タイトル:【El改革】絶対防衛線マスター:碧風凛音

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 12 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/02/15 13:02

●オープニング本文


「ノゲイラ大尉より入電! アンデス方面にてキメラに防衛網を突破されました。戦車中隊は壊滅した模様です!!」
 エルドラドに駐留するUPC南北混成軍の司令部にて、オペレーターは不吉な情報をもたらした。
「なんだと? すぐに動かせる部隊を動かせ。絶対にエルドラド内に入れるな!」
 司令官の怒声が響く。オペレーターはコンソールを操作し、すぐに動かせる部隊をしらべた。
「スルギ兄弟の部隊が半数が外出休暇、半数が即応警備の状態にあります」
「スルギ‥‥? ああ、あの双子か。半数でも構わん。すぐにアンデス方面に向って動かせ!」
「了解です」
 そうしてリュウガ・スルギ、ロウガ・スルギ率いる戦車中隊と歩兵中隊の半数――M1戦車10両と歩兵30人がアンデス戦線の防衛のために緊急出動する運びとなった。
「司令!」
「なんだ! まだ何かあるのか!?」
「ケイ・イガラス監査官より関連する報告がありました。野良キメラ退治に出ていたドロームの新型戦車の部隊が偶然アンデス方面にいて、このキメラ部隊のあとをつけているそうです」
「数は?」
「戦車二両、自走砲、自走対空砲が一両、指揮車が一両、それから、傭兵が数名です」
「足止めにはなるな。竜と狼の牙がそちらに行くまで足止めをしていろと要請しろ。ついでに市内に残っている傭兵にも先行して足止めをするように依頼を出せ」
 オペレーターはその旨を知らせる通信を流すと、ふと司令官が尋ねてきた。
「そう言えばドロームの責任者は元欧州軍の参謀だったな?」
「ええ‥‥確かヨハン・アドラーという男ですが」
 それがどうかしたのかと訪ねる前に、司令は言葉を発した。
「元少佐か‥‥この際使える物はなんでも使ってしまえ。その元少佐に一時的に指揮権を付与する。なんとしてもキメラを食い止めろ! キメラに関する情報もノゲイラから入ってきた物は全てやつに流せ。いいな?」
「了解です」
 こうして、特例中の特例によりアンデスに隊キメラ防衛線が張られたのだった。

●参加者一覧

鳴神 伊織(ga0421
22歳・♀・AA
ケイ・リヒャルト(ga0598
20歳・♀・JG
月影・透夜(ga1806
22歳・♂・AA
ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416
20歳・♂・FT
ゼラス(ga2924
24歳・♂・AA
マクシミリアン(ga2943
29歳・♂・ST
旭(ga6764
26歳・♂・AA
六堂源治(ga8154
30歳・♂・AA
アルクトゥルス(ga8218
26歳・♀・DF
エリアノーラ・カーゾン(ga9802
21歳・♀・GD
蓮角(ga9810
21歳・♂・AA
堺・清四郎(gb3564
24歳・♂・AA

