●リプレイ本文
●アバンタイトル
――‥‥私には、誰にも見えない『ソレ』が視えた。
透明のソレ‥‥でも、私はソレを視る‥‥感じる事が出来た。
誰も信じてくれなかったけど、気にはならなかった。
だって‥‥それって、私が特別だって事でしょう?―
――3歳の時、ソレと意思を交わす事が出来るようになった。
5歳の時、ソレにお願いすれば、その通り動いてくれるようになった。
8歳の時、ソレを物に入れたら動く事を知った。お人形遊びが、一段と楽しくなった。
10歳の時、家にバグラムの偉い人が来た。
そして‥‥――
「‥‥‥‥夢?」
差し込む太陽に目を細めながら、目を覚ます
「‥‥‥ここ、どこ? シルベイン? ‥‥‥そっか。消えちゃったね‥‥シルベイン」
何とか身を起こすが、激痛の顔を歪める。
「あっ‥‥づ‥‥くぅ‥‥! ここ‥‥まさかUPC関連?」
UPCになにか嫌なイメージでもあるのだろうか? そして逃げようして怪訝な顔をする。
と、そこへ黒髪の少年がやってくる。
「気が付きましたか。具合はどうです?」
「貴方が‥‥私を?」
「あの辺は戦闘の余波で色々危なかったもので、勝手ですがここまで連れてこさせてもらいました」
「そう‥‥」
「あ、ちなみに僕は‥‥ハイン・リーヴェルってものです。どうぞよろしく」
「そう‥‥‥貴方、UPCなの?」
「いえ、違いますよ。それよりあなたはなぜあそこに?」
「私は‥‥演説を聴きに。そこで戦闘に巻き込まれて、怪我して倒れたの」
「差し支えなければ、お名前を教えてください?」
「名前は‥‥レムレース・ラルウァ」
「御家族とかはいないんですか?」
「家族は居ないわ。‥‥いえ、弟が居た。あの戦闘で死んじゃったけど」
「‥‥そうですか。すみません」
「なんであなたが謝るの?」
「いえ、なんとなく」
(「こういう人を増やさないためにも、早くバグラムを倒さないと‥‥」)
ハインはそんな決意を新たにした。
「‥‥変な奴」
「怪我が治ったら家まで送りましょう」
「家は‥‥いい。ここからじゃ遠いし、そこまで世話になれない」
レムレースは世話を焼くハインに苦笑しつつ、
「貴方‥‥お節介が好きなのね。こんな得体の知れない女にまで世話を焼くなんて」
「事情があるんでしょうし、詮索するつもりはありませんよ」
変な人‥‥と呟くが、その顔は笑顔であった。
一方その頃、クロッカは空間転移を使いながらハインのバイクを追いかけていた。
そしてハインの部屋を望む高み。コートを風に揺らし、サングラスとハンチングで変装をして滲み出た。
JAZZが似合いそうな雰囲気のクロッカは、缶コーヒーを一口含む。
「あの店の味には遠く及ばないな‥‥ん?」
転移装置のかすかな共鳴現象に気がつき怪訝な顔をする。
メイは、独り苦しんでいた。
「はぁ、はぁ‥‥またにゃ、分かっててもきついにゃ」
震える腕でピルケースから薬を取り出しそれを飲み下し呟く。
キメラとの融合体であるメイは、こうして薬を飲まないと死んでしまう体だ。
それとて、延命処置に過ぎないのだが。
――ボクはバグラムを抜けるときからこうなるって分かってたけど
でももう少し復讐を終わらせるまで待って欲しい。
それに命が尽きるまで生きるってってイェルと約束したから――
「姉さん‥‥」
そこにイェルことイエーガーが入ってくる。
彼はダークキャットこと星河メイ同様、人とキメラの融合体とされてしまった一人である。
だからメイの辛さはよくわかる。
「無理をしちゃだめだよ、姉さん」
「わかってるにゃ‥‥はあ‥‥だからこうして薬を飲んでいるにゃ‥‥」
――私は彼に会ったことが有る。幼い頃に、命を助けられた。それが初恋だった。
彼は覚えては居ないでしょうが、まさか大統領に成っているとは‥‥
再会した時に、彼の危なっかしいところに惹かれてしまった以外にも‥‥
でも、ファーストレディに成るなど魔女である私には――
エオス・アイオーンはひとり嘆く。それが叶わぬ思いと知っていればこそ‥‥
研究所の個人研究室。白夜は一人火花の散るパイドロスを眺めていた。
