タイトル:【NF】荒野の断末魔 マスター:青井えう

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/12/12 08:28

●オープニング本文


 赤土の大地の中――この地に君臨していた悪魔の町は朽ち果てようとしていた。
 かつての面影はもうそこに無い。バグア基地施設は破壊され、町中に死骸の腐臭が漂っていた。
 その中心には崩れ落ちた塔。
 瓦礫に埋もれた本星中型HWは輝きを失ったまま微動だにせず。
 その機内で気を失っていた男は乾いた血を全身に張り付かせて――まぶたを開いた。
「く‥‥ぁ‥‥人間め‥‥」
 機体の破孔部から覗く空。
 そこはいつもと変わらない蒼に染まっていた。
「希望‥‥だと‥‥。それが貴様等の力なのか‥‥。この空に翼を広げる程の‥‥ッ!!」
 呪詛を吐く掠れた声に力が篭もる。
 男は内からの衝動で表情を歪め、赤く濁った目から血涙を流す。
 瞬間、その腹は醜く膨らんだ。
 機内一杯に肥大化したそれが破裂し、中から止め処なく溢れる血肉が――大破した機体を幾十も内側から貫く。
「ぬぅああああ――ッ!!」
 静寂の支配する荒野の町で負の激情に駆られた怨嗟の声が――高く響き渡った。

「わっはっは! 勝った、勝ったぞ!!! ワシ等の勝利だ!!!!!」
 破顔して凱旋車から手を振るポボス。
 その道路の両側、前後では鳴り止まない祝砲と、民衆達の歓声。
 帰還したナトロナ軍はキャスパーを凱旋して、住民達へその勝利を伝えていた。空を飛ぶ戦闘機と、地上を走る軍用車両。空陸にそれぞれKVが続く。
 街中のモニタがその行軍の様子を映し、住民達はとうとう――バグアに勝利した事を知ったのだった。
 勿論、アルコヴァの住民達と負傷兵達は一足先に病院へ運び込まれて治療を受けていた。病院は許容量を越えて人で溢れたが、それも今日を境に落ち着くだろう。
 そう、ついに彼らは長い戦いの果てにナトロナを解放したのだ。
 脅威は――消えたはずだった。

「‥‥警報!? アルコヴァ方面に敵影が――」
 ――突如、作戦室を切り裂く警報音。
 最低限の人数で任務に当たっていた作戦室に、緊張が走る。
 レーダー上にポツリと浮かんだ影は――高速で移動。キャスパーへと一直線に向かって来ていた。
 当直の士官が安全カバーを押し開け、エマージェンシーコールを発動。
 直後基地に、そしてキャスパーに。
 ――――甲高いサイレンの音が響き渡った。

「‥‥何だ?」
 突然の警報に、水を打ったように静まり返るナトロナの都市。
 浮かれていた街は今、不審な予感で支配されていた。
「ふん、ワームの生き残りの襲撃か!? ケッ、これから酒って時に水を差しやがって‥‥第三機甲部隊『クロウ』、全機出撃するぞ!」
「了解。第六機甲部隊『ブルーバード』全機も迎撃に出る」
 二部隊が行軍を抜けて、変形。空へと上がり戦闘モードへ移行する。
 だが、そんなバルト中尉を慌ててヒータが引き止めた。
「‥‥バルト中尉!? 危険ですよ、空砲しか積んで無いんじゃ――」
「なぁに、平気だ! 近接武器も積んでるし、こっちにゃブルーバード隊も居るんだ。俺達はお手伝いぐらいにやっとくぜ。なぁ?」
「本部からの情報によると敵は一体みたいですね。俺達は要らないぐらいですよ」
 カスピも頷き、機体を加速させる。都市防衛が主任務のブルーバードもその方針に異論は無いようだった。
「大丈夫‥‥なのか? 何だか不安ですね」
 南の空へ消えて行った彼らを見送り、イカロス隊副長ライトが呟く。
 だが緊急事態宣言が出された以上はボヤボヤしてる間は無い。戦闘態勢にいつでも移行できるように基地へ戻り、出撃準備をしなければならなかった。
 直後‥‥ポボスの乗る凱旋車に緊急通信が入電。
「‥‥なんだと‥‥? 本星型、なのか!? クロウ隊とブルーバード隊には足止めだけに留めるよう指示しろ! 傭兵の手配を!!」
 血相を変えて無線機へ怒鳴るポボス。
 それから蒼白な顔でシートに持たれこむと――呆然とアルコヴァの方へ遠い視線をさ迷わせた。

