タイトル:レッサーファイアマスター:碧風凛音

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/12/17 15:37

●オープニング本文


「こちら第八十七戦車小隊。キメラと遭遇。形状からしてファイアビーストと思われます。至急援護をお願いします」
 これが第八十七戦車小隊長の最後の言葉となった。キメラの口から火の弾が吐き出され、戦車に直撃したのである。突然の出来事に小隊は統率を失い、次々と火に飲まれてゆく。そして味方の部隊が救援に駆けつける前に、第八十七戦車小隊は壊滅したのであった。

「――それでですね、今回はこのファイアビーストの殲滅が任務です。
 彼らは赤い毛皮でライオンの姿をしています。攻撃方法は体当たりと炎の弾丸です。防御力と生命力はそれほど高くありません。それから、ファイアビーストと戦った部隊の報告によると、通常のファイアビーストより肉体能力が劣っているので亜種なのではないかと言うことです。ただし、その分火の弾の威力は強力だそうです。
 この亜種は量産を意図してのものではないかと上層部では分析しています。まだ実験段階らしくそれほど数はいませんが、成果を上げれば当然量産されるでしょうし、成果を上げつつあります。いくら肉体能力が弱体化しているとはいえ、能力者でない人間にとっては十分に驚異です。バグアがこのキメラの量産を開始する前に叩いてください。よろしくお願いします」

●参加者一覧

火絵 楓(gb0095
20歳・♀・DF
篠崎 宗也(gb3875
20歳・♂・AA
フィリア・IS(gb3907
13歳・♀・DF
エミル・アティット(gb3948
21歳・♀・PN
佐渡川 歩(gb4026
17歳・♂・ER
土御門・姫命子(gb4042
19歳・♀・ST
織那 夢(gb4073
12歳・♀・GP
エル・デイビッド(gb4145
17歳・♂・DG

●リプレイ本文

●ゴーストタウン
 能力者一行が現地にたどり着くと、そこは佐渡川 歩(gb4026)が出発前に聞いていたとおりのゴーストタウンで、廃墟や廃ビル、破壊された自動車や戦車の残骸が散乱する地獄のような場所だった。至る所で瓦礫が崩れており、歩むが事前に貰った地図はあまり役に立たないように思えた。
「戦車小隊壊滅って‥‥戦車もったいない‥‥」
 そんな惨状を見て、織那 夢(gb4073)が思わずそう呟く。
「戦車と一緒に、中の兵士も死んでる。兵士を訓練するのにも彼らの給料以上の金がかかっているし、それはすべて地球と市民を守るためだ。確かに戦車はもったいないが、人の命もそう軽くはない」
 フィリア・IS(gb3907)その呟きに無感情に答える。確か兵士の訓練の費用だけでも彼らの生涯に貰う給料以上に経費がかかると、何かの本で読んだ記憶があったからだ。夢はそれに何かを返すわけでもなく、戦場の状況を確認していた。
「じゃあ、事前の打ち合わせどおり私は高いところに行くわ‥‥」
 近場の安全そうなビルに向かって夢が歩いていく。
「あ、あの‥‥事前に聞いた話だとキメラは6匹だそうです」
 歩が夢を見ながら――と言っても厚底眼鏡で視線は隠しているが――言った。
「ありがとう‥‥」
 夢はそう返事をして立ち去っていった。
「あはは、きみ、そう固くなるな、だぜ。まぁ大丈夫だから気楽にいこうぜ。みんなで戦えば何とかなる、だぜ」
 エミル・アティット(gb3948)が歩の肩を叩きながら励ますように言う。だが、彼女は知らない。歩が女性に免疫が無くて緊張していることを。
「あ、はい。大丈夫です」
 歩がそう答えるが、やはり視線や表情は眼鏡に遮られてわからない。
「そういえば、楓さんがいらっしゃいませんねえ‥‥」
 白衣のお嬢様こと土御門・姫命子(gb4042)がおっとりとした様子で言う。出発前は一緒だった火絵 楓(gb0095)が見あたらないのだ。と、そこへ戦場には不似合いな鳥の着ぐるみがやってきた。
「ゴメンネ〜。遅れちゃって。あはははは」
 着ぐるみが笑う。
「あの、その声は楓さんですか?」
 姫命子の質問に、着ぐるみが頷く。
「うんうん。やっぱり囮は派手に行かないとね」
 どうやらその着ぐるみは楓らしい。よく見るとローラーブレードを履いていた。
「凄い格好だね。ライオンさんをおびき出せるなら何でも良いけどね。まあ、俺もAU―KVを着るんだし、目立つと言えば目立つかな?」
 エル・デイビッド(gb4145)がバイク形態のAU―KVにまたがりながら言う。囮になるには生身よりアーマー形態が良いと判断してのことだろうか?
「まー、そうだな。それよりそろそろ迎撃ポイントに入ろうぜ。俺は、あそこらへんがいいと思うんだが」
 篠崎 宗也(gb3875)が車の残骸が積み上がった場所を指して言う。
「そうですね、私もそこでいいと思います」
 姫命子が賛同する。そしてそれを無線で夢に伝えた。
「了解。こちらからも見えているわ」
 無線越しに夢の声が聞こえてくる。どうやらビルの屋上に到着したらしい。
「じゃあ、私たちはあちらに‥‥」
 フィリアが廃墟になったハンバーガーショップを示す。ブラインドが一部降りていて隠れるのにも様子を見るのにも都合が良さそうだ。
 歩もエミルも異議はなかったのでそれに同意した。
「ほいじゃ、私達はライオンさんを探してきますか」
 着ぐるみ‥‥楓がそう言うと、エルが賛同する。そして二人は歩から貰った地図を参考に、バイクに二人乗りで移動し始めた。

