●リプレイ本文
●放課後
「で、問題はどうするかよね、このチョコレートの山を」
サラ・ディデュモイ(gz0210)の宿舎で、こめかみを押さえながらサラが呟く。
「サラさん‥‥暫くはチョコに不自由しませんね」
短期聴講生として学園に入学したシスターのハンナ・ルーベンス(
ga5138)がそう言って苦笑する。
「そのチョコ一つ一つにきっと色々な想いが積まってるんでしょうね。だから、出来れば自分でみんな食べてあげた方がいいかもしれないですね」
サラのクラスメイトで、ドラグナイツシリーズでの共演者のチェスター・ハインツ(
gb1950)がそう言うと、サラは「それが出来る量じゃないから悩んでるんじゃない」と答えた。
「サラさんが貰ったチョコは、原因がどうあれ想いが込められた物なので渡された本人が食べるべきだと思いますよ。でも、サラさんの考え次第だけど、必要なら貰ったチョコを調理加工してチョコケーキにして食べ易い様に工夫等するとかどうでしょう?」
同じく学園の生徒で共演者の月影・白夜(
gb1971)がそう提案すると
「いいわね。あなたお菓子作れるの?」
とサラが訊ねる。
「多少なら‥‥」
そう言って白夜は微笑む。
「じゃあ、チョコケーキ作ってくれないかしら?」
「ええ、良いですよ」
そう言って白夜はチョコを持って調理室の使用許可をとると、チョコケーキを作り始めた。
が、その途中で白夜ファンクラブを名乗る女子一同から多量のチョコを受け取ってしまい、チョコケーキは倍に増えることになった。
また、女性間で話される又は噂されるサラに行くチョコの流れと理由をさり気なく聞いてみる。
「うーん。あの子たち警備任務の時に帰りが遅れているのよね。例のスパイ騒動と関係があるかもしれないですね」
ファンクラブの女の子はそんな貴重な情報を提供してくれた。
「ありがとう」
白夜はにっこり微笑んで女生徒達を熱くさせる。彼自身も感激して狼の耳がピコピコ出ていたのであるが。
「本命である以上、本人が食べた方がいいとは思うのですが‥‥あまりにも量が多い場合はこっそり皆で分けるのもアリと思うのです。ちなみにボクは甘い物が大好きなのですっ!」
鬼灯 沙綾(
gb6794)がそう言って出ていった白夜以外にチョコを配る。自分用も一枚確保して。
「サラさん、女性が女性に告白すると言うことはともかく、彼女たちの思いは真剣なのでしょうから、そこからサラさんと心通う得難い友人ができると良いですね」
「そうですね、聖女様。お友達ならいくらでも歓迎したいです」
ハンナがシスターらしく慈愛のこもった口調で言うのに、サラはそう答える。
ちなみにサラは敬虔なクリスチャンなのでハンナのことを聖女と敬っていた。
「でも、女の子が女の子に本命チョコっていうのは、やっぱりねえ‥‥」
「変ではなかですよハリウッド・レディ。好きになった人が、偶々同性だった。それだけの事。普通なら、だけどねー」
サラがぼやくとファタ・モルガナ(
gc0598)がそう言う。
「ハリウッド・レディ?」
サラが疑問符を浮かべるとファタは「あだ名さねー」と答える。
「あだ名ねえ‥‥そういえばあなたの名前ももとを辿ればケルト神話のモリガン、あるいはモルガン・ル・フェのイタリア語よね。『運命の妖精姫』。それ本名?」
「いやさ、自分は本名不詳、年齢不詳、その他諸々大抵不詳の謎の人なの。元がつまらん人だから。謎の方が魅力的でしょ?」
「つまらないかどうかはともかく、その名前は十分魅力的ね。『妖精さん』」
「どーも」
つっけんどんな答え方が気になったが、サラは話題を変えることにした。
「それで、告白を断るにはどうすれば良いかしら?」
「理由としては『殆ど話したことも無い人をいきなりそういう目で見ることはできない』辺りが妥当なのです」
沙綾がそう言ってから「ただ‥‥」と続ける。
「やめた方がいいのは、同性であることを理由に断ることだと思うのです。性別の問題関係なしに、一人の人間として真摯に応えることが大事ではないのかな、と。『例え貴方が男の子でも私の答えは変わらないわ』的な回答が良いと思うのですよ」
「なるほどねー」
サラが感心する。
「他には?」
その言葉にはチェスターが答えた。
