●リプレイ本文
「お久し振りです。みなさん。またお会いできたことを嬉しく思います」
ジラソール音楽事務所社長、ローザ・ギネ・エヴァンシスが集まったシャンリークィのメンバーにそう言った。
「それから、お仕事に協力して下さる方々、はじめまして。ローザ・ギネ・エヴァンシスです」
「お久し振りですの♪」
終夜・朔(
ga9003)が無意識に覚醒して猫耳をパタパタさせながらローザに抱きつく。
「お久しぶりです。朔さん、お元気そうで何よりです」
「元気ですのー。また皆と一緒できますの♪」
「今回はドラマ機装戦隊ドラグナイツ! とのタイアップの依頼です。シャンリークィが歌うOPテーマの作詞作曲、そして出演者の一人であるサラ・ディデュモイ(gz0210)さんが歌うEDテーマの作詞作曲。そしてそれぞれのPV撮影が、今回のお仕事です」
「ドラグナイツは家族でファンですよ。まさかドラグナイツとタイアップできるなんて、夢にも思いませんでしたよ。これを機に、シャンリークィのことを知っていただけると嬉しいですね」
そう言ったのはレイン・シュトラウド(
ga9279)である。
「待ちに待った大型企画ですね。何より、番組自体がウチの事務所の理念と相性が良い♪ 皆で力を合わせ、希望を与えられるような良い曲を、良い番組にしたいものです」
「そうですね。人々に希望を与える曲。それを多くの人に見てもらえる番組で流せるのは、またとない機会です。皆さん、頑張りましょう」
アクセル・ランパード(
gc0052)の言葉を、ローザが引き継ぐ。
「さあ、色々と計画が順調で、人気番組のOP・ED曲まで行き着くなんて調子が良いじゃないのよね。このままスターダムにのし上がるって良い感じよ。まあ、何れ山あり谷ありにもなるかもしれないし、奢らず謙虚に互いの穴を埋めあって進みましょうね」
樹・籐子(
gc0214)がそう言って皆を勢いづける。
「そうだな。楽しく歌えば良いと思うぜ。そうすりゃリスナーも楽しくなってくれるだろ」
紅蓮(
gb9407)がそれに答え、「僕は皆の笑顔を、幸せを守りたいです、僕自身も含めて」と神翠 ルコク(
gb9335)がいう。ローザに向かって。
「そうですね。それは素晴らしい心がけです。自分自身も含めて幸せになる。その気概がなければ人を幸せにはできません」
それに対してローザはそう答えた。
「それに、誰かの犠牲の上に成り立つ幸せほど悲しいものはありません。頑張って、ルコクさん自信も幸せになってください。昔日本のとある方が仰いました。一人ひとりが幸せでなければ世界中が幸せにならないし世界中が幸せでなければ誰も幸せになれないと。ですから皆さん、自分自身も、周りの人も幸せになれるように、頑張りましょう」
「はい!」
ルコクは元気に返事をする。
「作詞作曲に加えPVの作成、か。頑張らないと、ね」
柳凪 蓮夢(
gb8883)が爽やかな笑顔でそう言う。それに対しローザも頷いた。
「今回も芸名リベリオンで活動するよ。そうそう、みんなにプレゼント。甘いモノは疲れに効くからね」
夢守 ルキア(
gb9436)はそう言って手品でミニショコラを出して皆にプレゼントする。
「まあ、ありがとうございます。私、甘いものは好きなんです」
ローザが嬉しそうにショコラを受け取る。
「アクセル様に応援を頼まれて参加しましたが、ドラグナイツには親戚の男性、私の後見人が出演していたのです。そういった事情で‥‥私もあの番組は好きなのですよ。ですから、少しでも番組や出演者の方々のお役に立てれば嬉しいのです」
美青年の印象を受ける少女、アーシュ・オブライエン(
gb5460)がそう言う。
「ああ、彼の親戚ね。いつもお世話になってるわ。ありがとうって伝えておいて」
サラがそう言ってアーシュに伝言を伝える。
「わかりました」
「やる以上は懸命にやります。みる者が幸せな気持ちになれる様な笑顔を見せたいと思います」
結城悠璃(
gb6689)がそう挨拶すると、ローザは「笑顔は心の太陽です。シャンリークィはその笑顔に向かって咲き誇る花。宜しくお願いしますね」と言った。
そして早速曲作りが始まる。まずアクセルがドラグナイツの放送を改めて見直してまとめた資料を皆に手渡す。それからメンバーが意見を出し合い、プロデューサーのアクセルと蓮夢がまとめる。
