タイトル:【NF】砲火を払えマスター:青井えう

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/12/14 06:44

●オープニング本文


 北米、ワイオミング州ナトロナ郡。
 この地方におけるバグア本拠地『アルコヴァ』。その中心にそびえ立つ監視塔の最上階で、高台の玉座におさまった男と、その目前にひざまずくガリアとオリージュが居た。
「サビーニは、‥‥とうとう戻らなかったようだな」
「はっ‥‥。現在、ベッセマーベンド周辺を捜索して――」
「無駄だ。タロスの自爆に耐えられるほど、貴様らの身体は強く無い。捜索は中止しておけ」
 相手の言葉を遮って、玉座の男は重々しく言い放つ。
 オリージュは無言で頷くと、茶色の長い髪を揺らしてきつく目を閉じた。
「‥‥クソッ! ぶっ殺してやる!」
 その横でガリアが怒りに任せて床を叩きつける。茶褐色の肌は力んで盛り上がり、青い血管を浮き出していた。
 しかし、玉座の男はそちらには目を向けず。
 頭を垂れるオリージュの方へ向き直った。
「オリージュ」
「‥‥はっ」
 オリージュが顔を上げる。二人の沈鬱な雰囲気をよそに、玉座の男は不敵な笑みさえ浮かべていた。
「出撃準備だ。ムシケラ共をこのまま逃がすな」
「――アイアス様ッ! それなら俺も出撃を――」
「駄目だ」
 ただ一言。アイアスと呼ばれた玉座の男は、ガリアの希望を一刀両断する。
「‥‥ガリア、オリージュ。貴様らは認めねばならん。相手が――自分達より上だという事をな」
「なっ――」
 ガリアが言葉を失い‥‥歯を噛み締める。
 その横でオリージュはただ沈黙を守って控えていた。
「サビーニは役目を果たした。キャスパー防衛機構の構築と、貴様らの慢心を砕く――その役目をな」


 ベッセマーベンドから脱出した撤退部隊は、数百の車両を連ねて道を進んでいた。
 バス型の人員輸送車には一般人が過密気味に搭乗する。極度の緊張と不安、何時間も満足に身体を動かせない事で疲労は蓄積されていく。
 頻繁に襲い掛かる小型キメラや中型キメラへの砲撃、大型キメラとのKV戦闘などで何度も部隊の足が止まった。砲撃の震動に車体が揺れ、その度に誰もが恐怖に身を竦める。
 しかし、彼らに逃げ場所は無い。
 パウダーリバーへと向けて、進むしか無かった。

「やれやれ‥‥先は長いな」
「この調子だと、トラブルが無くてもパウダーリバーまで2、3週間は掛かるんじゃ無いスか?」
 200m以上にも伸びた部隊を護衛するのは10機のKV。無論、その数で部隊の全てをカバーするのは至難の業である。撤退を開始してから数日、既に危ない場面は何度もあった。
 それでもどうにか深刻な被害は出さずに済んでいるのは、敵が散発的で、なおかつまだ大型キメラとしか交戦が無いためだ。
「こちらクロウ1、状況は全て順調だ。ようやくアイロン湖が見えてきたぞ」
 それはひとえに、上空から周辺を見張るクロウ隊ニ機とイカロス隊のヒータ大尉機が囮となって、部隊に接近するワームへの牽制を行っていたからである。
 部隊は現在、次の休憩地点となるアイロン湖へ向かっていた。数時間の休息と飲料水の確保などが目的である。
 そこに至るまではひたすら平坦な道が続く。
 見晴らしも良く、もしこれがただのピクニックなら広い空と赤土の大地にシミジミと感動したかもしれない。
 しかしこの一群は紛れも無く、作戦行動中のナトロナ軍部隊だった。

