タイトル:【NFrC】橋頭堡を築けマスター:青井えう

シナリオ形態: シリーズ
難易度: やや難
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/05/26 23:01

●オープニング本文


●作戦発令
「この作戦は我々の悲願であると同時に、散って行った英霊達への弔いである!!」
 割れんばかりの怒声を張り上げて、総員が整列した格納庫の壇上でポボス司令が演説する。
 北米ワイオミング州ナトロナ郡にあるパウダーリバー基地。
 そこで繰り広げられる戦況は遂に好転した。
 つい先日、敵ワーム生産基地を傭兵達の協力によって破壊。これによりナトロナ軍の士気は否応も無く高まった。
 そしてその目下の脅威が取り払われた今、ナトロナ軍は次の作戦計画に移行したのである。
 それは、この地域における最大都市の――奪還。
「これよりキャスパー奪還作戦を始動させる!」
 ポボス司令の宣言。
 居並ぶ軍人達は思わず表情を引き締め、雄雄しい歓声を持ってそれに応えた。

 ‥‥「元」人類側最大都市、キャスパー。
 約一年前まではナトロナ軍の要となっていた都市であり、そしてナトロナの伝説『レッドバード』部隊が壊滅した場所でもある。
 敵の奇襲によりキャスパーとレッドバードの二つを同時に失ったナトロナ軍は敗走に次ぐ敗走を余儀なくされ、多大な犠牲を払って想像に絶する苦しみを耐え忍んできた。
 言うなればそこは、始まりの場所。
 失った二つの内レッドバードはもう還らない。
 だがもう一つ、キャスパーは手を伸ばせば届く。
 先の任務においては敵生産基地と同時に、敵エースと見られたタロス部隊を殲滅した。つまり、この地方における脅威は激減したのである。
 もちろんキャスパーとて一年の間に要塞化され、並ならぬ敵戦力が配備されている事が予期される。
 だが彼らは躊躇いはしない。結局は避けては通れぬ道。いずれにせよ清算しなければいけないのだ。
 これまでの多大な犠牲を、ナトロナ解放という果実へ変えるべく。

 そして今、戦局の分岐点となるだろう奪還作戦が発令され、基地からけたたましいサイレンが鳴り響いた。
 駆け出す兵士達。
 あらゆる兵器の点検・整備が開始され、さらに各部署におけるブリーフィングが行われる。明確な目的も無く動く者などそこには誰一人居ない。
 格納庫で、滑走路で、解析室で、会議室で、彼らが唱和するのはただ一つ。

 recapture Casper!

 キャスパーを奪還せよ、という合言葉の下に――行動を開始する。

●静観する観察者
 にわかに動き出すパウターリバー基地の騒動を察知しながら、不気味な沈黙を守り続けるアルコヴァの監視塔。
 ナトロナのバグア本拠地であるその町の中央で、男は独りモニターに移る数値データからパウダーリバー基地の活性化を知り、小さく鼻を鳴らした。
 ナトロナのバグア司令官、アイアス。
 その侵略者の王は三機のタロスとそのパイロットを失ったばかりでありながら、些かも余裕を失わずに玉座に収まっていた。
 いやむしろ、その口許には微笑みすら浮かべてみせていた。
「息も絶え絶えに辿り着いたか。‥‥前座で終わりはしないかと危惧さえしたがな」
 片手に持ったブランデーグラスを小さく揺らして香りを楽しんだ後、アイアスは一息にそれを煽る。
 胃の腑に落ちていく熱い塊。ディナーが始まる前の食前酒を味わいながら、メインディッシュとなるだろうキャスパーの状況を空中モニタに投影した。
「欲深き者ほど目の前の財宝箱に手を伸ばそうとするが」
 呟き、視線を向ける。
 映し出されたその都市を包むのは、眠りに就いたかのような‥‥静寂。
 それを見やって男は独り愉悦の表情を浮かべた。
「お前達が開けるのは‥‥パンドラの箱だ」
 グラスが手の中で砕ける。
 同時にくぐもった笑いが、広いフロアで静かに響き続けていた。