「うーん。ここを変えると、2番の発音文字数も変更になりますから、難しいですね」
「じゃあ、これはどうだ?」
プロデューサーの二人は徹夜で歌詞をまとめる。
「うーん。この歌詞だと、このフレーズとこのフレーズの意味が被りませんか?」
悠璃がそう言う。纏められたものを叩き台に更に歌詞を煮詰めて行くのだ。
「曲調に関しては、コテコテのTOKUSATU系がまずありますね。タイトルなんかを歌詞に入れる方向性で、子供向け番組なんかで使われる感じです。ただ、この番組は高い年齢層も見るのでやや不向きかもしれません」
アクセルがそう言うと紅蓮が
「シャンリークィの方向性としてオリエントな曲調を残した方が良いんじゃないか?」
と提案する。
「ユーロビート調も良いかもな。疾走感があるから番組のイメージとも合うだろう」
蓮夢がそう言って、新しい方向性を模索する。
「そうですね、OPはユーロビート、EDはオリエントが良いのではと思います」
ルコクがそう意見を出す。
話し合いは喧々諤々様々な案が出てなかなか意見がまとまらなかった。
「なあ、悠璃。PVのバックダンスでドレス来てみないか?」
「ええ、なんで僕がドレスを!?」
「こないだアクセルやルキアと話していた時に、男装したルキアとドレスを着た悠璃を並べてみたい、って話になってね」
そう言って蓮夢は苦笑する。
「ルキアはともかくアクセルさんまで‥‥プ、プロデューサー」
悠璃は助けを求めるような視線を送るが、ふと気づく。
「って、首謀者がプロデューサーだったぁ」
そして冷や汗を浮かべる。
「大丈夫。あくまでもバックダンサーだから」
ルキアが悠璃の肩をポンっと叩く。そしてプロデューサー陣に目配せをする。
「‥‥むう。今回だけですからね」
あ、折れた。
「じゃあ、白いドレスってことで行きましょう」
アクセルがそう言うと、レインが
「どうせやるならとことんやりましょう。悠璃さんが白いドレスならボクは黒のドレスで行きますね」
と言う。
「うう‥‥本当に今回だけですよ」
「さて、それじゃぁドレスを選ばないとね。これとかどうだろう?」
ローザの衣装ケースから適当なドレスを取り出して合わせる。そしてルキアの目配せにウインクを返す。
「メイクのセットはこちらにありますね。さ、どうぞ」
アーシュがそういってずずいっとメイクセットを差し出す。
「試しにメイクしてみましょうか? 私は人にメイクをするのは得意なのですよ。剣と馬の扱いだけが上手い娘、というのも嫌ですから。私とて、こういった特技はあります」
そして化粧の下地を整え、メイクを施してみる。
「‥‥それにしても結城様、随分と化粧のノリが良い肌をお持ちですね」
「あはは‥‥素直によろこべないな」
悠璃は苦笑する。
それから――
「よし、歌詞ができたね」
話し合いが終わった。籐子が盛大な溜息をつく。
「ふー、お姉ちゃん疲れたよ」
「お疲れ様でした。素晴らしい歌詞が出来上がりましたね。きっとこれならドラグナイツの方も満足してくださるでしょう。少し休憩しましょうか? アイスラベンダーティーにミントを浮かべたものを用意してみました。精神的な疲れはこれで取れるはずですよ」
ローザがそう言って全員にハーブティーの入ったグラスを差し出す。
そこにドラグナイツの監督セルゲイ・グリューンと女優のサラ・ディデュモイがやってくる。それから、ラスト・ホープでローザの代理としてメンバーである傭兵たちと関わった、オペレーターのグレース・ナカジマ(gz0216)も特別に招かれてやってきた。
「どうです、ローザさん?」
「ちょうど作詞が終わったところです。これから作曲をしてPV撮影に入りますわ。それよりも御掛け下さいな。ちょうどお茶の時間でしたの」
尋ねるセルゲイにお茶を勧めるローザ。
「美味しそうね。これ何?」
そう言うサラに、説明おば‥‥ゲフンゲフン、説明お姉さんのグレースが説明をする。
「説明しましょう。これはラベンダーティーにミントを浮かべたものね。ラベンダーの匂いは特徴的だから、その香りを嫌う人もいるんだけど、こうしてミントを乗せることで清涼感のある香りと味わいに仕上がるのよ。ラベンダーには鎮痛や精神安定、防虫、殺菌などに効果があるとされるわ」