「レーダー上、方位310より複数の機影を確認――。地上から接近してくる‥‥総員戦闘態勢を!」
 ヒータ大尉が目を凝らす。と、地上を疾駆する八体の大型キメラをその視界に捉えた。
 しかしキメラならばそれほど脅威でも無い。すぐさま地上直衛のスワロー隊が、スカイスクレイパー改を先頭に迎撃へ向かう。
 だが――
「‥‥おい待て、方位70からも敵だぞ!」
「方位190からも機影多数――!」
 レーダー上の北西、北東、南の三方位から複数の光点が現れる。
 北西、北東に大型キメラが八体ずつ。そして南からは同じく八体のキメラに加え――青いタロスが駆ける。
「あのタロスは――!」
「おい、ちょっと待てッ! あのキメラ、ただのキメラじゃねぇ‥‥物騒なモンを背負ってやがる!」
 恐竜型のキメラ――その背中にプロトン砲が二門搭載されている。『Rex Canon』
 そう名付けられた、ポスト・タートルワームともいうべき、バグア側の砲戦型生体ワームである。
 それらを指揮して、青いタロスは撤退部隊へと接近していた。
『‥‥全機、まともに敵と交戦するな。波状攻撃を心がけ、機動力で敵を乱せ』
 タロスのコックピットに搭乗したオリージュの言葉は、専用言語に変換されてワーム達に絶対命令として伝わる。
 撤退部隊との交戦域まで残り数キロ。
 三方向から、ワーム群は肉薄していく。

「すぐにULTへ連絡を――! っ、アイロン湖での休憩はできそうに無いわね‥‥このまま西へ向かって全軍走り抜いて下さい! ヒータ機着陸! 直衛に回ります!」
「了解、俺達は傭兵達を呼びに行って来る! 行くぞ、クロウ3!」
「了解!」
「こちらスワロー隊アロルドだ。スカイスクレイパーのジャミング中和装置を発動した。さてと‥‥ひと踏ん張りするか」
「お供するッスよ、アロルド隊長」
 各機が臨戦態勢を整える。北東と北西にKVを二機ずつ、そしてタロスの居る南へKV四機が配置に着く。

「全速で西へ! 援軍が来るまでは私達が食い止めます!」
 ヒータの叫びに呼応するように、部隊の行軍速度は上昇する。
 しかし、もうすぐ近くまで――敵は姿を見せていた。
『作戦領域に到達‥‥攻撃開始』
 閃くRCのプロトン砲。
 KVで防ぎ切れなかった光条が――通常兵器部隊を無慈悲に切り裂いた。
「っ! ‥‥隊形を、組み直して‥! 何としてでも、敵を止めて見せる!」
『‥‥感謝しなさい、女。サビーニの仇‥‥今日は取らないでいて上げる』
 ヒータ機とその他三機のKVへ牽制程度の射撃に留めて、青いタロスとRC五体は移動する。撤退部隊を追いかけて、西へ。
 それを追いかけてヒータ機達が移動を始めた時、その後方から再度の閃光。また輸送部隊の数両が蒸発したように消え去る。
「クソ、数が多すぎるッ! 止められん!」
 二機だけで八体のRCと交戦するアロルドは、必死に敵へ反撃しながら歯軋りする。
 だがそこへ、僚機のタロー軍曹が声を上げた。
「‥‥いや、アロルド隊長! 来たッス、援軍ッスよ!」
 レーダー上。
 そこに『friend』と表示された複数の機影が、急速にこの戦域に接近していた――。

●参加者一覧

鷹代 由稀(ga1601
27歳・♀・JG
聖・真琴(ga1622
19歳・♀・GP
月影・透夜(ga1806
22歳・♂・AA
UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
鳳覚羅(gb3095
20歳・♂・AA
ルノア・アラバスター(gb5133
14歳・♀・JG
リティシア(gb8630
16歳・♀・HD
ハシェル・セラフィス(gb9486
13歳・♀・SF

●リプレイ本文

 KV部隊は眼下の戦況を確認して四編隊に散開した。
 一斉降下。
 地上で交戦する各方位、それぞれのポイントへ各機が降り立っていく。
 北西、火線が交錯する真っ只中へシュテルンが垂直着陸。D−02を構え軍KVの支援へ走る。
『その機体‥‥確か』
 アロルド中尉の言葉に頷き、鷹代 由稀(ga1601)は苦々しげに吐き捨てた。
「こないだみたいな無様晒すのはもうゴメンだよ‥アルヒア、目標を狙い撃つ!!」
 呼応して噴き上がる発射炎。解放された高速の弾丸がRC砲塔を穿った。
「こっちに来るのは初めてだけど‥‥うん、やってみるよ!」
 別方向の道路に着陸したハシェル・セラフィス(gb9486)機は、即座に高速二輪モードで北西のRC達へ急加速する。
「軍の人達、手伝うよ!」
 600km以上の速度で接近したハシェル機『ジーニアス』が、砲撃しようとするRCへディフェンダーでチャージ突撃。
 高速のKVは敵を轢き飛ばした。