「女優業に専念したいから。殆ど知らないのにいきなりは付き合えないからまずは友達からという感じで断ったらいかがでしょう? あるいは‥‥僕と付き‥‥いえ、何でもないです」
「‥‥ん?」
自分と付き合っているんです、と嘘をついておけば相手も諦めてくれるかもしれないとチェスター考えてはいるが、その言葉は心のうちにしまっておく。
と、そこへ調理の工程を半分終えた白夜が戻ってきて、沙綾からチョコを貰う。
「ありがとうございます。それで、今の話題はなんですか?」
「どう断るか、ということですね」
チェスターが白夜にかいつまんで話す。
「それでしたら、実はチェスターさんと付き合ってるんです。とでも言ってみては?」
「なっ、なっ‥‥白夜さん、きみ、いくらなんでもそれはないと思うよ」
自分が言おうとしてやめたことを白夜に言われ、焦るチェスター。
「そこはそれ、サラさんの気持ちというものもありますし」
「‥‥あたしは、良いわよ。チェスターとなら‥‥」
ぼそっと呟いてサラは照れる。
「え?」
呆然とするチェスター。
「ちょっと待っててね」
そう言ってサラは自分の荷物を漁ると、そこからひとつの包を取り出した。
「はい、チョコ‥‥あたしと、付き合ってよ。返事は騒動が終わってからでいいから、今はそのフリだけでも‥‥それとも、あたしじゃ嫌?」
「良いんですか?」
驚くチェスター。
「いいにきまってるじゃない」
その言葉に照れ笑いを見せるチェスター。
「僕にくれるとは、思っても見ませんでした」
チェスターが複雑な表情で呟く。
「ハリウッド・レディとハリウッド・ボーイのカップルねえ‥‥」
ファタが複雑な心境で呟く。サラ個人にではなく「ハリウッド俳優」という職種に対して、ある種の偏見と敵愾心のようなモノがあるようだ。
(「‥‥全員が『そう』とは言わないさ。でも、どうも相手が裕福層の人種だと思うと、ねぇ」)
と、沙綾の携帯に連絡が入る。紅月 風斗(
gb9076)からだった。
「‥‥はい。わかりました。今からお迎えに上がります」
風斗さんからです。と沙綾は言うと、風斗を迎えに部屋を出ていった。同時に白夜もチョコケーキを作るために再度部屋を出て行く。
「百合が蔓延するのも戦争が終わらないのも郵便ポストが赤いのも、またブラのカップを1サイズ上げざるを得なくなったのも全部バグアのせいなのですよっ!」
風斗に学園内を案内しながら沙綾が本気なのか冗談なのか分からないそんなことを言う。
「アンタやけに気合入ってるが、何かあったのか?」
風斗が沙綾に尋ねると、沙綾は「何でもないです!」と答えた。年上、ことに男性相手だと緊張する体質なので口調がそっけなくなっている。
「広い学園だな‥‥一人だと迷いそうだが、アンタが来てくれて助かった」
「いえいえ、これもお仕事ですから」
「アンタこの学園で迷うような事ないか?」
「最初は迷いましたが、今は慣れました」
「そうか‥‥」
風斗は会話は続くがそっけない沙綾との会話を打ち切ると、女生徒や教師を中心に聞き込みを始めた。
火絵 楓(
gb0095)はピンク色の鳥の着ぐるみをきて背中の悪魔の羽をモーターでピコピコさせながら学校に忍び込み、
「ぎぶみ〜ちょこれ〜と、あと愛も籠ってるとうれしいにゃ〜ん♪」
と叫んでいた。
不審者である。
それを聞きつけてサラが部屋から出て行く。
「うきょきょ〜いサラちんだ〜。楓ちゃんだお? サインちょうだい♪」
「‥‥なにやっているの? まあ、良いけど」
サラは呆れながらも楓にサインを書いて渡す。火絵 楓さんへと宛名が書いているので転売しようとしても高くは売れないが。
「ありがと〜だお。はい、チョコ」
そう言って楓はミニチョコ(メンマ入り)をサラに渡す。
「サラちん、サラちん、ぎぶみーちょこれーと」
サラはこめかみに手を当てて少し考えると、一つ提案をした。
「あたしがもらったチョコ食べない? 量が多すぎて一人で食べるのは無理なのよね」
「食べるお食べるお」
楓が嬉しそうにそう言うのでサラは彼女を自分の宿舎に案内した。
「わーい、わーい」
サラがもらった大量のチョコを手早く片付けていく楓。だが、半分ほど食べたとき彼女に変化が起きた。
「‥‥外、行かなくちゃ」
目が据わり、いつもの軽い調子ではなく呟くようにそういう。
「どうしたの楓さん!?」
「外に行く‥‥」
「ちょっと待って‥‥!」