●リプレイ本文

 アンデス方面からキメラ部隊を追跡していた能力者達はひっそりと敵後方に陣を展開する。
 そして戦車部隊に敵位置を無線で連絡、戦車と自走砲が一斉に砲撃を行なう。
「何だ! 後ろだと!?」
 その砲撃は指揮官とその周囲の護衛を巻き込んで撃たれ、激しい土煙が周囲を覆う。
「今だ、突撃!」
 月影・透夜(ga1806)が号令をかける。
 透夜はアルクトゥルス(ga8218)とコンビを組んで戦場に突入する。砲撃で指揮系統が乱れているうちに、煙の晴れないうちに、指揮官と護衛のキメラをすり抜けて、このキメラ部隊の要である通信型キメラを討とうとする。だが指揮官と護衛のキメラは煙の位置から前に走ってすでに煙を抜けていた。
「甘いね。標的、男。集中攻撃。撃て!」
 そんな言葉と共に透夜に銃弾が飛んでくる。それは透夜の体を貫通し、彼は血を吐いて倒れる。
「『犬笛』! 前方のキメラ部隊を呼べ。背後を突かれたのは面白くないが、生憎と私は弱いから背後にいるわけじゃない。射撃体勢。標的、犬笛に向っている女。撃て!」
 今度はアルクトゥルスが一斉射撃に倒れる。二人とも致命傷は負っていないが、戦闘の継続が厳しいほどの深手を負っていた。
「ゼラスさん、源治さん、この男を最優先で行きましょう」
 鳴神 伊織(ga0421)がソニックブームを放って牽制しながらゼラス(ga2924)と六堂源治(ga8154)に呼びかける。通信型を先に倒したいがやはりこの指揮官と護衛キメラが邪魔で突破できないのだ。
「OK! 行くぞ源治! 遅れんなよ!」
「ゼラス、背中は任せたッスよ」
 三人は連係して指揮官とその周囲の人型キメラを攻撃していく。しかしゼラスと源治の攻撃力では指揮官に有効的な打撃を与えることが出来ない。唯一伊織の飛び抜けた攻撃力だけが僅かな傷を与えているだけだ。
「くっ! 強い!!」
「そりゃそうさ。軍人が、人殺しのプロが、強化手術を受けたんだ。そんじょそこらの能力者が敵うわけがないだろう? 『犬笛』! 連係を崩させろ」
 指揮官の命令に従って『犬笛』、すなわち通信型キメラが遠吠えを上げる。するといつの間にかやってきていたキメラ達が一斉に突撃し、戦場に割って入る。
「戦車隊の援護は無しっすか!?」
 源治が無線で指揮車のヨハン・アドラー(gz0199)にそう尋ねると、アドラーは「そんなに固まっていては、あなたたちまで巻き込んでしまいます!」と叫ぶ。
「仕方ねえ、透夜とアルクトゥルスを連れて一時撤退だ」
 ゼラスはそう言うと倒れている透夜を連れて乱戦の場から抜け出そうとする。
「二人とも、私がこいつを引きつけている間に早く!」
 伊織の言葉に源治がアルクトゥルスを連れて抜け出す。
「ククッ。それが賢明だ。邪魔さえしなきゃ殺しはしないよ」
 そう言って笑うと彼は伊織の腹に銃を押しつけた。
「さあ、どうする?」
 嫌らしい笑みを浮かべる男に、伊織は、「こうするわ!」と叫ぶと目にも止らぬ早さで指揮官の側面に回り込み、渾身の一撃を打ち込む。
 それは確実に指揮官にダメージを与えたが、戦闘力を奪い去るとまでは行かない。だがそれでもダメージを受けて怯んだその隙に彼らは戦場からの脱出に成功していた。
 そしてアンデス方面からエルドラド方面に向っていたアストレアと、アンデス方面に待機していた自走砲が、敵の側面と後方から一斉に砲撃を仕掛ける。指揮官はその砲撃を難なく躱すが、集っていた猛獣型キメラは纏めて吹き飛ばされる。
 能力者達はいったん後方に下がると、救急セットを使って透夜とアルクトゥルスの傷を治療する。銃弾がすべて貫通していたのが幸いだった。もし体内に残っていれば摘出手術などをやらなければならなかっただろう。

