●リプレイ本文
「立て続けの大攻勢‥‥。向こうも遊んでる余裕が無くなったみたいね」
基地上空へ高度を上げながらラウラ・ブレイク(
gb1395)が黒尾翼の『Merizim』を駆る。
背後を振り返れば――遥か上空からでも増えた事が分かる墓標群が見えた。
「負けられない、絶対に‥‥」
唇を噛んで決意を込めるラウラ。
傭兵KV十二機が、空へと舞い上がった。
『頼む傭兵達‥‥ここが俺達の最後の砦なんだ! 守り切ってくれッ!』
航空管制員の悲痛な言葉に、すぐさま返事する声。
「ええ、安心して下さい。‥‥牡牛座撃墜者、ウシンディの名前は伊達や酔狂じゃない」
黒と金のツートンカラーで絢爛に華やぐシュテルンを操り、カルマ・シュタット(
ga6302)が応える。
それから、少し苦笑して肩を竦めた。
「前回は別機体で重傷になったから‥‥今回は汚名返上と行きますか」
「僕も最善を尽くします。‥‥という言葉は、この状況では不足でしょうかね」
赤いラインを中央に走らせた純白のディアブロに乗り、榊原 紫峰(
ga7665)がポツリと呟く。
「‥全力で守り抜きますよ。この機体で」
言い切った紫峰が、『Might and Power』のエンジンを唸らせた。
「ああ、散った命を無駄にゃしねぇ‥‥」
さらに声を重ねるは聖・真琴(
ga1622)。鮮やかな真紅のディアブロ『ナイトメア―悪夢―』の風防内側で、金色の瞳が――鋭く絞られた。
「ゼッテェにココは護り切るっ!!」
猛るような咆哮は、亡いた人々の想いを重ねるように。
遥か前方から接近してくるワーム群を迎撃する為、傭兵達は飛行機雲を引いて――東へ。
‥各機が進むにつれ、レーダーは正確に敵群の数と種類を判別していった。
「ふむ‥‥この戦域を揺るがす危機に、この老骨めが少しでもお役に立てれば良いのですが」
洗練された物腰でセバスチャン(
gb8772)がウーフーのジャミング中和装置を起動。情報管制を始めるべく、コンソールを猛スピードで操作する。
「‥少し数が多いかな‥‥。けど、好き勝手させるわけにはいかないね」
漆黒の巨大KV、破曉『黒炎凰』に乗り込む鳳覚羅(
gb3095)。その口元には柔らかな微笑が浮かんでいた。
「くそっ、ようやく基地辿り着いたばっかだってのに‥‥。――もうこれ以上奴らに渡してやるものかッ!」
雷電の内側で、ブレイズ・カーディナル(
ga1851)の瞳は滾るように燃え上がる。
何しろ今回の問題は、通常ワームでは無い。
「‥アレが本命で後が護衛とするなら、60〜85度周辺にもう1組といったところか?」
敵の思考を読むように、月影・透夜(
ga1806)が呟く。
「とにかくHE隊はBC発見と動きの監視を。敵機は俺達が抑える」
愛機『月洸』を駆り立てて、その懸念は――彼方の黒円。
「BC、ですか。話には聞いていましたけど、厄介なモノを持ち出してきましたね〜」
やや後方、乾 幸香(
ga8460)がその自爆ワームの情報を再度確認した。そして直後、幸香の瞳は深紅に染まる。
「ふん、敵も焦ってますわね。ま、地上の事は他の人に任せて、私は自分の仕事をしますわ」
言い放ち、トリガーに指を掛けた。
やがて傭兵部隊は基地から5km地点に到達、二手に分かれた。
道路上へ降下していく五機。そこで軍KVと合流するのだ。
だが降下しながら、‥‥鈍赤色のS−01Hのカメラは上を向く。
拡大映像に浮かぶ敵の群れ。
ルノア・アラバスター(
gb5133)はその中に――黒いタロスを認めて小さく眉をひそめた。
「‥‥決着は‥‥次」
直後、ルノアは眼下に目を向ける。背後に守るものを背負い、愛機『Rot Sturm』が接地した。
