タイトル:絶対・誘拐・お嬢様!マスター:碧風凛音

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 12 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/07/29 07:30

●オープニング本文


「Goodbye yesterday. Hello, halo tomorrow.やあ、傭兵諸君集まってくれてうれしいよ。俺はUPC北中央軍のサバイバル教官、コードネームチャーリーだ。チャーリーと呼んでくれ‥‥って、そのまんまだな」
 陽気な兵士はガムをクチャクチャ噛みながらそう言った。
「依頼を見て集まっているわけだからすでに内容は承知だと思うが今回はとある大佐のお嬢様の護衛をしてもらいたい。名前はリゼルお嬢様。御年16歳。ま、花も恥らう乙女だな。
 でだ、その護衛つうのが誘拐予告状なんぞを出した馬鹿からの護衛なのさ。無論いたずらの線もありえるが、大佐のお嬢様だけになんとかしないとやばいんだな。そこで今回、改築予定の別荘を使って壮大なトラップを仕掛けることにした。なんとリゼルお嬢様を囮に傭兵諸君がメイドと執事に擬装して護衛。後は大佐の副官役の俺が留守を預かるって寸法だ。
 いま別荘にはお嬢様の部屋だけを残して建物全体を爆破できるようにリモコン式のプラスチック爆弾が設置されてある。無論能力者諸君には害の無いレベルの爆発だがな。その上でさらに別荘内部にトラップを配置して誘拐犯にスリルたっぷりのダンスを楽しんでもらおうってわけだ。なお、今回そのトラップの設置には、誤爆を防ぐために能力者諸君が俺の監督の下でやってもらう。改装工事に擬装してな。ここまでがワンステップだ」
 ではツーステップ目は何かと尋ねるとチャーリーは苦笑いした。
「お嬢様のご機嫌取りだ。この囮作戦には一週間の時間をかけるが、その間お嬢様が退屈しないようにお相手をして差し上げるのも諸君らの仕事のうちだ。なんせ外出はできないし、顔なじみの正規のメイドや執事には出払ってもらうからな。ああ、俺はあてにするなよ? 根っからの戦争屋でね、無粋なんだ。年頃のお嬢様の相手なんぞできないからなー?」
 そう言って笑うチャーリーが憎らしかった。

●参加者一覧

緑川 安則(ga0157
20歳・♂・JG
エインレフ・アーク(ga2707
25歳・♂・GP
辰巳 空(ga4698
20歳・♂・PN
旭(ga6764
26歳・♂・AA
カーラ・ルデリア(ga7022
20歳・♀・PN
Anbar(ga9009
17歳・♂・EP
フェリア(ga9011
10歳・♀・AA
秋月 九蔵(gb1711
19歳・♂・JG
美空(gb1906
13歳・♀・HD
クラリア・レスタント(gb4258
19歳・♀・PN
鹿島 綾(gb4549
22歳・♀・AA
氷室 昴(gb6282
19歳・♂・SN

●リプレイ本文

●トラップ×トラップ
「さて、業者も来たことだし改修工事を始めようか。仕掛けるトラップの予定表をみせてもらったが、これなら問題ないだろう。必要な資材は全部用意しておいたから、思う存分罠を仕掛けてやってくれ」
 チャーリーがそういうと、能力者たちはチャーリーの監視の下でトラップを設置し始めた。

 緑川 安則(ga0157)の罠は閃光手榴弾と赤外線センサーを組み合わせ、センサーに引っ掛かった相手に音響による攻撃だった。これをリモコン式にし誤爆を防ぐ。設置場所は玄関だ。
 安則は物好きにも工事の視察に来ていたリゼルお嬢様に軽く注意点を述べた。
「お嬢様、念のために言っておきますが、閃光手榴弾は対テロ戦の基本です。そのため、夜間は警戒担当のメンバーに赤外線センサーのリモコンを持たせます。よって夜間は玄関から出ないようにお願いします。自爆したいのでしたら脱走は止めませんが」
「何よ、失礼ね。私が脱走するとでも言いたいの?」
 安則の言葉にリゼルは軽く怒った様子を見せる。図星をつかれたからだ。なんと小憎たらしい男だろう。それが安則への第一印象となった。

