タイトル:【アイナ】おかいものマスター:碧風凛音

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/03/04 03:52

●オープニング本文


 アイナ・モーランド。
 北米フェンシング界の王者の一人にして、強化人間。
 先日彼女は町と己が娘を守るために戦い、倒れた。
 原因は洗脳が失敗したことにより、強化人間としての力を使うと脳細胞が破壊されてしまう為だ。
 あと一回か二回その力を振るえば、命が危ういと言われた。また、先日倒れた際に1週間も目を覚まさず、毎日娘が泣いていたことを聞いた。
 それ故、彼女は娘への罪滅ぼしのためと三時間の外出を願い、許可された。もちろん能力者の監視付き。そして彼女が暴走した時に備えての小型爆弾付きではあったが‥‥‥‥

「ママ、あれほしい」
 戦災によって閉店していく店が増える中、子供服専門店のショーウィンドに飾られている可愛らしいワンピースを見て娘のアンジェリカがねだる。軍から金を支給されたので、その服は簡単に手が届く値段である。
「よし。じゃあお店に入ろう」
「うん!」
 久しぶりの母との外出――かつてはフェンシングのために、その後はバグアに掠われたために、今は強化人間の研究とその力の使いすぎによって倒れてしまったために――にアンジェリカは大はしゃぎしていた。
 能力者達はそんな母娘の周囲に適当な距離を置いて広がり、監視し、かつ彼女を狙う者がいないかを確認していた。そして二人が店の中で服のサイズを合わせ、アンジェリカが新しい服に袖を通し、いざ会計となったときにアンジェリカが何処かへと消えていた。
「リカ、アンジェリカ。どこに行ったんだ?」
 慌てる店員とアイナ。そこへ買い物客の女性が、「娘さんでしたら行ほど出口の方へ行ったのを見ましたが」と教えてくれた。
 アイナは慌てて代金を置くと「釣りはいらない!」と言って走りだした。
 外に出て周囲を見回すがアンジェリカの姿はどこにもない。先ほど買ったばかりのドレスのようなワンピースは目立つから、近くにいるなら直ぐ見つかるはずだ。アイナは軍から借りた骨伝導の超小型無線機で能力者達に呼びかけた。「娘が消えた――」と。
 そして能力者達が集り、店員からアンジェリカが着ている服と同じ者をかしてもらい、それを店の写真室で撮影しプリントしてもらう。アンジェリカの顔は憶えているし服の写真もある。問題は彼女がどこへ行ったかだ。
 制限時間は二時間。
 それまでにアンジェリカを見つけなければ軍の迎えがきてしまう。
 能力者達は話合い、方針を決定すると即座にアンジェリカを探し始めた。
 アイナもそれに同行する。果たしてアンジェリカは見つかるのか否か――ここは競合地域なのでバグアの工作員が潜入していてもおかしくないし、いつキメラが襲ってくるとも限らない。営利誘拐の可能性もある。
 兎にも角にも、目的はアンジェリカを見つけること。出来れば買物の時間も残して。

●参加者一覧

白鐘剣一郎(ga0184
24歳・♂・AA
ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416
20歳・♂・FT
番 朝(ga7743
14歳・♀・AA
結城加依理(ga9556
22歳・♂・SN
星井 由愛(gb1898
16歳・♀・DG
メビウス イグゼクス(gb3858
20歳・♂・GD
サンディ(gb4343
18歳・♀・AA
フローネ・バルクホルン(gb4744
18歳・♀・ER

