タイトル:【8人】8人の傭兵マスター:碧風凛音

シナリオ形態: シリーズ
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/06/11 05:18

●オープニング本文


 「君」はここしばらく仕事をしていなくて財布が軽くなった傭兵だ。
 何か良い仕事はないかとLHの依頼情報を物色しているがめぼしいものがない。
 なぜなら「君」が探しているのは楽で収入がそれなりの仕事だからだ。

 急に「君」が覗いているモニターに新しい依頼が舞い込んでくる。
 それはリゾート地の洞窟で地元の少女が行方不明になったという事件だった。依頼人はその少女の祖父。
 受けてみるかとも思ったが、報酬の金額を見て考え込む。8万C。一人頭ではない。全員で8万Cなのだ。しかもそこに最近かなり凶暴なキメラの群れが住み始めたらしい。
 オペレーターにどうするかと尋ねられて、危険に報酬が見合わないからと断った「君」は、仲間の傭兵に良い仕事がないかを尋ねるために本部をあとにする。
 そして、本部の外で不良集団に絡まれている老人を見つけるのだ。
 正義の心に駆られて「君」は老人を助ける。そしてその老人の話を聞くと、先ほど君が断った以来の依頼主だった。老人は「君」の友人の傭兵と個人的な知り合いで、その伝でどうにかならないかとわざわざ高速艇でLHまでやってきたのだ。
 老人は「君」の友人に話を持ちかけるが、やはり危険度と報酬が見合わないと断られた。
 「君」は老人にいくら出せるかと尋ねる。
「ULTに提示した以上の金額はだせません」
 それに対し「君」は「生憎と今懐が寂しくてね‥‥」と答える。
 しかし自分一人では無理だ。まずは仲間を集めないといけない。そして「君」は友人の傭兵の兵舎の玄関を開いた。
「あなたはULTにもう少し詳細な情報を提供してくれないかな? キメラの種類や数とか、その洞窟の地形。出来れば簡単な地図も欲しい」
「わかりました。宜しくお願いします」
 老人は頭を下げると、本部へと向かって歩き出した。
「さて、どうするかな」
 「君」には友人の説得をはじめとした仲間捜しの使命が待っている。しかも迅速に。

●参加者一覧

綿貫 衛司(ga0056
30歳・♂・AA
諫早 清見(ga4915
20歳・♂・BM
鈍名 レイジ(ga8428
24歳・♂・AA
フェリア(ga9011
10歳・♀・AA
美空(gb1906
13歳・♀・HD
トリシア・トールズソン(gb4346
14歳・♀・PN
テト・シュタイナー(gb5138
18歳・♀・ER
ナンナ・オンスロート(gb5838
21歳・♀・HD

●リプレイ本文

●3日前
 事は3日前にさかのぼる。
 一仕事終えて、報酬もたんまり入った重い財布を抱えて歩いていた美空(gb1906)は馴染みのレストランに入った。義兄と二人暮らしで貧乏(報酬はすべて傭兵のあれやこれやにつぎ込んでしまうため)ながらもつましい暮らしをしている美空にとっては任務後の食事はひそかな楽しみの一つであった。
 その日もいざ勘定を払おうとした瞬間、気がついたのである。報酬でパンパンに膨れた重い財布がなくなっていたのだ。原因は使い古しの衣服のポケットの底が抜けていたというよくあるもまぬけな話。その場は、ツケで丸く収まったものの、どこを探しても、無い、無い、無いの連続であった。
 悪いことは重なるもので、カードも住居の鍵も財布に入ったままであり、同居の兄上も実家に帰っていて長期の不在。兵舎の借金できそうな友人も任務で不在の三重苦。すきっ腹をかかえてLHを歩く美空に吹く風は冷たかった。

