●リプレイ本文
傭兵一行はリッジウェイを村の入り口に停止させると降車した。
「よっしゃ、到着や」
エイシャ(gz0282)が訛りの強い英語でそう言うと、アーシュ・オブライエン(
gb5460)が
「では、まずは索敵と参りましょうか」
と冷静に言う。
「見た感じじゃ敵はいないようだな。村が襲われてるときに来なくてよかったぜ」
ヴィンフリート(
gb7398)が周囲を探りながらそういうと、卯月 桂(
gb5303)が同意する。
「そうですね。でも念には念を入れて軽く周囲も見て回りましょう」
桂はそう言ってリッジウェイからリンドヴルムを降ろす。
「探査の眼は‥‥いらないですよね?」
おっとりとした口調で紅桜舞(
gb8836)が言う。
「そうですね、ここで練力を消耗するのももったいないですからね」
ジェーン・ドゥ(
gb8754)がクールな口調で舞に答える。
「それでは、私は村に入るわ。アーシュ、あなたもお願い」
そう言いながらジェーンは村の中に入っていく。それを追うアーシュ。
「さて、俺達はここで待機だね」
マルセル・ライスター(
gb4909)がリッジウェイからミカエルを降ろしながら言う。
「兄貴、気は抜くなよ? いつ敵が襲ってきてもいいようにな」
マルセルの双子の妹のエリノア・ライスター(
gb8926)がリッジウェイからバハムートを降ろしながら声をかける。
「了解」
それに対してマルセルは元気に答える。
「私達も顔見せしたほうが良くありませんか? 後々のためにも‥‥」
沢渡 深鈴(
gb8044)の言葉にエリノアが答えた。
「いきなり大勢で行っても警戒されるさ。とりあえず顔見せはあの二人だけでいいと思う」
そしてジェーンとアーシュが村にたどり着いた。
「何だ、あんた達は?」
村の人々がリッジウェイに気がついて集まる中、一人の男が声をかけてきた。
「私達はラスト・ホープの傭兵です。今回は負傷者の皆様方を都市部の病院まで搬送することと、皆様を脅かしているキメラの退治を目的にきました。よろしくお願いします」
アーシュが頭を下げる。
「そんなこと必要ない! 大体、傭兵なんか信じられるか!」
男が二人をなじる。
「命が大切なら信じてください。救うために来たんです」
「救うって何だよ! 傭兵は戦うのが仕事だろ? それが何を救うってんだよ!?」
ジェーンの言葉に別の男が反論する。それでもジェーンはあきらめずに言葉を紡いだ。
「傭兵は壊すだけが仕事じゃないんです。向こうにいる仲間と軍があなた方を助けますから。だからお願いです。私達を信じてください」
「うっ‥‥」
「怪我人の方は重傷だと聞きます。一刻でも速い病院への搬送が必要なんです。ですから、お願いします」
ジェーンが頭を下げる。
「わかりました。貴方達のことを信じましょう。ですが、家族と離れ離れになりたくない者も居るのです。それはご理解いただきたい」
「勿論です。そのことについてはキメラを倒して、安全になってからもう一度お話します。とりあえず、今はキメラの情報をお聞かせ願えませんか?」
長老らしき老人がそう答えたので、アーシュが彼に尋ねる。
「狼のようなキメラで、大きさは2メートルくらいです。酷く獰猛で、死者も何人か出ています」
「そうですか。それで、彼らの住処は?」
答える長老に尋ねるアーシュ。
「ここから2〜3kmほど離れた森の中ですが、恐ろしいので誰も近づいておりません。ですから、詳しいことはわかりません」
「それで結構です。ではジェーンさん、参りましょう。必要なことは聞きだしました。我々はこれよりキメラの殲滅に入ります」
「わかった。行きましょう」
二人は村人達に頭を下げると、彼らから離れていった。
そして徒歩でキメラの棲家とされている森へ入る。その際、20分立ったら軍のリッジウェイに傭兵が全滅した場合に備えて森へ来てくれるように頼んでおいた。
「偵察終了しました。ここから1kmほど奥に、獣達がいるようです。地形はまあ、ここと同じ森。数は15です」
偵察から返ってきたジェーンが言う。
「わかった。囮作戦だ。マル、足の速いミカエルで単騎突入して敵を引き付け、閃光で目を潰せ。したら突入して、火力集めて一気に殲滅する。‥‥いいな?」
