タイトル:【AW】バグア強行軍マスター:青井えう

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/09/30 06:25

●オープニング本文


【AW】バグア強行軍
「現在、オーストラリアから飛来したバグア勢力の強行軍が、ビンタン島で猛威を振るっている」
「ビンタン島?」
 東南アジアのUPC軍基地にあるブリーフィングルーム。
 そこに集められた能力者達は、その島の名称に首を捻った。
「君達の考え通り、ビンタン島はのどかなリゾートアイランドだ。UPC軍の柱となるような、中規模以上の主要な基地も無い。小スンダ列島、ジャワ海と強行してきたにしては、目標が中途半端な気もするが‥‥実際問題としてビンタン島は攻撃を受けている」
 説明する准尉は、ホワイトボードに地図を広げながらビンタン島市街地、タンジュンピナンを赤丸で囲んだ。
「敵戦力は、中型HWが四体、小型HWが五体、それに中型HWに運ばれてきた未確認陸上小型ワーム四体だ」
 准尉は真剣な顔で『未確認陸上小型ワーム』という部分を強調しながら、能力者達の方へ振り返った。
「この陸上小型ワーム、コードネーム『モグラ』は全長約6m。外観はHWを縦長にして、四脚を付けた感じだ。機動力はそれなりに高いようだが、KVよりも小さいワームだからな。耐久力はそれほど高いものでは無いだろう。前面部先端にはドリルのような物があり、それで突進しながら現在も建物を破壊して回っている。また、このドリルを駆使して土の中にも潜るようだ。EQを彷彿とさせるが、コイツの場合は地中に潜った状態でも情報戦用装甲車のレーダーで捉えられたそうだ。ただ、その状態でも視認できない分、モグラを狙うのは難しいだろうがな」
 分かったか? という風にそこで言葉を切ると、准尉は能力者達をグルリと見回す。
「このモグラと、小型中型のHWが今回の相手だ。しかし、敵さんは強行軍でビンタン島まで来たから、その間の対空砲火などでダメージを受けているヤツも居るだろう。数は多いが、普通よりは楽に倒せると思う」
 そう言いながらも准尉の表情は明るく無い。
 小さな溜め息を吐きながら、准尉は能力者達に分かりやすいよう、地図の赤丸を指差す。
「‥‥問題はここ、タンジュンピナンがバリバリの市街地だって事だ。さすがにワームが出た時点で住民のほとんどは町から避難したみたいだが、ワームどもは未だに町を破壊して回っている。建造物を全く壊すなとは言わんが‥‥出来るだけ回避して欲しい。といっても、HWはともかく、陸上型のモグラ相手にはそうもいかないしな。そこで、戦闘しても被害の少なそうな場所を幾つかピックアップしてみた」
 そう言って准尉は今度は緑のペンを持って、地図に点を打っていく。
「・第一ポイント。町の中心にある、木しか生えてない公園だ。約1km四方。出来ればここをメインにモグラと戦って欲しい。
・第二ポイント。第一ポイントから西へ約700m行った公園。ここは300m四方。
・第三ポイント。第一ポイントから南へ約1km行った河口の森、約五百m四方。
・第四ポイント‥‥と言って良いのか分からんが、町の東側は全体的に小さな林や平地が点在している。上手く戦えば被害は少なくできるだろう」
 説明し終えて准尉は一息吐くと、軽く肩を竦めた。
「まぁ、そのポイントへおびき寄せようと躍起になって、逆に町の被害が大きくなっては本末転倒だがな。その辺は臨機応変に対応してくれ」
 そう言って准尉が、能力者達を送り出そうとした時、ブリーフィングルームの内線電話が鳴った。准尉が受話器を取り上げる。
「――え、何ですって?」
 怪訝そうに聞き返しながら、幾ばくかの言葉を交わす准尉。
 そして受話器を置いたかと思ったら、首を傾げながら能力者達に振り返った。
「中型HW二体が、ビンタン島上空から離脱し――マラッカ海峡の方へ進路を取り始めたらしい。‥‥ったく、こんなリゾート地を攻撃するかと思ったら、HW二体がどっか行き出すし‥‥何か目的があんのか、宇宙海賊さんは」
 准尉は独り言のように呟いて、また顔を上げた。
「ま、とにかくその二体の始末もよろしく頼む。最近、この辺は小競り合いが多くて、正規軍は他の区域に出払っているんだ。手伝いは出来ん。なぁに、まぁその二体、飛行速度は遅いらしいから、ビンタン島を片付けてからでも十分間に合うだろ。もちろん、逆でも良いだろうし」
 そう砕けた感じで言って、准尉は能力者達を送り出したのだった。


