●リプレイ本文
その夜、文字通り基地は燃えていた。
「随分繰り出して来たものだ」
御山・アキラ(
ga0532)が飛んでくるキメラの群れを見上げて言う。そして覚醒して貫通弾入れた弾倉をSMGに入れると、戦闘を開始した。
「暗いな」
そう言ってランタンをつけようとしたとき、基地から四方八方に照明弾が発射された。
「これはありがたい」
「総員対空戦闘準備! ボム・ビートルは生体ミサイルと同じようなものだ! 見つけ次第叩き落とすんだ。ここの物資、戦闘車両は後の大作戦に不可欠だからな」
緑川 安則(
ga0157)が叫ぶ。まったく性質の悪いキメラだった。
「アキラちゃん、2−Bにボム・ビートル。そっからの距離は3、銃の射程内だ」
蒼河 拓人(
gb2873)が軍とチャンネルを合わせた無線機で状況を把握しながら、味方にボム・ビートルの位置を無線で知らせていた。
「了解」
アキラは指示されたポイントを見るが、ボム・ビートルはほかのキメラの陰に隠れたままだった。
しかしアキラはまず三発の銃弾で邪魔なキメラを落とすと、盾がいなくなったボム・ビートルに対して銃撃を加える。ボム・ビートルはその場で爆発すると地へと落ちた。
「ほかに爆弾は?」
「近くにはいないな。周囲のキメラを掃討してくれ」
そう言われて、兵士に踊りかかろうとしていたキメラを打ち落とす。
「すまない、助かった」
兵士が礼を言う。
「戦車部隊が弾幕を張るらしい。弾幕を抜けたキメラの撃墜を頼む」
拓人は後衛の三島玲奈(
ga3848)にそう告げる。
「‥‥承った! 人間高射砲準備ヨシ。構え筒!」
『撃てーっ!』
戦車部隊の一斉射撃が始まる。だが弾幕をすり抜けてボム・ビートルが突っ込んでくる。
「ボムキメラ! ゴールは渡さんぞ」
玲奈のアンチマテリアルライフルが火を吹く。
一発目は外れる。
「慣性制御を持たないキメラなら進路予測は容易な筈だっ」
二発目で命中してボム・ビートルを撃沈する。
三発目で群れからはぐれたキメラを狙う。これも落とす。
「よし。数はともかく質はたいしたことないな」
「安則君、4−Cにボム・ビートル×2。そいつも射程内だ。落としてくれ」
丁度補給物資を積んだトラックのそばだ。安則はトラックの上に載ると全スキルを発動してドローム製SMGの引き鉄を引いた。
一射目、命中。
二射目、命中。
空中で大きく爆発する。
「よし、落とした!」
「シリウス君、1−Eにボム・ビートル×2。射程からちょっとずれてるけど宜しく!」
射程距離から10メートルほどずれた地点にボム・ビートルがいた。
「心得た」
そしてボム・ビートルは丁度倉庫を狙う進路にいた。
「奴らの狙いはアレか‥‥好き勝手をされる訳にはいかぬな」
シリウス・ガーランド(
ga5113)は一気に移動するとアサルトライフルを全力で撃つ。
そして二匹とも落とすと、輸送車両に突撃しようとしていたハーピーを見つけ、それを落とす。
「次!」
シリウスは一瞬たりとも気を抜く気配を見せず、次の戦闘区域へと移動する。
「シフォンちゃん。そのキメラの後ろに爆弾がいる! 気をつけて!!」
拓人は軍からの情報を受けて慌ててシフォン・ノワール(
gb1531)に情報を流す。あまりにも接近しすぎていたからだ。
「‥了解。これで‥撃ち抜くッ‥!」
貫通弾と強弾撃で攻撃の威力を挙げてまず右手のS−01で障害になっているキメラを落とす。
それから左手のS−01でボム・ビートルを落とす。
「よし‥‥っと、うわっ、こっちに来た!」
味方の防衛網をすり抜けてボム・ビートルが一匹、拓人に向かって、正確には拓人が屋根に乗っている輸送車両めがけて飛んでくる。
強弾撃で威力を挙げるとアラスカ454を放つ。
それは違うことなく標的を打ちぬき、輸送車両に到達する前に爆発させる。
「ふう。戦車隊が第二射を行う。キムム君(
gb0512)、すり抜けてくる敵に気をつけて!」
安堵する暇もなく仲間に情報を伝達する。
「了解」
戦車、自走対空砲、そして戦車随伴歩兵の一斉射撃が空中に弾幕を張る。
「分厚い弾幕だが‥‥拓人さん、接近してくるキメラは?」
「敵右翼方向からそちらに向かってボムが1、他飛行キメラが1!」
「了解。2−D方面だな」
