●リプレイ本文
「敵基地が予想範囲内にあるかもしれない、という以上の情報はない。自力で探すしかないようだ」
「OK、了解♪」
作戦詳細に関するライト・ブローウィン(gz0172)の答えに、聖・真琴(
ga1622)頷き返す。
「‥あの時は完全に想定外だった‥。でも今度は‥‥皆が命を掛けて取り戻したキャスパーを同じ目には遭わせない‥ッ」
外界と遮断されたOGRE『凰呀』の内側で、表情を引き締める。
「さて、ようやっと反撃開始ってとこか。今まで散々やられた分、万倍返しにしてやろうじゃねぇの‥と言いたいが、どうも一致団結して事に当たるにはまだ無理そうだな」
軍人達のポボス司令への怒りを感じ取って、風羽・シン(
ga8190)は小さくこぼす。少し複雑そうに通信回線を開いた。
「‥クロウ隊、地殻変化計測器は持って来たか?」
『おう、持って来たぞ。お前さんの指示通りな』
シンは頷くと任務へ集中する。
「にしてもポボスのおっさん、相変ぁらずカリスマ性が低いようだなぁ」
山崎 健二(
ga8182)も軽口を叩きながら苦笑する。
「まぁアレでも司令官なワケだし? オレ達が戦果を上げりゃ、もっと手を尽くしてくれるようになるさ」
空を覆う厚い雲。その上側へ逝った赤いエース達へ「安心して見守っててくれ」と微笑んだ。
「折角取り返した街だからな。もう一度同じ事を繰り返すのはまっぴらだ‥‥原因は徹底究明しないと」
ユーリ・ヴェルトライゼン(
ga8751)の乗るR−01『ディース』も鈍色の雲の下を同じように翔ける。作戦領域に近付きつつあった。
「ナトロナに来るのも久しぶりですね‥」
荒涼とした大地を見渡し、叢雲(
ga2494)がこぼす。
彼にとって二度目の戦場入り。その力を振るうべく鴉章をつけたシュテルンは加速する。
「進撃とはいえ後がないのは私達の方だから‥‥慎重に冷静に、ね」
『その通りですね。各機、行動は慎重に』
ラウラ・ブレイク(
gb1395)の言葉に地上班のヒータが応じる。
岩肌が目立つ山とはいえ所々に植物や谷間の凹凸があるせいで、視界が十分確保されている――とは言い難かった。
「さすがに簡単には見つからないか‥‥」
敵駐屯所の偵察と制圧を行動目標に掲げた雪代 蛍(
gb3625)だったが、その前にまず『発見』をしなければならなかった。
真琴機とバディを組み、探索に当たる。
やや距離を取った別方向でも、黒灰の健二機と組んだ真紅のルノア・アラバスター(
gb5133)機が、ゆっくりと飛行する。
「いよいよ、敵も、動き、出し、ました、か‥。絶対に、見つけ、ます」
この近辺で多数光点が報告されている。対空攻撃に警戒して高度を取りながら、地表の違和感を探して目を凝らす。
その時、全機の電子機器に異常が発生――CWジャミング。
「既に歓迎の準備は出来てるみたいね‥。敵の奇襲前提、カウンターを当てるつもりで構えましょう」
ラウラがノイズ混じりの通信を各機に送る。頭痛はまだ無い。
その視界の先に、廃墟化したレーダー基地があった。
「私が確認する、ユーリさんバックアップお願い」
「了解。気を付けてな」
ラウラが先行して低空から接近。山頂に横穴を掘って造られた施設とほぼ同高度になった機体は――その中にCWを認めた。
『高速で接近する機体を確認。IFF反応無し』
「っ、違う方向から‥!? ラウラさん、そちらではありません!」
だが叢雲の機体AIが示唆したのは別の光点群、遥か低高度。
ほぼ地上スレスレ、タロス群が砲を頭上へ向けていた。
だがそこへ――無数の小型ミサイルが降り注ぎ、炎の嵐が巻き起こる。
「援護を請け負ったばかりだ。そう簡単に奇襲はさせない」