・基本成功条件:ワームの殲滅
・近くの基地から発進する為、状況説明からのタイムラグはほぼ無い。
・町の破壊率は現時点5%程度。
・タンジュンピナンは約4.5kmの町。
・中型HW二体は強行軍で長い距離を飛んで来た為、もうある程度速度を落とさないと長い距離を飛べないと推測される。(燃費的に)
・50m以上の直線道路があるため、KVを地から空、空から地へと変形できる。
・地元の軍隊は極少数であり戦力にならない。住民と共に避難している。

●参加者一覧

桜崎・正人(ga0100
28歳・♂・JG
藤田あやこ(ga0204
21歳・♀・ST
ソード(ga6675
20歳・♂・JG
ヴァシュカ(ga7064
20歳・♀・EL
飯島 修司(ga7951
36歳・♂・PN
ロジャー・藤原(ga8212
26歳・♂・AA
龍深城・我斬(ga8283
21歳・♂・AA
蛇穴・シュウ(ga8426
20歳・♀・DF

●リプレイ本文

「グッドラック!」
 准尉に見送られながら傭兵KV部隊は出撃した。
 編成は、苛烈な攻撃性を持つ『F−108 ディアブロ』五機、知覚特化KV『PM−J8 アンジェリカ』二機、重装型KV『XF−08D 雷電』一機の、計八機で編成されている。
 飛行する傭兵達は、出撃してから数分と経たずにビンタン島を視認する。その周りを、ハエのように取り付くHW達。
「リゾート気分とは結構な御身分ですねえクソ宇宙人どもが。地球の『観光地価格』ってヤツを教育してやりましょうか」
 吐き捨てるような口調で蛇穴・シュウ(ga8426)が言う。
「ほんと、観光地を破壊するなんて反則だわ」
 藤田あやこ(ga0204)も眉を寄せて同意を示す。
 その二機の後方で軽く肩をすくめるロジャー・藤原(ga8212)。
「せっかく南の島に来たんだ。さっさと終わらせてバカンスといきたいもんだ」
「ん、同感だな。‥‥だが、それどころじゃ無さそうだぜ」
 桜崎・正人(ga0100)が前方を凝視する。遠目にも見て取れるほど、現在進行形で建物を壊しているHWと『モグラ』。
 空のHWから赤紅色の線が放たれ、陸のモグラが建物群に突進し、みるみる内に町はガレキと化していく。
「んー今回はモグラの試験運用が目的ですかねえ? なにはともあれ、迷惑なことには変わりありません。俺は空のヤツらをさくっと落とさせてもらいます」
 ソード(ga6675)が遠目に第一ポイントを確認しながら言う。
 その青色のディアブロの隣に、水色のアンジェリカが機首を並べた。
「‥む〜。ボクもモグラさんは他の人に任せてHWを相手しますかね〜」
 言いながらヴァシュカ(ga7064)がチラリと三時方向に目をやる。ゆっくりと戦線を離脱しつつある中型HWニ機。気になるが、今は町のワームを掃討しなければならない。
「土竜ワームねえ、どんな理由なんだか知らんがパンピーの憩いの場を土足で踏みにじった罪は償って貰う」
 陸戦班担当、重装の雷電を駆る龍深城・我斬(ga8283)がモグラを睨んだ。
 援護する形の空戦班、飯島 修司(ga7951)は改めて敵勢力を見回し、首を捻る。
「しかしどうにも奇妙、ですね。敵方は結構な布陣ですが、ここが強行軍を行ってまで攻撃すべきポイントとも思えませんが‥‥。ま、考えても仕方が無い。交戦空域に突入、作戦開始です」
 その通信を合図に、航空KV編隊が散開する。
 空戦班の初手は、第一ポイント上空へ小型HWの誘導。あやこ機、ヴァシュカ機、飯島機が誘導に当たる。
 散らばるHWに対して、三機がそれぞれの兵装を掃射。被弾、回避に関わらずHW達は航空KVに向き直る。反撃を受ける空戦誘導班。
「ほらほらっこっちですよ〜。鬼さんこちら手の鳴る方へってね♪」
 小型二機の弾幕を小さく掠めながら、軽い撹乱機動を織り交ぜて誘導するヴァシュカ。
 飯島機、あやこ機も、敵の進行方向へD−02や長距離バルカン等で牽制、巧みにHWを第一ポイントへと誘導していく。
 その中でただ一機、青色のディアブロが第一ポイントへ直行し、待機。兵装選択をK−01へ。戦況を見守りながらソードは――ただ待ち続ける。

