タイトル:【NF】前線基地、崩落マスター:青井えう

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/11/15 13:49

●オープニング本文


 ワイオミング州ナトロナ郡にある人類側拠点「ベッセマー・ベンド」。
 続く戦闘で死傷者は増加中。一般住民の被害も増えつつある。
 五ヶ月前のキャスパー陥落時には、ナトロナ軍の勝利の象徴『レッドバード隊』がとうとう基地に戻らなかった。
 それでも、今まで傭兵達の活躍が希望を繋いだのは確実だろう。
 ――だがもう、限界だった。

「我々はベッセマー・ベンドを放棄する」
 各部隊長を集めた上でポボス司令は言い放った。
 圧倒的守勢を挽回する手段も無い。物資もほぼ底をついた。
 ある意味、各員の予想通りの言葉でもあった。
「出発は三日後の夜一一三○時。目標地点はパウダー・リバー後方兵站基地。予定ルートでは約100km。それまでに各員は‥‥」
 残存KVは十機。通常空陸兵器は合わせても200弱。
 長く厳しい撤退行になる事は十分に予想される。
 だがそれでも‥‥、他に道は無かった。

 作戦発布の当日から基地の引き払い作業は急ぎ行われた。
 機体整備、物資積み込み、疎開先基地への連絡、さらに傭兵部隊に隣郡の基地に待機してもらう。
 三日目になると、基地は避難してきた住民達でごった返していた。
「‥‥凄い人だな」
「一般住民だけでも千人弱居ますからね。大所帯の引越しになりますよ」
 仮眠をとる人達を跨ぎながら、ライト少尉とヒータ大尉が歩く。
 時刻は午後五時の少し手前。先の任務で愛機を失ったライトは、代わりに偵察部隊の一員としてもうすぐ飛び立つ予定である。
「‥それでは、大尉。ご無事で」
「少尉も。‥‥真っ先に落ちたりしないで下さいね。イカロス隊の沽券に関わりますので」
「了解、まぁ元々戦闘機乗りです。逆に敵を倒してしまうかもしれませんが」
 ヒータの軽口に軽口を返して、ライトはゆっくり歩き出す。
「おーい片翼! あっち着いたらしっかり酒を調達しとけよ!」
 第三機甲中隊長のバルト中尉が、ノンアルコールビールを片手に野次を飛ばした。ライトは苦笑しながら崩した敬礼を返す。バルトに絡まれたまま副長のカスピ少尉も困り顔で手を振っていた。
 そうして偵察部隊「ホークス・アイ」のパイロット達は、底抜けの明るさでライトを迎え入れる。
「出撃命令が下りたぞッ! 騒いでねぇでさっさと行け、ガキ共!」
 整備隊長のグレッグが声を張り上げて出撃を急かす。
 一七二三時。
 一大撤退作戦の最初の任務が始まった。


 夕暮れから夜へと移り変わりゆく空へ、十一機の戦闘機が飛び上がる。
『‥‥索敵開始。ホークス各機、状況報告』
『ホークス10、異常無し』『ホークス9、異常無し』‥‥『ホークス1、了解、異常無し。次は予定ルートの偵察に‥‥』
『こちらイカロス‥、方位230の地上に何か見えないか? 逆光だが――あれは?』
 それほど距離は離れていない。ライト機は角度を変えて近付きつつ――。
『ブレイクッ!』
 切り裂く声。瞬間、眼下で閃光が走る。
 しかしライトは一瞬照らされた姿に――目が奪われてしまった。
 直後にコックピットが激しく揺れる。
『イカロス被弾! 尾翼が吹き飛んだぞ!』
『大丈夫だ、まだ飛べるっ! それよりアレは‥‥すぐさま基地へ報告しろ!』
 安定を失い、空中で暴れ出そうとする機体を緻密に操縦しながら、ライトは叫ぶ。
 眼下に見えた敵の一個部隊。
 だがその一部は、ライトが今まで見た事も無いシルエットだった。


「‥ガリア」
「あん? 試射だよ、試射。新機体に早く馴染まねぇとなぁ!」
「うぅ‥何で僕まで地上に‥‥。それに何この戦隊みたいな‥‥」
 黒、赤、青とペイントされた人型の三機。だがそのワームはゴーレムではなく。
 バグア新型兵器――『タロス』。
 中国、欧州、その他世界各地で急速に配備が進むワームだ。
 指揮官機ではなく量産型ではあるものの、その性能は人類側にとって未知数である。
 先頭の黒いタロスが、目前に佇む自爆ワーム「ボアサークル」の背を蹴り出す。それを皮切りに数体のBCが高速で走行を始め、ベッセマーベンド基地へと向かっていく。
 そうして――
「さぁパーティの始まりだ!」
 ガリアの狂喜に満ちた声が荒野に響き渡った。


