●リプレイ本文
傭兵部隊は月光の下を突き抜け、数キロ彼方に赤々と燃える部隊を視認する。
「甘かった‥‥近々どころかこのタイミングでの襲撃とか‥! いくら競合地帯とはいえ基地の目と鼻の先にこれだけの規模で展開されてたのを気づけないなんて‥‥」
ワイバーンを駆る水上・未早(
ga0049)が強く歯噛みする。いつも冷静な彼女ですら、表情が険しくなっていた。
「コールサイン『Dame Angel』、撤退部隊の救助に駆けつけ、敵群の強襲を退けるわよ」
アンジェラ・ディック(
gb3967)は任務目標の再度確認。
その目と鼻の先に、もうワーム群が見えていた。
「基地、まで、後、一歩‥‥部隊、を、守り、抜いて、みせ、ます! 降下、開始!」
ルノア・アラバスター(
gb5133)機がガリア隊の後方へ高度を落とす。両脇の鹿嶋 悠(
gb1333)機と鳳覚羅(
gb3095)機も合わせて降下。
『あいつらを着陸させんじゃねぇ!』
だが漆黒のタロスが腕を振り、RCに迎撃態勢を取らせた。
直前、悠機が煙幕装置を発射。降下地点に濃い白煙が広がる。
さらにUNKNOWN(
ga4276)機がツインブースト起動、緊急加速。強力なソニックブームを地上に巻き起こす。‥が。
『二度も同じ手を喰うかよ!』
ガリア隊は構わず白煙の方向に砲撃。
ソニックブーム牽制の効果は薄く、逆に輸送車両の窓を割っただけに留まった。
対ガリア班の三機は、光条が乱れ飛ぶ白煙の中を強行着陸。運悪く覚羅機だけが数度被弾した。
「ッ――数が多いね‥‥ちょっと骨が折れそうだ」
覚羅機は変形しながら双機刀と黒翼を展開、前方の敵を威圧する。
「さあ、お姫様をエスコートするとしましょうか!」
ルノア機を挟んだ反対側、悠機の帝虎が銃を構える。
そして中心のルノア機が。
「‥‥負け、ません。黒い、タロス!」
二機の援護を受けながら――引鉄を絞った。
「行こうかフェニックスちゃん。君の力、頼りにしてるよ」
上空から敵位置を目視した後、蒼河 拓人(
gb2873)機は撤退部隊の中央へと降下。さらに未早機、アンジェラ機、UNKNOWN機、風羽・シン(
ga8190)機がそれぞれ、強力なノイズの海へ降り立っていく。
だが、その着陸の隙を――オリージュ隊は逃さなかった。
『撃て』
号令の下、宵闇が一瞬紫に輝く。
拓人機以外のKV各機が被弾。アンジェラ機がBRキャンセラーを起動しようとするも、効果範囲の外だった。
その砲火の中でシン機が銃を握る。
「手荒い歓迎だが‥はいどうぞって、お前らに喰わせる訳にゃいかないんでな。悪いが、すきっ腹抱えて帰ってもらうぜ」
シンが鋭く外部モニタを睨む。
敵ゴーレム隊に切り込むのは多勢に無勢。だが相手が接近して来ない事から、この敵はタロスとRCの援護要員だと看破する。
「――EQ反応あり! 浮上するよ、シン機の真下!」
突如、計測器を設置した拓人が反応を検出。
シンも自前の計測器でそれを検出。舌打ちしながら射程範囲外へ機体を走らせる。一瞬の後、シュテルンが居た地面を‥‥EQが突き破った。
「‥軍はCW迎撃だ。通信回復を」
EQが出た場所とは車列を挟んだ反対側、外部スピーカーを響かせるUNKNOWN機。ブーストで駆け抜けざま、バルカン掃射で三体のCWを撃ち貫く。
「中央、車両間を空けてくれ。‥ふふっ、そして次こそ覚えてもらおう。この機体は――」
「EQが潜行するわよ!」
UNKNOWNが何か言いかけたのを、アンジェラの緊迫した声が掻き消す。
EQは身体を震わせて地中へ。
「EQの位置情報を全機に送信します!」
拓人がすぐさま計測器の検出結果を全機へ転送する。しかし――。
「‥‥ダメね。ジャミングでろくに映らないわ」
間にKVを通して受け取った地殻変化計測器のデータは、CWの影響をモロに受けていた。
手間どる内に、ゴーレム隊の紫光が部隊へ飛来する。