「やはり、出力の上げすぎで機体自体が持たないか‥‥」
白夜は難し気な顔で彼方を睨む。それは彼がある決断をした合図だった。
●OP
『Blaze Dash』
作詞・作曲:シャンリークィ
歌:シャンリークィ
クレジットとともに、前口上から。
光の導き 闇の胎動
心通わす 鋼の身体
解き放ちし 竜の力は
闇を切り裂き 舞い上がる
悲しみの向こう 光差すその先へ
「機装戦隊ドラグナイツ!」
何度でも歩きだそう
幾度でも手を伸ばそう
大切なモノ 手にするまで
満天の星々に誓う
固き決意
水面に映る流星の影
咲き誇る 桜の向こうに
揺らめく 過去の幻影
あの日
胸に灯った 確かな炎
夜を越え 今走りだす
力の限り
たとえ傷付き 心折れそうになっても
止まれない 止まらない
哀しみのない世界 手に入れるまで
明日を夢見て 戦い抜こう
そこにはきっと 光に満ちた夜明け
僕らを待っている
朝焼けが染めあげる
幾千の花々
不意に過ぎる 微睡みの香り
一陣 風が吹きすさび
花吹雪と共に 消えてゆく
あの日
胸に誓った 切なる願い
何度でも また走りだす
想いの限り
幾度倒れ 思い砕けそうになっても
止まれない 止まらない
皆が笑える世界 取り戻すまで
希望を信じ 戦い続ける
そこにはきっと 希望に満ちた青空
僕らを待っている
闇に浮かぶ光の先
確かな未来
手を伸ばせば 届くと
そう思い 手を伸ばす
届かない まだ辿り着けない
だからこそ 今は走り続ける
いつの日か その光
この手に掴む そう信じて
何度傷付き 心砕けそうになっても
止まれない 止まらない
笑いあえる世界 手にするまで
その日を信じ 走り続ける
悲しみの向こう 光指す先 笑顔に満ちる場所
きっと僕らを待っている
フェイドアウトしてゆき暗転。
●Aパート
喫茶店。
「今日は上手く行ってるにゃ‥‥にゃー」
大したドジもせず仕事はスムーズに運んでいる。だが‥‥
喫茶店の裏口からツバメが入ってくるが、入った瞬間にメイと正面衝突する。
「あいたっ!」
「にゃー!」
皿を豪快にたたき落とす
「折角調子よかったのにツバメが‥‥」
「なに言ってんですか! あまりの勢いだったから鼻が潰れるかと思いましたよ」
「はいはい、ふたりとも。すぐに業務に戻る。じゃないと、わかってますね?」
そう言ったエオスだが、表情は憂いを帯びていた。
「ご主人様恋する乙女の眼してたにゃ‥‥お相手は誰かニャー」
と目を光らせ含み笑いを浮かべ、エオスをジトーと見つめる。まさか大統領とは思うまい。
「大丈夫にゃ、今のトコツバメが一人前になるまではにゃ‥‥聞こえてにゃい」
これは重症だとも思いつつメイは裏に入っていった。
「それじゃ、次の仕事があるからお先にゃ」
黒いライダースーツ姿でバイクに、乗り店を後にする。
仕事を増やしたのは生きるため必要だったから。
――運び屋の仕事、ちょっと危険だけどにゃ――
と、アラームが鳴り袖に隠した携帯端末にシリウス・ブレイダーから送られたゴットホープからの指示と地図が表示される。
「仕方ない。今日はただ働きかな‥‥イェルを拾って急行にゃ」
そのしばらく前、蔵里 真由と須藤 ツバメはUPCの施設で訓練をしていた。
ただしツバメは顔をヘルメットで隠している。
「いいね、動きが良くなってきてるよ!」
ツバメがそう言うと真由は喜んで技を繰り出した。ツバメがそれを受け止め、真由は息を吐く。
「ふう、このAUKVのパワーにも慣れてきましたね。これならできるかも。せい!」
『竜の翼』を使用した移動攻撃を行おうとするが、勢い余って全身を壁に強打してしまう。
「そこまでだね。訓練は中止。治療に行っておいで」
ツバメの言葉に頷き、AUKVを脱いで廊下を歩き出す真由。
「あいたたた、距離を見誤りましたか‥‥え?」
「やあ、真由くん、調子はどうだね?」
ジョナサン・エメリッヒ大統領が後ろから真由の肩に手をかける。
節々に走る痛みと後ろから急にきた男性の手。
それらによって、真由は発作を起こす。
「いやぁ! 殴らないでぇ!!」
そのままバランスを崩して転倒し、頭を抱えながら叫ぶ。
