タイトル:【NF】廃墟拠点マスター:青井えう

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/11/27 23:51

●オープニング本文


「ベッセマーベンドの脱出部隊から連絡が入った。敵襲撃を退けて、順調に撤退に入っておるようだ。とりあえずひと安心という所だな」
 わははは、と機嫌の良い笑い声を上げて、ポボス司令は新しい作戦司令室でふんぞり返る。他の司令部の人間達もホッと安堵の息を漏らした。
 北米の一地方、ワイオミング州ナトロナ郡で繰り広げられる戦火。
 今までの前線基地ベッセマー・ベンドでは戦線を支え切れられず、ナトロナ軍はパウダー・リバー後方兵站基地へと撤退を開始。それに先駆けて司令部の人間と、戦闘機部隊などの一部の人間だけが基地入りを果たしていた。
 撤退が順調なのを聞き付けて作戦司令室に和やかな雰囲気が広がる。
 そこへ報告をもたらした偵察部隊「ホークスアイ」の隊長と副長、そして臨時に編入されているライト少尉が姿を見せた。
「おお、ご苦労、ホークスアイ。良くやった。それにイカロス副長もな。君の所の隊長が無事で良かった。今では大事な戦力だからな」
 ポボス司令がそれぞれの肩を叩いて回る。
 ライト達も安堵の気持ちがあったので、直立のまま小さく頬を緩ませる。
 ポボス司令はひとしきり各員へ笑みを向けた後、自分のデスクに就いて両手を組んだ。チラリと将校の一人に目を向けてから、もう一度ライト達の方へ向き直る。
 それから一つ咳払いした。
「さて、諸君。本来ならこのままゆっくりと休んでもらいたいのだが、そうもいかん。早速、次の任務だ」
 そう言われて、三人はまた緊張を取り戻した。表情を引き締め、居ずまいを正す。
 ポボス司令が手を差し出すと、将校の一人が地図を持って来て渡した。デスクの上にそれを広げる。ナトロナ郡の詳細地図だった。
「コレを見ろ」
 地図に五つ、赤くマーキングされた箇所があった。丘の麓、湖の近く、小規模な林の中などである。そこを指差しながら、ポボスは顔を上げる。
「このマークされた場所に、今は放棄した秘密拠点がある。規模は小さいモノだが、撤退部隊の役に立つ物資が幾つか残っているはずだ。例えば食糧や弾薬なんかがな。‥‥しかし、だ」
 ポボスはこれからが本番だと言うように、顔をしかめて三人に目を向ける。
「放棄して既に数ヶ月が経過しておる。物資の保管に関しては問題ないはずだが、敵が既に発見して自分達の拠点に造り変えたり、罠を残しているとも限らん。そこで君達の出番になるわけだ」
「ですが‥‥上空から偵察しただけで分かりますか?」
「ふむ、その件に関しては傭兵に依頼する。君達の任務は傭兵部隊が調べてる間の周辺警戒だろう。秘密拠点だからな。物資補給の前に敵に位置を悟られるのはマズい。キメラぐらいなら見られても大丈夫だろうが」
「なるほど‥‥了解しました」
 一応の納得をして、ライト少尉が引き下がる。
 ポボス司令は他の二人にも質問が無いか目を向けた。ここぞとばかりに、ホークスアイの副長が手を上げる。
「あの、任務に掛けられる時間は」
「だいたい三十分ぐらいが限度だろう。余り時間を掛けるとワーム部隊が集まってくる。一応、ニ時間分の燃料は入れておくが、君達の安全は保証できんぞ」
「ひゃー、恐ろしいや」
「‥‥文句があるのか?」
 ギロリとポボスが睨む。副長はバツが悪そうに黙り込んだ。
「そうだな、後は撤退部隊のルートを決める為に最新の地形・道路情報が必要だ。秘密拠点の調査は傭兵にやらせて、諸君はその情報収集を重点的に当たれ。作戦は以上だ。
 質問は無いか? ‥‥うむ、無いな。それでは傭兵部隊が到着次第に出発しろ。解散」
 ポボスの言葉に三人は敬礼すると、そのまま部屋を退室した。