 そしてアストレアと自走砲が攻撃を加えているうちにエルドラドで緊急招集された能力者達が兵員輸送車両に乗って到着する。そして3組に分かれた。
「援軍か‥‥さて、どうするかねぇ」
 指揮官は援軍が来たことなど気にする様子もなく呟いた。
「挟まれたとは言えまだ包囲は完成していない。決まった、各個撃破だ」
 そう決めると行動は早かった。
「『犬笛』、戦力集中、敵正面。陣形再編」
 遠吠えと共に獣型キメラの群れが次第に統率された軍隊の動きに変わっていく。乱れていた陣形を凸状にし、その後ろに通信キメラそして指揮官とその護衛の人型キメラと続く。通信キメラにうかつに近寄れば人型と指揮官の銃が襲う。そんな嫌な陣形だ。
「『犬笛』、敵中央に突撃。なに、奴等をすべて倒す必用はない。私だけでもエルドラドに潜り込めばどうにかなる」
 ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416)、堺・清四郎(gb3564)、マクシミリアン(ga2943)の三人で作る中央集団を突破し、そこからエルドラドへと抜けるつもりなのだろう。
 その突撃の勢いは素早く、ホアキンは左右両翼にいる味方に援護を求めた。
 ホアキンは盾を前に出してキメラの突撃を防ぐと、両刃の直刀でそのキメラを切り倒す。
「よくも俺の故郷を荒らしてくれたな!」
 アンデスの山村生まれのホアキンは故郷を荒らされたことで静かに怒っていた。
「今日の俺はアンデスの山風だ。お前達を冷たく斬り伏せる!」
 そして二匹目のキメラを切り伏せる。
「取りあえず、防衛線の維持だ。それと、無線を聞く限りじゃアンデス方面の連中がやばいらしい。こっちも戦力が集り次第奴等の群れを突破した方が良さそうだ!」
 清四郎は防衛網の維持と進行阻止を第一に、日本刀でキメラを確実に一匹ずつ仕留めようとしていた。が、数が多いため一匹に一太刀を入れるのが限界であった。
「うへぇ‥‥結構な数だな。この仕事止めときゃ良かったかも」
 マクシミリアンはそう言いつつも、降りかかる火の粉を払うべくスパークマシンでキメラを牽制していた。
 そうこうしているうちに左右両翼から味方が集る。
「突破はさせない!」
 旭(ga6764)が小銃でキメラを牽制し、足止めする。
「そうね!」
 エリアノーラ・カーゾン(ga9802)は盾を構えて猛獣型キメラの体当たりを受け止めはじき返す。そして隙を見ては直刀で斬りつける。
「さ、遊びましょう‥‥」
 ケイ・リヒャルト(ga0598)が猛獣型キメラの四肢を狙って銃を撃つ。そして足を止めたキメラは相手にせず、次のキメラの四肢を狙っていく。
 ペアの蓮角(ga9810)も盾を利用しながらキメラの攻撃を引きつけ、直刀で四肢を切り落としていく。

 能力者達が戦闘を続けていると、ようやく後方から戦車部隊と歩兵部隊が到着した。それをみてキメラ指揮官が毒づく。
「戦力の逐次投入は悪手なんだがなあ‥‥だが、この場合はまずい展開だな。アンデスに戻るとするかな」
 指揮官はそう決定すると通信型キメラに呼びかけた。
「『犬笛』! 全軍後退。戦闘しつつ後退させろ。凹陣形だ!」
 多少数の減ったキメラ達だが、連係は維持されていた。個々人の判断で戦う傭兵よりは指揮官に率いられたキメラの方が統制がとれていた。

「リュウガ、ロウガ両中隊! 能力者と合流しつつ後退するキメラを殲滅せよ。決して中央に突入しないように。逆に包囲される危険があります」
『了解!』
 アドラーがスルギ兄弟に指示を出す。

 アドラーは今更ながら思っていた。
 最初からアンデス方面の部隊、つまり自分達が大きな迂回をしてでもエルドラド側と合流するべきだったと。
 今現在も治療を受けている透夜とアルクトゥルスを見ながら思っていた。
 そうすれば戦力が分断されている状態と、各個撃破された事実と、戦力の逐次投入になった現状が無かったことになる。
 まあ、今更考えても詮無きことであるのだが。