ユーリが黒煙に包まれた眼下を睨む。咄嗟に対応は出来たが、敵の出所までは確認できていなかった。
『交戦したのか‥!?』
『待って下さい! 地面が揺れて‥!?』
地上班のノイズ混じりの通信が飛び交い、同時『EQ!』という声が上がった。
地上が騒がしくなり始めた頃、空でも爆煙の中からHWとタロスが姿を現していた。
「ナンバリング‥‥HW6体、タロス、6体、です」
ルノアは標的に仮番号を与え、戦闘行動をしやすくする。
ラウラ機はレーダー基地へロケット弾発射。着弾と同時、全員の頭痛が消えた。
ワーム群は上昇しながら光条を撒き散らす。タロスの鋭い光条がユーリ機以外の全機を抉り、破片を空に散らした。
「チッ! タロスが六体も‥‥指揮官機は不在か?」
機体を立て直しながら、シンは眼下の敵を睨む。
「全スキル、発動。K−02、発射‥! 援護を‥!」
「了解だ、やっちまえルノアちゃん!」
迫る敵群へルノア機『Rote Empress』がミサイルコンテナを解放。250発のミサイルがHW三体とタロス二体へ着弾、爆炎を轟かせた。ブーストをかけていたルノア機がさらに剣翼追撃し、離脱する。
それにあわせて健二機もトリガーを絞る。KA−01砲撃が別のHWを直撃、吹き飛ばした。
「ンじゃ、軽〜く突っ込もぉか♪」
「分かった‥‥REX、スキル起動」
真琴機と蛍機ロッテが敵陣へ全速吶喊。『凰呀』と『REX』が翼下から吐き出すロケット弾がHW一体へ駆ける。
直撃、HW外殻が爆発の衝撃で弾け飛ぶ。だがHWは被弾しながら、赤い光条を撃ち返した。
「あたァっかよッ‥!」
真琴機は追加推力装置も発動し、ブーストを噴かして回避。背面を流れる光条へ逆らうように、HWへ加速する。
もう一度照準を絞ったHWへ、後続蛍機が飛竜を射出。着弾の炎の中へ真紅の真琴機が飛び込み――剣翼で両断した。
「一体撃破だッ」
蛍が声を上げて全機へ報告。
「っしゃあ! 負けてらんねぇ、突っ込むぜ!!」
「了解です。K−02で支援しましょう」
シン機の突撃に合わせて叢雲が発射ボタンを押し込んだ。直後、空に渦巻く500発のミサイル。
爆炎が轟きワーム砲勢が鈍り、吶喊する青銀シュテルンの接近を――許した。
「うらぁッ!」
機銃掃射から銀の剣翼が煌めく。大量ミサイルを被弾したHWが銃弾を受けて破砕し、次のHWも中枢に刃を受けて撃墜された。
だがそのシン機へ、大量ミサイルを回避したタロスがフェザー砲を連射。かわし切れず装甲が焼け焦げる。
キャスパー山の上空は激しい空戦に移行していく。傭兵達は数で押されながらも、密な連携で互角以上の戦闘を展開した。
『ふん、なるほど‥‥ジックリ観察させて貰ったぞ』
ふいに通信回線に介入する――低く威圧的な声。
それを聞いた健二は苛立たしげに舌打ちした。
「‥‥どこに隠れてやがる。そろそろ出てきやがれってんだ、アルコヴァ王ッ!!」
目前のHWを剣翼で叩き切りながら叫ぶ。
「手前ぇが親玉か? ‥オリージュ達の‥」
『オリージュ‥? ああ、大して役にも立たなかったアレか』
「っ! 手前ぇ、ンのヤロォ――!』
歯を噛み鳴らし、真琴の瞳が怒りに燃える。
だがその姿は見えない。ワームとの交戦下、緊張の面持ちで全員がワーム群の出てきた遥か眼下へ注意を注ぐ。
『‥何処を見ている? 我はここに居るぞッ!』
だが敵は――全く別方向から現れた。
空を迸る三連光条がラウラ機に直撃、尾翼を溶解させる。
「くっ‥後ろ!?」
予想に反して斜め後方。
レーダー基地が音を立てて瓦解し、本星中型HWが激しく砲を噴きながら姿を現した。
「態勢を立て直すんだッ! 行くぞ、α班全機で連携を掛ける‥!」
本命の登場にユーリが各機へ声を掛ける。