 BCが突っ込み、基地の防壁は粉々に爆発していた。
 KV部隊は展開するも、間に合わない。BCの侵入を許し、基地の至る所で激しい爆発が巻き起こる。
「火災発生! 第一機甲中隊格納庫、第三兵舎、管制塔、物資倉庫‥‥」
「く、くそっ! すぐに出発だ、作戦開始! 撤退だ、撤退しろ!」
「司令、こちらです!」
「う、うむ!」
 ポボス司令は早々にVIP機へ乗り込む。この危機から逃れようと、一足先にパウダーリバーへ向けて脱出を図った。
 各部隊はそれを地上から見送る。
『どうする、撃ち落とすか!?』
『良かったら私の指揮下に対空兵器がありますけど‥‥』
『隊長、ヒータ大尉! 冗談はやめて下さい!』
 カスピ少尉の悲鳴が飛ぶ。
 BCの自爆攻撃が止むと同時に、レーダー上に現われた無数の光点。敵のワーム部隊だ。
『タロー! 全員の収容終わったか!』
『九割方は! 怪我人の搬送で時間食ってるッス!』
 応答の直後、崩れた防壁を越えて地上型HWが姿を見せた。
 スワロー隊が応射して敵を引き付ける。‥‥が。
『う、うわぁ! もう限界だ、発進する!!』
『おい、待て! 止まれ!』
 ワームを見た運転手達がパニックを起こし、収容前に発進。
 怪我人に衛生兵、誘導員の計六十人が残された。
『ダメだ、行っちまいやがった! どうする!?』
『私の部隊のAPCに収容を! スワロー隊は輸送車両隊の直接護衛、クロウ隊は分断されないよう敵を押し留めて下さい!』
『ったく、了解!』
『こっちも異存無しだ!』
 方々に各部隊が散る。ヒータ率いる通常兵器部隊は全力射撃を行って収容の時間を稼いだ。
『あれ〜、どっかで見た機体だねぇ?』
 だがそんなヒータ達の目の前に――敵ゴーレム部隊が姿を見せる。
 その先頭の赤いタロスが発した声は、確かに聞き覚えがあった。
「この声‥‥あのEQの‥‥」
『前はお世話になったねぇ。ま、君にじゃないけど』
 サビーニの狡猾な笑みを感じさせる声。
 ワームとまともに戦えるKV一機に対して、敵は新型3体にゴーレム5体。
 絶望的状況だった。
『誰? 俺パスな、あっちのが面白そうだ』
 あくびを噛み殺してガリア機が身を翻そうとした時。
 彼らの上空を複数の機が轟音を響かせて通り過ぎた。

 一瞬、戦場の砲声が鳴り止む。
 敵味方含め、全員が振り仰いだその頭上。
 ――ライト達の緊急連絡を受けた傭兵部隊が、燃え上がる前線基地の上空に姿を見せていた。
『良いねぇ‥‥』
『‥‥ガリア、任務を忘れちゃダメよ。傭兵は優先目標じゃない』
『お前もやる気満々って声だぜ、オリージュ』
『ま、先にやっつけても間に合うんじゃないの?』
 そう言って三機は、後方の空を旋回する傭兵達へ振り返った。

●参加者一覧

聖・真琴(ga1622
19歳・♀・GP
セラ・インフィールド(ga1889
23歳・♂・AA
UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
山崎 健二(ga8182
26歳・♂・AA
リヴァル・クロウ(gb2337
26歳・♂・GD
鹿島 綾(gb4549
22歳・♀・AA
ルノア・アラバスター(gb5133
14歳・♀・JG
柳凪 蓮夢(gb8883
21歳・♂・EP

●リプレイ本文

 夕闇の空を白い雲が切り裂く。
 二機の同型KVがワーム達の頭上を通り越していった。
『‥来る』
 駆け出すオリージュ、サビーニ。
 その前方約200mの荒れたアスファルトに、垂直着陸能力を使用してセラ・インフィールド(ga1889)とリヴァル・クロウ(gb2337)が着陸した。
「お久しぶりです大尉、加勢しますよ」
「‥‥可能な限りこちらで支援する。準備が出来次第、直衛としてこの戦域を離脱しろ」
『了解、援軍感謝します。‥‥作業、急いで!』
 ヒータが言い放つと同時、紫の光条が直近の戦車を掠めた。

