タイトル:【NFrC】キャスパー奪還マスター:青井えう

シナリオ形態: シリーズ
難易度: 難しい
参加人数: 12 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/08/04 15:31

●オープニング本文


前回のリプレイを見る


「司令!」
 カリフォルニアの基地に移ったポボス大佐の元に、側近の一人が電報を持って駆け付ける。
「‥‥何があった?」
 不快げに眉をひそめるポボス大佐。騒々しさが気に食わなかったのだが、そもそもナトロナを離れてから機嫌の良かった事などは無かった。
 しかし、気にせず側近は話を続ける。
「キャスパーに設置されていたヴィルト中枢、傭兵達が破壊に成功しました!」
「何‥‥ッ!? やったのか!?」
「はい! やりましたっ、司令! すぐにでもお戻りになられては?」
 ヴィルトの調査が名目だったサンフランシスコへの司令部移動である。その破壊が成功した今、司令部がまたナトロナの戻るのは必然の流れだろう。
 だが、ポボスは腕を組んだまま黙り込んでいた。
「司令?」
「‥‥いや、戻るのは難しいだろう。つい先ほど情報が入ってきた。アルコヴァからキャスパーへ、ワームの援軍が向かっているそうだ」
「それは、ますます戻らなければならないのでは?」
「いや、司令部の脱出ならば簡単に敵も見逃してくれたのだろうが、再び入るとなると阻止されるに決まっておる」
 だから無理だ、と首を横に振るポボス大佐。いつになく消極的な態度だった。
 それから付け加えるように呟く。
「それに‥‥やはり無理なのだ」
「無理、とは‥‥」
 側近の瞳が忙しげに動く。
「レッドバードに勝てるわけが無い‥‥」
「‥‥‥‥」
 では、今戦っているナトロナの兵士達はどうなるのか――という無言の抗議は、彼には届かないようだった。
 ただ幾分か削げ落ちた横顔が、空虚に窓の外の曇り空を眺めている。
「少なくとも、ワシには――無理だ」
 ポツリ、と。
 今までにこの男からは聞いた事の無いような弱気な発言を放った。

 丘の上にはナトロナKV部隊のパイロット達。そして、この作戦に参加する傭兵達が控えていた。
「思えばあの都市が陥落した時から――俺達は多くのモノを失っていく事になった」
 イカロス隊副長、ライト・ブローウィンが声を上げる。今はもうここに居ない多くの人々を悼むように、まぶたを落としたままで。
 血の繋がった家族、かけがえの無い戦友、慕われていた上官が、余りにも呆気なくその命を散らしていった。
 キャスパー陥落からの永遠に似た旅路。
 絶望の中で喘ぐナトロナ軍は地獄の淵に在った。いや、まさにそこは地獄の渦中だったかもしれない。ただそこに――共に戦ってくれる仲間が居た、というだけの話で。
 ナトロナの伝説が死に絶え、先の見えない撤退行に疲れ果て、今にも崩れそうな身体を支えてくれたのはいつも、傭兵達だった。
 だからもう既に雇う正規軍と雇われる傭兵達、といった利害を超越した関係に変わっていたのだろう。
 ナトロナ軍が彼らに抱く感情は仲間としての信頼で。
 そして、敵に奪われてしまったナトロナの――新しい象徴だったのだ。
「次の戦いで――我々はキャスパーを奪還しますッ!」
 肩に片翼ワッペンを付けた軍服姿。イカロス隊隊長、ヒータ大尉が声高らかに宣言する。
 丘の下、ナトロナ軍の兵士達が拳を振り上げて歓声を上げた。
 悲願を叶えるために。
「力を‥‥貸してくれるッスよね。アロルド隊長」
 必ずや取り返すと誓約を果たすべく。
「よっしゃあ行くぞォーッ!! 今日は祭りだカスピッ!」
「ラジャーです! 今日は止めません――思う存分暴れましょう!!」
 全員が気炎を吐いて振り返る。
 遠くに霞むキャスパーを取り戻すため。
 古き伝説を打ち破り――――新しい伝説を打ち立てるために。

『これが貴様らに与える最後の手駒だ、レッドバード』
「感謝します」
 レッドバード隊長――マルケが綺麗な敬礼を見せる。
 モニタの向こう、遠くアルコヴァに座すその男は愉しげに唇を歪ませていた。もうすぐ開幕しようとしている劇を優雅に待っているようだった。
『では、健闘を祈ってやろう。後は無い――全力を尽くせ』
「了解しました」
 直立不動のまま、しかし表情には敬意も不快も無い。感情らしきものは一切出さないままに答える。
 そこまでの洗脳を施したわけでは無く、そんな必要も無い。元々これが彼の地なのだろう。何を考えているのか分からない所が。
 そんなマルケの様子に、アイアスはクックッと小さく喉を鳴らした。
「貴様の事は個人的に気に入っていたが。残念な事だ」
 アイアスが捨て台詞を残して通信を切った。まるで敗北を宣言するような不吉な言葉だった。
 しかし、マルケは意にも介さない様子で振り返る。
「ファス、グラック、スキピオ、出撃用意。援軍に来たワームとキメラも全て出す‥‥総力戦だ」
「「了解」」
 すぐに三人の斉唱が加わり、荒れ放題の司令室を出て行く。
 だがその中の一人――副長ファスだけが立ち止まり、マルケの方へ振り返った。
「隊長。我々は‥‥敗北するんでしょうか」
「分からない。俺達は最善を尽くすだけだ」
 当然のようにマルケが答える。何の迷いも無い言葉だった。
 ファスは少しだけ逡巡するように小さく俯き、また平素と変わらない表情で顔を上げた。
「最善を尽くして届かなかった時――このキャスパーは?」
「‥‥さあな」
 マルケが、割れた窓ガラスの向こうを見る。
 様々なワームが滑走路に集結し、出撃の合図を待ち焦がれているようだった。
「人間を見れば躊躇いなく引き金を引く。俺達はそう洗脳されている。だが――」
 目を閉じて一拍の間を置く。
「俺達の任務はナトロナにおいてバグア最大拠点であるキャスパーを守る事。届かなかった時の事など――考えるな」
 マルケの静かな叱咤を受けて、ファスは「‥‥了解」と呟いた。
 直後、その頭からは余計な事が全て消え去っている。
 ただ、全ての敵を迎撃・殲滅する事。
 至極単純な内容だった。
 だからキャスパーがどうなろうと関係は無い。もちろん、キャスパー基地の後ろにある――人間達がキメラの徘徊に怯えながら暮らしている都市部の事なども。
 バグアであり、ただの戦闘機械と化した彼らには――全くどうでも良い事だった。

