●リプレイ本文
「ドラゴン退治か、まるで中世の騎士になった気分だな」
KV格納庫を進みながら呟くのはセージ(
ga3997)。
そこへふいに声が掛かった。
「中世と違うのは、扱うのがKVだって所か。どうも、UPC軍として同行するライトだ。‥‥えぇっと」
「ああ、俺はセージ、よろしくな少尉」
言ってセージは、ライトに右手を差し出した。
一方、風羽・シン(
ga8190)は既に自機に乗り込んでいた。
「んー、やっぱ古来より『ドラゴンスレイヤー』って響きにゃ憧れってモンがあるよなー」
「緑、黄、赤‥‥まるで信号機ですね。尤も、随分と物騒な信号機のようですが」
『黒鋼』と名付けて黒と銀にカラーリングした雷電のコックピットで、遠倉 雨音(
gb0338)が通信装置のテストがてら呟く。
「今回は数と間接攻撃が少々厄介か。――まぁ厄介なだけで、負ける気は微塵も無いがな。
ドラゴンは騎士に倒されるのが、『お約束』だろう?」
整備班の出撃準備が整うのをウズウズと待ちながら、リュイン・カミーユ(
ga3871)は不敵に微笑む。
「ワイバーンでドラゴン退治とは面白い趣向と言うべきなのでしょうか?
‥‥冗談はさておき、きちんと任務を果たす為に全力を尽くしますわね」
クラリッサ・メディスン(
ga0853)は、余裕を持った笑みを浮かべる。
「今度はドラゴンか‥‥バグアも意外にファンタジーなものが好きなんだな。未早、クリア、今回は頼りにしているぞ。――8246小隊、出撃だ」
出撃アラートが鳴り響き、出撃ランプがレッドからグリーンへ変わると同時に、8246小隊隊長のリディス(
ga0022)が宣言した。
「今回は数で向こうの方が勝りますし、上手く連携をとっていかないといけませんね」
8246小隊副隊長、水上・未早(
ga0049)は淡々と応答する。
「うーん、どうせならドラゴンも、飛行するんじゃ無くて巣穴で待ち構えてくれてれば良かったのにーー」
対照的に、同小隊隊員のクリア・サーレク(
ga4864)は悔しそうだった。どうせドラゴン退治なら、空中戦ではなくて接近戦が良かったらしい。
「‥‥ふむ、これが傭兵か。改めて、俺は今回同行するUPC軍少尉のライト・ブローウィンだ。よろしく頼む」
全員に軽く声を掛けるライト。
そうして格納庫から九機のKVが姿を現し――大空へ飛び立った。
◎ドラゴン討伐部隊編成
・囮班(低・中高度飛行)
前衛
リディス機『ディスタン』
リュイン機『雷電』TAC:chardon
後衛
クリア機『雷電』
雨音機『雷電』TAC:rainy
・後続班(高高度飛行)
未早機『ワイバーン』TAC:Holger
メディスン機『ワイバーン』
シン機『ディアブロ』TAC:ウインドフェザー
セージ機『R−01』
ライト機『バイパー』
九機は計画通りに編隊を組み、ロッキー山脈南部上空に入る。
山ではレーダーに幾つもの『盲点』が発生する。そういう場所は、目視で出来る限りのカバーをしていた。
「南東方位は異常無し。chardon、何か見えるか?」
リディスがリュイン機に問いかける。
「いや、何も居らん。さて‥どこから沸いて出る、か」
呟いて、囮班が山の小さな起伏をまた一つ越えた時――。
「こちらrainy、八時の方向にドラゴン出現!」
突如後方から飛び出してきたドラゴン群を視認して、雨音が叫んだ。
咄嗟に後方へと方向転換する囮班の四機。しかし――、
「ダメだよ、先手を取られたッ!」
叫ぶクリアとほぼ同時、赤ドラゴンが火球を吐いた。
その火球は空中で分離、突然二つに割れて数を増やす。
無数の火球は空を焦がさん勢いで滑空し、猛烈な速さでKV隊に迫る――!