その隣に闇夜刀のエンブレムを背負ったフェニックスが着陸、変形する。
「ボクにどこまで出来るかは分からない。でも、関係ない。ボクは‥‥――奴らを叩き潰すだけだ」
柿原ミズキ(
ga9347)がすっと半眼を開く。鉛色に沈んだ瞳が殺気を漂わせていた。
さらにカルマ機、ブレイズ機、紫峰機も続々と降り立ち、軍KVと合流。
各機が四機編成の三班を作り、敵迎撃に駆った。
『プロトン砲、発射しろァッ!』
大空に号令が響き、上空のKV六機へと光柱が吹き荒ぶ。
しかしそれは一発も掠りもしない。地上のRCが放つ拡散プロトン砲にラウラ機とUNKNOWN(
ga4276)機が僅かに被弾したものの、HWの光条は全て空を切った。
『これは‥‥照準が!?』
いち早くオリージュがその異変に気付く。
「‥はーい、現在ぶんぶん飛び回る害虫に【殺虫剤】散布中で〜す。弱ったところを思い切り叩いちゃって!」
幸香がイビルアイズの特殊能力を起動していたのだ。
「すると私はハエ叩きかな。皆、瞬間を逃すのではない、よ?」
UNKNOWNが不敵に笑み、一機だけ高度を落とす。だが敵がその真意を悟る前に。
「――今ですッ、SAM発射!」
絶妙なタイミング――セバスチャンが声を掛けた。
数km後方、基地の方角から一斉に対空ミサイルが射出される。
それに一瞬遅れ、――ブーストを掛けた漆黒のUNKNOWN機が切り込んだ。
「さあ、平和的にまずは話し合おうか」
漆黒の機体がコンテナ展開。凡そで分けておいた両翼HW二班へ――K−02を発射した。
大空を埋める大量ミサイル群。HWのミサイル迎撃の銃声がこだまし、派手な爆炎がそこしかこで噴き上がった。
『これが話し合い‥? 楽で良いわ。私達も今回は本気よ』
オリージュは即座にHWの燃料を消費して、その機体能力を限界まで引き上げている。しかしそれでもなお――HWのダメージは浅く無い。
――さらに響き渡る爆音。
白煙を切り裂き、透夜機の大口径砲撃が黒いタロスを穿っていた。
「黒タロス、逃げ足の速かったヤツか。ここでも同じ事の再現といこうか」
『ああ!? 俺様を舐めんじゃねぇ――ッ!』
黒タロスも燃料消費と引き換えに機体能力を引き上げる。筋肉が隆起し、センサー類が激しく明滅。その状態からフェザー砲を激しく連射した。
「――つっ、被弾したか」
そう言いながらも、透夜機は半ば光条を避けている。空戦機動、即座に反転して反撃に移行。
直後、激しく飛び交う二機の火線。
どちらからともなく――苛烈なドッグファイトが幕を開けていた。
『また会ったわね‥‥その気持ち悪い機体に』
「うむ、運命かな。今度デートせんかね?」
オリージュの言葉を、その黒い機体はサラリと受け流した。
そんな相手に気圧されながら、――それでもなお。
『デート? あなた達サルと? 論外ね』
強気に吐き捨てる。
同時に機体能力強化。さらにHWを敵へ突進させて離脱を図る――。
が、ほぼ一挙動。
UNKNOWN機はライフルと剣翼でHWを穿ち、両断した。しかもさらに銃声を響かせ、青タロスに弾丸を穿つ。
『くッ!』
被弾したオリージュは再生装置を起動。
青タロスの流れる血が止まり、傷が塞がり始めた――。
空では盛大な爆炎と共に戦端が開かれていた。
それを左手上空に見やりながら、地上班も敵ワーム群と会敵する。
「行くぞ、BCが動く前に奴らを殲滅だッ!」
ブレイズの言葉に、同班のクロウ隊が頷く。軍KVと傭兵KVが混じるまさしく混在部隊だった。
後方では情報管制を務めるセバスチャンが、敵の特徴を伝え、‥‥最後に要注意点について声を張り上げる。
「‥特にRCが待ち態勢から撃ち放つ砲撃、プロトンバーストにはお気をつけ下さいませッ! 同じ射線上に立たないように!」