「あの包囲網を突破したと思ったらまた追われているのか‥散々な目にあっているようだね」
 鳳覚羅(gb3095)は思わず苦笑をこぼす。周りに群がるRC、そしてタロスを見やりながら。
「やはり、そう、簡単に、退かせて、くれない、です、ね‥‥」
 撤退部隊の直衛として着陸する二機、覚羅機『Azrael』とメタルレッドのS−01H『Rot Sturm』。
「盾役、頑張ろう、ね」
 S−01Hのコンソールをルノア・アラバスター(gb5133)がそっと撫でる。
 さらに南へは軍KV二機が着陸、直衛三方位を固めた。

 北東KVと交戦しながら、撤退部隊を追いかけるRC達。
 だがその背後へ――ブーストを掛けたディアブロ、月影・透夜(ga1806)機が急接近した。
「軍人だけじゃない、一般人もいるんだ。やらせるかよッ‥!」
 ショルダーキャノンが火を噴き、RCの一体が大きく吹き飛ぶ。
「軍KVのお二人はRCの行動を阻害できるよう、面攻撃をお願いしますっ」
 遅れて接近しながら、リティシア(gb8630)が無線で指示を出す。
 それに従って軍KV二機は弾幕を張った。
 透夜はそこへ再接近する前に、南方に目を向ける。
「‥真琴、奴は任せた。でも無茶はするなよ」
 青いタロスを睨みながら、そこへブーストを噴かせて近付く――相棒機の姿を見ながら。

「ん‥‥任せて透夜さん。みんな大丈夫、私達が護る!」
 撤退部隊の横をブースト装輪で駆け抜け、聖・真琴(ga1622)は南へと向かう。
『援軍感謝します! ‥くっ!』
 ヒータ機を抉る、タロスの鋭い斬撃。
「大尉! ソイツは私が抑える! トカゲの化けモン頼む!」
『了解です!』 
 ヒータ機とスイッチし、真琴機は青タロスと対峙した。
「しつけぇなアンタ‥ま、しつこさじゃアタシも負けねぇがな」
『また貴方ね‥‥鬱陶しい』
 タロスは吐き捨て、真っ直ぐに真琴機へ走駆。ディアブロの機爪で装甲が削られながら、そのまま捨て身の体当たりをかけた。
 そのまま真琴機は敵ともつれ合うように地面へ転がる。
「なにをっ――!?」
『発射』
 オリージュの号令。二機の頭上を、複数の閃光が通り過ぎる。
 直衛の軍KV二機がすぐさまそれを受け止め、輸送車両を守った。
 しかしすぐに別のRCが砲を構える。今度は、軍KVが居ない空間へ――。
 と。そのRCの砲塔を――弾丸が貫いた。
「少し遅れたが‥UNKNOWN参上、と」
 漆黒のUNKNOWN(ga4276)機が、数百m先でスナイパーライフルを構えている。
 数キロ離れて着陸していたものの、尋常では無い速さで交戦区域へ突入していた。
『UNKNOWNさん! また助けられましたね』
「ん? このお代はそうだな‥‥ヒータ、後でデートでもするかね?」
『ででででーとッ!? え、あの‥‥』
 戸惑い隙だらけのシュテルンをRCが切り裂く。派手にヒータ機は転んだ。
「何やってンだ‥あの二人は? ったく!」
 それを横目に見やり、敵を振り解いた真琴機が立ち上がる。
 同時に青タロスも起き上がり、振り向く。
『あの黒い機体‥‥』
 歯噛みしつつもオリージュは意識を戻し、目の前の機体と対峙した。

