タイトル:【NF】再会、湖。マスター:青井えう

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/12/29 15:35

●オープニング本文


 北米ワイオミング州ナトロナ郡。
 現在その戦域は芳しくなく、陥落したベッセマー・ベンド基地からの一般人も含めた大部隊が、後方基地のパウダー・リバーへと撤退を行っている所だった。
 しかし、途中の補給地点として目論んでいた秘密拠点は全てバグアの手に落ちていた事が分かり、さらに敵の機動部隊による襲撃で損害が増している。
 負傷者を抱え、食糧・物資も乏しくなり始めたナトロナ撤退軍を、少しでもサポートする事が現在の急務だった。

 偵察任務から帰還したライト少尉は、そのまま司令室へ出頭するように命じられた。
 ライトは駐機した戦闘機のコックピットで訝しげに首を傾げる。
 能力者でありながら、KVを大破させた事によって現在は通常戦闘機で構成された偵察部隊「ホークス・アイ」に編入されているライト。
 しかし、格納庫を見渡せば代わりのKVが届いたという風でも無い。
 だが偵察任務の事ならばホークス・アイ隊長も同行するはずだ。
 ならば、何か失態でも犯しただろうか。
 心当たりがあるのは、ホークス・アイ隊長と副長がポボス司令の個人的な酒の保管庫に忍び込んだ時、無理矢理見張りに立たされた事ぐらいだが‥‥。
 色々と頭を捻りつつ、重い足取りで機を降りるライト。
 ふとそこへ声が掛かった。
「少尉、ドンマイ!!」
「「ドンマイ!!」」
 満面の笑みを浮かべた偵察部隊の面々。
 思わず苦笑して立ち止まるライトの方へと、隊長が神妙な面持ちで近付いてきた。
「少尉。二つだけ命令する、よく聞け」
「‥‥何でしょう?」
「必ず生きて帰って来い。それから‥‥『アレ』については絶対に口を割るな。君の命に代えてもな」
「あの、スカット大尉‥‥命令に矛盾が――」
「では健闘を祈るッ!!」
 ライトの言葉を強引に遮って、やたら仰々しい敬礼の姿勢を取るホークスアイ隊長。
 他の隊員達も一斉にライトへ向けて敬礼をした。
 ライトはしばし逡巡、肩を大きく落として溜め息を吐く。
「‥すいません少尉、お願いします! 後で好きなモノ奢ってあげますからッ。実はバレたの三回目なんですよ、今回で!」
 副長の切羽詰った必死な懇願に、思わずライトは苦笑した。
「‥了解、まぁ全然違う事かもしれませんし」
 ライトの言う通り、まだどうして呼ばれたのかは分からないのだ。
 出来るだけ気丈に振舞って格納庫を後にする。
 その頼もしい背中を、偵察部隊の精鋭達は安堵したように見送った――。


