 「7=L」「0=O(オー)」「A≒V」「3=E」ハートは文字通り、ラブハートですね」
 アクセルもそう言って笑う。
「本当に、遠回りが好きな人‥‥」
 ローザも笑う。
「天の岩戸が、開きましたね」
 碧がそう言って笑う。
「アマノイワト?」
 ローザが尋ねると、碧は短く解説した。
 日本という島国に神様がいた頃、太陽の神様が機嫌を損ねて天岩戸と言う洞窟に隠れて扉を塞いでしまわれた。
 そのため太陽が空から隠れ、作物は枯れ、魑魅魍魎が跋扈し、人々は大変に困ったと言う。
 そこで神様たちが一計を案じて天の岩戸を開き太陽の神様を連れ戻した。
 そして平和が戻ったと言う。
「そんな言い伝えがあるのです。ローザさんの笑顔は太陽。太陽がやっと戻りました」
「まあ‥‥」
 そんなことを話しながらローザがジラソールのメッセージを噛み締めている隙に、一人、また一人と傭兵たちは部屋から抜け出していった。

●秘密のこと
 レインは厨房に入ると鶏を揚げてチキンバスケットを作り、海鮮のマリネを作り、サンドイッチを作り、大皿に山盛りのパスタを作る。
 蓮夢は常に入力状態になったトランシーバーをこっそりと隠して別の部屋に移動すると、
 受信状態のトランシーバーを持って注意をしながら部屋の飾り付けを始めた。
 ルコクは朔と一緒にまんじゅうを作る。巨大な桃まんに小さな桃まんを沢山、子宝まん。とにかく沢山だ。
(「ローザ君を母として、沢山の笑顔が広がっていくように。笑顔の為なら頑張れます」)
 ルコクはそう思いながら一生懸命まんじゅうを作っていった。
 十夜も料理を作る。
「一人暮らしも長いので、料理の腕はそれなりにあるつもりです。
 えぇ、その辺は外見通り‥‥不満ですが、料理やお菓子作りは得意だったり、しちゃうんですよ、ねぇ」
 そう言って遠い眼をする。

「そういえば、トランプでも占いができるんですよ。タロットの大アルカナの他に、トランプの小アルカナと言うのがありまして、いろいろと占えます。
 ローザさん、ひとつ占ってみませんか?」
「なにを、ですか?」
「ジラソールさんの遺志をです」
 アクセルがそう言うと、朔が<瞬天速>でキッチンから戻ってきた。途中で汚れたエプロンを脱ぎ捨てながら。
「朔が占うの♪」
 そう言って鮮やかな手つきでトランプを切っていく。
 覚醒していなくても能力者は能力者。実に器用なものだ。
 そして、朔が取り出したのはハートのA、10、7、3だった。
「まあ‥‥こんな偶然って」
 ジラソールが遺したカードと同じ。そして朔はその意味を読み上げる。
 ハートの其々が示すのは、Aは家庭の平和、幸福な結婚、順調な恋愛、出発。
 3は感情的はダメ、無理せずに努力すれば成果も出る。7は慌てずに地に足をつけて物事に当りなさい。
 10は幸福のカード、平和な家庭、素直な子供達に恵まれます。
「つまり?」
「自分の事にいつまでも囚われる事無く前に進んで欲しい、
 其の中で例え悲しみの中に在っても無理をせず其れに惑わされる事も無く進む事ができたなら、
 必ず幸せを手に入れる事ができます、幸せになって下さい、あなたの幸せを私は望みますって、ジラソールさんが言ってるのかも‥‥」
「朔さん、カードに細工したでしょう? でもいいわ。それがジラソールの遺したメッセージ。私はそれを大切にしながら生きていきます」
「うんなの!」
 朔は猫耳をピコピコさせて頷く。
「そう言えば、みんなはどこにいったのかしら?」
 ローザがそう言うとホアキンが
「開けてびっくりなんとやら、だ。もう少しここで待っていてくれないかな?」
 と言う。
「そうですか‥‥わかりました。では、待つことにします」
 そして待つこと30分漂ってくる良い香りとともに蓮夢がローザを呼びに現れた。
「お待たせしました。こちらの部屋へどうぞ、お嬢様」
 蓮夢がローザの手を取ってエスコートする。
 蓮夢の恋人が見たら卒倒モノだろうが。