「ごめんなさいごめんなさい私が悪いんですごめんなさいごめんなさい、やだ痛いのヤダごめんなさいごめんな‥‥」
「どうした! どうしたね! 衛生兵! 衛生兵!!」
大統領が衛生兵を呼ぶと、彼らは真由に鎮静剤を注射して落ち着かせた。
「何かのフラッシュバックでしょう‥‥」
衛生兵はそう語る。とはいえ、それ以上は何もわかりようがないのだが。
「って、こんなことがあったんですよ。だいぶ慣れてきているみたいだけど‥‥このままだとちょっと不安がありますね」
「そうですか。何かしら辛い過去があるのかもしれません。でも私たちが安易に立ち入って良い問題ではないですよ、ツバメ」
ツバメの報告を受けて、エオスは皿を磨きながらそう答える。
「ですね。でも、なんか辛いですよ」
ツバメはそう言って涙をこぼす。それからしばらくして、実しやかな噂が流された。
「ああ、なんかあの子昔虐待を受けてたらしくてね、フラッシュバックを起こしたってさ」
「その父親が当時『正義の味方』なんて呼ばれてた刑事らしくてね」
「最初の日に正義が嫌いとか言い出してなんだと思ったが今なら判るよ。あの子にとって『正義』っての毎日自分を殴りつけてくる化物だったのさ」
ツバメやニュクス、カレンが彼女のことをサポートするが、一週間以上その噂は消えなかったと言う。
ハインとレムレースの奇妙な同居生活はしばらく続いた。
そんな中で、ハインは時々家を留守にする。
レムレースには分からなかったが、バグラムの動向を調査するべく出かけていたのだ。
「傷が開くといけないから安静にしていてくださいね」
ハインはいつもそう言ってでかけていった。
そして帰り道、喫茶店の近くを通りかかる。
そこにはカレンをはじめとしたいつものメンバーがいたがハインはそのまま去った。
(「チェスターは死んだ‥‥でも代わりにハイン・リーヴェルがあなた達を守ります‥‥」)
そう心に誓いながら。
その喫茶店では、複数の出来事が同時進行していた。
「甘いものはいいよね。疲れた頭がリフレッシュするしね」
そう言いながらシリウス・ブレイダー博士はパフェなどを食べている。
「そうですね。甘いものはいいです‥‥」
白夜がそう答える。
「びゃっくんも甘いものが好き? 好きならこれも食べる? あーん」
「ちょっと‥‥」
びゃっくんとはシリウスがつけたあだ名。白夜は赤くなりながらもシリウス、シーちゃんの出したスプーンを口に含む。
――カランカラン――
バイクの停止する音がして、それから喫茶店の扉が開く音がする。
「いらっしゃいま――」
そこまで言いかけて固まったのは合間を見て手伝いをしていたニュクス。
サングラスをかけたカインとリシアが来店し、思わず『あの二人』に似ていると思って皿を取り落としてしまったのだ。
「いらっしゃい――」
そこでエオスも絶句する、が、彼女は冷静なふりをすると
「ニュクス‥‥落ち着きなさい」
と諭した。
「あ、うん。何になさいますか?」
「コーヒーセットをもらおうか」
サングラスをかけたカインが、そうつぶやく。
カインは爽やかな好青年を演じており、誰もバグラムの幹部とは思わない。
カインがサングラスを外すとの素顔や声色は、戦死したカレンの兄に瓜二つ。
「祥龍さん!」
ニュクスはそう叫んで抱きついてしまって、慌てて「すみません、人違いでした」と言う。
祥龍が死んだことを思い出して。
「どうしたんだい?」
「いいえ、すいません」
ニュクスはその場で平謝りする。
サングラスを外したカインは細かい素振りや食事の癖まで同じだが、ニュクス達への対応はあくまで他人行儀だった。
「‥‥? お嬢さん、私の顔に何か?」
「ううん。何でもない」
カレンが必死に兄への衝動を抑えながら努めて冷静を装う。
そのしばらく前、バグラム基地。
「コーヒーやケーキが美味しいと評判のお店がありますの。一緒に参りませんか?」
「‥‥それは、必要なのか?」
「市井の偵察ですわ」
リシアはやや強引にカインを丸め込むと、カインのファッションチェックをした。
「カイン様、こちらの方が似合うと思いますわ♪」