「‥‥よく来た、少尉。君に任務を与える」
「ッ‥‥」
 ポボスの厳めしい言葉を聞いて、カチカチに緊張していたライト少尉は大きく安堵の溜め息を吐いた。
「‥‥どうかしたかね?」
「いえ、何でもありません」
 すぐに表情を引き締めて返答するライト。
 ポボス司令は訝しげな表情をしていたが、また何事も無かったように口を開いた。
「そうかね。ま、それよりも任務の話だ」
「はっ」
 ポボス司令の机上には、様々な情報が書き込まれたナトロナ詳細地図が広げられていた。
 司令はその一点、パウダーリバー基地から直線距離で30kmほど離れた所にある湖を指差した。『アダムズ貯水湖』と表記された、比較的大きめの湖である。
 その部分を叩きながら、ポボスはライトの方へ顔を上げた。
「今日の十七時、ここに撤退部隊が到着する手筈になっておる。しかし、秘密拠点での補給が不可能だったからな。部隊の燃料もそろそろ切れ出す頃なのだ」
「そう‥でしょうね」
 ライトも頷いて同意する。
 ベッセマーベンド基地を脱出してから、相当な時間が経っている。基地から持ち出した燃料も、そろそろ底をついている頃だろう。
「さらに先の『Rex Canon』との戦闘を始め、小規模な戦闘も何度か起きている。それによる怪我人、KVの損傷、さらに悪辣な環境のせいで病人も出始めているらしい。
 そこで司令部では部隊に補給物資を送り、その帰りに怪我人と病人を先にこの基地へ搬送する事にした」
「では、任務とは‥‥」
「うむ、その補給部隊の護衛だ。生身で車両に搭乗し、任務に就け。それと‥‥くれぐれも重要なのはKV関連の物資だ。我々の軍は今、KVを失うわけにはいかん。燃料切れなどのつまらん事情でKVを放棄するわけにはいかんのだ。良いか少尉。‥今度は死ぬ気で守れよ」
「はっ!」
 別の任務でKVを大破させたライトに対する強烈な皮肉だったが、ライト自身はやる気を漲らせて返事を返す。その口元には僅かな笑みすら浮かんでいた。
「むっ‥‥よし、では準備に入れ。行って良いぞ」
 期待していた反応とは違った事に面食らいながら、ポボス司令は退室の許可を出す。
 ライトは敬礼を返すと、そのまま司令室を後にした。

 兵舎の自室で装備の点検をしながら、ふとライトは鏡に写った自分の肩に目が留まった。
 無骨な軍服に縫い付けられた『イカロス隊』の片翼マークのワッペン。
 部隊員は隊長のヒータ大尉と副長の自分だけという、無茶苦茶な部隊である。しかもその自分がKVを大破させてしまったせいで、大尉は一人だけのイカロス隊として撤退部隊の護衛に付いている。
 それに対して、ただの通常戦闘機に乗って偵察し、よりにもよって比較的安全なパウダーリバー基地に帰還できる自分が、暖かい飯も、安心して眠れる場所もある自分が、歯痒くて仕方なかった。申し訳無くて仕方なかった。
「少しでも‥‥役に立てるなら」
 アサルトライフルを組み立て終わり、弾倉を射し込む。薬室に一発目の弾丸を送り込むと安全装置をかけた。
 窓の外では輸送用車両が慌ただしく倉庫を出入りしている。それに目を向けながら、数時間後に始まる任務を頭の中で何度もシミュレーションする。
 この任務は絶対に成功させる、と意気込みながら。

●参加者一覧

水上・未早(ga0049
20歳・♀・JG
ブレイズ・カーディナル(ga1851
21歳・♂・AA
セラ・インフィールド(ga1889
23歳・♂・AA
ヴァシュカ(ga7064
20歳・♀・EL
龍深城・我斬(ga8283
21歳・♂・AA
ラウラ・ブレイク(gb1395
20歳・♀・DF
篝火・晶(gb4973
22歳・♀・EP
ゼンラー(gb8572
27歳・♂・ER