 その間に、陸戦班は上空から町の状況を把握していた。地表に姿を現しているモグラは二機。他二機のモグラもKVのレーダーが捉えている。
「好き勝手やってやがるわね」
 シュウが上空で呟く。町の被害状況に規則性は見出せない。
「地元の情報戦用装甲車とも連絡は取れないな」
 ロジャーは言うと装甲車へ向けた通信チャンネルを閉じる。
 それで陸戦班は、これ以上の観察は無駄だと判断した。
 強行着陸を試みる。相互に簡単なパイロットジェスチャーを交わし、四機はそれぞれの着陸ポイントへ散開。
 陸戦班の作戦はそれぞれ直近の交戦可能区域に誘導し、一対一の戦闘に持ち込む事。
 高度、速度をクリアすると、全機が空中で人型形態へ変形。
 楽園島の四つの地点で、人型KVが轟音を響かせて降り立った。
 最初に着地、モグラと相対したのは雷電。
 相手の機先を制して、スキル超伝導アクチュエータ使用でスナイパーライフルRを撃ち放つ。
 被弾したモグラは雷電に向き直ると、鼻先のドリルで消えるように地中へ潜った。
「‥‥こっちへ向かってくる? 逃げるつもりは無いらしいが‥」
 雷電のレーダーには、モグラの機影が不安定ながら映っている。
 我斬は数瞬迷った後、KVを反転させてそのまま直近の第二ポイントへ誘導し始めた。
 他方、ロジャー、シュウ、正人の三人は誘導に手間取っていた。
 ロジャーは音か振動で相手がこちらを認識すれば誘導できると思い第一ポイントへ走ったが、モグラは無関心に町を破壊し続けている。
 正人は地中に潜るモグラをいぶり出そうと穴に照明弾を打ち込むが、入り口の数メートル先で土砂が穴を塞いでいた。
 シュウの方でも、モグラが地中に潜っている為に受身に回らざるを得なかった。地殻変化計測器を設置し正確な位置を割り出したものの、モグラがこちらへ向かって来ない以上誘導のしようが無い。
 結局、三機とも少しのロスの後に攻撃。それによって注意を引きつける事に成功し、誘導を開始した。
 四機はそれぞれに、襲い来るドリルと適度に交戦しつつ誘導を行う。数度の敵の攻撃と、幾つかの流れ弾により建物の一部は倒壊してしまったがそれは仕方無い被害だった。
 そうして町の破壊率――12%。
 許容範囲内の被害に留めた所で、陸戦班員はそれぞれの戦闘可能区域にモグラを誘導完了する。