そう言っていつもの仮面を外させサングラスを付ける。
「そういうものか‥‥」
「素敵です(はぁと)」
そして揃いの革パンと革ジャンと白系のTシャツを来て二人は出かけたのだった。
そして喫茶店。
「ご主人様、もう少し待っていてくださいね」
そうカインに言う一方、喫茶店のカウンターへ行き、
「ほら、何グズグズしてるんだよ! ご主人様が待っているんだ、さっさと用意しないか!」
彼女は以上なまでの苛烈さで店員に当たる。
「あら、できたのね。じゃああたしが運ぶわ」
そして店員たちには手出しをさせず、自らが料理を運ぶ。
「どうですか? ご主人様?」
「‥‥ああ、うまいな」
「それは良かったですの」
さも自分が作ったかのように振舞うリシア。それに対しニュクスとツバメは我慢の限界を迎えていいた。
「姉さん‥‥」
「店長‥‥」
「我慢なさい二人とも」
それを窘めるエオス。
「失礼します‥‥」
と、トイレに立った白夜が二人とすれ違う。その際にカインに体がぶつかった。
「あ、ごめんなさい」
その際白夜からカインの手に一枚のメモが手渡された。誰にも気づかれぬように。
それは白夜の個人回線の番号だった。
「さっきの子、可愛かったですわね」
「ほう‥‥」
リシアのその言葉にカインは軽く嫉妬を覚えた様だった。
「でもでも、カイン様の方が素敵ですわよ♪」
とカインの腕を抱き抱える。
「‥‥あの」
「なに? カイン様は私のなんだから、色目を使うんじゃないよっ」
ニュクスがカインに接触した際リシアはそう言った。
カイン様は私のものだ、と。
それでニュクスは違和感を抱いた。バグラムの幹部もカインといわなかったか‥‥と。
「やめるんだ、リシア」
「はーい」
カインに止められておとなしくなるリシア。しかしニュクスは納得したわけではなかった。
二人が帰ったあと、ニュクスはUPCの科学部に二人が飲んでいたカップをDNA鑑定にかけるように依頼する。祥龍とウルのDNAと一緒に。
白夜もバイクで本部へ向かうと、一人大統領に面会を申し込んだ。
「御話があります‥‥」
そして白夜はバグラムの技術奪取を目的に潜入を考えている事
その為に表向き皆を裏切る形を取る事等を伝えた。
「わかった。良かろう。極秘任務として君を支援する」
大統領は言葉少なく頷き、白夜を支援することにした。
「そんな‥‥」
シリウス博士が研究室に向かう途中で偶然その話を聞いて、手に持っていた資料を落としてしまう。
「誰だ!」
大統領が叫ぶがシリウスは思わず資料を拾ってそのまま研究室に駆け込んでしまう。
「誰かに聞かれたか‥‥念には念を入れて慎重を期したまえ」
「はい‥‥」
研究室。シリウスは白夜の行動を止めるかどうか悩んだ結果
意を決したような表情をしてキーボードをタイプし始める。そして――
その後、白夜はシルバー・クロウの服装のエオスに話しかけられていた。
大統領からエオスに話がいったのだ。
「白夜これは、重要な任務ではありますが‥‥助言を。
彼らはこちらの考え以上に利用します。
シルバー・クロウにされてしまった私のように。
ですから自分の意志をしっかり持つのですよ。フェンリス貴女も‥‥」
「わかりました‥‥」
「わかったよ!」
人工知性体の少女が白夜の周囲を飛び跳ね回りながら答える。
――そんなところへシリウスが訪れると
「びゃっくん、こっち来て」
と言いながら彼を強引に研究室へ引っ張る。
白夜が何事かと尋ねるが終始無言で通した。
そして人がいないことを確かめるとおもむろに話を切り出す。
「本当は偽りの裏切りなんて危険すぎて止めたいけど、やめるつもりはないんでしょ。
だから、成功する確率を少しでも上げるためにこれをあげる」
それは本部のデータベースを改ざんしてまで作り上げた偽情報のファイルだった。
この情報をバグラムが本部のデータベースにアクセスして、白夜の裏切りの真意を確認しようとしても
データベースそのものが改ざんされているのだから、白夜の裏の意図に気がつく可能性は少ない。
「ありがとうございます‥‥苦労をかけますが、頼みます」