●リプレイ本文

●出発〜一六三○時
 合流地点へと向かって、輸送車両群が白い排気ガスを撒き散らして南下していた。
 大行列の騒々しい音に、道路近辺にたむろしていたムース(ヘラジカ)やコヨーテが走り去っていく。
 それでもなお残るのは――。
『‥‥支援要請、D隊右を並走している一群にFFを確認。奴ら天然モノじゃないな。駆除してくれ』
 キメラ。
 ライト・ブローウィン(gz0172)が無線機に言い放った直後、耳をつんざく砲声が響き渡った。
 KV兵装による各機射撃。小中型キメラの群れが次々に鉄片と土混じりのミンチに変わる。
 だが数体はその火線をかい潜って――輸送車両へ近付いた。
 乱れ飛ぶ一般兵の対戦車ロケットとライトの射撃。
 そこへゼンラー(gb8572)のナナハン『milestone』が急速接近。キメラを轢き倒し――機剣を薙ぎ払った。
「あんまり遅くなって人々を不安にさせたくないしねぃ‥すぐ、終わらせようねぃ」
 ゼンラー機の一振り毎に異形の怪物達が地面へ散乱する。台風のように暴れるヘルヘブンに巻き込まれて、あっという間に敵は全滅した。
 だが、その様子を上空から見ていた篝火・晶(gb4973)は小さく顔を曇らせる。
「すいません、群れがキメラかどうか判別できませんでした!」
「お気になさらず。引き続き空からの警戒をお願いします」
 隊の最後尾から、水上・未早(ga0049)が返答する。そうして自らも、各モニタに異物が映り込まないか細辛の注意を払い続けていた。
 その部隊の先頭では、ブレイズ・カーディナル(ga1851)と龍深城・我斬(ga8283)が車両隊を先導する。
「‥‥撤退、か。なんとかして基地を守りきろうと結構頑張ってたのにな‥少し残念だ」
「確かにな。だが何にせよ、物資は無事に届けてやろうぜ。‥しかし、この規模をKV八機で守るのって多いのか少ないのかどっちなんだろ?」
 珍しく気落ちしているブレイズへ、気を紛らわせるように我斬が話し掛けていた。
「‥‥それにしても、静かですね。SBを絶ってきた以上、その結果である大規模補給は当然狙ってくると思ったんですけど‥‥」
 未早が、荒野に目を細めてポツリ呟く。
 しかしそのワイバーンと並走しながら、ヴァシュカ(ga7064)はニコニコと笑顔を浮かべた。
「‥でも何も無いのは良い事ですよ〜。皆の方は大丈夫かな〜?」
 撤退部隊の顔を思い浮かべて、ヴァシュカは上機嫌にKVを走らせる。
 それからも散発的な掃討を繰り返しつつ、部隊は合流地点へと進んで行った。

●一六五○時〜再会
 先にアダムズ湖に到着した撤退部隊は、野営の準備に移っていた。
 夕陽が沈む中、白い息を吐きながら各員は作業をこなしていく。避難民達も十数時間ぶりに外へ出て、強張った体を動かしていた。
 そんな野営地片隅の医療用車両の近くでは、大勢居る傷病者のトリアージが行われている。
 補給部隊出発前にゼンラーが要請しておいたものだ。物資が不足する中、衛生兵達に出来るのはそれぐらいだった。
 軍KVも稼動し、野営地周辺の警戒に当たる。
 だがふとその内の一機、――イカロス隊ヒータ機がセンサーに異質な音声を捉えた。
「これは‥‥鈴の音?」
 ヒータの言葉を聞いた周辺の人間が、微かに響く音に耳を澄ませる。
 その音はやがてメロディを伴い、聞き覚えのある楽しげな音楽に変わり――。
 直後。
 パウダーリバー方面の道路から、ヘッドライトを点灯させた幾つもの車両が姿を見せた。
 その中に、赤と白のサンタ姿にペイントされたシュテルンが浮かぶ。
 そのKVは陽気なクリスマスソングを流して野営地の面々に手を振っていた。
「どうも皆さんお待たせしました。少し遅れましたが、クリスマスプレゼントの到着です」
 サンタシュテルンに乗ったセラ・インフィールド(ga1889)が外部スピーカーで声を響かせる。
 その華やかな演出に、思わず兵士や避難民達の表情に笑みが浮かぶ。子供達も嬉しそうに歓声を上げた。
 KVで輸送車両の誘導をしながら、その様子を見たラウラ・ブレイク(gb1395)も顔を綻ばせて目を細める。
 傷つき、汚れ、疲れ果てた人々も笑顔を浮かべる事は出来る。‥‥町は守れなかった。それでも本当に守りたいものは目の前に。
 自分達はまだ負けていないのだ。
 ラウラはその気持ちに自然と拳を握りつつ、今はただ車両の誘導を完了させた。
 整然と並び終える車両。
 その先頭から軍服姿のライト少尉が降り立つと、出迎えに立っていたヒータの前まで歩み寄って直立の敬礼をする。
「イカロス隊副長ライト、輸送車両四十台、傭兵KV八機と共に到着しました」
「ご苦労様です、少尉。‥‥本当に久しぶりですね。なんだか、凄く――」
「ういやっほーう! 飯が来てるじゃねぇかっ!」
「隊長‥‥、あんたって人は! ほんっと空気読めないんですねッ!」
 バタバタと二人の横を通り過ぎて行くクロウ隊。
 そうして後に残されたヒータとライトは、気まずそうに苦笑を浮かべた。
「‥相変わらずのようで」
「ええ、そんな感じです。‥‥私達も補給を手伝いましょうか」
 中途半端に申し送りを終えて、動き出す二人。
 そのまま号令を掛けると、控えていた兵員達もそれぞれの作業に動き出した。