「うぇ、なんて気持ち悪い‥‥」
 キャスパーの街から数kmでナトロナ軍KV各機は『ソレ』と会敵した。
 地上を疾駆するのは妙に肉感的な灰色の――本星中型HW。
 二十数メートルの巨体を蠢かせ、脈動と共に血を流しながら、巨大な六本足を地面に叩きつけてキャスパーへ駆ける。
 そして前面上部を覆うように溶け崩れた男の顔は、アルコヴァ司令官――――アイアスだった。
「生理的に受け付けない外見ッスね‥‥。アレがバグアの末路ッスか」
 タロー軍曹が眉をひそめ、それを見た。
 火器管制装置を起動し、眼下の標的をターゲットボックスに捉える。
 さらに高高度では、偵察部隊のホークスアイが敵を追いかけ続けていた。
「もう良いぞ、ホークスアイ!! 後は俺達に任せとけ!!」
『了解! 後は頼むぜ‥‥――ッ!?』
 突如、眼下のアイアスが目を見開く。その瞳が捉えるのは――上空の航空部隊。
「我に身体を寄越セ‥‥理解させロオォォ!! ソノ――希望をオォォッ!!!!」
 狂気に駆られたように叫びを上げるアイアス。
 その願いを叶える如く開いた喉奥から――骨肉と機械の融合した巨大砲口がせり出す。
「マズイ! 全機散か‥――――!!」
 バルトが言い終わるより速く――空に迸る連続閃光。
 狂った暴君はその空をも焼き尽くそうとするかのように、ナトロナの空を地獄の炎で染めた。
 落ちてくるKVの残骸にアイアスは触手のような腕を伸ばして絡みつく。
「違ウ‥‥貴様等デは無イ‥‥。奴ラは何処ダアァァッ!!!」
 大破したクロウ隊のKVを放り投げ、アイアスは血の痕を地面に付けながら街へ駆けた。

「クロウ3、4、6、ブルーバード1、3、6、7、8大破!! 被害が拡大しています‥‥ッ、クロウ5、大破!!」
 被害状況を聞きながら、ポボスは作戦室からそれを確認していた。
 眺める双眼鏡の中で――各機が次々に閃光で落とされていく。
「化け物‥‥アレが、バグア‥‥」
 呆然と呟くポボス司令。
 だが彼には、墜とされていく自軍を見ながら無力を痛感する以外に――なす術も無かった。
『イカロス隊出撃準備完了。‥‥司令、出撃許可をお願いします』
「なッ――本気か!?」
 思わずイカロス隊格納庫へ振り返るポボス司令。
 そこにはタキシングを開始する、片翼章を付けたシュテルンとバイパーが居た。
『俺達軍人が逃げるわけには行かないですからね。‥‥まぁ、せめて傭兵達が来るまでの足止めぐらいは』
『ふふ。私、実は明日誕生日なんだけど‥‥とんだプレゼントね』
 二人の軽口が作戦室に響く。
「敵、キャスパーへ接近!! 交戦中の部隊はもう持ちません!!」
 同時、切羽詰ったレーダー士官が声を響かせる。
 ポボスは決断を下した。――否、下すしか無かった。
「イカロス隊――出撃を許可する。‥‥すまん、頼んだぞ。絶対に死ぬな!」
『『了解――!!』』
 二機が空を翔ける。
 片翼のイカロスはナトロナの未来を背負って。


 荒野にはただ不気味な――アイアスの怨嗟が響き渡っていた。


●参加者一覧

月影・透夜(ga1806
22歳・♂・AA
ブレイズ・カーディナル(ga1851
21歳・♂・AA
セラ・インフィールド(ga1889
23歳・♂・AA
カルマ・シュタット(ga6302
24歳・♂・AA
ラウラ・ブレイク(gb1395
20歳・♀・DF
リヴァル・クロウ(gb2337
26歳・♂・GD
鳳覚羅(gb3095
20歳・♂・AA
ルノア・アラバスター(gb5133
14歳・♀・JG