 エインレフ・アーク(ga2707)の罠は後ろ脚で立ち、両前足で大砲を持つようにハムを抱きかかえるコミカルな黒猫だった。それを台座につけてリゼルの部屋の前に設置する。
「このIFF(敵味方識別装置)を持っていてください。そうすればこのトラップが発動することはないですので」
 エインレフはハムに偽装したセントリーガンから実弾が発射されることを告げ、IFFを手放さないようにすることだけはきつく注意をしておいた。
「じゃないと痛いですからね」
 とはエインレフの言。
「何で私が傭兵に命令されなくちゃならないのかしら」
 とは言いつつも猫のトラップが気になるようでしきりに見まわしている(さすがに触る勇気はないらしい)お嬢様だった。
「ひっ!」
 急にお嬢様が悲鳴を上げる。
「どうしました、お嬢様?」
 チャーリーが尋ねると、「この猫、笑った‥‥」と恐ろしげに呟く。
「そーいうギミックです」
 エインレフはぶっきらぼうに答える。
「あまり趣味が良くないわね」
 お嬢様の心証は悪くなったようだ。

「こんにちは、リゼルお嬢様。あなたの健康管理を担当する辰巳 空(ga4698)です。あ、医師免許はありますのでご安心ください」
 リゼルは丁寧な物腰の空に好印象を持ったようだった。
「ふーん。医者なのに傭兵をやってるんだ。変わった人ね」
「もともとはジュードーをやっておりまして、さらに強くなるために人体のことを学ぼうとしたのが始まりなんですけどね」
「本当に変わった人‥‥」
 空は全ての窓と入り口にセンサーを取り付け、主要なドアに監視カメラとマイクを取り付け、自分のパソコンに有線で繋いだ。また、ドアは金属板とケプラー樹脂で補強した上でパソコンからの遠隔操作で自動的に閉じ、電磁ロックが掛る様に改造。各所に有線式の電話も取り付けた。
「これで誘拐犯が侵入してきても逐一状況を把握できます」
「なるほど、頼もしいわね」
 空の言葉にリゼルはそう言ったが、実はリゼルが退屈して抜け出したときの監視や対策も含んでいることはさすがに内緒にしておいた。
「それから、どこから入っても退避用に設けるドアをロックすれば順路が罠を通って一筆書きになる様にドアや家具類を再配置し、それ以外の窓は本棚等でバリケードを作って塞いでしまいます。相手が爆破などの強硬手段に及んだら意味はないですが、そこまで馬鹿でもないでしょう」
 空はそう言って笑った。
 
 旭(ga6764)はリゼルに挨拶すると、罠の説明を開始した。
「罠は2階の廊下に落とし穴を仕掛けようと思います。落とし穴はお嬢様の体重では発動しない程度の強度を持たせて、大人が通ると1階まで落下するように製作します。道を塞ぎつつトラップとして働く、そんなコンセプトです」
「ということはあたしが歩いても平気なのね?」
「はい。我々が罠を考えるときに決めたのはいかにお嬢様の安全に配慮しつつ侵入者を捕らえるかです。大人の人にはちょっと遠回りしてもらわないとだめですけどね」
「そう。期待させてもらうわ」

「私も落とし穴やね」
 カーラ・ルデリア(ga7022)のトラップは通路に落とし穴(スライムの様な白っぽいローション付き)を仕掛け、一般人のメイドの振りをして誘い込むというものだった。
「昔スラムにいたころはこんな風に大人を罠に誘い込んだやね〜。旭さんのトラップを参考に、お嬢様は発動しないようになっとるから安心してくださいな」
「昔って言うのが気になるけど聞かないことにしておくわ‥‥ところで、さっきも気になったんだけど私が引っかからないようにというのはどういう前提で作っているのかしら?」
「なに、60kgの荷重がかかると発動するようになってるんです。お嬢様の体重やったら大丈夫でしょう?」
 その言葉にリゼルは顔を真っ赤にした。
「と、当然ですわ。私がそんなに重いわけありませんわ」
「わかってますって。私だって乙女ですから♪」
 カーラがそういうとリゼルの機嫌もおさまったのだった。

