タイトル:第五駐屯地の撤退援護マスター:青井えう

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/11/18 18:49

●オープニング本文


 世界最大規模を誇る熱帯雨林、南米のアマゾン。荒々しい自然がバグア軍とUPC軍の目隠しとなり、いくら戦闘しても双方の被害・規模が一向に見えて来ないほど泥沼化した競合地帯。
 そんな過酷な戦場で戦い続ける「南米UPC軍第5野営駐屯地」の見張り兵に、ノイズ混じりの緊迫した無線が届いた。
「‥‥こちらジャングル部隊第3小隊、第ニルートKポイントで十数体のキメラと遭遇、現在撤退しながら交戦中ッ! くそっ、救援を!」
 その無線連絡を聞いた見張りの歩哨は、すぐさま司令官テントへ飛び込みその旨を報告する。
 報告を受けた駐屯地の最高司令官、ギルドール・ホフマン少佐は渋面の表情を浮かべて小さく頷いた。
「Kポイント‥‥キメラ頻出エリアだな。距離はさほどでは無いが、地形が厄介だ‥‥。戻って来るまでに谷の吊り橋、膝まで浸かる沼を進行せねばいかん。そこでキメラ襲撃の可能性もある」
「それに頻発する小競り合いで、弾薬庫がカラになりかけてますよ? キメラ十数体を相手するとなると、ちょっと大規模な戦闘が予想されますしねぇ‥‥」
 第五駐屯地の副司令官、アイリス・マーム中尉も眉根をひそめてそう進言した。
 ホフマン司令官は分かっているというように軽く手をあげ、頷く。
「しかし救援を求めるウチの部隊を見殺しにするわけにもいくまい。先の見えない戦況で兵を無碍に扱えば士気はどん底まで落ちる。本当の問題は物資よりも士気なのだ」
 少佐はそう断言して、マームを退けた。
 しかし、マームは今ひとつ納得が行かない顔をしている。
 ホフマンの言う事も分からないでも無いが、しかし部隊の救援に向かうとなると、それ以上の被害が出る可能性もある。そして被害が出なかった場合でも、大量の弾薬は消費してしまうのだ。
 これ以上の弾薬が無くなれば、この駐屯地の防衛すら危ない。一方で救援要請をしてきたのは偵察・哨戒任務を担当する密林部隊、通称ジャングル部隊だ。密林行動のエキスパートを失くすのは痛いが、『主力+物資』か『偵察部隊』かを天秤に掛けると、救援に向かうのも分が悪いと思われた。
 しかも万が一主力の一部が救出へ向かっている間、この駐屯地がキメラの襲撃にでも遭えば、かなりの被害を覚悟しなければいけないのだ。
「安心したまえ、マーム中尉」
 不安げなマーム中尉の表情をホフマン少佐は敏感に読んで、そう言葉を発した。
「確かにこの作戦は分が悪い。なので、我が第五野営駐屯地は他部隊に援軍を頼む事にする」
 マーム中尉はその少佐の言葉に首を捻った。南米UPC軍、特にこのアマゾン地帯ではどこも手一杯である。むしろ、この第五駐屯地は余裕がある部類だ。そんな方面に援軍を送ってくれる所など‥‥。
「あ、なるほど。そういえばうっかりしていました」
 ポン、と手を叩いて何かを閃くマーム中尉。
 ホフマン少佐は分かったか、という風に小さく笑って見せた。
「そうだ、数日前から地元義勇兵に混じって能力者達もこの駐屯地に来ていただろう。‥‥マーム中尉、能力者達と交渉し、第3密林小隊の救援を請え」
「はい! 了解です!」
 マーム中尉はピシッと敬礼をしたかと思うと、大急ぎで司令官テントを出て傭兵達にコンタクトを取ったのだった。

●参加者一覧

水上・未早(ga0049
20歳・♀・JG
井筒 珠美(ga0090
28歳・♀・JG
戌亥 ユキ(ga3014
17歳・♀・JG
佐竹 優理(ga4607
31歳・♂・GD
佐倉霧月(ga6645
20歳・♂・FT
夜十字・信人(ga8235
25歳・♂・GD
サルファ(ga9419
22歳・♂・DF
エルフリーデ・ローリー(gb3060
16歳・♀・FT

