●リプレイ本文
『‥‥こちらβ班。今から拠点へ向かうが‥‥やはり間に合いそうに無い』
「α班、了解しました。作戦領域へ侵入、これより状況を開始します」
別働班からの連絡に水上・未早(
ga0049)が応じ、無線を切った。
「俺達は囮か‥‥。作戦としては遅延攻撃が適切だな」
殲滅戦では無い事を意識して、時任 絃也(
ga0983)はレーダーに目を落とす。
「やれやれ‥‥この数をこれで相手しろとは、中々無茶な事ですよね」
鋼 蒼志(
ga0165)が浮かべる苦笑。
レーダーは光点に光点が重なり、太長い筋が出来ている。
全てが、敵だ。
「でもこれをどうにかしないと200人以上の命が消える、と。‥相変わらずハードっすね〜」
絶望的戦力差に肩を竦め、――六堂源治(
ga8154)は挑戦的な笑みさえ浮かべる。
「一人でも多くの命を救う為に、私達がやらなければいけないというのなら‥‥限界まで頑張りませんとね」
恐怖心を抑え、乾 幸香(
ga8460)は決意を固める。
「幾らこんな状態とはいえ‥‥戦う術すら知らない人達を背中に背負ってますからね」
血の滲む包帯を服の下に巻き付け、鹿嶋 悠(
gb1333)は苦痛を押し殺した顔で戦場へ臨む。
「多勢に無勢‥‥上等だ。間に合わせてやる、意地でもなッ!」
荒々しい口調の裏の決して曲げぬ信念。天原大地(
gb5927)が真っ先に降下していった。
そのまま十機は夜の敵地、孤独な砂漠へと降り立ち――人型形態で展開。
「スマイル、スマイラー、スマイレージ♪ お呼びとあらば即参上〜」
緊迫した空気に響く声。須磨井 礼二(
gb2034)は、生死を分かつこの状況でも曇りない笑顔を浮かべる。
「‥ああ、頭使うのは苦手だっ! 来るなら弾き返すっ! それにアタシが命乗せるのは他にある‥‥生きて帰るさ♪ ――絶対にね」
一つ大きく身悶えしたかと思うと、聖・真琴(
ga1622)は吹っ切れたように顔を上げた。
「さて、短い時間ですがお付き合い頂きましょうか。まずは出迎えの挨拶をお見舞いしてやりましょう」
冷静さを増し、静かな自信すら感じさせる新居・やすかず(
ga1891)。
その前方に――ワームの先頭集団が月明かりに照らされて姿を現した。
青暗い闇に沈む砂漠。
その黒い沈黙が突如として、光の洪水に切り裂かれる。
「ッ、さぁ‥始まりましたねっ!」
鳴り止まぬアラートの中、それでも笑顔で手を動かす礼二。
「相当な数だな‥‥やれやれ、これを引き付けるのは骨が折れそうだ」
弦也は淡々と呟きながら陣形を整えていく。
KV部隊はA班右翼とB班左翼に分かれていた。
A班は未早、真琴、やすかず、悠、礼二。
B班は蒼志、弦也、幸香、源治、大地。
前後二列になったA班とB班は一部分だけ重複させて一列になり、重複部分に重傷の悠機を入れる。
全機、敵を射程に入れるなり砲撃を開始。
Mブーストを起動した未早機がアハト狙撃、それを潜り抜けた敵へやすかず機がマルコキアスの弾幕を張る。次いで真琴、源治、幸香、大地のショルダーキャノンが一斉に轟音を噴き上げた。
やがて全機が射程に入り、壮絶な火線の嵐を敵と交換する。
しかし居並ぶ敵は広がり、膨らみ、一個の塊として相対した。
さらに照準の粗かった敵の弾幕も近付くにつれ命中し始め、KV被弾の火花が夜闇に上がり始める。
「足を止めずにまだちぃっとばかし付き合って貰うよ‥‥待ち合わせに間に合われると困るンでね♪」
肩砲を敵陣突出部に打ち込み、真琴機が反転。
「A班、後退する!」
その言葉と同時に右翼全機が機体を翻す。
後に残った左翼B班が一際激しい砲火を噴き上げた。
「俺達が相手してやるぜ‥‥掛かって来いッ!」
