●リプレイ本文
●集いし薔薇たち
「ローザさんなのー。ぎゅ♪」
終夜・朔(
ga9003)が猫耳をパタパタさせながらローザに抱きつく。
「お久しぶりです、朔さん。それから、皆さんも‥‥はじめましての人には自己紹介をしますね。
ジラソール音楽事務所の社長の、ローザ・ギネ・エヴァンシスです。よろしくお願いします」
そう言ったローザの頭には向日葵の髪飾りが光っていた。
「シャンリークィのレインです。皆さん、今回はよろしくお願いします」
そう挨拶したのはレイン・シュトラウド(
ga9279)。
「合宿先の手配はできてる。あとは現地に行くだけだ」
プロデューサーの柳凪 蓮夢(
gb8883)が郊外の別荘地を合宿所替わりに手配しておいた。
それから、20人乗りのマイクロバスも用意してある。
「アンケート用紙を配るから好きな食べ物とアレルギーの有るものを書いておいてくれ。
あと、料理を作る人は何を作るかもね。買出しの都合もあるから‥‥」
そう言って蓮夢はアンケート用紙を配る。
そして皆がバスに乗り込んでアンケートを書いている間に、蓮夢はバスを発進させた。
ローザが今回の依頼の原曲を改めてバスの中で歌う。
「何だか、心の温かくなる詩ですよね」
そう呟きながら神翠 ルコク(
gb9335)が思い出すのは、守れなかった集落の義父母と子供達。
彼女は故郷の小さな集落をバグアに襲われ、天涯孤独の身となった。
今の時代では珍しいことではない。だが、それでも故郷や家族というものは特別だろう。
「返詩や返歌は昔作りましたが‥‥昔とはまた違った気持ちです。
言葉を繋ぎ合わせていた昔から、今度は皆の心を通わせたい」
「そうだな。俺もできることは全力でやるぜ」
紅蓮(
gb9407)がルコクに応える。
「演奏、絶対成功させよう!」
CHAOS(
gb9428)が意気込んで、家から持ってきたヴァイオリンを取り出し、ローザの歌に合わせる。
「そうだね。私は、夢守 ルキア(
gb9436)。よろしくね、CHAOS君」
「えーっと‥‥何か思ってたよりも大所帯になりましたね。まあ、これも何かの縁、全員面倒見ましょう!」
もう一人のプロデューサーのアクセル・ランパード(
gc0052)がローテローゼとレッドローズを皆に配りながら言う。
「お、アクセル君、なかなか洒落たものを配っているね。それじゃあ私も」
そう言ってルキアがパン! と手を合わせる。
「はーい、手からお菓子が出てきたり」
そして手品でお菓子を取り出す。
「お約束として旗も出てくるけど」
小さな万国旗がするすると出てくる。
「わーい、お菓子なの」
朔がよろこんでそれを受け取る。
「お姉ちゃんにもちょうだいね〜」
樹・籐子(
gc0214)がそう言ってお菓子を受け取る。
「うん。やっぱり甘いものはいいわねえ〜。あ、お姉ちゃんの芸名はウェステリア=ピークスだから、よろしくね」
「ちなみに私はリベリオン、だよ」
そう言ってルキアがラナ・ヴェクサー(
gc1748)にお菓子を渡す。
「ありがとうございます。アクセル君、普段兵舎等でお世話になっているから、今回は私も頑張らせて貰いますよ」
ついでにアクセルからも薔薇を受け取る。
「宜しくお願いしますね」
アクセルも短く返す。ラナのことは信頼しているようだ。
「はい、リリナ(
gc2236)にもお菓子。どうぞ」
「えと、ルキアありがとうございます。セラ(
gc2672)さんももらうといいのです」
リリナが友人のセラにも菓子を勧める。
「ありがとう♪」
「いえいえ」
「楽器か‥‥何年ぶりに触るだろうな‥‥まぁ、いいか」
赤月 腕(
gc2839)が抹茶のシュークリームを食べながら話を聞いている。
「こちらはお菓子はいらないかな?」
ルキアがそう尋ねると
「いや、一応もらっておこう‥‥」
と答えてお菓子を受け取る。
四十万 碧(
gc3359)は揺れる車内だというのに詩集を読んでいた。
「はい、お菓子。つかれた頭にも甘いものがいいんだよ」
「あ、ありがとうございます」
碧はチョコレートを受け取るとそれを口に含んだ。
そんなころ、バスがようやく別荘地へ到着した。
「よし、着いたぞ」
蓮夢がそう言って半ば眠りかけていた者たちを揺り起こす。
「ここが合宿所ですか。すごいですね‥‥」
もともと富裕層向けの別荘地。碧の驚きももっともである。
アクセルと蓮夢が先頭を切って歩いていく。
そこにあるのは築100年は経過しているであろう、古びてはいるが手入れはしっかりと行き届いている別荘だった。
●トレーニング!