その声に全員が頷くと同時――互いの距離が200mに接近。
堰を切ったように道路上からゴーレム五体が弾幕を張り始める。
『散開!』
ヒータ大尉が短く叫び、十二機は即座に三班に分かれた。
敵の火線が辺り一面に土煙を巻き上げる中、各機は冷静に機動。敵部隊を包み込むように展開する。
「スワロー隊、援護、を、お願い、します‥‥!」
道路上を走駆するB班、ルノア機がライフルを射撃する。赤いS−01Hがブレス・ノウを起動、正確に照準を取られた弾丸の雨がゴーレムを穿ち、弾痕を作った。
一拍遅れて左翼からC班ブレイズ機もライフルを掃射する。敵右翼の前面RC二匹が血を噴く。
他のKVはさらに前進。距離が縮まると――次はRCが動いた。
最大出力のプロトン砲撃を両翼からそれぞれ二条ずつ解き放つ。閃く巨大光条。
だが、全機がそれを回避。
その間に道路上を駆ける紫峰機が、DR−2粒子砲をゴーレムへ照準して――引鉄を絞った。
光条が弾け飛んでゴーレムの半身を焦がす。前方に展開する敵部隊が僅かに乱れた。
その隙を狙って接近するKV部隊を、しかしRC達が連続砲撃で牽制。
ブレイズ機、ルノア機、正規軍各機が砲撃に被弾する。
だが、その内のヒータ機前面に立ち――カルマ機が閃光を受け止めていた。
『な、カルマさん――!?』
「‥‥上空から心配している人がいますからねぇ、まぁこれぐらいの傷ならこの機体には問題無いです」
PRMも発動する事で、言葉通り損傷は微。すぐに行動を再開する。
やがてKV各機が銃器射程に入った。両者の陣営が激しい砲火を散らしてぶつかり合う。血と破片が地上に散らばり、光の粒子がKVやワームに当たって飛沫を上げる。
薬莢の落ちる音と銃声。そして左手上空からは爆発音が上がり、その場所を戦火に染めた。
「‥‥あんのんさん、今回はソイツを譲るよ♪ 痛めつけてやってね☆」
上空。ブーストをかけた真琴機がHW群の中心へ切り込み、キャノンと機銃を連続射撃。
狙われたHWは激しく反撃するが――真琴機の吶喊を止める事は出来なかった。
「うらぁッ――!」
赤い機体の剣翼が閃いて敵を両断。
一拍を置いて――HWが爆砕した。
だが他の11体のHWが、その真琴機へ砲を向ける。
そこへ突如――飛来する螺旋ミサイル。HW二体に食い込み、激しい爆炎を噴き上げた。
「カメ虫如きに仲間をやらせませんよっ!」
幸香の乗るイビルアイズが、そのエンブレムの如く殺虫剤を撒いて僚機を援護する。
さらに覚羅機も突撃、激しい弾幕でHWを薙ぐ。同時にアテナイの咆哮も吹き荒れた。
HWが放つ反撃の光条は、『黒炎凰』がバレルロールを応用した機動で回避。最小限のループで空を回り――敵を斬り上げて両断、撃墜した。
だが直後、別方向からの光条に覚羅機は被弾する。
「つっ‥‥完全に背後を取られたかな?」
二体のHW。
それがピッタリと覚羅機の背後について――時間差で砲撃した。
ふとそこへ、二体を切り離すように降り注ぐレーザー。火花を上げてHWが大きく乱れる。
「今よ、離脱を!」
導かれるように覚羅機がブースト、振り切った。
交差するようにラウラ機『Merizim』が飛来し、HW二体へレーザーを高速連射。被弾して爆炎を噴き上げるHWのアーチを――フェニックスが突き抜けた。
「攻撃警報が鳴りっぱなしの状況なんて久々だわ。‥‥でも、逆境になるほど冷静になれる。刃の上を渡るが如く、ね」
激しい敵の砲火は留まる事を知らない。倍のHWがKV四機に猛烈な砲火を振り注いでいる状況だった。
戦線が綻び始め、HW達が防衛ラインを越えて抜けそうになってゆく――。
「第二波、発射致します! 皆様、二秒後に散開をお願い致しますッ!」
