●オープニング本文
前回のリプレイを見る「ぐはは、順調に進んでおるなっ! このままキャスパーを取り返してやるわ!」
幕僚テントの中で、ポボス大佐の上機嫌な笑い声が響き渡る。
キャスパーより20km離れた丘の裏に設置された野営陣地。キャスパー奪還に向けてこの橋頭堡を確保した事で、都市への迅速な対応が可能になっていた。
移動型レーダーによって周辺に敵が居ない事を確認。
ある程度のキメラと少数ワームを迎撃できる準備を陣地に整えた司令部は、次にキャスパーの詳細な偵察プランを計画した。
偵察に赴くのは、ナトロナ軍KV部隊の全機。
イカロス隊とクロウ隊である。
危険な任務の為に最初は傭兵部隊の投入が考慮されていたが、都市陥落前と陥落後の差異に気付くためキャスパーに馴染みのあるナトロナ正規軍が採用されたのだ。
傭兵部隊は万が一の即応部隊としてパウターリバー基地で待機。
野営陣地から30kmはあるが、仮にこちらが襲撃されてもKV部隊が帰って来るだけの時間は稼げるだろうとの措置だった。
『イカロス隊、クロウ隊。キャスパーは大規模な改修が行われてバグア基地となっていると予想される。気をつけろよ‥‥生きて帰って来い』
「イカロス2、了解。‥‥大尉、お聞きの通りです。落ちないで下さいよ」
「誰に言ってるんですか‥分かってます。イカロスの翼はどちらが欠けても飛べませんからね」
イカロス隊。副長ライト機のバイパーと、隊長ヒータ機のシュテルンが空へ舞い上がる。
その後方から、少し憮然としたハヤブサ機が進み出た。
「‥‥チッ。おい、カスピよぉ。俺達もイチャイチャしようぜ」
「嫌です。隊長とは死んでもお断りします」
クロウ隊。そこではイカロス隊と対照的に、隊長バルトと副長カスピが殺伐とした空気を纏って空へ上がる。ある意味でそれは任務前に相応しい雰囲気だった。
とはいえ、同隊のタロー軍曹は即座に仲裁役に入る。
「何やってんスか‥‥。仲良くいきましょーよ、今から危険な任務なんッスから」
自機の阿修羅を駆りながら溜め息を吐くタロー。同班三機の他のKVパイロットにも同意を求めて、どうにか二人に休戦協定を結ばせる。
こうして軽口を叩きながらも、両隊八機のKVは敵の巣――キャスパーへ進路を取る。
偵察とはいえ、下手をすれば帰って来れないかもしれない。
『‥‥全機、幸運を祈る。意地でも落とされるなよ』
地上からの通信に翼を振り、八機は飛行機雲を曳いて飛び去った。
「目標との距離3000。俺達が偵察を行う2000の距離はかなりグレーの、キャスパー予想迎撃ライン手前だ。各機、準備は良いか?」
「「了解」」
「イカロス隊、了解」
全機の緊張感が一斉に増す。
こちらは本格的な攻撃が目的ではないとは言え、敵からすればそんな区別は無い。KVが八機も姿を見せれば敵は警戒し、迎撃行動に移るだろう。
敵との本格的な交戦を避けつつ、都市の‥‥特にバグア基地に改修されているであろう元人類側基地を入念に偵察する。
その基地は不気味なほど変わっていなかった。
ナトロナ軍が駐在していた時の面影はそのままに、ただ荒廃した印象だけを与える。崩れ落ちた格納庫の下から、割れた滑走路が痛々しさだけを伝えていた。
一応の目標地点にはまだ余裕がある。KV八機はもっと前進し、基地の詳細な外観に目を凝らしていく。
だが――異変は予想よりも早く起こった。
「ジャミングッ! 電子機器に異常!?」
「‥‥CWか!? だが姿が見えない‥‥ッ!」
突如、八機のKVの機動が揺らぐ。