 部隊に戻り、ホークスアイ隊員でブリーフィングが行われる。傭兵の到着は三時間後。
 一時間ほどで早々と作戦会議を済ませると、最後に隊長はライトの方へ振り返った。
「よし、少尉! 今回も頼りにしてるぜ!」
「なんたって能力者ですからね!」
「あぁ、違いねぇ!」
 やんややんやと隊員達に持ち上げられて、ライトはちょっと困り顔で首を振る。
「‥‥いや、戦闘機だとそこまで変わりは‥‥」
「まーた謙遜が始まった!」
 ワハハとやたらテンションが高い隊員達。
 毎回危険な任務をこなす彼らは楽天家が多い。通常戦闘機での偵察というのは、それぐらいの神経の太さがないと務まらないのかもしれない。
 その中でライトは苦笑しながら小さく溜め息を吐き、自分の頬を軽く叩いた。
「まぁ、大尉も頑張ってるし‥‥俺も頑張らないとな‥‥」
「え、彼女?」
「‥‥いや、直属の上官の事だが」
「またまた〜彼女だろ?」
「いや、隊長の事で」
「冗談ばっかり〜」
「‥‥‥‥」
 早く来てくれと傭兵達へ切に願いながら、ライトはそのまま二時間の休憩に入ったのだった。

●参加者一覧

水上・未早(ga0049
20歳・♀・JG
ヴァシュカ(ga7064
20歳・♀・EL
聖・綾乃(ga7770
16歳・♀・EL
山崎 健二(ga8182
26歳・♂・AA
風羽・シン(ga8190
28歳・♂・PN
ユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751
19歳・♂・ER
Anbar(ga9009
17歳・♂・EP
アーク・ウイング(gb4432
10歳・♀・ER

●リプレイ本文

 赤土の大地上空を二つの編隊‥調査部隊が飛行していた。
「‥‥こちら骸龍。現在順調だ、撤退してくる部隊の為にも拠点物資をしっかり確認して来ようぜ」
 索敵に集中しながら、Anbar(ga9009)が各機に檄を飛ばす。
「うん、この状況だもんね。とにかく敵に秘密拠点の存在を気付かれないように、周辺警戒は怠らないようにしよう」
 アーク・ウイング(gb4432)もAnberに同意しながら索敵に力を入れた。
 作戦では五つの秘密拠点を二手に分かれて調査する。だが途中までは同じルートだ。
 現在敵影は無し。雑談する余裕まであった。
「‥‥そん時だ、俺がゴーレムを一刀両断‥」
「ウヒュー、スゲェ!」
 山崎 健二(ga8182)の滔々とした語りに、偵察部隊が歓声を上げる。
 思わずライト・ブローウィン(gz0172)が浮かべる苦笑。
 ふとそこへ、通信ランプが光る。
「ライトさん、お体はダイジョブですか〜? 無理してヒーターさん泣かせたらダメですよ〜? ふふ‥」
「な、何をっ!?」
 ヴァシュカ(ga7064)の言葉に物凄く焦るライト。墓穴である。
 そんな中、風羽・シン(ga8190)は不機嫌そうな表情を浮かべていた。
「‥‥チッ、新しいオモチャが手に入りさえすれば、壊れたオモチャは用済みってか? あそこを護る為にどれだけの人間が血を流したと思ってるんだ‥‥あー、マジでムカつくわ!」
 誰がとは言わないものの、差している人物は明白。その怒りも正当なモノである。
(「なんだか独特な雰囲気だな‥‥気を引き締めないと」)
 水上・未早(ga0049)が胸元のHolgerバッジに何となく触れる。
 集中の仕方は人それぞれ。臨む心構えに絶対は無い。そして、それで良い。
 全員がプロなのだから。
 ずれた眼鏡を外すと同時、未早の顔から表情は消える。
「‥‥全機へ。第三拠点、SB3まで残り10kmです」
 即座に各機から「了解」の応答。
 部隊前方に、最初の目標が見え始めていた。

 九機の編隊がSB3頭上を通り過ぎていく。
 それにやや遅れて来た十機編隊が、SB3上空を緩やかに旋回した。
 周辺に敵の気配は無い。念入りに索敵した後、健二機を除いたKV三機が地上へ降下する。
「降下完了‥これより周辺警戒しつつ拠点へ向かいます。‥[鷹の目]さん? 空からの索敵お願いしますね☆」
 聖・綾乃(ga7770)機はSBの川を挟んだ反対側2km地点に降り立つ。
 未早機とユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751)機の二機は、SB3のすぐ直近に降下した。
「確認、だけで良いのかとりあえずは」
 冷静を装いつつ、「秘密基地」の響きに胸をワクワクさせるユーリ。
 ‥だが彼が目にしたのは、ポツンと川岸に立つ監視所だけだった。とはいえ、メインは川底に沈められた物資。
 二機はすぐに川へ侵入して、捜索に入る。
「‥ありました」
 川底に隠された物資コンテナを未早が発見した。
 ユーリ機が近付き、未早機が物資に前足を掛けた瞬間。
 ――突然、二機は強烈な閃光に包まれた。
 轟音と共に幾本も立ち上がる水柱。
 震動を与えた物資は大爆発を起こし、さらに周辺にも大量の地雷が仕掛けられていたのだ。
「くそ、なんてこった!」
「大丈夫ですかっ!?」
 健二機が空から、綾乃機が陸から声を掛ける。
 その呼びかけに応じて、水の中から二機は無事に立ち上がった。装甲の一部が吹き飛んでいたものの、稼動に支障は無さそうだ。
 しかしSB3の物資は――跡形も無く消え去っていた。