●リプレイ本文

「緊急救出? それじゃ急がなきゃ! ‥‥っと、その前に弾薬! 弾薬!」
 マーム中尉の要請を受けて、戌亥 ユキ(ga3014)は火器テントへ駆け出して行く。
「救援を求めてきた味方がむざむざやられたとあってはマズイからな‥‥。
 それになるべくなら偵察部隊の生きた情報は欲しい。
 ‥‥『戦友』の死を何も出来ない所から見てるだけなんてのは、もう真っ平ごめんなんだよ」
 井筒 珠美(ga0090)がアサルトライフルを取って立ち上がる。
「‥‥ちょっと真剣にやろうかね」
 隣で佐竹 優理(ga4607)も眉をひそめて銃を取った。
 ‥‥一方、医療テントまで来ていた水上・未早(ga0049)は困惑していた。
「しかし向こうには重傷者も‥‥」
「いいやダメだね。ここにも重傷者は沢山居る。物資は自前で何とかしてくれ。まぁ、担架ぐらいなら持ってって良いけどね」
 医療物資を要請しに来た未早だったが、まだ若い軍医はそれをはね付けた。
 未早は渋々、使い古された担架を拾いあげて出て行く。
 ――だがふいに、小さな舌打ちが聞こえた。
「‥‥なんとか連れて帰ってくれ。その時は、どんな怪我だろうと僕が全力で生かしてみせる」
 未早が振り返る。
 軍医は険しい表情で、呻く兵士の傷を縫合していた。

 傭兵達は迅速に準備を整えてKポイントへ向かっていた。
「気候条件地理的条件、全てが厳しいか‥‥。ですが、必ず助けます。僕の手の届く限り、必ず」
 ジャングルを走破しながら、佐倉霧月(ga6645)は強い思いを口にする。
「南米の密林か‥‥二年前のあの日を思い出すな。そう、俺の人生と背骨をへし折ったあの日を」
「‥‥背骨を? い、一体何があったんですの?」
 遠い目をした夜十字・信人(ga8235)の呟きに、エルフリーデ・ローリー(gb3060)はギョッとして振り返った。
「‥‥っと、早速キメラです」
 前方にキメラを三匹、サルファ(ga9419)が認める。
 サルファは一瞬で覚醒、手に持つ1m近い拳銃のトリガーを引くと――長い刃が銃から飛び出した。
「いくぜ、獣ども‥! 狩りの始まりだ‥!」
 援護する――銃声。
 珠美のアサルトライフルを皮切りに、ユキと優理の『S−01』が火を噴き、未早のシエルクラインの連射の後、信人のガドリング砲が敵を蜂の巣にする。
 そこへ更に――サルファ、霧月、ローリーの息も吐かせぬ三連斬が、キメラを土へと還した。
 電光石火で敵を屠ると、傭兵達はまた駆け出す。立ち止まる暇は無かった。

「あぁ、気持ち悪い‥‥」
 ゲッソリとした優理の声。
 全員が汗にまみれ、沼を通った後の靴には泥が入り込んでいる。
 地図を持つサルファ主導の下に出来るだけ平易なルート選択だったが、それでも密林の強行軍は楽では無い。
「あった、橋ってあれだな」
 サルファの声の向こうに吊り橋が現われる。傭兵達は二班に分かれて渡橋したが、幸いにもキメラの姿は無かった。
 ここまで来るとKポイントは近い。
「第三小隊の皆さん、こちら救援の傭兵部隊、現在吊り橋付近ですわ」
『きゅ、救援か! こっちはそこから‥‥くっ!』
 急に森を裂いて散発的な銃声が発生した。
「大丈夫ですの!?」
『くそっ、見つかった! 早く救援を!』
 無線機に別の隊員の叫びが混じり、短い銃声が続く。
「‥‥第三小隊、こちらが合図したら閃光手榴弾を投げ込みますわ。それに備えてください」
 ローリーはそれだけ指示し、無線をしまった。