「敵さんも打って出てきやがったぜ‥‥!!」
 クロウ隊のバルトが声を張り上げる。続いて、副長のカスピも声を上げた。
「レッドバード捕捉――空に四機!」
「ホークスアイ、偵察はもう良いんで後退どうぞッス!」
『了解――!!』
 前方を飛んでいた偵察部隊『ホークスアイ』が機首を翻す。しかし、その翼の下にはいつも持たないミサイルが搭載されている。
「皆さん! 敵は一体でも逃せば後方基地への脅威になります! また、キャスパーを占領後に戻って来られても迷惑です!」
 ヒータの声が全軍の通信回線に乗る。
「よって――目標は敵の全機撃破! 完全に叩きましょう!」
 ナトロナ軍から一斉に鬨の声が上がる。
 KV、戦闘機、戦車、歩兵の一人に至るまで。

 持てる力の全てを振るいキャスパーへ――駆け出していた。

●参加者一覧

水上・未早(ga0049
20歳・♀・JG
月影・透夜(ga1806
22歳・♂・AA
セラ・インフィールド(ga1889
23歳・♂・AA
山崎 健二(ga8182
26歳・♂・AA
風羽・シン(ga8190
28歳・♂・PN
赤宮 リア(ga9958
22歳・♀・JG
鹿嶋 悠(gb1333
24歳・♂・AA
依神 隼瀬(gb2747
20歳・♀・HG
蒼河 拓人(gb2873
16歳・♂・JG
鹿島 綾(gb4549
22歳・♀・AA
ルノア・アラバスター(gb5133
14歳・♀・JG
ゼンラー(gb8572
27歳・♂・ER

●リプレイ本文

●想いを剣に
「総力戦だ。基地とRBの魂、返してもらいに行くぞ」
「何としてでもキャスパーを奪還したい‥‥いえ、しなければなりませんね」
 ロッテを組む二機、月影・透夜(ga1806)と水上・未早(ga0049)の声が各員の耳に響く。
 それを先頭に全機は‥‥遥か前方で蠢く黒々とした群れを見据えていた。
「こちらの戦力と比べて凄い敵の数ですね、あちらも本気という事ですか。しかし‥‥負けるわけにはいきません!」
「ああ――絶対に勝つ。それ以外念頭に無い」
 空色と青色の片翼を付けたシュテルン二機、セラ・インフィールド(ga1889)と風羽・シン(ga8190)の機体が空を貫く。
 それを聞きながらクロウ隊長バルトが、口の端を吊り上げた。
「へっ‥‥なかなか良い言葉だぜ、カスピ?」
「ですね。それぐらいの気持ちで行きたいです」
 副長カスピも頷く。
「今度こそ決着付けなくちゃ。RB‥‥残念だけど、倒さなきゃね」
「いろいろと長かったが、幕引きだ。ここまで来て負けるワケにゃあ、いかねぇし、‥‥文字通り死ぬ気でやってやるぜ」
 依神 隼瀬(gb2747)と山崎 健二(ga8182)の声音は、決して明るく無い。
 しかしそれを聞きながら、タロー軍曹はそこに宿る決意を感じ取って。
「アロルド少佐‥‥どうか自分と、――彼らを見守ってて欲しいッス」
 祈るように、呟いた。

「‥‥これより私達は地上へ向かいます。皆さん、ご武運を」
 空に残る傭兵各機へ、ヒータが親指を立てた。
 軍KVに加えて、ルノア・アラバスター(gb5133)機とゼンラー(gb8572)機も高度を落とす。
 やがてその十機は着陸し、人型へ変形した。
「山場、だねぃ」
 黄金色の「Milestone」が、その集団の中で一際異彩を放って輝く。
 だが対照的にその機内は薄暗く、肉体美を極めたゼンラーが静かに手を合わせる。
「微力ながら力添えさせていただこう。そのために此処にいるのだから、ねぃ‥‥」
 ゼンラーは深い迷いを振り払い、赤く輝く瞳を見開いた。
「‥‥大丈夫か、ルノアさん」
 ふとライト・ブローウィン(gz0172)が、キャスパーを見上げる彼女に声を掛けた。
「はい、心配、ありません‥‥」
 彼女が憧れ、目指したはずのエース部隊レッドバードは――しかし頭上にあってナトロナ最大の敵と化している。
 それでも少女はたどたどしく強く、言葉を紡いだ。
「私は‥‥此処で、決着を、付け。キャスパーを、奪還――しますっ!」
 強い口調のそれは‥‥少女が、憧憬への訣別を宣言した瞬間だったのかもしれない。