突如、後方からセバスチャンの声が響き――基地から大量の白煙が立ち昇った。
全機散開。
その中心を大量のミサイルが抜けてHW群中で爆発する。
回避され、命中してもダメージは無く――しかしそれでもHWを吹き飛ばし、一瞬だけそこに押し留めた。
「敵は左翼が突出しております、そちらを叩いて下さいませ!」
その一瞬、セバスチャンが的確に指示を伝えていく。
再びHWとKVの激しい空戦は繰り広げられ、光条と火線に剥がされた幾多の破片が地上へ落下していった。
その激戦区の手前を、通常戦闘機が飛び回っていた。
『HE5、BC三体を方位80に発見!』
『三部隊目か! 探せ、他に居ないか!? 発見した敵動向も監視継続!』
隊長機の指示に返答。
各機はBC発見に尽力して、飛行する――。
地上。
KV各機は戦闘を優勢に進めていた。
A班は動き回るRCを重点的に叩く。表皮の色を変えてKVを翻弄しようとするこの敵を一瞥して――カルマは一笑に伏した。
「こけおどしだな‥‥シュテルンの万能性を味わえッ!」
走りかかってきた緑RCへレーザーを連射し、逆方向から跳び掛かる赤RCをロンゴミニアトで貫く。体内で火薬が爆発し、赤RCは血肉を噴いて崩れ落ちた。
‥その傍らで、ミズキ機が緑RCと交戦。繰り出された噛み付き攻撃に『キャスパー』の肩を砕かれた。
「こんの――ヤロォッ!!」
ビープ音が鳴り響く中、ミズキが機体を操作する。RCの腹に当てたレーザー砲口を閃かせると、苦悶の声を上げてRCが地面に落下。
その頭部に――回転するレッグドリルの切先が落ちる。
「ふふ‥‥く、あははっ」
無垢で残忍な笑みを浮かべ、ミズキ機がRC頭部を完全に破壊した。
道路上、B班は中央のゴーレム部隊を切り崩していく。
幹線道路上は激しい白兵戦の様相を呈していた。
ルノア機が敵陣を縫い、深手を負ったゴーレムへとブースト。脅威に気付いたゴーレムがフェザー砲を乱射するが、ルノア機はPPフィールドを発動した。メタルレッドの機体コックピットは赤く輝き、光条の一部を散らす。
吶喊。接敵を果たし――S−01Hが機槍『ユスティティア』を振るった。
二又の穂先に両胸を貫かれ、ゴーレムが仰け反る。そのまま力なく膝を付き――後ろへ倒れ込んだ。
「一体、撃破」
戦果報告。
反対方向、そこで紫峰機もゴーレムに吶喊している。
敵の斧を受け止めたシールドソードを、そのままゴーレムの身体へと捻じ込む。盾先に付いた刃が装甲を切り裂き、深く埋まった。
しかし。
「‥‥まだ、動きますか」
頭上。
ゴーレムが斧を振りかぶっていた。
紫峰機が即座に盾剣を抜き、次の一撃を受けようとした時――。
「うぉおりゃあ!」
C班のブレイズ機が重々しく跳躍し、超巨大ハンマーを振り上げていた。
ゴーレムが斧を振り下ろすより先に、――推進ブースターで加速した巨大ハンマーがゴーレム頭上に降る。
――轟音。
衝撃が地面を震わせ、道路を数十m全壊させる。‥‥そのハンマーの下に居るゴーレムは、間違い無く圧壊していた。
紫峰は唖然としたまま呟きを漏らす。
「‥‥助かりました」
「ああ、援護は任せといてくれ!」
ブレイズが答え、すぐに次の獲物を狙う。
自機のすぐ先で持ち上がったハンマーを見ながら、紫峰は詰めていた息を吐き出した。
『おいオリージュ! まだか!?』
『黙ってて‥‥。もう少しよ』
ガリアの言葉にオリージュが切羽詰ったように返す。UNKNOWN機との戦闘は、もはや防戦一方だった。
そんな僚機へ目を向けていたガリアにも――衝撃が襲い掛かる。
「何をボーッとしている?」
『チィッ、‥‥舐めんなぁ!』
挑発するような透夜の声に――ガリアが咆えた。