「離せ」
楓は覚醒をしてサラを振り払う。
「くっ! 仕方が無いわね。ごめんね、楓さん」
サラは覚醒して楓の首筋に手刀を入れる。
気絶する楓。念のために梱包用のビニールロープで縛っておく。もっとも、覚醒すればこんなのはすぐに外れるだろうが。
「食べなくて正解だったわね。何かしら、このチョコ‥‥」
不気味そうにサラはつぶやいた。
「何だったのでしょうか?」
ハンナが不安そうに言う。
「バグアのしわざ‥‥ですかね。でも、チョコの中に催眠物質を入れて操るなんて可能なんでしょうか?」
チェスターが眉をひそめる。
「どうなのかしら? でも、みんなジョークでバグアの科学力は宇宙いちぃぃぃ! とか言っているし、バグアなら可能なんじゃないかしら?」
サラがジョークなのか本気なのかわからないことを言う。
「ともかく、単なるブームと言うことではなさそうですね‥‥」
ハンナがそう言って、「調査をしてきます」と席を立つ。
ファタも「自分も」と言って宿舎を出て行く。
「白夜にチョコケーキを作るのをやめさせないと。食べたらみんなまでおかしくなるわ」
「そうですね。急ぎましょう」
そうしてサラとチェスターも宿舎をあとにした。中には楓だけが残される。
アクセル・ランパード(
gc0052)は、サラに関する噂を集めていた。
「ああ、あのハリウッド女優だろ? 有名人が身近にいるのは嬉しいね」
「ハリウッド女優か。そういえばファンクラブがあるってのは聞いたな」
そして、ファンクラブへとお邪魔する。
「アタシたちはサラさんを応援こそすれど、独占しようとかは考えてないわ。ファンクラブの中にチョコを渡した生徒はいないしね」
そうして噂を収集する中、ハンナが問題の女生徒の一人と接近する。
「あの、サラさんってご存じですか?」
ハンナが以前にサラにチョコレートを渡した生徒にそれとなく声を掛ける。まずは共通の話題のサラに関することから。
「サラさんがどうしたの? って言うか、シスターはサラさんのなんなのですか?」
「お友達です」
「サラさんのお友達なら良いです。恋人じゃなければ」
少女は警戒を解いたように笑顔を見せる。
「お茶でもいかがですか? お近づきの印にご馳走させてください」
「ええ‥‥ありがとう」
少女は微笑むとハンナにしたがって学生食堂まで歩いていった。
「席確保しておいたよシスター」
ファタが食堂で椅子から立ち上がりハンナと少女を迎え入れる。
「人に憧れるというのは、とても素晴らしい事。その人の様に在りたいと願う事は‥‥自らを見つめる事でもあるのですから‥‥」
少女の緊張を解すようにしばらく雑談をしてからハンナは本題に入る。
「あたしは、サラさんが好き。女優じゃなく一個人として、好きなの」
「ふむー。じゃあさ、好きになった切っ掛け‥‥とかは?」
ファタが尋ねると、少女は悩んだ。
「わかんない。気がついたら好きになってた。とにかくチョコを渡したいなって思ってたの」
その答えに違和感を感じたファタはハンナの袖を静かに引っ張る。ハンナも無言で頷いた。
「相手のどーいうとこが好き? 外見? それとも雰囲気? 話し方?」
その質問に少女は更に悩む。
「うーん。雰囲気かな。お姉様になって欲しいタイプ?」
「その好きは『Like(好意)』? それとも『Love(愛情)』?」
ファタの問い掛けに少女は再度悩む。
「わかんない。どっちだろ‥‥」
「そうですね。でも、その好きと言う思いを忘れてはいけませんよ。それはその人を信頼していなければできないことですから」
ハンナがそう言うと、少女は、「わかりましたシスター」と答えた。なにか感情が揺れ動いた気がしたがハンナは察知できなかった。
「そういえば、学園内部にバグアのスパイが居ると言う情報がありましたが、あれってどうなんでしたっけ?」
アクセルの問に、サラのファンクラブメンバーが答える。
「たしか警備任務についている時にまとめてバグアにさらわれたって話だったわね。あたしもスパイあぶり出しの依頼を受けたから少しだけ詳しいんだけど」
「なるほど。それで、そのスパイは?」
「軽度の洗脳で、しばらくリハビリすれば治るってことだったけど、今回の件とは直接関係はないんじゃないかしら? 同じ方法で洗脳されてサラさんに対して何か仕掛けてるってのはあるかもしれないけど」