●翼を持つ騎士達
「クロウ隊出撃だ! お前らボヤボヤするなよ、負けられない戦いだぞ!」
「了解。隊長、いつになく張り切ってますね」
 KV部隊六機は滑走しながら、副長カスピ少尉は驚いたように声を上げる。
 その言葉に隊長バルト中尉は当然のように頷いた。
「当たり前だ。キャスパーを取り戻せばもう一度優勢に立てるんだからよ!」
『頼むぞ、KV部隊。一般兵器部隊が布陣するまでの間、敵を一手に引き受けてもらう事になる』
「了解ッス、任せて下さい。一年前の俺達とはもう違うッスから」
 タロー軍曹が兵士の眼差しで操縦桿を駆る。同時に機体は離陸。編隊は大空に舞い上がり、キャスパーへと機首を向けた。
 さらに引き続き、基地に鳴り響く出撃警告。
「イカロス隊以下各機、行きます! 皆さん、よろしくお願いします!」
 片翼の機章を付けたシュテルンが滑走路にタキシング。そこに乗り込んだ隊長ヒータ大尉が仲間へと通信回線を開いていた。
「各機簡単に任務を確認する。キャスパーより20km手前に本隊が布陣する間、我々クロウ隊とイカロス隊がワーム群を迎撃する。クロウ隊は空、イカロス隊は陸が担当だ」
 同じく片翼の機章を付けたバイパー、副長ライトが任務確認を行いながらスロットルを押し上げる。
 直後、短い滑走の後に二機は空へ舞い上がった。
「では各機、今回の任務もよろしく頼む」
 出撃警告は鳴り響き続ける。
 ライトの声に応答するように各格納庫が一斉に重いシャッターを押し上げ始めた。
 その中から現れたのはULTから派遣された傭兵機。
 だがこのナトロナにおいては、特に二機だけの特殊編成部隊のイカロス隊にとってその存在は馴染み深く、信頼していた。
 地上各機はライトへ了解の応答。
 そして彼らはイカロスの片方だけの翼を補うかのように加速、空へと舞い上がった。

「イカロス隊――出撃ッ!」

 ヒータの号令の下、全機がキャスパーへ――翔ける。

●参加者一覧

月影・透夜(ga1806
22歳・♂・AA
セラ・インフィールド(ga1889
23歳・♂・AA
山崎 健二(ga8182
26歳・♂・AA
風羽・シン(ga8190
28歳・♂・PN
赤宮 リア(ga9958
22歳・♀・JG
依神 隼瀬(gb2747
20歳・♀・HG
蒼河 拓人(gb2873
16歳・♂・JG
ルノア・アラバスター(gb5133
14歳・♀・JG
ゼンラー(gb8572
27歳・♂・ER
ローゼ・E・如月(gb9973
24歳・♀・ST

●リプレイ本文

『敵影を探知。‥‥頼んだぞ、KV部隊』
『はい、任せて下さい。行きましょう少尉ッ』
『了解。迎撃行動開始!』
 丘の後ろから次々に姿を現すKV各機。先頭にヒータ機が駆り、その右側を ライト・ブローウィン(gz0172)機が並走する。
「ヒータ、ライト。まだ一歩目だ、無茶はするなよ」
 力む二機の左側へと出ながら、月影・透夜(ga1806)は二人を軽く諌めた。
「‥ま、逸る気持ちも分かるがね。初っ端からコケる訳にゃいかねぇからな」
 頷く風羽・シン(ga8190)。その口振りには二人と同じ熱が滾る。
「我慢に我慢を重ねてようやくここまで漕ぎ着けた感じですからね。お返しも兼ねて‥‥派手に行くとしましょうか」
 セラ・インフィールド(ga1889)の表情から笑みが消えた。同時、機体戦闘モードへ。
「まさか、あのレッドバード隊が壊滅していたなんて‥‥」
 他方、赤宮 リア(ga9958)は息を呑む。それがまるで他人事のように思えず、操縦桿を握る手が汗ばんでいた。
「自分は‥‥あの時より少しは強くなれてるかな?」
 ふと蒼河 拓人(gb2873)が、一年前のキャスパー陥落時に別任務で撃墜された事を思い出す。
「約束‥果たしに来たよ。キャスパー、返して貰うからねッ!」
 そして今。祝宴の誓いを胸に依神 隼瀬(gb2747)は機体を駆った。
「‥派手に魅せ付けてとっとと戦場に引き摺り出してやるぜ――アイアスのクソ野郎ッ!」
 猛々しく咆えて敵司令官に怒りを燃やす山崎 健二(ga8182)。
「レーダーに異常。‥来たぞ」
 ローゼ・E・如月(gb9973)が警告。
 前方、キャスパーの方角からCWを伴い――ワーム部隊が迫っていた。

