タイトル:【AA】北阿陽動偵察Aマスター:碧風凛音

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/05/03 05:53

●オープニング本文


「アフリカ、‥‥か」
 ピエトロ・バリウス中将は地図を見ながら独言した。かの地を攻めると言うのは容易い。しかし、その為には幾つかの準備が必要だった。部隊は整いつつある。あと必要な物といえば。
「情報か」
 UPCが叩き出されてから、10年。長きにわたり、バグアに支配されてきたアフリカの情報は余りにも少ない。ゲリラがいるとも言われるが、連絡は取ることが困難だった。
「私の知るかつてのアフリカとは、もう違う土地やもしれん。立案に際して不安が無い、とは言わないがな」
 狙いが奇襲である以上、軽々しい調査でこちらの狙いを知られる事も、慎まねばならない。ピエトロは作戦直前になって初めて、現地の強行偵察を指示した。その結果如何で、北アフリカの一部を占拠するのみに止めるか、内陸まで踏み込むかを彼は決めるつもりだった。
「その為には、足元を固める事も必要だな。無論」
 PN作戦が集結して2年が経つが、いまだに地中海沿岸部では、キメラは珍しい物ではない。時には、ワームすら現れる事がある。点在するバグアの残存戦力は、一部は拠点を擁して立て篭もり、それ以外の多くは巧妙に潜伏していた。それらを可能な限り排除する事が必要なのは言うまでも無い。
「そして、ミカエル」
 トゥーロン沖に座す、彼の切り札はバグアの目にも留まっているだろう。敵の情報は速やかに収集し、こちらの情報は保持する。都合の良い、と笑われそうな事が今回の作戦には必要だった。
「‥‥傭兵には恨まれるだろうな。だが、連中ならばできるはずだ」
 クク、と彼は珍しく笑う。その困難のいずれにも、ラストホープの傭兵達が当てられていたのは、彼の指示による物だった。

「これより作戦を説明する」
 欧州軍の少佐の言葉とともに、室内正面のモニターに光が灯った。
 地中海の広い海図には多数の情報が表示され、
 今回の大規模作戦が如何に大きいかを物語っている。
「君達の任務は、アフリカ大陸北岸の偵察とそれに伴う陽動である」
 朗々と響く言葉に合わせ、画面が移り変わる。
 拡大された海図には現在位置が表示された。
 KVの配備数自体は少ないが、この近辺の部隊から
 様々な形で援護が行われているのが見て取れる。
「陽動班Aに所属する傭兵の管制は、ヨハン・アドラー(gz0199)少佐に行ってもらう。
 以後はそちらの指揮に従え」
『了解!』

「北中央軍少佐ヨハン・アドラーです。では作戦を説明しましょう。
 我々の目的はサルディニア島東部のバグア基地に攻撃を仕掛けて撤退し、その基地から戦力を引き出すことです。
 敵に一撃加えた後に撤退しながら戦闘を続け、戦線を維持し続けながら後退し、機を見て戦場から離脱してください」
 ヨハンはそこで一度言葉を切った。
「質問があれば別途受け付けます。なお、今回はULTオペレーターのグレース・ナカジマ(gz0216)さんが西王母で出撃します。
 補給を受ける際は利用するとよろしいでしょう」