●一七○三時〜各作業前半
「‥‥なんだぁ、こりゃ」
「避難民の名簿作成用紙です。工作員などが紛れ込むのを防ぐ為にも、この機会に作成すれば良いのではと」
「ほほぅ、な〜るほどなぁ」
 糧食が詰まれた車両の隣で大仰に頷いてみせるバルト。そんな彼に名簿作成の依頼をしているのは未早だった。
 それをすぐ側で見ていたカスピ少尉が後退りする――が、その首根っこをしっかりバルトは捕まえた。
「聞いたな、お前が責任持ってやれ」
「‥ぐぐ、嫌だ‥いえ、了解‥です‥」
 その返事で、ヘッドロックから解放されるカスピ。貪るように呼吸する。
 そんなやり取りに未早は苦笑しつつ、申し訳無さそうに見ていた。
「‥あの、すみません。本当は自分でやろうと思っていたんですが、前半時間は見張りになってしまって‥‥」
「なぁに、気にするな! コイツそういうの好きなんだよ!」
 陽気に笑いながら、どんより瞳の曇ったカスピの肩を叩くバルト。
 力ない笑顔のカスピにもう一度軽く頭を下げると、未早はさり気なくその場を後にした。
 他に見張りは三人。
 大まかに範囲を分けて、四人の能力者は見張りに回った。
「どのKVも損傷が目立つな‥‥よく今まで持ち堪えたもんだ」
 見張りの傍ら、チラリと軍KVの方に目を向ける我斬。
 リペアパーツで補修作業を受けているKV達は、その傷痕から今までの戦闘の激しさが手に取るように分かった。
 せめて今だけは安全を確保できるように、と。
 我斬は銃を構え、無線機で定期報告を送る。

『‥こちら我斬、異常無しだ』
「了解! 岩龍も特に敵影らしきものは探知していませんね」
 晶は待機状態の岩龍でそれだけ確かめると、コックピットから降りた。
 今度は自分の足で、レーダーに引っ掛からない小キメラの警戒を行う。ゴーグルの下にある瞳は真剣そのものだった。

 アダムズ湖の水際。
 そこではブレイズが注意深く見張りに当たっている。
 水面は微かに風で波立っていたが、生き物の気配は感じられない。
「キメラの襲撃は無さそうだな‥‥」
 呟きながらも気を抜かず、警戒を続けた。