「へー。いい匂いね。いただきます」
「ガムシロップを混ぜてくださいね? それで甘くなりますから」
ローザの言うとおりにガムシロップを混ぜてアイスラベンダーティーを飲む一同。
「美味しいですの♪」
朔が猫耳をピコピコさせながら喜ぶ。
「ほんとだ、うめえ」
紅蓮が一口飲んで朔に同意する。
「精神安定の効果があるってのは本当みたいだね。落ち着くよ、これ」
ルキアがほっと一息つきながらそういう。
それから小一時間、一同は歓談しながらお茶を飲んだ。
「うん。この歌詞なら文句ないな。ご苦労様だ」
セルゲイが歌詞を見てそう言う。出来上がった歌詞はドラグナイツのイメージにぴったりだった。
「これがあたしが歌う歌ね。いいわね、落ち着くわ、この歌詞。どんな曲がつくか楽しみね」
サラも自分が歌うエンディングテーマの歌詞を見てそう評価する。
「喜んでいただけて何よりです。これで皆さんの苦労も報われるでしょう」
「監督、ドラグナイツの第二期はどんな感じになるんですか?」
家族でドラグナイツのファンであるレインがセルゲイに尋ねる。
「んー、ドラグナイツにもバグラムにも新たなメンバーが加わったな。特にバグラムは大幅にパワーアップした。ヒーローの壁となって立ちはだかる巨大な悪と言う意味では非常に良い陣容だ。放送時間も倍になるから、今までよりも濃い内容を期待してくれて良いぞ」
「楽しみにしています」
レインは満足そうに言う。
「監督、親戚がいつもお世話になっています。第二期にも出演するようですので、宜しくお願いしますね」
アーシュがそう言うと、セルゲイは「ああ、あの彼か。彼にはいろいろ助けられた、礼を言っておいてくれ」と笑顔で返す。
「さて、それではそろそろ作曲に入りましょうか。私もメロディーが浮かんだので、少し弾いてみますね」
ローザはそう言ってパソコンとMIDIキーボードを接続すると、いろいろと調整をしてから弾き語りを始めた。
そこに紡がれるのは、希望の歌。
それはただの歌。
ただの言葉。
されど、それは言霊となって力を得る。
言霊は聴くものの心を揺さぶり、熱い思いを、希望を、未来を伝える。
それはトップランクのアイドルとしてのローザの歌唱力と、シャンリークィと協力者の想いを込めた歌詞が融合し、ひとつの魔術を織り成していた。
はじめに、言葉あり。
歌とはそもそも神の御業。
そして人類が作り出した至高の文化。
ただの娯楽、と言うものもいるだろう。
だが、もとは芸能は神へ捧げる祭事。
そこに力が宿るのは必然なのである。
その場に居る者たちは皆、一様に興奮していた。
それこそが、彼らが編み出した言ノ葉が力を持つことの証。
そして、歌が終わる。
「いかがでしたでしょうか? もちろんこれは叩き台に過ぎません。皆さんでより良いものへと作り替えてください」
歌い終えたローザがそう言うと、アクセルが「素晴らしいですね。これをユーロビート調にアレンジしましょう」と言う。
「素敵でしたの。さすがローザさんですの」
朔がそう言うが、ローザは
「皆さんの作り出した歌詞に宿る力ですよ。歌とはそういうものです」
とあくまでも皆の努力の賜物であると説明する。
「そう言ってもらえると嬉しいですね。頭を悩ませたかいがあります」
ルコクがそう言って喜んだ。
「さて、それでは俺はこれで失礼する。サラ、お前はここに残って曲が完成したら歌の練習だ」
「わかったわ」
「では、失礼します」
セルゲイはそう言って会社へと帰っていった。それから、皆で曲について意見を交わし合い、実際に楽器を引きながら作曲と同時に編曲も行う。そして、曲が完成した。
OPは曲名を『Blaze Dash』、EDは『軌跡』と名づけられた。
曲が完成すると早速練習が始まる。
ローザは自らの仕事で出かけてしまったので、プロデューサーの二人が練習の監督をする。
蓮夢は全体であわせてみたときに明らかに違和感がある場所のみを指摘することにとどめ、暗示の技術を理容して個々人の持ち味を褒め上げ、自信へとつなげさせる。
そしてアクセルは身体面のケアを担当し喉に良い飲み物をメンバーに配って回ったり、練習の前後の準備運動と整理運動に力を入れる。
