タイトル:【NF】キャスパーマスター:青井えう

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/11/03 13:18

●オープニング本文


「‥‥おい、なんだアレ?」
「え? どれの事?」
 ナトロナの都市キャスパー。
 未だにその街は都市の機能が半ば麻痺したままで復興が進められている。その中の比較的綺麗な道路を歩いていた若い夫婦二人は、中心街で受け取った配給の袋を抱えながらふと、遠くの空へ目を凝らした。
 秋晴れの乾いた青い空。
 緩やかな風が二人の裾をはためかす。その先で、半廃墟と化した都市のビルの谷間から覗く大気にはポツンと小さな影が浮かんでいた。
「まさか――アレは‥‥」
 形も分からないただの点。まるで空に一滴落ちたシミのようなそれは、――しかし徐々に大きくなっているように見えた。
 震える腕が夫の腰に絡みつく。
 妻はそうする事で暴れそうな胸の恐怖を押さえつける。
 そして恐る恐る訊ねた。
「‥‥また、バグアなの?」
 急に風切り音がして道路に突風が起こり、二人は思わず身を屈めた。地上に散乱したゴミや砂が舞い上がり、その幾つかが降りかかる。
 ゴミを払って顔を上げた二人の視線の先、ナトロナ軍の戦闘機が尋常で無い速度で飛び去って行った。

「どうしてもっと早く侵入に気付かなかったのだ!? キャスパー市街地から10kmの距離にビッグフィッシュ(BF)とは‥‥市民がパニックに陥るぞ!!」
 ポボスが歯を軋ませてがなり立てる。レーダー士官やその他の将校達は一斉に苦虫を噛み潰したような顔をした。
「それが‥‥基地施設の復旧が一部完全ではなく、警戒網に穴があったようです」
「くそ、それも計算して基地を破壊しておったのか‥‥? 気を付けていたつもりでも、ベッセマーベンドに意識が持っていかれていたのかもしれん」
 だが今さらそんな事が分かった所で、敵が目前まで来ている以上は後の祭りだ。
「それよりも敵の狙いはどこだ!?」
「ビッグフィッシュからのキメラ展開を確認‥‥! このままでは街へなだれ込みます!」
「っ‥‥、街を狙ってきおったか!」
 ポボスは険しい表情で机を叩くと各部隊への出撃命令を出す。
 すぐに司令室の窓の外をヘリが飛び立ち始め、建物を微かに揺るがす。すぐに即応部隊による防衛ラインが築かれるだろう。
 だがそこから先は、戦闘中の状況の変化に合わせて柔軟に作戦を変えなければならない。一瞬の判断の遅れが――キャスパー市民の虐殺に繋がるだろう。
「作戦司令部の防御を固めろ! 街の防衛に傾注して我々が危険に晒されてはならん!」
 傍らの副司令が各所に指示を飛ばす。
 このキャスパー基地から司令部までは数kmの距離がある。現在の状況で敵のキャスパー侵入を押し留めるのは困難だ。
 戦力を分散させ、基地防衛にもKVを残さざるを得ない。
 しかし――。
「イカロスは‥‥!?」
「ダメです! 間に合いません!!」
「クソ‥‥ッ!」
 ポボスが机を叩き、歯軋りする。
「おい、敵が迫ってるのに待機だと!? 何の為に俺達が留守番をしてたと思うんだ‥‥!! 早く出撃命令をよこせ!!」
 司令室の扉を開けて、怒鳴り込んできたのはクロウ隊長バルト中尉。先のベッセマーベンド作戦から外され、キャスパー防衛要員として残っていたのだ。
 さらに不服そうな副長カスピ少尉、タロー軍曹、その他各一般兵隊の隊長らが続く。
「司令‥‥キャスパーの街を見捨てるんスか? あそこには皆の家族や友人が居るんスよ‥‥俺達が、死んで行った人達が何の為に戦ってるのか――分かってるんスかッ!?」
「黙れタロー軍曹!! 貴様等ァ、何を勝手な行動をしているッ! 早く持ち場に戻らんかァッ!!」
 副司令官が一喝し、威圧するように兵士等の前へと歩み寄る。
 だがその動きは――ふいに後ろから肩を掴まれる力で止まった。
「‥‥司令?」
 左肩を掴まれて怪訝そうに振り返った副司令へ、緊張でか顔から激しく脂汗を噴き、下を向いたままのポボスが口を開く。
「副司令‥‥彼らの言う通りだ。我々作戦司令本部は‥‥キャスパー市街地、ワシントン公園に移る」
「は? 司令、しかしそれでは基地を放棄したも同然に――」
「ああ、放棄だ」
「‥‥は?」
 怪訝そうに立ち尽くす副司令。そればかりか、押し寄せた兵士達すらも意表を突かれたように唖然としていた。
 ざわめきが消え、水を打ったような静けさの司令室。
 その中央で顔を上げたポボスは、恐怖を押し殺すように険しい顔付きを浮かべていた。
「聞こえなかったか副司令。基地は放棄、万一の事態に備えて総員退避準備。作戦本部自身はワシントン公園へ」
「で、ですが‥‥!」
「黙れッッ!!!」
 反論を試みようとする副司令へ、ポボスは高圧的な声を押し被せた。
「レッドバード隊は敵になってもこの街を守り抜いた。‥‥そして、その遺志を引き継いでくれた者達が居る。だが本当は――――、一番近くに居たワシらがその想いを引き継がんといかんのだ!!」
 それだけ言い捨てると、ポボスはもう副司令を見ていなかった。
 代わりに、入り口に押し寄せた兵士達へと向き直る。
「‥‥全隊、市街地へ出撃! 鼠の一匹も街へ入れるな!!」
「「――了解ッ!!」」
 一拍を置き、各員の声が司令室に唱和した。