そして白夜も懐をあさり、今までのドラグナイツの研究成果の入ったデータディスクを渡す。
「それでは、失礼します」
白夜が部屋を出ていくとシリウスは力が抜け落ちたように椅子に座った。
「無事に帰ってきてね‥‥」
そうつぶやいて。
CMが入ってBパート。
●Bパート
クロッカが物質透過サングラスでハインの部屋を監視している。
そして彼はレムレースの挙動から、彼女の持つ転移装置の故障が共鳴の原因と察知する。
「妙な按配になってきたな‥‥」
どこか愉しげに前線基地に通信を入れる。
『こちらクロッカ。幹部は皆、戻ったかい?』
その返答を聞いてクロッカはひとり頷く。
『ほう‥‥ネクロマンサーがまだ、か』
頭の中でパズルのピースが組み合わさった。あの少女はネクロマンサーだ、と。
『戦闘評価を送っとく。敵さんもそれぞれ戦い方に癖があるな』
返答がくる。
『シュトゥルムヴィント、暇なら愉しんでこいよ‥‥俺は俺で愉しませてもらう』
そして二人の就寝後、光学迷彩コートで姿を隠したままハインの室内に転移し、ナノサイズ盗聴器をしかける。
盗聴器を仕掛けたあと再び室外へ転移し、観察を続ける。
【失敗作】――それが私に向けられた最初の言葉。
私の元が人間だったのか、別の何かだったのか。
それは知らない。
私の前に立っていた白衣の人が、私を見下ろしながら、そう言った。
「こいつは失敗だ。何も能力の発現が見受けられん。さっさと廃棄しろ」
控えていた兵隊さんが、私の両脇に立って、私の腕を掴んで無理やり持ち上げた。
腕が軋んで、嗚咽を漏らしたけど、誰も気にしなかった。
このまま‥‥死んじゃうの?
まだ、私は‥‥なにもしていないのに‥‥なにも。
そして今
「‥‥‥私の一切は、全て主が栄光の為に」
それが、私の全て。
私を助けてくれた主の為に、私の全てを賭けて尽力する。
その為ならば‥‥私は、何も恐れはしない。
あの人が望むなら‥‥誰だって殺してみせる。
それが私――クリュッタロス。
「主、皆集まっております」
「オーケー。カインよもういい加減集まるもんは集まっただろ。そろそろ俺が出る。
ネクロマンサーもいねぇんだ。好きにさせて貰うぜ」
そう言ってシュトゥルムヴィントは部下とともに出撃して行く。
DR本部――
「敵反応あり。タロスが一機です」
「広場に着陸しましたが、その後動きがありません!」
「‥‥どういう事だ? ともかく、ドラグナイツ出撃!」
大統領の指令でドラグナイツが出撃する。
「大統領、我々も!」
ニュクスがそういうが大統領は首を横にふり
「UPCは投入タイミングを考える。重火器装備の部隊に出撃準備をさせておけ!」
「了解です」
ニュクスは頷き退室していく。
「ドラグナイツ出撃!」
バイクに跨り、カレンが叫ぶ。そしてドラグナイツが出撃した。
弱い奴は無価値だ。
弱いって事は無力って事だ。
この世界は、力がねぇ奴は生き残れない。
だから俺は、力を求めた。
誰よりも、何よりも強い力を。
それが、俺だ。シュトゥルムヴィントだ。
「来たか。遅かったじゃないか。待ちくたびれたぜ」
シュトゥルムヴィントとシュヴァルツメッサーは無人のタロスの手のひらの上で仁王立ちで待ち構えていた。
「前回は挨拶で終わっちまったからなァ。今回は楽しませて貰うぜ」
「戦いを楽しむ人なんかに負けない!」
シュトゥルムヴィントの言葉に真由が答える。
「はっ! 雑魚は任せるぞ。適当に裂き飛ばせ」
「主にふさわしくない雑魚。貴様は私が相手をする」
クリュッタロスがそう言って真由に斬りかかる。
部下6人を引き連れて息のあった攻撃でDRを苦しめる。
「その連携は前に見た!」
だが真由も前回より成長している。
クリュッタロスの迅雷を使った巧みな攻撃もなんとか捌き、一進一退の攻防を繰り広げている。
「ハッハー! 楽しいねぇ! オラ、避けねぇと死ぬぞぉっ!」
シュトゥルムヴィントは鎌を振り回しながら暴れまわる。
切り裂かれ装甲が爆発するドラグナイツ。
「くっ、やらせない!」
カレンが叫びながら抵抗するが勢いに押されてしまう.