それと並行してPVのイメージも考える。
「そうですね、『手を伸ばせば 届くと〜』の歌詞で、『光に向かい手を伸ばしている』シーンにしたり、『届かない まだ辿り着けない〜』の歌詞で、『もう少しで触れそうになる、でも、また離れていく光』といったシーンにすると言うのはどうでしょう?」
そう提案するのは悠璃。
「なるほどね。それは良いかもしれないな」
紅蓮が賛同しプロデューサーの二人が同意する。
「EDだと『咲き誇る雪桜が これはただの夢だと囁いた』までの歌詞に対応し、最初は空から降りてくる粉雪、続いて上空から見下ろした『傷跡をある程度見渡せる』森の景色。そして、視点がどんどん下へと降りてゆき、森の中を力無い足取りで歩くサラさんへと焦点を合わせ、その背後で巨大な桜の木に咲いた雪の花が風にそよぐ、といった映像を繋げるとかはどうでしょう?」
「いいね、お姉ちゃん乗った」
悠璃の提案に籐子が同意し、プロデューサーの意見を聞く。
「いいんじゃないんですか? 幻想的でいいですね」
とはアクセルの言葉である。
そしていよいよPV撮影の日が来た。
撮影はグリューン・ムービーのSFXスタジオで行われ、それぞれ自分の衣装に着替えたメンバーと、演出のためにAU−KVを装備した二人のプロデューサーがいた。
蓮夢は撮影スタッフに何事かを耳打ちし、スタッフが笑って承諾したのを確認してから撮影へと入った。
そんな中、楽屋から出てきた朔は竜の着ぐるみを着て現れた。
「皆、頑張るの」
そう言って両手を上げる。
「落ち着いて行けば、全然問題ないの♪」
腕を上下に振る。
「皆にはドラグナイツみたいな守護竜が付いてるの」
と言って自分の胸を叩く。
スタジオに笑いが広がる。笑いは緊張を弛緩させる。
先輩アイドルとして、ゲストとして皆の緊張を少しでも解きほぐそうとする朔の考えは成功したようだった。
「じゃあ、行くの」
朔はその場で着ぐるみを軽快に脱ぐと、シックな雰囲気の衣裳を現わにした。頭にはシックさを高めるとともにローザを意識して薔薇が飾られている。いつも抱いているぬいぐるみの『クロ』は今回は楽屋の椅子で留守番をしている。
レインはユニセックスな魅力を引き立たせる黒のドレスを着て女装し、向日葵のコサージュを頭につけハイヒールを履いている。
アーシュは大人っぽい雰囲気のドレスにハイヒール、イヤリングにネックレス、そして手袋をつけていた。それはその美貌と相まって中世の貴族をイメージさせる。
悠璃は白いヒラヒラのドレスを着て恥ずかしそうに出てくる。それでも似合っているのだから業が深い。
ルコクはミニチャイナに太めのベルトをつけ、長めのウェスタブーツでオリエンタルの中にハードボイルドを表現する。
紅蓮はラフな衣装で決めてきたが、それが彼のイメージにマッチしていた。
ルキアは男装をした上で簡素な西洋鎧を身につけ、その上から赤い生地に金の糸で龍の刺繍が入ったケープをまとって中華風にアレンジしている。
籐子は青い縦縞のワイシャツと紺のパンツと言う衣装で現れる。
「それでは撮影を開始しましょう。皆さん、定位置についてください」
スタッフがそう言って、全員が定位置につくとカウントダウンをして撮影が始まった。
何度かリテイクを重ね撮影が終了すると、サラが楽屋から現れた。青いドレスに腕輪、イヤリング、ネックレスと言う衣裳で大人らしさを演出していた。そしてサラが入ってプロデューサーの二人が抜けてAU−KVの装着を解除する。
「それでは始めます。3、2、1、スタート!」
同じく何度かリテイクを重ね撮影が終了する。それから編集作業が行われ、その間一同はローザの自宅で基礎レッスンをしながら数日を過ごした。
そして、完成したDVDが送られてきたので居間でローザとともにPVを見る。
画面右上にはSampleの文字が浮かんでいる映像で、関係者用のものだと言うことがわかる。
著作権に関する注意書きが流れたあと、グリューン・ムービーのロゴ、そしてOPのタイトル『Blaze Dash』と言う文字が順番に浮かぶ。
朔の声で前口上が入る。
光の導き 闇の胎動
心通わす 鋼の身体
解き放ちし 竜の力は
闇を切り裂き 舞い上がる
悲しみの向こう 光差すその先へ
(機装戦隊ドラグナイツ!)