「俺の罠はリゼルお嬢様の部屋に通じる扉の一つに設置する。扉自体ではなく、扉のノブに連動する形で扉を開けることで発動する罠なんでくれぐれもこの部屋を通らないようにしてくれ。打撲ぐらいはするかもしれないからな」
 Anbar(ga9009)がそういうと、リゼルは釣り目になりながら言った。
「危険な罠じゃないでしょうね?」
「お嬢様、そいつは俺が保障しますよ。殺傷系の罠ではありません」
 チャーリーが代弁するが、リゼルはチャーリーに言われるとますます信頼できないという。
「これでもサバイバル教官の資格を持っているんですがねえ‥‥」
 チャーリーはぼやく。
「あんたがサバイバル教官だってのは、俺は疑わないぜ」
「ありがとう坊や。坊やに千の感謝を‥‥」
 チャーリーはそういって奇妙な祈りを捧げた。

「初めまして、リゼル殿。私はフェリア(ga9011)という者なのです。これからよろしくなのですよっ!」
「よっ‥‥よろしく‥‥‥‥」
 リゼルはフェリアのパワーに押されているようであった。
「何かご用の時は、この呼笛を‥‥(といって鉄くずを手渡す)‥‥こっちはつい先日まで呼笛だったものです、失礼。とにかく呼笛を吹かれ次第、迅速にリゼルお嬢様の元へ移動するのですよ」
 そう言って呼び笛を手渡す。
「トラップはトリモチトラップを1F内の人が通り抜けできる大きな窓に設置するとです。かかった相手が動かなくなるようにするのですよ。あと、ヅラがとれますふふふり」
 フェリアの最後の言葉にリゼルは少し引いた。
「あなた、何気に黒いのね‥‥」
「だれが黒いほうのアブラムシですか!?」
「ちょ‥‥だれもそんなこと言ってないわよ‥‥」
「おお、これは失礼を。ともかく、これで犯人達は一網打尽なのです」
「だといいのだけれど‥‥」
 犯人がその窓を通らねば意味がないことをリゼルは指摘しなかった。

「奴らの傀儡か? まぁ、とんだ阿呆で助かったよ、この時代遅れが」
 秋月 九蔵(gb1711)が予告状に対して悪態をつく。
「んでチャーリーさん、SES非搭載銃器を貸してもらえる? 誘拐犯を捕らえて司直に差し出す必要がある以上、SES搭載だと凶悪すぎると思うんだよね。可能ならオートマ二丁とボルトアクションライフル一丁。大丈夫かな?」
「んー。ビンテージものになるが貸し出せないことはないな」
「OK。使えれば何でもいいよ」
 そういってからチャーリーに礼を言う。
「で、肝心のトラップはどうするんだい?」
「階段を上りきったところに、上からスタンガン付きの網が落下する物を仕掛ける。ワイヤーを張り、それに触れたら作動するようにね。あと、保険としてワイヤーの先のタイルを踏むと同じものが作動するようにする。ってことでお嬢様、この階段は使わないでくださいね」
 九蔵はこのほかにも意地の悪いメッセージを用意しているのだがお嬢様の前なのでさすがに遠慮した。