「‥敵、CW、六、ゴーレム、四、RC、五、一編隊。繰り返し――」
 外部スピーカーも併用し、ルノア・アラバスター(gb5133)は情報管制を開始する。
「ふむ。橋頭堡、か‥‥。何にせよ、戦死者を減らせるように、だねぃ。あ、大尉はここを使って良いよぅ」
 拓人発案の塹壕を一つ掘り終えたゼンラー(gb8572)が、丘に上がってきたヒータ機にその場所を譲った。
 丘上の支援班、麓前面の迎撃班と殲滅班が展開完了。
 同時に前方に迫るワーム班の動きが、――俄かに加速。
「‥すまねぇな大尉、ちょっとばっか少尉お借りするぜ!」
『う‥‥りょ、了解ですっ。ちゃんと返して下さいね!』
『‥‥‥‥』
 ライト機とペアを組むシン機。丘下のKV部隊も動き出した。
 しかし――敵CWの一体は接敵の前に足を止める。
 途端、能力者達に起こる激しい頭痛。CW群は距離に余裕を持って次々停止、怪電波の威力を増していく。
 そしてまた二体が動きを止めた、瞬間。
 CWは――大量の弾幕に粉砕された。
 丘上。硝煙を上げるマルコキアスを抱えた二機、ゼンラー機とルノア機の遠距離射撃。
「もう、一体、射程範囲、内」
 ブレスノウ起動のルノアが、怪電波を発しようとしたCWへトリガーを絞った。
「今回は一思いに楽にしてやる事は出来んねぃ‥‥。すまん」
 上がる土埃の中。火花を上げるCWへ――ゼンラーは残弾全てを叩き込む。
 小さな爆炎と共にCW三体目、撃破。

 頭上を大量の弾丸が走る中、迎撃班は敵正面から前進していた。
 だがそこへ襲い掛かる――RCの砲撃。
 赤い光柱が迸り、迎撃班四機が被弾。セラが即座にダメージチェックする。
「ッ、結構効きますね‥」
「次、ゴーレムが来るよ!」
 拓人の警告。各機が激しい機動で迎撃態勢をとる。
「チッ、先に木偶が相手か! 行くぜ少尉!」
『ああ!』
 シンの言葉に頷くライト。二機は盾を構えて敵群へ走った。
 ゴーレム達の一斉砲撃。それを被弾してなお止まらずに、各機は接近戦の距離へ――吶喊する。

 敵群後方。CWが射撃に被弾、三撃目で大破した。
「四体目、撃破した!」
 殲滅班ローゼ機の声。
 それを耳に入れながら、他四機は敵側面へなだれ込む。
「俺達は後ろを叩くぞ!」
 轟音を上げる透夜機『月洸』の肩砲。高速の砲弾が残るCW二体を連続で粉砕する。
「例え無人機でも油断せず行きます!!」
 リア機『熾天姫』がエンハンサー起動、眼前のRCへ苛烈な熱線を放射した。苦悶の声を上げ跳び退るRC。
「‥ド真ん中派手にブチ抜くぜッ!」
 その間隙を――健二機「Baalzephon」が貫く。
 弾幕を張りながら敵を分断。さらにRCの砲台へツインブレイドを打ち下ろす。
 堪らずRCは体色変化。
 ――だが、それを待っていたように熱線の嵐が降り注ぐ。
「選手交代、ってね!」
 MBを噴かせて飛び込む隼瀬機『天鳥』。ロビンの知覚攻撃がRCを貫き、撃破した。
 さらに迎撃班からもゴーレム撃破の報告が上がる。
 丘から援護射撃もありKV側が優勢。ワーム群は地に伏していった。