「そこまでだ!」
奇形剣が二人の間に割って入る。
「エオスさん!」
カレンは期待の表情でエオスをはじめとしたゴッドホープの面々を見る。
仮面をしたツバメに、キメラとの融合体に変身したメイ。同じく変身したイェーガー。
彼らが加わって、戦況は一変したかに思えた。
だが、カイン率いる部隊が空間転移でやってきて散発的な戦闘があちこちで起こる。
「ターゲットインサイト‥‥ヘッドショット、エイム‥‥ファイア」
イェーガーがメイのバイクの後部座席に乗りながらレールガンをぶっぱなす。
「さあ掛かって来るにゃこの爪で引き裂いてやる」
バイクを止めてメイも戦闘を始める。
「姉さん、サポートするよ」
そう言ってイェーガーが援護を行い、メイが敵を主に引きつける役割を果たしていた。
「アぁ? 横やりかよ‥‥ぉ? ハッ! こいつはまた‥‥知った顔が居るじゃねぇか」
「おや、シュトゥルムヴィントお久しぶりですね」
「シルバークロウ‥‥死んだって聞いたんだがなぁ?まぁいい」
(「全く変わりませんねライバルと認めた男」)
「アンタの用兵術は買ってるが‥‥俺に挑んで、勝てるとでも思ってんのか?」
「それは初耳ですね、この私が勝算も無しで挑むとでも」
火花を散らす二人。刃鳴散らす戦いは続く。
そこにUPCも靴を脱いで隠密行動をしながら包囲をし、重火器部隊で砲撃をしかけていた。
兵隊をソニックブームでまとめて薙ぎ払い、シルバークロウに肉迫。
互いに拮抗しつつも、追いつめる。
喉元に鎌の尖端を突き付け、
「チェックだ。メイトも付けてやろうか?」
そう囁いた。
――一方ハインは
「ちょっと様子を見てきます。危険ですからここにいて下さい」
そう言ってバイクに乗って部屋を出て行った。クロッカが転移を繰り返しながらハインを追いかける。
「人類技術の限界に愛想が尽きました‥‥」
白夜が小声でカインにささやく。
「ほう?」
「其方の陣営に加えて頂きたい‥‥」
『バグラム各員、攻撃を中止せよ。 ‥‥何を言うか、聴かせて貰う』
「手土産として、ドラグナイツの情報が入ったファイルをお渡しします。これです」
『成程な‥‥ではその証を立てるが良い、裏切りの竜騎兵』
間を置きながらカインがしゃべる。
「わかりました」
白夜はニュクスに光の龍ならぬ闇の竜で背中から攻撃を仕掛ける。
「ごめんね、僕はアチラ側に行くよ‥‥」
「ぐはぁっ!」
「なっ!」
全員に衝撃が走る。
戦闘のタイミングを伺っていたハインとて例外ではない。
そしてハインが戦闘に参加しようとしたとき、クロッカが電柱上に転移し、頭上より不意打ちをする。
「黒い竜騎兵さんよ。線から先は通行止めだ」
そういうと紅炎の一振りで空間を斬断。熱衝撃波で路上に直線を引く。
地に舞い降り光学迷彩を解除。記者のような格好をした男が現れる。
「どけ!」
ハインは叫ぶと龍の咆哮を試みる。
吹き飛ばされたクロッカは剣を手に肉薄しハインを斬りつける。
「あなたは何者ですか?」
そう問われたクロッカは薄く微笑み
「奇遇だな。俺も同じ事を聞きたい」
と答えた。そして転移して戦場から姿を消す。
ハインは傷ついた体を抑えつつ事の成り行きを見守る。
「滑稽。貴方達の信念なんてそんなもの」
クリュッタロスが笑う。
ツバメは沈黙したまま白夜を見る。
「一体どういうつもりなんですか!」
真由は叫び攻め問う。
「ゴメン」
しかし白夜はそう答えるだけだった。
「お前もか、月影白夜‥‥」
衝撃を受けて半ばアロンダイトと化したニュクスが白夜に詰め寄る。