「さて、ここはとある音楽家の別荘だった場所でね、二階が寝室、一階に各種設備、地下にスタジオがある。トレーニングの方は地下でやるとして、まずは寝室の部屋割りを決めないとな。部屋割りに関しては、親睦を図る目的も兼ねて簡単なゲームで決めるってのはどうだろう?」
「だけど人数が多いぜ。ゲームだけでかなりの時間をくっちまいそうだ」
腕がそう言うと、蓮夢は「ふむ‥‥」と頷いた。
「そうですね。たしかこの別荘は20部屋はあるはずですから、部屋に余裕はあると思いますよ」
ローザが助け舟を出す。
「じゃあ、各自自由に使うと言うことでいいでしょうか?」
「だったら俺は階段近くの部屋を使わせてもらうぜ」
アクセルがローザの言葉を受け継ぐと紅蓮がそう言って荷物を持って二階に上がっていく。
「僕は奥の部屋がいいですね。姫さま、宜しければ一緒に寝ませんか?」
「うん」
ルコクの言葉に朔は頷いて二人で部屋に上がっていく。
そして彼らは自由に部屋を決めると、部屋で着替えを行い地下のスタジオに集合した。
「ローザさん、トレーニングを始める前に歌詞を決めた方がいいと思うんだがどうだろう?」
蓮夢の問にローザは頷く。
「ローザさんの詩はどちらかと言うと、母親に送る感謝の詩みたいですね。
‥‥自分たちの実母だけではなく、シャンリークィの母としてローザさんを母親役に
子供をシャンリークィと置き換えてみるのも面白いかもですね。
‥‥そうするとジラソールさん‥‥いえ、事務所が父なんでしょうねぇ‥‥」
アクセルがそう言ってしんみりする。
「私はローザ君を母親役にしたいかな。
だって、母親トカわかんないもん―――何も浮かばないし。
幸せなコトだけじゃないよね、感謝だけじゃない。
葛藤とか、痛いコトも沢山ある。
それを盛り込むコトで深みがでないかなぁ?」
ルキアも孤児であり母親とかそういうもののことはよく分からないらしい。
だが、だからといって彼女の何が劣ると言うわけでもないが。
「う〜ん‥‥むずかしいことはわかんないけど‥‥
お花とか空を連想したかな。
それも都会じゃなくて自然のなかのを。
あと、白いワンピース着てた♪」
セラがそう言って微笑む。
「向日葵、熱愛や一途な思いを抱く花‥‥真っ直ぐに咲いていく花を盛り込めないでしょうか?
花は散って、また芽吹いて、続いていく。
幼い頃の僕達自身になる事も入れてもいいと思うのですが。
――先に皆さんの解釈を集めた方がいいですね!」
ルコクがそう言うとレインが
「ボクは空と向日葵と太陽、あとは風を連想しました。
ボクらはまだまだ草花でいえば、芽吹いたばかりの新芽に思うんです。
その新芽が成長し、やがて太陽に向かって立派に咲く向日葵のようになっていく‥‥。
そんな感じを盛り込んでみたいです」
と意見を述べる。
「そうだな‥‥結構思い浮かんだかも‥‥
「笑顔」「幸せ」ってのが一番強いかな?
2人は周囲から見れば決して裕福じゃない。
それでも笑顔で支え合って、辛い時には抱きしめあって、愛を交わし合って‥‥
今、此処に居て「幸せ」と感じられる事‥‥それは全部貴方の贈り物。
辛くても生きていきたい。
否、貴方となら辛いことも、笑顔に溢れた思い出に変えられる‥‥
こんな感じかな」
CHAOSがそう述べると蓮夢も
「私が連想したのは‥‥『形無き神秘の力』、『不可視の、包み込むような暖かさ』、『切なさ』、かな?」
と言う。
「私が想起したのは、『海』『雛が飛び立つ瞬間』『祈り』ですかね。
特に多用される『お母さん』『ママ』という単語から、生命の起源である『海』がすぐ出てきたわ。
それとスローテンポな曲だから、「祈り」という単語が湧いたわね。
もっと詩が激しかったりしたら「願い」になっていたかもしれないけど、この詩は凄くソフトだから「祈り」だわ」
ラナがそう言ってうっとりとした表情をする。
「翼を広げ 出た此処に あなたの姿は無いけれど
私は歌う この歌を
あなたがくれた この声で
世界に幸せが 満ちるように
あなたに この歌が 届くように
こんな感じ?