「決戦に間に合ったのは何かの縁でしょうか‥ね。ここで決着を付けて――散っていった同胞達への手向けの花としましょう」
 遥か上空。鋼の片翼を付けた鹿嶋 悠(gb1333)機から少し寂しげな声を響かせる。
「‥‥行くよ。全てを終わらせ、新たな戦いを始めるために!!」
 高らかに言い放った蒼河 拓人(gb2873)の声は、どこまでも遠くへ。
 全機が編隊を組んでいく中で、燃える片翼を宿した真紅のアンジェリカと暁の片翼を付けた白のディアブロは先頭へ抜けた。
「敵は目前だ。心と機体の準備は良いか、リア?」
「はい、綾姉さま。‥‥ナトロナの未来の為に絶対に負けられません。必ず今回で終わらせます!」
 固い絆で結ばれた二人、鹿島 綾(gb4549)と赤宮 リア(ga9958)が言葉を交わす。そして熱のこもる瞳を眼前へ。
 キャスパーから湧き出す悪魔の群れ。
 そして、その悪魔の先頭を駆るのは間違い無く――。
『さあ‥‥伝説に挑む覚悟はできたか? ――片翼』

 ――――レッドバード。


●決意と覚悟
「‥レッドバード! かつての英雄とはいえ、バグアに加担する者に容赦は致しません‥‥覚悟っ!!」
 リア機が翼を翻し、数キロの距離を埋めていく。
 その隣に並ぶ綾機も、真っ直ぐに赤いS−01Hを見据えていた。
「ケリを付けよう、レッドバード。その伝説はもう――不用だ!」
『‥ヒューッ、言ってくれるねぇっ‥‥!』
 赤い四番機スキピオが通信に割り込み、殺気の篭もる軽口を叩く。
 同時、敵ワーム群後方でCW達が一斉に青い輝きを放った。
「あの布陣‥‥やはり相手がCWを要としてるのが一目瞭然ですね」
「だがこの距離で普通に飛べる。ヴィルトほどじゃない」
 リアと綾ロッテに並ぶ、二機のロッテ。
 静かに敵を分析する未早と、その脅威度は軽減したと見る透夜。
 この一戦におけるCWの重要度は高い。その影響下で戦闘するのは自殺行為に等しい。
 だからこそ先陣を切って。
「テーバイ起動‥‥。Holger、ガンレンジ突入します!」
「了解だ、行くぞ。死角をカバーする!」
「――遅れるなよ、リア!」
「はい、綾姉さま!」
 眼前のレッドバードへ、――吶喊した。
 四機が放つ弾幕の雨を、レッドバードは簡単にかわしていく。
『ひどい攻撃ね』
 ファスが切り捨てる。二十体ものCWの影響下で、無惨なほど照準は粗かった。
『は‥避けるのも面倒だな』
 三番手グラックはリア機の砲撃にあえて被弾する。それでも、全くの無傷。
 だが傭兵四機はその状況にもめげず。
 ――代わり、後方に控えていた六機が加速した。

「よっしゃ行こうぜ! さっさとCWどもをぶっ潰さなきゃな!!」
 暗灰の片翼を付けた健二機が、CW影響範囲外からアハト・アハトの一撃を撃ち放つ。
 空を奔る閃光。HW群の間をすり抜けた光条がCWに直撃し、大きく溶解させた。
『やはりバカでは無いか。CW狙い‥‥想定の範囲内だがな』
 RB一番機マルケがコンソールを叩く、と同時。
 俄かにHW群が六機へと動き出した。
 一斉に放つ紅と紫の激しい弾幕。さらに加えて――。
「うわ! 下からも来たしっ!」
 空へ噴き上がる地上ワームの対空砲火を、スキルを発動した隼瀬機が辛うじて避ける。
 だが二方向からの弾幕を各機は避けきれず、次々に被弾していった。
「ちぃ‥‥大した事ねぇ!」
 PRMで抵抗を強化、シン機が耐える。
 だが健二機、悠機、セラ機、拓人機は直撃。装甲が焼き削られた。
 それでも留まる事なく対空砲火がまた噴き上がり――。
 ふいに――CWの一体を爆散させた。

「ブレスノウ、起動! CWを、撃ち、落します‥!」
「空のみんな、待たせたねぃ! 支援させてもらうよぅ!」
 荒野に立つ真紅と黄金の二機、ルノア機『Rote Empress』とゼンラー機『Milestone』が苛烈な対空砲火を展開していた。
 そのすぐ側を――風を切って火線が通り過ぎていく。
「皆さん、姿勢を低く! 敵から狙撃を受けています!」
 ヒータが必死にD−02で反撃するが多勢に無勢。
「っ‥‥俺達は遠距離兵装無いッスもんね」
「前進しましょうよ隊長!」
「だな、行くぞ‥‥!」
 クロウ隊各機は立ち上がり、散開しながら走り出した。
 それを援護するようにゼンラー機とルノア機も砲を水平に向け、弾幕を敵陣へ浴びせかける。
「‥さて、始めなきゃだねぃ。皆! 頑張ろうねぃ!」
 キラリと輝く機体の中。
 軍人達を生きて帰すと決意したゼンラーの笑顔もまた、輝く。
「此処で、私達が‥‥伝説に、終止符、を!」
 また別の決意を秘めたルノアの声。
 深紅の機体はただ銃を手に――ワームの群れへ直進した。