 一方、南米のキメラ闘技場。
「キュアノエイデス(gz0324)様‥‥」
 青い遊牧民風の衣装をまとった青年と話しているのは天使型のキメラ「アズラエル」。羽根がなければ人間の女性にしか見えない。
「なんだ、アズラエル?」
「あのお方より招集命令が届いています。サルディニア島にくるようにと。ゼオン・ジハイド自体に欧州・アフリカ戦線に呼び出しが掛かっているようです」
 アズラエルは表情を変えずにそう告げた。
「なんと、これから南米が面白くなるところだったというのに。だが、あの爺様の呼び出しでは仕方が無いか‥‥そう言えば、人間について調べて幾つかわかったことがある」
 キュアノエイデスは地球での初戦闘で乗機を撃破され、生身で戦闘して数機のKVを撃墜するも重症を負ってしまった。
 それからキュアノエイデスは人間に興味を持ち、人間のことを研究するようになった。
「人間というのは、実に面白い生き物だ。ことに能力者というのは、調べてみれば我らと戦うためだけに生まれてきた存在らしい。
 そして軍という組織、あれも非常に面白い。人間というのは、群れることによって何倍もの力を引き出せるようだ」
 キュアノエイデスは笑う。そして笑いながら一冊の書物を取り出した。表紙には漢字で孫子、と書かれてある。
「我ら個体の力で戦うバグアと違い、人間には用兵術というものが存在する。この孫子なる本には実に面白いことが書いてあった。
 敵を知り、己を知れば百戦危うからず。とな。まずは敵を知ることからはじめようではないか。
 能力者のサンプルも欲しいところだが、そこまで贅沢は言うまい。能力者をヨリシロにしたバグアに協力してもらうことにしよう。
 さてアズラエル、強化タロスを5機、それから強化人間を4人用意しておいてくれ。
 別の書物の言葉だが、獅子搏兎というものがある。いかなる些細なことにも全力でかかれ、という意味らしい。
 私も全力で当たろう。人間に舐められぬようにな‥‥」

●依頼概要
地上からの敵陽動。
判定の目安。どれだけ多くの戦力をどれだけ長期の間釘付けに出来るか。

味方戦力:
西王母×1(グレース・ナカジマ:操縦値50)

敵戦力:(こちらの戦力と作戦の達成度合いにより増減あり)
強化型タロス×4(強化人間)
エースカスタム強化型タロス×1(キュアノエイデス)
中型HW4〜
小型HW10〜

●参加者一覧

新条 拓那(ga1294
27歳・♂・PN
三島玲奈(ga3848
17歳・♀・SN
錦織・長郎(ga8268
35歳・♂・DF
麻宮 光(ga9696
27歳・♂・PN
堺・清四郎(gb3564
24歳・♂・AA
鷲羽・栗花落(gb4249
21歳・♀・PN
鹿島 綾(gb4549
22歳・♀・AA
星月 歩(gb9056
20歳・♀・DF
エイラ・リトヴァク(gb9458
16歳・♀・ER
アクセル・ランパード(gc0052
18歳・♂・HD

●リプレイ本文

●初手
「さて、鬼が出るか蛇が出るか。くっくっく‥‥」
 錦織・長郎(ga8268)が笑う。
 A班として初手の基地攻撃部隊に配置された彼の目に、こちらを発見し、高度を落として接近してくるHWの姿が映る。
「陽動というか実質、威力偵察に近いな。斥候の基本は遭遇戦だ。敵の出方を見て包囲されない様、逐次殲滅が定石だ」
 C班所属の三島玲奈(ga3848)が警告するように言う。
「さあて、祭りの前の前哨戦だ。派手に行くぞ! 一番槍、堺・清四郎(gb3564)が貰った!」
 清四郎はA班の仲間とともに装輪走行で前に出るとアハトアハトで小型HWに対し射撃を行う。
「かかってこいやぁ!!」
 アハトアハトのリロードを行い追撃する。それで目の前のHWは落ちたがさらにその後ろから無数のHWがやってくる。
「いくよ、アジュール!」
 同じA班の鷲羽・栗花落(gb4249)が愛機の名を呼びながら基地に向かってミネルヴァを発射する。
 それは圧倒的な威力を誇り、格納庫の出口を破壊する。爆発がおき炎上するのが見て取れた。
「キュアノエイデス(gz0324)様、格納庫の出口が破壊されました。出撃可能になるまで10分ほどかかります!」
 今まさに敵を見つけて出撃しようとしていたキュアノエイデスが足止めされた。それは傭兵たちにとっては幸運だった。
「まさか基地についた途端にこのようなザマになるとはな‥‥ついていないものだ」
 キュアノエイデスは基地司令に復旧を急ぐように伝えると、待ちきれないと言うようにタロスのところへと向かった。
「ぶっ潰してやるぜぇ、いやヘルヘイムに送るか」
 A班のエイラ・リトヴァク(gb9458)がヘルヘブン750の高速二輪モードで前に出ながらメトロニウムハルバードでHWに斬りかかる。
 長郎がそれを長距離バルカンで支援する。
「助かる!」
 バルカンの砲撃で隙ができたところをハルバードが切り伏せ、小型HWを撃墜する。
 そして栗花落がツングースカで中型HWを狙い撃つ。
 吸い込まれるように命中したそれはHWを破壊し後続のHWの進路を妨害。HW同士が衝突しFFが赤く輝く。
 A班が10分間の持ち時間を使い切った頃、敵基地からHWと5機のタロスが発進してくるのが見えた。