●リプレイ本文

「皆、店からアンジェリカが出た所を見たか?」
 白鐘剣一郎(ga0184)が店内に連れ戻したアイナを落ち着かせながら無線でそう言うと、全員が否と言った。
「‥‥失態だな。母娘を監視中に娘を見失うとは」
 ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416)が同じくアイナを抑えながらそう言い、それから店主に近隣の地図と周辺の住人の情報方を提供するように依頼した。
「あんたらは?」
「俺達は傭兵だ。ちょっと依頼を受けている最中でね。ついでで悪いんだけどこの店の間取図があったら貰えないかな?」
 鼻白む店主に番 朝(ga7743)が自分の立場を明かす。それを受けて剣一郎が言った。
「皆さん、店内から出ないようにお願いします。誘拐事件の可能性があります。申し訳ありませんがご協力下さい」
 傭兵という単語と誘拐事件という単語に店内がざわつく。
「僕は‥このまま監視‥をします」
 結城加依理(ga9556)が店外を監視できる場所から動かずに無線で通信を入れてくる。アイナとアンジェリカのためにならばいかなる汚名をも着る覚悟と、最悪の場合にアイナを撃つ覚悟をして。
「アンジェリカちゃんは‥何で離れたんでしょうか」
 星井 由愛(gb1898)の疑問にホアキンが
「母親と一緒の久しぶりの買い物だ、娘が無断で離れるとは考えにくい。第三者の介入を疑うべきだろうな」と答えた。
「何か嫌な事でも起こらないと良いのですが‥」
 メビウス イグゼクス(gb3858)がそう呟くと、サンディ(gb4343)が
「すでに起きつつあるのかもしれない。でも、結末は決まっていない」と答える。
 そして、結末が決まっていないということは変えられるということだ。と自分に言い聞かせるように言った。
「それにしても、これだけの人間で監視していたにもかかわらず見落とすとはな‥‥」
 フローネ・バルクホルン(gb4744)がそう漏らす。
「アイナ、キミの好きなもの、好きな場所を教えてもらえないだろうか? 判断の一助になると思ってね」
 それからそう尋ねると、アイナは「生憎と私はフェンシング以外は興味がなくて‥」と、力なく答える。
「そうか。では、私は店外を探そう」
 そう言ってフローネは外に出て行った。その隙を縫うように出て行こうとするアイナをサンディが説得する。
「アイナさん、今のあなたは冷静さを欠いています。私も、よく任務で冷静さを失うことがあります。そして後で必ず後悔するのです。あの時、もう少し冷静でいられたらって‥‥でも、あなたは何かあったら後悔すらできなくなるもしれない状態なのですよ。あなたにとって一番大切なもの、それはアンジェリカですよね? ではアンジェリカにとって一番大切なものは? 言うまでもなく、あなたです。アイナさん。お気持ちは痛いほどわかります。でも、ここは私たちを信じて、どうか堪えてください」
「私もがんばりますから‥無茶、ダメです」
 由愛がアイナの袖を握り、涙目になりながら言う。
「俺は全力でアンジェリカ君を保護する、だから此処で待っていてほしい」
 朝もそう言ってアイナを説得する。
「逸る気持ちはあるだろうが、まずは落ち着いてくれ。闇雲に飛び出して入れ違いになってはアンジェリカが気の毒だろう?」
 剣一郎がそう言うと、アイナはようやく落着いた。
「すまないな、皆。確かにサンディの言うとおり冷静さを欠いていたかもしれない‥‥」
「憶えて、いてくださったんですね。記憶障害があると聞いていたので、忘れられたかと思っていました」
 サンディが少しだけ安堵の表情を見せる。
「ああ、なんとか憶えているよ。まったく、私は愚かな人間だ。こうやって皆に心配ばかりかける」
「判ってくれたかな。じゃあ、アイナ君は店の中で待機だ。アンジェリカ君が帰ってくるのをまとう」
 朝がそう言うとアイナは頷いた。

「さて、話がまとまったところで、探索を開始しようか」
 剣一郎はそう言うと、最初にアンジェリカが外に出たといった買い物客に詳細を尋ね始めた。サンディもそれに参加する。
「‥‥ええ、その、そう! 何かを見つけたようで注意がそれに逸れて外に出て行ったみたいです」
 女性のその言葉に不審を持ちながら剣一郎はさらに言葉を続けた。
「それをみた時になぜ店員に話さなかったのはなぜですか?」
「だって、その、まさかこんなことになるとは思ってもみなかったので‥‥」
「そうですか。失礼しました」
 剣一郎は謝るとサンディと共に店内での聞き込みを始めた。
「アイナさん、アンジェリカの行きそうなところや行きたがっているところに心当りはありませんか?」
「キミとアンジェリカ、二人でいた施設、遊技場‥‥何か思い当たるところは無いか?」
 サンディとフローネが矢継ぎ早に尋ねると、アイナは「かつての私達の家か、保育園かそれぐらいしか心当りがないな。すまない」と答えた、それを受けてサンディはさらに店内での聞き込みを行ない、フローネは外に出てアンジェリカの目撃情報を探し始めた。

