●リプレイ本文
傭兵部隊は一斉に空へ。
八機のKVは轟音を響かせ、混乱する基地の頭上を通り過ぎていく。
「RBが敵に回っただの司令官が不在だの‥そんな事で浮き足立つんじゃない! 襟を正せ、職務を全うしろ! そんな事では‥墓の下で君達と戦った彼らが嘆き悲しむぞ!」
眼下の基地へ鳳覚羅(
gb3095)が一喝する。混乱していた兵士達は立ち止まり、過ぎ去っていく破曉を呆然と目で追った。
「あの様子ではまともな迎撃戦力は我々のみでしょうな。‥‥何としても、止めねばなりますまい」
飯島 修司(
ga7951)が目を細めて呟く。
その見つめる先、レーダーには11機の不明機が基地に接近してきている。
「じゃあ私達がいいとこ見せて、士気上げないとね」
冴城 アスカ(
gb4188)が奔放に言い放ち、僚機のクラリッサ・メディスン(
ga0853)機へ親指を立てた。クラリッサも頷き返す。
銀と真珠の二機のシュテルンは、空陸に柔軟に対応する予定だった。
「でも敵の情報がこれだけ少ないというのは、正直怖いですわね。
もっとも戦場ではハプニングは付き物ですし、このくらいの事で怖じ気づいている訳にはいきませんわね」
クラリッサは念入りに整備を頼んでいたスラスターライフルがちゃんと稼動するのを確認し、それだけで少し心強さを覚える。
「でも遭遇するまで戦力が分からないのは嫌ですね‥」
不破 霞(
gb8820)が眉をひそめて不安を口にする。
だが自機竜牙『ゲマトリア』の獰猛なエンジン音は、そんな不安も吹き飛ばして空を駆った。
「‥‥私、緊急出動には良い思い出が無いんだよな‥」
シクル・ハーツ(
gc1986)も苦ったように首を振る。
以前似た状況で、トラウマ持ちの敵を相手にした事があったのだ。
「ともかく、一体も、通し、ません‥‥!」
片翼を付けた真っ赤なS−01HSC。『Rote Empress』の機上からルノア・アラバスター(
gb5133)はたどたどしく言い放つ。
前方、空陸両方に点々と敵影が見え始めていた。
「指揮官が逃げ出したタイミングなんて敵からすればいかにもいい的だよね‥‥!」
青いロングボウ『アジュール』の内側で、鷲羽・栗花落(
gb4249)も敵を捕捉する。
空:HW*3、中型HW*2
陸:ボアサークル(BC)*2、ゴーレム*1、RC*2、タロス*1
全機のレーダー上で敵種別が判明。
同時に敵は編隊を散開させて――戦闘行動に移った。
空陸両方で敵ワームは傭兵KVとの会敵を嫌がるように広く散り始める。
その中で地上の二体、――BCだけが基地へ向かって一直線に加速を始めた。
「速いですわ‥‥! 後退して迎撃を!」
クラリッサがその速度を見て、即座に判断を下す。僚機のアスカ機、陸対応の霞機とシクル機もそれに頷いて機首を翻した。
四機が後方に下がるのと対照的に、空班四機が前へ駆る。
まだ遠い距離で――栗花落がスキルを全起動。
「簡単には逃がさないよ‥‥!」
栗花落機がK−02を解放。鮮やかな青のロングボウから迸った500発のミサイルが、まだ散開し切らないHW群へ突っ込んで盛大に爆ぜる。
HWは慣性制御の全力駆使と迎撃機銃で致命傷を避けていく。だが被害は大きく、爆炎と破片に全HWの装甲が焼き裂けた。
HW群は火花を上げながら迎撃機銃をリロード。中型を両端にしてそのまま散開していく。
その中心へと、ルノア機、飯島機、覚羅機、栗花落機の四機が空を切って機体を駆っていた。
「K−02射程、到達、です」
ルノアがスキル起動――ロックオン。AIが相手の大まかな動きを予測して、大量のミサイルをHW群へ撃ち放った。