●老人
 金欠で腹を減らしていたフェリア(ga9011)は依頼を見終えて本部をあとにしようとしたところで女性オペレーターに呼ばれた。
「ねえ、あなたこの前財布落として言ったわよね。ほら、これ」
 実はこれ、美空が落とした財布であったのだが、背格好と年齢、髪の色が似ていると言うことで間違われたのである。
「中々入っておるのう。ククク、これが在れば私のツケ全て払え‥‥む、視線を感じる‥!」
 こんな独り言を本部で言っていれば視線も集まろうと言うものである。フェリアは気を取り直して再度依頼を探し始めた。
「むー。しけた依頼しかないのう。これではツケを払ってしまったら終わりではないか」
 そうぼやくフェリアの目の前に、新しい依頼が流れてくる。それはリゾート地の洞窟で地元の少女が行方不明になったという事件だった。依頼人はその少女の祖父である。
「あう‥‥3連敗かぁ。さて、今週どうしようかなぁ‥‥」
 3回続けて依頼の受注ができなかった諫早 清見(ga4915)が、おもわず思っていたことを声に出してしまってあわてて周囲を見回す。そしてフェリアと目が合い、笑ってごまかし、退散した。
「なんなのだろう‥‥」
 フェリアはそう呟きながら依頼を詳しく見る。
「むう。これは論外ですね。報酬が低すぎる。最悪赤字ではないですか。とりあえずトリシア殿とナンナ殿の店に行って空腹を満たすのが先決ですのう」
 そう言って本部を後にしたフェリアであったが、本部前でいかにも不良と思われる集団に絡まれている老人を見つけた。
「老人によってたかって暴力とは。なんと許せない輩でしょう」
 憤ったフェリアは不良集団をあっさり追い払うと、老人に大丈夫ですかと尋ねた。
「ああ、大丈夫ですじゃ。おかげさまで」
 そして老人の話を聞きながら歩く。
「かくかくしかじかで、『8人の傭兵』と言う店に私の友人がいまして、その伝でどうにかならないかと思いましてな」
「そうなのですか。私も丁度8人の傭兵に行くところだったのです。またいつあんな馬鹿に絡まれるとも判らないですから、ご一緒しましょう」
「ありがたい‥‥」
 そうしてたどり着いた8人の傭兵の前でフェリアは待機し、老人だけが中に入っていった。
「それにしても先ほど断った依頼の主があのお爺さんだとは‥‥」
 フェリアは何事か考えるように呟くと、店の中から漂ってくる良い匂いに腹を鳴らしたのであった。

●8人の傭兵
「お爺さん!」
 ナンナ・オンスロート(gb5838)は店に入ってきた老人を見るなりそう叫んだ。
「久しぶりじゃの、お嬢ちゃん」
「知り合い?」
 店のオーナーでナンナの友人でもあるトリシア・トールズソン(gb4346)がそう尋ねた。
「ああ、昔のツーリング仲間さ。久しぶりです。どうしたんです、アメリカにいるはずのお爺さんがこんなところへ。まあ、何か食べます?」
「いや、今日は仕事の依頼できたんじゃ。実はな‥‥」
 老人が語った内容は本部の依頼内容と同じ。
「頼む、孫を助けてくれんか!?」
 その言葉にが「わかりました」とトリシアが言った時だった。
「ごめんなさい。その依頼は引き受けられないわ。店のこともあるし、この依頼内容でその金額じゃ、良くてトントン、悪ければ赤字‥‥」
「ちょっとナンナ、その言い方はないんじゃないの? このおじいさんはお前の友人で、困ってる人なんだぞ」
 少女が危険な目にあっていると言うことですでにやる気になっているトリシアだったが、ナンナはクールだった。
「私は仕事には感情は差し挟まない主義なの。だからお爺さん、貴方にとっては個人的な話でも、私にとっては仕事です」
「ちょっと見ない間にお嬢ちゃんは変わってしもうた‥‥」
「現実を見るようになっただけです」
「そうか‥‥すまんかったな。失礼するよ」
 そういって老人は立ち去っていく。トリシアの静止も聞かずに。

「どうでした、ご老人?」
 フェリアが尋ねると、老人は首を横に振った。
「そうですか。ご老人、この依頼にはいくら払えますか?」
「ULTに提示した以上の金額は出せんよ」
 老人が悲しそうに呟く。
「うけましょう」
 間
「確かに報酬が少ないのは辛い。駄菓子菓子<だがしかし>、ここで引き受けなければ、私は私じゃなくなるのですよ! 腹が減っているのは確かですが空腹など空気で満たせば‥‥すーはー。すーはー。すーはー‥‥ごめん無理。何はともあれご老人はULTにもっと詳細な情報を提供していただけませんでしょうか。キメラの種類とか数とかできれば洞窟の地図とかを」
「わかりました。宜しくお願いします」
 老人は頭を下げると本部へと向かって歩き始めた。

