●リプレイ本文
都会で起きたキメラ発生事件に、動物園の周りは大勢の野次馬とそれを抑える警察官で賑わっていた。
しかし、ふとその野次馬がサァッと左右に分かれる。――傭兵達が到着したのだ。
「本来憩いの場所になるはずの動物園に紛れ込ませるとはな‥‥嫌らしい事をするものだ。
なるべく動物たちを傷付けないように、速やかにキメラどもを掃討せねばな」
軽く嘆息して槍使いの榊兵衛(
ga0388)は言う。
その言葉に頷くのは、お姫様のような高貴さを纏う能力者。
「人間にも動物にも被害を出さないよう迅速に、――そして確実に行きましょう」
と、霞澄 セラフィエル(
ga0495)が同意するのだった。
その斜め後ろからはハァという溜め息。
「動物園か〜依頼じゃなかったら旦那と来たかったんだけどね〜」
と、苦笑するのは戦うメイドさん、キョーコ・クルック(
ga4770)。
その隣では綾野 断真(
ga6621)が柔らかい笑みを浮かべて頷いていた。
「確かに新婚の方にもうってつけの、折角のみなさんの憩いの場ですからね。職員の方の安否も気になりますし、キメラには早々にお帰り願いましょう」
「‥‥しかし、その増えた分は何所から来たのか」
後ろの方で水円・一(
gb0495)が訝しげに眉をしかめる。
「まぁ動物型は見分けが難しいから無理ないんじゃない? こうなったら、紛れ込んだキメラをドーンとやっつけちゃいましょう!」
的場・彩音(
ga1084)が元気良くドーンとジェスチャーを付けて答える。
「そうだな、駆除に専念するか。‥‥依頼説明によると、同族意識とかの物は残っていると見たほうがいいな、その種としての行動とか」
一の言う後ろでは関西弁を操る烏谷・小町(
gb0765)がウンウンと頷いていた。
「よっしゃー、みんな頑張ろなー!」
そんな風に話し合いながら、とうとう動物園の入り口、南門にまで辿り着く。
途端、能力者達は同時に覚醒した。
おぉっと、野次馬から歓声が上がった。それを気にも留めず、能力者達は動物園へ入っていく。
しかしその最後尾――影のように真っ黒なドッグ・ラブラード(
gb2486)がふいに立ち止まって動物園を見上げた。
「GooDLuck――動物達に、我等に、飼育員に、死にゆくキメラに幸いあれ」
そう呟いて――他のメンバーの後を追った。
動物園に入った能力者達は三班に分かれ、行動を開始する。
「ワニキメラなんだから水棲動物エリアにいそうだよな!」
覚醒した事により乱暴な口調になった彩音が兵衛へ振り返りながら提案した。
「うむ、元の動物の習性も残っているようだからな。行く価値はある」
A班の二人は西から園内を周っていき、北にある水棲動物エリアへと向かう事にした。
しかし、その途中。
園内の西の草食動物エリアの前を通りがかった時、そちらから――ピューマが猛スピードで走って来た。
「キメラか‥‥?」
兵衛が腰を落としカデンサを構える。
彩音も同時に身構えて――ふと気付いた。
「‥‥おい、あれって普通のピューマじゃないか?」
ライフルの引き金に指をかけて彩音は言う。よく見ると、そのピューマは体に血を流している。
問題はむしろ――その後方から来る者だった。
「あれは、リスキメラか――!」
「やべぇぞ!」
彩音が声を上げる。
同時に、リスキメラの一匹がピューマに飛びかかる――。
タアアァァンッ! という単発の銃声が園内に響いた。
それと共に、爪を振り下ろそうとしていたリスキメラは空中で吹き飛ばされる。
「こちらA班の彩音だ! リスキメラと接触、交戦するぜ!」
『B班了解』
『救助班も了解しました』
通信が終わるよりも早く――兵衛は目の前のリスキメラ達に駆けている。
「せいっ!!」
目にも留まらぬ速さでカデンサの突きが繰り出される。避けきれずに肩を貫かれるキメラ。
だが兵衛の槍は刹那の間も留まる事を知らず、さらに二撃目、三撃目を敵に叩き込む――!