 ――三十秒後、第一波殲滅。
 損傷度は支援班0%、迎撃班20%、殲滅班10%程度。
 順調な滑り出しによる僅かな安堵は――、直後の第二波襲来によって緊張に変わった。
「第二波、CW、八、ゴーレム、四、RC、四、ニ編隊。十一時、二時の、方向、です‥!」
 即座に新手を数えるルノア。
『陣地構築はまだ掛かりそうだ、堪えてくれ!』
 後方の声も激しいジャミングでほとんど届かない。
 前衛二班は二手に分かれて対応。支援班の射程範囲まで後退していく。
 その過程で停止し、怪電波を放ち始めるCW。
「いよいよ、‥かな」
 拓人が虹色に煌く瞳を揺らして敵を鋭く捉える。
 直後――支援班の弾幕がCW一体を粉砕した。

「今だ、行くよッ!」
「OK、突撃だ!!」

 隼瀬機と健二機が敵群の中へ吶喊。
 その眼前に立ち塞がるゴーレムを――透夜機とリア機が受け持った。
「邪魔立てはさせませんよ!」
 エンハンサー付与の熱線をリア機が連射する。その死角に回りこむゴーレムへは僚機の透夜機が弾幕で牽制。
「囲まれるな! 手近の敵から片付けるぞッ!」
 透夜機は僚機に声を掛けるなり、刀を握り直近の敵へと間合いを詰める。
 その間に健二機と隼瀬機はゴーレム群を振り切り、後方へ。プロトン砲を担いだRCとその背後のCWへ照準を付ける。
 だが――
「ッ、ダメだ‥‥知覚兵器が‥!」
 CWの影響で極端に出力低下した隼瀬機の知覚兵装は、ほぼ兵器としての効果を失っていた。
 一瞬攻撃の手が止まった隼瀬機へ、RC群が砲撃を放つ。被弾し、削られる装甲。さらにRCは牙を剥いて駆けた。
「――そこまでだ、テメェらッ!」
 ブースト接近した健二機が横から吶喊、PF付与したツインブレイドの一撃を振り放つ。
 しかし、RCは咄嗟に――回避。
 CWが照準を鈍らせたのだ。
「くっそ、やり難い‥‥!」
 舌打ちする健二。その横からRCが跳び、紺灰色のディアブロに喰らい付いた。

『シン、CWを叩けるか!?』
「‥無理だ! 邪魔が多過ぎる!!」
 振り下ろされる斧、ビームナイフ、降り注ぐ砲弾。頭痛で満足に盾で受ける事も敵わず、シン機はPRMを装甲に回して凌いでいた。
「蒼河さん、スイッチを!」
「んっ‥‥お願い!」
 拓人機が下がり、代わりにセラ機が前へ出る。だがその役割分担も、倍の敵とジャミングの前には効果が薄い。
「殲滅班、援護距離、を、超えて、います‥! 後退、を‥!」
 ブレスノウ起動でCW一体を破壊しながら、ルノアがマイクに声を張り上げる。しかし‥それすら掻き消す激しいジャミング。
「くぅ‥‥強力な怪電波だよぅっ」
 発射炎を吐き続けるゼンラーの「milestone」だが‥‥命中しない。半分も弾丸をつぎ込んで、ようやく一塊の弾丸がCWを穿つに過ぎなかった。
「こうなったら拙僧達も突っ込むかねぃ!?」
『‥‥く、ですね。でないと――』
 頷きかけたヒータ。
 だがふいに、頭痛が軽減した。