キムム君は飛んでくるキメラを視認し銃を構える。
「狙い撃ちさせてもらおう‥‥そこだ!」
素早く迫ってくるボム・ビートルに向かってグロリア改を撃ち放つ。
それはボム・ビートルを打ち落とす。だがその間に飛行型キメラが突撃してくる。
銃では近すぎると判断するとイアリスを構えて、独自のフェイントを交えて剣を振るう。
「見えるか、霊夢斬!」
フェイントに虚をつかれたキメラはその斬撃をまともに受け、二枚におろされて地に落ちた。
「ふう‥‥」
慣れない銃での攻撃にも成功したので安堵の息を流す。だが、そこに再び拓人からの通信が入った。
「キムム君、1−Dに爆弾が一匹! そっちに高速で向かってる!」
「了解! 確実に、撃ち抜く!」
キムム君は向きを変えると、ボム・ビートルに慎重に狙いをつける。
「ファイア!」
果たしてそれは命中した。
爆発するボム・ビートル。
しかし爆発の痕はすぐに消え去り周囲に被害は及ぼさない。
「装甲が薄くて助かるな‥‥」
機動性も他のキメラと比べるとずば抜けているが、傭兵たちにとっては見切れないほどではないようだった。
「流君、3−Hにボム・ビートル3です」
鮫島 流(
gb1867)に拓人からの情報がはいる。
「よっしゃ。弾幕で追い払ったる。悪いけどここはお前達の来ていい場所じゃない‥‥散れっ!!」
流がガトリング砲で対空掃射をおこなう。
それは密集するところに突撃するというボム・ビートルの性質の逆をついた形となり、まとまって突っ込んでくるこのキメラを一斉に撃破する。
「おし。やったで!」
『ザザ‥‥ボム・ビートルの数は残りわずかだ‥‥傭兵諸君にはすまないがもう少し踏ん張ってくれ‥‥』
そこに軍からの通信が入る。戦車随伴歩兵隊隊長ロウガ・スルギ大尉の声だ。
『了解!』
各所から傭兵の声が返ってくる。
他のエリアで戦っている傭兵たちもボム・ビートルを優先で叩いているため、物資への被害は少なかった。
ボム・ビートルの次に問題になっている再生能力を持つキメラ、ノーブル・ハーピーなどによって多少の人的被害はでていたが、『アストレイアプロジェクト』の一環で開発された『医療後送車』によって回収されて応急処置を受け、基地内部の病院施設へと運ばれていく。そのため負傷者は多かったが死者は今のところほとんどいないといってよかった。
また、Mリッジウェイが優先的に重傷者を受け持っていたため重傷者も比較的少なかった。
Mリッジウェイ(メディカルリッジウェイ)とは、ダンデライオンの支援を受けてドロームが開発した緊急医療設備搭載の後方支援型KVである。
超機械で練成治療をある程度再現し、主にダンデライオン財団の突撃医療部隊AMT(assault medical troop)の専用機として南北アメリカ大陸を所狭しと活躍しているほか、UPC南北中央軍にも数機納品され、実験的に最前線での後方支援の任務についている。
性能的には申し分ない医療能力を持っているのだが、コストパフォーマンスが悪いため量産化は見込めない。だが、『わが任務は他者の生還にあり』という不動の信念を持つ、元アメリカ軍の救難回収部隊を基にしたUPC北中央軍の特務部隊などからは量産化の打診は多い。
ともかく、予測されたほどの犠牲がないのは『War of Independence(独立戦争)作戦』にとって良い影響を与えるだろう。何せこの基地にいる部隊や物資はこれから五大湖へと向かうのだから。
「アキラちゃん、4−Aにボム・ビートル2匹。もう少しだって言うしちゃッちゃとケリつけよう」
「了解」
アキラは大きく移動してボム・ビートルの行く先に回りこむとSMGを連射した。
アキラのずば抜けた身体能力ならほとんどのキメラを撃ち漏らすことはない。その例に漏れず、ボム・ビートルもあっさりと撃ち落とした。
「玲奈チャンの正面にボム・ビートル2匹。あと少しだから頑張って」
「ラジャー。一斉射撃、人間対空銃座玲奈最大火力。ファイア!」
アンチマテリアルライフルが火を噴く。これも問題なくキメラを撃破する。
「ふっ‥‥私が撃つ物は万死に値するのさ」
二人は残した余力で他のキメラも狩っていた。そして――
『こちら基地司令部。ボム・ビートルの全滅を確認した。よもや恐れるものは何もない。残敵を掃討せよ!』
歓声!
