●リプレイ本文
●映画の都
「壮観じゃな‥‥」
「そうだね。僕も結構いろんな戦いに参加してきたけど、生身の戦闘でこれだけの戦力ってのは珍しいかも」
感慨深げにいう巽源十朗(
gb1508)に、風花 澪(
gb1573)が答える。今回のハリウッド奪還作戦。その補給線と退路防衛のために展開された20輛の戦車と60人の歩兵。そして能力者達。なかなかの大戦力である。
「映画好きの俺としては、ハリウッドの解放に尽力できるんなら、どんな戦場でも気合が入るぜ! 兵站維持の為の戦闘? はっ! 望むところだぜ」
そう言ったのは芹沢ヒロミ(
gb2089)である。
「映画の街の奪還ですか。You Aint Heard Nothin Yet! なんてねえ。返して貰いましょう、人間の夢と希望をつむぐ街を」
それに対して早坂冬馬(
gb2313)が音声付き映画の初めての台詞を引用しながら言う。
「そうですねえ。夢、希望どちらも大事ですね。返して貰いましょうか‥‥あの子が見れなかった分まで」
白雪(
gb2228)が幼なじみの形見である二本の剣を持ちながら、一人呟く。
「ま、そんなに構えることはないって。アメリカと言えばハンバーガー。飯が楽しみだぜ!」
立浪 光佑(
gb2422)が大声で言うと(といっても地声らしいが)、巽が「ワシは綺麗なね−ちゃんが楽しみだったんじゃがのう」と答え、そして「まあ、とりあえずは巽源十郎、地獄の戦場を夢の都に戻すために拳を振るってやろうじゃないか」と続ける。
「拠点の防衛をやるのは初めてですね‥‥ですが、気を抜かなければ結果も付いてくるはずです」
リリィ・スノー(
gb2996)の言葉に、シン・ブラウ・シュッツ(
gb2155)は「文字通り、僕達が生命線を握っているわけですね」と答えた。
「その通り。ここが今回の作戦の生命線です」
歩兵中隊を率いるロウガ・スルギ中尉が近づいてきて、声をかけた。
「HOOLLYWOOD‥‥あの山の看板は私たちの誇りであり夢を生み出す場所のシンボルです。それを取り戻すことは、夢と誇りを取り戻すことです。能力者の皆さん、どうかご協力をお願いします」
「お任せください。いかなる敵がこようとも、私たちが退けてみせます。私も映画好きですから」
リリィが決意の込もった瞳で言う。
「それはありがたい。では、よろしくお願いします」
社交辞令ではないリリィの言葉にロウガは感激したらしく、敬礼をしながらそう言った。
●補給部隊を死守せよ
それから一時間ほどたっただろうか、補給物資を積んだ輸送車が、足の速い装甲車両に護衛されながらやってきたのは。
そして、それに呼応するかのようにキメラがやってきたのは。
獣型のキメラが大半だが、その中に人型の、空を飛ぶキメラが混ざっていた。
「敵襲! 総員戦闘準備!!」
戦車中隊を率いるリュウガ・スルギ中尉が命令を飛ばす。
「よし、来ましたね。まずはこちらの射程に入れましょう。射程に入ったら撃ちますので、とどめは芹沢さんお願いしますね。リリィさんも援護射撃をお願いします」
「おう、任せとけ早坂」
「わかりました」
そして敵が近づいてくると、リュウガとロウガが攻撃命令を出した。戦車砲が、ロケットランチャーが火を噴き、キメラに命中する。
「空を飛んでいるのはハーピーのようだね。あとハーピーによく似た違うのがすこし。おそらくハーピーの改良種だと思う」
シンがノートPCで敵の分析をする。そしておそらくは数の少ない方は手強いだろうとも予測した。
「じゃあ、改良品種の方から叩きましょう。今までに聞いた話では、ハーピーというのはそれほど手強い敵でもないはず」
リリィがそう言うとシンが頷いた。そしてUPCの攻撃でバランスを崩し地に落ちたハーピー達が再び飛び立つ頃には、能力者達はすでに敵と戦闘できる範囲に近づいていた。
「芹沢さん、キメラを落とします! 叩いてください」
「了解。任せとけ」
早坂が改良種キメラの周囲に超機械で竜巻を発生させる。それは改良種キメラの周囲にいたハーピーも巻き込んで地面に叩き落す。
「おっしゃ。竜の瞳だ!」