レーダーの画面は水をぶちまけたように放射状にノイズが広がる。さらに、激しい雑音が入り通信も取りづらいほどの強烈なジャミングと――特有の不快感。
明らかにCWのジャミング。
だが――その姿がどこにも見えない。
「くそ、一体どうなってやがる!!」
「キャスパーより浮上するワーム群を視認! HW、8!」
急速浮上してくるHW部隊。この状況で交戦すれば――かなり危険だった。
「あれは‥‥何だ!?」
ふとライトが異変に気付き叫ぶ。
基地の荒れ果てた広い滑走路上。しかし、そこに点々と――何か地面から頭を出していた。
青白い輝き。キューブワームと思わしき物体が何かの装置に接続され、今まで見たことも無いほどに光りを発している。
「この怪電波の原因か‥‥あんなに遠くから‥‥?」
「良いから少尉、早く撤退を!!」
「また――何か来るッスよ!!」
緊迫した通信。格納庫エリアの一部地面が割れ、キャスパーの地下からせり上がって来る機体――。
赤い、四機のS−01H。
通信網の緊迫した声が一斉に止んだ。聞こえるのは耳障りなノイズだけ。
KV部隊の誰もが自分の眼を疑い、絶句していた。
いや、その中にポツリと。
『――久しぶりだな、クロウ隊。そして、――イカロス』
人を突き放すように刺々しく冷たい、懐かしい声。
『‥‥三番機、起動。また‥帰ってきたな』
『起動終了ー。うっわー久しぶりだよー』
『全機異常無し。隊長、準備OKです』
通信に次々に入る声。
それは紛れも無く――。
『――レッドバード隊、出撃』
その声に合わせて赤い四機が一斉に浮上し、空を駆る。
眼前のKV部隊を置き去りにして――後方のナトロナ軍本陣へ。
「なん‥だと‥‥」
「‥‥っ! 全機、HWとの交戦距離! 急いで振り切れ‥‥本陣に引き返すぞ!!」
「‥‥りょっ、了解ッス!」
ライトの叫びに、全機が俄かに正気に戻って動き出した――。
「キャスパー方向より正体不明機、4! 敵ワームだと思われます!」
「チッ、きおったか! 対空部隊配置に着け! 同時に傭兵達にも連絡ッ! ワームの四体ぐらい、軽くいなしてやるわ――!」
いつになく気炎を上げるポボス司令。丘の上に立ち、敵の来る空を睨む。
『αチーム、配置完了!』
『同じくβチーム、配置完了!』
対空部隊が次々に展開、空へと砲を向ける。
物々しい数の砲口に、さしものワームも普通ならば軽傷では済まないだろう。そう――普通であれば。
しかし、ナトロナ軍の遥か眼前からやって来たのは誰もが見覚えのある赤い機体。
『久しぶりだな――ポボス司令』
「っ、ば‥‥か‥‥な‥‥」
ナトロナの伝説、輝かしい栄光、勝利の象徴。
誰もが心のどこかで再び甦って帰ってくると信じていた、不死鳥。
「レッド‥バード‥‥!!」
ポボス大佐がその単語を叫ぶ。訳も分からずに。
その声に、先頭の赤い機体の中で、男は小さく頷いたようだった。
そして――トリガーを絞った。
空を切り裂く轟音。
弾丸はポボス大佐の頭上を通り過ぎて、後方へ奔る。
呆然と振り向いた彼が見たのは――。
爆炎に包まれていくナトロナ軍陣地だった。
「‥‥レッド‥‥バード‥‥?」
彼らは、帰って来た。
ナトロナを焼き尽くす――火の鳥として。
●リプレイ本文
「RBは七機チーム。あまり考えたくありませんが残り三機が不明な以上‥‥対空警戒を厳重にお願いします」
『了解。‥どこまでやれるかは、分からんが』
水上・未早(
ga0049)の勧告に基地は自信無さげに応じた。
だが留まる訳にもいかない。前線からの連絡を受けた各機は、全推力を傾け――飛び去っていく。
前線は、地獄だった。