 それと、ほぼ同時。
 空戦誘導班三機も激しい攻撃に耐えながら、第一ポイント上空へ小型HWを誘導し終えていた。
「三、四、五‥‥、小型HW全機ロックオン。K−01、全弾発射します!」
 通信を受けて、最後まで戦闘空域に残っていたヴァシュカがブーストを使用して離脱。
 そのタイミングでアグレッシブ・フォースを使用した青色のディアブロから、膨大な数の小型ミサイルが発射される。派手に打ち出されるミサイル群が、ビンタン島の空から小型HW達を掻き消そうと激しく着弾、爆発して黒煙を次々に上げる。
「新しい女神が俺についてますからね。今回のカプロイアは一味違いますよ!」
「よし、目には目を、こっちも凶器の嵐だー!」
 今まで散々装甲を削られ、かなり鬱憤の溜まっていたあやこも螺旋ミサイル、D−02を放ち加勢する。
「‥‥じゃあ、ボクも」
 カチッとヴァシュカがK−01の発射スイッチを押す。
 五体に向け千発以上のミサイルが十数秒にも続いて直撃、爆散して飛び散る破片、立ち上る黒煙――。
 その圧倒的な攻撃の後に、小型HW達の影は微塵も残っていなかった。
「やれやれ。これほど派手な花火を見られたなら、攻撃に耐えても誘導した甲斐があったというものですね」
 そう小さく笑って、自分を付け狙う中型へ反撃に転じる飯島。
 兵装を試作型リニア砲に変更。凶暴過ぎるその兵器に、更にアグレッシブ・フォースを乗せ、――――爆音と共に砲撃した。
 大き過ぎる反動にKVの機首が反り返る。それを制御し、態勢を整える間に飯島のディアブロは砲弾を再装填。
 ――再度、最高威力の一撃を中型に見舞う。
 中型HWはその二撃に耐え切れず、機体を真っ二つに折って墜落していった。
 最後に残った中型一機が、狂ったように傭兵の航空KV隊にプロトン砲を放つ。それにはKV全機が被弾。
 しかし、それだけだった。
 ソード機がロケットとD−02を撃ち、あやこ機とヴァシュカ機コンビが、エンハンサー使用の高分子レーザーを放つ。その連携攻撃が中型HWをメチャクチャに破壊し、貫通し、空のゴミ屑へと変えた。
 ――――ビンタン島上空、制圧完了。
 空戦班の各々がホッと一息を吐いた時、――しかしその中で一人だけがその異変に気付いた。
「あ、離脱中の中型二機が速度を上げた。これは‥‥マズイかな?」
 戦闘中もそちらを警戒していたヴァシュカが、中型二機の機動に気付いた。
 その言葉に気の緩みかけていた傭兵達はハッと我に返ると、すぐさま方向転換。ブーストを掛けて追撃に向かった。

 地上、第二ポイントで我斬機が戦闘を行っていた。
 突撃してくるモグラに、しかし雷電はメトロニウムシールドを構え、ドリルの攻撃をあえて受け止めた。
「ぶち抜き抉って叩き斬る! とびっきりの悪夢を刻み込んでやるぜ!!!」
 我斬が叫びながら、雷電のKV用チェーンソーをドリルの根元に振り下ろした。激しい振動、白い煙、猛烈な火花を立てて敵機体を切り裂く。モグラは悶えるようにジタバタと暴れた後――沈黙した。
 その直後、ヴァシュカから通信。空戦班が飛び去っていく。
「くそ、忙しいなッ」
 我斬機もすぐに戦闘機形態に変形。――空へと飛び立った。
 ‥‥第四ポイントの正人機も奮闘する。
 間合いを詰めてのユニコーンズホーンからプレスティシモの連続攻撃。その後、すぐさまバックステップで間合いを開く。
 それにモグラは負けじと追いすがり正人機にドリル突進。一つ目は回避したものの、第二撃が速い。直撃を受ける。
「てっ! く、この、チョコマカと!」
 ヴァシュカの通信が入っていたが、それどころでは無い。近付いてくる敵をプレスティシモで二度切り裂く。HWが怯む。
「これで終わりだっ!」
 ユニコーンズホーンを握り締め、正人機が高く跳躍。
 ディアブロの全重量を込めた渾身の一撃。角を模した8mの槍が、モグラの背中から腹までを貫き、地面にまで深々と突き刺さる。
 正人機がそれを引き抜くと同時に、モグラは小さく爆発――炎上した。
 HWの残骸が散らばる第一ポイント南。
 ディフェンダーでモグラを激しく攻撃するシュウ機。ドリルによる反撃が装甲を削っても、シュウは攻撃の手を一切弛ませない。むしろそれは――シュウの熾烈極める攻撃に油を注ぎ込む行為だった。
「調子に乗ってんじゃないわよ、このゴミ屑以下の反吐虫が‥‥ッ」
 三連撃、四連撃、五連撃、もう機体のフレームもガタガタに歪んだ瀕死のモグラに向け、シュウ機は執拗にディフェンダーを振り下ろす。
「あんたらなんかに、‥‥人間は、私は、負けないわよ。――負けるわけ無いだろうがっ!」
 感情を爆発させて振り下ろされた一撃が、モグラを潰すように叩き斬った。その一撃に耐えかねたワームが地面に沈む。
 四脚はズタズタに破壊され、ドリルも折れて破損し、スパークしながら動く事も叶わない機体へ向けて――さらにもう一度。
 全てを断ち切るような、ディフェンダーの一撃が振り下ろされた――。
 第一ポイント北。
 アグレッシブ・フォースを使用したロジャー機が、グランデッサナイフをドリルに向けて振り下ろす。ドリルの切り離しを狙って放った一撃だったが、さすがに敵の主武装であるだけ硬く、ダメージは与えたものの切り離すのは不可能そうだった。
 敵のドリルによる反撃が装甲を削る。初めてのKV依頼において、いきなり正体不明機の相手をする事となったロジャーは苦戦を強いられていた。
 ――と、そんな時。
「おーっと、これは酷い! ここでマッハ藤田の乱入だぁーっ!」
 突如、空から飛来してきた人型KVアンジェリカ。
 激しい振動と共に着地、モグラとロジャー機に割り込む。
 しかしそのアンジェリカを駆るあやこは何故か赤ブルマに履き替え、通信もオープンチャンネルでノリノリだった。
「魅惑のレスラー、マッハ藤田ここに惨状! タッチするかロジャー機!」
 あやこ機も実は満身創痍だが、中の人はビックリするほど元気だった。
 ロジャーは訳も分からず唖然とする。というより、バグアとの戦闘中にレスラーどうとか言い始めたあやこが少し心配になった。
「い、いや、タッチ? タッチって何だ?」
 ロジャーがどうにかそれだけ聞き返すも、あやこはもうそんな事聞いちゃいない。モグラへと躍りかかるなり、「何だ馬鹿野郎ー!」とか叫びながらレッグドリルで蹴り。蹴り。蹴り。
 しかし、いつまでもゲシゲシと蹴られるモグラでも無い。だって相手は真剣なのだ。ドリルで反撃をするモグラ。
 それをあやこ機は、装甲を削られながらあえてガシッと掴む。
「よーし、ロジャー機、合体技行くわよー!」
 ドリルによって火花を散らしながら、あやこはロジャー機を振り向く。
 合体技と言われてもロジャーは訳も分からず、とりあえずナイフを構えた。
「壱、弐、参、いけー! 藤田ボンバー!」
 そう言って思いっきりレッグドリルで蹴るようにしてロジャーへ投げ飛ばすあやこ。
 低空で迫ってくるモグラを見て、ロジャーは思わず苦笑する。
「ったく無茶苦茶だ。‥‥でもまぁ、助かったけどな」
 ロジャーは言うなり迫るモグラに走りより、――グランデッサナイフを一閃。
 ――――そのまま走り抜けたロジャー機の後方で、モグラが爆散した。