芹沢は竜の瞳を使って狙いを慎重に定めると、起き上がった改良種キメラに拳を叩き込む。しかし相当なダメージを受けたはずの改良種キメラの傷跡が、再生し、瞬く間に塞がれる。
「回復かよ。ちっ! 厄介な能力を持ちやがって!!」
そう怒鳴った芹沢に、改良種キメラのかぎ爪が迫る。慌てて避けようとするが避けきれなかった。腕の皮膚が切り裂かれ、血が流れる。
「畜生。そっちがそう来るなら、こっちもだ!」
芹沢がもう一発拳を叩き込む。しかしそれでも改良種キメラは活動を停止しなかった。
「芹沢さん、いったん引いてください。そいつと一対一でやりあうのは危険です」
リリィの助言にしたがって芹沢は後退する。
「では、私も参ります」
リリィはドローム製SMGを空中の改良種に向けて撃ち放つ。連射の効くSMGを三射して、改良種キメラが回復する間もないうちに蜂の巣にしてしまった。
「ひゅう。さすが。火器マスタリーの名前は伊達じゃないね」
芹沢がリリィの攻撃を見て茶々を入れる。
「私、その呼ばれ方は好きじゃないんですけどね。別な二つ名が欲しいわ」
その間に二匹のハーピーが行動していた。一匹のハーピーは歩兵中隊に向かって体当たりを敢行していた。
体当たりを受け傷つく歩兵。幸い命に別状はなさそうだが一般人である彼らにキメラの攻撃の直撃は厳しい。そしてもう一匹のハーピーはあろう事か輸送車目がけて飛んでいた。直衛の装甲車の銃撃に晒されながらも、ハーピーは輸送車にたどり着いた。そして輸送車はかぎ爪に引き裂かれ、積載していた物資がこぼれ落ちる。幸いそれ以上の被害はなかったが、輸送車両をやられてしまっては前線に大きな影響が出る。
「ロウガ、輸送車をやらせるな!」
リュウガが慌てて歩兵中隊を率いるロウガに連絡を取る。
「分っている。グレッグ小隊、補給車にとりついているキメラを落とせ。ウィンド小隊、クラウド小隊、それぞれ輸送車の直衛に付け。能力者の遊撃組の方々も補給車の防衛をお願いします」
「了解です」
シンがノートPCで輸送車両までの最適なルートを割り出し白雪に伝える。そして輸送車の進路の前に回って車を止める。
「『真白』さん、援護しますのでハーピーをお願いします」
シンがクルメタルでハーピーを牽制しながら言うと、覚醒し、死んだ双子の姉『真白』の人格を宿らせた白雪が、同じく今は亡き幼なじみの形見である二本の剣を持ってグレッグ小隊と共にハーピーに向かって突撃する。
慌てて輸送車両から離れるハーピー。だが、そのことで装甲車両と戦車の砲撃を浴びてしまう。そしてそこにグレッグ小隊の攻撃が飛ぶ。
「とどめ!!」
好機と見て取ったのだろう。『真白』が戦場を一気に駆け抜け、二本の剣を振るってハーピーの体を引き裂く。絶叫を上げてハーピーは地に落ち、動かなくなった。
一方、歩兵部隊に突入したハーピーは哀れにも取り囲まれ、十発以上ものロケットランチャーの攻撃を受けて地面に落ちた。
「かわいそうだけど、僕たちも仕事だからね」
風花が能力を込めた大鎌を振るい、ハーピーを両断する。
「さて、こちらもトドメじゃな」
巽がスコーピオンの銃弾を両断されたハーピーの頭部に叩き込む。それでハーピーは完全に動かなくなった。
「やれやれ、いささかスマートではないやり方だのう」
イタリア製のスーツに身を包んだ伊達男は、原形をとどめていないハーピーを哀れむように見ながらそう呟いた。
現時点でハーピーとその改良種キメラは合計で三匹だけとなっていた。スルギ中尉達や他の能力者の行動のおかげだった。
「軍の人、雑魚は任せたよ!」
立浪は叫んで改良種キメラにソニックブームを飛ばす、そのまま一気に踏み込み両断剣で改良種キメラをその技の名の通り真っ二つにした。
『飛行型キメラはすべて倒した。全員地上のキメラの迎撃にあたれ』
ロウガからの命令が全部隊に飛ぶ。
能力者達も多少のダメージを受けたものの、空中の敵がいなくなったあとの戦闘はスムーズに進んだ。そして、輸送車両が無事戦場を抜けきった。輸送車両を追いかけるキメラは順次潰していく。走り去る補給部隊を追いかけるキメラ達を後ろから倒すのは簡単だった。そして、キメラ達は次第に劣勢になっていき、全滅したのである。