●炎に包まれる海
 対空砲撃によりCW三体を撃破。
 さらに地上戦闘の激化で、傭兵達への対空砲火は消えつつあった。
「K−02ミサイル、ロックオン‥‥発射します!」
 その好機にセラ機が最大のカードを切る。
 シュテルンから迸る大量の小型ミサイル。それを受けて、HW達は攻撃を止めて回避機動を取る。
 だがそれこそが――狙いだった。
「どきやがれ亀虫野郎共ォッ!!」
 即座にシン機『WF−01』とセラ機『ミモザ』はブーストをかけてHWの群れに突破をかける。
「そこを通して貰いましょうかっ!」
 さらにアクチュエータ起動の悠機『帝虎』が、螺旋ミサイルの連射で強引に立ち塞がるHWをどかせた。
 その隙間をシン機とセラ機、そして――Oブーストを掛けた拓人機『BARRAGE』が通り抜ける。
 そこに広がるのは、青いCWの海。
 敵を深奥に到達させてしまったHW達は一斉に反転し、激しい光条の渦を巻き起こす。
 だがそれが逆に――健二機『Baalzephon』と隼瀬機『天鳥』ロッテを後方へ突破させる原因となった。
「大チャンスだッ! いっくぜ!」
 二機はCWの海へ飛び込みざま砲撃を放つ。
 しかしその知覚攻撃は――CWの影響で完全に無効化された。
「そんな‥‥こんなに酷いなんて――!」
 隼瀬が色を失う。SES知覚特化の『天鳥』には絶望的な状況。
 攻撃の手段が、無かった。
「‥気にすんなって隼瀬ちゃん! やれる事をやりゃあ良い!」
 だがそんな彼女へ、健二が力強く声を掛ける。
 ‥やれる事。
 辛うじて思いついた事に賭けて、――隼瀬はMブーストのボタンを押し込んだ。

『Kミサイルを止めろ‥‥。あの二機だ!』
『『了解!』』
 機体からコンテナがせり出したKV二機。マルケはそれを見逃さず、各機へと指示を出す。
 その通信は届かなかったものの、四機に喰らい付く傭兵達はその挙動から相手の意図を悟った。
「っ、目の前の敵を無視するのですか!」
『元々‥眼中に無い』
 グラック機は完全にリア機を無視し、その砲撃にも構わず被弾する。
『ハハッ、お姉さん怖いな〜☆』
「くっ、ちょこまかとッ!」
 翼を振って自由に機動するスキピオ機に、ただ翻弄される綾機。
『俺達を止められると、本当に思っているのか?』
 マルケ機が鋭い翼を翻して未早機と透夜機を一挙動で切り裂く。
 衝撃に空中で傾ぐ二機。それを持ち直して未早機と透夜機は砲口を持ち上げる。
「きっと‥私達が止めなきゃいけないんですよ」
「ああ――。それがどんなに無茶でもな!」
 二機が向ける砲はマルケ機にではなく、その後方。
 フリーになったファス機へと――トリガーを絞った。
「控えろ傭兵風情が。ここは‥‥私達の空よ」
 だが全ての弾幕をかわして、ファス機のD−02が火を噴く。絶妙なタイミングで放たれた銃弾は――セラ機の尾翼を吹き飛ばしていた。
「っ――!?」
 同時にK−02を発射したセラ機は、しかしCWのロックが二つ外れる。
 だがそれでも、PRM最大練力を込めて照準したミサイルは――残り三体へ直撃した。
 一体が炎に包まれ落下。残り二体もシン機が即座に追撃を掛けて落としていく。
 さらに別方向、拓人機もK−02でCWをロックオン。
 だがその発射態勢を崩すべく、グラック機とスキピオ機が砲声を響かせていた。
「く、外してたまるか‥‥!」
 被弾しながら、Oブーストで強引に姿勢を安定させようともがく拓人機。だが、さらなる砲撃がRB二機から放たれ――。
 その火線を、濃紺の雷電が遮った。
「う‥さすがに、効きますね‥‥ッ」
 悲鳴のような被弾警報を無視して、RB四機の集中砲火に悠機は被弾する。
 さすがに揺らいだその――陰で。
「助かったよ‥‥。おかげで照準ができたッ!」
 拓人が、スイッチを押し込んでいた。
 CWの海へ迸った五百発の弾頭が、空を業火で染める。
「よし! だいぶマシになってきたな‥‥!」
 剣翼を翻してCWの群れに切り込む健二機。
 そこへHWが襲い掛かってくるのを――代わりに吶喊して迎撃する『フリ』をする隼瀬機。
「‥CWも脆いとは言え、こうも数が多いと処理するのも一苦労ですね‥‥」
 悠が苦笑しながら、穴だらけの機体を立て直した。
「さあ、これからが本番だ。気張って行くぞ!」
 拓人が鼓舞の声を上げて操縦桿を握る。
 残るCWは、半分以下になっていた。