囮班は急旋回、空で花が開くように散開して回避行動を取った。
しかし後衛、雨音機とクリア機が一、二個の火球をかわした先で連続被弾。炎に包まれ装甲の表面は軽く溶解する。
前衛、アザミとフェニックスのエンブレムを翼につけたリュイン機は、一度被弾したものの、その後三つを回避。
ペアの黒虎のエンブレムを持つリディス機は、炎の隙間を卓越した技巧で掻い潜っていく。
「――囮班が交戦を開始。応援に向かいます」
「さぁ、覚悟は良いかしら――?」
少し後方で高高度飛行中だった後続班のワイバーン二機がブースト、下方のドラゴン群へと疾駆する。
「続く――!」
さらにセージ機もブーストを使用してパワーダイブ。シン機とライト機がその後に続く。
「ガアアアアアアアア!!!」
交戦域では黄のドラゴンが小さな黒い雲が呼び、そこから稲妻を走らせていた。
「くっ、rainy左翼被弾!」
「あう、直撃!」
雨音とクリアが被弾。
「ちっ、我も貰ったか」
リュイン機は、ニ本の雷撃に装甲を掠め取られる。
「第三波、来るぞ!」
唯一雷撃を回避したリディスは、敵の動向を見て叫んだ。
同時に、五体の緑ドラゴンが囮班へ迫る――!
しかし突如――、上空から白い尾を引くミサイルが先頭のドラゴンに着弾、――爆炎を上げた。
「こちらHolger、遅くなりました」
通信と共に上空から猛烈に直下してくる青い機体には、トランプの『J』がマークされている。
さらに一瞬後、小型ロケットが緑ドラゴンへと降り注ぐ。複数の爆炎と共に、ドラゴンの体は下へ吹き飛んだ。
「ワイバーンの牙、‥ロケット弾ランチャーのお味はいかが?」
KV『ワイバーン』を駆るメディスンは、微笑んで皮肉を浴びせかける。
急襲に混乱するドラゴン群。
その隙に乗じて――囮班が反撃を開始した。
「今まで散々やってくれたなーっ!」
ロックオンと共にクリアが8式螺旋弾頭ミサイルを二連発射。火を噴くミサイルは、ドラゴンのFFを突破、表皮まで食い破って――爆発した。
「よし良いぞ、Holger、クリア!」
8246小隊隊長のリディスは通信しながら、照準したスナイパーライフルD−02を撃つ。
銃声と同時、血を撒き上げる緑ドラゴン。
リディス機はさらに猛速接近――ソードウイングで切り裂いた。
「今度は――こちらの番です」
続くように雨音機から、二発のホーミングミサイルが白煙を上げて空を疾る。一瞬でリディスが交戦しているドラゴンに到達、――火を噴き上げる。
ほぼ死に体となって、しかしまだ落ちない緑のドラゴン。
そこへ――ホーミングミサイルが着弾して、命を奪う。
「いい加減、墜ちておけ」
地面に落下していくドラゴンに目をくれて呟くリュイン。そしてすぐに機首を傾けると、スナイパーライフルD−02で敵ドラゴンの翼を狙撃。
放たれた弾丸が翼に風穴を開ける。同時にドラゴンは飛び難そうにもがいて、少し速度を落とした。
「ふむ、どうやら敵は翼による飛行らしいな。‥‥我は敵の翼攻撃に集中する」
敵の飛行方法を見極めたリュインは、自分の戦闘方針を味方に連絡。
緑のドラゴン群はそこで態勢を立て直すと、KVへ長い尻尾を連続して振るう。そして間髪をおかずに体当たりを敢行、さらにそのままの勢いで鋭い爪を振り回す。
そこに居る全機がいずれかの攻撃を被弾、機体にダメージを負った。
‥その頃、後方の赤と黄のドラゴンは、前方で緑と交戦するKV六機を見据えていた。緑ドラゴンが敵に攻撃を加えたタイミングを見計らい、ドラゴン達は大きく羽ばたいて攻撃を――。
「敵を射程に捉えた――エンゲージ!」
突如、赤のドラゴンへ向けてガドリング砲弾が雨のように降り注ぐ。