●風去りし後
「だーっ。ジジイは疲れたぞー」
戦闘が終わった後、能力者達は暇をもてあましていた。
巽は煙草を吹かしながら座り込んでいる。早坂も同じく煙草を吸っていたが、スルギ兄弟や他の者達にも煙草を勧めていた。
白雪とシンは白雪の救急セットで傷を受けた者達を治療して回っていた。
「ふわあ、眠い」
風化は早坂を枕に寝の体制に入っている。
「なあ、中尉さん。俺たちも前線に行かないか? ここにいても敵が攻めてくる様子はもうねえしよ」
芹沢はリュウガ中尉にそう言うが、歩み寄って来たロウガ中尉がそれを諭した。
「万が一味方が撤退してきた時は、先ほどより激戦になります。何せ、私達は味方の部隊が完全に撤退するまでここから離れられないのですから。敵がいない今のうちに休憩をしていた方が良いと思いますよ」
「うーん。俺としてはなんとしてもハリウッドを解放したいから、戦力は多い方がいいと思うんだけどよ」
「それならばなおさらです。補給物資はまだまだ運ばれます。その時にまた敵がこないとも限らない。それまでは休んでいてください」
ロウガの言葉に芹沢は何とか納得して、休憩するためにその場を離れていった。
「拠点防衛って、思ったより疲れますね‥‥」
リリィが座り込みながらそう言うと、立浪が「防衛戦って言うのはそんなものだよ」と答えた。
「立浪さん‥‥」
「まあでも、確かに攻める方が楽だよね。時間も場所も選べるから。その点、拠点防衛って言うのは、いつどこから来るかも分らない敵を待ち続けなければならない。これほど大変なことはないさ」
それもそうだとリリィが頷くと、立浪は「休んだ方がいいよ」と告げてどこかへと去っていった。そしてリリィも休憩をするための場所を探しに歩き出した。
それからしばらくのあいだ待機状態が続き、補給部隊が何度もこの補給路を往復したが戦闘は発生せず、戦場から帰ってくる補給部隊から聞く前線の状態は「我が軍有利」であり、それも次第に状況は良くなっているようだった。
そして、退却のためにこの道を使うことはないままハリウッド奪還作戦は終了したのであった。
●それから
戦闘が終わり、補給路及び退路維持部隊は基地に帰りブリーフィングルームに集まっていた。
「んで結局、戦闘はあれだけかよ」
そうぼやく芹沢に、声をかけるものがあった。
「ロスはバグアの侵入を防ぎきれず、治安が悪化していた程度ですからね。他の競合地域に比べれば、敵も十分な戦力を持っていなかったのでしょう」
「あんたは‥‥たしか」
「ヨハン・アドラーです。ドロームの研究員ですよ」
「ああ、そう言えばブリーフィングの時にいたな。で、ドロームの研究員がなんのために戦場にいたんだ?」
芹沢の疑問に、アドラーが答える。現在、質でも量でもバグアが優勢である。ことに技術の差は如何ともし難く、現行の兵器のままではだめだ。だから次世代主力兵器の開発・研究用のデータを取るため、今回軍監として参加したのだ、と。
「で、データの収集具合はどうだったんだ?」
「やはり現在の兵器では敵に後れを取っていることがはっきりしました。今回の結果も試作中のMBTに反映させます。今月の半ばから年末頃には完成しますので、完成後にその披露会とコンペを行う予定です。よろしければ皆様も参加してください」
アドラーはいつの間にか集まっていた能力者や軍人達を見回してそう言った。
「特にリュウガ中尉をはじめとした戦車乗りの皆様方の意見をお待ちしていますよ」
「了解であります」
リュウガが敬礼して答える。アドラーが元少佐と言うこともあってのことだろう。
とにかく、まだまだ戦争は続くとは言え、こうして一つの戦いが終わったのである。今は素直に勝ったことを喜べばいい。
「それじゃあ、能力者の諸君は報酬を受け取ったら解散してくれ。リュウガ、ロウガ両スルギ中隊は反省会だ。しばらく残っていて貰うぞ」
ブリーフィング時にいた作戦士官がそう告げると、兵士達のあいだからはブーイングがあがった。だがそれを二人のスルギ中尉がなだめると、すぐに治まる。とにもかくにも、軍で大事なのは人望と言うことであろう。