●戦いの激化
『ちっ、急に元気になってきやがった‥‥』
『うわ! そろそろ、危ないんだけどッ!』
 グラックとスキピオが、リア&綾ロッテと交戦しながらボヤく。
 傭兵各機が本来の動きを取り戻し始めている。特に彼女達二機は阿吽の呼吸だった。
『く、こんな事なら先にこっちを落としておけば‥‥』
 ファスが憎々しげ呟き、透夜&未早ロッテから受けた被弾に舌打ちする。
『今から――落とせば良い。仕掛けるぞ』
 マルケが落ち着いた声で言い放つ。
 同時、RB四機の機動の雰囲気が微かに変わった。
「――約200フィート上、貴機二時方向からRB三、四番機が接近!」
「こちら透夜、了解だHolger。綾、リア、フォロー頼む!」
「了解だ‥‥注意しろよリア!」
「はい、ジャミングさえ無くなれば‥! 熾天姫の本領発揮はここからですっ!!」
 激しい交戦下、俄かに増加する通信量。
 傭兵達が以前の経験から、RB機動の異変を感じ取っていた。
『あれー‥‥? なんかバレてない? かな?』
『‥‥だからどうした』
『例えバレていても、対応できるはずが無いわ。‥‥ですよね、隊長?』
『‥‥そうだ』
 マルケが頷き、一つ息を吐いた。
『呼吸を合わせろ‥‥全員、行くぞ!』
 合図。それと共に一斉に急旋回する赤い四機。各機は目前の敵を無視し、それぞれが同タイミングで別の標的を向く。
 RB隊の誇る連携攻撃。
「『アレ』が来ます――ッ!」
 未早の叫びと同時、綾機はブースト発動。
「同じ手を、‥‥そう何度も食らうか!」
 自機を狙うファス機へ高速で旋回、螺旋ミサイルの射界に収める。
 さらに未早機、透夜機、リア機も思い思いの方向へ素早く散開しつつ――眼前の敵へとトリガーを引き絞った。
 空に重なる、砲声。
 綾機とマルケ機以外の全機が被弾する。
 結果は――痛み分け。
『‥‥なん、だと?』
 だがその結果は。
 RB隊の誇る連携が、破られた事を意味していた。

 機体へ走る衝撃。
 RCが、ルノア機の肩に横から喰らい付く。
「っ‥」
 ルノア機はライフルを相手の口内に突っ込み、引き金を引く。恐竜は血飛沫を上げて吹き飛んだ。
 見渡せば、そこかしこで繰り広げられる激戦。だが旗色は確実にKV側へ変わりつつある。
「皆さん‥‥すみません、後は、お任せ、しても‥‥?」
「ああ、十分に助かったよルノアさん! ‥‥上に行ってやってくれ!」
 即座にライトが答え、離陸援護の煙幕を射出する。
 さらにタロー機とゼンラー機が側に寄り、ルノア機の護りに付いた。
「よっし。気を付けていって来てねぃ! ‥因縁、ちゃんとケリをつけられるよう、ゼンラの神様に祈っているよぅ!」
 ゼンラーが豪快にルノア機の背中に声を掛ける。
「はい‥行って、きます」
 ルノア機は変形。
 加速して、――空へ舞い上がっていく。
 だがそれを最後まで見届ける間も無く、二機に光条が降り注いだ。
 ゆっくりと近付いてくるRC二体とTW。
 ゼンラー機はそちらへ向き直り、ルノア機の穴を埋めるべく。
「‥えっと、このボタンだったっけねぃ」
 二基のアテナイ、起動。
 高速二輪モードへ変形。
 少し胸に走る痛みを無視して――駆け出した。
 直後にアテナイが反応し、二体のRCへ弾丸をばら撒く。
 だが本体であるMilestoneはその二体の間を抜け、後衛に控える巨体。
 TWへ。
「一瞬で‥‥眠らせてあげるからねぃ!」
 時速600kmを超える最高速のキャバリーチャージ、相手と激突する勢いでゼンラー機が機剣を甲羅に突き入れる。
 激しい火花が噴き上がり、TWの固い装甲が血肉と共に抉れ飛んだ。
 悲鳴を上げるTWへ、間髪おかず傷口へ向けるマルコキアスの砲口。
 直後、八百発の弾丸が巨体に叩き込まれ――TW内部をズタズタに切り裂いた。
「やったっ! さきがけがTW撃破、‥‥このまま押し切るぞ!!」
 陥落するTWの巨体。それを見て軍人達の士気は否応無く上がった。

●収斂する終局
『さあ、今こそ魂に新たな火を灯す準備を整えろ‥‥。全軍、キャスパーを包囲するんだ!』
 後方の陸空軍に響き渡る通信。ホークスアイを介して伝達された拓人の声が、ナトロナ全軍へと届く。
 その声に押されるように、小中キメラと交戦する一般兵器部隊は前進を始めた。
「行くぞ、俺達の都市を取り返すんだ――!!」
「続け! 傭兵達に――いや、片翼の騎士達に!」
 怒声に近い歓声。
 熱を帯びた兵士達が血と硝煙を掻き分けて、走り出す。
 ――荒野に響く鬨の声は、一斉にキャスパーへ行軍を開始した。