黒タロスがバグア製螺旋ミサイルを一斉射出。ミサイルが白尾を引いて透夜機に着弾すると、ドリルが装甲を抉り貫き――爆炎を噴き上げた。
『オラオラ、どうしたぁッ!』
激しいバレルロールを展開するディアブロに、ピッタリと黒ガリアが後ろを追尾する。もう一度照準を合わせてトリガーを引こうとした、刹那。
ディアブロが急反転、緊急用ブースターと推進装甲『飛燕』のブースターを噴かせて猛烈に失速した。
『うおっ!?』
反応が遅れてディアブロを追い抜くタロス。透夜機が即座にブーストを掛けて再加速。
「まだ付き合ってもらうぞ。‥‥最大威力だ、持って逝け」
ディアブロ『月洸』が、練力を燃やしてKA−01へアグレッシブ・フォースの補正を掛ける。
そして真正面、振り返ったタロスへ一撃――放つ。
激しい砲声が響き渡り、空には一際盛大な血肉が爆ぜた。
空にこだまする銃声。
旋回する風圧で硝煙を霧散させながら、UNKNOWN機はリロード。周囲を飛び回るタロスにまた照準を付ける。
「そういえば最近いいBARを見つけて、な」
煙草を咥えた口元には微笑。
だが直後、苛烈な銃声が空を焦がす。銃弾が青タロスを抉り、衝撃がオリージュを揺さぶる。
『クッ、まだ――!』
すぐさま傷が幾分か再生するのを確認しながら、タロスは漆黒のK−111を中心にして円を描く。
UNKNOWN機は戦闘を優勢に進めつつも、何度も旋回させられて持久戦に持ち込まされていた。
‥‥やがて青タロスのサブモニタに『配置完了』の文字が明滅し――待ちかねたようにオリージュが叫んだ。
『BC全機、全速爆撃開始!』
弾丸が奔り、青タロスに食い込む。オリージュは歯を食いしばり、声を上げた。
『目標‥‥――パウダー・リバー!』
後方のHE隊が監視していたBC群の――発進を確認。
「とうとう動き出しましたか‥‥!」
セバスチャンが険しい顔で通信回線を開いた。
「全機に報告致します。三方位よりBCが接近開始――迎撃して下さいませっ!」
敵の速度を計測して、ウーフーが基地到達時間を弾き出す。セバスチャンの額には大粒の汗が浮かぶ。
「到着予想時間は残り――約二分三十秒でございます」
淡々とした声が各機に伝えられた。
その報告より前に、地上班は敵の掃討に移っていた。
ルノア機が射撃でゴーレムの動きを制限し、直線的な槍撃を放つ。
攻撃を防いだゴーレムは、――故に無防備になった背中をタロー機に貫かれ大破。崩れ落ちる。
別の場所でも紫峰機と軍KVが十字砲火を浴びせ、敵を蜂の巣にした。ゴーレムは爆発、――機能停止。
A班もRCを順調に殲滅していた。
カルマ機の槍が幾度目かの爆炎を噴き上げ、RCの息の根を止める。間髪おかずにアグニが発射炎を噴き上げ、別のRCの胸に風穴を空けた。
別地点ではミズキ機がレーザー砲を撃ち放っていた。
脚部を貫かれて倒れたRCをレッグドリルで抑え付け、赤熱した剣を振り下ろす。血を噴き、何度か痙攣した後――RCは絶命した。
そのKV各機を狙い、RC三体が構える。
だが今にも撃ち放とうとした時――弾幕がそれを妨害した。
一斉に振り向くRC達。
その内の一体が――巨大な鉄塊に押し潰されて視界から消えた。
C班ブレイズ機。鬼神の如き荒々しさでその雷電はハンマーを振るっていた。
さらに軍KV各機も機剣と機銃で殲滅に加わる。
ある程度の反撃を受けながらも、苛烈な戦闘を制したのは――KV部隊。
直後、各機はセバスチャンからのBC発進の通信を受け取る。
「ここから、が、本番、です‥‥っ!」
ルノアが広域レーダー上に高速で向かって来る敵影を確認して、機体を旋回させる。B班として方位130度へ。
即座にA班が方位45度へ。C班は80度へ。
三方位へそれぞれ散開して――各機が最高速で駆った。
空中。HW群が光条を辺り一帯に撒き散らす。