ルノアも健二機の援護できる位置に回りながら、一度交戦した記憶から敵機動を読もうとした。
四機のα班に囲まれながら――アイアスは悠然とコンソールを操作する。
『‥‥頭数を減らせ。初めはあの機体だ』
モニタ隅のランプが一斉に灯り、タロスは一斉に――蛍機へ振り向いた。
ふいに螺旋弾頭が本星HWへ飛来し、分厚い赤光の壁へ突き立った。
「‥強力型、FF」
ルノアが呟き、それでもあえて同兵装を連続射出する。スキル併用の弾頭は正確にアイアス機の巨体へ駆け抜ける。
「オレを墜とした事なんざ覚えてないだろうが、テメェを斃して雪辱を果たすッ!」
さらに別方向から健二機の同時攻撃が火を噴く。
『本星型の性能‥‥その目に焼き付けるが良い』
だがアイアスは練力を使って慣性制御を最大稼動させ、巨体にあるまじき回避機動を見せた。
二機の同時攻撃を避け、高速回転しながら砲を連射。空に炸裂音が響き渡り、包囲するα班四機を高速の火線が撃ち抜いた。
『どうした? 我を退屈させるな』
アイアスが嘲るように言い放ち、空中に静止する。
「そうやって‥‥あなた達の遊びで幾人が地獄を見たか‥‥!」
バイザーに映る敵機を射るような瞳で捉え、ラウラがトリガーを絞り込む。重機関砲が震動を立てて砲弾を連射。
「Aファング起動――避けさせるな、ディースッ!」
アイアスの退路を塞ぐように、ユーリ機もAAMを連射した。
だがアイアス機は九十度垂直上昇、そのまま鋭角的な機動で火線を回避していく。
慣性制御を最大限に発揮したその運動能力は、驚異的だった。
「‥このっ!」
蛍機がタロスへ高分子レーザーを連射。直後に来た敵砲撃と交錯し、火花を噴いて機体を傾がせる。
さらにその背後へ、別のタロスが回っていた。
「やらせッかよ――♪」
Tブーストを掛け超高速の真琴機が飛来、タロス胴部に剣翼を疾らせる。
血を噴き上げるタロスが反転、肩部のミサイルを『凰呀』へ射出。だが真琴機は辛うじて爆炎を避けた。
「こっちを見やがれっ!」
タロス群が連携して蛍機を狙う動きを止めようと、シンがロケット弾をありったけばら撒く。
砲を構えていたタロス三機が回避機動を取り、内の一体が青銀シュテルンへ激しく光条を撃ち放った。
衝撃が走り、『アインヘリヤル』は被弾警告を鳴らす。
だがそのタロスを――横様から奔った大光条が吹き飛ばした。
「DR−2、命中です」
漆黒の叢雲機が赤熱した巨大砲身を向けたまま、プラズマライフルを追撃連射する。肉が溶け骨格まで覗くタロスが、機体を修復させながら回避機動を取った。
その叢雲機へ別タロスが飛来し、深手を負った仲間を逃す。
HWは既に掃討済みだったが、タロスの数はβ班を上回る。さらに敵は連携を取り――二体のタロスが隙を突いて、蛍機へ砲口を向けた。
「――ッ!」
咄嗟に蛍が起動した超伝導DCで、超高圧電流が機体表面を覆う。
直後――激しい砲撃が、『REX』の両翼をへし折った。
蛍機は空中を錐揉みし、眼下の森へ落下していく。
高速戦闘下、本星型がラウラ機の背後を取る。
だがユーリは、――僚機の一瞬のハンドサインを見逃さなかった。
Oブーストを掛けて大きく沈む機体へ、アイアスが鼻で笑う。
『ふんっ、無駄な足掻きよッ!』
本星型は激しい砲撃を噴き、ラウラ機の後尾を吹き飛ばした。
「そこだ――!」
直後ユーリ機が叫び、操縦桿を倒す。
しかし本星型は即座に百八十度反転――砲撃。
『狙いが見え見えだ‥!』
アイアスはラウラの囮に掛かったフリをして、僚機であるユーリ機が狙いやすい死角を逆に作っていた。
そして振り向き様に放った砲撃は――だが何も撃ち抜かなかった。
ユーリ機はアイアス機を狙わず、そのまま射線を回避。他の二機へ、サインを送っている。