一匹を仕留め、二匹目へ槍を振るう兵衛。キメラは反撃へ転じようとして――しかし連続した銃声がその身体を撃ち抜いた。
「おまえら、普通の動物にも人にも危害を加えたらただじゃすまねぇぞ! それと‥‥紛らわしいことすんじゃねぇ! 俺達が困るだろうが!」
既に今の銃撃で一匹を仕留めながら彩音がそんな言葉を吐き散らす。
残る二匹は、二手に分かれて兵衛と彩音へ同時に襲い掛かった。
異常発達したリスの爪に切り裂かれる二人。
だが。
「‥‥ふん、大した事は無いな」
「ってぇなーこいつッ!」
そう叫んで兵衛と彩音はさらに攻撃を加えた――。
一方、B班の霞澄と一は東周りを担当していた。
一が探査の目を使って園内の至る所に目を配りながら、猛獣エリアを通りがかる――。
「居た‥‥! そこの植え込みの陰だ‥‥」
霞澄に囁くように言って、無線機を掴む。
「こちらB班、ピューマを一匹捕捉した」
『救助班了解です』
『おう、A班も‥‥っ、了解っと!』
「‥‥なるほど、私も視認いたしました」
無線連絡をしている間、植え込みの陰を注意していた霞澄がそのキメラを発見する。
「まだ殺気をプンプンさせて隠れてやがるな」
「どうしますか?」
霞澄は大幅な改造を施した洋弓「アルファル」に矢を番えながら言う。
一はその様子に思わず苦笑した。
「どうするも何も‥‥。先手必勝だっ!」
言ったと同時に、一のギュイターが植え込みに向けて火を噴いた。
植え込みの草木が揺れる。激しい弾雨に晒されると、ピューマキメラは植え込みから飛び出してきた。
「ガァァアアアア!!!」
吠えながら、突風のように能力者達へと迫る――!
しかし突然、その身体に一際大きな衝撃――、いや、爆発が起こった。
「十秒以内で仕留めます」
そう言って霞澄が番えるのは弾頭矢。ギリッと引き絞られ、空を裂く音を立てて矢は放たれる。その矢の勢いは通常よりもずっと速く、弾丸に匹敵するほどの速度で――着弾。
爆発した。
と同時に、霞澄の右手は魔法でも使ったように忽然と次の弾頭矢を番えていた。それを引き絞り――射つ。
スキル即射・強弾撃の併用。更に矢に弾頭矢までもを使った全力射撃である。そこへ更に、一のギュイターの激しいフルオート射撃がキメラの肉体をズタズタにしていく。
その圧倒的火力の前にはキメラもひとたまりも無い。ただ蜂の巣に黒焦げた死体となって――その場に崩れ落ちた。
一匹を仕留めると、すぐに二人は辺りを警戒する。報告では二匹のピューマキメラが居たはずだ。
見回すと早速それらしき姿を発見する。二人は同時に狙いを定めて――すぐに構えを解いた。
「あれは普通のピューマだな」
「‥‥みたいですね」
辺りにはピューマが三匹ほど、物陰に隠れて震えながら二人の様子を窺っていた。
『こちらB班。ピューマキメラを一匹仕留めた。ちょっと普通のピューマを檻に戻しながら探索する』
『おう、A班了解だ!』
「救助班も了解。うちらは怪我人がおったから治療中!」
救助班の小町が、窓を覗いて警戒に当たりながら返事をする。
部屋の真ん中ではキョーコとドッグが救急セットで怪我人の治療を施している。怪我人は消毒薬を塗られると辛そうに呻き声を上げた。
「大丈夫か?」
ドッグは声を掛けながら怪我の箇所に包帯を巻いていく。
「ひとまず応急処置はしたから園の外まで護衛するよ。‥‥ここに居るので全員だね?」
キョーコは集まる従業員に聞いた。その中の園長らしき人間が深く頷く。全員で十二人。事前に聞いていた人数とも合致している。
「それでは私が先頭に立ちます」
断真は言った後、慎重に入り口の扉を開ける。周囲にキメラの気配は無い。
「とりあえず大丈夫なようですね‥‥。行きましょう」
「怪我してる人は誰か肩貸したってな〜」