「CW、撃破ッ! クッ‥‥次はどこだ!?」
 最前線――ローゼ機。
 機刀を構えたサイファーがCWを切り捨てて駆けていく。
「ローゼさん! 戻って下さいッ!!」
 一番近くに居たセラが叫ぶ。しかしジャミングと戦闘音に掻き消されてその声すら届かない。
「‥‥二体目!! 次――ぐっ‥!?」
 ローゼ機がふいに襲った衝撃に態勢を崩す。
 ゴーレムの砲撃。それに続くRCの爪、牙の猛威がサイファーを襲った。
「ッ――!」
 包囲されたローゼ機は咄嗟に背中を向けて走駆する先――CW。
「三体‥‥目ぇッ!!」
 逃げたのではなく。彼女はあくまで味方の援護に、CWの破壊に、‥‥傾注した。
 途端に、和らぐ能力者達の頭痛。
 同時に、ローゼ機を紅い光柱が――貫いた。
『ローゼ機‥戻れ! ローーーゼーーーーッ!!』
 ライトの声に応えず、侍ソードを地面に突き立て崩れ落ちるサイファー。
 ‥別方向。丘の上から飛来した大量の弾丸が、一斉にCW三体を粉々に吹き飛ばす。
『命中!』
「一体、撃破、です」
「撃破‥すまんねぃ」
 ローゼの活躍で、丘にまで届く怪電波が激減していた。

「OB&スタビライザー『A』発動‥‥全弾、発射ッ!!」
 拓人機が多目的誘導弾を解放。ローゼ機を蹂躙しようとするワーム三体に爆炎を放つ。
 さらに殲滅班の健二機と隼瀬機が救援へ走る。
「彼女の命までは奪わせねぇ! 花火を散らしたきゃテメェが打ち上がれッ!!」
 健二機がブースト急接敵、PF付与のTWブレイドをRCに叩きつけた。
 砲台が火花を立てて折れ曲がり、咄嗟に体色を変えるRC。そこを――オメガレイを構えたロビンが狙う。
「これで、どうだッ!?」
 CWの影響を振り切って放たれた苛烈な熱線束。恐竜は体内を焼き貫かれながら断末魔を上げて――絶命した。

 さらに敵編隊中心。殲滅班透夜機は砲身破壊を終えたRC二体を機剣で弾き飛ばし、距離を取る。
「少し数が多いか。RCはこのまま後ろに任せる!」
 捨て置き、ゴーレムへ向き直る透夜機。そこでは既にリア機が交戦していた。
 盾で刃を受け止めた『熾天姫』が赤い燐光を放つ。
「味わいなさい――雪村の一撃ッ!」
 超濃縮された光剣の一閃。ゴーレムは豆腐のように両断され、不恰好に吹き飛んだ。
 さらに別編隊では、シン機とライト機がゴーレムへ。
「‥へっ、あいつらが乗ってたタロスに比べりゃ――手前ェ等なんぞ数ばっかで大した事ねぇんだよッ!!」
 PRM付与したシン機が刃を被弾し、代わり銃口を突きつける。反応した敵の回避機動は――ライト機の砲撃が押し留めた。
 直後にトリガーを引くシン。
 六十発の弾丸がゴーレム中枢を引き裂き、破壊した。

「突破機、RC、三、G、一、最優先、で、処理、を‥!」
 ルノアの管制。万が一を考え、支援班三機は丘を降りる。
「頑張って辿り着いたんだが、ねぃ‥‥すまんが、ここまでだよぅ」
 丘急斜面からゼンラー機が四連ガンを発射。さらにルノア機もブレスノウ起動で射撃し、蜂の巣になったRC一体が倒れた。
 反撃でゴーレムのフェザー砲が二機を焼くが、致命的なダメージでは無い。
『接敵の前に倒せそうですね‥‥』
 ヒータが呟く。が――。
「‥‥新手! RCが‥八体来たッ!!」
 最前方の隼瀬が全機へ通達。
 直後紅い光柱が地上を貫き――恐竜編隊は丘へ向かって全速で駆け始めた。

