●リプレイ本文
輸送艦は作戦海域に突入。ここでKVを出撃させた後に離脱する予定だった。
出撃待機するKVの機上で、チア服姿の藤田あやこ(
ga0204)が仲間達に精一杯のエールを送る。
「フレフレ、人類! 傭兵の名誉にかけてガンバラナクチャッ!」
溌剌とした掛け声に緊張が緩む各員。
「高速輸送艦か、良いもの持ってやがるなあ。これなら移動も楽ってもんだ」
出撃準備を整えながら、龍深城・我斬(
ga8283)が思わず呟く。
「水中戦は慣れんが‥‥ま、コレも訓練訓練。水中未対応機でも‥‥装備きちんとしてりゃ大丈夫」
一方で須佐 武流(
ga1461)は豪胆にも訓練と言い放ち、自機のシラヌイに水中用キットが装備されている事を確認していた。
『敵編隊接近‥ゴーレム4、メガロワーム6!』
ブリッジから各機へと走る通信。
八機のKVはそのまま自動で出撃ハッチへ押し出され、空間は閉鎖。注水が始まる。
じきに出撃――、Loland=Urga(
ga4688)が頬を一つ叩いた。
「おっし‥、戦利品に手出しはさせねぇぜ!」
BVの後始末の依頼がこうして出る事は予想済み。むしろようやく来たかという思いでLolandは気合を入れる。
「せっかくの戦利品に傷でもつけられたら‥‥たまりませんからね」
ソリス(
gb6908)も頷いて操縦桿を握り、左手で各種ロックを解除していく。義手は戦闘を前に滑らかな動きを見せた。
「ふっはっは、拙僧は前回から水中戦にヤミツキなんだよねぃ。風呂に入ってる感覚で楽しいよぅ」
自機の肩辺りにまで注水が進み、上機嫌で声を放つゼンラー(
gb8572)。
だけど水に浸かってるのは機体であって本人では無いのにどうしてこの人ぜn(ry
注水完了。
同時、ほの暗い水中への出撃ハッチが開く。
その出口を見つめて、榊兵衛(
ga0388)は表情を引き締めた。
「ここで敵の侵攻を食い止めなくてはならぬ以上、最善を尽くさねばなるまい。可能な限り尽力することとしようか」
「今回は水深が浅い。海底地形データを送ってもらいました、皆さんにも転送します」
データを入手した篠崎 公司(
ga2413)が、全機へ情報を転送。そして、操縦桿を倒す。
「‥‥さて、それでは行くとしましょうか」
全機が出撃ハッチを離脱する。
広域レーダーの端からは――複数の光点が高速で接近していた。
輸送艦が作戦海域を離脱するのを見送り、八機のKVは水中に身を委ねた。
『ゴーレム2メガロ3の二個編隊が接近。距離500、深度20だ』
「なるほど。どうも、情報感謝します」
公司は上空の哨戒機へと礼を言うと、敵迎撃の為に深度を落とす。
「AB班で左右から挟みこむ様に接敵して行くってのはどうかなあ?」
敵に合わせて傭兵達は二班に分かれていたが、我斬がふと提案した。予め二班になっているなら容易に作戦も実行できる。
それを容れて、水中でKVは四機ずつ左右に割れた。驚いた周囲の魚群が音も無く逃げていく。
敵の姿はまだ見えない――しかし、両者は確実に接近していた。
「お、どうやらおいでなすったねぃ」
ゼンラーが注視するレーダーは広域から500m以下の狭い範囲に切り替わる。
それを認めて、魚雷発射ボタンに指を乗せた兵衛がA班各員に声を掛けた。
「同一目標に遠距離攻撃を仕掛けるぞ。もう少し引き付けて‥‥残り30‥10‥発射ッ!」
合図と同時、兵衛機とあやこ機のホーミングミサイル、ソリス機のエキドナが泡を噴いて発射。標的にした一体の鮫ワームへと走り――、くぐもった爆音が水中を連続で震わせた。