「ふーん。なかなかに大変そうな依頼じゃないか。まずは本部に行ってこの依頼を探してみるか」
 フェリアと老人のやり取りを見ていた鈍名 レイジ(ga8428)はそういうと頭の中で依頼を反芻しながら本部へと向かった。
 そしてコンソールを操作して、あの老人の依頼を探し出す。そして目当てのものがでてくるとさっと目を通す。
(「内容的にも急ぎだなこりゃ。それに放っておけば後で更に面倒になるのも目に見えてる‥‥」)
「オペレーター、この事件の詳細貰えないかな」
 オペレーターが詳細をプリントアウトしたものを渡すと本部を出て行こうとする。しかしそこでオペレーターがレイジをとめた。新規の情報が入ったのだと言う。そこにはキメラの外見とおおよその数、洞窟内の簡単な地図が映し出された。
「これでばっちりだな。依頼人の爺さんを出してくれないか? 少し話がしたい」
 オペレーターは不審に思いながらもコンソールを操作し、老人がアクセスした端末へとつなげる。
「やあ、爺さん。俺はあんたの依頼に興味を持ったんだが、詳しく教えてくれないかな?」
 突然のレイジの言葉に老人はとまどう。
「ああ。地元の人間であるお孫さんが何故、危険だと判っている洞窟に出かけたのか、そういうところだよ」
 レイジの言葉に、老人は体を震わせる。
「実はですな‥‥‥‥‥‥」
 老人の言葉は非常に重いものだった。仕方がない最後の選択だったのだ。
「なるほど。あんたの辛さと覚悟は良くわかった。請けるぜ、じーさん‥‥任せな、何とかしてやるさ。それから、もう一度8人の傭兵に行くといい。きっとあんたを待ってるぜ」
 レイジはそういうと、二言三言交わしてから老人との通信を切った。
 そしてレイジは道すがらこの依頼を探していそうな連中に声をかけながら8人の傭兵へと向かったのだった。
「ふふふり。この財布さえあればツケを払っておつりが来るのだから今日こそは腹いっぱい食べるのです」
 そういって本部でもらった財布を掲げたときだった。またもや視線を感じる。熱い視線‥‥というよりは痛い視線だ。
「なにやつ!」
 財布の中から小銭を取り出し視線の主にぶつける。
「あいた。酷いであります」
「なんだ‥‥こどもか」
「子供はないであります。そしてその財布は美空のものであります」
 その美空の言葉に、フェリアは邪笑をみせた。
「ほほうほう。どこにその証拠があるのかな?ふふふり」
「その中に入っているカンパネラの学生証こそが美空の財布だと言う証なのであります」
 そういわれて財布を見ると確かにカンパネラの学生証が。
「しかたがないのう。だがこの財布を返してほしければご飯をおご‥‥いや依頼に参加してもらえぬですか?」
「美空もお腹が減っていたところであります。一緒に食べながら相談‥三日‥も‥‥ガク」
「美空殿? 美空殿?」
 空腹で倒れたようだった。仕方がないのでフェリアは覚醒し、美空を姫抱っこで8人の傭兵に連れて行く。
「トリシア殿、ナンナ殿、ちょりーす。カレーライス、ツケで‥って、なんか険悪ムード?」
 そう、店の中に入ったフェリアを待っていたのは、トリシアとナンナの気まずい雰囲気だった。
「力は有効に使わなくちゃいけないのよ。私たちの力も有限なんだから」
「だから今その力を使うべきでしょ。それが傭兵の仕事じゃないの!」
 どうやら依頼を受けなかったことについて揉めているようである。
「兵として楯たるべし‥‥ですね」
 カウンターで酒を引っ掛けていた綿貫 衛司(ga0056)がポツリ、と呟いた。
「どうしました?」
 トリシアが衛司に尋ねる。
「なに、昔自衛官をやっておりまして、そのころからこの体に染み付いた考え方の一つです。人命救助も仕事のうちでしてね、隊の任務と同じですよ。僅かばかりの危険手当に命を張るのが兵隊です。金が第一って人ばかりじゃ、世の中味気ないでしょうよ」
「たしかにそうなんだけどさ、あなたも軍隊出身ならわかるでしょ。あたしのお母さんは軍隊の防衛が間に合わずに、空中戦闘の余波で瓦礫の下敷きになって死んだのに‥‥」
 とはナンナ。
「そんな任務なら、腐るほどやりましたさ。事実、治安維持やら避難住民の護衛は北陸の競合地域が競合地域になり始めた頃にやりましたしね、誰それ達がまだ山中に取り残されてるとか。それと、同じ事です。力が及ばない場合もある。だからこそ『首から下で考える』といいます」
「私は‥‥助けに行きたいよ。でも、ナンナと一緒がいい」
「トリシアさん‥‥」
 ナンナは下を向いて考える。
「私もこの依頼を受けることにしましたが、ナンナさんが一緒だと心強いですのう」
 そこにフェリアも同意する。
 そして顔を上げる。
「わかった。こういうことはイレギュラーだけど、フェリアさんとトリシアさんの頼みだから引き受ける。でも、本当なら一人でも多く助けるために力は有効に使わないといけないんだよ」
「トリシア殿とナンナ殿、二人の気持はよくわかったとです。意地でも女の子を助けませう、えいえいおー! それでは仲直りしたころで食事をいただけませんか二人前」
「二人?」
 フェリアの言葉にトリシアが店内を良く見回すと、ぐったりと倒れている美空がいた。
「三日間、何も食べていないであります」
「それは大変だな。すぐにでも作るぜ。まあ、TVで映画でも見ながらまったりしてるといいさ」
 トリシアが料理を作り始める。どうやらこの手順からするに親子丼のようだ。
「はうう。感謝であります」
 そうして軽く腹を満たしたあと、フェリアは仲間探しにでることになった。
「まず私、美空殿、ナンナ殿にトリシア殿。それから‥‥」
「綿貫です。綿貫衛司。衛司で結構です」
 静かに酒を飲んでいた衛司が名乗りをあげる」
「これで5人か‥‥あと3人はほしいですね」
「とりあえず本部に行ってみるのであります。正式に依頼を受けるのであります」
 復活した美空がフェリアに提案する。
「いや、あと1人だな」
 と、声と共に何者かが入ってきた。
「俺はレイジ。鈍名 レイジ。最初に依頼を受けたお嬢さんに話を通すのが筋だと思ってお邪魔させてもらった。俺も参加交渉の手伝いをするぜ。折角誰かを助けられる力があるんだ、使わなきゃ損だろ。綿貫さんとトリシアさんもいるのか、久しぶりだな」
「お久しぶりです、レイジさん」
「久しぶり、レイジ。っていうかここ私の店だから」
「そうなのか。知らなかったぜ。まあ、今回の依頼でも宜しく頼む」
 そういって手を差し出すレイジの手を握るトリシア。
「それから、一人この依頼に興味を持っていたやつがいたんで連れてきた」
 そう言われてレイジの陰から現れたのは先ほど本部で依頼の受注争いに負けたばかりの諫早 清であった。
「丁度仕事を探してたとこでね。報酬より縁に引っかかったってとこだね」
 そういって微笑む。
「自分の懐具合は悪くはない、程度。だったら断る理由は何もないんだよね。がんばって報酬を生活費から捻出してきてくれた人なら、むしろ助けたい。そう思ったんだ」
 爽やかな笑顔に女性陣は魅了されたとかされなかったとか。
「それでは早速本部に行くのであります」
 元気になった美空が我先にと店を出る。一瞬視線を交わしてから続いて店を出て行く面々。本部で正式な手続きをしないことには依頼も受けられないし報酬も貰えない。そして途中で8人の傭兵に向かっていた依頼主の老人を連れて本部へ――