上空を飛び回る赤い四機。火焔と共にロケット弾が撃ち込まれ、右往左往するナトロナ軍が吹き飛ばされていく。
「わが軍の被害は甚大です! 司令、ご指示を‥!」
副官に言われても、ポボスは呆然としたまま声を発する事ができなかった。
『‥あーあ、哀れだねー』
『どうでも良い』
二機ロッテを組むレッドバード三番機と四番機。その瞳に映る兵士が、部隊が、次の瞬間には消し飛んでいる。
『レーダーに新たな光点です』
二番機からの淡々とした通信に、レッドバード隊長マルケは頷く。
『もう来たか、――傭兵』
「皆さん、お気を確かに! 惑わされては敵の思う壺です!」
赤宮 リア(
ga9958)が眼下の陣へ強い一喝をくれる。
その声で混乱していたナトロナ軍は頭上に援軍を認め、各々が空を指差した。
「‥予想通りだな。所詮レッドバードも地方エースの御山の大将だったか。アレだけプライド高かった結果が――コレだしな」
月影・透夜(
ga1806)はコックピットで苦笑を浮かべて見せた。
レッドバードは何も答えない。
「大佐! 指示を下さい。我々はどうすれば良いんですか?」
セラ・インフィールド(
ga1889)が眼下に指示を仰いでいた。
その声でポボスはようやく僅かに我に返り、上空の両者を見比べる。
『と、止めろ‥‥! レッドバードを止めてくれぇ!』
悲痛な叫び。
その言葉に風羽・シン(
ga8190)が胡乱げに頷く。
「そんじゃまサクサク追い返して、RB隊長さんのレアな皮肉をまた聞かせてもらいましょうかね」
呟き、相手を見る瞳は‥醒めていた。
蒼河 拓人(
gb2873)は眼下を見て歯噛みする。堕ちた英雄、レッドバードを睨む。
「そっちが破壊の炎なら、こっちは再生の火を灯そう。――行くよ」
加速する十機。
「レッド‥バード」
色を失った無表情で、ルノア・アラバスター(
gb5133)はポツリと呟く。
真紅のS−01HSCを駆るその心は‥‥痺れたように、何も感じなかった。
「あーっどうすりゃ良いのか分かんねぇ!」
山崎 健二(
ga8182)が悶々とした声で叫ぶ。
相手は元友軍。手を抜く訳にはいかないが、どうしてもやり辛かった。
「くそっ、‥なるようにならぁ!!」
思考を停止して、無心に操縦桿を握る。
高速で翔けるKVとKVが――ヘッドオンした。
傭兵部隊から射出されるK−02。
「ミサイルパーチー、だねぃ!! いけ! 裸愛運命<ラブディスティニー>!」
不純な衣類を纏わず自機と同化したゼンラー(
gb8572)が、操縦席の暗がりから身を乗り出す。
さらにルノア機もスキルを発動してK−02を四機へ大量射出。
『散開』
おもむろに赤い四機はブースト。触れれば切れそうなほどに鋭い空戦機動をもって、弾頭を回避していく。
しかしそれでも、グラック機が幾つかに被弾した。
間髪おかず第三波。真紅のリア機『熾天姫』から時間差のK−02ミサイルが射出されていた。
『――集合だ』
だが赤い隊長機はそれ以上の散開を許さず――逆に集合を命じる。
散り散りの四機を追ってミサイルが追跡。
だが赤い四機は互いがぶつかりそうな距離で――急減速。花開くように上下左右へ跳ねた。
その中心に突っ込こむミサイル。花の中心で爆炎が上がる。まるで曲芸飛行のような美しさで、赤い四機はミサイルを回避した。
しかし傭兵達は、次の手に移っている。
「イカロス並びにクロウへ! 聞こえているか? 派手に行くから上手く避けろよ!」
遥か前方のナトロナKV部隊へ声を掛けた鹿島 綾(
gb4549)が、螺旋ミサイルを四発発射。さらに自らそれを追った。