●レッサーファイア
「ライオンさんはっけーん」
 1kmほど移動したところでエルがキメラを発見する。歩から聞いたとおり、6匹、赤い毛皮のライオン型キメラが迷い込んだらしい野生動物を補食していた。
「無線は‥‥通じないね」
 無線の通信距離は500mほどしかない。これからしばらく、二人だけでキメラを相手にする必要がある。
「うまくこっちきてくれるかな?」
 エルはそう言うとハンドガンをキメラに向けて発射する。それはキメラに命中はしなかったが、注意をひくには十分だった。キメラが大きく吠える。獅子の咆哮だ。
「仔猫ちゃんごあんなぁ〜い」
 楓は派手に動き回ると、急に向きを変えて走り始めた。逃げるものを追いかける習性でもあるのだろうか、キメラは楓を追い始める。その間にエルもAU−KVを装着し、走り始める。追いかける獅子と逃げる竜と鳥。何ともシュールな光景だが、逃げる方は必死である。
「うーん。ちょっとまずいかな。竜の翼を使う!」
 追いつかれそうになったエルは、竜の翼を使ってキメラたちを引き離す。
「速さは強さ‥‥追いつけるものなら追いついてみろ‥‥って、誘い込むんだったね、うん」
 と言うことでさらにハンドガンを撃って挑発する。エルはこの一連の追いかけっこで気がついたことがある。炎の弾の射程はハンドガンのそれより短い。
 一方楓はキメラの吐く炎の弾をすれすれで躱すと、「ちょ‥‥まった〜〜〜〜燃え〜る〜〜〜〜〜」などと叫びつつ物陰に隠れ、着ぐるみを脱いでジャケット姿になる。そして再びキメラたちの前に現れ、逃走を開始した。そしてそれが夢の視界に入る。
「キメラ発見。ポイントは‥‥」
 キメラの現在位置を無線で伝えると、夢はきびすを返して階段を下り始めた。来る方向さえわかっていれば、あとは囮の二人の無線連絡で十分だろう。
「ライオンさんご案内! ショウ・タイムだよ!」
 そしてエルからの無線連絡が入る。
「了解!」
 迎撃班のメンバーが答える。
 そして楓とエルが誘き出したキメラ――レッサーファイアが迎撃ポイントへとやってくる。
「お? うまく言ったか‥‥じゃぁ、ここからはあたしたちの出番だぜ」
 キメラの姿を迎撃ポイントから視認してエミルが気合いを入れる。
 夢も迎撃ポイントに合流し、歩と姫命子が自分の班の前衛二人に練成強化をかける。
「皆さん、キメラを倒してください! 私と佐渡川さんがサポートします!」
 姫命子が叫ぶ。自分の実力は熟知しているようだ。あくまでもサポートに徹するらしい。
そして楓とエルが宗也たちが待機しているポイントを通り過ぎ、キメラがそれを追いかける。
「今です!」
 姫命子が夢と宗也にサインを出す。宗也がエミタを活性化させ武器にエネルギーを送り込み、さらに素早くキメラの側面に回り込む。注意してみると宗也の首が激しく輝いているのが見えたかもしれない。
「一刀両断だ!! オラァッ!!!!」
 キメラは躱そうとするがその動きについて行けなかった。それは宗也の言葉の通り見事にキメラを真っ二つにする。
「Luna battle preparations start Limiter cancellation」