「‥‥こちら第三戦車部隊、現在キャスパー防衛ラインにてキメラと交戦中! 思ったより多くない‥‥もう少し耐えられそうだ!」
「クロウ隊、了解。‥‥隊長、ビッグフィッシュの搭載能力ってこんなもんなんですかね?」
「さぁな‥‥攻撃型でも無さそうだが。どっちにしろ助かったじゃねぇか、ワーム退治に専念できらぁ!」
 空を駆けるクロウ隊六機、ブルーバード隊八機がキャスパー上空へと到達。
 先の交戦部隊との連絡によると、まだキメラの侵攻を許してはいないようだった。
「こちらBB01、ビッグフィッシュ接近中! 速い‥‥加速しているのか!?」
「アレは‥‥タロスッスよ!? どうしてここに‥‥!?」
 近付くBFとその護衛。
 その中に複数のHWと二機のタロス、そして――本星型HWが見えた。
『地獄と絶望を見せに来たぞ‥‥。泣き喚け、人間ども』
 アイアスの外部通信が軍隊各機、そして街の通信機器に割り込む。
「チッ、HWどもは俺達がひきつけるぞ!」
「それで、本星型とタロスはどうするんスか!?」
「‥‥イカロスが居ねぇからな」
 溜め息で返すクロウ隊長バルト。
 しかしふいに――レーダーの端、高速で向かって来る[friend]の光点が灯った。

「‥‥君達の任務はビッグフィッシュ撃墜、及び敵性精鋭ワームの撃退だ。この街の命運を託そう。――幸運を祈る」
 キャスパー市街地、ワシントン公園。
 野外作戦本部にて通信機のマイクを取り上げ、ポボス大佐は空を仰いでいた。
 彼の言葉に呼応するように、大気を切り裂く風の音。

 傭兵各機のKV群が――――防衛ラインへ向けて飛び去って行った。

●参加者一覧

月影・透夜(ga1806
22歳・♂・AA
ブレイズ・カーディナル(ga1851
21歳・♂・AA
ティーダ(ga7172
22歳・♀・PN
飯島 修司(ga7951
36歳・♂・PN
山崎 健二(ga8182
26歳・♂・AA
リヴァル・クロウ(gb2337
26歳・♂・GD
鹿島 綾(gb4549
22歳・♀・AA
柳凪 蓮夢(gb8883
21歳・♂・EP