「新入りメイドの美空(gb1906)なのです。よろしくなのでありますよ?」
「それを言ったらこれからしばらくは新入りさんばかりね。まあ、よろしくお願いするわ。それで、あなたの罠は何なの?」
 お仕着せのメイド服に着替えた美空はそう問われて胸を張った。
「美空の罠は美空自身であります」
「どういうこと?」
 リゼルお嬢様が身を乗り出す。興味を引かれたようだ。
「夜間の邸内巡回を行って誘拐犯を罠のある方に誘導するであります。皆さんの仕掛けた罠を頭に完全に叩き込んで邸内の巡回コースを組み立てて、誘拐犯を誘導。心から引っかかってもらえるように心を砕くのです」
「へえ、面白いけど大変そうね。まあ、がんばってちょうだい」
「はい。がんばるであります」
 美空はそういって敬礼する代わりにスカートの裾を摘んでお辞儀した。
「まあ、可愛らしいこと」
「ありがとうございます」
 まんざらでもない美空だった。

『お久しぶりですチャーリーさん。ジャングルではお世話になりました。隊長さんはお元気ですか?』
 クラリア・レスタント(gb4258)が丁寧にお辞儀した後筆談でチャーリーに挨拶する。大規模作戦関連で部隊のことを心配しているようだ。
「ああ、レディ、久しぶりだね。隊長は元気さ。部隊も何とか維持してる。まあ、あれから南中央軍から北中央軍に部隊の配置換えなんてのはあったがね。レディも元気そうで何よりだ」
『はい』
 それからクラリアはリゼルに向き直ると『初めましてお嬢様。事情故筆談が主になりますが、宜しくお願いします』と挨拶した。
「筆談‥‥ね。チャーリーの言葉は理解できているみたいだし、しゃべれないだけと理解してよろしいのかしら? なんなら手話もできましてよ」
『いえ、私が手話をできませんので。お嬢様は普通に話しかけてくださって結構です』
「わかったわ。さて、それであなたの罠はどんなものになるのかしら?」
 クラリアの罠は他者と被らない地点の二階廊下に設置される。中央に看板があり、そこに立ち止まって十秒以上の加重で発動すると言う仕掛けだ。
「要するにその看板を読んでいると発動するわけね?」
『はい。具体的には金ダライが100個ほど振ってきます。名前を、ドリ符『空から降る一億のタライ』といいます』
「コメディーね。鳴子的要素と心理ダメージが大きい罠ね」
 お嬢様は納得すると次の罠へと向かった。

「俺の罠は、実際に体験したら死ぬよりひどい目にあうだろうね」
 そう言ったのは鹿島 綾(gb4549)で、一見すると居間にスクリンプラーを増設しただけのように見える。
「暴徒鎮圧用のカプサイシンスプレーにヒントを得て作った、“ハバネロやら唐辛子やらをじっくりごとごと煮込んだ激辛汁”が降り注ぐスプリンクラーさね」
 綾の言葉にリゼルお嬢様が顔を青くする。
「それは、体験するのは遠慮しておきたいですわね」
「汁を作っているこっちもきつかったよ」
 と言って綾は遠い目をする。
「コンセントに偽装したスイッチでON/OFFされる仕組みでね、ONにすると、赤外線センサーが作動する。で、そのセンサーに引っかかるとおしまいってわけさ」
「あ、それだけど、こっちのパソコンから遠隔でスイッチに切り替えをできるようにもできますけど、どうします?」
「あー、それなら楽だな。お願いしようかね」
 空の言葉に綾が頷く。遠隔から切り替えできたほうが誤爆する可能性は少ない。と言う事で工事に工程が一つ追加されることとなった。
 
「今日より一週間夜間警備に就かせて頂く氷室 昴(gb6282)と申します。以後お見知りおきを」
「あら、マナーを心得ているわね。あなたなら信頼できそうだわ」
 最後は昴のトラップの説明だった。
「二階へ上る階段から少し離れた正面通路に幅2メートル、深さ3メートルの落とし穴を掘って、さらに、落下後上から投射するワイヤーネットと捕獲を知らせるクラッカーを連動するように設置してる。もちろんこれも60kgの荷重がかかった場合に作動するので、お嬢様は安全というわけで」
「もちろんね。私は50kg以下ですもの」
 妙なところでプライドを刺激してしまったようである。
「さて、トラップはこれで全部ですねお嬢様。傭兵達もお嬢様が間違って引っかからないように注意はしますが、彼らに言われた注意点は頭に叩き込んでおいてくださいよ」
「わかったわ」
 と答えつつ、頭の中ではいかにこのトラップを逆用して脱走するかを考えているリゼルお嬢様であった。