 HWが銃撃を受け、炎塊と化して地上へ落ちていく。
 いまやCWは完全に掃討され、傭兵達の障害は無くなっていた。
「粗方片付いたか‥‥俺達は対RB班へ援護に向かう!」
「ルノアさんも上がって来たようですしね‥ッ」
 シン&セラ機ロッテがHWを撃墜し、各機に通達した。
 現状でHW四体、中型二体。戦力の均衡は崩れ出している。
 その二機と入れ替わるように、ルノア機が空に舞い上がり――悠機の近くに翼を並べた。
「さぁ、我慢の時間は終わりだ。――深紅の翼と鋼の翼の競演と洒落込みますか!」
 二つの片翼を並べ、悠機とルノア機は中型HWへブースト吶喊した。
 迎撃の紫の砲撃を散開して避け、ルノア機がスキル起動。苛烈な弾幕を放って敵を自機に引き付ける。
 中型の意識が完全にそちらへ向いた瞬間。
 死角に回り込んだ悠機がAAM残弾全てを――敵へ撃ち込んだ。
 爆音。
 三発目のAAMが中型HWの内部機関を食い破り、――その機能を完全停止させた。
「順調に減って来たなっ!」
 暗灰の片翼を振るう健二機がHW二体を相手取り、スキル併用のレーザーガトリングを撒き散らす。
 命中、焼け焦げるHW二体。
 そこへ、真珠の片翼を付けた隼瀬機が飛来――高分子レーザーで両方を寸断した。
「よし、‥‥残りちょっとだよ!」
 残HWは中型合わせて三体。
 そしてその中型へは――拓人機が吶喊を仕掛けていた。
 剣翼と光翼の二つを煌めかせて懐へ潜る。中型HWの図体を切り裂き、フェザー砲の反撃が来ると一度距離を取って弾幕で応戦。
 黒煙を上げて傾ぐ中型HW。だが拓人機も同じくらい、激しい損傷を受けている。
「まだだ、もう少し‥‥耐えるんだBARRAGE!」
 愛機に声を掛け、拓人はOブーストを起動。敵を仕留めに掛かる。
 だが中型HWも慣性制御を限界稼動、赤い輝きを発してプロトン砲口を振り――。
 一際巨大な光柱を、フェニックスに直撃させた。
「‥‥ぐッ!! こんのぉおおッ!!!」
 全身に燃えるような熱を感じながら、拓人が限界を超えた機体を駆る。フェニックスが応えて、加速。
 隠者の片翼を付けたその光翼を――中型へ薙ぎ払った。
 胴部を大きく切り裂く一撃。HWの内部機関が爆炎を噴き上げ――拓人機の翼も折れる。
 火だるまになった中型HWが落ち――、フェニックスも地上へ吸い込まれて行った。

「粗方片付いてきたよぅ‥‥! みんな無事かねぃ!?」
 ゼンラー機がゴーレムの首を刎ねながら、軍KV各機へと声を掛ける。
「ウチの四、六番機が大破したが、死んじゃいねぇ!」
「私達も大丈夫、なんとか持ってますっ!」
 バルト中尉、そしてヒータ大尉が続けて応える。
 地上ワームはもう僅か。制圧は時間の問題だった。
 だがそこに累々と広がる死骸の山に一瞬眉をひそめて、ゼンラーは機体を駆る。
「後で手厚く、供養してやるからねぃ‥‥!」
 せめてもの情けを動機に、まだ動くゴーレムへ引き金を絞っていく。
 その頭上、空からは――ちょうど最後のHWが落ちてきた所だった。

『クッ、敵の増援が‥‥まずいって!』
『落ち着け、スキピオ。全部落ちかけだ‥!』
 そう言い放ったグラックに、ふいに激しい被弾警告が鳴り響く。
『ちぃ、小賢しい女だ‥‥』
「‥あら、眼中に無いのではなかったのですか?」
 エンハンサーを起動して苛烈な知覚攻撃を放つ『熾天姫』。
 そしてそんな言葉を吐き始めたグラックに、リアは好機を見て取った。
「綾姉さま、そろそろ頃合ですね‥‥」
「そのようだな‥‥。行くぞリア、決めろ!」
 スキピオ機を抑えていた綾機が、ふいに山吹色の機首をグラック機へ向ける。
 直後、嵐のように叩き込む弾幕。Sライフル、エニセイ、そして極め付けのM−12粒子砲。
『ぐっ‥‥!』
 幾つかの銃撃に被弾しながらも、粒子砲だけは無理矢理にでもでかわすグラック。
 だが、その先に。
 全スキル・ブースト発動したリア機が、待ち構えていた。
「――受けなさいっ! 炎翼乱舞ッ!!」
 燃え盛る片翼章を付けた光翼、それをグラックが目視した瞬間――衝撃は三度に渡り機体を走った。
 リア機の高速ターンによる幾度の斬撃。それが――グラック機を無造作に寸断していく。
「最後にもう一度だけ聞きます‥‥。
 貴方達は私達の知るナトロナの英雄、レッドバード隊では無いのですか!?」
『くっ‥‥今この時、俺達は‥敵同士だ‥。他に‥‥どんな答えがある‥!』
 言い放った直後、グラック機風防へ――十六式弾頭が突き刺さった。
 その後ろには‥曙の片翼を付けた白き雀。
「その名に恥じない強さだったよ‥。出来れば、横に並んで飛びたかった――!」
 綾機の銃弾を浴びた赤いS−01Hが、木っ端微塵に――爆砕した。
『‥‥グラック、グラァアアック!! この、畜生ぉッ!』
 スキピオ機は二機へ向き直る。
 だがふいに、――その背中へ激しい砲火が走った。