「通信だよ。‥‥えと、SB3は敵の手に落ちてたみたいだね」
「了解。こっちも問題発生だ」
 第二班、Anberの通信が響き渡る。こちらの編隊はSB4に到着しようとしていた。
 だが運の悪い事に、目標地点付近に敵を探知。辛うじて目視した所によると、HWが三機だった。
「相手も気付いたぞ。殲滅か?」
「‥あ、ボクに振っちゃって下さいな。囮で引き付けますんで〜」
 言うが早いか、ヴァシュカ機はブースト。突出してHW三機へAAEMを掃射した。
 直後、勿忘草色の機体に淡紅の光条が激しく連打される。後方で息を飲む仲間達。
 しかしヴァシュカ機は光柱の中から飛び出すと、SBとは離れた方向へ移動を開始する。不調を思わせる不安定な飛び方だったが、反して機体の見た目は被弾前とほぼ変わらない。
 ヴァシュカ機を追って動き出すHW達。囮は成功だった。
 敵が離れたのを確認して、後方で控えていた本隊が動き出す。
 すぐさまSB4付近をAnberが偵察カメラでチェック。
 確認が済むとシュテルンの二機、アークとシンは地上の木を掃射でなぎ倒して垂直着陸。
 降機してSBへ向かった。
「何か居るよ‥‥? 気をつけなきゃ」
 ほの暗い木々の間に、時々動物の陰が映るのをアークの暗視スコープが捉える。
 警戒を強めた二人は、SB4倉庫の前に辿り着く。手早く周辺に目を走らせてから、刀を構えたシンが倉庫の扉に手を掛けた――。
 直後、アークが横へ超機械αの引き金を引く。
 迸る雷撃。木の陰から飛び出した獣キメラが空中で爆ぜた。
 その断末魔の代わり、扉を開けたシンの報告が、声帯通信機を通じて全機へ伝わる。
「チッ‥ここも外れだな。撤収する」
 倉庫の中。
 そこにある物資は散乱し、破壊され尽くしていた。
 軽い失望を覚えたのも束の間、‥突如林に遠吠えが響き渡る。SB4周辺に集まり出す――危険な気配。
「逃げよう!」
 二人は反転して駆け出した。
 逃すまいと木々の間から飛び出すキメラ達。数体の群れが間断無く二人に襲い掛かる。
 それらを払い除け、焼き焦がし、また駆け出す。
 SB近くに垂直着陸したのが幸いした。二人はすぐにシュテルンの下に到達。
 すぐさま乗り込むと、KVを起動。四連バーニアを噴かして二機は空に舞い上がり――キメラの包囲を脱した。

「HWニ機接近! 時間を稼ぎます。調査後、速やかに移動を!」
「俺も視認した。そんじゃちっとばかし寄り道してくるんで、後ヨロシク〜」
 第一班。敵との遭遇に綾乃機と健二機が対応する。
 後方に仲間を残し、綾乃機はブーストでHWに接近。叩きつけられるプロトン砲撃を、スラスター、緊急ブースターを噴かせて機敏に回避。
 そのまま旋回すると、HWを引き付けてSB方面から引き離していく。
 だが小さな丘を通り越した直後――その陰から不意に大型キメラが飛び立った。
「‥っ!」
 三体のキメラの連続攻撃。怪鳥の爪に切り裂かれ、体当たりに綾乃機が揺らぐ。
 ここぞとばかり、天使エンブレムを的にして狙いを付けるHW達。
 だが二体の攻撃より一瞬早く――数十発の弾丸がHWを穿った。
「やらせねぇぞ、っと」
 追いついた健二機の援護。
 直後にHWは砲撃を放つが、態勢を立て直した綾乃機はスレスレで回避。
 さらに体当たりを掛けてきたキメラを――逆に剣翼で切り裂いた。
「目障りだ‥消えて貰おうか‥」
 SB2からは既に1km以上の距離。綾乃機は敵と対峙する。
 その横から嵐のようにレーザーを連射して、健二機がキメラの一体を仕留めた。
「敵を選んでたらフラストレーション溜まるなコリャ。‥‥落としちまうか」
 そう呟き、健二機もHWに狙いをつけた。
 直後、激しい攻勢に出る二機。
 レーザー、ライフル、砲撃の火線が飛び、キメラを切り裂き、HWを爆砕させていった。