突撃仕様ガドリングを撃ち放って急降下してくるR−01。その胴部には、鋭利な幾何学的模様のエンブレムが輝いている。
そしてセージはガドリングを撃ち終わると、急襲に怯む赤のドラゴンへ――135mm対戦車砲を直撃させた。
その後ろからライト少尉のバイパーが、他の赤ドラゴン二体にガドリングを掃射して牽制する。
更に、黄のドラゴンにも一発のホーミングミサイルが着弾、燃え猛るように爆発した。突然の攻撃に頭を抑えられる黄ドラゴン。その頭上から――太陽を背に落ちてくるディアブロ。
「『騎士』の刃、思う存分味わいやがれっ!!」
シン機のソードウイングが、黄のドラゴンの肩を切り裂いて空を翔た――。
後続班が赤と黄のドラゴンを抑えている間、リュインは緑に専念していた。
ガドリング砲弾を緑ドラゴンの翼に打ち込んでいく。被弾したドラゴンは飛べなくなるほど致命的な風穴は開かないものの、機動力は多少の減少を見せた。
「よし、こちらchardonだ。緑は機動力を落としたぞ」
全ての緑ドラゴンの翼を攻撃し終えて通信を入れるリュイン。
その内の一匹へ向かって――雨音機が接敵した。射程距離に入ると同時に、C−0200ミサイルポッドを連続発射。
解き放たれたミサイル百二十発はドラゴンに着弾し――空に断末魔を残して絶命させた。
一方、メディスン機は別の緑ドラゴンへロケット弾を放つ。六発全弾が命中、火焔と共にスパークのような火花が散る。
同じ敵へ未早機がガドリング砲を発射。さらに近付きながら高分子レーザーで翼を切り裂き、――ソードウイングで息の根を止めた。
「Holger一体撃墜、緑は残りニ体です」
未早が現状を報告する。
しかし、緑のドラゴンは猛反撃に転じた。三体が体当たりを敢行、爪と尻尾を猛烈に振り回す。
体当たりをリュインは回避するが、クリアは避けきれず被弾、メディスンは爪を回避したが尻尾に弾かれ、未早は爪と尻尾で叩きつけられ、リディスは尻尾で機体の端をもがれた。
さらに後方から、赤ドラゴンの一匹が火球を吐きつける。前衛KVへと高速で飛来する炎塊――!
「そんな野蛮な攻撃、研鑽練磨された科学技術の前には無力、当たりませんわよっ!」
メディスンはマイクロブーストを点火、爆発的機動力を得て火球を回避。
さらに未早機は高速からの大回りループ、リュイン機もロールして機体底面を擦るように避けた。
しかし、
「くっ‥‥、被弾、機体損傷率は三割」
警告アラートが雨音機『黒鋼』のコックピットに鳴り響く。頑強な雷電でも、手数の多い攻撃にダメージが蓄積している。
そして最もダメージが蓄積しているクリア機へ――、灼熱の火球が迫る――!
「避けきれないっ!」
「――――させるかッ!」
突然、横から猛スピードで突っ込んで来た一機がクリアの盾となった。その機体の翼には――黒虎と8246という数字が付いたエンブレム――。
「た、隊長ッ!?」
かばってくれたのが、所属する小隊の隊長リディスだと分かり、クリアは声を上げた。
「ファンタジーの住民に現実の人間が敗れるわけにはいかないからな‥!」
機首を傾け、リディスはAAMを二連発射した。標的は――火球を吐いた赤のドラゴン。
AAMは白い尾を引いて接敵し、開けた口を貫くように着弾、――ドラゴンの頭部を消し飛ばした。
「よーし‥‥、続くよっ!」
クリアが残る二体の赤ドラゴンの片方を狙う。残った螺旋ミサイルを全弾発射、さらにホーミングミサイルを一発撃ち放つ。直撃した赤のドラゴンは爆発と共に揺らぐ。
「トドメだ!」
セージが撃ち放つ、アグレッシブファングを使用した渾身の砲撃。その高速の砲弾が、――ドラゴンの胴体に即死の風穴を開けた。
直後、残った最後の赤ドラゴンが、仇とばかりにセージへ襲い掛かる。