それを螺旋機動で掻い潜りながら、覚羅機が激しく弾丸を浴びせて光刃『凰』で敵を撃破した。
火を噴いて落ちていくHW。しかし――直後に破曉『黒炎凰』に紫光が貫き、激しい火花が散った。
「くっ、すまない‥‥後方へ撤退する!」
機体損傷率が八割を越し、覚羅機が基地へと飛んでいく。
追いかけようとするHWを、イビルアイズが最後のAAMを連射して押し留めた。
「そう簡単に抜かせないわっ!」
そのままドッグファイトに移る幸香機。フェザー砲に装甲を抉られながらも重機関砲をHWに連射。
中枢機関を破壊し、――爆発させた。
その焦げかかった殺虫剤のエンブレムとは裏腹に、イビルアイズは未だバグアへのジャミングを発し続けている。
だがその影響範囲から、HWが一機また一機と――外れだした。
「さてはコイツら‥‥っ!」
真琴がすぐさま機体を駆る。その反応と方向を見て、ラウラもすぐさま敵の意図を悟った。
二機がHWの動きに合わせて散開する。
その途上、偶然にも交差するラウラ機と青タロス。
その敵を見たラウラの想いが口を衝いて――出て行った。
「‥‥貴方達は何の為に命を奪うの? 思想の違い、だとしても盲目なのは哀れだわ」
『‥ふ、思想の違い? 屈辱だわ、対等に見られてるなんて。私達は飼い主、お前達が家畜。――それだけよ』
接近した数秒、オリージュとラウラの視線がぶつかり火花を散らす。
だが、そのまま両者は矛を交えず通り過ぎた。タロスを背中にして、ラウラが醒めた表情で呟く。
「そう。‥‥よく考える事ね、指をかけたトリガーが――何の引き金なのか」
その声はオリージュに届いたのかどうか。
黒尾翼のフェニックスは確かめもせず空を駆る。
HWは六体の内、二体だけが元の上空に留まり――四体が二手に分かれて、45度と130度へ飛んでいた。
45度方向。
垂直離陸能力で空に舞い上がったカルマ機とヒータ機の方へ、敵二体が接近する。
だがそのHWの鼻先を――髑髏エンブレムのディアブロ『ナイトメア』がブーストで掠めた。
「は♪ また邪魔しようってか? 二度も同じ手を喰わねぇよっ!」
通常空戦マニューバに加えて、スラスターなどを併用した複雑な機動を描く真琴機。
放たれたF砲をかわして敵機と交差。剣翼がHWに食い込んで火花を散らし、――内部から真っ二つに両断した。
「ココは任せな☆ アタシもコイツを仕留めたら手伝ぃに行くからっ!」
真琴が叫び、もう一体のHWと激しいドッグファイトに移る。
その言葉を信じて二機のシュテルンは全速でその隣を通り過ぎていった。
『お願いします、真琴さん‥‥!』
ヒータの言葉に強く頷く真琴。
操縦桿を握る手に力を込め、複雑に機動するHWを睨んだ。
130度方向。
B班の頭上にHW二体の黒い影が落ちる。
各機が速度を落とさないまま、武器を構えた時――。
ふいにもう一つの小さな影が地上に落ちた。
「‥‥負けられない、絶対に」
遥か上空に翼を広げるラウラ機『Merizim』が、――眼下のHWへパワーダイブ。
黒尻尾の猛犬が駆けるようにF砲を機敏に避けて、G−44グレネードをHW達へ投擲した。
即座にラウラ機は偏向ノズルで強引に機体を反転する。ブーストとスタビライザを起動して離脱。
直後、――激しい爆炎が空一帯に広がった。
その衝撃波と炎に包まれたHW二体が、破片を撒き散らして地面に落下する。炎を噴き上げ、完全に大破している様子が窺えた。
『助かったッス、ラウラさん‥‥!』
基地へ飛行していくラウラ機に声を掛けて、阿修羅を駆るタロー軍曹は地上に視線を落とす。
そこには――土煙を巻き上げるBCが、遠くから迫っていた。
80度方向。
7km地点に、クロウ隊三機がBC側面を狙える位置に展開した。