「うおおおおおおおっ!」
 雄叫びを上げて打ち込む鉛弾は、‥‥しかし、キメラの赤い光に阻まれて決定打に至らなかった。
「ダメだ、撤退!!」
 小隊長が叫ぶ。
「隊長、スミスが重傷で動けません!」
「捨てて行け! 救援は間に合わんぞ!」
「しかし‥‥!」
 数秒も掛からずにトリガーを引く兵士の銃は虚しく沈黙した。
 弾幕の消えた前方から異形の怪物が迫る。
「逃げ、ろ‥‥アーノルド‥‥!」
「‥‥自分には、出来ません」
 重傷者の言葉に兵士は首を振り、銃を棒のように構える。
「あのバカが‥‥!」
 数人の部下と撤退し始めていた隊長が顔を歪めて吐き捨てた。その視線の先で、部下二人がキメラの歯牙に――。
「――皆さんお伏せにっ! 突撃しますわっ!」
 突然、聞きなれない声が飛ぶ。
 アーノルドが反射的に伏せた――瞬間、辺りは眩い閃光一色に包まれた。
 同時に一発の貫通弾が、アーノルドに迫ったキメラの喉を貫く。
「うーん、危機一髪、と」
 優理のS−01はさらに連続で火を噴いた。
 続けて後方から珠美が射撃を加え、アーノルドまで未早が駆け寄り、反対側からユキが銃で狙撃する。
 さらに剣と盾を構えた戦乙女のローリーがキメラに接敵し、ヴィラを突き立てた。その後に続く霧月、サルファが白兵戦に持ち込む。
 猛攻に弱りながら反撃しようとするキメラを、――信人のガドリングが命ごと全て吹き飛ばした。
「救援‥‥」
「そうですわ。怪我は大丈夫ですの?」
 ローリーの言葉に、アーノルドはスミスを振り返る。
「酷い傷ですね‥‥染みますけど我慢して下さい」
 既に霧月が救急セットで簡単な応急処置をしていた。さらに優理が水筒を取り出して水を飲ませてやっている。

「隊長‥‥」
「アーノルド、スミス、無事だったか‥‥」
 隊長は二人を見てホッと息を吐く。
「あぁ、隊長さんかな? 手榴弾を持って来たからまぁ使ってよ」
「あ、私も持って来たよ! え〜っと‥‥」
 優理が携行品から手榴弾を、ユキは弾薬を取り出した。さらに霧月とローリーも持参してきていたので、弾薬は重傷者も含めて七人の兵士全員に行き渡り、手榴弾は七個が渡された。
「怪我人はこの重傷の方と‥‥そちらの二人ですか?」
 未早が背負ってきた簡易担架に重傷者を固定しながら、隊長に質問する。
「そうだ、こいつらはまだ自分で動ける」
 隊長の両隣で、破いた布切れを肩や足に巻く兵士二人が頷く。
「しかしスミスが重傷、‥‥パウロはもう帰れなくなっちまった」
 その視線の先、少し離れた場所に一つの死体があった。
 血まみれでピクリとも動かない、パウロの亡骸だった。
 未早は一瞬だけ顔を伏せて、すぐに戻す。
「‥‥把握しました。それでは撤退ルートの説明をします――」
 未早は撤退ルートと、傭兵が戦闘を担当し、兵士には負傷者の搬送と最低限の自衛をして欲しい事を伝えた。
「了解だ。‥‥マイケル、ジェームズ。スミスを運んでやれ。七人で必ず帰るぞ」
「‥‥隊長、一人忘れている」
 珠美が指示に割り込んで、その一人を指差す。
 その言葉に隊長は唖然とした。
「いや‥‥、パウロは死んで――」
「危うくなるのは分かっている。‥‥だが、端から打ち捨てて行くような薄情を私はしたくない」
 珠美が言い捨てて、無惨な死体となったパウロを抱き起こす。
「‥‥危険だ」
「安心してくれ、俺達が全力で守る」
 サルファが力強く言い放った。
 既に傭兵達の心は、第三小隊『全員』を連れて帰る事で固まっていたのだ。
 それを感じ取って、幾多の戦場を越えてきた隊長は沈黙する。
 傭兵達の言葉に納得したわけでは無い。
 しかし、‥‥そこには自分の中から消えた『何か』が見えていた。
「パウロを背負います」
 若き兵士アーノルドが珠美の肩からパウロを引き受ける。
「‥‥撤退だ」
 隊長は静かに呟いた。