●誕生日
 そこは色とりどりに飾り付けられた部屋で、色とりどりの皿に色とりどりの料理が並んでいた。
 そしてジュースとビールとワイン。
「これ‥‥は?」
「ローザさん、自分の誕生日忘れていませんか?」
 戸惑うローザに碧が言う。
「あっ‥‥」
 そう、ローザは誕生日を迎えたのだ。
 そして碧は一輪の花を取り出す。
 紫色のルピナス。
「花言葉は、「あなたは私の安らぎ、いつも幸せ」ですよ」
 碧はそう言って照れる。
「ありがとうございます」
 籐子が花を差し出した。
 エーデルワイス。
「花言葉は「尊い記憶」よ。ジラソールとの記憶を大切にね、ローザちゃん」
「はい。私は、彼との記憶は一生忘れないでしょう」
 アクセルが花を差し伸べる。
 デルフィニウム。
「花言葉は「貴方は幸福を振りまく‥‥つまり、幸せになった周囲もあなたに幸福を振りまくってことです」
 アクセルはそう言って頬をかいた。
「ありがとうございます。私も、幸せです」
 十夜が一輪の花を差し出す。
 スイートピー。
「花言葉は、「優しい思い出」です。思い出を大切に‥‥」
「ええ、思い出は、人の生きる糧。大切にします」
 ルキアが一輪の花を取り出す。
 青い薔薇(ブルームーン)
「花言葉は‥‥‥‥忘れちゃった♪」
 広がる笑い。
 ローザの顔にも笑顔が満ちる。そしてそれを見てさらに笑顔になる能力者達。
 ローザはまさに太陽だった。
 ルコクが花を差し出す。
 蒲公英。
「大地に芽吹く緑、強く咲いて旅をするのだと思います、人も」
 蒲公英とは、タンポポ。ジラソールの本名ディエンティス・デ・リオンでありダンデライオンとも呼ばれる。
 ちなみに、花言葉は「真心の愛」。
 ローザならば言わなくても通じるだろう。ルコクはそう考えてあえて花言葉を言わなかった。
「ああ‥‥ジラソール‥‥」
 蓮夢が花を贈る。
 紫蘭。
「花言葉は「変わらぬ愛」と「お互い忘れないように」と言う二つの意味がある。私にも恋人がいるが、いつかこの花を贈りたいね」
「ふふっ‥‥贈れるといいですね。がんばってください」
 レインがひとひらの花を送る。
 スズラン。
「花言葉は、「幸福の訪れ」です。ローザさんにたくさんの幸せがとどきますように‥‥」
「ありがとうございます。常々感じます。皆に愛されている我が身はなんと幸福なのだろうと‥‥」
 朔が二本の花を差し出す。
 カーネーションと、白薔薇。
「カーネーションがお母さんのローザさん、白薔薇がお父さんのジラソールさんなの。
 朔は記憶が戻るまで、二人のことを本当の両親のように思うようにしたいの」
「ええ、いいですよ。ジラソールも、こんなかわいい子どもがいたら喜ぶでしょう」
 ホアキンが鮮やかな花を取り出した。
 アイスランドポピー。
「俺も花は色々と贈ってきたな‥‥ただ一人の誰よりも愛しい人に。
 花言葉は、「慰め、いたわり、陽気で優しい、思いやり」だな。気の利いた事は言えんが‥‥まあ、誕生日おめでとう」
「ありがとうございます。ホアキンさんのような方に愛されるのは、素敵なことでしょうね。その方は御健在ですか?」
「ああ。元気だよ。風のような人だ」
 そう話すホアキンは照れているようだった。
「そうですか。それは何よりです。皆さん、私のためにこのような沢山の花、ありがとうございます。大切に飾りたいと思います」
 そう言うとローザは花瓶に色とりどりの花を挿した。
「What are lady made of?
 hope and love,
 And everything nice.
(レディは何で出来ている? 希望と愛。素敵なコトがら)」
 ルキアが即興で歌う。マザー・グースの替え歌だ。
「素敵‥‥なの」
 朔が猫耳をパタパタさせる。
「いいねえ‥‥」
 ホアキンが感心する。
 そして当のローザといえば
「‥‥希望、愛、素敵な事柄」
 なにかインスピレーションを得たようであった。
 そして、アクセルが大見得をきって話しだす。
「さて、失礼とは思いましたが、ジラソールさんの遺影を借りてきました。
 ゴホン。レディース&ジェントルメン!
 今宵は妖精の気まぐれか、将又祝福か、少し早い「真夏の夜の夢」
 特別ゲストにジラソール氏を招いております」
 アクセルはそう言うと、ジラソールの遺影を置いてある席の隣にローザを案内する。
「まずはシャンリークィのメンバーによりますソング・メドレーです。
 ジラソールさんの思いは、ローザさんの元で実り、俺達という形で種になってる所を2人に見せたいと思います。
 イッツ、ショータイム」
 ホアキンがハープで伴奏をして、朔が天使の歌声で歌う。
 レインがソプラノで朗々と歌い上げる。
 蓮夢がハーモニカで伴奏する。美しい音だった。
 ルコクがソプラノの美声を響かせる。
 ルキアがアルトで渋く歌い上げる。
 籐子がアコースティックギターを弾きながら張りのある声で歌い上げる。