「ここ1時間ほどの間に、あの店から出てきた人間を見かけなかったかな? 大荷物を抱えていたり、連れ立っていたかもしれない」
 ホアキンは道行く人々に紙コップでウォッカを提供しながら聞き込みを行なっていた。しかし返事は芳しくない。
「では、こんな娘を捜しているのだが見なかったか?」
 服の写真を見せたり人相を説明しながら尋ねるが、これも良い結果は得られなかった。
「ふむ。なら、この店の評判はどうだ? 競合地域で子供も減少しているだろうに、果して商売が成り立つのかな?」
「そうだねえ、特に資金繰りに困っているという話は聞かないねえ。そういえば、前にもこの店で子どもが行方不明になったことがあったな‥‥」
 ホアキンは情報提供者に礼をすると、今の会話の内容を無線で伝えた。

 朝は店の屋根に上り周囲の監視をしていた。子どもの入りそうなくらい大きな鞄を持った人間やアンジェリカらしき子どもがいないかを探していたが、一向に見つかる様子はない。
 加依理も外で監視をしていたが店は剣一郎達が封鎖したため出て行く人間はいなかった。

「ちょっと‥裏口‥借りますね」
 由愛は店の裏口からいったん外へ出ると店の表に回ろうとした。だが、迷路のような地形で表に辿り着くことが出来ない。仕方がないので裏口にAU−KVを置いて待機する。また、裏口の外の地形が複雑だと無線を入れた。

 メビウスは挙動不審な人物がいないか店内で見張っていると、店主が明らかにそわそわしていた。だが、アンジェリカに危険が及ぶ可能性があるので現在は監視のみにとどめている。

 フローネは子どもが好みそうな甘い物の店や風船を持った道化師など、そういう物がないかに気を配りながらそういった者の周囲で聞き込みを行なっていた。だが有力な目撃情報は入ってこない。仕方がないのでアイナ達が昔住んでいた家にでも行こうかと思っていたところにホアキンから通信が入った。

「前にもこの店で子供が行方不明になったことがあるらしい。一度店の周囲に集った方が良さそうだ」

 そして聞き込みや監視をしていたメンバーは店の周囲を取り囲むように配置につく。

 剣一郎は誘拐を疑い店内に子供一人隠しておけそうな場所をくまなく調べていた。そしてやがてある一つの考えに思い当たる。(「まさかとは思うが、更衣室の鏡面の裏も有り得るか?」)
 そう思って更衣室の鏡をあれこれ弄っていたところ、鏡が外れ、その奥の階段を発見した。階段は下に続いている。剣一郎は慌てて全員を無線で呼ぶ。
 そして能力者達が集ると店主に問い詰めた。
「これはどういうことかな、店主?」
「あ、いえ‥‥その、これはですね‥‥」
 だがしどろもどろでまともな答えは帰ってこない。
「ちょっと、この奥まで案内してくれないかな?」
 ホアキンが壁を殴りながら言う。壁には大穴が明いた。それをみて店主は情けない悲鳴を上げる。
「この壁みたいになりたくなかったら、大人しく言うことを聞いた方がいいよ」
 朝がそう言うと店主は頷く。
「この奥で一体何を? アンジェリカちゃんをどうするつもりです!」
 加依理の言葉に店主は人身売買をしていたと答える。
「そんな‥‥なんて酷いことを。絶対に許しませんからね!」
 由愛が怒り心頭という感じで言う。すでにAU−KVを装着しているので店主に与える威圧感は尋常ではない。
「‥‥困りましたね。出来れば戦いたくはないのですが‥‥」
 メビウスがぼやく。
「アイナさん、もし戦闘になっても僕たちがいるから大丈夫です。だから、無茶はしないで下さいね」
「わかった。だが店主、アンジェリカにもしものことがあったらお前の命はないものと思え」
 サンディの言葉にアイナが頷き、そして店主に対して実行する意志を込めた脅しをかける。
「さて、行きますか」
 フローネがそう言うと剣一郎が少し用事があると言った。そして店の電話を使ってメルビン少佐に連絡をつけ、人身売買の組織があることを告げると、軍と警察の出動を要請した。
 剣一郎が店内を監視している中、ほかのメンバーは鏡の奥の階段を下りていった。
 5分ほどすると人身売買のオークション会場へと辿り着く。
「アンジェリカ!」
 アイナがステージ上に立って泣いているアンジェリカの姿を認めて叫ぶ。
「UPCだ! 全員大人しくしろ!」
 ホアキンがブラフを効かせて銃を天井に発射する。
 一斉に会場内がパニックになる。
 そしてホアキンは店主に手錠をかける。
「‥‥‥‥」
 朝は覚醒すると一気にステージへと駆ける。
 加依理は銃をさらに天井に撃つ。
「大人しくしてください! さもないと本気で撃ちます!」
 その言葉に会場は静まる。
「今だ!」
 由愛はAU−KVに錬力を流す。すると脚部がスパークする。そして朝が空けた道を一気に駆け抜け、ステージでアンジェリカを拘束していた男に殺さないように加減をつけて攻撃をしてアンジェリカを保護すると、アイナ達のところへと戻ってくる。
「ママ! ママ!」
「アンジェリカ!」
 親子は抱き合い、互いに安堵の涙を流す。
「良かった。アイナさん、アンジェリカを連れて外へ。ここは私達が抑えます」
 サンディがそう言うと、ステージの袖から銃器を持ったマフィア風の男達が現れたのだ。
「わかった」
 アイナ達が階段を上り始めると、男達は銃を撃ってきた。
「あなた方は人身売買の現行犯として逮捕させていただきます。我々はUPCの能力者部隊です。生身の人間がいくら立ち向かってきたところで無駄ですから、大人しく軍が到着するまで待っていて貰います」
 メビウスがホアキンのブラフに乗る形でさらにブラフを張る。その言葉は会場の客達に効いたようで大人しくなる。だが銃を持った男達は聞く様子はない。何度も銃を撃ってくる。
「無駄だよ! ミンチになりたくなかったら大人しくしな!」
 フローネが超機械で一人の男を攻撃する。その男は電磁波にやられて絶命した。
「仕方がないな。先手必勝だ!」
 剣一郎が一気に接近し、機械剣で男達の銃を破壊する。鬼神の如き剣一郎の動きを見て、男達もようやく戦意を喪失したようだった。