「ようやく、動きが、読め、ました」
ルノアが兵装スイッチを押し込む。四発放たれた螺旋弾頭の一発がアイアス機へ着弾、分厚いFFが発光する。
「ぶち当たれぇ――ッ!」
スキル起動した健二機『Baalzephon』が、KA−01砲と8.8cm大光条を連続で叩き込む。
『クッ‥‥!』
初弾を回避したものの、光条被弾。FF強で攻撃を散らした。
攻勢から立ち直ろうとしたアイアス機へ、人型のラウラ機が剣を構えて接敵する。
『空中変形か‥‥小賢しい真似を』
咄嗟に慣性制御を最大稼動させるアイアスへ、しかしOブーストで激しく炎を纏った『Merizim』が追いすがる。
「この身を燃やしてでも、焼き尽くしてあげるわ‥!」
ラウラ機が放つ刃の嵐。鋭い機剣と雪村の光刃を本星型はかわしきれず、FFが幾度も輝きを放ち‥とうとう分厚いFFが掻き消える。
「この痛みを知りなさい‥!」
そしてラウラの放った最後の雪村が――本星型を深く切り裂いた。
『くっ‥‥! だがその変形の隙、逃さん――!』
火花を散らした本星型は即座に態勢を整え、再び変形するラウラ機へ三連フェザー砲を撃ち放つ。
だがその頭上から、――ユーリ機が高速飛来した。
「よそ見してると足元掬われるぞ、ってね」
ブースト、スキルを乗せた重機関砲でアイアス機に弾痕を走らせる。
アイアスは舌打ちすると、次撃の剣翼を避け――砲撃をくれて距離を取った。
『くく、さすがに単機で相手するのは骨が折れる。‥‥お前達、初戦としては十分だろう。撤退するぞ』
モニタ隅に応答の光が一斉に灯る。タロス6体が一斉に反転、本星型の周囲へ集まった。
「待ちやがれ! 逃げんのかよッ!!」
『もうこの場所に用は無い。ふ‥カードは他にもある』
健二の怒声にアイアスは余裕の反応を返すと、ゆっくりと戦域を離れていく。
「‥ま、お互い今回はまだ挨拶代わりだな」
冷や汗を垂らしながらシンが呟き、敵の背中を見送る。
目下の目標は敵駐屯地制圧であり――実際問題として、タロス群と交戦していたβ班は満身創痍だった。
『EQ‥‥撃破!』
『くそ、まだ終わっちゃいねぇぞ!』
地上軍KVは駐屯所から這い出てくる新手のゴーレム数体を目にして、舌打ちする。
「Raven、緊急降下! 着地時の姿勢保持を任せます!」
「チッ‥。損傷が酷いが、弱音を吐いてる暇は無ぇようだな‥!」
叢雲機とシン機が援軍として飛来、粗い山肌へ垂直着陸を試みる。
「両機、援護するよっ♪」
「地上目標、ロックオン!」
真琴機、ラウラ機が敵頭上へ残った弾頭を撃ち落した。
「K−02、残弾、発射‥っ」
ルノア機が温存していた250発のミサイルを雨のように地上へ降らす。それを横目に、シンも着陸前に自ら弾幕を張った。
だが‥それが裏目に出て敵の注意を惹いた。山への着陸に手間取り、シン機はゴーレムの一斉砲火を浴びる。
「グッ――!」
青銀のシュテルンは爆炎を上げ、地面に叩きつけられた。叢雲機はどうにか着陸、数度の被弾を受けながら変形する。
『助かります‥‥!』
ヒータが叫び、前へ出る。
上空からの随時支援攻撃と地上KVによって、ゴーレムは瞬く間に殲滅。
‥‥後には人型の残骸だけが散乱した。
敵駐屯地の内部から炎が噴き上がる。
それを眼下に見ながらユーリが、小さく眉を寄せて口を開いた。
『任務完了だな。‥撃墜された二人は大丈夫か?』
「蛍さんは軽傷です。しかし、シンさんの傷は‥深いですね。すぐにキャスパーへ戻りましょう」
シンを操縦席から引きずり出した叢雲が、二人で機体に乗り込んで声を掛ける。蛍もヒータが回収。
炎を上げる山腹の駐屯地を各機は後にする。
タロス群という新たな脅威に、一抹の――不安を感じながら。
NFNo.30