能力者の四人は護衛に付くために手を貸す事が出来無いのだ。
そして一団は南の門へ移動を始める。
「襲撃の可能性があるとしたらピューマかワニだね」
突然の奇襲にも対応できるように両手に蛍火を構えたキョーコは、辺りに目を配らせながら呟く。
「んー、せっかくリス用に胡桃買ってきてんけどなぁ」
「キメラが‥‥食うのか?」
「いや、分からへんけどね。でも食うたらおもろいやん?」
とドッグへ答えて、カラカラと笑う小町。
そこへ――緊迫した声が割って入った。
「皆さん敵です! 前方より、――ピューマキメラ!」
断真が声を上げて全員を制止させた。
前方、建物の陰から躍り出たピューマが猛スピードでこちらへ駆けて来る。
断真はすぐにピューマへライフルの照準を定める。その機動力を削ぎ落とすため――足の付け根を狙って、撃った。
一度――二度、火薬の炸裂音が大きく空に響く。
キメラのFFを貫いて右の前足が血しぶきを上げる。多少スピードが落ちたようには見えるが、依然としてピューマは足を止めず――かなり遠くから跳躍した。
「――引き受ける」
言って黒い影は進み出ると、ガンッと鈍い音を立ててピューマとぶつかりあった。ドッグがライトシールドでキメラの体当たりを受け止めたのだ。相手の動きが一瞬止まった。
ドッグの右手が白光して、その手の中にある蛇剋がキメラの身体へ唸る。
深くまで突き刺され悲鳴を上げるキメラ。
その斜め後ろから加勢する二刀流のメイド、キョーコ。蛍火を両手に構えてキメラへ振るう。
突かれ、斬られ、ピューマは悶えながら血に染まった。
しかしそれでもピューマは最後の力を振り絞って、一般人達に牙を向いて飛ぶ――。
「それはさせるかーっ!!」
小町の大剣、クラウ・ソラスとピューマの牙が――火花を散らして弾かれ合った。反動で振り上がる大剣。
しかし小町は両手を強く握り締め、無理矢理にその剣を振り下ろす――。
キメラはその一撃の下に――両断された。
『こちら救助班。民間人の避難完了。ピューマキメラも仕留めた』
「A班もリスキメラ掃討。ワニへ移る」
『B班了解です。動物を檻に戻し終わりましたので私達もワニキメラへ移ります』
無線通信を切った兵衛に、彩音が話しかける。
「よし、早く行こうぜ兵衛」
「ああ、しかし‥‥余計な時間を食った」
二人はどちらからともなく水棲動物エリアへと走り出す。
そうして辿り着いた先で、探すまでも無くその姿は見つかった。
カバ達の巨体に紛れて、更に一際大きいワニが一匹居た。その側には餌食になったらしきカバの死体。
「ちっ、少し遅かったようだな」
顔を歪ませて言う兵衛。
彩音も同じく顔色を変えた。
「くそっ、ふざけやがって! 兵衛、さっさとやっつけちまおうぜ!」
「ああ、俺も銃を使うか」
兵衛は槍を置いて携帯していたSMGを持つ。カバ達の近くで戦うのはこれ以上の被害を出す可能性があった。
二人が同時に発砲する。彩音は眉間、目、口――と順に撃つ。兵衛もフルオート射撃による大量の弾丸でワニの鱗を強引に削っていく。
更にそのワニの横腹へ、ふいに飛来してきた一本の矢が突き立った。更に兵衛、彩音の射撃にもう一つフルオートの銃声が被さる。
「霞澄 セラフィエル、加勢に参りました」
「うへぇ、でかいな」
霞澄と一が合流。
その四者の攻撃を受けると、ワニは怒ったように這って近付いてきた。そして一番近くに居た兵衛に体当たりを食らわせ――そのまま尻尾で能力者達を薙ぎ払う。
その連続攻撃は霞澄だけが回避した。他はそれぞれ体当たりに吹き飛ばされ、長い尻尾の餌食となって地面に叩きつけられる。
「っ、皆さん大丈夫ですか!?」
霞澄が焦燥を見せながら全員に声を掛けた。だがワニは大きな牙を持つ口を開き、倒れている三人へと向き直る――!