そして進路正面には――ハンマーを構えたブレイズ機。
しかしその視線は、上空のタロス二機へ向いていた。
「レッドバードを倒したお前達は確かに強い‥‥」
『BC接敵10秒前!』
独白するような声に正規軍の声が被さった。
ブレイズは視線を地上に戻し、雷電アクチュエータを起動。
「だがこのナトロナでの激戦の中で、正規軍の皆も俺達も成長してきているんだ――」
『射程範囲――全機、攻撃開始ッ!』
走行する黒円側面に火花が走る。一体が揺らいで転倒。しかし、二体のBCが弾幕を抜ける。
その正面で、――雷電がハンマーを振り上げた。
「力を合わせ戦う俺達が‥‥レッドバードより弱いなんて、思うなよッ!!」
超巨大鉄槌がBC一体の側面を打ち抜き――爆発させた。
だがその爆炎より早く駆け抜けるもう一体のBC。
一瞬遅れて、爆炎の中から雷電がブーストで追随する。
「うおぉおぉおおおッ!!」
ブレイズの怒声。
大量の燃料を呑み、雷電が最大速度で駆け抜ける。
徐々に縮む両者の距離はやがて埋まり、並走したブレイズ機が――ハンマーを振るう。
轟音と共に、震える空気。
‥熱風が吹き上がり80度方向のBCを――殲滅した。
45度方向。
二機のシュテルンが降り立って展開。余裕を持って武器を構える。
やや遅れてミズキ機ともう一機も到着。
直後、――BCがA班の視界に入った。
黒金のカルマ機「ウシンディ」が、練力を燃やしてセンサー感度を向上させる。
「PRM命中起動‥‥ウシンディ、補正をよろしく」
BCの進行速度を完全に読み、予測位置に発射キューが出る。それがグレネードの射程入ると同時、――カルマは引鉄を絞った。
放たれる弾頭が、一拍遅れて爆発。飛び込んできたBC一体を爆風でなぎ倒す。
――その時には、全機がトリガーを絞っている。
「落ちろォッ――!」
ミズキ機『キャスパー』がBCと並走する形でオーバーブースト起動、レーザーを黒円に激しく照射し続けた。ヒータ機も援護射撃を放つ。BC側面に走る亀裂。
そこへ射し込むように――ミズキ機が光条を叩き込んだ。
BCが大きく傾き、地面に倒れこむ。巨大な黒円が滑り、土が山のように盛り上がった。
もう一体の方も、カルマ機と軍バイパーの集中砲火を浴びると――黒煙を上げて失速。同じように盛大に倒れて動かなくなる。
全機は最初のBCにも駆け寄ってトドメを刺すと――敵殲滅を完了した。
130度方向。
「‥‥此処で、沈んで、貰い、ます!」
接近してくるBC三体へ向けて、ルノアが咆えた。
赤いS−01H『Rot Sturm』がブースト。ファランクスとライフルの発射炎を轟かせながら、――黒円へ機槍を全力で突き立てた。
BC転倒。激しくたわみながら、地面を跳ね転がる。
もう一体のBCを、軍KVの二機が十字砲火を浴びせて撃破。
さらにその隣で、純白の紫峰機『Might and Power』も高分子レーザーを三連射した。高速で紫峰の目前を通り過ぎるBCが、激しい火花を散らして赤く輝く――。
だが。
「落ちないっ‥‥!? まずい、BC抜けます!」
紫峰が切羽詰った声で叫ぶ。
BCは攻撃を耐え切って三機の包囲網を――抜けた。
基地まで残り4200m。
「ッ――、無理は承知でも‥‥やるしかねェなっ」
苦笑いを浮かべ、真琴が覚悟を決める。
道路上で高度をゆっくり落とすと――ディアブロが人型に変形した。
失速。よろめいて接地した真琴機は、航空形態の速度を殺さずにブーストを掛ける――。
「くっ‥‥!?」
が、地上形態の限界を超えて機体がバランスを崩し――真琴機転倒。
道路を破壊しながら猛烈な勢いで転がった。
「くっそぉ――ダメか!」
その隣を通り過ぎ、――土煙を上げてBCが基地へ接近していく。