●リプレイ本文

 赤土の荒野を――悪夢が駆けていた。
『標的捕捉。10秒後会敵』
「――ァアアア!! イカロォオオスッ!!!」
 ワームと融合を果たし、変わり果てたアイアス。
 キャスパーを背にライト・ブローウィン(gz0172)少尉が砲を構えた。
 その怪物を前に、しかしイカロス隊長ヒータ大尉は――静かに笑みを浮かべる。
『‥‥皆さん。来てくれると信じていました』
 言葉と同時、砂埃を舞い上げて着陸する八機のKV。鋼を軋ませて変形する彼らは――この地で絆を築いた戦友達。
 ナトロナの最後の希望だった。

「作戦参加各機に告ぐ。恐らくこれが本当に最後の戦闘となる。状況を開始する‥‥終わらせよう」
 言いながらリヴァル・クロウ(gb2337)の心に浮かぶのは、地獄と化したいつかの東京。
 ――再現させはしない。
 誓い、御守りを握り締めた。
「それがお前の絶望の偶像か。なら叩き潰して‥‥希望を再び見せてやる」
 醒めた半眼でアイアスを一瞥し、月影・透夜(ga1806)は鼻を鳴らす。
 だがその胸を支配するのは――激しい熱情。
「アイアス‥‥今度こそ絶望劇に終止符を打たせてもらうぞ!!」
 ディアブロが機槍を構えて正対した。
「黙れぇえええ人間風情ガァ!! 我ハ死なン‥‥こんナ僻地で、コンな銀河の片隅でえエエェ!!」
 叫喚する本星中型HW。その前面に浮き出たアイアスの顔面は醜悪に歪んだ。
 その喉奥。
 骨肉の機械砲が低く唸り始め――ドス黒い連続閃光を放った。
 KV機群内の雷電に直撃。機盾「ウル」を構えて数メートルを後退する。
「ったく、ようやく全快したってのに‥‥もう一度無茶する事になりそうだな」
 衝撃に立ち直りながらブレイズ・カーディナル(ga1851)は苦笑した。
「なんとしても止めるぞ。今度こそ終わらせるんだ!」
 敵の次弾も盾で受け止めながら、半円状に側面へ走り出すブレイズ機。
「醜いね‥‥やれやれ。そう簡単には死ななかったか」
 鳳覚羅(gb3095)が長距離バルカンで牽制する。
 アイアスは火線を跳んで避けると同時に標的を変えた。こちらへ砲撃を放つ破曉『黒焔凰』へ――光条を発射する。
「ッ‥‥鋭い‥!」
 敵の命中精度は尋常ではない。緊急回避する破曉の肩装甲を黒い閃光が抉る。そのまま衝撃に弾かれつつ、着地。
 覚羅機は弾幕を張った後、ブレイズとは反対側へ走り出した。
「ナトロナの暴君、アイアス。貴方はここで終わりです」
 覚羅機に続きながら、セラ・インフィールド(ga1889)も敵を照準。膝立ちの姿勢から引き金を絞る。
 しかしそれは――アイアスの残像を貫いただけだった。
「速い‥‥。ですが、必ず止めてみせます!」
 前衛を援護しながらセラも側面へ。
 KV群はα班とβ班に分かれ、両翼に展開。
 両側面から走る火線の中を、アイアスは一直線に駆けて距離を縮めた。

「的はデカイけどお互い射線に気を付けて!」
 α班、ラウラ・ブレイク(gb1395)が全機に通達し、機関砲を撃ち切った。
 それに釣られるようにアイアスはラウラ機へ疾駆する。
「身体ヲ寄越せぇエエイカろろスの傭兵ぇええ!!」
「喰らいなさい――怪物ッ!」
 ラウラ機が兵装交換、高分子レーザー砲をその喉奥へ撃ち込んだ。
「――ッ!?」
 だがレーザーは地面を抉り――獣のように跳んだアイアスが、黒い光条を暴力的に叩き付ける。
「クッ――!」
 被弾、よろめくフェニックスへ迫る異形の巨体。
 しかし激しい弾幕が横から飛来し、アイアスは触手でそれを弾き落とした。
「陽子さんの様に人類の守護者、何て無理だけど‥‥。
 RBが、皆が守ろうとした――このナトロナだけは、守ってみせます!!」
 真紅の機体を駆るのは、いつものルノア・アラバスター(gb5133)では無い。
 成長した肢体。その真紅の瞳は強い意志を受け継ぎ、この地を守るべく機を操る。
「ようやく終わったと思ったらこんな展開だもんな‥‥。
 まあライトさんのフラグを再度叩き折るために――もう一働きと行きますか!!」
 さらにルノアとは反対側で、盾を構えたカルマ・シュタット(ga6302)機がツングースカの空薬莢をばらまく。
 それをアイアスはかわしきれず、触手で受け弾いた。
「ハ‥‥挟撃ナどォオ! 下らンァアアア!!」
 アイアスの瞳が充血し、巨体の内側から四方へ盛り上がる新たな砲口。それが二機へ向け、火を噴いた。
 強烈な火線がルノア機とカルマ機に直撃、破損させる。