●リプレイ本文

「司令、その命令了解した。空は引き受ける、地上の防衛線はそちらに任せた」
 月影・透夜(ga1806)のディアブロ、月洸弐型。連戦を駆け抜けるその機体には、この地に託された片翼章が掠れて残っている。
「‥状況から見て我々が最終防衛ラインである。状況を開始する。これ以上はやらせん」
 同じく戦闘を突破してきたシュテルン。リヴァル・クロウ(gb2337)は眼下、前線であるワシントン公園に展開した司令部をしかと見届けた。
「Insulator――出るぞ」
 呟き、眼鏡を外す。その行動は彼が全力を出す事を意味していた。
「よーやくポボスのおっさん、腹ァ括って覚悟を決めてくれたか。――燃え滾ってきたぜぇッ!!」
 闘志をむき出しに叫ぶ山崎 健二(ga8182)。暗灰のディアブロ『Baalzephon』がカメラを敵へ向け、赤い輝き航路に残す。
「‥‥ようやく彼も、大切な事に気付けた様だしね。これ以上この街は、荒らさせないよ」
 自分達が護るべきモノ、人々が護りたいモノが此処にはある。
 その確信を抱いて柳凪 蓮夢(gb8883)がシラヌイS型、紅弁慶と名付けた朱と白の幻想的な機体を駆った。
「このままだと敵が街に入るまで一分足らずって所か‥。なんとしても敵を押し留める――いや、押し返すぞ!」
 強力に重ねた装甲に深紅の片翼を付けた雷電。その愛機の中で、ブレイズ・カーディナル(ga1851)は敵との距離を測る。
「大佐の決断‥‥意気に感じましたよ。それに応えられずして、何が最後の希望――ラストホープの傭兵か、ともね」
 革手袋でスロットルを押し込みながら、飯島 修司(ga7951)は心情を吐く。
「此処は是が非でも退いて頂きますよ――――アイアス」
 その鋭い目は前方から迫る敵部隊を捕捉した。
『無駄だ。人間ども――もう遅い』
 だが突如頬のこけた壮年の男の映像が、各機体、都市モニタに映し出される。
 街を支配するように灯ったバグアの映像に人々は呻きを上げる。その恐怖は兵士達の胸まで締め付けた。
『では窮鼠のチカラがどれほどのものか、見せてあげましょう』
 しかしその頭上を凛然と銀白の機体が翔ける。ティーダ(ga7172)は燐光の溢れる愛機『Frau』で迎撃へ出た。
「彼等から託された地‥‥蹂躙させる訳には行かないわ‥‥」
 操縦席で鹿島 綾(gb4549)は、口に咥えた髪留めで長い髪を後ろに束ねる。
「――故に、殲滅する。例え、何が来ようと!」
 地上に轟く爆音。噴き乱れる硝煙。大気を揺るがす衝撃。
 地獄に呑まれそうなその都市の中で、人々が縋る希望。
 都市一つ分の想いを双肩に乗せた八人は――鋼鉄の機体を駆った。

「BFは速攻で落とすぞ。キメラの展開数からしておそらくアノ中身は爆薬満載といった所だろう」
『ほう‥‥』
 BFへ加速する四機の先頭で、透夜がBFの中身を看破する。
 本星中型HWの中でアイアスは小さく唇を歪めた。
『その通りだ。‥‥しかし、もう止められまい?』
 敵の肯定に各員の肩に力が篭る。都市からたった5kmしか離れていない空。何としても止めなければならない。
「支援攻撃を行う。その隙に仕掛けろ」
 BF進路を開く為に飛来するHW群へ、リヴァルがK−02を発射する。
『こちらクロウ隊。リヴァル機、支援感謝します』
『少佐に貰った命‥無駄にはできないんスよ』
『十分だ、後は任せろ。その代わり託したぜ――俺達の希望!!』
 爆炎に包まれて怯むHW十数機へ翔ける、軍KV六機。
 クロウ隊各機が一斉に全火力を注ぎ込み、傭兵達の道をこじ開けた。
「了解。その想い――しかと受け取った!!」
 綾機ディアブロ『モーニング・スパロー』が山吹色の機首で空を貫く。クロウ隊の道を傭兵達が高速で抜けた。
 その眼前に広がる――BFの巨体。
「さて、この一撃。どう捌きますか?」
 距離600mに接近、ティーダがスキル起動。その標的へ向けてドゥオーモを発射する。
 百発の弾頭の雨へ――しかしBFは直進、雷光のカーテンを強引に突破した。
「っ、‥‥正面突破ですか。‥良いでしょう。この烈光にいつまで耐えられますか」
 ティーダ機はDR−2砲を起動、敵へ構えた。
 さらに他三機もBFへ加速する。距離500m、朱白シラヌイ『紅弁慶』のブリューナクが輝きを増して、轟音を上げた。
 鋭く迸った高速弾が――BFの機首を喰い千切る。
「悪いね、紅弁慶。無茶をするよ」
 蓮夢が剣と化した翼を振って前進。
 さらにその前を、ブーストを掛けた二機が高速で抜けていく。
「基地の自爆にBFの特攻‥‥陳腐な絶望だな」
「所詮はバグアの発想だ。止めるぞッ!」
 二機のディアブロ。透夜機と綾機は同時にスキル起動――巨艦をロックオンした。
 だが僅か一瞬そちらへ向いた意識、その隙を。
『誰の目にも理解できる‥‥それが絶望というモノだ』
 アイアス機の弾丸が駆け、切り裂いた。
「「――っ!」」
 螺旋弾頭を切り離す直前に二機は被弾。機首が下がり、発射されたミサイルは虚空を貫く。
 その狙撃に間髪おかず、タロスが展開する大量のマルチミサイル。各機へ襲い掛かる無数の弾頭。
 ――轟音。
 KV各機へ無数のミサイルが炸裂した。