‥‥が、手応えはあったものの光点は消えない。遠距離飽和攻撃で幾つか命中はしたものの、敵はほぼ回避していた。
同時、B班の公司機も大型魚雷を発射。だが超長距離から放たれた一撃を、敵は回避。――そのまま接近して来る。
互いの距離は150mへ。直後、レーダー上の敵編隊が一斉に魚雷を吐き出した。
水泡を曳いて高速飛来する弾頭。それらは、両班の前衛をすり抜け後衛へ奔る。あやこ機が二被弾、ゼンラー機と公司機が一被弾して装甲が鈍くたわむ。
だがその中で、武流機だけが全て回避していた。
「移動が遅いのがハンデだけど‥‥水中キットでもまったく駄目、‥というわけではなさそうだな」
武流は猛々しく笑み、未だ姿が見えない敵をガウスガンで射撃。さらに時間差で魚雷を発射する。
銃撃をかわしたメガロは、続けざまに放たれた魚雷二発をかわせなかった。爆発、衝撃波を越える水泡の圧力が――敵を包み込む。
さらにB班前衛、我斬機がセドナを撃ち出した。
「開幕から大サービスだ! 全弾持ってきな!」
声に呼応するように超高速で走るSC魚雷。迸る三条の筋が見事にメガロワームに命中した。
くぐもった衝撃に呑み込まれてメガロは四散。――海底へと沈んでいく。
仲間の血の匂いを嗅ぎ、興奮して突進してくる鮫ワームの群れ。だがその鼻先へ、Loland機『マン・キラー・ビーストBS』がガウスガンを向ける。
「ジタバタ暴れんじゃねぇッ!」
叫び、敵の機動を制限するように銃弾を浴びせた。二体のメガロは自由な機動を封じられ、並ぶようにして突進する。
ワーム群を両翼から挟み込む形で、両者の距離は50mを切った。
ようやくぼんやりとした敵影がカメラに映り始める。後方からそれを認めて、B班公司機がスナイパーライフルを構えた。
「先ずはこれで出切るだけ削っておきましょう」
照準が影を捉え、気泡を吐いて水を裂く銃弾。白線を曳いて奔る一撃がゴーレムを穿つ。
その横から水中用ミサイルを発射するシラヌイ――武流機。
それら後衛の援護を受けて、前衛二機のビーストソウルが激しい唸りを上げる。
インベイジョンBを同時起動。ノータイムで人型へ変形し、我斬機は槍斧「ベヒモス」を、Loland機はレーザークローを構え――敵へ接近した。
一方、A班は直進してくる敵ワーム群にあやこ機とゼンラー機が奇襲を掛ける。
突撃に特化するメガロを、二機のビーストソウルが側面から突く。ガウスガンの激しい弾幕が敵へ降り注いだ。
「とにかく敵陣を崩して乱戦に持ち込むわ! 足並みを乱せば敵の進撃も遅れるってものよ」
言い放つあやこの狙い通り、敵の編隊は戸惑ったように陣を乱した。インベイジョンを起動したゼンラー機『髭』が、あやこ機と並んで激しく敵を撃ち抜いていく。
「さぁ、お楽しみはこれからだねぃっ!」
トリガーを引き続けるゼンラーの言葉に合わせ、乱れた敵陣へ高速で駆ける――二機のKV。
朱漆色のリヴァイアサン『興覇』が変形、人型へ。同時、思いっきり振るうベヒモス。
エンヴィークロックが命中精度を高め、メガロの横腹を思いっきり貫いた。
「【槍の兵衛】の名がダテではない事を水中戦においても示し続ける必要があるのでな。
――悪いが、とことん付き合って貰うぞ」
メガロに刺さった槍を引き抜きながら兵衛が言い放つ。噴き出した血で水を濁らせて、力を失ったメガロはゆっくり沈んでいった。
だが、その側面から水中用ゴーレムが接近、構えた槍を兵衛へ勢い良く突き出す。