「速いな‥‥触手に砲撃も厄介だ。飛ばれる前にかたをつけよう」
 敵戦力を分析して透夜が動いた。
 機銃で牽制しながら、セラ機、覚羅機の援護射撃に合わせてジグザグに荒野の土を蹴る。
「よし、俺も前進する! 援護してくれ!!」
 その反対側からも、ブレイズ機が盾を掲げて駆け出す。
 ラウラ機とルノア機がその両側で並走、前進して火線を放った。
「チィイイ、ウルさいハエどモめッ‥‥!」
 アイアスは両側からの砲撃を全てギリギリでかわすが、攻撃の手は緩まざるを得ない。
 その隙を突いて――吶喊する二機が射程に踏み込んだ。
「喰らえ‥‥アイアス!!」
「そこだあぁ!!」
 回避で体勢を崩していたアイアスへ不可避の二撃が叩き込まれる。
 下から振るわれる透夜機の白刃と、頭上から振り下ろされるブレイズ機の巨大鎚。
 だがそのニ撃は――強力なFFに遮られた。
「効かンわァアッ!!」
 アイアスは全く怯まず、高速で触手を振るう。
 二機が吹き飛び、鋼鉄の破片が飛び散った。二人は機体を立て直して距離を取とうとする。
「ドこへ行ク、見せテミろォオ!! 希望ォヲォオ!!」
「させんッ――!!」
 アイアスの追撃を阻害すべくα班後衛リヴァルがマルコキアスを叩き込む。
 シュテルン『電影』の四門砲が放出する弾幕をかわすため、アイアスは触手を止めて全力回避した。
 だが二機と入れ替わりその巨体の腹に突き立つ――機槍の穂先。

「お前が希望を理解する事は無い! 人を見下し、下しか見ないお前ではな――ッ!!」
 カルマが叫ぶと同時、突き立てたロンゴミニアトが爆炎を噴き上げる。
 爆風で空を舞う数本の触手。
 だが直後――動きを取り戻し、眼前のカルマ機に絡みついた。
「なに!? ‥‥くッ!!」
「下ラン戯れ言ォオ! 我らバグアに、理解デキん事など無いワァア!!」
 強力なFFで無傷。HWの表面に浮かんだアイアスの顔はカルマを睨み、触手で機体を締め上げる。
『マズイ、カルマさんッ!』
 ライト機が吶喊して振るう機剣は――しかし、赤光に弾かれて通らなかった。
「アアアアア!!! イカロオオオオス!!!」
『く‥そッ!』
 ライト機へも触手が奔る。後退は間に合わず、拘束された。
「フハハァッヒャ!! 死ネ‥‥ナトロナの希望ォオオ!!!」
 狂った哄笑を上げて、その喉奥から骨肉の機械砲がせり出す。
 だが直後――アイアスに大量の弾幕が着弾。
 その身を包んでいたFFが、消失した。