「うりゃあああああ!!」
突然、後方から高く跳躍してきた小町がクラウ・ソラスをワニの横腹へ振り下ろした。更にその無防備なワニの腹に何度も大剣を突き立てる。
「すまない、途中で瀕死のピューマを見つけて遅くなった」
言って、ドッグもワニへと駆け抜ける。その手に持った蛇剋を、ファング・バックルを使用して振るう。
「これ以上誰も傷つけさせないわよ!」
キョーコが全スキルを発動させて両手の蛍火を同時に振るった。大量の練力を消費して、ワニキメラの体を切り刻んでいく。
ワニは能力者達の攻撃に怒り狂った。大口を開けて敵を飲み込もうとする――。
そこへ狙い澄ましたように轟く銃声。ワニの口内から血しぶきが上がる。
驚いている間にさらにもう一撃――!
能力者達の少し後方で、断真がワニを狙撃していた。ただ冷静に虎視眈々と、一瞬の虚を付いた銃撃。
ワニは堪らず口を閉じると、攻撃方法を変えた。素早く移動しながら、大きく長い尻尾で能力者達をなぎ払う。射程範囲に入ったドッグ、断真、キョーコが大きな尻尾を避けきれずに直撃を受ける。
しかし、その反撃を押し留めるように霞澄が即射・強弾撃を使って放つ五連射。
さらに合わせて、一がギュイターの引き金を絞った。矢と弾丸がワニへ食い込む。
「ワニキメラ班としては、トドメは俺達が刺さねばなるまい」
「ああ、そうだな。――行くぜ、兵衛ッ!」
彩音がライフルを撃ち放つ。
被弾したワニは苦痛か怒りかに大きく震え吼えた。
その懐へ走り込む槍を持つ影。
「槍の兵衛の技、その身体に受けてみよっ!」
彩音の放った弾丸が目の前でワニの傷へ滑り込んだ。
兵衛はカッと目を見開きそこへ全神経を集中させると――。
一寸違わず――その部位を槍の深くまで貫いた。
ワニの巨体が仰け反って硬直する。そして幾瞬か後、グラリと傾いたかと思うと。
その身体は地面に倒れ――ピクリとも動かなくなった。
キメラを掃討した後、能力者達は他にキメラが居ないか確認して回ったが大丈夫のようだ。
安全確認を終えて無線で外へ連絡する。と、ゾロゾロと飼育員達が園内に戻ってきた。
キメラ退治の経緯を詳しく聞き終えると、園長は思わず頭を下げた。
「ありがとうございました! 怪我した動物への応急処置と、私達の救助。カバが一頭死んだとはいえ、それは仕方の無い事です‥‥。園長として、従業員を代表してお礼申し上げます」
園長はそう言ったまま、なかなか顔を上げようとしない。
その内に横へ獣医が来て、キメラに襲われたピューマは何とか助かりそうだ、と説明する。
すると園長は、瞳に涙を溜めて嬉しそうに頷いた。
そんな様子を見ていた能力者達も、この動物園ならきっと素晴らしい所になるに違い無い、と安心して帰途につき始める。
「色々ありましたが、これからも頑張ってくださいね! 貴方達に、動物達に幸いがありますように!」
ドッグが飼育員達に叫びながら手を振った。
――それから、動物園の片隅の色の変わった地面に目を向ける。見回りの最中にドッグが掘った、カバと――キメラの墓だった。
「本当ならば‥‥貴方達もここで‥‥」
ドッグは寂しそうに呟いて、しかしそれでも前を向いて能力者の一団の方へ戻っていった。