原曲の雰囲気を残して歌の結びな感じをイメージしてみたの。
最後は巣立って離れる事になるけれど、歌い続ける事を
大事なお母さん(ローザさん)に歌をずっと聞いて貰えるようにする事を、願い誓う、そう言う想いの詩なの」
朔が直ぐに詩を思いついて言葉にする。
「母親ね‥‥
思えばお姉ちゃん達のは、最初は性格の不一致で別れて、二人目は事故で先立たれて
苦労してた挙句に後を追ったのだけれど、いつもにこやかに対応してて、不機嫌な顔なんか見なかった。
‥‥そうまるで、この詞の様子みたいに。そういう処をお姉ちゃんが受け継いでいるのだから、まあ、この先も頑張らない、っとね♪」
籐子がそう言って笑う。
「詩は、できたの?」
碧はそう言って纏められたフレーズになりそうな言葉の羅列をひと通り眺める。
「うーん。今までに出てきた言葉をまとめてみたよ。碧君、こんな感じでどう?」
ルキアがまとめたフレーズを碧に渡す。
「うん。いいですね。これをもとに推敲してみましょう。ラナさん、詩と一緒にメロディも考えましょう」
「そうですね。では、碧君と一緒にわたくしは曲を作ります。みなさんはトレーニングに励んでください。
ああ、その前に皆さんの声域を確認したいので、適当に歌っていただけませんか? 出せない音は絶対に入れません」
ラナの言葉にローザのピアノの伴奏で歌唱担当のメンバーが声をあげる。
「‥‥わかりました。ありがとうございます」
「では、ラナさんも楽器のトレーニングがありますから、まずはボーカルレッスンからやりましょう。プロデューサーさんお願いします」
ローザの言葉にアクセルが前に出る。
「それじゃあ、ボーカルレッスンを始めます。リリナさん、CDをお願いします」
「あ、はい‥‥」
アクセルの言葉に、リリナは『笑顔』のカラオケCDをかける。
朔が大きめのジャージ姿で可愛らしく歌っている。
ボイトレ中心に自分の歌声をより質の高いモノにすべく必死に練習していた。
(「朔はこの声を‥‥」)
少しだけ顔に陰りが有るが直ぐに消える。ローザはそれを見かけるが朔が没頭しているために声をかけられなかった。
「朔先輩、この部分はもっと感情をこめて歌い上げた方が良いのでしょうか? それとも、淡々と歌い上げた方が良いのでしょうか?」
「ん‥‥もっと感情を込めた方がいいと思うの」
「分かりました」
レインは朔にアドバイスを受けながら、声の奥行や音域の幅を広げていく。
ルコクは声に透明感を出すための練習をしていた。
ローザもピアノを伴奏しアドバイスをする。
紅蓮も張りのある声を出してトレーニングする。
「CHAOSさん、声が小さいですよ」
アクセルが声が小さいCHAOSに注意をする。
「すみません」
「でも、声質はいいですよ。その質を維持しつつ声を出せるように頑張りましょう」
「はい」
褒めることも忘れない。それがジラソール音楽事務所のプロデューサーだった。
「よく通る声だとは思うケド、安定しないんだよね」
ルキアのテノールは作っている声だから安定させたいと考えていた。
「腹式呼吸は出来るんだケド‥‥場数かな?」
「そんな時は、こうするといいですよ」
ルキアにローザがアドバイスする。
「あ‥‥安定した」
ほんの些細なきっかけで声質は安定する。
「籐子さんはその調子で‥‥オフの間にも勉強したのが生きているね」
蓮夢が籐子に微笑みかける。
「ありがとう〜。お姉ちゃん頑張るよ」
籐子も笑顔で返し声を張り上げる。
「セラさんも頑張るのです」
「はい!」
リリナの言葉にセラが気合を入れる。
コーラスのためにボイストレーニングも行っているからだ。
「さて、そろそろ休憩にしましょうか。水分と糖分を補給してください」
アクセルがそう言って水と飴を配る。
●ダンス&楽器トレーニング
「では、ダンスと楽器のトレーニングを始めましょうか。朔さんとCHAOSさん、リリナさんは蓮夢さんのアンケートの集計結果を持って食料の買出しに行ってきてもらえますか?」
「はいなの!」
「わかりました」
「え、えと、わかりました」