「‥‥困るな。俺達の事を‥忘れてもらっちゃね」
 操縦桿を握りながら覚羅は苦笑する。
 タイミングを見計らって仕掛けた全機の砲撃。二機を抱えた事が逆にアイアスの機動を鈍らせ、――決定的な隙となった。
「おのれェエエエエ人間風情がアアアア!!!」
 いまだ手中にある二機を粉砕しようと砲を動かすアイアス。
 だがその懐に――既に二機が入り込んでいる。
「貴方が所詮‥‥この世界は弱肉強食だと言うなら、それでも構いません」
「人の強さは、幸せを願い命を愛する事。――それが希望になる」
 セラ機が逆手に構えた双刀が宙を滑り、ラウラ機が大上段に構えた機剣を振り下ろす。
 捕縛されていた二機は触手ごと地面に落ちた。
「ォォオオオオオオオッ!!!」
 憤怒の声を上げるアイアスは懐の二機へ全力の火柱を放つ。激しい砲撃を受け、両機の装甲が破孔を開けてひしゃげる。
 だがそれでも――目の前の巨体から目を逸らす事は無い。
「見ていてください‥‥。最後に勝つのは、我々人類です!!」
 セラ機がPRMを知覚に全力注入。白雪の銀筒をその醜い顔面に突き立てた。
「グォアッ!!」
 アイアスの顔面は赤く膨張し――骨肉が張り裂ける。
「命を弄ぶような奴には絶対理解できないでしょうけど、ね!」
 追い討ちを掛けてOブーストを使用するラウラ機に対して、咄嗟に回避機動を取るアイアス。
 だがラウラはSG9を連射、敵の機動を強引に制限して接敵――雪村の巨大光剣を振るった。
「グオオオォォオオオオアアアアアア!!!」
 顔面を溶かすように抉り取られたアイアスが、その激痛に咆哮を上げた。

 その状態でもアイアスは吶喊してくる覚羅機を見逃さなかった。
「ソこだァアア!!!」
 高速で迸る触手。強烈な一撃と共に破曉を絡み取ろうとして――しかしトゲに刺さる。
 剣翼装甲『黒翼』。
 翼を開いた覚羅機は触手に被撃しながらも、超限界稼動。その奥へ加速する。
「アイアス‥‥。俺達にとっての希望はね。君にとっての――。
 絶望だ」
 覚羅が振るう、雪村の大光剣。
「フざァけルなアァアアアッ!!」
 だがアイアスは大きく跳んでかわし――覚羅機へ全力砲火を撃ち下ろした。
 火線が地上の破曉を貫き、その四肢を木っ端微塵に叩き折る。
「ガハッ‥! く、構わず、ゆけ! ‥君自身の思いを‥貫く為に‥ッ!!」
 爆圧が襲うコックピットの中、薄れ行く意識で覚羅が声を絞り出す。
 アイアスを追って走る――真っ赤なS−01HSCへ。

「‥仕掛けるぞ、ルノア!」
「はい! 希望を紡ぎましょう‥Rote Empress!」
 リヴァル機とルノア機が、空を仰いで動き出す。
「良い的だ! これを喰らえ!」
 さらにブレイズ機が反応し、対空砲を全力射撃する。
 頭上でアイアスが回避しながら反転。眼下へ砲を向けた。
「小賢しイぞ木っ端ドモォオオ!!」
「‥‥PRM、OGRE起動。託された想いがある‥‥」
 リヴァル機がブースト、PRM起動。友人の機動と同じ、回避重視の動きでアイアスへ接敵する。
「想いを背負い、護るべき仲間と共に繋げるべき明日を開く。それが『希望』だ。独りの君では――理解できん!」
 最後の一撃を回避し、滑り込んだアイアスの直下。リヴァル機が掲げた四門砲が、頭上へ向けて轟音を噴き上げた。
「ゴォッ‥!?」
 身を穿つ弾丸に、アイアスが苦悶の声を上げる。
 さらにその怯んだ敵へ跳ぶ――ルノア機。
「散りなさい‥‥アイアス!!」
 スキル起動、赤く輝く真紅の機体が空へ放つ――ルーネ・グングニル。
 ――――だが。
 煌めきを発したアイアスが触手を高速で蠢かし、その槍を弾き返した。
「なッ!?」
 渾身の一撃をかわされたルノア機へ黒い閃光が飛ぶ。着地すると同時、リヴァル機へも火線を叩き込んだ。
 二機が吹き飛ぶのを横目に、アイアスは直近に居たヒータ機へも駆ける。
「下らン‥その希望ト共にくタバれぇえ! イカロオオオオスッ!!!」
 ヒータ機へと伸びる触手の先へ――機盾を構えたバイパーが割り込んだ。
『させん‥‥!』
 身代わりとなったライト機は機盾ごと叩き切られて大破、崩れ落ちる。
 だがその後ろで――ヒータは照準器を覗いていた。
『イカロスは堕ちません‥‥。片翼を持つ皆が、支えてくれるから!!』
 共に戦う片翼の傭兵達。称号を送った者だけではなく、この戦線に参戦してくれた全ての傭兵がその翼になってくれた。
 それが力となり、ヒータの放つ鉛弾がアイアスを――穿ち貫く。