「煙幕展開する!」
 鹿島 綾(gb4549)機の直下に広がる白煙。
 ヒータ部隊とは反対側。敵から200mの距離を取ってKV六機が着陸態勢に移る。
『ぶっ潰せえ!』
 しかしガリアの号令でゴーレムが砲撃し、着陸を妨害。
 ――そこへ漆黒の機体がワーム達の頭上をブーストした。
 通り過ぎた後、強烈なソニックブームが地上に巻き起こる。
「‥‥さて、タロスか。どんなものなのかな?」
 咥え煙草に微笑みを浮かべ、UNKNOWN(ga4276)が呟いた。
 撹乱した隙に、他のKVが白煙の中へ着陸。だがその瞬間、敵の光線が閃いた。
「‥ツッ、タロス3機‥アイツらか? OK‥
不死鳥の代わりに――魂、喰らってやンよ」
 被弾しながら聖・真琴(ga1622)機は変形。
 悪魔を刻印した機体が、機銃を握った。

 施設側。ゴーレム二機の支援を受けながら、赤と青のタロスが接近してくる。
「例の新型か‥‥」
 部隊を庇いながら反撃するリヴァル機。
 20m横で、セラが赤いタロスへ声を掛ける。
「‥あなた方の相手は向こうです。傭兵の中でもエース揃いですよ?」
『そりゃ良かった。‥僕は適度に弱い奴とやるのが好きでね!』
 サビーニは機銃を連射。セラ機は避けずにPRM強化、被弾する。
「‥‥交渉決裂、のようですね」
 苦笑してセラ機がライフルで猛烈に反撃開始。
 一方の青タロスの方では、
『‥どけ』
「拒否する」
 発砲音。
 一秒で交渉は決裂し、リヴァル機とオリージュが激しい火線を交換した。

 滑走路側。ブーストを掛けた綾機と真琴機が弾丸のように疾駆する。
 綾機が中央ゴーレムへM−12を発射。
 迫る巨大光条、それをゴーレムは慣性制御機能を限界使用して直撃を避ける。
 しかし光条が掠めた半身が焦げ、赤黒く融解。そこへさらに綾機がブーストで近付いて雪村を振るう。ゴーレムの片腕を斬り飛ばした。
「行け!」
 叫ぶ綾機の背後を、赤い真琴機が走り去る。
 その向かう先は――オリージュ機。
『ドクロエンブレム‥‥』
「青い機体‥お前だな? 今日は逃げんなよ!」
 だがオリージュは一瞥しただけ。代わりに真琴機の前にはゴーレムが立ち塞がり、槍を繰り出す。
 しかし真琴機はスラスターを噴かせて穂先をかわすと、そのままKVをドリフトさせて半円状の軌道を描く。
「逃げンなってンだろッ!?」
 荒々しく回り込んだ真琴機の爪がタロスを切り裂き、火花と破片が空に舞い上がった。
『‥‥邪魔』
 行く手を阻まれたタロスは刀を一閃させる。
 鋭い斬撃。思わず真琴機はよろめいた。
『待てオリージュ、そいつは僕がやる!』
 突如、セラ機と交戦していたサビーニ機が向きを変える。
 だが真琴はそちらに目も向けなかった。
「‥お前ぇか。悪ぃな♪ 今日は遊んでる暇ねぇンだ。それよりそっちは強敵だぜ?」
『な、ふざけるなっ! あの屈辱を――』
 喋る途中、突如サビーニ機を衝撃が襲った。制御不能に陥り、倒れ込む。
「‥失礼。赤、赤とばかり考えていてフライングした」
 足元に立つ黒い機体。
 サビーニ機の上には、機能停止したゴーレムがガラクタのように倒れ込んでいた。
 それを見下ろしながらUNKNOWNが言葉を投げる。
「――傷は浅いぞ。台詞を続けてくれたまえ」
 トン、と煙草の灰を落とす音がスピーカーから響いた。