スキピオ機が被弾して大きく揺らぐ。そこへ綾機が放つ――M−12砲。
ブーストを使用した四番機は、だが大きく崩した態勢のまま間一髪で回避した。
怒涛の攻撃が続く。
健二機が対艦砲をRB隊中央へぶっ放す。さらに拓人機とゼンラー機もそれぞれ、電磁砲『ファントムペイン』と『ブリューナク』を四機の中心へ撃ち放った。
「ぼさっとしてるんじゃないよぅ! 【バグア】は拙僧らが抑えている! しゃんとしなかった阿呆は、死んだらゼンラの神様の御許に行けるように手厚く供養するからねぃ!」
ゼンラーが通信で眼下へ声を掛ける。ナトロナの兵士達は喝を入れられて我に返り、恐慌に陥りながらも陣を整えていく。
『隊長、狙いは我々の分断かと‥!』
『そのようだな』
副長ファスの言葉に応じるマルケ。
『わざわざ敵の策に乗ってやるな。――止めるぞ』
狙いを悟り、四機が連携を密にする。
だが傭兵隊シュバルム1のセラ機、透夜機、ルノア機の各ミサイルが赤い一・二番機に揺さぶりをかける。AAEMの青白い爆発を避けた直後、ファス機とマルケ機に螺旋弾頭が突き刺さる。
さらにシン機が吶喊、スラスターライフルを緩急つけて射撃。
だが赤い二機は射撃を避け、ロケット弾連射で応酬した。
先頭シン機のファランクスが弾頭を破壊するも、爆炎が機体に突き刺さる。後方ルノア機、透夜機も紙一重で避けられず、セラ機はPRMで装甲を強化して受け止めた。
幾度に渡る激しい衝撃が空を焦がして震わせる。
「残念ながら翼を並べて戦う機会の無かった私にはRB隊の事は武勇伝以外なんにも分かりませんが。それでもあの敗走以来一緒に耐え戦ってきたナトロナの――みんなの気持ちは分かります!」
シュバルム2の未早機が、RB隊三・四番機を相手にオープン回線で声を張り上げていた。
放たれるロケット弾をファランクスで迎撃しながらワイバーンが爆炎の中へ吶喊していく。
「Holger‥‥無理すんじゃないぜ? 彼氏に恨まれても困るからな!」
健二機による熱線弾幕の援護が敵の照準を鈍らせる。
AAEMを撃ち続けていた未早機もライフル射撃の弾幕へ切り替えた。Mブースト起動、回避する敵に喰らい付く。
「今の私は‥ここで戦うイカロスの翼ですから。貴方たちにかつての同胞を踏みにじる権利なんてこれっぽっちもありませんッ!!」
深い青の片翼と『J』エンブレムをつけたワイバーンが――赤いS−01H胴部を剣翼で切り裂いた。
細かな破片が地に注ぎ、空を見上げて声に聞き入っていた兵士達を通り過ぎる。
「俺は山崎健二ってんだがな。名前を聞かせてもらおうか!」
『‥‥三番機、グラック少尉』
乾いた声を放つ赤い機体が、態勢を立て直して弾丸をばらまく。
ヨリシロか、洗脳か。返答で見極めようとした健二だったが、難しかった。
赤い四番機と戦闘するリア機が、単刀直入に切り出す。
「‥一つお聞きします。貴方達は私達の知るRB隊なのですか? それとも‥‥」
『さぁねー。好きに想像すれば‥っと!』
少し焦ったように赤いKVは機体を傾ける。綾機の放った十六式ミサイルが機腹下を通り過ぎ、次いで放たれたエニセイに直撃した。
「リア、3カウントで仕掛ける!」
「‥了解! 綾姉さまに合わせます!!」
息の合った二機がブースト加速する。
その背後で虎視眈々と突破の機会を窺っていた拓人機とゼンラー機の二機が動いた。
「やるなら今、かねぃ‥!」
「そうだね。突破しよう」
両機ブースト、赤い四機の中心へ電磁砲の青白い光柱を突き立てて突破を試みる。
『こちら‥偵察KV部隊! 部隊の被害が大きい‥! 援護を頼む!』