 リュウガ、ロウガ両中隊は、半個中隊とは言え熟練の部隊らしく規律のとれた動きをしていた。半包囲陣形を敷き、どの角度からも攻撃が加えられるようにしている。
『戦車砲、対戦車砲一斉発射!』
 戦車部隊を率いるリュウガ・スルギ中尉が、合流したアストレアも指揮下に入れて全部隊に一斉射撃の命令を出す。
 フォース・フィールドに遮られるとは言え、12の戦車砲と30の対戦車ライフルの砲撃は確実に猛獣型キメラの数を減らす。
「続いて第二射! 撃て!!」
 今度は歩兵部隊を率いるロウガ・スルギ中尉が射撃命令を出す。ちなみにアストレイアを経由して、指揮車両から射軸の修正を受けてあるので、狙撃密度はかなり濃いと言っても良い。
 集中砲火を受けて吹き飛ぶキメラ。
「今です、能力者の皆さん。敵にあいた穴から回り込んで、獣型キメラの逃亡を阻止してください」
 リュウガが能力者達に『依頼』する。彼らはあくまで傭兵であり協力者であり部下ではないからだ。
「了解! 堺、マクシミリアン行くぞ! 特にあっちには怪我人が待っているそうだ。サイエンティストの出番だ!」
 ホアキンが走りながら叫ぶ。
「よし。ようやくこっちのターンだ。逃がさないよう一気に決めよう」
 マクシミリアンが勢いに乗ってスパークマシンを発動させる。
「ここは通行止めだ、クソ野郎ども!」
 猛獣型キメラの進路を遮った清四郎が吠える。そして剣を振い猛獣型キメラを打ち倒して行く。
「あたしは通信型キメラを狙うわ。今なら無防備だもの」
 ケイの言葉通り猛獣型キメラと指揮官の部隊の間で守られていた通信型キメラが、無防備な姿を晒していた。
 エルドラド方面からなら指揮官や人型キメラの邪魔なしに通信型キメラを倒せる。ケイはそう判断したのだ。
「死んでろ!」
 蓮角がケイと一緒に通信型キメラを攻撃する。
「『犬笛』! 急速後退。射撃準備、黒い女! 撃て!!」
 だが実際には、人型キメラが2体、指揮官から離れながら通信キメラを守っていた。そしてケイが撃たれる。
「くっ‥‥うかつだったよ。蓮角、すぐにこの場を離れなさい。奴等に撃たれる前に‥‥」
 重体には至っていないがかなりのダメージを受けた事も事実だった。だがケイは倒れることなくもう一匹の通信型キメラに近づくと、運命の女神の名がつけられた銃を通信型キメラの口の中に入れて発射する。
「お味は如何?」
 そう言って吐血するケイ。だがその時マクシミリアンの練成治療が彼女の傷を治療する。無論完全回復とは言わないが、ある程度はましになった。
「ケガしてるヤツはこっちに来い。俺の熱いキッスで治療してやるぞ!」
 マクシミリアンがそう叫ぶ。
「生憎と、キッスは間に合ってるわ」
 ケイがそういうとマクシミリアンはオーバーアクションで残念がった。
「ケイ、蓮角、キメラがすごい勢いでそっちに向っているわ。注意して!」
 エリアノーラが無線機で叫ぶ。先ほどの急速後退の指示を受け、猛獣型キメラが隊形など関係無しに一目散にアンデス側に向かっていた。
「全部隊、前進」
 スルギ兄弟が前進の号令をかける。
「全車両前進。オペレーターは敵指揮官を迂回してサイエンティストさんのいる場所に辿り着く最適なルートを計算してください」
「了解です」
 アドラーが妙な司令をしたので、伊織は挟撃のチャンスを無駄にするのかと尋ねる。
「彼の持つ銃は、例えるならば能力者用戦車のSES付き戦車砲みたいなものです。それに比べたらこちらの装甲など、パイの生地よりも柔らかいでしょうね。相手にするのは無理です」
 その質問に対してアドラーはこう答えると、操縦手に発進の合図をだした。
「『犬笛』! 目標、迂回してやがる連中! 総員前進、射撃準備」
 指揮官は最後に残った通信キメラ一匹と人型キメラに指令を出す。猛獣型キメラは戦場を迂回する指揮車両や自走砲に向かって突撃をかける。おかげでケイと蓮角はキメラの猛威から逃れられたわけだが、こんどは指揮車両達が危なかった。
「奴さん、こっちの考えを読んでますね。仕方がありません、自走砲は展開して射撃準備に入ってください。それから能力者の方も敵の足止めを願います」
 アドラーの依頼を受けて伊織、ゼラス、源治の三人が指揮車から降りてこちらに向かってくるキメラと闘い始める。
「俺も、指揮車の直衛ぐらいならできる‥‥」
 透夜は立ち上がると指揮車を降りる。
「私も‥‥」
 アルクトゥルスがそういって覚醒すると、治療に使っていた医療用アルコールの匂いで酔っぱらってしまう。
「あ‥‥あらら?」
 うまく立ち上がれない。何とか力を入れて立ち上がるが、自分の体についているアルコール消毒液の匂いでますます酔っぱらっていく。
「アハハハハ、よっぱらちゃったよ。まあ、何とかなるなる」
 そういって指揮車両の外に出ると、アルクトゥルスはソニックブームを放つ。それは酔っているにもかかわらず狙いを外さず見事に獣型キメラに命中した。