 本部の片隅で、プリントした依頼一覧を見つつ唸っている少女がいた。名をテト・シュタイナー(gb5138)という。
「まともな依頼がないなぁ‥‥こう、もっと効率よく稼げる仕事はないもんか‥‥」
 そう呟くテトにフェリア等が声をかける。
「もし、依頼をお探しならば手伝ってはくれまいか」
 そういわれてプリントアウトされた依頼を手渡される。それを見て、テトは断った。
「わりーな。今、安依頼を受けている場合じゃねぇんだ」
(「目先の損得だけで物事を判断しちゃいかんぞ」)
 断った瞬間、彼女が世話になっている孤児院の経営者でもあるじっちゃんの顔と言葉が浮かぶ。
(「そうはいってもよ、これじゃ孤児院の運営資金になりやすらしないぜじっちゃん」)
 身銭を切って孤児院を運営しているじっちゃんを少しでも楽にさせてやりたい。テトにはそんな思いがあった。だから報酬で依頼を選ぶ。しかし‥‥身銭を切って孫娘を助けようとするこの老人も同じではないのか? 老人の姿とじっちゃんの姿が重なる。
「うーん。し、仕方が無ぇな。少しだけ手伝ってやるよ。‥少しだけだぞ!?」
「この依頼は、確かに旨味はまったくありません。ですが、それ以上に、大切な物を取り戻せる依頼であると、私は信じますのです」
 テトにフェリアがそう言うと、テトは素直にそれに同意した。
「そうだな。何のために能力者になったのか、とかな。じっちゃんのためってのもあるけどさ‥‥」
 そういってテトは照れた。
「さて、これでメンバーは集まりましたね。早速登録しましょう」
 衛司がそう言うと、一向はオペレーターのところに行き、依頼を正式に受けることを告げた。
「往くぞ皆、悪鬼羅刹を一網打尽に叩切るために! えいえいおー!」
 フェリアが叫ぶ。冒険が始まったのだった。