同時、ミサイルの後を追うように赤いディアブロ――修司機がブースト。さらに覚羅機も追随して127mmロケット弾を連射していく。
再びHW達の迎撃機銃が火を散らし始めた。
銃弾が大量のミサイルを叩き、爆炎を次々に炸裂させていく。しかし黒煙の中から――さらに幾数のミサイルが飛び込み、HWへ着弾。
迎撃機銃の音が掻き消え、代わりに爆音が空を震わせた。
「敵不明と言っても‥‥蓋を開けて見ればこんなものだね」
覚羅が微笑み、自身の放ったロケット弾がHWの一体を炎塊に上げたのを確認する。
さらにそのHW群の中心へ切り込んだ飯島機が――シャンデル機動で反転、敵へ向き直っていた。
「この距離で確実に、墜とさせて頂きましょう」
スキル付与のK−02の五百発が、右翼小型HWと中型HWへ迫った。
二体が断末魔のように光条を連射。修司機と覚羅機が被弾した直後――激しい炎に晒されて鉄片へと変わる。
ただ計算外だったのは敵陣に突っ込んだせいで敵半分は視界外に位置し、K−02のロックオンを外れた事だっただろうか。
敵は小型と中型のHWが一体ずつ残り――後方の基地を目指していた。
「さ、バレットバレェの開幕よ!」
アスカが声を上げ、地上に着陸した四機が人型展開。
その眼前へ、時速400kmのボアサークル二体が全てを踏み潰して駆けて来る。
対応してアスカ機とクラリッサ機、霞機とシクル機を一体ずつ相手に分かれた。
「基地には近づけさせない‥!」
シクル機のサイファー『Diamond Dust』がBCを捉えて、駆けた。高速で駆け抜けようとする敵へガドリングを連射。
そのまま二又の白銀槍をBCの足元へ突き立てた。
痛烈な衝撃と火花を上げ、跳ねるように態勢を崩しながらもBCは槍を弾いてそこを抜けた。
「正面に立ったら潰される‥でも、竜牙の速力なら!」
減速したBC側面から霞機『ゲマトリア』がブースト加速。恐竜型のKVは高速で追い――真横から肩砲を炸裂させる。
態勢を立て直しかけていた黒円が強烈な一撃に吹き飛ぶ。転倒したまま地面を十数メートル滑り、止まった。
そこへ駆け寄る二機。白銀のサイファーが機剣の透き通る刃で黒円を貫き、竜牙がディノファングで貪るように喰らい付く。
BCは身動きできないまま――大破した。
BCもう一体。
そちらへは二機のシュテルンが銃を構えて並んでいた。
「――今! 弾丸を叩き込みますわ!」
クラリッサが即座に絞るトリガー。途端、スラスターライフルの表示残弾が高速で減っていく。
二機のライフル弾を側面に被弾したBCが火花と破片を散らして態勢を崩す。
滑りながら地面へ転倒する黒円へ、アスカ機が駆け出した。
「スピード違反よ。罰金は――命で頂くわね?」
吶喊して突き出したアスカ機のガンランスがBCの中枢を抉る。
起き上がろうとする敵を押さえ付け、PRMを起動。引き金を引く。内部へ直接砲撃を受けたBCは膨らみ――。
激しく、爆発した。
「冴城さん‥!?」
クラリッサが思わず叫び、機体を駆る。
だがすぐに煙の中から‥‥煤けたアスカ機が姿を見せた。
「つつっ、‥さすがにやり過ぎたみたい」
アスカはおどけるように首を振って、笑顔を浮かべた。
陸戦班が空へ上がって来るのを、空戦班四機は戦闘しながらレーダーで捉えていた。
「エニセイが使えないとは‥‥不運ですね」
修司がモニタ上に表示されたその武器を見る。メイン武装のつもりがそれは使えず、今はD−02のみでの攻撃を余儀なくされていた。
さらにルノア機と栗花落機は機動が鈍く、覚羅機は装甲の一部が剥がれていた。
「‥‥整備不良か‥基地に戻ったら‥‥地獄のフルメンテ手伝ってもらわないとね‥」