残り2km。
その時、迅速にHWを殲滅していたラウラ機が基地手前にギリギリ着陸。
しかもそこには、後方へ撤退していた覚羅機も展開していた。
「ここは抜けさせないよ‥‥絶対にね!」
BC接近。ボロボロの覚羅機『黒炎凰』が砲声を張り上げる。
ツングースカの弾幕がBC側面に集弾。火花を上げて装甲を吹き飛ばすBC。大きく傾きながらも、しかしもう基地は目前。勢いは止まらない――。
だがそこへ。両肩の翼が黒く塗られたフェニックスが、飛び込んだ。
「通すわけには‥‥いかないわ」
雪村を握る『merizim』が一閃。BCを、両断した。
直後、――吹き上がる爆炎。
だがそれは基地の数十m手前まで来て――‥‥力尽きたように、霧散した。
荒野の外れ、爆炎に遠ざかりながら‥‥ガリアとオリージュは愕然とした表情を浮かべている。
『まさか‥‥今回も失敗だなんて、ね‥‥』
オリージュの言葉に、ガリアも額に流れる血を拭って鼻で笑った。
『ククッ、どうなってやがる‥‥。奴ら――強ぇじゃねぇか』
二機ともボロボロだった。
しかもその頭上にUNKNOWN機と透夜機、幸香機が飛来する。だが、着陸するかどうかは迷っている様子だった。
恐らくはタロスの地空展開能力を警戒しての事だろう。
そのチャンスを逃さず、二体のタロスは荒野の彼方へ退いていく。
用意した全ての手を――止められて。
「‥‥敵全機の撃破、撤退を確認致しました。情報管制を終了いたします」
基地上空。
セバスチャンが額の汗を拭ってからウーフーのジャミング中和装置を落とす。
戦闘を終えて、基地に響く歓声の中を各機が凱旋した。
全身を煤けさせた黒尻尾のフェニックス、漆黒の巨大KV破曉。
槍を掲げる黒金のシュテルン、純白に真紅のラインが入ったディアブロ。
超巨大ハンマーを担ぐ雷電、メタルレッド一色のS−01H。
殺虫剤を切らしたイビルアイズも滑走路に着陸する。
『‥‥While theres life theres hope』
K−111を緩やかにバンクさせながら、地上で見上げる人々へ希望の言葉を送る。
次々に各KVが帰還し、その英雄達には熱い歓声が投げられた。
「やれやれ‥‥今回も派手にやってきたじゃねぇか」
その中で整備隊長のグレッグ中尉だけが軽くぼやき、すぐさまKVの点検へ向かう。
‥と、ふいにディアブロのコックピットから、特大の袋をサンタのように抱えた真琴が飛び出した。
「‥‥おう?」
「いつもご苦労様☆これは私からのお礼だよン」
唖然とする整備班を尻目に、真琴はそう言って機体から飛び降りる。
そして特大袋を開くと‥‥そこには大量のお弁当がギュウギュウに詰まっていた。
呆然としながらもグレッグは、ようやく事態が飲み込めたらしい。
一つ苦笑した後、部下の方へしかめ面で振り返る。
「やれやれ‥‥おいお前ら! こりゃあ手抜けねぇぞ、礼に応えてシッカリやれ!」
その叱咤に大声で返事し、整備員達が散っていく。真琴へと感謝の笑みを浮かべて。
ミズキも自機のハシゴに足を掛けながら、ふと傷だらけになった愛機に手を当てた。
「キャスパー。何だかここに呼ばれたのかな、ボク達は。いや‥‥んな訳ないか。関わりなんて全く無いんだから」
苦笑し、肩を竦めるミズキ。
だが愛機とこの地の首都が同名という事実に‥‥不思議な縁を感じながら。
「なんとか護れたか。だが――」
透夜がコックピットから、開かれた格納庫に目を向ける。そこには溢れ返る人々が、様々な表情で傭兵達に歓声を上げていた。
その表情一つ一つを胸に刻みながら、透夜が呟く。
「俺達の反撃は――これからだ」
その言葉を吸い込んで、夕陽が赤土の荒野へ沈んで行った――。
NFNo.017