体当たりでR−01の装甲を凹ませ、燃える火爪が機体を溶かし裂いた。
「くっ! この程度で落ちるかよ、ほらこっちだ!」
叫びながらセージはニ撃目の火爪をかわすと、ゼロ距離から対戦車砲で反撃する。
そのすぐ横で、ライト機とシン機が黄のドラゴンを相手に奮闘していた。
「ウインドフェザー、援護する!」
ライトは叫ぶと同時に、黄のドラゴンへAAMを全弾発射。着弾の衝撃でドラゴンは機動を落とす。
「援護感謝だ! ――決めるぜっ!」
ライトが作った隙を逃すシンでは無い。
ディアブロは空を疾駆し、六発の高分子レーザーで敵の翼と胴を貫く。そして高速から繰り出したソードウイングで、――トドメを差した。
「よし、一体撃破!」
だが直後、突然黒い雲と共に稲妻が発生し、シン機とライト機が被弾。
「くっ! ――ウィンドフェザー、四時方向より敵、避けろ!」
ライトの通信で、シンはそちらを視認するが――間に合わない。
帯電する黄ドラゴンの体当たりが、機体に青白い火花を散らす――。
「もう我達の勝利は確定しているぞ。――さっさと堕ちろ」
リュインが面倒臭そうに言い放って、螺旋ミサイルを発射した。手負いだった緑のドラゴンは着弾して羽ばたきを止める。
手を休めず、リュインは追撃の高分子レーザーを放つ。それがドラゴンを完全に貫き、――地へ叩き落とした。
同じ空域の未早機は、別の緑ドラゴンへガドリングを放つ。既に傷付いていたドラゴンは、一度の弾幕で深手を追った。
「後は‥‥任せます、rainy」
しかし未早はトドメを差さずに方向転換、後方へ機体を駆る。
そして入れ替わるように立ちはだかる――黒銀の雷電。
「任されました」
雨音は言うと、ミサイルポッドを解放。大量の小型ミサイルが次々にドラゴンへ着弾、生命を掠めとっていく。
――そして極め付けに放った六発のレーザーが、ドラゴンの頭と胴を貫通した。
残るドラゴンは赤と黄が一体ずつ。しかしそれでも、赤のドラゴンは最後の反撃を試みた。
残る力を振り絞って火球を吐く。さらに、一番近いセージ機へと火爪を振るう。
――が、セージはブーストを発動、高機動をもってその両方を避けた。
「どうした! この程度ついて来れなきゃ話にならないぜ?」
さらに、向かってきた火球をシンも回避。
しかしメディスンとライトが被弾する。
「く、油断しましたわ‥‥」
お返しとばかりにメディスンは螺旋ミサイルで反撃。粘膜のような爆炎がドラゴンを包み込んだ。
続いて、セージが突撃ガドリングから戦車砲へと繋いだ連続攻撃。ズタズタに肉体が破壊され、虫の息になるドラゴン。
「トドメーっ!」
そこへ飛んできたクリアが、砲弾の雨を降らせる。
蜂の巣になった赤ドラゴンは――ピクリともせず落ちた。
――ゴォオンッ! と空に轟音が響く。
黄色ドラゴンに放たれたリディスのリニア砲、――それが合図だった。
「行くぞ!」
最後の一匹となったドラゴンへ、リディス機、未早機、シン機が肉薄、ソードウイングを煌めかせる。
迫り来る三機にドラゴンは一瞬戸惑うように首を巡らすが、すぐ咆哮と共に黒雲を呼んだ。
――しかし、雷撃が放たれるより速く。
未早機がその背中を切り裂き、リディス機がその片翼を斬り落とし、シン機がその首を、――刈り取った。
「‥‥で、少尉とやらは無事か?」
ドラゴンの殲滅を確認して、リュインは思い出したように通信を入れる。
「機体破損率5割弱‥‥まぁ生きてるな。心遣いをありがとうchardon。‥‥任務も完了、帰還しようぜ」
装甲が溶解し、スパークするバイパーが全員に告げた。
能力者達は苦笑を浮かべて隊列を組むと。
――九機は茜空に飛行機雲をひいて帰投していった。