 ‥その頃、後方SB2では未早機とユーリ機が調査を行っていた。
 湖の浅瀬に沈められた物資。未早機が機槍で突付いて、爆発しない事を確かめる。異常が無いと分かると、二機で岸の方へ押し出して行く――。
『‥おい、水中だ! 後ろ!』
「え‥うわっ!?」
 だが偵察部隊の通信と同時、ユーリ機は衝撃を受けて水中に倒れ込んだ。
 緑がかった薄暗い水中。そこには伏せつつユーリ機に槍を打ち込んでいる――水中用ゴーレムが居た。
「待ち伏せ‥!? ここもダメだったのかッ」
 敵の武器を跳ね除け、立ち上がろうと水底の泥に手を突くユーリ機。しかし槍を引き、再度ゴーレムが槍を繰り出す。
 だがそれと交錯する形で、機槍「ロンゴミニアト」がゴーレムの頭部を直撃。鈍い爆音が響き、大量の気泡が水中に散った。
「ここも放棄しましょう!」
 未早が叫びながらトリガーを引く。ゴーレムは他にも複数居た。
 ユーリ機も立ち上がると機関砲で水中へ牽制、そのまま岸へと向かう。
 ゴーレムの攻撃をかわしつつ、岸に上がる二機。それでも敵は追ってきたが、陸では水中用ゴーレムは敵では無かった。
 剣翼、機槍などを駆使した近接戦で早々に殲滅。そのまま二機は離陸すると、SB2も放棄。
 最後のSB1へと向かう。

 Anberの逆探知の活躍で、敵と会敵する事無く第二班はSB5に到達。
 先ほど囮となったヴァシュカ機とも合流し、万全の態勢で上空を飛行する。
 周辺に敵が居ない事を確認すると、ヴァシュカ機だけが偵察部隊の護衛に残り、他の三機は丘の麓に着陸。降機して調査に向かった。
 SB5倉庫の扉は半ば開いていた。Anberが探査の眼を発動、注意深く周辺に目を走らせる。問題無し。
 アークが暗視スコープで中を覗くが、生き物の気配は無い。
 シンは入り口前で屈み込み、侵入者の気配が無いか埃の状態を確かめた。しかし特に痕跡は見当たらない。
 三人は目配せをして頷く。
 扉を開き、慎重に倉庫内へと進入した。
「‥おい、今――」
 だが一歩入った途端、シンの耳を微かに叩いた機械の駆動音。
 直後、探査の眼を使用したAnberが、天井に張り付いた小さな機械を発見する。
「アレは‥!? 点滅してる!」
「外へ出よう!」
 アークの声で全員退避。
 直後に起きた爆発‥‥は、想像以上に小さかった。爆竹が破裂した程度だ。
 ――しかし、異常は上空から。
「‥マズイですね〜、複数の機影がこちらに接近していますよ。みなさん、すぐに離陸をっ」
 ヴァシュカが三人へ通達する。
 ‥仕掛けられていたのはバグアの警戒システム。侵入者を感知すると、周辺のワームにそれを伝える装置だ。
 つまり――SB5も罠だった。

 SB1。
 健二機が上空で索敵、綾乃機はSB施設の後方20mで待機していた。
 第ニ班から入る報告に、健二は歯痒そうに拳を叩く。
「‥くそっ、SB4と5は外れ。しかも敵部隊の襲撃を受けているらしい!」
「そんな‥‥まだ十五分も経って無いのに‥」
 健二からの通信に、綾乃は表情を暗くする。
 一方、生身でSB1を調査する二人は監視所を調べていた。
「ここに罠は‥無さそうですね」
 ユーリが探査の眼で中を覗く。あるのはスクラップ機材ぐらいだ。
「あ‥そこを見て下さい」
 だが未早が指差した物陰。
 そこに目立たないように、ポツンと足跡が付いていた。埃を被り始めていたものの、他の場所よりは明らかに新しい。
「‥こちら調査班、罠の危険が高まりました。綾乃さん、援護をお願いします」
『了解です』
 綾乃がキャノピーを開放して、機上から銃を構える。
 後方から見守られながら、ユーリと未早は倉庫の前に辿り着いた。
 中からは微かな物音。ただのネズミか、それとも‥‥。
「とにかく‥開ける」
 しっかりと武器を構え、ユーリが引き戸に手を掛け。思いっきり――引く。
 暗い倉庫内へ射し込む光。
 直後、その中ではびこる――数十、百匹近い巨大ネズミが、入り口を一斉に振り返った。
 長い、一瞬の沈黙だった。
 巨大ネズミが動き、ユーリが反射的に引き戸を閉める。衝撃音が響き、戸は大きく歪んだ。
「綾乃さん、砲撃をっ!」
 未早が要請、同時に二人で後方へ駆け出す。
 直後、倉庫を吹き飛ばす115mm砲弾。
 しかし半壊した倉庫からは生き延びた幾十のキメラが溢れ出た。
 未早が小銃を掃射し、ユーリが刀で払う。赤いFFが発光し、死骸を乗り越えて迫るキメラの群れ。
 武器を振るい、止まらずに駆け抜ける。綾乃の援護も受けながら、どうにか二人はKVに搭乗。
 登って来るネズミを振るい落としながら、二機はその場を離脱した。