エリノアが双子の兄に向かってそう言うと、マルセルは
「エリノア、俺が犬苦手だって知ってて言ってるでしょ!?」
といって渋る。
「ええから、はよ行け!」
エリノアはそう言って兄貴に蹴りを入れるとさっさと行けと急かす。
「うう‥‥わかったよ。ミカエル!」
マルセルはミカエルを装着すると走輪走行でチャージ・ビーストのテリトリーへと侵入する。
「俺を亡き者にしようとする不穏な気配がする‥‥」
マルセルは何か嫌な予感を感じているようだった。
「よし、行ったな。私達も追うぞ。バハムート!」
エリノアもバハムートを装着するとゆっくりとマルセルの後を追った。
「そうね。リンドヴルム!」
桂もリンドヴルムを装着する。
「早くキメラを倒して負傷者の方々を搬送しましょう!」
深鈴がそう言って駆け出す。
一方そのころ――
「ワンコなんて怖くない怖くない怖くない怖くないこ‥‥やっぱ怖いぃぃぃぃ!!」
マルセルはそう叫びながら盾を剣でガンガンと打ち鳴らしキメラの注意を集めていた。
キメラは全て残さず吠えながら逃げるマルセルの後をついてくる。
「ううううう。怖いぃぃぃぃ!」
そう言いながらもいマルセルは囮としての役割をしっかりと果たし、しばらく走ると味方が見えてくる位置まで来た。そこで閃光手榴弾のピンを抜く。
立ち止まって竜の鱗を発動し、盾で敵の攻撃を防ぐと、20秒間かわるがわる襲い繰るキメラの攻撃を防ぎ、閃光手榴弾を投擲する。
「閃光行きます!」
「了解です〜」
マルセルの叫びに舞が応じて目を塞ぐ。
刹那――爆発――閃光。キメラ達の悲鳴。
マルセルがキメラたちから離れた隙を見て、アーシュの小銃「S−01」が、ヴィンフリートの拳銃「ルドルフ」が、同じく舞のルドルフが、ジェーンのアサルトライフルが、エリノアの超機械「トルネード」の竜巻が、深鈴のスパークマシンαの電撃がキメラたちに降り注ぐ。
3匹のキメラをこの攻撃で倒し、キメラたちの攻撃は目を潰されており出鱈目で一向ににこちらに当たらない。
「エイシャ様、桂様、敵の統率が取れていない今のうちに連携攻撃と参りましょう」
「了解や!」
「はい!」
アーシュの言葉にエイシャと桂が答える。
「円閃!」
「円閃!」
「竜の爪!」
スキルで強化された攻撃が、先ほどの一斉射撃で手傷を負ったキメラに決まる。これでまた一匹、キメラを倒した。
「もう一撃!」
「よっしゃ!」
「了解!」
さらに連携攻撃。それはキメラのフォース・フィールドと防御力をたやすく打ち破りまた一匹キメラを倒す。
「もう一回です!」
「おっけー!」
「行きます!」
行動力を限界まで使っての連携攻撃。これでさらにもう一匹のキメラを打ち倒した。
「舞君、こっちも連携で行こう!」
「了解っす」
ヴィンフリートの提案に舞が頷く。
「これでどうだ」
「逃がしません。強弾撃」
二丁のルドルフが火を噴く。一撃、二撃、三撃。計六発の銃弾を受けたキメラは絶命する。
「何事も、優雅に行かなきゃ、ね」
ジェーンは一人呟くとアサルトライフルを三連射する。それはキメラの生命力を残りわずかのところまで削るが倒すにはいたらなかった。
「エリノア、閃光第二段用意して!」
「わかってる!」
マルセルとエリノアが意思の疎通をさせると、丁度キメラたちが襲ってきた。だが、まだ閃光手榴弾の影響から立ち直っていないので、攻撃は一撃たりとも当たらない。
エリノアが閃光手榴弾のピンを抜き、その間にマルセルが榠櫨で手負いのキメラを切り伏せる。それはキメラの息の根を止めるのに十分だった。
「竜の角発動! 吹き飛べッ! シュトゥルム・ヴィィィィイント!!」
エリノアが超機械「トルネード」の竜巻でキメラを吹き飛ばし、そこにマルセルの榠櫨が決まる。これでキメラを一匹倒す。
「エリノア、もう一回!」
「おうさ!」
そして今度は別のキメラに同じ連携が決まり、もう一匹のキメラも倒す。
「とどめです!」
深鈴はスパークマシンαで深手を負っている二匹のキメラに電撃を加える。そして二匹のキメラは絶命した。
「残り三匹です。エイシャ様、桂様、もう一度連携で全滅させましょう!」
アーシュがそういうと、二人はもう心得たもので、スキルを発動させて残りのキメラ三匹を一気に殲滅にかかる。