●1日目(2D6=9)
 傭兵達の身の上話を聞いていたリゼルお嬢様だが、やがて退屈を覚えたのかあくびをかみ殺す。
「飽きましたか? それなら卓球なんていかがです?」
 と旭が提案する。
「手加減してくれるならね。傭兵とまともに戦って勝てるわけがないもの」
「もちろんです」
「なら遊びましょう」
 リゼルお嬢様は乗り気になって旭との卓球を楽しんだり、能力者同士の息も詰まる戦いを楽しんだりしたのだった。

●2日目(2D6=7)
 今日のお嬢様の機嫌は比較的穏やかだった。昨日思いっきり体を動かしたことで、顔なじみの執事やメイドのいない環境から来るストレスが吹き飛んだせいかもしれなかった。
 とはいえ運動しすぎたせいか筋肉痛になってしまい、部屋から出るのも億劫だった。
「そんなときこそ美空が持ってきたDVDを見るですよ。時にお嬢様、ジャパニメーションは好きですか?」
「まあ、嫌いじゃないわね」
 その一言で本日はアニメDVDの鑑賞会と相成った。
 そしてさらに美空は持ち込んできたコスプレ衣装をお嬢様サイズに手直しすると、お嬢様に日本アニメのヒロインになっていただいたり、他の傭兵達を着飾らせて‥‥ことに Anbarはひどい目にあったとか何とか(主に女装で)。まあ、最初から三つ編みのメイドに変装してお嬢様の警護をしていたせいもあるのだろうが‥‥‥‥。

●3日目(2D6=6)
「ねえエインレフ」
「なにかごよーですか? おじょーさま?」
「あなたさっき眠りながら歩いていたみたいだけど大丈夫? さっきは柱に頭ぶつけていたみたいだけど‥‥」
 エインレフは歩きながら寝る癖があり罠にかかってしまわないかリゼルお嬢様まで心配する有様だった。
「はい。たぶんだいっじょーぶです」
 ぶっきらぼうなのは元来の性格か眠いせいか‥‥
「とにかく、私を守るのがあなたの仕事なんだから、もっとしっかりしてよね」
「はい」
 今日のお嬢様の機嫌はよろしいようだった。

●4日目(2D6=3)
 今日のお嬢様の機嫌はすこぶるよろしいようだ。綾とファッションの話に興じたりクラリアの占いではしゃぐなど非常に順調に一日は推移していった。

●5日目(2D6=11)
 今日のお嬢様は朝からご機嫌斜めだった。さすがに軟禁生活も5日目になると飽きが来るようだ。
「ねえチャーリー、外に出たいわ」
「お嬢様、さすがに誘拐犯がどこから襲ってくるかわからない状況に持ち込むのは勘弁してください。おーい、傭兵諸君、俺は年頃のお嬢様の相手は苦手なんだ。何とかお嬢様をなだめてくれ」
 チャーリーの情けない悲鳴が響く。
 そんな中九蔵は屋敷の庭で、手入れをしているように見せかけて外を見張っていた。チャーリーの苦境は我関せずである。
「お嬢様、お茶会をしませう。ティーセットを用意してございます」
 フェリアがメイド服を翻しながらお茶を注いでいく。が、
「あいにくと、今はそんな気分ではないわ」
 とすげなく断られてしまう。
「そうなると私もだめかな。珍しい茶葉を調達してきたんだが」
「駄目ね。お茶という気分じゃないのよ」
 安則の提案も断られてしまった。
「そうですね、お嬢様。では、この薬をお飲みください。市販の精神安定剤です。お嬢様の苛立ちはわかりますが、危険の中に自ら飛び込むようなことのなきように‥‥」
 空が用意した薬のなかから精神安定剤を飲ませる。
「よろしければマッサージもいたしましょう。スポーツ整体というものがありましてね、気持ちがいいですよ」
 リゼルお嬢様はその言葉に興味を惹かれたようだった。運動着に着替えると自室のベッドで空の整体を受ける。
「あいたたたた‥‥どこが気持ちいいのよ」
「まあまあ‥‥確かにお嬢様はずいぶんと凝っていらっしゃいますね。まあ、五日間も室内じゃ仕方がないですね」
 そうこうしながら整体マッサージを終えると、リゼルお嬢様は自分の体が軽くなっているように感じた。
「体の歪みを直しましたからね。気持ちいいはずですよ」
「確かに、憑き物が取れたみたいに体が軽いわね。ありがとう」