 撤退部隊が長い直線道路を走り続ける。
 大量のRCは砂を捲いてそれを追いかけ、十数のKVが火線を散らして押し留めていた。
「RCの体色が変わり始めたよ!」
 北西、ハシェル機が急停止して数mの轍をつける。
 その周囲で駆け回るRC。その体表は半分ずつ緑と赤に変化していた。
 軍KVの攻撃に手応えが無くなる。反してRC達はプロトン砲を撃ち放って、急接近――鋭い爪を薙いだ。
「それ以上、やらせないっ!」
 群がるRC背後へハシェル機が突進、緑RCにレーザー砲を連射。抵抗が脆くなった皮膚が裂けた。
 だがそのKVへもニ体のRCが跳躍、装甲を引き裂く。ジーニアスに不気味な震動が走る。
 肉と鉄がぶつかり合う激しい近接戦。
 その後方から、等間隔で銃声が鳴り響いていた。
 由稀機の狙撃で三体目の赤RCの砲塔に弾丸が吸い込まれる。砲が根元から吹き飛び、プロトン砲が破壊された。
 ‥しかしKV部隊の戦況が芳しくない。それを見て取り、由稀機は銃を持ち替えて立ち上がった。
「下がって、あたしが前に出る」
 加速する由稀機。赤RCへ弾雨を浴びせて、軍KV二機の前に立った。
 すぐさま三体のRCが『アルヒア』へ襲いかかる。
 爪が振り下ろされ、鋭い牙が盾を噛み砕く。特注のフルーシルドからの衝撃に怯みつつ、由稀機は練剣に手を掛けた。
「‥さ‥あたしに剣を抜かせた代償、高くつくから覚悟しなさいっ!」
 急速接近、緑RCを切り裂くメアリオンの一撃。肉と骨を断ち、その命ごと刈り取り――敵を地に叩き伏せた。

 赤い閃光を、三日月エンブレムのディアブロが真正面に受けて霧散させる。煤ける機体表面。だが‥‥
「その程度の砲火で落とされるほど柔じゃないっ」
 被弾を気にせず透夜機は直進していく。
 放たれるRCの噛み付き攻撃を横へ避けざま、その動きでディフェンダーを斬り上げる。宙に飛散する赤黒い血肉。
 続けざま敵の背中へ拳を振り下ろし――透夜機の機杭はプロトン砲を砕き貫いた。
「先に砲塔を叩く、叩いた奴は任せた!」
「はぁい、任せて下さい」
 ほのぼのした返事とは裏腹、リティシア機は一気に接敵。アクチュエータを起動し、重機関砲の激しい弾幕を浴びせる。蜂の巣になったRCは――力無く地面へ崩れ落ちた。
 そのまま透夜機は次々と物理攻撃で敵の砲塔を破壊していく。リティシアはRCの色に合わせて射撃。さらに軍KVも火線を吐く。
 それでもRCの数は多い。内の二体が戦域を飛び出すと、撤退部隊の方へと砲口を向けた。
「させるかッ――!」
「危ないです‥‥っ」
 すぐさまブーストを掛けた二機がそれぞれ射線に割り込む。
 直後、放たれる赤色の閃光。
 リティシア機はAEC起動。機体表面に力場を走らせて、プロトン砲のエネルギーを大幅に霧散させる。
 透夜機は砲撃を受けながら、肩砲を展開。砲口を射撃体勢のままで立つRCへ突きつけた。
「お返しだ‥‥喰らえッ!」
 火を噴いた砲弾がRCの頭部を吹き飛ばす。血を撒き散らして仰け反るRCへ、連続で大口径砲撃を連射。
 体中に砲弾を受けて、RCは地面へ吹き飛ばされた。