CHAOSが引率をする形で三人は買出しに出かけていった。
その間にダンスと楽器のトレーニングが行われる。
レインは男性役のルキアにリードして貰う形で、ローザとルキアのアドバイスに従い苦手部分の克服を目指す。
「すみません。ボクのせいで何度も練習に付き合わせてしまって‥‥」
「私に委ねて、大丈夫だよ」
低めの声で落ち着かせるようにルキアは言う。社交ダンスとエスコートは得意分野らしい。
「リズムに乗ることが重要だよ」
「はい」
籐子はレオタード姿でダンスレッスンに望む。
「まあ、この歳でも体の線は崩れていないからね」
陶子はそう言ってウィンクをした。
「音楽は、音を楽しむものですよ‥‥口笛だって立派な音楽だわ‥‥」
ラナは『楽しむため』にキーボードを弾いていた。
「さあ、Lets Play。レイン君もそんなに固くならずに音楽に合わせて」
「はい」
ラナのメロディに乗りレインは見事な足さばきを見せる。
セラも【OR】神奏鍵盤【オラトリオ】を弾いてラナのメロディに合わせる。
「セッションですね」
「さあ、楽しもうぜ」
腕がドラムを叩く。
「ひゅう! OK、楽しんでいこう」
紅蓮がギターを奏でる。
「音楽はその演奏している時間だけ、神様になれるんです! 神様は人を裏切っちゃいけない‥‥だから完璧に弾けるよう練習しましょう!」
そう言うとラナは楽器をキーボードからベースギターに持ち替える。
「ベースとドラムは音楽の屋台骨‥‥しっかりやりましょう、赤月君」
「ああ! こんなに楽しいのは久しぶりだぜ!」
それはもはやレッスンの範疇を超えミニLIVEと化していた。
いつの間にか買出しから帰ってきていた朔とCHAOSもメロディに合わせて歌う。
そこに紅蓮と籐子とルキアとレイン、ルコクが声をかぶせる。
籐子はダンスをやめてアコースティックギターを持ち出すと曲にあわせ始める。
ルキアとレインは情熱的に踊り、ルコクは舞の中に一つの世界を作り上げている。
やがて曲が終わると、全員の体に心地いい汗が流れていた。
「ブラボー! いや、素晴らしいね」
蓮夢が拍手をしながら言う。
「そうですね。これなら、本番も大丈夫でしょう」
アクセルが同意する。
「ルキア、素敵でしたです」
リリナが素直な賛辞を送るとルキアは照れたようだった。
「うん。おかげで返詩ができた。詰めが甘いかもしれないけれど、言葉を並べてみたよ」
碧がそう言うと、朔が「見せて!」と言って寄ってきた。
他のメンバーも碧の周りに集まる。
「良い詩ですね」
セラが最初にそういう。
「うん、良い詩なの!」
朔が同意する。
「そうだね‥‥」
蓮夢も同意する。
「ローザさん、どうですか?」
「素晴らしい詩です。ありがとうございます」
碧の問にローザは賛辞で答える。
「みんなの気持ちが、いい詩になったんだ」
碧はそう言ってニカっと笑う。
「そうですね。では、今日のレッスンはここまでにして、夕食を作りましょう」
「じゃあ、朔着替えてくるね」
「お姉ちゃんも着替えてこよう」
朔と籐子がそう言ってスタジオを後にする。他のメンバーも汗をかいたと言うことで着替えに行った。
やがて、朔が階段から降りてくる。メイド服を着ており、非常に可愛らしい。
「似合う?」
「ええ、似合いますよ。とっても可愛らしいわ」
ローザに誉められて朔は猫耳をパタパタさせる。しばらくするとみんなが揃う。
「姫さま、とっても可愛いです!」
ルコクがなにやらとても感動したようで大きく身を乗り出す。
「ありがとうなの」
「さて、それでは料理を作りましょうか」
「畏まりました、御主人さま、なの♪」
朔はメイドになりきると張り切って食材を運んだ。
猫耳をパタパタさせているので覚醒中。体力も有り余っている状態なので一人でほとんど運んでしまっていた。
●お腹いっぱい夢いっぱい
トマトとボンゴレのスパゲティ、フィッシュ&チップス。
担当――レイン。
一言「ボク、料理が趣味なんですよ」
薬膳料理。
担当――蓮夢
一言「まあ、滋養強壮効果の高いものをね」
小龍包と茉莉(ジャスミン)茶
担当――ルコク