(2D6=6)

 こうして何とかお嬢様の機嫌は治まった。
 そのあとは昴がマジックを披露し、三、四回やってみせて、種を明かし、教えて練習させる。そして覚えたら次のマジックを続けて時間を稼ぐ。
 そんなこんなをやっているうちに夕ご飯と相成った。
「それじゃあ、お嬢様、マジック用のコインとカードをプレゼントしましょう」
「まあ、ありがとう。これでパーティーで余興をこなせますわ」
 何とか喜んでもらえたようである。
 フェリアが飯盒でご飯を炊き、Anbarがアラブの家庭料理を披露する。屋内ながらも簡単なキャンプ状態にあった。
「この軟禁がとかれたら、皆で一緒に! 星空の下で、一緒にキャンプしようなのです!」
「そうね。それも楽しいかもしれませんね」
 フェリアの言葉にメイドになりきったAnbarが同意する。
「別に着たくて着る訳じゃないからな。これはあくまで偽装の為だぜ。こんなに若い執事は居ないから、仕方なくなんだからな」
 などと最初は言っていたものだが、慣れとは恐ろしいものである。
 そして、6日目。

●6日目(2D6=3)
 お嬢様の機嫌は非常に良い。あと一日でこの軟禁生活も終るし、思ってたよりは面白い時間だったからだ。傭兵達の昔話や経験談、各種の出し物、さりげない話題といった数々のものに支えられてお嬢様の生活は潤ったものとなったのだ。
 だが、その日の夜、ついに警戒をしていた誘拐犯と思しき集団がやってきたのである。
 自前のメイド服を華麗に着こなしていたカーラが、その兆候を発見した。窓辺から茂みが不規則に動くのが見えたのである。
「お客さんやね。数は5。さすがに正面玄関やなく勝手口から入ってくるようね」
 誘拐犯たちは勝手口の鍵を開けたが、扉を開けて絶句した。巨大な食器棚で塞がれていたのだ。
「はいはい、ご苦労さん。さて、次はどこから来るかね?」
 今度は客室脇の一番大きな窓ガラスを切って穴をあけ、開錠してから窓を開ける。
「お、うまく引っかかりそうやね」
 カーラが興味津々と言った様子でモニタを覗き込む。
 先頭の一人が窓をくぐって中に入り込もうとした瞬間、フェリアの仕掛けたトリモチトラップが発動した。
『な、なんだ?』
 客室の扉に設置したマイクから男の声が聞こえる。
『ふぬ〜っっっっっっ‥‥‥‥ふん!』
 男が力んだその時だった。カツラが取れたのは。
「おほほほほほほほほほほほ」
 お嬢様の笑い声が響く。じつに愉快であった。自分を誘拐するなどと予告状を出して、軟禁生活を余儀なくした元凶が無様な姿をさらすのは、この上なく愉快であった。
「正面玄関の見張りに連絡。その場所から離れてセンサーをオンにしてください」
 これで誘拐犯たちは窓から入るのをあきらめるだろう。後は正面玄関から入るしかない。
 正面玄関で見張りに立っていた傭兵達は外の茂みに隠れている昴に連絡をいれ、万が一誘拐犯が逃げ出してきた時のためにそのまま待機してもらうことにし、屋内に戻った。そして誘拐犯たちが正面玄関に近づくと‥‥
 ドーン!!
 閃光と爆音。閃光手榴弾が爆発したのだ。
「さて、先手必勝。お嬢様を守り抜くぞ」
 安則はS−01を手に取ると誘拐犯を迎撃に出た。
 エインレフは、お嬢様が安全な自室にいらっしゃるのでそのままそこでお嬢様のガードをすることになった。