覚羅が黒い笑みを浮かべる。
そのまま被弾警告を無視して、小型HWへ反撃の84mmロケット弾発射。それへ交錯させるようにルノア機が螺旋ミサイルを撃ち放つ。
二方向からの着弾で激しく破片を散らすHW。
吹き飛ぶそれを逃がすまいと、二機が退路を防ぐように次弾発射する。
「‥HW、撃墜」
ルノアが報告。
爆炎に包まれて――HWは落ちて行く。
残った中型HWへは、修司機と栗花落機が仕留めに掛かっていた。
「援護は私にお任せを」
ディアブロの狙撃。中型HWの機動する先で確実に命中させ、同じ座標に釘付けにする。
そこへロングボウが駆ける。中型が放つフェザー砲にツングースカで応酬しながら、栗花落が――KA−01の引き金を絞った。
轟音と共に放たれた火柱がHW中心を貫く。
HWが落ち始める。最後に向けたフェザー砲は――狙撃弾に穿たれ、ロングボウの剣翼に寸断された。
「これで残るは‥‥」
栗花落が地上へ目を凝らす。
散開して基地を目指すワーム群が眼下を走っていた。
「煙幕射出します!」
霞機から地上へ放たれた煙幕装置が激しい煙を噴き上げて視界を隠す。
地上から空へ砲を向けるRC二体は標的を見失った。拡散砲撃のまばらな光条が空に翻る。
それをすり抜けて――二機のシュテルンが降下を開始していた。
「先に私達が降下しますわ! お二人はその後でっ」
クラリッサが地上のRC二体へロケット弾を射出。8連装の弾頭が地上で爆ぜる。
「まず私から行くわよ!」
アスカ機がPRMを抵抗装甲へ回す。拡散砲撃に軽く引っかかれつつも降下。アスカ機、すぐ後に続いてクラリッサ機が垂直着陸で地上に降り立つ。
二機は変形、スラスターライフルでRCへ弾幕を張った。
「降下ポイントの確保、感謝する」
その二機の牽制のおかげで無事に地上へ降りたシクルが通信する。その横に霞機も降り立っていた。
即座に二機は人型に変形すると、弾幕を張りながら煙幕の中へ吶喊していく。既に先行のシュテルン二機は接近戦に入っており、クラリッサ機の援護射撃を受けてアスカ機がガンランスで敵の砲台を突き抉っていた。
「クッ‥‥皮膚の色が変わったわよ!」
アスカが叫んで僅かに後退。二体のRCは緑の強固な皮膚に変化していた。
だが、四機に知覚兵装は無い。
RCは激しい弾幕を掻き分けて、おもむろにアスカ機へ飛び掛かった。腕部を牙で砕かれながらも、アスカ機『Luzifer』は揉み合って相手する。
「冴城殿、単騎では時間が掛かりそうだ。挟み撃ちにするぞ!」
「そりゃ‥‥ありがたいねっ!」
アスカ機がRCを突き伏せる。
激しく暴れるその背中へ飛び込んだシクル機が――白銀の剣を振り下ろした。
固い皮膚を切り裂く手応え。刃の下で血が流れ出す。
その仲間を助けに走ったもう一体のRCを――激しい弾幕と、恐竜型KVの突進が食い止めた。
「貴方の牙か、この竜牙か‥――勝負!」
霞が言い放つと同時、練力を集中させた竜牙の牙が青く光る。そのままRCとKVはぶつかりあい、互いの肩に牙を食い込ませた。
「良い的ですわねっ!」
動きが止まったRCの背中へ、クラリッサ機『アズリエル』が冷静に弾痕を穿っていく。
固い皮膚を強引に破る白刃と火線。
二体のRCは徐々に弱り、四機のKVは一気に――二匹を仕留めた。
地上を駆けるゴーレムとタロスを追いかけて、空戦班四機が着陸する。突破を図る二体が移動しながら砲火を浴びせた。
「くっ、これ以上は基地に近づけさせないよ‥‥!」
被弾、変形しながら栗花落機がツングースカで反撃する。修司機、ルノア機、覚羅機が次々に変形し、敵へと駆け出す。
「切り札使わせてもらう‥‥」