大地機がキャノンで右翼の敵を牽制し、意識をひきつける。
A班が抜けた分、B班五機へ叩き込まれる火線と光条が激化。避け切れない苛烈な弾幕が全機の装甲を焼き抉る。
さらに数体のゴーレムと大群のキメラが接近した。
「っ、蛾が群がって来ましたわね‥! 殺虫剤、散布しますわ!」
特殊ボタンを押し込む幸香。愛機『バロール』がロックキャンセラーを発動し、範囲内のワーム群の照準を鈍らせる。
和らいだ砲火の中から、弦也機が熾烈に弾丸をばら撒いた。キメラの足が穿たれて何体かが崩れ落ちたかと思うと、障害物と化した敵は味方の射撃に貫かれて絶命。同士討ちを誘う。
だが一部を遮断したものの、他の方向から易々とワームは接近した。
「殲滅してもよいのだろう‥‥とはさすがに言えんな」
蒼の雷電『Bicorn』が機銃を持ち替え、Gグレネードを抜き放つ。即座にキメラの固まる場所へ二連射。キメラ四体が爆炎に吹き飛び、息絶えた。
「しっかし‥‥撃っても撃ってもキリが無いッス!」
源治は肩砲のリロードの暇も惜しんで、ライフルに持ち替えて敵を無力化していく。一番手前のゴーレムが倒れ、その背中を乗り越えて次のゴーレムが接近。
しかもその後方からはTWとRCが援護砲撃を発している。
B班はみるみるワーム群に包囲され、飲み込まれそうになり――。
その包囲側面へ、大量の火線が走った。
「お待たせしましたッ! もう大丈夫です!」
未早の呼びかけ。その言葉を裏付けるように――A班の砲撃がワーム群中を駆け巡る。
「よし、後退だ!」
援護を受けたB班が即座に身を翻した。
「タッチだ!」
両班がすれ違い、砲撃しながら追いかけてきていたワーム群へA班が立ち塞がった。
未早機がMブースト起動、最前列のキメラへと確実に機銃を当てていく。一斉に闇に輝く赤いFF。
だがその中から、FFを発動せずに接近する影を――赤外線モニタが捉えていた。
「っ――」
砲を構えて躍り出るゴーレム。未早機は咄嗟に構えた盾で光条を受け止める。
「潰すっ! 援護頼ンだ!」
真琴がブースト、やすかず機の射撃援護を受けながらゴーレムに接敵――急制動で側面を取る。
槍を振ろうとした相手より早く、ソードウイングで肘を両断。態勢を崩した相手の軸足へ――ライフル射撃を叩き込む。
「無力化を確認! 聖さん、戻って下さい!」
やすかず機が敵本隊の更なる接近を確認し、マルコキアスを連射しながら叫ぶ。
敵大群は熱線を吐きながらジリジリ前進。A班を取り囲むように広がっていった。
やや後方から悪魔的弾幕で援護に回っていたやすかず機ですら、鈍重になった事もあって被弾は免れない。
「近付いてきましたね‥‥!」
悠の視界を飛び回るターゲットボックス。紺色に紅肩の『帝虎』が弾丸をばら撒く。ファランクスも稼動し、広範の敵を抑え込んだ。
その重傷の悠を庇い、礼二機がバルカンで彼を狙う敵を引き付けていく。
だが溢れ出るワームは百鬼夜行のように底が無い。僅かでも射線が開けば迸る紫や紅の光条。
「ッ――!」
突如大きく開いた射線から大口径プロトン砲撃が悠機に直撃。コックピット前に構えた盾が熔解し、冷や汗を噴き出させる。
「やらせませんよ、皆がスマイルで帰るためにね♪」
金髪を揺らし、礼二はニッコリと『煌星』のPRM起動。
バルカン連射をTW砲台のただ一点に叩き込む。弾丸が砲台を穿ち、引き裂き、――完全に破壊した。
他のTWはまだ後方。大口径砲の脅威はなくなったが――複数のRCがその代わりを務めて砲撃、他ワームを前進させる。
KV各機の熾烈な迎撃で次々とキメラが擱座する中、ゴーレム二体は反撃を放ちながら近付いて来た。
「意地でも来るつもりですね‥‥!」