「アァァァァアアア!!」
 だが巨体はまだ蠢き、ヒータへ反撃を放とうとしていた。
 しかしそれを押し留めるように――強烈な火線がその脚をもぎ取る。
「現実に悪夢は要らない、ここで消え去りなさい」
「やらせませんよ、私にもこの片翼が付いていますからね‥!」
 ラウラ機とセラ機の全力射撃が、巨体の六本脚を吹き飛ばした。
「これで決着をつける! ウシンディ‥‥フル出力だ!」
「絶望を貫け――グングニルッ!!」
 さらにカルマ機、透夜機の二本槍が――同時にアイアスの巨体へ突き込まれる。
「小癪ナぁあああ!!」
 だが触手が煌めき、再びその二本の槍を弾き返した。
「クソ、クソ、クソッ! 下等生物どもめ――我ハこんナ場所でェエエエ死にハセんわァッ!!」
 焼け焦げ、切り裂かれた顔を歪ませ、瀕死のアイアスは宙へと浮き上がる。
 完全敗北を悟った敵司令官は、バグアとしての自尊心をも捨てて撤退の決断を下そうとしていた。
 ――しかし。
「逃がしはしないッ! ここでお前を仕留めてみせる――アイアァアアアスッ!!」
 ブーストで駆けるブレイズ機が、跳んだ。
「ッ――!?」
 アイアスの頭上に機杭が打ち込まれ、――超巨大鎚が振り下ろされる。
 空へ上がろうとしていたアイアスは衝撃に押し返され、地上へ叩きつけられた。
 しかしその動きまでは止められない。鉄片と骨を覗かせる異形の巨体は、反撃の砲を放ちながら慣性制御で地上を滑っていく。
「これで――どうだあああああッ!!」
 だがブレイズ機が、ブースト降下で叩き下ろすハイ・ディフェンダー。
 醜い巨体を刺し貫き――さらに超巨大鎚を、その柄頭へと打ち込んだ。
「アアアアアアアア!!!!」
 機剣は苦悶の咆哮を上げるアイアスの体内を貫通し、地面に刺さる。
「私は――誓ったんです。この地を、守ってみせるとッ!」
「‥もう少しで良い。動け‥‥立証せよ、電影ッ!」
 ボロボロの二機が掛けるブースト。ルノア機が掲げる槍を、リヴァル機が支え持つ。
 狙う先は――地面に固定され身動き出来なくなったアイアス。
「近ヅくなァアアアアアア!!!」
 巨体は全砲門展開、激しい砲火を放つ。
「これが我々が持つ希望だ!!」
 リヴァル機が抵抗にPRM全力付与。機盾でルノア機を庇って光条を受け止める。
「このナトロナから消え去りなさい――アイアス!!」
 そして槍の射程内。ルノア機の握り締める槍がスキルの赤光を放ち、突き貫いた。
「ガアアァァァアアアッ!!」
 歪んだ顔を――――穿つ一撃。
 グングニルが敵体内で放出する、液体火薬。アイアスの瞳は空を見据えたまま、黒い血涙を一粒落とす。
「‥‥それが‥‥貴様等の‥持つ‥‥翼、か」
 そう言い放った、直後。

 アイアスの身体が膨らみ――――爆炎を噴き上げた。

 噴き上がる炎は断末魔の如く。
 ナトロナを弄び支配したアイアスは、赤土の荒野で燃え尽きていった――。



 ‥‥戦場に、ナトロナ軍の救助部隊が到着する。
 戦士達は誰もが満身創痍だった。
 その中で覚羅は重傷の身ながら、自分の足で救助ヘリに乗り込み軍関係者を驚嘆させる。
 当然、KV各機の損傷も酷い。特にブレイズ機の機剣は完全大破。復元の為に一部負担を強いられたものの、一方で敢闘章も送られている。
 最後にイカロス含め、この熾烈な激戦を戦い抜いた兵士全員へ――UPC銅菱勲章の授与が行われた。

 そうしてここに‥‥ナトロナの戦いは幕を閉じる。
 様々な苦難、絶望、想いの果てに。

 ――――人類が伸ばした翼は、希望に届いたのだ。

NFNo.034