覚羅機が超限界稼動――『黒焔凰』の名前の如く、鎧を脱ぎ捨てた破曉が黒い陽炎を身に纏う。
赤い光条を素早くかわし、機銃の掃射を二体へ加えて走った。
さらにルノア機も足を止めて弾幕を張る。激しい砲火に押されて二体は反撃しながら後退りした。
「ここで‥終わりにさせて頂きましょうか」
一発の銃弾がゴーレムの右腕を貫く。敵の砲火が薄くなった所を――機剣を握った修司機が突撃した。
「陸戦班、今から降下します!」
さらにRCを始末した四機が、地上へ降下。基地への進路に立ち塞がるように着陸する。
だがふいにF砲で光条を乱れ撃っていたタロスが――武器を下ろしてゴーレムの影に隠れた。
「タロスの、様子、が‥‥注意を!」
ルノアは叫びながらすぐに敵の意図を悟り、機銃射撃で敵を押し留めようとする。だが全てゴーレムに吸い込まれ――大破。
崩れ落ちるゴーレムの後ろから、タロスが空に舞い上がった。
着陸したばかりの陸戦班が再び離陸。垂直離陸したクラリッサ機とアスカ機がいち早く敵を追撃した。
クラリッサ機が即座にUK−10を発射し――。
「‥射出されませんわ!」
『兵装異常』の文字。整備不良により、その兵装が使えなくなっていた。
「クラリッサ、違う兵器を!」
「了解です!」
即座にクラリッサは兵装変更。84mmロケット弾をスタンバイさせる。
直後に二機が兵装を発射。
アスカ機のG−02ミサイルをタロスが避けた後、クラリッサ機のロケット弾が命中した。
だがタロスはよろめきながら、反撃もせずに前進する。
やや遅れてシクル機、霞機が空に上がるが‥‥既にタロスの射程を外れていた。さらに残りの四機が上がってきた時には、かなりの距離があった。
クラリッサ機とアスカ機が必死に追撃するも、タロスの目と鼻の先にパウダーリバー基地が迫る。
だが遥か後方で、ディスプレイ上の敵をロックオンしている機体があった。
「行くよ‥‥アジュール!」
青のロングボウ、栗花落機。
スキルで射程を二倍に引き伸ばし、多目的誘導弾発射スイッチを――押し込む。
解放される四発の弾頭。空に白い雲を引き1400mの距離を抜け――タロスへ直撃した。
彼方で爆炎が上がる。
直後、四散した鉄塊が燃えながら‥‥ナトロナの荒野に落ちて行った。
基地は落ち着きを取り戻す。
人々を安心させるように頭上を旋回していたKVが、ゆっくりと降下してくる。それを軍人は敬礼で、人民は拍手で迎えた。
「まったく、変なのがいなくて助かった‥」
「今度からはこんな状況で戦いたくないね‥ホント疲れたー」
シクルと栗花落が安堵の息を吐く。直前まで敵が分からないというのは、やはり不気味な体験だった。
「しかし、機体のトラブルには弱りましたが‥‥」
修司も苦い顔で呟く。メイン武装が使えない事がかなり辛い状況だった。
「でもどうにか任務達成できましたわね」
あらかじめスラスターライフルだけは確実に整備してもらっていたクラリッサは、それなりに満足のいく戦いを出来ていた。
「‥‥それじゃ、地獄のフルメンテを手伝ってもらおうか」
熱暴走した自機を降りながら、覚羅が恐ろしい笑みを整備班に振りまく。それに各員は頷くしかなかった。
各々は任務を終えて別行動を取っていく。ルノアと霞は混乱でメチャクチャになった基地の片付け手伝い、さらに休息に向かう面々や整備を行う傭兵など。
その中で食堂に向かったアスカは、浮かれて騒ぐ兵士達から酒を奢られていた。
出発時とは打って変わって楽しげな彼らを見ながら、やれやれと呟く。
「‥‥無能な司令官でも蛇の頭、か」
酒を傾けながら窓の外に目を向ける。
司令官不在のその基地が――まるで檻のようだった。
NFNo.027