アロンダイトの力で、ニュクスの傷は自然に回復していく。
「お前もウルさんみたいに裏切るのか!!」
激昂し闇の竜を纏うニュクス。
「ニュクス、待って!」
カレンが落ち着けようとするがニュクスの暴走は止まらない。
「どういうつもりなの、白夜!?」
「ゴメン」
カレンの問にもそうとしか答えない。
「ゴメンじゃわけわからないわよ。どういう事か説明してよ!」
「人間の技術に愛想がつきた。それだけだよ‥‥」
「ぁ? ‥‥ちっ、詰まらん。メイトは付かねぇか。仕方ねぇな。お楽しみは次の機会だ。あばよ!」
「そうですか、では次の機会に」
シュトゥルムヴィントとシルバー・クロウが別れの挨拶を交わすと
「集!」
といってクリュッタロスが部下を集める。そして、空間転移で悠々と消えていった。
「では、我らも引くぞ。来い、裏切りの竜騎兵!」
そう言ってカインたちも消えていく。白夜とともに。
「白夜のバカーーーーーっ!!!」
カレンが叫ぶがそれが彼に届くことはなかった。
●ED
『軌跡』
作詞・作曲:シャンリークィ
歌:サラ・ディデュモイ
スタッフクレジットとともにキャストクレジットが流れる。
夜の帳の中
粉雪が空から
優しく降りてくる
クロッカ/ホアキン・デ・ラ・ロサ(
ga2416)
シュトゥルムヴィント/ゼラス(
ga2924)
ふわりふわりと舞い踊る妖精たちは
白いキャンパスに描かれた悲しみの記憶を
ゆっくりと覆い隠してく
星河 メイ(ダークキャット)/柿原ミズキ(
ga9347)
イェーガー/イスル・イェーガー(
gb0925)
咲き誇る雪桜が
これはただの夢だと囁いた
ハイン・リーヴェル/チェスター・ハインツ(
gb1950)
月影・白夜/月影・白夜(
gb1971)
けれども ほら
心に宿る氷の楔が
その悪夢が現実(リアル)だと告げている
エオス・アイオーン(シルバー・クロウ)/烏丸 八咫(
gb2661)
カイン/ドニー・レイド(
gb4089)
足が竦む 顔が俯く
今いる場所から動けなくなる
クリュスタッロス/クラリア・レスタント(
gb4258)
シリウス・ブレイダー/アーク・ウイング(
gb4432)
そっと振り返り 見つめるのは
自分が歩んできた
足跡(みちしるべ)
リシア/ウレキサイト(
gb4866)
ニュクス・アイオーン/キャプテン・エミター(
gb5340)
そして ふと気付く
自分が胸に抱いていたモノ‥‥
望み守り抜いた 光
平凡な日常と言う 掛け替え無き宝物に
須藤 ツバメ/安藤ツバメ(
gb6657)
蔵里 真由/望月 美汐(
gb6693)
瞳を閉じ
その温もりを感じ
体が熱を取り戻す
戒めの楔そっと抱きしめ
ゆっくり溶かしてく
レムレース/ファタ・モルガナ(
gc0598)
藍・カレン/サラ・ディデュモイ(gz0210)
ふと顔を上げれば
感じる仄かな温もり
差し込む朝日に溶けてゆく
白き幻影
どんな夜に 夢に
囚われたとしても
必ず‥‥夜明けは訪れる
どんなに冷たい氷でも
いつかは溶けて消える
今 強き羽ばたきに舞い上がる
軽やかな白銀の煌き
透き通る青空に
太陽が輝き
駆け抜ける風が翼誘う
粉雪は白き花弁へと
姿変え幸せな安らぎを歌う
咲き誇る桜の向こう側
揺らめいた過去の幻想
一陣の風が吹き荒び
花吹雪と共に消えてゆく
新緑の風が告げる命の芽吹き
今 この胸に輝くは大輪の花
一歩ずつゆっくりと 歩んでゆこう
現在(いま)を見据えて前へ
機装戦隊ドラグナイツ 第2話 「激動の竜騎兵」
END
制作・著作 グリューン・ムービー