ちょうど、キャスパー方面から黒煙を上げるナトロナKV部隊が米粒のように姿を見せた。
「‥1、リア!」
「はいッ!」
赤い四番機の背中を取った綾機とリア機。回避機動も取らせずに剣翼の射程に捉える――。
直後、二機に激しい衝撃が走った。
「なっ‥‥!」
「‥被弾‥‥!?」
機内に響くアラート。
二機だけでは無い。レッドバードと交戦していた全機が被弾している。
赤い四機は互いに――交戦中の敵に背中を向けて援護し合っていた。
『ここを通すつもりはない』
怯んだ傭兵達の隙を突いて赤い四機は合流。突破を試みるゼンラー機と拓人機を弾幕で迎撃する。
「くっ――!」
激しい砲火に晒された二機は正面突破を断念して散開、反撃しながら砲火を避けた。
ナトロナKV部隊が接近。赤い四機が――そちらに機首を向ける。
『やめろ、レッドバーーード!! 傭兵ども、攻撃を中止しろ! 敵意の無い事を示せぇッ!!』
取り乱したポボス大佐の哀願。必死に敵を追う透夜がギリッと奥歯を噛む。
「いい加減――現実を直視しろッ! 過去に縋るな!! お前達の目標、墓前の誓い、後ろにあるもの‥‥それらを成すのがナトロナ軍だろうがッ!!」
司令部を一喝する叱咤。
「逃げ腰野郎は黙ってやがれっ! 何としてでも‥止めてやらぁ!!」
さらに機首を並べて加速しながら、シンも噛み付くように吼える。
「追い、ついて‥みせる、レッドバード、に‥!」
片翼章を付けた真紅のルノア機が加速した。
「残弾――叩き込みます!」
「ミサイル出し惜しみ、無しだよぅ!」
「いけ‥パンテオン!!」
セラ機、ゼンラー機、拓人機のミサイルが敵を追う。
「何としてでも!」
Mブーストを掛ける未早機。
「全速だ、リア!」
「了解です!」
綾機とリア機。
「止まりやがれぇ――!」
健二機。
ナトロナの空を様々な片翼達が疾駆する。四機の不死鳥を――押し包むように。
‥‥だが、それでも届かなかった。
‥‥タッチの差。
赤い四機が機銃の射程距離内にナトロナKV部隊を収める。
――大地を揺るがす轟音が、戦場に響き渡った。
『‥‥くそったれめ』
RB隊長マルケが呟き、操縦桿を倒す。その眼下から――激しい砲火が噴き上がっていた。
『こちら対空部隊α! 俺達の翼を援護する!』
『βチーム、了解! へっ感謝するぜ‥‥片翼達!』
地上、ナトロナ軍の熾烈な対空砲火。傭兵達に励まされ、勇気付けられた正規軍だった。
RB隊は被弾して全弾を外した。ナトロナKV部隊はパウダーリバー方面へ離脱を試みる。
『皆さん、恩に着ます!』
『止めろ。イカロスを墜とせ』
マルケの指示。だが既に――イカロスの傭兵達が接敵していた。
「今度こそ、叩き込む!」
綾機とリア機がブースト吶喊。赤い四番機へ――凶器と化した翼を断ち振るう。
「味わいなさいっ! 熾天姫の新たなる力‥焔の翼をっ!!」
綾機の翼を辛うじて避けたスキピオ機の腹部を――エンハンサー起動したリア機『熾天姫』が切り裂く。その翼に乗ったBurningの片翼章が、敵を焼き尽くすかのようだった。
さらに二機は急旋回――綾機とリア機の大口径砲が一斉に轟音を放つ。
『く‥‥ぅ‥!! やばいって!』
スキピオが顔を歪ませ、けたたましいレッドアラートの中で操縦桿を倒す。
その僚機のグラック機にも、絡みつく機影。
「Holger――吶喊します!」
「あいよ、任せな!!」
未早機と健二機。グラックは即座に弾幕を張る。弾痕が二機を抉るが――止まらない。
おもむろに健二機がここまで温存していたアハト・アハトの鋭い一撃を浴びせた。グラック機は際どく回避し――攻撃の手を止める。