 三体目の黒タロスには――ルノア・アラバスター(gb5133)のS−01H「Rot Sturm」が肉薄していた。
『ふん、どっかで見たような奴だ。赤い奴らの亡霊か?』
「‥貴方の、相手は、私、です‥‥また、逃げ、ます、か?」
『あ‥‥?』
 不意に黙り込み、ガリア機は巨大斧を抜き放って駆け出す。
 ルノア機はライフルを二回連射。しかし黒タロスは火線を回避、距離を詰めて――両腕を振るった。
 巨大斧がルノア機めがけて襲いかかる。直後に響く強烈な粉砕音。
 装甲が砕け、骨格フレームが大きく歪んだ。
『誰が‥逃げるだぁ?』
「まだ、これ位、なら‥!」
 ぎこちなくルノア機が半月刀を払う。
 しかし‥‥、前回の戦闘と比べても、敵の能力は著しく上がっていた。
 タロス。
 ルノアは軽い焦りを覚えつつ、この新型機と対峙する。

 青タロスを真琴に任せ、リヴァルはゴーレムへとブースト。
 F砲の被弾をモノともせず、敵へ高速で振り下ろす剣。肩装甲を裂き、駆動機関の一部を切断する。
 その間綾機は、各ゴーレムがタロスと連携出来無いように銃撃を間断なく放ち続けた。ライフルから排出された空薬莢で足元が真鍮色に染まっていく。
 一方、セラ機はライフルで牽制しつつ、ゴーレム達へ接近していく。その反対側から敵を挟む形で、山崎 健二(ga8182)機が急速前進していた。
 ゴーレムは背中合わせに両方へ反撃。健二機とセラ機に紫の光条が乱れ飛ぶ。
 砲撃に晒される味方を柳凪 蓮夢(gb8883)機が援護。冷静に敵AIの行動パターンを記憶しつつ、健二機を狙うゴーレムへトリガーを引いた。
「うおらぁ!!」
 そして全力疾走していた健二機が、ゴーレムへ跳躍。
 ツインブレイドが甲高い音を上げて敵を切り裂く。さらにセラ機がゴーレムの背中をピンポイント射撃で穿った。
 もう一体が助けに入ろうとした所を、後方、さらに接近した蓮夢機はレーザーで狙撃する。
 だがゴーレムは練力消費で機体を一時強化――レーザーを回避した。
「‥‥外したっ!?」
 想定以上の敵の動きに蓮夢は戸惑う。
 その目前で、ゴーレム二体は至近の健二機を攻撃。ツインブレイドで防ぎきれない斬撃が、健二機を激しく切り裂いていく――。

『どうしたあ!? 吠える犬ほど弱いってのは本当だなぁ!』
「‥‥ッ」
 ガリア機の挑発に耐え、ルノアは距離を取る。敵の近接戦の攻撃力は凶悪極まり無い。まともに戦えば勝ち目が無かった。
 ‥‥だが、それでも。
『その機体、あのレッドバードってのと同じかあ? 本当に弱ぇなあ、お前らは!』
「‥っ! レッドバード隊の、悪口は‥‥言わせない!」
 ルノアには――譲れない部分があった。
 赤いS−01Hは急停止、反転。向かって来る黒タロスへ向かって半月刀を構え、ブレス・ノウとブーストを発動。
 ――敵を高速で迎え撃つ。
 両者の全体重を掛けた半月刀と巨大斧が激突。薄闇の空気に猛烈な火花を散らして――二つの武器が互いに突き刺さった。
 だが。
『‥‥んー俺が強すぎんのかねえ』
「っ‥」
 ルノア機がよろめき、損傷箇所から上がる不吉な火花。コックピットでうるさく騒ぐアラート。
 ――力は、ガリア機が上だった。

「あちらの状況が悪いようだ。‥‥頼めるか?」
「ああ、残りは潰しておく! 先に行け!」
 リヴァルは返答を聞くなり黒タロスへと加速する。
 それから、綾機は片腕のないゴーレムを振り向いた。
「お前はいい加減沈め!」
 連射された三十発の弾丸がゴーレムの中枢機関に被弾。爆発を起こして大破する。
 それを目の端で確認しつつ、綾は視界を巡らして状況把握。すぐさま次のゴーレムへと移って行った。