 伊織は一人、獣型キメラの群れを突破すると、通信型キメラに向かって駆け出した。しかし、伊織の武器では、通信型キメラを護衛している人型キメラの銃の射程より短い。剣だからだ。と、ここまでの状況なら誰もがそう判断するだろう。だが、伊織は副兵装の番天印を持って一気に接近すると、人型キメラを射程に収めて撃ち放した。
 4発連続で撃ったそれは、人型キメラの四肢を奪い人型キメラは無様にも地べたに這いつくばった。
「すぐに黄泉路へ送って差し上げます‥‥あまり足掻かないで下さいな」
 伊織は鬼蛍の束を両手でに握ると、人型キメラの心臓に突き刺した。それがそのキメラの最後の姿だった。
「なかなかやるね」
 いつの間にか指揮官が伊織の背後に来ていた。そして肩を狙って銃を撃つ。
「きゃぁぁぁ」
 劇痛に悲鳴を上げる。肩の神経と骨がやられたようだった。
「本当ならとどめと行きたいんだがこの状況じゃもう逃げるしかなさそうだね」
 エルドラド方面から戦車部隊と歩兵部隊が迫りつつある。指揮官は逃げることを決意すると、残った猛獣型キメラを6匹を纏めて防衛網を敷き、人型を護衛にして指揮車両の方へと逃走を図る。
「‥‥どこへ行くつもりで? まだ終わっていませんよ」
 伊織は反対の腕で剣を握るとそれを指揮官に向かって突撃する。
「甘いね。標的、女。撃て!」
 人型キメラが一斉に彼女の足に銃を放つ。その攻撃で伊織の足は砕け、指揮官は伊織の手の届かないところに逃げていた。
 透夜は傷を受けた体に鞭を打って指揮官を迎撃しに行こうとする。が、猛獣型キメラが邪魔をする、
「邪魔だ、吹っ飛べ!」
 透夜は零距離でソニックブームを放つと、獣型キメラはその言葉通り吹っ飛んで絶命した。だが相変わらず指揮官を守ろうと、数の減ったキメラ達は一瞬空いた隙間を連係で埋めてくる。
「チッ、雑魚のくせに厄介な敵だぜ」
 ゼラスは毒づくと、鎌のリーチを利用しながら間合を詰め、急所を狙って鎌を振う。死神の鎌は猛獣型キメラの首を切り飛ばし、キメラは派手に血しぶきを上げる。
「今だ、源治」
「OKっす。 いい国作ろうエルドラドってなぁ!!」
 高揚した源治は銃を撃ち、接近して蹴りを入れ、それからさらに頭突きを入れる。
「俺の頭は岩より硬いッスよ?」
 無論SESを装備していない攻撃は殆ど意味がないのだが、それでもキメラの体勢を大幅に崩すことには成功している。
「鍛えに鍛えた刀の冴え‥‥見せてやるッスよ!!」
 大上段からの一撃。それは猛獣型キメラを縦に切り裂いた。
「あと二体!」
 旭が小銃で牽制しながら近付き、月詠でとどめを刺す。
「ラスト、ワン!」
 エリアノーラは月詠に錬力を流し込み攻撃力を一気に増幅させると、最後の猛獣型キメラを一瞬にして葬り去る。