 直線に放たれたグングニルの穂先が、RCの身体を貫く。
 痙攣して動かなくなったRCから槍を引き抜いて黒いK−111は反転機動。プロトン光条を避けてバルカンを掃射する。軍KVと交戦する敵を引き付けた。
 UNKNOWN機は流水の如く滑り、剣翼を翻す。通り過ぎ様に裂かれたRCから血の花が咲く。
 敵の噛み付き攻撃を避けると、カウンターのアッパーが顎を捉える。頭蓋を粉々に砕けさせてRCは吹き飛んだ。
「‥‥ふむ、こちらはもう手余りかな」
 鋭く外界モニタを注視するUNKNOWN。軍KV四機は厚い弾幕を張り、優勢に戦闘を進めている。
 ‥しかし、その中で一際激しい戦闘を繰り広げる二機があった。
 二つの影が西へ走駆する。空気を揺るがす砲撃の音。青タロスの装甲が破片を飛ばし、代わりに紫の光条が赤いディアブロを焦がす。
 二機は接近したかと思うと、剣戟を交換してまた離れる。大量の土煙が二機を覆い隠し、センサーの光点だけが薄く浮かび上がった。
 そんな二機へと、UNKNOWN機が接近する。
『来たわね‥‥仕方無い』
 コックピットでオリージュが呟くと、タロスは飛行形態に変形した。
「待て!」
 対峙していた真琴機はすぐさまライフルで追撃。だが数発は敵を捉えたものの、ほぼ弾丸は宙へ吸い込まれた。
「ッ! 直衛班、タロスに注意を! ‥あんのんさんも応援頼む!」
「‥お安い御用、だ」
 二機はブーストを掛け、地上から空のタロスを追跡する。

 北西、北東の防衛網を抜けて、撤退部隊へRCが接近。
 覚羅がスコープシステムで照準を微調整しながら機関砲を高速掃射する。透夜機によってプロトン砲を破壊されていたRC二体は、激しい弾幕に血を噴きながらも全力で接近するしかなかった。
 北西方面から近付くは一体のRC。有効射程まで来ると、砲を構えて立ち止まった。
 だがそこへ一直線に赤鋼色のS−01Hがブーストする。
 直前に放たれたプロトン砲をPPFバリアで軽減。光条を四方に散らしてRCへ体当たりすると、態勢を崩した相手にライフルを押し付けて連射、プロトン砲を破壊する。
 その時、南からの連絡を受けて振り返ると青いタロスは――空から降下して来ていた。
「真打ち登場だね‥‥!」
 RCを仕留めた覚羅機がブーストを掛けて加速する。
 構わず、轟音を響かせて撤退部隊側へ落ちて来るタロス。
 だが、その振り下ろした刀を――覚羅機が双機刀で受け止めた。
「君達の仲間にうちの嬢ちゃんが世話になったらしいじゃないか? 少し思い知って見るかい?」
『そんな暇は無い』
 つれない返答に苦笑して、覚羅は兵装スイッチを押し込む。
『ッ――!』
 突如、覚羅機から展開される第三の腕。装甲に扮していた背中の黒翼状の刃がタロスを襲う。
 その奇襲をオリージュは間一髪で回避。
 だが回避先へ――覚羅機のライフルが激しく火線を撒き散らした。
『くっ‥‥被弾、機体正常。まだ‥』
 オリージュは損傷にも覚羅機にも構わず、‥その後ろ。輸送車両の一角へフェザー砲を向けて、トリガーを引く――。
 しかしその瞬間。
 目前にKVが割り込んだ。
「ただの、一撃も、通したり、しない‥‥!!」
 眼前で盾となった赤いS−01Hの姿。
 その後姿にどこか懐かしさを覚えつつ、車両隊が声を上げた。
『すまん、平気か!?』
「大丈夫、早く、行って、下さいっ」
 拙いルノアの声。その言葉と心を受け取って、撤退部隊は加速する。
 それを逃がすまいと機動するタロス。
 しかし数発の銃弾が、その動きを押し留めた。
 ――UNKNOWN機のスナイパーライフルの連射だった。
『奴か‥‥!』
「よそ見している暇はないのではないかね?」
 歯軋りするオリージュへ、UNKNOWNは咥え煙草に微笑を浮かべて警告する。
 言われ、オリージュの視界を横切る赤い機体。ドクロマークの真琴機がブースト肉薄、銃口をタロスに突きつけた。
『‥‥!』
 咄嗟に銃を払い除けるタロス。直後、空を銃声が切り裂いた。
「ちっ、照明銃に見せるにゃ無理がありすぎたか‥」
 苦笑する真琴。隙を見てタロスは刀を閃かせる。赤い火花が瞬き、ディアブロの胴部から黒いオイルが噴き出した。
 だが真琴機は強引に前へ踏み込む。
 左手で敵の刀を持つ手を抑え、そして逆の手に握りこんだ雪村を――タロスに押し当てた。
 噴射された眩い光剣が――敵の肩を貫く。
 それでも、タロスは動きを止めない。反撃を真琴機へと撃ち込む。
 しかしそこへルノア機の射撃が、覚羅機の双機刀が、そして真琴機の雪村が放たれ――タロスの左腕は根元から切断された。
『くっ‥‥』
 血を噴き出す左肩を抑えるタロス。その先は、肉体を離れて地面に転がっていた。
『左腕が‥‥。ここまでのようね』
 オリージュは苦々しげに呟くと、機体をバックステップさせて地面を蹴る。タロスは瞬く間に空へ上昇した。
「速いね‥‥逃がしたかな」
 覚羅が呟く。ルノア機や真琴機、UNKNOWN機も構えた時には、タロスは上空へ舞い上がっていた。
 だがそこへ。
『あの、出来たらこっちを手伝って欲しいかな!』
 ‥‥ふとハシェルからの通信が響いた。