 鋼の片翼を持った紺の騎士が、片翼の赤き女王を先導して空を翔ける。
 眼前には――レッドバードの四番機、スキピオ。
『墜ちるわけが無い‥‥。僕達は、ナトロナの不死鳥なんだ!』
 ブレスノウを起動したスキピオ機がレーザー砲撃をその二機へと浴びせる。
「くっ‥‥全力でお相手しましょう!」
 悠機がスキルとブーストを発動してその四番機と激突。
「レッド、バード‥‥」
 だがその後ろで、ルノアは僅かな迷いを生じさせていた。
 いざ相対すれば胸に走る――痛み。
『墜ちるのはお前達だ、‥‥イカロスッ!!』
 そんなルノア機へ、ブーストを掛けたスキピオ機は容赦無く突進する。
「ルノアさん‥‥!」
 しかし。ふいに悠機『帝虎』が間へ割り込んだ。
 それがスキピオ機の光翼を受け止めて、――崩れ落ちていく。
 目を見開くルノア。
 次の瞬間、彼女は操縦桿を――押し倒していた。
「散り、なさい‥‥凶鳥!!」
『くぁあ――!?』
 呻くようなスキピオの断末魔。
 直後にルノア機の剣翼が奔り、赤いS−01Hを――真っ二つに両断していた。

『隊長、三番機と四番機が‥‥く――っ!』
 ファス機へ降り注ぐ弾丸。その頭上に未早機と透夜機が舞い飛んでいた。
「未早‥‥仕掛けるから頼んだ」
「了解ですっ」
 二機は散開。透夜機がブースト吶喊しながら次々と兵装を変えて攻撃する。‥だがそれは以前の戦闘で見せた手。
 二度目を受けるファス機の対応は、早かった。
 ブースト発動。
 ロールしながら多彩な弾幕、剣翼を避ける。そして透夜機が放つ切り札、KA−01砲をもかわした。
『二度も同じ攻撃は受けないわ‥‥ッ!』
 逆に砲を突きつけてファスが叫ぶ。
 だが透夜は、ポツリと呟いた。
「同じ手‥‥じゃないのさ」
 直後。
 眼下から高速で飛来したワイバーンが、AAEMを連射する。
『くっ――!?』
 態勢を崩しながらそれをかわしたファス機の眼前に――再びKA−01の砲口。
「ここがお前達の墓場だ。イカロスの鋼鉄の翼は‥‥RBの炎程度で折れはしないッ!」
 透夜の叫びと、大口径砲の砲声が重なる。
 ファス機に風穴が空き、機体全体がひしゃげて歪む。
 そこへ、さらに大洋の片翼を付けた未早機が吶喊した。
「翼を広げる場所が欲しいと‥‥その思いは同じでも。こんな鉄と黒煙だらけの狭い場所より、どこまでも広くて高い場所が欲しいんですよ」
『そんな、モノは――』
 ファスが、呻く。
 ‥それは今のレッドバードには無く、彼ら傭兵達にこそ姿を見せ始めている――広く自由な空。
 お互いの表情が分かるほどの至近距離で、未早はどこか哀しげに微笑した。
「――欲張りなんです、私」
 操縦桿を倒す。
 ワイバーンの煌めく剣翼が空を切り――ファス機の赤い主翼を両断した。

『グラック。スキピオ。ファス‥‥』
 空に浮かぶバグアのただ一機。赤い一番機が、淡々と三機の名を呼んだ。
 やがてその眼前にも飛来する四機のKV。シン機、セラ機、健二機、隼瀬機。
「よぉ隊長さん。もう良いだろう? オレ達がバグアからこの地を取り戻す。そしてオレ達が、誰かさん達の代わりにキャスパーを守っていってやる‥‥」
 淡々と言葉を放つ健二。
 その四機の標的はただ一機、‥‥RB隊一番機。
「だからそろそろ、――ケリをつけようぜ!!」
『良いだろう、来い‥‥。イカロスの片翼どもォッ!!』
 マルケが吼え、同時に相対する四機が弾幕を張る。
 だがそれを慣性制御とブーストで掻き分けて、マルケ機はAAEMをばら撒いた。
 空に上がる青白い爆炎。だが片翼の騎士達も攻撃の手を緩める事無く、圧倒的な火力をマルケ機に注ぎ続けた。
「もう貴方以外には残っていない‥‥無駄な足掻きですよ!」
『それがどうした‥‥まだ俺は空に居るぞ!』
 セラの言葉を蹴りつけ、マルケがライフルを連射する。
 だが苛烈な攻勢に出るマルケ機へ、粒子砲の一撃が落ちた。
「どんなに抵抗しても、キャスパーは絶対に取り返すよ。逃がす事も出来無い‥‥」
 真珠の片翼を付けた隼瀬機『天鳥』、そのアクセサリスロットを埋め尽くすのはSES増幅装置。
 それは、全てこの都市を取り返すために。この時の、――ために。
「だから‥‥ッ!」
『チィッ、鬱陶しい!!』
 機銃を撃ち放ち、マルケ機が隼瀬機の鋭い吶喊を避ける。
 だがその頭上へ、暗灰の片翼を付けた『Baalzephon』がダイブした。
「乾坤一擲! 閃光雷撃!! かわせるモンなら――かわしてみやがれッ!」
 健二が完璧に捉えるM−12の照準。
 だがそれでも彼は、こちらを見上げるマルケの顔を見て――そこへ撃ち込むのを嫌だなぁと感じてしまったのだった。
 空に突き立つ光柱。だがそれは微かに照準が逸れて。
 ‥‥マルケ機を空に残していた。
『何の、つもりだ‥‥ッ!?』
 憤怒の表情でマルケが怒鳴り、剣翼をその相手へと振るう。
 健二は明確に答える言葉も無いまま苦笑だけ残して――自機が両断される衝撃を、その身に受け止めた。
 だがそこから戸惑うように機動が粗くなったマルケ機を、シン機は見逃さずにブーストで吶喊する。
「あんたの嘗ての仲間は誰も居ない‥‥」
 振り返ろうとするマルケ機を、他の二機の砲撃が妨害する。
 ようやく向き直った時には‥‥もうその距離は目と鼻の先――。
 PRMを注ぎ込んだシン機の、翼の届く距離。
「本来のキャスパーを護る事を放棄した時点で、――もうRBの存在意義は無くなってたんだよっ!!」
 全てを断ち切る言葉と共に。