一言「茉莉開花(モーリ・カイファ)咲いて、皆さんを和ませられるように」
ちなみにルコクは白に金龍のチャイナ服を着て鈴の髪飾りを付けており、歩く度に心地いい音色が鳴っていた。
スープパスタとフルーツサラダ。
担当――CHAOS
一言「喉越しの良さそうなものを作ってみました」
ハチミツプリン。
担当――セラ
一言「喉にいいものならハチミツかな?」
豚の角煮。
担当――腕。
一言「柑橘アレルギーあるから食えないものもあるぜ」
‥‥相当豪華な食卓となった。
だが、食欲旺盛な傭兵たちの前では多勢に無勢。
会話も弾むが舌包みも弾む。
「お腹いっぱいです」
リリナが満足そうに呟く。
「私もー」
セラが同意する。
「ふう。血糖値が上がったおかげで頭の働きも良くなりました。曲ができましたよ」
ラナはそう言って五線譜に音符を書き込んでいく。そしてそれをローザに手渡していく。
「ん〜、ふ〜、ふ〜♪ なるほど、こうなりましたか。
シャンリークィらしいオリエンタルな曲調に仕上げてくださってありがとうございます。
では、私が編曲しましょう。私にもスコアとペンをください」
ローザはそう言って各パートごとの割り振りを決めていく。
最近は作詞だけではなく、作曲や編曲も自分でやっているローザだった。
アルコールも少し入っているが、ローザは素早く編曲をして行き、他のメンバーは食後の会話を楽しんだ。
そして、食後の後片付けが行われている間もローザは集中して編曲を続け、皆が二階に上がった後も作業をし続けた。
数刻後アクセルが食堂に入ってくると、寝落ちしているローザがいた。
「お疲れ様です、ローザさん。ねおちシールです」
ぺたり。
ねおちシールを貼っていくアクセル。そして自分の上着をローザにかける。
さすがは古くからウェールズで続く騎士の家系というところか‥‥
●合宿終了&収録
そして一週間にわたる合宿が終了し、いよいよ収録の時となった。
まずはプロモーションビデオの撮影となる。
皆衣装を着用し、メイクを施す。
レインは女装。
ナチュラルメイクに黒レースのリボンの髪飾り、黒のワンピース、肘まである黒の長手袋と言う装い。
朔はボーイッシュな感じだがぬいぐるみのクロを抱えている。
ルコクはチャイナ服。
紅蓮は真紅の衣装。
CHAOSはローザの用意した青い衣装。
ルキアは男装。鴉をイメージした黒の長袖長ズボン、裾を割いて羽のようになっている。
籐子はワイシャツとパンツ。
ラナはローザが用意したゴシック・パンクな衣装。
セラもローザが用意した黒いドレス。
腕はローザが用意した黒皮のジャンバー。
それを蓮夢とアクセル、リリナと碧が見守っている。
(「大丈夫。あれだけ練習したんだから、きっとできる!」)
レインはそう意気込んだ。
「楽しく行きましょう」
ラナがレインを励ますように言う。
「はい!」
そしてベースの弦とスタジオの音響設備をしっかりと確認し、ジュースで喉を潤してからラナは本番に挑む。
「頑張ろう‥‥どこかで母さんがこの歌を聞いた時に、俺はここにいるって伝わるぐらいに遠くにも響くぐらいに」
CHAOSはそう決意する。
「さ、行こうか‥‥今は今しかないんだ」
ルキアがそう言って場をしめた。
収録が終わると、朔は一人外に出てクロを抱きしめ、ローザの原曲を口ずさむ。
歌い終えるとぬいぐるみを抱きしめる力を強め
「朔のお母さんってどんな人‥‥」
と、少し悲しげに呟く。
朔も歌う為の、思いを伝える為の天使の歌声を貰い同じ夢を見てる。
でも記憶が無いから母の顔は知らない。
返詩の詩には自分の想いも乗せた。
「お母さん‥‥」
「どうしたの?」
いつの間にかローザが背後に立っていた。
「ローザさん‥‥朔、朔!」
朔はローザにしがみつく。
「前にお兄さんから話は聞いています。朔さんの記憶のことは。
あなたは蕾、ジラソールが父で、私が母です。せめてこの時だけでも、私を母と思ってください」
「うわああああああああああん。お母さん! お母さん!! お母さん!!!」
朔は泣いた。声の続く限り。
そして泣き止んで、しばらくローザに抱きついていた。