思わず腹を見せた敵へ――未早機が剣翼を叩きつける。
「命中!」
グラック機が態勢を崩して揺らいだのを見て、未早が叫ぶ。
「俺達の全力を受けろ‥!」
透夜機が敵を睨み、螺旋ミサイルの最後の一発を赤い二番機へ射出。射撃しながらブースト吶喊する透夜機を、セラ機がレーザーキャノンで援護する。
多彩な弾幕の前に不利を悟ったファス機が――正面に向き直った。
「気を付けて、誘ってます!」
セラの叫びに、透夜は頷いたが進路を変えない。意図を見抜いてセラもその後ろに続く。
『バカね‥!』
剣翼を翻す透夜機の眼前で――ファス機が急制動して沈む。そのまま半ロール、逆にファス機の翼が真紅のディアブロ『月洸』を切り裂いた。
「っ、喰‥らえッ!」
だが、透夜機は引き裂かれたまま――空中ドリフトのように機首をファス機に向けて背後を取った。
『――ッ!』
月洸の集積砲が赤く輝き、轟音がファス機を吹き飛ばす。
その頭上から――セラ機が飛来した。
「PRM50、翼へ注力!」
輝きを放つミモザの翼。空に溶け込む片翼章が浮かび上がる。
だがファス機も必死に機体を制御、飛び込んで来たセラ機へと――翼を振る。
交差する二機は大きく破片を撒き散らして、互いに態勢を崩して通り過ぎた。
『お前まで‥何をやっている』
隊長機マルケが僚機へ声を掛ける。そこへ――ライフル弾幕が放たれた。
「よそ見してんじゃねぇ!」
シン機の吶喊。それに向き直った直後、――直下から集積砲の一撃が放たれた。
赤く発光したマルケ機が並行移動し、間一髪それを外す。
『片翼を付けた真紅のS−01Hか』
眼下の機体を見てマルケは微かに苦笑した。
四機を引き付ける間に、今度こそ拓人機とゼンラー機がナトロナKV部隊の護衛へ疾駆する。
だがマルケ機はシンとルノアを無視して――KV部隊に砲を向けた。
「――何度も言わせんじゃねぇ!」
『そこまで‥‥墜とされたいか』
直上から襲い掛かるシン機へ、マルケ機が向き直る。直後に放たれたルノア機の射撃を、回避。そのままシン機と銃弾を交換する。
二機の距離は縮まりマルケ機がブレスノウ発動、さらに前へ出た。
だがシンは相手の機動を思い出し、射撃を先読み。
避けて、剣翼に敵を――捉えた。
「なっ‥‥!?」
だが手応えが無い。バグアと化した赤い機体は――慣性制御でそれを避けていた。
『邪魔だ』
一閃する赤い剣翼。
WF−01の翼をことごとく断ち切り――シン機撃墜。
マルケ機は即座にKV部隊へ機首を向ける。
が――既に遅かった。
拓人機がKV部隊を煙幕で包んで長距離の牽制射撃、ゼンラー機も砲を向けて護りを固めている。
『‥‥全機へ通達。撤退だ』
『『了解』』
即座にマルケは判断し、機首を翻す。
キャスパーへ離脱していく赤い四機へ、追撃の指示は無かった。
落ち着きを取り戻した戦場で、傭兵は事後作業に当たっていた。
各員が陣の復旧作業を手伝い、ゼンラーが死者を弔う。
「ナトロナを想う魂は、この程度で潰えるほど柔じゃないだろう?」
軍に混じって語る拓人の言葉に、兵士達は笑顔で頷いた。
後方基地ではKV修理やテストを手伝う。ルノアは機上から物憂げに夕空を見上げ、軍病院のベッドではシンがRBの資料を捲っていた。
「覚えてやがれ‥‥必ず後悔させてやるぜ」
全身の包帯に血を滲ませ、薄く目を閉じる。
「‥この奪還作戦のもう一つの目標は、『彼らの魂』」
透夜が待機室で報告書に目を通しながら、呟く。
「両方‥‥成し遂げてやる」
決意が――傭兵達の胸中に染み渡っていた。
NFNo.025