 青い翼は、――赤い機体を切り裂いた。

『っ――終わりか。‥‥‥イカロス』
 翼が折れ、飛ぶ力を失って地上へと落ちていく。
『ナト‥ロナと‥大佐を――――』
 赤い鳥は炎と化して、キャスパーへ還っていった――。

●消え行く伝説
 ‥‥キャスパー基地へ入った全軍が見たのは、激しい戦闘の傷痕。
 その滑走路の真ん中で、軍KV達は一箇所に集まっている。
 そこには落ちた赤い四機の残骸が、――ただ静かに横たわっていた。

●奪還の果てに
 戦闘終了後、ナトロナ全軍はキャスパーを奪還した。
 その基地ではRB隊の残り三機と思われる残骸も発見され、その損傷具合からパイロットは人の原型を留めないほどダメージを受けていたと思われる。

 そして今、基地滑走路上では大掛かりな追悼式が行われていた。
 透夜機の提案の元、KVによる儀杖砲火を空へ撃ち放つ。
 そして式の間中、ただ低くゼンラーの読経の声が響き渡る。
 ‥‥だがそれも終盤になった頃、ふいにKVに守られた一機の飛行機――ナトロナ司令専用機が滑走路に降り立った。
「そんな、バカな‥‥。勝ったのか、レッドバードに‥‥?」
 呆然とした放心状態で、フラフラとタラップを降りてくるのはポボス大佐。
 そこへ荒々しくシンが歩み寄った。
「この野郎‥‥、お前のせいで――!!」
 激情に任せて思わず振り上げた腕は――しかし、ライトに掴まれた。
「‥‥チッ。くそッ!」
 タイミングを逃し、怒りの行き場を失ったシンは舌打ちをして歩み去っていく。
 その背中を見つめながら、ライトはポツリと呟く。
「‥‥司令。レッドバードを殲滅、キャスパーは奪還しました」
「そうか‥‥」
「それと。‥‥マルケ大尉の操縦席から、‥これが」
「――ッ!」
 ライトが差し出したのは、一枚の写真。
 レッドバードとポボス大佐が誇らしげに並んで写っている、写真だった。
「そう、か――」
 その写真を受け取ると同時。
 ポボスは地面に膝を付き――声を上げて泣いた。

●勝利が明けて
「ではまた。無事にキャスパーを奪還できて一安心です」
 後日。傭兵達は帰還する為、軍人達に別れを告げる。
「ええ、本当に助かりました」
 未早の言葉に頷き、ヒータは深々と頭を下げる。
「つつ‥‥、んじゃ次はキングにチェックメイトだな」
「まずは‥傷を治さないとだけどね」
 包帯でグルグル巻きにされた健二と拓人が、苦笑しつつ立っていた。
「悠、ちゃん‥大丈夫?」
「はぁ何とか‥‥格好は付きませんが」
 妹的存在のルノアに心配され、包帯だらけの悠は小さな溜め息を吐く。
「でもまだ私達は緒戦に勝利しただけ‥ここからが本番です。気を抜かずに行きましょう」
 セラが軍人達に言葉を掛ける。
 そう、ここはまだ通過点なのだ。
「‥‥っても、今回はこれで帰るよ♪ んーさすがに疲れたー」
「みんな元気でねぃ。ゼンラの神様への信仰を忘れちゃ駄目だよぅ」
 隼瀬とゼンラーが手を振って歩き出す。
 傭兵達は名残惜しそうに、ゆっくりとLH行きの高速艇へ乗り込んでいく。
 最後にリアが、ライトとヒータへ振り返る。
「ナトロナは、これからもきっと大変だと思います。いつでも呼んで下さいね♪ 燃える片翼章を付けて飛んで来ますから――!」
 輝く笑顔を浮かべて、手を振る。
 同時に高速艇が発進した。
「ああ! よろしく頼むっ!」
「皆さん、ありがとうございました!!」
 遠ざかる機体へ向けて、二人は大きく手を振る。
 そう遠くない未来に始まるだろう、ナトロナ解放への戦い。

 きっとその空で――翼を並べられる事を願って。

NFNo.028