「参考になりました。ありがとうございます」
●翌日
楓は一晩眠り続け(当たり所が悪かったらしい)その後本調子に戻って今日も怪しく学園内をうろついては警備の人に追いかけられていた。
一方アクセルは休み時間には折を見てサラの様子を確認しに来ていた。
「今はまだ混乱が見られませんが、状況が進むにつれて熱が入って暴走する可能性は否定できませんしね」
そう言って懐に隠してあるハリセンを確かめる。万が一の場合はハリセンでどつき倒すつもりだった。
「該当する生徒は確かに警備任務の際に帰りが遅くなっているな。だが、メモをする、外に出るなどの洗脳者特有の症状は現れていない。別件で洗脳された可能性があるな」
昼休み。沙綾と風斗は引き続き教師に聞き込みを行い、昨日の放課後に作ったサラにチョコレートを渡した女生徒のリストを確認してもらう。するとこのような発言が出てきたのだ。
「バグアの工作の線が濃厚になってきましたね」
「そうだな。一度報告を入れよう。サラの教室はどこだ?」
「案内します。こっちです。乙女心を操るバグアは許せないのです」
そして二人はサラの教室に向かう。そこには折よくメンバー全員が集まっていた。
「‥‥という訳で、バグアの工作の可能性が濃厚になった」
「俺の調査でも似たような話が出ていますね」
アクセルがサラのファンクラブのメンバーから聞いた話を披露する。
「僕も同じような話を聞きました」
白夜も同様の報告をする。
「気がついたら好きになってた。とにかくチョコを渡したいなって思ったって、女の子たちは一様に言っていたね、ハリウッド・レディ」
「そうですね。チョコレートになにか薬物を混ぜてサラさんに渡すような洗脳をかけられているのかもしれません」
ファタとハンナがそう報告する。
「なるほど。たしかにその可能性が高いですね」
それらの報告にチェスターが同意する。
「問題は、なんのために洗脳したかよね」
サラが疑問を提示する。
「以前に映画で共演してますから、近しい間柄と勘違いして大統領に近づける暗殺者に仕上げることもプロパガンダに使えると思う可能性は有ります」
アクセルがそう推理を披露する。
「でもそれならチェスターでも白夜でも良いじゃない。なんでわざわざ女のあたしにチョコを渡さなきゃならないのよ?」
「勘違いしているのかもしれませんね、バグアが。バレンタインの風習とかサラさんの立場とか」
チェスターがそう言う。
別にサラは大統領と親しいというわけではない。
サラは女優でも一般人で大統領は北米の代表。個人的な交流などない。だが、バグアがそれを知るわけもない。
「外に出たくなる、という軽度の暗示がチョコに仕掛けられていたわけだが、そこでアンタを誘拐して軍の情報を引き出すなり暗殺者に仕立て上げるなりしたかったのかもな」
「そうですね。チョコレートを化学分析にかけた方が良いかもしれませんね。なにか薬品が混ざっているか‥‥って、チョコケーキ作ってるんだっけ? どうしたの?」
風斗の言葉に沙綾が反応する。そして沙綾の質問に対しては、白夜が「勿体無いですけど廃棄しました」と答える。
「じゃあ、余ってるチョコを分析に回しちゃいましょう。あとは、女の子たちに断るだけですね」
「理由はサラさんがチェスターさんに告白したってことでいいですね」
沙綾の言葉をハンナが引き継ぐ。
「そうね」
「ちょっと、サラさん‥‥」
サラのあっさりとした同意にチェスターが焦る。もともと情熱的な性格なのでこれくらいではさっぱり動じないのがサラと言う少女だ。
「いいじゃない。事実なんだもの」
「それは、そうですけど‥‥」
「じゃあそれで行きましょう」
白夜が狼耳をピコピコさせながら言う。
「良いのかい? ハリウッド・レディ。ちょっと間違ったらマスコミの餌食だよ?」
ファタが若干心配そうに問うと
「そしたら知名度アップよ」
「ファンが離れていくかもよ?」
「‥‥それも仕方が無いわね。来る者拒まず去る者負わずよ」
「意外ね‥‥」
「なにが?」
「いや、こっちの話しさ。ハリウッド・レディ」
なんとはなしに調子が狂ってサラの言葉にごまかして答えるファタ。
「そ? まあいいわ。ということで、聖女様と妖精姫には私が断ったあとの女の子のフォローをお願いしても良いかしら?