 『笑顔』、『Blaze Dash』、『軌跡』、『我・敬・慕(わたしはあなたをしたっています/ウォ・ジン・ムー)』の4曲を歌い終えると、ローザは微笑みながら拍手をした。
「嗚呼‥‥ジラソール、種は確かに実っているわ。皆さん、ありがとうございます」
 そう言って頭を下げたローザの髪には、向日葵の髪飾りが光っていた。
 そんな中、碧は必死にメモ用紙と格闘していた。そして「できた!」と叫ぶ。
「なにができたの?」
 籐子が訪ねる。
「ジラソールさんのメッセージを詩にしてみました。作曲までは出来ませんので、朗読してみたいと思います」
 そう言うと碧は詩の朗読を始めた。

   天から贈られた 彼のメッセージ
   時を超えて 巡り逢えた軌跡を
   もう一度 奇跡に変えるから

   愛する一人の女性のために
   僕は 何が出来るのだろう
   神に赦された わずかな時間を
   静かな情熱で 暖めて

   彼岸花をあしらった ブローチは これからの僕さ
   いつでも 傍にいるから

   笑ってよ 君の笑顔が
   僕のいた証の 全てだから
   笑ってよ 君の涙は
   悲しすぎるから

   四枚のトランプへ 未来の祈りをこめた
   君の心に 届くと信じて

   笑ってよ 君の笑顔は
   僕を救う希望の 全てだから
   笑ってよ 君の瞳に
   光り宿るから

 一礼。
 ローザの瞳には涙が宿っていた。
「私も、お礼をしなければなりませんね。即興で作った歌ですが、聞いてください」

   春が来て 希望の種が巻かれれば
   風渡る夏の空に 愛の雨が降る
   秋が来て 笑顔の果実が刈られれば
   絶望の冬にも 光を灯すでしょう

   絶望は希望に 悲しみは笑顔に 闇は光に変えてみせましょう
   打ちひしがれる人の手に この手を差し伸べて
   ともに林檎を植えましょう
   明日のために 未来の為に

   溢れる涙は 真珠の滴
   溢れる笑顔は 咲き誇る薔薇
   世界は醜いけれど かくも美しいもの
   忘れることなく 歌いましょう
   子等のために 夢の為に

 ローザはアカペラで歌い上げると、一礼した。向日葵の髪飾りが揺れる。

 拍手は、無い。
 能力者達がどんな心境だったのか、それを知る術はローザにはない。
 だが、自分の思いを込めた歌を歌い上げたと言うことだけは確かだった。
 AメロもBメロもサビも関係のない音楽作法を無視した歌ではあったが、これが今の彼女のすべてだった。

「さあ、パーティーを始めましょ? お姉ちゃんは友達にミルフィーユとシュークリームを作ってもらったんだ。みんなで食べよう?」
 籐子がそう言って場の雰囲気を変える。
「そう言えばお腹がすきましたね」
 碧がそう言ってパスタを口にする。
「俺のベーグルも食べてくださいね」
 アクセルがそう言って皿に取り分ける。
「ちょっと余興があるので、皿を持ったままで良いんで庭に来てください」
 十夜がそう言うとルキアと目配せをした。
 そして一同が何事かと問ながらもそれをあしらって庭に出る。
 そうすると十夜とルキアは互いの右足と左足を結んで、凧を背負った。
 そして全力で走り出す。
 しばらくすると、凧があがる。その凧には垂れ幕がついていてHappy Birthday! と書かれてあった。
 やがて庭の端まで到達して走るのを止める。凧がゆっくりと落ちた。
 ローザは、拍手をしていた。
 他のものも拍手をしている。
「俺、不器用なんで、少しでも楽しんでもらえたらなって思ったんですけど‥‥」
 十夜がそう告げると、ローザは楽しかったですよ、と言った。
 安堵の表情を見せる十夜。
「十夜君、良かったね」
「ああ‥‥」
 ルキアと十夜が肩を抱きながら喜び合う。
「すごいですね」
 ルコクが素直に感心する。
「さて、部屋に戻ろうか。まだ食べたりないんだ」
 蓮夢がそう言って笑いを誘いながら部屋へと戻る。
 そして、レインがキッチンに入っていって何かを取ってくる。
 蓋を開けてみると、それはバースデーケーキだった。
 レインの手作りだった。
「誕生日といったら、やっぱりケーキは外せませんよね?」
「まあ、こんなものまで。ありがとうございます」
 ローザはいたく感激したようで、蝋燭の火を吹き消すのにも力が入っていた。
 そして、全員でハッピーバースデーの歌を歌う。
「おめでとうございますなの」
 朔が改めて誕生日を祝う。
「目出度きことは、良きことかな」
 ホアキンがそう言ってワイングラスを傾けた。
 そして、夜が明けるまで宴会は続いた。
 能力者達は歌ったり騒いだりしながら翌朝を迎えると、つかれて寝おちしたローザの顔を眺めつつ微笑み合うのであった。