 それから30分後、警察と軍が到着し地下の会場の中にいた人間達を連行していった。

「まさか、こんなことになるとはな‥‥」
 メルビン少佐が困惑した表情でそう言うと、剣一郎は何はともあれ無事で良かった、と呟いた。
「それもそうだね。なあアイナ、娘と出来るだけ一緒に居てやることだ。一時の感情で道を誤ることがないように。まぁ、娘を捨てた私が言うことではないがな‥‥」
 配偶者を奪ったバグアに対抗するために娘を妹に預けたという経緯を持つフローネが、自嘲するように言う。
「そうですね。なにかあったら、また私達がお手伝いをします。だからアイナさん、無茶だけは決してしないで下さい」
「ああ、わかった。皆に感謝する。アンジェリカを無事に救いだしてくれて本当にありがとう」
 フローネに続いてサンディがそう言うとアイナが頭を下げる。
「まあ、無事で良かったですね」
 メビウスが呟くと、由愛が「っ、よか‥られす‥」と自分の親の姿とアイナを重ねたのか、泣きじゃくりながらメビウスに同意する。
「あと1時間‥ほど時間‥がありますね。どう‥ですか? 買物を続けては‥今度はこんなことがないよう‥にちゃんと護衛しますから」
 加依理の言葉にアイナが頷く。
「時に加依理、私のエペは預かっていてくれているか?」
「ええ‥‥しっかりと。どうかしましたか?」
「いや、それならばいい。では私は買物を続けたい。メルビン少佐、それでいいか?」
「ああ、構わんよ。思わぬアクシデントはあったが、なんとか事なきを得たわけだしな」
「そうか。では失礼する。行こう、アンジェリカ」
「うん!」
 そして再び町に繰り出したアイナを加依理は離れながら見守る。
「任務中に不謹慎かも知れませんが‥‥コーヒーの一杯ぐらいは飲みたいたいものですね‥‥」
「コーヒーはないが、ウォッカはあるぞ。一杯くらいなら問題ないだろう。飲むか?」
 ホアキンの言葉に加依理は感謝の意を伝えると、差し出された紙コップの中身を一気に飲み干した。
「ふう‥‥中々に厄介な任務だったな」
 まだ表情が硬いままの朝が言う。
「まだ1時間ある。俺は彼女の側でアンジェリカを見守るつもりだがどうする?」
 朝に剣一郎が尋ねると、「出来れば、疲れたから眠ってしまいたいな」と答える。
「まあ、それは全部終ってからだな」
「まあね」
 そうして能力者達が再び見守る中、アイナとアンジェリカは残り1時間を有意義に過ごしたのだった。