「‥‥安心してねぃ、しんどいだろうけど、今処置できたら、問題なく助かるからねぃ」
 豊富に補給された医薬品と器具を使って、次々にトリアージされた重症患者を診療していくゼンラー。
 中には会話もままならない怪我人、病人も多かったが、ゼンラーが穏やかに励ましかけると、フッと患者達の症状が落ち着いた。
「さ、これで大丈夫だよぅ」
 流石「抜苦与楽の羅漢」という称号を持つだけあり、彼に診療されると不思議な安心感に包まれるらしい。
 そしてその後の処置は。
「‥はい、なんちゃって看護婦です」
 自分でなんちゃってと言っちゃったヴァシュカだった。
 さらにサングラスを掛けた出で立ちも不安に拍車をかけ、僅かに患者達の表情が強張る。
「‥けど、結構なんとかなっちゃうモノなんですよ〜?」
 が、そこは何でもこなすエクセレンター。ゼンラーの書いたカルテに目を通すと、テキパキと手際良く処置を施していく。
 最初は不安げだった患者達も、その手際とヴァシュカからふわりと香る花の匂いに癒されて、いつの間にか身を任せるままになっていた。

 一方、野営地の一角には子供達が大勢集まっている。
 『Merry X’mas』とペイントされたサンタシュテルン。そしてその中から降り立ったセラは、優しげな雰囲気とあいまって子供達に大人気だったのだ。
「どうしましょうか‥‥?」
 腕や服を引っ張られながら、セラは困ったような微笑んでるような顔でなすがままになっている。
 ‥と、ふいにKVから流れるクリスマスソングに合わせて誰かが歌い出した。つられて次々と歌い始める子供達。
 そして必然、中心のセラも子供達に促されて――おっかなビックリ歌い始めた。
 そうして湖のほとりの野営地に明るい歌が広がる。
 それを耳にしながら、ラウラは避難民に声を掛けて回っていた。
 力なく座り込む老人、寒々しい中年、震える婦人、赤ん坊を抱えた夫婦、寄り添う家族。
 彼ら一人一人に力が及ばない事を謝り、そして励まし、勇気付ける。
 町は必ず取り戻してみせる、と。
 あなた達が居る事が戦う理由と力になる、と。
「‥だから、生きて。辛くても生きてさえいれば希望は――消えないから」
 その言葉がよほど染みたのか。
 彼らは涙を浮かべて、何度も頷いていた。

●一八三○時〜作業後半・休憩
「‥ヒータさん。ライトさんが居なくて夜、枕を濡らした事なんてあっちゃったりします〜? ‥なぁんてね、クスクス♪」
「な、無いです! 全然!」
「大尉、そこまで否定しなくても‥‥」
 ヴァシュカのからかいに、赤面して否定するヒータと肩を落とすライト。
 ヴァシュカは愚痴等を聞きながら、さり気なく二人の距離を縮められるよう尽力していた、が。
「ヴァシュカさん、ゼンラーさん。そろそろ見張り交代の時間よ」
 ラウラの連絡をもって時間切れとなった。
「うん、丁度診療が終わった所なんだねぃ」
 最後の患者を診終えて、ゼンラーは立ち上がった。
 その後に続いて、ヴァシュカも渋々歩き出す。
 最後にラウラも動き――ヒータへ近寄った。
「‥‥ライト少尉は気負い過ぎてるみたいだから――少し話をしてあげて下さい」
「‥え?」
「それじゃ」
 ラウラは耳打ちしてから、微笑んで立ち去る。
 後にはライトとヒータの二人が残された。