 四体目のRCが銃撃を受けて地面へ倒れる。
 ボロボロになって立つ――由稀機。
 その眼前を、二輪で駆けるハシェル機がRCに追いかけられて横切った。
 格好の標的。由稀機はすぐにライフルを連射する。
 横っ腹に大量の鉛弾を浴びて怯むRC。即座にハシェル機がスピンするように反転、突撃して恐竜の頭蓋を打ち砕いた。
『あう、ヤベェッス!』
 だがハシェル機が五体目を倒すと同時、軍KVタロー機が黒煙を上げて膝をつく。その眼前にはRC。他の三機はフォローに回れない位置――。
 しかし直後、RCの頭部が朱に染まった。
 ‥遅れて響く銃声。UNKNOWN機の狙撃である。
『やれやれ‥‥危機一髪、かね?』
 タローが深い溜め息を吐く。
 残った最後の一体。撤退部隊へ砲を構えたRCは、ハシェル機と由稀機の強烈な十字砲火でバラバラに切り裂かれた。
「やれやれ‥‥どーにか今回は無様晒さずに済んだわね‥」
「うん、さすがお姉ちゃん!」
 ボロボロになった二機は軽く拳を合わせた。

 リティシア機が距離を取りつつ高分子レーザーを連射。
 透夜機によってプロトン砲を破壊されたRC三体は、翻弄されるように戦場を駆け回っていた。内の一体は弾幕によってRC一体が崩れ落ちる。
 そして全身傷ついた他の二体へも――透夜機が肉薄した。
 一体を剣で切り伏せ、その向こうの敵へショルダーキャノンを連射する。
 二体のRCは大地を赤く染めながら、次々に倒れて――動かなくなった。
『南方面、敵掃討完了です!』
 同時、ヒータからの通信。
「了解、これで敵は全て殲滅したな」
 透夜はコックピットに身体を預けて、軍KVへ通信する。
「‥‥透夜さん、大丈夫だった?」
「ああ。‥それはこっちの台詞だぞ」
 透夜は呆れたように眉をひそめる。振り返ると、激戦の傷痕を残した真琴のディアブロが立っていた。

 撤退部隊は隊列を組み直すと、傭兵KV達へ車窓越しの敬礼をして通り過ぎていく。
 だがその興味は、ふとK−111へ。
「見た事ないKVだな」「隊長、きっと極秘の新鋭機ですよ」「確かにあり得ん性能だったからな‥‥」
 指を差して口を揃えるバルト中尉やカスピ少尉、アロルド中尉。
 その反応に、UNKNOWNの瞳は鋭さを増した。
「‥‥ちきしょーっ! 覚えていろよっ!」
 ‥なぜか拗ねたような捨て台詞を残し、帰還していくK−111。
 それが合図のように傭兵達は基地へ帰投するため空へ舞い上がった。
「‥まだ先は長いな。また必要ならば援軍は任せてくれ」
『はい、‥よろしくお願いします!』
 透夜の通信にヒータが頼もしそうに答える。それを聞いた後で、七機のKVは北西の空へと雲を引いていった。
 それを輸送車両の荷台上から――大勢の兵士達が見送り続けていた。

NFNo.013