「おじょーさま、IFFはお持ちですね?」
「ええ、持っているわ」
「けっこうです」
 それだけを確認するとぴこぴこハンマーを構えた。
「それは何かしら?」
 ぴこハンを見てお嬢様が尋ねる。
「非殺傷用の武器です」
「そ、そう‥‥」
 まじめな顔でぶっきらぼうに答えるエインレフにリゼルお嬢様はそう返すしかなかった。
「さて、中に入りましたね。まずは綾さんのトラップにかかっていただきましょうか」
 そう言って空は扉を操作する。
『うお、なんだ? 扉が勝手に‥‥』
『遊園地のアトラクションやゲームじゃあるまいに‥‥なんだよこの邸のつくり‥‥』
 無論遊び心と悪意たっぷりのトラップ邸である。
 誘拐犯たちは誘導されるままに居間に入っていった。そしてスプリンクラーのスイッチがオンにされる。
『うわーっ!』
『ぎゃーっ!』
『ひぃ』
『死ぬ死ぬ死ぬ』
『助けてくれー!!』
 悲鳴が響く。ちなみにモニターは真っ赤に染まってしまった。
「おっほほほ、愉快、愉快ですわ。これで少しは溜飲が降りるというものです」
「お嬢様‥‥あんた結構黒いな」
 綾は、自分の仕掛けたトラップに引っかかった誘拐犯が苦しむさまを見て喜んでいるリゼルお嬢様に、空恐ろしいものを感じていた。
「誰が黒いほうのアブラムシですか!」
「それはフェリアの台詞ですとよ‥‥」
 綾と一緒にお嬢様の部屋で周囲を警戒していたフェリアが台詞をとられてしょんぼりする。
 旭が部屋から出て自分の仕掛けたトラップの前に座り込む。剣と銃を脇に置きながら。
 カーラはメイド服を翻しながら居間の前に立つ。その間にも扉は操作されて、居間から進むとカーラのトラップにたどり着くようになっている。
 居間から出てきた誘拐犯たちはカーラの姿を認めると逆上して襲い掛かってきた。
(「ああ、この匂いだけでも駄目だわ!」)
 格闘戦で犯人を捕縛しようとしていたカーラだったが、誘拐犯たちと居間から漂ってくる匂いに瞬天速を使って逃げ出す。無論それと悟らせないように挑発も忘れない。
「ほらほら、お間抜けさんたち、あたしはここよ!」
 罠の上を一瞬ですり抜け、銃を構える。
 だが銃を発射するより早く落とし穴のトラップが発動する。
 誘拐犯たちの悲鳴が響く。ローションまみれになった誘拐犯たちは滑りながら上りながら落とし穴から脱出すると、目の前にある階段へと向かう。だが今度はそこで昴の落とし穴が発動する。
 誘拐犯の一人がそのトラップに引っかかった。深さ3メートルの落とし穴へ落ちて全身をしたたかに強打したあと、投射されたワイヤーに身を絡めとられ、さらにいくつものクラッカーが耳元で爆発する。そして、落とし穴の壁面には一面「無駄無駄無駄無駄無駄ァ!!」と書かれていた。これは穴に落ちた誘拐犯の戦意を削ぐのに十分だった。
「わりい、脱出は無理だ」
 罠に嵌った誘拐犯はそう仲間に告げると、先を急ぐように促した。
 それから誘拐犯たちの一人が階段を上りきったところで慎重に張られたワイヤーに引っかかった。
「くっ!」
 引っかかった誘拐犯は仲間をワイヤーの先に押し出すと、自身はスタンガン付の網に引っかかった。その誘拐犯が目にしたものに、網に貼り付けられた一枚のメッセージカードがある。