「Holger機、牽制を掛けます! シンさん!」
「おぅよ! 行くぞ!」
未早機とシン機が激しい弾幕の中を、前へ。
部隊との射線に割って入り、敵の熱いキスを受けながらライフルで反撃する。
焼き焦がされ、溶けてゆく各部装甲。
しかしそれにも構わず――二機のKVは五倍の数の敵へ弾幕を張り続けた。
対ガリア班。
RCの群れへブースト突撃する、濃紺の雷電と漆黒の破曉。プロトン砲の光条を受けながらも、さらに加速。
悠機は砲撃をものともせずRCに接敵、巨大な剣を振り下ろした。
斬撃にひしゃげて裂ける砲身。
さらに間髪をおかずスラスターライフルを撃ち放つと、別のRCが被弾。血と肉片が弾け散った。
「この帝虎と俺を止められるものなら止めて見せろ!」
猛々しく咆え、紅肩の雷電が荒れ狂う。
その死角をフォローするように、反対側で覚羅機が双機刀と剣翼装甲「黒翼」を乱舞させていた。群がるRC達を切り裂き、黒い大地に血を注ぐ。
だが恐竜達も反撃する。長い爪を振り、鋭い牙でKV装甲を噛み砕いた。
CW怪電波の影響範囲外で覚羅機は一体目の攻撃を全て回避。
しかし、‥‥二体目、三体目と続く攻撃を捌き切れない。代わりに黒翼を展開し、敵の凶暴な攻撃を防ぐ。
一方、悠機は巨剣で全ての攻撃を受け切っていた。爪や牙が赤い刀身を激しく叩き、火花が闇を照らす。
熾烈な戦闘。
月光の下で剣戟音を響かせて、RCの群れは徐々に切り開かれていく。
そして、その中央で斧を構えた黒いタロスへの――道が出来た。
「怪力馬鹿の猪だ‥‥計り間違えるなよ、ルノアちゃんッ!」
覚羅の言葉に呼応するように。
――真っ赤なS−01Hがブーストを噴き上げて躍り出る。
『ハッ、また来たか。‥‥赤い鳥の亡霊がぁ!』
振り下ろす巨大な斧。突き上げるルノアの剣。
両者の得物が甲高い剣戟音を響かせる。
闇に一際大きな火花が散って斧と剣がせめぎ合う。一瞬だけ照らされ、二機はわずか1mの距離で対峙する。
「ルノア‥‥。覚えて、おいて、下さい」
赤いS−01Hの外部スピーカーから、たどたどしく漏れる声。
その音声はマイクで拾われガリアの耳へと運ばれていく。
「貴方を、倒す者の――名前、です」
モニタ一杯に映る黒タロスの赤い頭部センサーを睨みつけて、ルノアはそう宣言した。
『J』のエンブレムを付けたワイバーンが、フルブーストで戦場を駆け回る。
ライフルでゴーレム群を掃射。部隊に接近するゴーレムを発見すれば高速接近、体当たりを掛ける勢いでロンゴミニアトを刺し貫く。
噴き上がる爆炎の中を抜け、さらに次の敵へ。
「せめて‥後30秒っ! 何としてでも食い止めないと‥‥ッ!」
だが気持ちの逸る未早機を幾多の閃光が包み込む。数本を避けた後、六つの光条が機体装甲を融解させた。
「ちっくしょうが、息つく暇もねぇッ!」
シンも悪態を吐きながらトリガーを引く。
未早機を助けるように援護射撃、そして反対側のゴーレムへもライフルを連射する。
だが、CWの影響で照準が甘い。二体のゴーレムはそれを回避しつつ、シン機へ反撃の火線を吐いた。
既に損傷率が六割を越すシュテルンはPRMを起動、防御力を高めて生存性を確保する。ゴーレムの砲撃に被弾すると、装甲が吹き飛びスパークが散る。
さらに的確なオリージュの指揮により、ゴーレム群は効率的に統率されていた。
だがそこへ。
「部隊中央、車両間が空いた‥‥。私はゴーレム側へ向かおう」
機体を左右に滑らしつつ、ブーストを掛けるUNKNOWN機。すれ違いざま、スナイパーライフルで五体のCWを撃墜していく。
そのKVの登場により劇的に変化するパワーバランス。オリージュが思わず舌打ちし、ゴーレムの編隊を組み直す。
撤退部隊の方では、拓人機とアンジェラ機が軍KVと共にCW掃討に走る。
拓人機がスナイパーライフルでCWを一体狙撃。大きく弾けたCWへ、次弾装填と同時にもう一度トリガーを引いた。爆炎を上げて落ちるCW。