ローザは慈しむように朔を抱きしめる。
「なるほど‥‥ね」
「蓮夢さん‥‥」
蓮夢がひとり抜け出した朔を心配してやってきていたのだった。
そして蓮夢は朔とローザの話を聞くと心理操作の技術を応用して朔に適切なカウンセリングを施す。
「‥‥ありがとうなの」
「いやいや、これもプロデューサーたる私の責務だよ。それより、みんなが心配するといけない。中に戻ろう」
「うん」
朔の心にもう悩みは無いようだった。少なくとも、今は無い。
記憶が戻らない限り解決しない悩みだが、蓮夢のカウンセリングは十分に効果を発揮していた。
元気な様子でスタジオに駆けていく。
「ありがとうございます、蓮夢さん」
「いえ、一時的な解決に過ぎないことは私もよくわかっています。
でも、これからマスターの収録もある。皆にはなるべく万全な心理状態で望んで欲しいんですよ」
「そうですね」
ローザと蓮夢はそうやり取りしてスタジオに戻った。
そして収録が終わりローザの家に戻った頃、サンプルのPVが届いた。
ローザ達はそれを居間のテレビで再生する。
『我・敬・慕(わたしはあなたをしたっています/ウォ・ジン・ムー)』
作詞:四十万 碧/シャンリークィ
作曲:ラナ・ヴェクサー
編曲:ローザ・ギネ・エヴァンシス
レインとルキアのダンスから始まる。
広く青い空と太陽が私を包み 風が明日を運んでくれる
見えなくても 傍に感じる 暖かさ
あなたの存在が 私を奮い立たせ
この星に再び 生まれたての 命が芽ぶく
ルコクの舞が魅せる。
あなたの声は私の風 どんな泪も拭ってくれる
あなたの足で その翼で お往きなさい
夢見た世界が遠くても 必ず辿り着けるから
紅蓮と籐子の歌声が、ギターとアコースティックギターが響く。
風叫ぶ 嵐の夜には
「ママと一緒なら怖くないよ」
あなたが不安げにつぶやいた
その言葉に涙 こぼれる
CHAOSのバイオリンが切ない悲鳴をあげる。
ラナのベースが静かに染み入る。
優しい風に誘われ 翼を広げる今
もう少し高く もう少し遠く 諦めず羽ばたくの
セラのキーボードが美しく奏でる。
腕のドラムが情熱的に響く。
ゆっくりと でも前へ進んでゆける
雨の時も 嵐の時も
あなたがいたから 越えていける
レインがソロで歌い上げる。
空へ 太陽を目指して 今飛び立つの
あなたがくれた 祈りと光
虹の欠片を共に探そう
私も飛べる 糧になる
コーラスが響く。
翼を広げ 飛び出た世界に あなたの姿は無いけれど
私は歌う この歌を
あなたがくれた この声で
世界に幸せが 満ちるように
あなたに この歌が 届くように
朔は歌う。顔も名前も知らない母へ届けと。
心の剣(つるぎ) 折れないように
その刀身が錆びぬように
過去と未来を繋ぐ 真実の碑
どこかに無くさないように
歌が終わり、PVはスタッフクレジットを流し出す。
拍手が誰からともなく響く。
「さて、みんな、お疲れ様」
ラナが皆の肩を叩く。
「お疲れさま。おみやげに、これを持っていくといい」
そう言って蓮夢が焼き菓子を配る。
「ローザ、もしよかったら‥‥また皆で演奏しようね」
CHAOSの言葉にローザは笑顔で頷く。
「さて、密かにケーキを用意してございます」
アクセルはそう言って冷蔵庫からケーキを取り出す。
「やった、ケーキなの。お菓子にケーキ、お菓子にケーキ♪」
朔が猫耳をピコピコさせる。
「さて、お姉ちゃんが切り分けるよ」
籐子がそう言ってナイフをキッチンから持ってくる。
「えと、あたしも手伝います」
リリナがそう言って籐子を手伝う。
「私も手伝うよ」
セラも手伝う。
「しかし、楽しかったな」
腕がそう言って一週間を振り返る。
「そうですね」
碧が同意する。
「では、秘蔵のシャンパーニュをお供にしますね。ノンアルコールですから未成年でも大丈夫ですよ」
ローザはそう言って地下のガーヴに降りていく。
そしてケーキと焼き菓子とシャンパーニュで打ち上げが行われ
ローザの家で一晩を過ごした後能力者達はラスト・ホープへと帰っていった。
【薔薇】返詩 了