 爆炎の中で修司機とブレイズ機がロール機動から散開、衝撃とアラートの中を掻い潜る。
「厄介な邪魔者だ‥‥まずは一機、速攻で潰しましょうかね」
「ああ、避ける手間が勿体無い! 弾幕を突っ切る!!」
 ブレイズ機が迫り来る弾頭を装甲上で炸裂させながら一直線にタロスへ接近。追随する修司機はエニセイを連射して敵行動を牽制する。
 だがタロス二機も練力を消費して機体能力を全開まで引き出した。空中で腰撃ちに構え、熾烈な光条を撃ち出す。
 空を埋める射撃戦。
 その中を切り込むブレイズ機はスキル起動、片方のタロスへ――機銃の連射を叩き込んだ。
 吹き飛ぶ装甲と肉片。
 再生装置を起動するタロスだが、追いつかない。
「再生の暇は与えない――墜ちろォッ!」
 頭上に振り落ちる真紅の片翼章が付いた剣翼。
 だがタロスは片腕で受け止めそれを犠牲にすると、辛うじて致命傷を避けて身体を逃がした。
 ――直後、特大の衝撃がタロスを貫く。
「予想通りの動き。足掻いても、貴方の運命は決まっていますよ」
 スキルを起動し、空間に『置く』ように銃撃する修司機。弾丸と重なったタロスの脇腹が爆ぜ、風穴が空く。
 怯む獲物へ修司機が距離を詰め、オメガレイ起動。
 ――熾烈な光条を閃かせた。
 スキル強化された光条がタロスの身体を蜂の巣にし、その機能を完全停止する。
「よし、良いペースでタロス一体撃破!」
「一秒たりとも無駄には出来ませんからね」
 ほんの数百メートル先ではBFが弾幕を吐きながら都市へとその巨体を滑らせている。
 その傍らで存在感を放つ本星中型機もまた、対峙する二機へ苛烈さを見せつけていた。