「よっしゃ! いっけー!」
「ドラグーンの名に懸けて!」
そして三匹のキメラを殲滅すると、戦闘は終了した。
「あ‥‥閃光!」
そして二十秒遅れてから閃光手榴弾が爆発する。もちろん全員目をガードしていたが。
「終ったー」
エイシャが力を抜く。
「ふぅやれやれこうも群れられるとやりずらいな」
ヴィンフリートも力を抜く。
「‥‥ギリギリ及第点だ。ホレ、馬鹿兄貴。さっさと、周辺索敵」
エリノアはまだ敵がいるかもしれないことを懸念して兄をこき使う。
「了解」
まずマルセルは死骸の数を数える。丁度15。ジェーンの偵察結果と一緒だ。それからしばらく周辺をうろつくがキメラの姿は見られない。マルセルは戻ってきてそう告げた。
「とりあえず任務は終了ですね」
舞がそう言うと、ジェーンが「まだ説得が残ってる」と言った。
「そうですね。負傷者の皆さんをMリッジウェイに運びませんと」
深鈴がそう言って村へと向かって歩き出した。サイエンティストの彼女にとっては、ここからが本番であると言ってもよかった。
と、その時軍のリッジウェイがやってくる。
「傭兵諸君、その様子だと首尾よく行ったようだな」
軍のリッジウェイのパイロットが上機嫌で聞いてくる。
「なんとか、ね」
桂がそう答えると、軍のパイロットはリッジッウェイに乗れと言う。傭兵達はおとなしくそれに従い、帰りは比較的楽をして村へと戻った。
村に戻った一行には、家族との離散を拒む負傷者やその家族の説得が待っていた。
彼らは言を左右になんとか説得しようと試みる。
「心配になる気持ちは分かります。俺だって、妹や両親と離れるなんて辛いですから。でも、愛する人には元気で居てもらいたいですよね。彼らは俺達が責任を持って送ります。‥‥少し時間はかかりますが、元気になって戻ってこれますよ」
マルセルがそう言って優しく微笑む。顔立ちが女の子のように綺麗なマルセルが微笑むと、村の女達は心を打たれたようだった。「それなら家族をお願いします」と申し出るものも現れた。
「はっきりいって危ねぇぞここは。キメラはいったん退治したものの、またいつキメラが現れないとも限らない。あんた達の手に負えなくなる前に、怪我人は都市部の病院へ移すべきだ」
「だけど、お姉ちゃんと離れたくないよ」
ヴィンフリートの言葉に、怪我をした少年は姉の手を握りながらそう答えた。
「あの‥‥確かに住み慣れた故郷を離れるのは寂しいです。でも悪化するかもしれない不安を抱えながら暮らすよりも、一度しっかり治療して完治させたほうが楽しく暮らせると思うんです」
そんな少年に深鈴が優しく言う。
「それから、軍のリッジウェイに9人までなら乗せられる。怪我人の家族全員は無理でしょうけど、代表者を乗せることはできる」
「それなら、私を連れて行ってください」
ジェーンの言葉に、先ほどの少年の姉が言う。
「いいよ。ほかに同行したい人は?」
ジェーンがそう尋ねると何人かが挙手をし、話し合いで9人の代表者が選ばれた。
「怪我が完治したら村に戻れる。けど、死んじまったら、一生戻れなくなっちまうしな。ゆっくり街で療養しな」
エリノアの言葉に、村人達が頷く。
話はまとまった。Mリッジウェイに搭載されている担架で怪我人を慎重に運び込むと、深鈴がMリッジウェイの練成治療で重症のものを手当てする。無論帰路の分の練力は残してある。
「さて、それじゃあ出発するぞ」
リッジウェイのパイロットがそう言ってエンジンをかける。
「つか、れた‥‥眠りたい」
そういったのもつかの間、マルセルがリッジウェイで横になる。
「‥‥兄貴疲れてるだろうし、横にしてやりてぇ。私のバハムートなら練力にも余裕ある。私はAU−KVで帰るよ」
エリノアがそう言ってリッジウェイを降りる。
「仲のいい双子やな。羨ましいわ」
それを見てエイシャが羨ましそうに言った。
「ばっ、馬鹿。からかうな」
エリノアが恥ずかしそうに言う。
リッジウェイの中に笑いが溢れた。
こうして、ダンデライオン財団からの依頼は完了した。
一行は都市の病院に怪我人を搬送するとUPCの基地で報酬を受け取り、ラスト・ホープへと高速移動艇で帰還したのであった。