 夢は覚醒すると背中と両手に翼を生やし、目にもとまらぬ早さでキメラとの間合いを詰め、さらに視認することが不可能な速度で、たて続けに両手の剣がキメラを襲う。そしてそれはキメラの首を切り落とし、一瞬でキメラを絶命させる。そして炎の弾の攻撃に備え、遠くの障害物まで移動し、そこに隠れた。
 仲間の死に怒ったキメラは、近くにいる宗也に体当たりを仕掛ける。
「ぐはっ!」
 それは宗也に直撃し弾き飛ばす。宗也はビルの壁に背中をしたたかにぶつけると、一瞬呼吸ができなくなって咳き込んだ。
 そしてもう一匹のキメラが彼に炎の弾を放つ。しかしそれは放った距離が遠かったため軌道がずれてビルの壁を破壊するだけにとどまった。可燃物がなかったのか、ビルが燃えることはなかった。
 宗也は立ち上がって体勢を整えると、全身の細胞に練力を流し込んで活性化させ、傷を治療する。
 残りのキメラは逃げ続けるエルと楓を追いかけて、フィリア達が隠れているポイントまで誘き出された。
 エミルがそのキメラに一気に接近し奇襲をかける。
「これでもくらえぇ!! お前らなんかに容赦はしないんだぜ!」
 両手のツメでキメラに攻撃を仕掛ける様はまさに野獣そのもの。彼女のキメラに対する怒りが見てとれる。その攻撃はキメラに大きなダメージを与えるが、倒すまでには至らなかった。
「初の作戦か‥‥父さんも母さんもバグアに殺されて数年‥‥奴らを倒す為にひたすら鍛えてきた‥‥やっと、戦えるのか。やってみせるさ‥‥徹底的にな!」
 フィリアはキメラに近づくと両手持ちの大剣でエミルが攻撃したキメラを叩き切る。
「見たか! これが私の力だ!」
 積年の恨み、憎しみを解き放つかのようにフィリアが叫ぶ。
 楓とエルは囮の役目を終えて反転し、キメラへと向かっていた。が、楓がローラーブレードにかけるバランスを間違えたのか転倒した。
「あ痛いたた‥‥ごめん。足挫いたみたい。先行ってて」
 そうエルに告げると、エルは楓を置いてキメラに向かっていった。しかし、エルが一度振り返ったときには、楓の姿は何処へか消えていた。
 そしてエルがキメラに向かってハンドガンを撃つ。それは違うことなくキメラに命中するが、キメラのフィールドを貫けなかった。そしてキメラが反撃に炎の弾を撃ってくるが、それはエルに届く前に消えた。
(「よし、やっぱり射程外だね」)
 エルはそれを確認すると竜の翼で一気に接近し、さらに踏み込んでから練力を全身に流して知覚力を上げ、機械剣でキメラを切り裂く。超濃縮レーザーで両断されたキメラがそれ以上動くことはなかった。と、突然ビルの二階の割れた窓から高笑いが響く。
「ははははっははははっははははははっはははあああはは‥‥」
 息切れしたようだ。
「何だ!? って‥‥」
 歩が声のした方向を見上げ、絶句する。蝶の仮面と赤マントをつけた見るからに怪しい人物がそこにはいた。
「とぅ!」
 怪人は飛び降りると、大きな銃でキメラに威嚇射撃をする。それに対してキメラが炎の弾を吐き出が、怪人はそれを余裕で躱すと、さらに銃を撃って威嚇をし、くるりと背を向けて走り出す。その行動にキメラは怒りを感じたのか咆哮し、怪人を追いかける。
「この者は私が引き受けた!」