 これで残っているのは通信型キメラが一体、人間型キメラが三体、そして指揮官となった。
「さてさて、手駒が無くなってしまった。これは本気で逃げるしかないね」
 指揮官はそう呟くと、指揮車両と自走砲を目指して走り出す。
「あれは厄介だからね、帰りの駄賃に潰しておこう」
 そして対空砲の対地射撃と自走砲の砲撃を物ともせずに向かっていく。
「全車両に通達! 車両の放棄を許可します」
 アドラーが慌てて叫ぶ。
「宜しいのですか!?」
 隊長が尋ねるとアドラーは「兵器はすぐ作れますが、それを使いこなせるだけの練度のある人間というのはなかなか育てられない物なんですよ。兵器より人です!」そういって指揮車両の中の記録メディアを抜き出した。これさえあれば車両が破壊されても新しい指揮車両にデータを移植できる。
 極論すれば兵器は道具でしかない。使う者次第でどうにでもなる物である。それだけに兵器をうまく扱える人間というのは重要なのである。アドラーはそれを熟知しているからこそ車両の放棄を認めたのである。
 『死守』というやつも本当は好みではないのだ。
 今回の殲滅もあまり乗り気ではなかったし、今となっては不可能だと考えている。敵の指揮官、おそらく強化人間だろうが、あれは強すぎる。キメラ以上の相手だ。
「全部隊に連絡! 全速力で、ただし連係を意識して敵指揮官を追ってください。指揮官を倒す必用はありませんが他のキメラは確実に殲滅してください。
ただし、敵の銃には気をつけて下さい。歩兵は兵員輸送者を使うと良いでしょう。なお、現時刻をもって指揮車両及び自走砲は放棄されます」
『了解』
 スルギ兄弟がそう答え、歩兵と能力者は兵員輸送車に乗って、戦車は隊列を組み直しながら敵指揮官を追い始めた。
 一方、指揮車両の直衛をしていたアルクトゥルスと透夜は指揮車両から脱出する兵士達の護衛役となっていた。
「まさかこんなことになるとはな‥‥」
「そうね‥‥」
 二人には敗戦気分が強い。回復したとは言え敵の攻撃で一方的にダメージを受けて、そして最後は逃げる一般人の護衛。
 何が悪かったのだろうか?
 おそらくは敵指揮官と人型キメラの強さを読み間違えていたこと。そして戦力を集中させるという基本中の基本を踏み外してしまったことだろう。そして敵の統率力の強さ‥‥いや、それは理解していただろう。だからこそ通信型キメラを先に倒そうとしたのだ。
 しかし、その途中に立ちはだかる戦力を読み違えたこと。それが最大の原因と言って良い。まあ、実際に当ってみなければ分らなかった部分も多かったとは言え、作戦が楽観的観測に則って立てられていた。それが原因だろう。
 とは言え、キメラは殆ど退治し、敵の進路もエルドラドから外れている。戦闘の目的はある程度達成したと言って良い。
 兵員輸送車と戦車が敵指揮官を必死に追跡するがそれは間に合わなかった。彼は指揮者と自走砲、自走対空砲をその銃で破壊し、再生不能にする。だが、それで足が止ったおかげ追いついた。そして‥‥
「怪我している奴は治療に専念しておけ。ゼラス、マクシミリアン、旭、源治、エリアノーラ、蓮角、清四郎‥‥覚悟は良いか?」
「喧嘩は無理だが、治療くらいならやるさ。だが、突出すると俺のほとばしる愛が届かなくなるぜ」
 ホアキンの言葉にマクシミリアンがそう返す。
「こんどは不覚をとらねえ‥‥」
 ゼラスが決意を込めて言う。
「まずは人型の掃討だな。それさえ出来れば今回の作戦は完了らしい。今度は戦力を集中して、連係で一気に倒そう」
 旭が作戦の立て間違いを考え、それを改める戦術を提案した。
「うっす、取りあえずやるしかないっすね。取りあえず今までのグループ分けに従っていきましょう」
 源治がそう提案する。その結果、ゼラスと源治、旭とエリアノーラと蓮角、ホアキンと清四郎とマクシミリアンの3組に分かれた。1つの組で1匹の人型キメラを相手にする計算だ。
「連係を意識しないと駄目ね。今まで以上に」
 エリアノーラが静かに燃えている。
「奴を逃がすのは惜しいが、せめて取り巻きだけでも倒しておかないとな」
 蓮角はそういって再度覚醒し抜刀する。
「力無き者たちを守る、それが我が武士道‥‥覚悟は常に行なっている」
 清四郎もそういって静かに剣を抜く
「OK。連係を忘れるな。それからマクシミリアンから30メートル以上離れないこと。この2つさえ守っていれば何とかなる」
『了解!』
 突出しないように歩調を合わせながら、能力者達は走る。
 そしてゼラスと源治が通信型キメラに遭遇する。
「こいつは今は能なしだが、逃がすとまた面倒なことになる。ぶっ殺すぞ!」
「了解っす」
 ゼラスの鎌と、源治の剣が通信型キメラを襲う。それはあっさりと獣の肉体を切り裂き息の根を止める。
「よっしゃ、あとは人型だけっすね」
 源治がそういったとき、銃弾が二人に飛んできた。4発分。
「ちょっと目の前のことに熱くなりすぎだね、君たち」
 二人は大きなダメージを受けるが、マクシミリアンが即座に治療する。
「うぉおおお!」
 ゼラスが吠える!
 そして人型に近づくと鎌の様々な部分を使った打突やフェイントで翻弄しながら隙ができるのを待つ。
「今だ、源治」
 合図を受けて源治ががら空きになったキメラの胴を切り捨てる。
「無銘の刀だからって‥‥甘くみんなよ?」
 上半身と下半身に分かれて、そのキメラは倒れた。