●ゼオン・ジハイド
「用心して行きましょう。――向こうの“動き”も観察させて貰いましょうか!」
 B班のアクセル・ランパード(gc0052)が叫ぶ。
 A班が後退し、B班とC班が両翼に出て半包囲の陣形をとり、敵エースに対応する。
「さて‥‥前回は本気じゃなかっただろうからな‥‥今回は本気で来てもらおうか!」
 B班の麻宮 光(ga9696)がキュアノエイデスにそう告げる。
「無論そのつもりだ!」
 キュアノエイデスからの返信が入る。
 そしてキュアノエイデスは中央突破を図ろうとする。
「中央突破は予測済みだ!」
 清四郎がニヤリと笑う。
 なんのために半包囲陣形をとったと思っているのか。
 キュアノエイデスは罠にかかったのだ。
「ぬおおお!」
 三方向からの射撃を受けてタロスの足が止まる。
「謀ったな、人間め!」
 脆弱な側面からの砲撃にさすがのタロスの回復力も間に合わない。
「おのれ、このような戦い方があるとは! まだまだ人間を舐めていたらしい!」
「まだまだ甘いな、ゼオン・ジハイドさん。西王母、後退してくれ。敵の射程から外れるんだ!」
 敵エースが出てきたことで、補給機である西王母を守るため、新条 拓那(ga1294)は後退を要請する。
「了解!」
 グレース・ナカジマ(gz0216)がそう答えて西王母を後退させる。
 同時にA班もさらに後退し、西王母の直衛を行いつつ補給を受ける。
 A班の後退にあわせ敵がさらに前進すると、B班とC班は敵後方で合流し包囲陣形を敷く。
「補給中の機体を狙うのは定石。だからこそ、やらせはしないさ!」
 C班の鹿島 綾(gb4549)が射撃を行いながら言う。
 背後からの集中攻撃を受けて、敵は次々と破壊されていく。
 と、基地からキュアノエイデスに通信が入る。
「ブースターをつけたKVが数機、アフリカ方面に向けて高速で侵入してきます!」
 それは本命の偵察班の機体だった。
「どういう事だ?」
「奴らは陽動です。謀られました!」
「そういう事。地球には木を見て森を見ずって格言もあるのさ! 悪いけど、今日の俺らの目的は、あんたらの相手じゃないのよね?」
 拓那がそう言いながらニヤリと笑う。
「でも、せっかくだからもう少しダンスの相手をしてくださいね」
 B班の星月 歩(gb9056)が背後から狙い撃ちながらキュアノエイデスに告げる。
 補給を終えたA班が次々に前に出て、包囲の輪を縮める。
 圧力に耐えかねて敵の戦線が崩壊する。
 それを受けてB班とC班は射撃しながら後退。A班と合流する。
 そしてこんどはB班を中心にすえて半包囲陣形を敷き、B班が補給を受ける。
「後退だ! 後退しろ! 陣形を立て直せ!」
 キュアノエイデスが叫ぶ。
 包囲に依る脆弱な部分への集中攻撃でタロスはかなり破壊されており、HWの数もかなり減っている。
 5分間にわたる激しい抵抗の末、キュアノエイデスはどうにか陣形を立て直すことに成功し、数の優位を活かして今度は多角的に攻めてきた。
 それに対し傭兵たちは補給が終わったB班を突出させて凸陣形をとり中央突破を図る。
「戦力を展開すれば包囲はできるけど、その分密度が薄くなるってね!」
 アクセルが光、歩と連携しながらプラズマリボルバーでHWを叩く。
「人間は二千年以上戦い続けてきたんだ! その中で集約され、研究された戦略戦術を舐めないで欲しいね!」
 綾が叫びながらM−12強化型帯電粒子加速砲を発射する。
 拓那と玲奈も綾に合わせて射撃を行い、HWを破壊する。
「複合式ミサイル誘導システム起動、多目的誘導弾連射! 風穴開けるよ。行っけええええええ!」
 栗花落がミサイルを連続発射し、敵の中央部に文字通り穴をあける。
「今だ! 中央突破! 西王母もついてきな」
 エイラが叫んで加速しながら変形、ブーストをかけて敵上空を弾道弾のように突破、減速しながら着陸して再度変形する。
 全員がこれを行い、傭兵たちは一種の変則的な中央突破背面展開を果たす。