『Welcome to MOTEL HELL、防腐剤を使っていないソーセージにでもなってろ』と書かれたメモ。自分はここで死ぬのか、と覚悟したが電流が流れ続けるだけでスタンガンの威力がそれ以上に強くなる様子はない。
「俺はいい。先に進め!」
 そのメッセージがブラフであるとわかって安堵した誘拐犯は仲間に先に進むように告げる。が、今度は廊下の中央に立て札が立っていた。誘拐犯たちは思わずその立て札のメッセージを読む。
 曰く
【ご苦労だった‥と言いたいところだが、君等には消えてもらう。
 貴様等は知らんだろうが我が一週間の生活はここで勝利と言う終焉を迎える。
 これから貴様等はなんの手助けも受けず、ただひたすら、死ぬだけだ。
 どこまで もがき苦しむか見せてもらおう。】
 無慈悲なメッセージだった。そして十秒以上そこに荷重が加わったことによりトラップが発動する。
【死ぬがよい 】
 それが文章の最後だった。
 そして天井から大量のタライが降ってくる。
『あいたたた』
『なんだこりゃぁ』
『駄目だこりゃぁ』
『次行ってみよう』
 ドリ符『空から降る一億のタライ』の効果は確実であるようだった。
「おっほほ。さすがクラリアね。これほどの心理的ダメージを与えるトラップだとは思わなかったわ。主に私に‥‥ゴホゴホ」
 笑いすぎて咳き込むリゼルお嬢様。
『ノリノリで作りました‥‥』
 意外な一面が発揮されたようである。
 タライが降り注ぎ終わると、誘拐犯たちはなんとかモチベーション(?)を回復して先に進み始めた。
 だがそこで待っていたのは、あくびをかみ殺すメイド服の少女(美空)と武器を構える旭であった。
 当然のように襲い掛かる進歩のない誘拐犯。そして床が抜ける壮大なトラップが発動した。
 そして一階まで落ちる誘拐犯たち。それを追って旭と美空も飛び込む。
「SES搭載兵器は一般人を軽く殺せちゃうから気をつけてね」
 カーラの忠告が間一髪で届く。
 旭と美空はSESをオフにして誘拐犯たちに攻撃を加えるが、あっさりと骨を砕く。
 悲鳴。
「いい加減にしないと、殺るよ?」
 包丁を突きつけてのカーラの恫喝が効いた。誘拐犯たちは降伏する。
「住居不法侵入の現行犯で逮捕する。貴様達はこれから軍事裁判にかけられる。なお、誘拐未遂の罪状も付け加えられる!」
 最後にチャーリーが登場して締めるところを締める。
「変態が捕まったか‥‥」
 昴の言葉に誘拐犯たちが反発するが、「いい歳した大人が16歳の少女を攫いに来てるんだ。変態で十分だろ?」との言葉には反論できなかった。
 そしてカーラが
「さて、お嬢様。色々と楽しかったやね。あんまりお父さんを困らせちゃダメよん? ‥こんな時代なんだから、ね?」
 というと、リゼルはおとなしく頷いた。
 
「さて、お前さんたちの目的やなんかは軍事裁判で聞かせてもらおう。背後関係も含めてな‥‥」
 生粋の戦争屋の顔でチャーリーが言うと、誘拐犯たちは十二分に怯えた様子で頷いた。
「傭兵諸君、ご苦労だったな。今応援を呼んだ。もうすぐこいつらは法廷に引っ立てられる。この邸は三日後に爆破予定なんで、それまでの間ここで休暇でもとってくれ。その間の食事はUPCが保障しよう」
 その言葉に最も喜んだのはフェリアで、最も多く食材を消費したのもフェリアであったことは、付け加えなくてもいいだろう。