 ホアキンと清四郎がキメラ達の元へ辿り着くと、丁度ゼラスと源治が銃弾を受けたところだった。
「続いて第二射。サムライともう一人。撃て!」
 敵の指揮官は素早く第二射の指示を出す。ホアキンと清四郎は腹を銃で撃たれたが、痛みは気にせず一気に人型キメラ接近する。
「くらえ!」
 ホアキンがソニックブームを飛ばして人型キメラを牽制しつつダメージを与えると、清四郎が一気に接近してとどめを刺す。
「やばいね。それじゃあ、本格的に逃げるとしようか」
 指揮官は最後に残った人型キメラを捨て石にして、アンデス方面に向けて全速力で駆けていく。

 旭、エリアノーラ、蓮角のグループは最後に残った人型キメラに連係して攻撃の隙を与えないようにしたまま、じわじわと生命力を削っていった。そして弱ってきたところで勝機が見えた。
「とどめっ!」
 旭は敵の側面に回り込んで渾身の一撃を与える。
 それからエリアノーラが武器に錬力を送り込んでそれを振う。
「可哀相だけどこれも仕事だからね」
 そして最後に蓮角がとどめを刺す。
「この‥‥ド畜生が!」
 蓮角は正確にキメラの急所を突くと、そのキメラは絶命した。そして‥‥
 その頃にはすでに指揮官はかなりの距離を稼いでいた。兵員輸送車両を使えば追いつくことは不可能ではないが、車両ごとやられるのがオチだろう。悔しいがここは見逃すしかなかった。
「皆さん、お疲れ様です」
 アドラーが物陰から出てくる。
「まあ、敵の指揮官は逃がしましたが、エルドラド防衛と言う当初の目標は十二分に果たしていただきましたので、この依頼は、やや成功となりますかね」
 アドラーはそういうと軍用無線を取り出した。
「ロウガ中尉、申し訳ありませんが兵員輸送車で私達のことを回収願います。怪我人もいますので衛生兵を回して下さい」
「了解であります」
 ロウガ中尉がそう答えると、マクシミリアンが「俺のことを忘れていませんか?」と言ってやって来る。そして彼は超機械を通じて錬成治療を行ない、銃撃を受けた者達を回復させる。おかげで、何とか彼らは瀕死の状態から脱出した。
「次はもうちょっと楽な仕事にすっかね‥‥まあ、結果オーライめでたしめでたし、さ」
 錬力が切れそうになったのでマクシミリアンは治療を止めると、煙草に火をつけながらそう言った。
「そうですね。さて、兵員輸送車も来たことですしみなさんはあれに乗ってお帰りください」
「リュウガ中尉、アストレアも連れてエルドラドに戻って下さい。それから、ヘリを呼ぶようにイガラス監査官に伝えて下さい」
「了解であります」
 こうして、能力者とスルギ兄弟の部隊は一足先にエルドラドへと帰ることになった。

 残ったアドラー達は中破ですんだ自走砲と自走対空砲から記録メディアを抜き出すと、迎えのヘリを待った。そしてヘリに乗ってアドラーは、イガラス監査官がいる代表が執務をするプレハブ小屋へとやってきた。
「ただいま戻りました、先輩」
「お帰り、アドラー君。キメラの侵攻が防げたようで何よりだわ」
「ですが敵の指揮官を逃がしました」
「報告は聞いているわ。でも、並の能力者じゃ太刀打ちできないような相手らしいから仕方がないわね」
 そう言われてアドラーは困ったような顔をした。
「ともあれ、ありがとう。それから、エルドラドでの演習だけど、軍本部がアストレイアとそのバリエーションを欲しがっているわ。今後の演習は住民感情に配慮してもうちょっと郊外でやると共に、アストレアとバリエーション群をエルドラドの混成軍に納入すること。それが条件になるわね」
「分りました。では帰って上に伝えておきます。納品を急ぐと共に改良に取り組みますよ」
「わかったわ。それじゃあ、上司の方々によろしくね。エルドラドとドローム社との和解は、なんとしても進めなければいけない案件ですから」
「了解しました。では、失礼致します」
 アドラーは敬礼をするとプレハブ小屋を出て行く。こうして、長い一日がようやく幕を下ろそうとしていた。


追記:エルドラドに残された二両のアストレイアと、改良され新たに生産された自走砲、自走対空砲、指揮車両一両ずつが、その後UPCの混成軍に納入され、今後の作戦に試験的に取り入れられることになった。