紅蓮のギターによる前奏から始まる。そして籐子のアコースティックギターがリードする中、歌がはじまった。
何度でも歩きだそう
幾度でも手を伸ばそう
大切なモノ 手にするまで
ドラグナイツ第一期の映像が入る。
満天の星々に誓う
固き決意
水面に映る流星の影
籐子のアルトの声が響く。
アコースティックギターでステップを踏みながら。
咲き誇る 桜の向こうに
揺らめく 過去の幻影
アクセルと蓮夢のAU−KVが合成されたバグラムと戦っている。
あの日
胸に灯った 確かな炎
夜を越え 今走りだす
力の限り
ルキアがテノールボイスで歌い上げる。情熱的に。滔々と。
たとえ傷付き 心折れそうになっても
止まれない 止まらない
哀しみのない世界 手に入れるまで
紅蓮がギターを弾きながら熱唱する。
明日を夢見て 戦い抜こう
そこにはきっと 光に満ちた夜明け
僕らを待っている
ルコクがソプラノで歌いながら優雅に舞う。
朝焼けが染めあげる
幾千の花々
不意に過ぎる 微睡みの香り
悠璃がバックで踊っているのがアップで写される。
プロデューサーとルキアの企みだった。
一陣 風が吹きすさび
花吹雪と共に 消えてゆく
アーシュがオルガンを弾いて曲に厚みを加える。
あの日
胸に誓った 切なる願い
何度でも また走りだす
想いの限り
レインがソプラノで熱く歌い上げる。
幾度倒れ 思い砕けそうになっても
止まれない 止まらない
皆が笑える世界 取り戻すまで
朔が天性の天使の歌声で人々に想いを伝えるべく歌う。
希望を信じ 戦い続ける
そこにはきっと 希望に満ちた青空
僕らを待っている
SFXで合成された背景とメンバー全員が映った映像が流れる。
闇に浮かぶ光の先
確かな未来
ドラグナイツ第一期の映像が再び。
手を伸ばせば 届くと
そう思い 手を伸ばす
それぞれがそれぞれのパートを時にソロで、時にハーモニーを生み出しながら歌い上げる。
届かない まだ辿り着けない
だからこそ 今は走り続ける
外伝の映像が挿入される。
いつの日か その光
この手に掴む そう信じて
メンバーがアップになる。
何度傷付き 心砕けそうになっても
止まれない 止まらない
笑いあえる世界 手にするまで
映画の映像が挿入される。
その日を信じ 走り続ける
悲しみの向こう 光指す先 笑顔に満ちる場所
コラボ番組の映像が挿入される。
そしてラストフレーズ。
きっと僕らを待っている
「すごかったですの♪」
朔が猫耳をピコピコさせながらはしゃぐ。
「素晴らしい出来ですね。皆さんお疲れ様でした」
ローザが皆を労う。
「ボクは満足ですね。これならCDも売れそうです」
レインが本当に満足気に言う。
「おじ様もこれで満足されるでしょうか?」
アーシュはそう言いながらも自信を持った雰囲気だった。
「うう‥‥アップだ。アップで映ってる。企んだね?」
悠璃が恥ずかしそうにしながら言う。
「ああ、なかなか良かったぞ」
蓮夢が笑いながら言う。
「姫さま素敵でしたねえ‥‥」
ルコクが朔を褒める。
「熱い曲だなぁ。ハイになるぜ」
紅蓮が興奮しながらそう言う。
「そういえば、収録後のお茶はどうでした?」
ルキアが問う。それは収録後に配ったコーラ入り紅茶のことだった。
「‥‥なんというか、不思議な味だったね」
アクセルがそれに対しそう評する。
「スイスの妹に見せてやりたいねえ」
籐子がそう言うと、ローザが