 怪人はそう叫ぶとキメラをしばらく引きつけ、急に反転して前に出る。そしてゼロ距離での射撃。2発の銃弾がキメラの頭に吸い込まれ、破裂する。キメラはその場で倒れ痙攣をしていたが、やがてそれも治まった。
「コレも一握りの希望の為だ、チャオ」
 怪人は能力者達の前に戻ってくると、「紳士並びに淑女諸君。また会うことがあればそれでは!」と言いすてて、どこかへと消え去っていった。
「‥‥あれって」
 歩が呆然と見送る。と、最後のキメラがいつの間にか歩達を炎の弾の射程内に収めていた。
「まずい、来る!」
 慌てて戦車の残骸の陰に隠れる。
「フィリアさん、エミルさん!」
 だが前衛の二人は前に出すぎていて遮蔽物がなかった。そして炎の弾がフィリアを襲う。
「駄目だっ! 避けられない!!」
 思わず剣で炎の弾を防ごうとするが炎の弾は剣ごとフィリアを包み込んだ。
「ぐうぅぅぅぅっ!」
 衣服が燃え上がるが、慌てて転がり回り火を消す。それでも受けたダメージは相当のものだ。
「フィリアさん!」
 歩が駆け出し、フィリアの元にたどり着く。すぐに傷の状態を見て――鼻血を出した。服が破けて所々露出していたからだ。しかしそんな場合ではないと歩は考え、眼鏡の中で視線を動かして肌を見ないようにしながら、フィリアに対して練成治療を行う。
「すまない‥‥」
 フィリア自身も練力を体内に巡らせ、細胞を活性化させる。
「よくもフィリアを! 絶対に許さないんだぜ!」
 エミルが脚力を強化して一気にキメラに近づくと、両手の爪を振るう。
 一回――
 二回――
 その攻撃はキメラの息を止めてもなおも続いた。
 三回――
 そして、最後のキメラが倒れると、姫命子が駆けつけてきて、歩と一緒に練成治療を行う。そして――
 どこからともなく楓が現れて、足を庇う様子を見せながら歩いてくる。砂やら泥やら埃やらにまみれている。
「ゴメンネ〜脚挫いちゃってさ〜ゴメン本当にゴメン!」
 楓はそう謝ると、お詫びにと飲み物を差し出す。
「さっきの怪人って‥‥」
 歩が姫命子に小声で言うと、彼女は「知らないふりをした方がいいと思いますよ‥‥」と同じく小声で返す。他のメンバーも知らないふりをしているようで、誰も怪人のことや遅れてやってきた楓のことを質問しないが、明らかにバレバレであった。

●戦闘終了
 戦闘終了後、エルが不敵な笑みを浮かべながら、「‥‥フフフ‥‥いいな‥‥これが‥‥勝ち取るって感覚か‥‥」と呟いた。
 過去、監禁に近い生活を送っていたせいで何もかもが初めてだった。戦闘が初めてであれば勝利というものも初めてである。
「やっぱり我慢するのは難しいな‥‥」
 宗也は、何に対する怒りなのか、ともかくそれを我慢できなかったことに悩んでいるようだった。
 そして能力者達はすべてのキメラの死体を確認して数が確実に6匹であることを確かめると、高速移動艇が待っている街の外まで急いだ。
 そしてラスト・ホープへと戻りながら、救急箱やスキルを使って負傷した者の傷を回復させる。おかげで練力はほぼつきたが、怪我は治った。特に大きなダメージを受けたフィリスも回復し、ラスト・ホープにつく頃には元気になっていた。
 こうして、参加者の大半にとっての、初めての実戦が幕を閉じたのであった。