●中央突破背面展開
「なっ!」
 キュアノエイデスが驚愕する。
「高機動は、何もバグアの専売特許じゃないぜ!」
 光が吠える。
「人間舐めんなよ、くそったれどもがぁ!」
 清四郎がスラスターライフルを撃ちまくりながら叫ぶ。
 C班が下がり補給を受ける。その間A班とB班が前面に展開しT字陣形のような形になる。
「さて、相手をしていただこうか、クックック‥‥」
 長郎がブースト空戦スタビライザーを起動しながらディフェンダーで切り込む。
 栗花落、エイラ、清四郎がそれに合わせて援護射撃を行う。
「くっ! うわああああああああああ!」
 無防備な背中を攻撃されタロスが一機、落ちた。
 そして第二撃。
 返す刀でもう一体のタロスを切り伏せ援護射撃もあって、これを撃破する。
 さらにもう一機。
 長時間の戦闘で疲れはてていたタロスを落とす。
 そして長郎は余裕を持って離脱する。
 砲火を交わしそれぞれの機体も傷ついてきた頃、偵察班から偵察終了の連絡が入った。
 C班が補給を終え前線に戻ってくると役目を終えた西王母は撤退した。
「逃がすか!」
 キュアノエイデスがこれを追撃しようとするが、全機体からの一斉射撃を受けて撃墜される。
「また、やられたのか‥‥」
 キュアノエイデスは脱出しながらそうつぶやいた。
「そろそろ撤退だな」
 すでに30分以上戦闘を行っている。長郎がそう判断し煙幕銃を発射する。
「それじゃ、ズラかるか‥‥これからが楽しみだぜ」
 去り際、エイラがそうつぶやいた。
 煙で敵が混乱するなか、傭兵たちは変形して離陸、ブーストをかけて一斉に戦線を離脱する。
「次に来るときは偵察じゃなくて本番だね‥‥必ず攻略してみせる!」
 栗花落がそう言って眼下に広がる景色を眺める。

●戦終わって
「ご苦労様でした。機体はすぐに整備に回します。みなさんは休んでください」
 UPC欧州軍基地。
 長時間にわたる戦闘を行った傭兵たちをヨハン・アドラー(gz0199)が労う。
「お兄ちゃんお疲れ様。大丈夫?」
 歩が光に声を掛ける。
「ああ、なんとか‥‥」
 光は疲労を隠せないながらも、なんとかスポーツドリンクを飲みながら休憩室に入る。
「疲れましたねえ‥‥」
 アクセルが汗を拭いながら喋る。
「ああ。今回は敵も手ごわかったからな。各個撃破されずにすんで何よりだ」
 綾がアクセルに答えて今回の戦闘の寸評を下す。
「奴ら妙な知恵を付けていたが、まだそれほどやり難いと言うわけではなかったな。ただ、これ以上やられたらマズそうではあった」
 拓那がそう感想を漏らすと、清四郎が
「奴らもまた進化してるんだろうさ。俺たちみたいにな」
「なんだかんだで長年戦争やってるからねえ‥‥」
 玲奈がそう言って制汗スプレーで体を冷やす。
「お疲れ様、食事の準備ができたみたいよ」
 グレースがそう言って部屋に入ってくると、傭兵たちは戦闘のあとの一服へと足をのばしたのであった。

 了