「クッ、鋭い‥! 避けきれんか‥っ」
 リヴァルが顔を顰めて一気に舵を切る。
 直後、『電影』の後尾を三連フェザー砲撃が捉えた。衝撃。PRM強化された装甲が易々と引き剥がされていく。
「そこまでだぁ!!」
 火薬の炸裂音と共に銃弾が本星中型へ流れる。健二機『Baalzephon』の攻撃を――しかし、慣性制御能力を最大まで引き出した本星中型は避けた。
「損傷小破。本星型‥‥君がこの戦域の司令官か。名前ぐらいは聞いておこう」
 僚機の援護で危機を脱したリヴァルが、旋回しながら切り付けるように言葉を投げる。
 その問いに、不気味に浮遊する本星中型が低く答えた。
『アイアス。‥‥だがナトロナはじきに滅ぶ。傭兵風情がここに来る事は――もう無いがな』
「ヘッ。王様気取ってるワリにゃあ、留守を狙うたぁ随分とセコイ真似すんじゃねぇか? ちったぁ帝王学くらい勉強してこいってンだ」
 本星中型を捉えながら健二が鼻を鳴らす。
 だがその挑発をアイアスは微笑でいなした。
『そんなモノは不要。欲しいのは敵の絶望と我の最終的勝利‥‥それだけだ』
 慣性制御の一時強化が切れかけた所で再び起動。さらに隣のスイッチも押し込む。
 本星中型は微かな音と共に赤く輝いた。
「ッ!? 強化FFか!? 気配が違うぞ!」
「何であろうと止める! 山崎機、援護を頼む!」
 不穏な気配を感じ取った健二機とリヴァル機が即座に本星中型へ同時攻撃を仕掛ける。
 それを本星中型は避け切れない。機体端を穿とうとした銃弾が――分厚いFFに遮られ、食い止められた。アイアス機は揺れながら回転し、銃撃を浴びせて来た二機へ無造作な光条を飛ばす。
「っ――!」
 両機被弾、激しい警報が二人の耳を侵した。
 隙を突いて本星中型は再び加速、二機を突き放すようにBFへ駆ける。
『余興は十分だ――この地に絶望を墜とす』
「チィ、待ちやがれッ!!」
「BF班、本星中型が抜けた‥! 我々も追いかけるが注意を!」
 二機は態勢を立て直して加速、本星中型へ追随する。
 それをサブモニタで確認しながら、アイアスは端末を操作。BFへ一つ指示を送る。
 前方。
 四機のKVに取り囲まれ、火を噴き始めたBFが――機体腹の巨大ブースターを点火した。
「速い‥‥! まだ加速するなんて‥!」
 剣翼を薙ぐ蓮夢が焦れたように声を上げる。
 2km先。
 もう各機のほぼ眼下では――キャスパーの街並みが広がっていた。

「‥行かせるものか。お前はここで沈め!!」
 増速機関を発動したBFへ追いすがる綾機。敵へ突きつけたM−12粒子砲が赤く輝き、その巨体へ奔る大光条を空に描く。
 突き刺す一撃がBFの後尾を大きく抉り、揺らがせる。
 BFは傾ぎながら対空砲を吐き散らして抵抗する。だが黒煙を噴いて速度を落としつつあった。
「‥‥逃しはしません!! 烈光ッ!」
 白い燐光を散らしてティーダ機がブースト追随、荷電粒子砲を巨体にロックオン。
 瞬間、――空を貫く火線。
 衝撃に震えたのは銀白のティーダ機。鋼鉄の飛沫を上げながら放った荷電砲の一撃はBF頭上を掠めた。
『ここまで来て落とさせはせんぞ!』
 硝煙を吐く本星中型。アイアスは鬼の気迫を込めて次弾を装填――発射する。
 迸る火線。同じくBFを攻撃しようとしていた透夜機に着弾し、吹き飛ばす。
「クッ‥‥奴は無視だ!! BFを止めろ!」
 透夜は照準をし直しながら叫ぶ。
 もうBFはいつ都市に突入してもおかしく無い距離。迫る巨体に、街の人々は恐怖の声を上げていた。
「到達まで余裕が無いね。だが、だからこそ‥この速度を利用させて貰う!!」
 剣翼を翻して翔けるシラヌイ。蓮夢がブースト発動、BFを止めるため――単調なその動きを貫く。
 そして予想通り、アイアスはそれをロックオンしていた。
『ふん、やすやすとBFに――‥‥っ!』
 言葉が遮られると同時、本星中型に走る激しい衝撃。
「先日はどうも。今のは再会の記念です、お気に召されましたか?」
 修司がほくそ笑みながら硝煙を吐くD−02のリロードをする。その後方からブレイズ機がAAMを盛大に射出した。
「おい、アイアスとか言ったな? 覚悟しとけよ‥‥一年半前、一度はこの目で見えるところまで行っておきながら離れなければいけなかったあの場所!」
『‥‥クッ!』
 ブレイズ機が放つAAM。アイアス周辺の空に爆炎が吹きすさぶ。
「へ‥。あの時から今までの、たまりに溜まった借りをまとめて返しに――お前等の本拠地まで行ってやる!!」
 気迫が爆発するように、荒野の空に爆炎が次々に炸裂した。それを避けるのに必死で、標的を狙う余裕がアイアスには無い。
「この程度では、退く訳にはいかないんだ。いくよ、紅弁慶‥斬り裂けッ!!」
 その隙にブーストでBF正面に回り込んだ蓮夢機が、対空砲火の中へ飛び込んで剣翼を敵腹部に当てる。赤い火花が盛大に上がり、尾翼に抜けるまでの間に蓮夢機の剣翼も長すぎる使用で損傷を受けた。
 だが成果は大きい。巨体の腹から外部ブースターが落下していく。
「敵を穿孔する、烈光ォッ!!」
「ここで沈め、絶望の舟!!」
 速度の落ちたBFへ、交差攻撃を仕掛ける白い二機。ティーダ機と綾機が放つ最大火力の砲撃が――BFの内部機関を穿ち、打ち砕いた。
 機体各所で小爆発を起こすと、BFは傾いて堕ちて行く。
 だが慣性に従って墜ちるその終着点には、既にキャスパーをその範囲に捉えていた。