咄嗟に穂先を回避する兵衛機。それでもゴーレムは手を緩めず、槍を繰って次撃を狙う――。
しかし。
衝撃を受けたのは――ゴーレムの方だった。
放たれた銃弾。ガウスガンの薬莢を海底に吐き出し、銀色のアルバトロス『銀鮫』が接敵。
振り向いたゴーレムを、瞬時に変形したソリス機は――レーザークローで切り裂いた。
「‥‥僚機には手を出させません。こちらの生存にも関わりますので」
低く渋みのある声で、ソリスは淡々と敵へ告げる。
それでも敵は簡単に怯んではくれない。
ゴーレムが水中銃を連射し、メガロが荒々しく突進する。
「行くわよA班! それハッスルっ!」
各機はあやこの鼓舞を受け、真正面から敵を迎撃した。
赤く発光しながら魚雷のように迸るメガロの突進。それを我斬機『獣魂』は避けきれず、斧槍を使って斜めに受け流す。
「‥‥つッ! よし、そっちに行ったぞ!」
衝撃で数mも流されながら、我斬は口の端を吊り上げて叫んだ。
メガロの突進する先には後衛の二機が待ち構える。咄嗟に武流機へ狙いを定めたメガロだったが、その横腹を公司機の銃撃が穿つ。
血を噴きながら突進するメガロ。
武流はいつもの癖でアクチュエーターを起動しようとしたが――空陸用KVはSESの仕様上、スキルを発動できない事を失念していた。
「っと、そうかッ‥‥!」
無反応な機体を見てその事を思い出す武流。咄嗟に盾を構えようとしたが――間に合わない。
激しい衝撃が武流機を襲い、大量の気泡が舞う。
そして通り過ぎるメガロワーム。
「やれやれ、水の抵抗が予想以上だ‥‥。やはりうまく機体を動かせないな‥‥」
言い放って武流は――苦笑する。
その背後。通り過ぎたワームが激しく血を噴きながら減速、そのまま動かなくなって――沈んでいった。
‥‥体勢を立て直す武流機の腕部から、レーザークローの放熱で水泡が上がる。
そこへ、息つく暇無く爆裂する魚雷。
盛大な気泡が消えるより早く――ゴーレムが槍を構えて現れる。
「‥ラインを上げる必要がありますね。もう少し前に出るとしましょう」
言い放ち、公司機が迎撃へ。
魚雷と銃弾が飛び交い、近接距離にまで接近した両者は白兵武器を振るう。槍が公司機の装甲を貫き、レーザークローがゴーレムを切り裂く。
その二機の間を、声が響き渡った。
「お前の相手は――俺だぁッ!」
ゴーレムの背中に炸裂するセドナ。Loland機が水中で傾いだ敵ワームに高速接近、インベイジョンBで変形して――レーザークローの一撃を振り下ろす。
「自分も合わせましょう!」
さらに前面からも放たれる公司機のレーザークロー。両側から切り裂かれ、溶解する装甲。
ゴーレムは轟音と共に水圧で押し潰れ、大きな気泡を一つ吐いて――沈んで行った。
水中で交差する槍と槍。ゴーレムの攻撃をいなした兵衛機が、バルカンを連射。敵に弾丸を叩き込む。
態勢を崩すゴーレム。
そこへ、背後からソリス機が接近。レーザークローで胸元を切り裂くと、開いた中枢部に海水が流れ込んだ。
ゴーレムは硬直し、センサーをデタラメに明滅させて沈んでいく。
――と、その間に二体のメガロが前衛を抜けて後衛へ。
「くっ、すばしっこい奴め!」
すぐさま後を追う前衛二機。
だがそれよりも早く――後衛のゼンラーが対応していた。
「ふぬぅぁあぁぁっ! この! みなぎる! 筋肉ぅぅぅっ!! ここは拙僧に任せて先にいくんだよぉぅぅッ!!」
異常なほどの人工筋肉で固められた『髭』の人型変形!