さらに自動機銃ファランクスが火を噴き上げ、軍KVがダメージを与えていたCWを撃墜する。
軍KV全機も攻撃し、そのままCW五体を破壊。
同じように、アンジェラ機もスナイパーライフルでCWを狙い撃つ。二発目の直撃と同時、青いキューブは宵闇を焦がして爆発した。
「E7キューブ撃破! 残りは四体、部隊の西側よ!」
アンジェラが全機に通達。通信のノイズも減少し、レーダーも復旧しかけていた。
だがその電子データの海の中に――ジャミングに紛れて不吉な影が過ぎる。
即座にアンジェラが計測器データを振り向くが、レーダー上自機周辺にノイズが走る。EQの位置が特定できない。
だが、直接設置した拓人は計測器データがクリアに見えていた。――浮上する、EQの影が。
「まずい! 下だよ、アンジェラさん!」
拓人が叫んだ直後。
「しまっ――!」
アンジェラの声は轟音に掻き消える。
イビルアイズの足元の地面が割れ、巨大ワームにアンジェラ機は飲み込まれた。
強化してあるものの地殻変化計測器一つだけで若干発見が遅れた事と、計測データのリンクがジャミングで妨害された事で――遅れを取った。
吐き出されたアンジェラ機は大破。
ひしゃげた機体は月光の下で不恰好なオブジェクトのように沈黙する。
さらにUNKNOWN機が抜けた事も裏目に出た。地上に現れたEQを軍KVと拓人機だけでは抑え切れない。
EQは突撃ガトリングとハンマーボールを被弾してよろめきながらも、その巨体を大きくくねらせて暴れまわる。
拓人機の装甲が体表の刃に切り裂かれ、さらに巻き込まれた一般兵器車両の十数台が大破。
だが、そんなミミズの体表で――激しい爆炎が噴き上がる。
「ゴーレム対応をUNKNOWN機に委任、私達はEQを10秒以内に仕留めますッ――!」
「全員動けるか!? 一気にぶっ潰すぞ!」
双方向から機槍を構えて馳せる未早機とシン機。
二機が高速でEQに突撃すると、ロンゴミニアトの爆炎が赤く夜空を照らした。
さらに軍KV達が集中砲火を浴びせ、拓人機もそれに加わって射撃。マシンガンの弾幕が敵の骨肉を抉った。
猛攻に怯んだEQが地中へ潜る――より早く。
もう一度振るわれたシン機の槍が、傷ついたEQを貫く。
――瞬間、爆炎を噴いてミミズの頭部は木っ端微塵に砕けた。
「っしゃあ! EQを討ち取ったぞッ!」
「お見事です! Holger機、直ちにゴーレム対応へ戻ります!」
未早機はすぐさま機体を翻して、駆ける。
「軍KVの皆さんは車両部隊を引率して、空白地帯から移動を!」
拓人機は指示を出しつつ、残りのCW掃討へ移った。
黒いタロスが振るう巨大斧。
ルノア機が機盾「レグルス」で受け止めると、怖気が走るような轟音が鳴り響く。
ルノアは機体を後退させつつ、損傷率をチェック。まだどうにか機体が動く事を確認する。
『‥‥チッ、今日はしぶてーな‥‥。いい加減にうぜぇんだよッ!!』
ガリアが殺気を漲らせて叫び、ルノア機へ跳躍。
巨大斧に数m分の落下速度を付与して――振り下ろす。
だがそれを、ルノアは待ち続けていた。
「そこ、ですっ!」
相手の斧に横から剣を打ち合わせると、全力回避機動。刃の上を高速で巨大斧は滑り、KVの肩を掠めて地面を叩く。
そのめり込んだ刃を踏みつけ――ルノア機がハイ・ディフェンダーを振るった。
外部装甲を切り裂き、生体部にまで浅く傷を付ける。
『ハッ、その程度で――』
「おっと、どこへ行くんだい?」
鼻で笑って距離を詰めようとしたガリアへ、別方向から声が掛かる。
直後、コックピットに鳴り響くアラート。脚部に異常が発生し、外部モニタに目を向けると。
左方向から覚羅機が、射出した機杭でガリア機の片足を――地面にまで貫いていた。
そのほんの一瞬だけ、行動不能に陥るガリア機。
RC対応班による連携【楔】が発動した今、その最後の一機、悠機が――地獄の赤い巨剣を、黒タロスの背中へ叩きつける――!