礼二機が再びPRM起動。ファランクスが最後の弾丸を吐きおえ、構わずバルカンをゴーレムに叩き込む。
一体が両足を打ち抜かれ擱座。もう一体が構わず突っ込んでくるのを――金曜日の悪夢で轟音を立てて切り刻んだ。
同時、後方B班からの援護砲撃が敵陣を穿ち始める。
「礼二機、許容練力以下‥‥離脱します!」
「了解!」
僚機の返事を聞いて礼二機は煙幕を射出すると、垂直離陸して上空へ離脱。
A班他四機は後退を開始する。
敵の砲撃を受けながらA班はB班と交差、前衛と後衛をスイッチする。
月明かりの砂漠をワームの大群は一個の怪物のようにKV部隊へ迫った。小刻みに後退する為に、移動と旋回に行動を食って弾幕を最大限に発揮できない。
「止まれ止まれ止まれって‥‥ッ!」
キャノンとライフルを撒き散らす源治機。B班全機が必死に弾幕を張る。
だが次から次へと新しいワームが現れ、砲撃を放ち、接近してきた。
(「‥まだだ‥! もってくれ、『残空』‥!!」)
大地が祈るように愛機へ念じる。敵の攻撃が装甲を貫き、機体各部から黒煙が上がっていた。
「殺虫剤、散布しますわ!」
幸香機がキャンセラー発動。同じくボロボロの機体を駆り、砲火を縫って反撃を放つ。
敵の照準は鈍るものの、圧倒的弾幕がB班五機次々に被弾、闇に火花を散らす――。
さらに敵陣後方にTWが追いつく。
大口径プロトン砲の強力な援護を受けてRCが切り込み、至近距離から一斉砲撃した。
被弾。レッドアラートを響かせる幸香機へ、TWは更なる大光条を発射する。
「っ――!」
だが一瞬早く割り込んだ大地機が――それを受け止めていた。
「ちっ‥‥! これで限界を超えちまったぜ!」
幸香機とはほぼ同じ程度の損傷度。それならばと、当然のように大地は相手を庇っていた。
「行け!」
弦也機がスキル発動で撃ち込むガトリングナックル。腕を向けた方向へ無造作に放たれる弾丸に、接近するゴーレムの装甲が弾ける。
B班各機は大地機の撤退を支援。
同時、‥‥後方からの援護射撃が始まった。
A班とB班がスイッチ。
しかし、撤退者が出たA班の弾幕はやや薄かった。弾幕を張る四機へワーム群は際どく接近。それをスキル全力発動の未早機、やすかず機、悠機が必死で牽制する。
精度の高い弾雨がワーム群の足元をピンポイントに貫き、支えきれず倒れ伏していくワーム群。だが数を頼みに大型キメラの一体が接敵する。
直後、その厚い胸に剣が突き立った。
「死にてぇ奴から――掛かってこぃや♪」
敵を屠った真琴機『ナイトメア―悪夢―』が剣を抜き払う。咄嗟に危険を感知したキメラは僅かに逡巡した。
だがその後方からワームの砲撃援護が苛烈に奔る。急きたてられるように、キメラは突撃した。
「一気に焼きます!」
やすかず機が構えるグレネード。密集部へ二連射、10mの砂岩が炎に包まれる。
だがその身に炎を点しながら――緑色のRCはその爆炎を抜けた。
「‥‥っ!」
やすかず機へと二体のRCが喰らい付く。装甲の砕ける嫌な音が響いた。
「大丈夫ですかッ‥!?」
悠機が魔王の赤剣を振るい、強引に緑のRCを両断。
だがその下のやすかず機は――動くのがやっとだった。
「‥‥く、撤退します‥‥!」
騙し騙し機体にいう事を聞かせ、やすかず機は煙幕を射出して撤退。
三機になったA班はさらに混戦状態に陥る。
接近した何体かを押し返したかと思うと、すぐにまた新手が飛び込んで来る。息継ぎも出来無い激戦に全員が徒労感を覚え始める。
「‥もう少しです、全力で耐えましょう!」
だが自衛用の建御雷を振るいながら、未早が折れそうな全員の心を鼓舞した。
β救出隊からの連絡はまだ、無い。