『ククク、どうだ!! 貴様等が幾ら頑張ろうとて、街に堕ちる運命は帰られまい!!』
「――いいや、街には入らせない。そのまま落とさせるものか‥‥お前の落下地点は外と決まっている」
 燃えながら堕ちて行くBF前方上で、片翼章を付けた透夜機がKA−01砲撃を撃ち下ろす。
 衝撃で僅かに敵機首は下がり――BFの進路が変わった。
『なッ――!?』
「さぁ選びなアルコヴァの王。泣きべそ掻いて逃げるか、ここで灰燼に帰すか!?」
 後方から追いすがった健二機が、ブーストからの剣翼を本星中型にくれる。
『認めん‥‥こんな、バカな‥‥』
 さすがに剣翼射程までの接近をアイアスは許さず、逆に苛烈なフェザー砲撃が健二機に突き刺さる。
 致命傷一歩手前の損傷。警告が鳴り響いた。
「認めたまえ。我々はその絶望を‥‥拒絶する」
 リヴァルがスイッチを押し込むと同時、K−02の残弾が弾幕となってアイアス機へと放射される。250発の内の50発が命中を期待して走った。
 それに被弾、強烈なFFに弾かせながらも――アイアスはBFへ必死に前進の指示を送ろうとする。
 だが、反応は無い。
 それどころか透夜機に続くKVがBF頭上から攻撃を加え、巨体はキャスパーから引き離されていく。
『チッ‥‥人間どもめ。撤退するしか‥無いようだな』
 全速で戦域を離れていく本星中型機。
 リヴァル機と健二機もそれを追わず――BF攻撃へ加勢する。
「行くぞ、全機合わせろ!! 最後の一撃だ!!」
 綾の合図に合わせて、火を噴くBFの頭へ一斉に叩き込まれる八機の砲火。
 それがキャスパーへ突っ込もうとしていた巨体の進路を変え、BFは垂直に――地面へキスをした。
「散開ッ――!!」
 地上で開く特大の花火。ただ純粋な炎と熱風が暴力的にその範囲を広げ、キメラの蠢く荒野を飲み込んだ。

 閃光と共に地面が揺るぎ、乾燥した熱風が街に流れる。
 直後にワシントン公園の司令部で指揮を取るポボス司令へ、吉報が飛び込んだ。
『傭兵部隊がBF撃墜!』
「そうか‥! 街の被害は‥‥!?」
『‥‥被害なし。街に被害は皆無です!!』
 その報告を受けて、ポボスは思わず空を仰いだ。
 キャスパーの頭上。
 そこでHWと交戦するクロウ隊に合流する、八機の傭兵達の姿があった。
「‥‥総員、英雄達に敬礼!!」
 ほぼ無意識にポボスが叫び、自ら頭上へ敬礼の姿勢を取る。それに続き、司令部、後方要員、各兵士が次々に空へ敬礼する。
 傭兵の一機は翼を振り、ポボス司令へと通信を開いた。
「赤き英霊の魂を継ぐ者がいる限り、この地は永久に不可侵である!!」
 断固としたその言葉が人々の心を一つにした。
 敵の奇襲を無事撃退し、都市の被害はほぼゼロ。

 代わりにナトロナの絆は――固く結ばれた。

NFNo.032