「帝虎の牙に砕けるが良い!」
強力な一撃が、タロスの飛行装置通称「天使の輪」を完全に叩き斬る。青白い電光が上がり、装置は沈黙した。
『なっ‥‥!? くそ、装置が――』
ガリアの声に動揺が走る。
それを見やりながら、対面のルノアが剣を構えた。
「もう、逃げ、られ、ません! 覚悟、です、黒い、タ――」
突如。
銃声が、月夜を切り裂いた。
奇妙な静寂の後、ルノア機が脱力して膝を付く。直後に左腰のエンジンが爆発。そのまま地面へ崩れた。
『‥‥潮時よ、ガリア』
50mほど離れた場所で硝煙をなびかせて立つ、深蒼のゴーレム。
一機だけ群から離れ、こちらへと来ていたのだった。
『旗色が変わったわ。これ以上は‥撤退できなくなるわよ』
『‥‥フンッ、分かってらぁ!』
黒タロスが足の機杭を引き抜き、動き出す。途端に、その傷はみるみる塞がって行く。
それを阻止しようとする悠機と覚羅機。
――しかし、そこへ三匹のRCが襲い掛かった。
その対応に追われる二機を尻目に、タロスとゴーレムは荒野を静かに撤退していく。
それを遠目に見ながら、残ったゴーレム五体と交戦するUNKNOWNが微かに眉をひそめた。
「‥‥逃した、か」
グングニルをゴーレムの胸に貫き、さらにナックルを別のゴーレムへ。バルカンが火を噴き、ソードウイングで敵を切り裂く。
五体のゴーレム相手にも退けを取らず、突出した能力を誇るUNKNOWN機。
だがそれでも――個の力では限界がある。
UNKNOWNはオリージュ機がゴーレム群を抜けたのも、撤退していく事も、目を細めて見送るしか出来なかった。
‥さらにガリアへの連携攻撃に集中した隙に、RC群の四体が撤退部隊へと接近。スワロー隊と交戦していた。
激しい戦闘の末、軍KVはRCを三体撃破。ボロボロになりながらも、最後のRCへ全力の集中砲火を浴びせた。
「やったッスか!?」
「‥‥いや、まだだ! タロー!」
致死量以上の弾丸を浴びながら、RCの皮膚は緑色に変わり生き残っていた。
気を緩めたタロー機を襲う牙。だがそれを――アロルド機が割って入り、受け止めた。
「隊長ッ――!?」
タロー機の目の前でアロルド機の胸部が砕け、コックピットが大破する。
直後、応援に駆けつけたシン機と拓人機。その十字砲火が今度こそRCを仕留めた。
「隊、長‥‥」
だがタロー機は。大破したアロルド機の前で、動く事が出来なかった。
敵の殲滅終了後。
事後処理に慌ただしく各員が動き回る。
『各機周辺警戒を! 手の空いた者は怪我人の手当てを急いで下さい! ‥‥軍曹、アロルド中尉は‥‥?』
ヒータが撤退部隊を整えながら、タロー軍曹に訊ねる。
その問いに軍曹は目を伏せ‥‥首を横に振った。
そのやり取りを見ながら傭兵達も、ある者は唇を噛み、ある者は目を伏せ、悲しげに眉を寄せる。
それでも今は、一刻も早く生きた重傷者達を後方へ運ばなければならない。
『被害は少なく無い‥‥。でも生き残った人は――これだけ居ますから』
気丈に微笑んで見せるヒータと、正規軍の人間と。
それらへ思い思いに強張った表情を返すと――傭兵達は夜空を帰投していった。
NFNo.015