そのはちきれそうなマッスルKVの内側で、赤く輝く目、悪魔的形相のゼンラーが昂って上げる咆哮。しかも、本人はぜn(ry
水中でも暑い『髭』はインベイジョンA起動、ガウスガンとレーザークローの連撃をメガロへ叩き込む。
衝撃で数m流される敵。だがゼンラー機は攻撃の手を緩めずに接敵、レーザークローを振るって――その脳天を叩き割った。
さらにもう一体のメガロはその鼻先にD06の射撃を受けた。咄嗟に前進を止めて回避した鮫。
「隙だらけよっ!」
そこへ、ガウスガンに兵装変更したあやこ機が銃撃した。
メガロの横腹を貫く銃弾。ワームは体を曲げ、痛みに悶える。
その背中を――ソリス機が撃ち抜いた。
「‥‥それ以上は通せないので、悪しからず」
絶命して海の藻屑と化したメガロへ言い放ち、ソリスは機体を翻す。
そちらには、槍斧を振るう兵衛機の姿があった。
「‥‥さて、覚悟は良いか。後は――お前だけのようだ」
エンヴィー・クロックを起動して、敵の攻撃を冷静にかわす兵衛機『興覇』。
槍撃を避け、体を回転させて放たれた斧槍の一撃が――水を震わせて激しい泡を掻き立てた。
公司機が連射するガウスガン。海底スレスレへ深度を落としたメガロだったが、銃撃をかわし切れず被弾、血を放散する。
「っ、仕留め切れませんか。ならば‥次撃、お願いしますっ!」
その言葉と同時――海底を我斬機が蹴っていた。最初に貰った地形データを参照しながら、墜ちた敵機を避けてメガロに接敵。斧槍を振るい、――銛のように相手へ喰らい付いた。
「多少頑丈だろうが関係ねぇ‥‥砕け散れ!!」
暴れる鮫を必死で抑えつけながら、我斬機『獣魂』はインベイジョンA起動。腕部へのエネルギー供給を増大させ、レーザークローの一撃を打ち下ろす。
海底の砂が大量に舞い上がり――メガロワームはそれきり動かなくなった。
‥その頭上20m、激しい銃撃を放つ武流機。それがことごとくLoland機と交戦するゴーレムに刺さる。
「今だ、仕留めてやれッ!」
一瞬の怯んだ隙を見逃さず、武流が声を上げる。
呼応して――Loland機の腕から射出する三本の熱線。
「10機目っ! これでラストォ――!」
連続で振るうレーザークローが、ゴーレムの体を切り裂く。大量の気泡が舞い上がり、敵は小さな爆発を起こして――海の底へ落ちる。
代わり、大きな気泡だけが海面へ昇って行った。
『‥‥敵の殲滅を確認。今から輸送艦が回収に行く、もう少しその辺を回遊しといてくれ』
上空からの通信。哨戒機の広域レーダーで敵の殲滅が確認された以上、敵増援の可能性は無いに等しい。全員にホッとした空気が流れた。
「水中は‥‥やはり専用機にかなわない部分もあるが、やってやれないことも無いな。‥‥なかなか難しいが」
水中キットのシラヌイで戦闘に参加した武流が、小さく息を吐く。移動やスキル制限はあるものの、今回のような単純な任務では水中機と遜色の無い活躍ができていた。
それを皮切りに、各員は輸送艦が来るまでの間を今回の戦闘の反省会‥‥という名の明るい雑談を繰り広げる。
人類の気合いを見せ付けて誇らしげなあやこや、称号に見合う実力を水中でも示せて納得顔の兵衛。
「よし、これでBVの後始末完了だな!」
一つ大きく頷くLoland。その隣で我斬が「しっかし、ワームの残骸って環境に悪そうだな」と呟くと、それに反応した公司が予想し得る限りの環境への悪影響を延々と挙げ始めた。
それを聞いてるのか聞いて無いのか、ぼんやりと魚群が泳ぐ姿を眺めるソリス。
そんな各員のレーダーに、ふと迎えに来た高速艦の光点が映る。
『待たせたな、君達の任務はこれで完了だ。ついでに戦利品の到着でも見届けてからLHに帰ってくれ』
そう通信を寄越して、収容ハッチを開く輸送艦。任務を終えた各機がゆっくりと乗り込む。
だが一番最後、『髭』と名付けられたKVは搭乗する前に一度海底に機体を向ける。そのコックピットで、ゼンラーはソッと目を閉じた。
そうして一つ、――敵に対して黙祷を。
『さきがけ、何か問題か?』
「‥‥いや、何でもないよぅ」
再び目を開けたゼンラーは明るい声で答えると――輸送艦に乗り込んでいく。
そして数時間後、人類に希望をもたらす『戦利品』は――無事北米に辿り着いたのだった。