「ええ、いいですよ」
「まかせといて」
「他のみんなは万が一暴動とかにエスカレートした場合の対処をお願い」
「了解です」
白夜が代表して答える。
と、そこへ一人の男子生徒が割り込んできた。
「なあ、サラってチェスターにコクったの? さっき話しが聞こえてきたんだけど」
「えっと、昨日告白したわ。正式な返事はまだもらってないけどね」
サラがそう答えると、男子生徒はひょえー、と奇声をあげて驚いた。
「サラの方からコクったのかよ。意外だな。まーいいや。みんな、ニュースだぜニュース。サラが昨日チェスターにコクったってさー」
男子生徒は教室の外にまで響きわたる声でそういう。
「おー」
「おめでとー」
「けっ、リア充が。爆発しろ」
様々な声が上がる。
教室の外でそれを聞いていたサラ・ディデュモイファンクラブとチェスター・ハインツファンクラブのメンバーが回覧のメールを回す。
すぐにファンクラブのメンバーがサラの教室に集まってくる。
「とうとうくっついたか」
「いやーチェスターさんが!」
「でも仕事でも学校でも一緒だし、いつかはとは思っていたわねー」
みんな勝手なことをいう。
カオスである。
そしてその騒ぎを聞きつけて人が続々と集まってくる。当然チョコを渡した少女たちも。
「いや、サラさんが男となんて」
「そんな‥‥」
「ショックですぅ」
中には気絶する女の子もいたりする。
幸い、暴動は起きずに済んだ。
「みなさん、こちらへ‥‥」
ハンナが少女たちを食堂へと導く。
「たとえ想いが実らなくても、人が人を好きになるということは、素晴らしいことです。憎しみあい、傷つけあうよりは何百倍も素晴らしいことです。どうかその思いを忘れず、新たな恋を見つけてください。そして、できればサラさんの良い友人になって差し上げてください」
『はい、シスター』
少女たちは目を輝かせて唱和する。そこにはなにか強い感情の光が宿っていた。
●更に翌日
「結局、薬物は検出できたけど詳しいことはわからなかったみたいです」
沙綾がサラの宿舎でそう報告する。
「結局バグアの目的はわからずじまいか」
風斗が残念そうに告げる。
「あえて外に出てみるのもありかもしれないけど、そんなリスキーなのはゴメンだし」
とはサラ。
「そうですね。仕事などでも外に出るときは十分に気をつけてくださいね」
チェスターがそう言う。
「それじゃあ、これで依頼はおしまいですか?」
アクセルが尋ねる。
「もうチョコレートを渡してくる女の子もいないし、良いんじゃないかしら? あ、報酬はちゃんと支払うから安心してね」
「さすがお金持ちですね、ハリウッド・レディ」
「そう思うならあなたもハリウッドにくれば、妖精姫。ドラグナイツの第二期がもうすぐ始まるし、キャスト募集しているわよ」
「ん‥‥考えてみる」
「そうですね。テーマ曲も考えないと」
別口で依頼を受けているアクセルがそう言うと、サラは「よろしくね」と言った。
それから――
「今回は学園の案内と調査に付き合ってくれてありがとな、おかげで助かった」
風斗がそう言って沙綾に別れを告げる。
「うん。また依頼で会いましょう」
多少打ち解けて口調が砕けたものになった沙綾がそう答える。
「シスター、お待ちくださいシスター」
ハンナは多数の少女を連れながらサラの宿舎にやってくる。少女たちには入ってこないように言い含めて。
「サラさん‥‥彼女達は素直でとても良い子達です‥‥ならば、私は何処で彼女達への接し方を間違ったのでしょうか‥‥」
男子禁制の修道院で育ったシスターという自分の立ち位置が、多感な少女にはとても眩しく写る事まで察し得なくて、依頼前のサラの位置から動けない事に愕然とするハンナだった。
了