 撤退を開始した一行は吊り橋まで戻って来た。斥候のユキが慎重に敵を探す。
「うん、問題無し。進んで来て大丈夫だよ♪」
 そのまま谷へ出ると、まずはユキ、霧月、未早が向こう岸に渡った。そちらにも敵影は無くクリアのサインが出される。
 渡橋を開始する兵士達。まず重傷者を搬送、その後負傷者二人、最後に隊長とパウロを背負うアーノルドが橋に踏み出す――。
 その時、森から巨大な鳥が飛び出した。
「‥‥っ、キメラだッ! 急げ!」
 珠美の銃撃に、鳥は赤い光を纏う。
 そのキメラは両岸からの十字砲火で呆気なく絶命したが、直前に大きな奇声を発していた。
 森から次々と飛び出してくる巨大鳥。
 その数が十を数えた時、アーノルドと隊長は橋を渡り終えた。
「続きますわッ!」
 サルファとローリーペアが渡る。
 しかし、巨大鳥は橋よりも――対岸に固まる集団を狙いに行った。
 殺到する十匹弱に向けてユキと未早が弾幕を張り、霜月が急降下してくる鳥を盾で防ぐが、抑えきれない――。
「止まるな、撃ち返せ!!!」
 鋭く叫ぶ隊長が空へフルオート射撃。
 銃声にハッとして兵士達も銃口を上げた。
 その必死の弾幕が敵の攻勢を鈍らせる。
「加勢するぜ!」
 間一髪でサルファとローリーが到着、急降下を敢行してくるキメラを切り伏せる。
 さらに続く優理と珠美ペア、最後の信人も対岸の援護を受けながら無事に渡り切った。
「走れ、鳥の丸焼きにされる前に森に逃げ込むぞ!」
「信人さん、微妙に間違ってるよ〜!」
 ユキは生真面目に突っ込みながら、しかし動きだけは正確にキメラに銃撃をくわえた。

 全員が何とか森に逃げ込むと、視界の悪さが幸いして鳥の猛攻は無くなった。
 その代わり――、無数の虫や獣のキメラが行く手を塞いでいた。
「まったく、次から次へと‥‥。どいて下さい。僕たちは早く帰らなくちゃいけないんです!」
 言い放ち、霧月が自分用に持参した手榴弾二つを投げ付ける。
 一瞬の間を置き、草と土に混じってキメラの肉片が多数舞った。
「強行突破します! 皆さん走り抜けて下さい!」
 未早は叫んで手榴弾で薄くなった敵陣へ突っ込む。直後、シエルクラインが弾切れ。即射でリロードしようとしたが、別の依頼からの疲労が残っていた未早は既に練力が底を尽きかけていた。
 仕方なく武器を切り替え、振るった機械剣αがキメラ群に致命傷を与えて、――道を作る。
 そのまま走り抜けようとする一同。
 しかしキメラは比較的抵抗の薄い兵士を見て、容赦無く襲い掛かる――!
「この人達は絶対に傷つけさせませんよ」
「同じく、やらせませんわ」
 兵士に代わり――――霧月とローリーの盾が攻撃を受け止めた。
 それならと続くキメラの第二波を――優理と信人が身を挺して受け止める。
「‥‥つぅ、痛い」
 優理は軽く顔を歪めて、信人は無表情に攻撃を身に受ける。
「爆発のタイミングは合わせなくていい、兎に角投げろ」
 信人は手榴弾を持つ兵士に指示すると、ガドリングを全弾ばら撒き、リロードした。
「俺の心臓は此処だ‥と言いたいところだが、やめておくか」
 兵士達は首を捻りながらも、固まっているキメラへ手榴弾を投げ込む。炸裂、――キメラにダメージを撒き散らした。
 猛攻の甲斐あってキメラの囲みから突破する。
 それでも二匹がその背中に追いすがろうとするが――。
「おっと、残念。ここで行き止まりだ」
 銃剣ラグナ・ヴェルデを構えたサルファが言い放ち、剣を振った。
 赤く光る刃がキメラの一匹を両断する。
 さらに空から迫ったもう一匹は――ユキの銃弾の餌食となった。
「食らいやがれ!」
 極め付けに隊長が投げた手榴弾が、引き返すサルファの背後で炸裂し――残りのキメラをまいた。