「よし、一機は撃破です!」
 離脱中の中型HWに追いすがっていた飯島、ソード、ヴァシュカの三機は空の追走劇を繰り広げていた。
 飯島、ソードの連携で中型一機は撃墜。もう一機の方もヴァシュカがAAMを二発放ち、直撃させる。
「‥‥ダメだ、ボクの攻撃だけじゃ落ちないなー」
 被弾によって火花を散らしながらも、中型HWはスピードを緩めない。その進路上には――、一つの街。
「あれは‥‥メダン」
 そう呟いて、飯島は嫌な予感がした。スマトラ島最大の都市。そこに単身で向かっているというのは、一体‥‥。
「ともかく、あそこへ行かせる前に落とさなくては!」
 しかし、中型は速度を落とさない。一向に縮まらない距離。みるみる内に、メダンが近付いてくる。
 と、その時――。
「うおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!」
 後方から猛速度で迫ってくる一機、雷電。
 猛然と迫ってくるその機体が、追撃隊と機首を並べると、そこから更にブーストを点火。さらに前へと進み、超伝導アクチュエータを使用。8式螺旋弾頭ミサイル二発を中型へ叩き込んだ。
 メダンを目前にして中型は被弾、炎上し――――海へと墜落していった。

「火、お探しですか?」
 任務終了後、タバコを咥えたまま空を見上げるシュウに、飯島はジッポで火を差し出す。
「あら、これはドーモ♪」
 シュウは笑顔で火を受け取る。そうして美味そうにプハーッと紫煙を吐いた。
「終わった後でのUPC軍の見解によると、どうやらビンタン島は陽動だったようですね。本命はメダンにある基地の強行偵察。‥‥実際、危ない所でした」
 飯島は重い口調で言いながら、自身もタバコを取り出す。それは実に五年ぶりのタバコだった。
 シュウは説明に納得したように頷いた。
「まったく偵察とは、連中もなかなか用意周到ですね。‥‥ま、それすらさせませんけど」
 ニッコリと笑うシュウの瞳には、執念があった。
 その表情に飯島は穏やかな笑みを返しつつ、タバコに火を付け――――案の定、大きく咽たのだった。