 第ニ班。
 アーク機の螺旋ミサイルがHWに着弾、激しい炎を噴き上げて撃墜する。
「掃討完了だよっ」
「よし、方位280が一番薄い! 転進!」
 Anberが逆探知を最大限に駆使、敵の隙間を探し出して部隊を先導した。
 SB4上空を飛び越し、高速で九機編隊は帰路につく。
 しかしそこへ襲い掛かる――HWと大型キメラの群れ。
「この方向以外無い、突破する!」
 Anber機が正面HWの一体に火線を吐いた。
 被弾しながら立ち塞がるHW三機。
 その両端へとAAEMの雷光が閃光する。
「邪魔ですよっと。あ、ホークスアイの方々はくれぐれも無茶しちゃダメですよ〜」
 SESエンハンサーと空戦スタビライザーを起動したヴァシュカ機が――荷電粒子砲、連射。
 中心に居たHWは大光条に包まれ、溶解した塊となって大地へ落下していく。こじ開けた隙間を偵察部隊が通り抜ける。
 アーク機、シン機は両翼を固め、近付こうとするキメラを容赦無く撃墜。
 修羅場を切り抜けて基地へ急いだ。
 だがすぐに――第二波接近。
「方位340へ! 三キロ進んだら、すぐに方位300に戻す!」
 Anberが必死に帰投ルートを模索する。
 だが敵の包囲網は狭まり、厚さを増していた。
 時々戦闘機の近くを掠めていく光柱。偵察部隊は煙幕装置をフル使用、さらにライト機もミサイルを三発使っていた。
 必死の努力もあって、未だ奇跡的に被害はゼロ。
 しかし、残り三十キロ地点で。
 ‥Anberのレーダーは、全方位に敵を検出していた。
「おい、また正面突破すんのか!?」
「他に‥道が無いんだ!」
 シンの叫びに、Anberも叫び返す。後方・側面からも敵が迫り、偵察部隊より先行する事もままならない。
「‥それじゃ、せめてボクが」
 言い放ち、ヴァシュカ機が単独先行。しかし十対一、無茶だった。AAEM二発の応酬は――プロトン砲撃の十発。
 三本かわした後、ヴァシュカ機は集中被弾した。目も眩む激しい閃光。さらにHW部隊がニ撃目の砲口をヴァシュカ機へ向ける。
 だが突然――HWの一機が爆炎に包まれた。
「悪い、待たせたな!」
 黄金の双翼エンブレムを付けたディアブロ。健二機が――炎を上げるHWの頭上へ舞い上がる。
 さらに次々とHW達に衝撃が走り、爆砕。
 その後ろから未早機ワイバーンが、綾乃機アンジェリカが、ユーリ機イビルアイズが――姿を見せた。
「管制終わりだ。こっからは力ずくで進む」
 Anberは逆探知機能を切り、スロットルを押し込んだ。
「よっしゃあ、んじゃ突破すんぞッ!」
「うん、行くよー!」
 シン機、アーク機が偵察部隊を援護して派手な弾幕を展開する。
 加速する偵察部隊。KV八機がそれを援護すると、敵の砲撃は戦闘機を捉える事無く空を切っていく。
『イヤッホー! さすが能力者だ!』
『痺れますねぇっ!』
 包囲網を抜けたホークスアイの通信は、割れんばかりの歓声で溢れた。
 部隊は、広い空へ突き抜ける。

 ‥その後、敵勢力は減少。部隊は無事に基地へと帰り着いた。
 被害は無し、調査も無事に成功。
 不備は無かったものの――秘密拠点は全て敵に発見されていた、という不気味な結果を残して。

NFNo.012