 見張り交代は滞りなく進み、そのすぐ後に休憩時間へと移っていた。
 一般兵に混じりながら、我斬も自前のレーションを齧る。SES鍋を持って来ていたので、他の兵士達のレーションも温めて上げていた。
 その間、色んな人間との雑談に花が咲くのだった。
「ほんとによぉー‥‥ぶつぶつ‥‥」
「そっかー、おっちゃん達今まで苦労して来たんだなぁ。うんうん、世間様じゃ今時分は慌ただしくも楽しい時期だってのにねぇ」
 その相づちに励まされ、また滔々と話し始める一般兵。何気に聞き上手を発揮して、一躍人気者の我斬であった。
 その間、未早は各隊長間を回り、現在の戦況について意見交換を重ねていた。
 今回の大規模補給で敵の襲撃が無い事。恐らくは、大規模攻勢を控えているのでは無いか、という自らの予想。
 そして、敵の次手を知る為に何とかしてでも敵支配都市への威力偵察が必要だという意見を出して各隊長を考えさせる。
 その間、KV隊員はやたら煙草の紫煙で包まれていた。
「‥‥ごほ、その煙草も支給品ですか? 皆さん、凄く美味しそうに吸ってらっしゃいますね」
 少し咳き込みながら未早が聞くと。
「ああ、いや。これは彼から貰ったんだ。‥‥本当に俺達にとってのサンタだな」
 美味そうに紫煙を吐きながら、アロルドはセラの方を指差す。その差した指には、改造が施されて味も超絶品の煙草。
 そんな煙草を四箱渡され、隊員の中にはセラを見て十字を切る者が多数居た。
 そんな風に全員が思い思いの場所で食事をする間、晶は傷病者達の所へ行って彼らの食事を手伝っていた。
「はい、あーんして下さいねー」
 両手を使えない怪我人達が、蕩けるような笑みを浮かべているのは食事ができるという理由だけではあるまい。むしろ味が分かっているかも怪しい。
 他にもテキパキと点滴ボトルや包帯の交換をこなす晶の姿は、患者にとって素晴らしい天使に映ったようだ。
 構って欲しさにアレやコレやと要望が殺到し、晶は大忙しとなった。頑張れ!
 また、別の場所。
「‥大尉、少尉。ココアとコーヒーあるが、飲むか?」
 食事を済ませ、武器の整備をしていたライトとヒータへブレイズが話しかけた。
 二人は笑顔でブレイズの方へ振り返る。
「ありがたいな。俺はコーヒーを」
「じゃあ私はココアを頂けますか?」
 ブレイズは二人に飲み物を渡しながら、その場に座り込む。
 野営地は今、一段落して静寂に包まれている。人々はそれぞれに、暖を取りながら静かに固まって座っていた。
「‥‥なんだか、久しぶりに会うたびに戦況が激変してるような気がするな。それも、悪い方に」
 ブレイズの言葉に、ライトはコーヒーを啜りながら頷く。
「そうだな。しかしまぁ、君達の助けが無ければ今頃はここにも居ないよ」
「傭兵の皆さんのお陰で、敵の新型機にも対抗できていますしね」
 微笑を浮かべてヒータも同意する。
 だがブレイズは、小さく溜め息を吐いて暗くなった空を見上げた。
「そっか。‥ただ、少し悔しくもあるな。そんな重要な局面でその場に居られなかったことが、さ」
「そんな事――」
 言いかけたヒータを、ブレイズは笑顔と手で制する。
「分かってる。まあ、その分はいずれどこかで取り返すさ。戦いはまだ続く‥むしろ本番は、これからだ」
 白い息と共に、ブレイズは憂いを全て吐き出す。
 ただジッと空を見上げて――拳を伸ばした。

●帰投〜二○○○時
 傷病者を収容し終わり、各車両が順次発進していく。
 ラウラのリッジウェイも簡易医療仕様に変更され、数人の重症患者が衛生兵と共に乗り込んだ。ラウラは慎重に発進する。
「さて、無事帰るまでが任務だ。最後まで気を緩めず行こう」
 我斬が全機へと通達する。今まで敵の襲撃が無かったとはいえ、帰りも無いとは限らないのだ。
 それぞれ索敵に傾注しながら、しかしふとラウラがライトへ回線を開く。
「‥それでライト少尉、大尉とはどうだった?」
 少しからかい気味に。
 ライトは無線機の向こうで苦笑して、全機に回線を開く。
『‥ああ、約束した。次に会うのは――パウダーリバーで、と』
 力強く、明瞭なライトの声。
 各員は無言で頷く。
 そして夜闇を切り裂き――ひた走っていった。

NFNo.014