雄叫び!
UPC軍が一気に勢いづく。それに合わせて傭兵たちの活動も防勢から攻勢に変わった。積極的に前に出てキメラを叩き落していく。
「ボムビートルの撃破を確認? それでは残敵掃討戦に移る。残りは自己再生能力を持つハーピーなどだ。落ちついていけば問題ない」
安則が一匹一匹確実にしとめながら残的の掃討を行っていく。
「我の受け持ち範囲の敵は掃討した。さらに次の戦域に移る」
シリウスは最後まで戦う意思を捨てずに多くの敵を撃破して行った。
「‥‥物資、守りきらないとね」
シフォンは後方で味方が撃ち漏らしたキメラを撃ち落としながら戦闘を続行して言った。
「さて、そろそろお帰り願おうか‥‥もっとも、ただで帰す訳にもいかないけどね」
拓人は相変わらず味方に物資に近づいたキメラの位置を知らせながら自分でも両手の銃でキメラを屠っていた。
「どいてな。夢見幻想‥‥霊夢斬!」
キムム君は一般兵に近づく飛行型キメラを相手に剣で戦っていた。
「助かった‥‥」
兵士が礼を言うが、キムム君はクールに答えて次の敵へと駆けていく。
「唸れ、グラファイトソード!」
流は主に同じく剣を使うキムム君と連携をとりながら飛行型キメラを各個撃破していった。
そして‥‥‥‥
『こちら基地司令部。敵の全滅を確認した。繰り返す。敵の全滅を確認した。兵士諸君、傭兵諸君、ご苦労だった。基地と物資は守りきれた。負傷者は直ちに軍病院および最寄の治療設備で治療を受けてくれ』
戦闘が終了した。
「お疲れさん〜危なかったけど何とか皆無事みたいやな」
「そのようですね。お疲れ様です」
流の言葉に、どこから表れたのかヨハン・アドラー(gz0199)が答える。
「あ、ヨハンさん、どこおったん?」
「私ですか? 指揮車両の中で戦闘を監査していました。ドローム閥のオリム閣下のお力を頂きまして、軍監としてこの戦闘における一般兵器の動きなどを観察していたのです」
「へー。そうや、アストレイアに興味あるんやけど見ていいですか?」
流の言葉をヨハンは快諾する。
「大規模作戦が収まってきたらドローム本社のほうでアストレイアプロジェクトの開発依頼を出す予定ですから、よろしければその時にもいらして下さい」
「ああ、時間があったら参加するわ」
そういうと流はアストレイアの中に消えていった。
キムム君は戦闘前にスナイパーから教えてもらった銃の手入れの仕方を早速試そうとしていた。そして‥‥
「うぐぉっ!?」
暴発してしまった。
「まぁ、キメラが爆発しなかっただけマシかな‥‥」
「そうですね、キムム君」
いつの間に近くに来ていたのか、拓人がそれを見て笑う。
「‥‥だからやめておいた方が良いと言ったのに‥‥」
キムム君に銃の手入れの仕方を教えたシフォンがクールに言う。
「そうだな。いきなり慣れないことはするものではないな」
シリウスが同意する。
「それにしても、作戦が成功してよかった。この物資が第二次五大湖攻略戦を成功に導くといいな」
安則が作戦が無事に終わったことに対しての安堵と展望を述べる。
「戦車部隊も結構無事でしたし、本当に良かったです」
指揮車両を狙うキメラを排除しヨハンの命を救った玲奈がそう言うと、ヨハンは「いやあ、あの時は助かりました」と礼を言う。
一応後方にいた指揮車両ではあるが、飛行キメラ相手の場合はあまり後方でも意味がなかったようであった。
「アドラー氏、周辺の負傷者の応急処置は終わったので基地修理を手伝いたいと思うのだがよいだろうか?」
「おまかせします。はい」
「了解だ」
アキラは短くそう言葉を交わしたあとは基地の修理の手伝いへと移った。そして――
夜明け。
『兵士諸君、傭兵諸君。夜を徹しての作業ご苦労だった。各人スケジュールにしたがって、食事、入浴、睡眠をとってくれ。この基地はまだまだ物資の集積と移動を行う。防衛部隊の諸君、宜しく頼むぞ』
基地司令部のこの放送と共に作業は終了し、兵士や傭兵たちは休憩に入ったのであった。