ならばいかに危険な状況でも、可能な限り留まるしか無かった。
「‥‥機体損傷率が撤退ライン割りました‥! ここまでですか‥‥後退します!」
胸を血に滲ませ、脂汗を浮かべた悠が荒い呼吸で通達。
煙幕を敵の砲撃部隊へ射出すると、魔剣で後ろの敵を両断して退路を開けた。
A班残り二機‥‥ほぼ壊滅状態。
もはや敵を押し留める術は無かった。刻一刻と、二機は魔物の群れに飲み込まれていく。
「ダメだ、撤退する!」
最前線で前衛として剣を振るう真琴機。今や機体損傷率八割を切っていた。幸い、まだ煙幕は残っている。
ならば真琴の僚機、未早の判断は早かった。
「‥‥ワイバーンは足が自慢ですからね。先に行って下さい――殿は私が!」
当然のように、最も危険な役目を引き受ける。
「ごめん‥‥頼ンだ、Holger!」
声を掛けて真琴機、ブースト。
体当たりするように剣翼でゴーレムを切り裂いて後方へ。
その背中を追撃しようとした敵を未早機が一機だけで牽制した。鳴り続けるレッドアラート。衝撃が度々コックピットを揺らす。
その中で未早は真琴機の撤退を――確認する。
同時に『J』エンブレムのワイバーンがWブースト。敵の砲撃を強引に振り切って撤退した。
A班は撤退。
残ったB班四機が迫る敵へ砲撃を浴びせ、それをものともしないワーム群が大挙して前進する。
「ここは絶対通さねぇ‥‥!」
接近するゴーレムを源治機が機杭で吹き飛ばしていく。全弾射出後、盾を構えて即座にリロード。闇に溶けるバイパーが再び戦場を翔ける。
既にスキルを出し惜しみする余裕は無い。スタビライザーで高速機動し、蒼志機は機体を発光させてドリルを薙ぎ、弦也機は剣を赤熱させて近付く敵を叩き斬る。
さらに幸香機のキャンセラーが敵の照準を鈍らせて、どうにか絶望的な状況を持ち堪えていた。
だが、傷付き疲れ果てる程に――敵の勢いはただ増していく。それは余りにも一方的な後退戦だった。
「これが‥‥最後の支援ですわっ!」
幸香機がヒートディフェンダーでRCの砲台を焼き切り、同時にキャンセラーを起動。
ダメージを負ったイビルアイズは火花を上げて、スキル稼動。しかし、同時に放たれたキメラの体当たりを受けて――機体は危険状態に陥った。
「こんなつまらない所で死ねませんもの、撤退しますわねっ‥‥!」
「了解だ、そっちの敵は引き受けてやろう」
幸香機の撤退を蒼志機が煙幕を撃ち込んで支援。機盾アイギスで敵を真正面から止め、幸香機の盾となる。
「そろそろ潮時か‥‥撤退の準備だ」
弦也機はRCの砲を剣で潰しながら、全機へ通達。幸香機が後方で空へと舞い上がるのと同時だった。
「鋼散りオイル流れようと‥‥人の血が流れるよりは良いってな。だから俺達は倒れはせんさ」
蒼色の蒼志機は今や月明かりの下で不気味に形を歪ませていた。Bicornエンブレムも砲撃に晒されて焦げ溶けている。
「とっととズラかるっすよ〜!」
煙幕を射出する源治機。黒いバイパーがギリギリまで弾幕を張る。
三機は全弾撃ち尽くすのと同時、ブーストでそのままワームの進路上から離脱した。
ワーム群はしばらくは追いかけたものの、途中から反転。進路上に戻って行軍を優先した。
上空へ舞い上がった三機は、時計に目をやる。無限のように思えた足止め時間は――たった七分間。
果たして間に合ったのか。一抹の不安を覚えながらアフリカ大陸を抜けて海へ。
先に撤退した各機を収容した空母の輝きに誘われるように――夜の闇を三機は降りていった。
全機帰投。
安堵と喜びを分かち合う各員へさらに遠距離通信が届く。
『‥β班、民間人‥救出成功‥。繰り返す――救出成功』
――甲板に盛大な歓声が上がったのは、言うまでも無かった。