『く‥‥、本陣まで突破するつもりだ!!』
 前衛の損傷率は八割。さらに数体のワームとCWも残っている状況での、敵増援。
 すれ違い様に物理と知覚の弾幕を浴びせる健二機と隼瀬機。さらに、別RCと交戦中の拓人機とセラ機も接近する。
「セラくん――道を開けるよ!」
 オーバーブーストA起動。拓人機が獅子刀を二度振るい――雪村を薙ぎ払う。
 立ち塞がるRCが絶命。崩れ落ちる横を、セラ機が通り過ぎていく。
「っ、一体だけでも――!」
 双機刀の攻撃はCWの影響でほぼかわされつつも、セラ機はどうにか一体の動きを捉えた。
「チッ、ダメだ当たらねぇ‥‥うぜぇCWをぶっ潰すぞ!」
『ああ!』
 シン機とライト機は同時に機銃を向ける。直後、CW群が炎に包まれた。
「RCの一点突破か‥‥だが簡単には通さん!」
 ゴーレムを殲滅した透夜機とリア機がブースト。さらに透夜機は機銃でCWを駆除。ジャミングが軽くなっていく。
 知覚出力を取り戻したリア機がRC隊前面に回りこみ、赤い燐光を放ちながら熱線の弾幕を張った。
 それを赤く体色を変化させて耐えるRC群。
 だがそのRCへ――。
「どんな相手だろうと‥焼き切り裂くのみですっ!」
 リア機が振るうのは、『雪村』。
 超濃縮の光剣がRCの赤い皮膚を焦がし――両断した。
 恐怖に駆られたRCニ体はリア機へ飛び掛かる。牙を向いて放つ噛み付き攻撃を――片方、割って入った透夜機が受け止めた。

 それでもRC五体が後方へ抜ける。二体が横へと逸れ、立ち止まって支援班へ激しい砲撃を始めた。
「ぬっ、ほっ、これがナナハンだけの避け方だよぅ! どう‥‥ぐぅ!?」
 四脚を広げて車高を落とし、射撃の反動も駆使して砲撃を回避したゼンラー機。‥は、二発目に被弾した。
「前進、食い止め、ます‥‥!」
 盾を構えたルノア機が体ごと当たりに行き、敵を捕まえる。
 ヒータ機とゼンラー機も激しく敵とぶつかり、どうにか動きを止めた。
 前衛は急いでターンし、全機が後方へ駆ける。その間を持ち堪えようとする支援班。
 は――しかし、他RCの砲撃援護で態勢を崩した。
『く‥二体、抜けました!』
 丘にRC二体が急接近。
 それを――ルノア機とゼンラー機は意地でも逃さなかった。
 追いついた他機とスイッチするように、ルノア機がブースト。同時ゼンラー機は二体の背中へ弾幕を張る。
 被弾し、物理耐性になったRCにも構わず、ルノア機は機刀「セトナクト」を二度振るって強引に地面へ叩き伏せた。
 だがもう一体はその間も走る。もはや丘へ数十mの距離。
 その背中を――健二機と隼瀬機が追走をかけていた。
「行かせやしねぇッ!」
「キャスパーを取り返すって――誓ったんだ!!」
 二人はほぼ同時、機銃とオメガレイのトリガーを絞り込む。
 ――火線と光条。
 それに交差されたRCは肉体の大部分を消し飛ばし――余剰の衝撃が丘までも大きく穿った。
『‥‥敵襲か!?』
『‥‥いえ。ふふ、逆です』
 ヒータがレーダーに目を向け、応じる。
『敵の殲滅――完了しました』

 ‥ほどなくして、陣地構築も終了。
 ローゼは戦闘終了後、すぐに健二と隼瀬によって回収された。酷い重傷を負っていたが、命に別状は無い。
 クロウ隊も任務を無事に果たして帰還。丘の裏には少数のワームやキメラ程度なら迎撃できる強固な陣地が完成していた。
「まずは初手完了と。目指すは‥‥」
 透夜が呟き、遥か向こうに薄っすらと見える都市に目を向ける。
 丘の上。
 全員がボロボロの機体を降り、その街を見据えていた。
「ふむ。エースは来ない、か。まだ早いといった所、かねぃ?」
 ゼンラーは言いながら少し青ざめる。
「来ても大丈夫。‥‥皆さんとなら、きっとやれます!」
 ヒータが微笑を浮かべて言い放った。
 隣でライトもしっかりと頷く。
「ああ、必ずキャスパーを――取り返そう」
 目前に見えるナトロナの都市。
 この地方の人々に再び希望の光をもたらすために。
 ――その第一歩が今、踏み出された。

NFNo.024