「CDには特典映像としてPVが二つ目のセクションに収録されるらしいですよ。送って差し上げたらいかがですか?」
と言う。
「ああ、いいねえ。そうしようかな」
籐子はそう答えて一人頷いた。
「それでは、エンディングも見ましょうか?」
ローザはそう言ってDVDを操作する。
EDタイトルの『軌跡』と言うロゴが浮かび、前奏なしでサラの歌声から入る。
夜の帳の中
粉雪が空から
優しく降りてくる
舞い降りる粉雪の映像の中、籐子のアコースティックギターが静かに奏でられる。
ふわりふわりと舞い踊る妖精たちは
白いキャンパスに描かれた悲しみの記憶を
ゆっくりと覆い隠してく
上空から見下ろした、傷付いた森の景色。紅蓮のギターがゆっくりと演奏される。
咲き誇る雪桜が
これはただの夢だと囁いた
視点がどんどん下へと降りてゆき、森の中を力無い足取りで歩くサラへと焦点を合わせ、その背後で巨大な桜の木に咲いた雪の花が風にそよぐ。
悠璃のフルートが幻想的な雰囲気に華を添える。
けれども ほら
心に宿る氷の楔が
その悪夢が現実(リアル)だと告げている
アーシュのピアノが響く。
足が竦む 顔が俯く
今いる場所から動けなくなる
レインが白銀のハーモニカを幻想的に演奏する。
そっと振り返り 見つめるのは
自分が歩んできた
足跡(みちしるべ)
サラが振り返る。ザッと背景が広がる映像。
そして ふと気付く
自分が胸に抱いていたモノ‥‥
望み守り抜いた 光
平凡な日常と言う 掛け替え無き宝物に
胸の前に差し出されたサラの両手に光が宿る。
瞳を閉じ
その温もりを感じ
体が熱を取り戻す
戒めの楔そっと抱きしめ
ゆっくり溶かしてく
氷がゆっくりと溶けて行く。
ふと顔を上げれば
感じる仄かな温もり
差し込む朝日に溶けてゆく
白き幻影
朝日、ゴッドアワーと呼ばれる、夜明けと夕暮れの僅かな時間しか現れない幻想的な風景が映し出される。
どんな夜に 夢に
囚われたとしても
必ず‥‥夜明けは訪れる
サラが静かに歌い上げる。
どんなに冷たい氷でも
いつかは溶けて消える
水たまりの中に僅かに残る氷。
今 強き羽ばたきに舞い上がる
軽やかな白銀の煌き
光の竜となって空を飛ぶサラ。
透き通る青空に
太陽が輝き
駆け抜ける風が翼誘う
草原を風が吹き抜ける。羽が軽やかに舞う。
粉雪は白き花弁へと
姿変え幸せな安らぎを歌う
再び歌うサラの映像。
咲き誇る桜の向こう側
揺らめいた過去の幻想
一陣の風が吹き荒び
花吹雪と共に消えてゆく
風が巻き起こり桜吹雪が飛んでゆく。
そして、ラスト。
新緑の風が告げる命の芽吹き
今 この胸に輝くは大輪の花
一歩ずつゆっくりと 歩んでゆこう
現在(いま)を見据えて前へ
力強い足取りでサラが歩いていく。今を、未来へと向かって。
曲が終わりOPのインストゥルメンタルとともにスタッフクレジットが流れる。
最後に、制作・著作ジラソール音楽事務所、グリューン・ムービーとロゴが流れて、DVDは終了する。
「エンディングも素晴らしい出来ですね。皆さん、お疲れさまでした。今回の依頼はこれにて終了です。
次回の依頼は、皆さんのレベルアップのために特訓を行おうかと思っています。
それから、テレビやラジオからの出演依頼が届いた場合にも連絡いたします。
本日はこちらでゆっくりとお休みください。ラスト・ホープへ戻るのは明日でも良いでしょう。疲れを取っていってください」
ローザがそう言って場をしめる。
そしてタイアップ依頼は無事終了したのだった。
了