「‥‥東ルート、敵発見だよ。中型三体、小型四体‥‥ぐらい?」
 斥候に出たユキが無線機に声を入れる。
『七体か‥‥少し多いな』
 復路はより安全を取って沼を迂回するルートを通っていたが、キメラとの交戦は少なく無かった。
「せめて、いちばん抵抗の少ないコースを見つけなくちゃね‥‥」
 ユキは隠密潜行で別ルートを探す。
 ‥‥一方、後方で身を潜めていた一同にも異変があった。
「おい、スミス! こいつ、息してないぞ!」
「‥‥見せろ!」
 隊長が担架に横たわるスミスの脈を取る。瞳孔を見て――ゆっくりと首を横に振った。
「手遅れだ」
「‥‥そん、な」
 長時間による撤退行に、スミスは持ち堪えられなかった。
「仕方ない。この傷じゃ基地に帰っても死んでいた」
 隊長の言葉と共に、重苦しい空気がその場にのしかかる。
 その沈黙を破り――草の揺れる音がした。
 全員が顔を上げた先に、赤い瞳のキメラが立つ。
「本当に‥‥キリが無いですね!」
 霧月がイアリスを構え――しかし動きが止まった。

 ――囲まれている。

 疲労が溜まっていたのか、能力者達も気付けなかった。
『東北ポイント問題なし。進んで来て大丈夫だよ♪』
 無線機から明るいユキの声が流れる。
「二人の遺体を置いていく。基地まで走り抜けるぞ」
「‥‥止むを得ませんね。その案に賛成です」
 未早が現状を分析して隊長に同意した。
 直後キメラが――跳んだ。
「くそ、必ず回収に来る――!」
 珠美が応戦しながら、パウロとスミスのドックタグを引き千切る。
「東北へ!」
 ローリーが襲い掛かるキメラを盾で防ぎながら叫んだ。
 全員が東北ルートへ走り出す。
 ――しかしその最後尾で、サルファが立ち止まった。
「俺が囮になれば、少しは負担が減るかな?」
「サルファ‥‥土に還るのか?」
「ん、大丈夫だ。――こんなとこで死ぬつもりは無いぜ!」
 信人に返事して、サルファは剣を薙ぐ。


「基地だ、基地が見えたぞ!」
 最後の数百メートルを全力疾走し、一同の視界に基地が映る。
 逆に基地からも、その姿を視認した。
「第三小隊が‥‥帰って来た!」
「キメラだ! 火力支援!」
 叫びと同時に基地から嵐のような弾幕が張られ、追いすがっていた数体のキメラを殲滅した。
 そうして再び――第三小隊は基地の土を踏む。
 歓声が沸いた。
 基地の人間と第三小隊から、自然に歓喜の声が漏れる。
 しかし、一段落すると――そこに二人足りない事に気付く。
「‥‥パウロとスミスは死んだ」
 隊長が厳かにそう宣言すると、沈黙が流れた。
 そこへ珠美が近付き、ポケットから二人のドッグタグを取り出す。
「遺体は回収できなかった、‥‥すまない」
 救出者のそんな言葉を責められる兵士は一人も居なかった。
 少し離れた場所で、信人が静かに戦死者に祈りを捧げている。
「笑え、お前ら」
 ふいに隊長の声が響く。
「奴らはバグアと戦って勇敢に死んだ。英雄をしけた顔で見送るな、笑って見送れ!」
 そう言って、隊長は大声で笑った。
 呆然としていた隊員達も、次第に――笑顔を取り戻していく。
「んー、じゃあ。午後のティータイムでもどうだい?」
 そんな全員に向かって、後ろから優理が紅茶を掲げて見せた。
「‥‥うん、さんせーい!」
 ユキが努めて明るい声で同意する。
「――っと。あれ? こんなに頑張ったのに、俺への心配は無しですか?」
 不意に、あちこちを擦り切れさせた――サルファが基地の入り口に姿を見せた。
「サルファさん! 無事だったんですね!」
 霧月が顔を輝かせて呼ぶ。
「これで全員も揃いましたし――ティータイムが出来ますわね」
 本場英国のローリーが嬉しそうに言う。
「‥‥いや、僕はまずは治療だと思うけどね」
 ふいに軍医が現われ、苦笑して顎をしゃくる。
 その先には――満身創痍の未早が、木箱を背に眠り込んでいた。