 UNKNOWN機が怒涛の如くサビーニ機へ襲いかかる。
 タロスの槍を回避、その柄を掴むと剣翼で――両断した。
『なっ‥‥』
 相手の驚愕には反応せず、UNKNOWN機はグングニルを構えて懐へ。
 機槍の最大加速に乗った一撃がタロスの右肩を貫き、腕ごと吹き飛ばすような衝撃をタロスに与える。
『こ、のっ‥‥!』
 血を噴かせながら、赤いタロスは左手でF砲を撃つ。閃く紫の光条。――しかし、それは虚空へ吸い込まれる。
 避けたUNKNOWN機はバルカン砲連射。三十発の弾丸が、F砲を腕の外部装甲ごと粉々に破壊。さらに敵の両足へ銃口を下ろし、十発ずつ見舞う。
 一瞬の出来事。
 赤いタロスは両手両足から血を流し、その右腕は動く気配も無かった。
「‥まだ、やるかね?」
 余裕たっぷりの声がUNKNOWN機から響く。
『こんな、嘘だ‥‥有り得ない!』
 サビーニが血走った目で叫ぶ。
 しかし、一方のUNKOWNもこめかみに一筋の汗が伝う。余裕はあっても、油断は無い――。
 突如、タロスの背後のパーツが一部変形する。
 敵行動を反射的に悟ったUNKOWN機が手を伸ばす。が、その目前でタロスは高速上昇。空に舞い上がった。
『もう良い、下らない遊びは終わりだ‥!』
 サビーニ機は低空飛行、ヒータ部隊後方へと高速移動する。
 それを見て――綾が舌打ちした。
「やっぱりそう来たか!」
 今はもう部隊後方、格納庫前に着陸している赤いタロス。綾機はその方向へブースト、ヒータ部隊をショートジャンプで跳び越す。着陸と同時、部隊へ放たれた射撃は――綾機の装甲上で暴れた。
 間一髪で危機を回避。しかし代わりに、野放しになったゴーレムが部隊に迫る。
「手出しはさせないわっ‥‥!」
 ヒータ機が対戦車砲を撃つ。
 しかし動きは止まらず、ゴーレムは部隊へガトリングを構えて――。
 ふと疾風のように現れたUNKNOWN機。ゴーレムの肩を掴んで投げ、頭部にグングニルを見舞った。粉々に砕け、機能停止する無人機。
「‥‥間に合った、かね? さあ、逃げるぞ」
「は、はい! 助かりました!」
 ヒータが安堵の笑みを浮かべる。
 対するサビーニは取り乱して叫んだ。
『なんだよ、何なんだよ!』
「‥俺の仲間は、貴様等との決着を所望している。‥逃げるなよ?」
 綾機が赤いタロスへライフルを向けて、宣言した。

「頃合いですね、タロス班と合流します」
 セラが健二と蓮夢へ通達する。ゴーレムは既に目前の二機のみ。
「了解。いけそうだよ、大体パターンも読めてきたしね」
「そういう事だ! 任せてくれ!」
 蓮夢、健二は共に快諾。交戦を再開した。
 健二機が放つ渾身の斬撃。それを辛うじて受け止めたゴーレムの背中へ、蓮夢機のライフル射撃が爆ぜる。
 よろめくゴーレムへ、健二機は機刀の柄に手を掛けた。
「カートリッジ、セット! 一閃絶倒――ギガブレイクッ!」
 抜き放たれた高速の一撃。遠吠えを上げる刃が敵を袈裟斬りに両断。
 ゴーレムは二つに分かれて――地面に崩れ落ちた。
 即座に、もう一体の方へ蓮夢機が接近する。
「そろそろ行こうか‥紅弁慶!」
 呼応して駆け出す淡い朱と白のシラヌイ。その頭上に降ってきた鈍色の刃を、アイギスで受け止める。
「‥‥予測通りだね!」
 がら空きになった脇へ向けて、練剣「白雪」を振り上げる。
 溶け切れたゴーレムの右腕が宙を舞った。さらに勢いそのままに、機槍をその胸へ貫く。
 ゴーレムは衝撃に仰け反り、――そのままゆっくりと後ろへ倒れた。

 真琴機を切り裂く青タロスの鋭い機刀。
 全身に裂傷を受け、各所油圧の出力低下。
 一方で真琴機の与えた傷は、生体部分の場合ゆっくり回復していく。厄介な相手だった。
『意地でもどかないなら‥‥楽にしてあげるわ‥!』
 現在KV数機が固まるヒータ部隊を攻めるには、側面か後方より正面からの射撃の方が有効。しかし、真琴機が邪魔だった。
 赤タロスが刀を握る。真琴機も構えた。
 振られる一閃。だがその腕を――セラ機がD−02の狙撃で撃ち抜いた。
「援護します!」
『クッ‥!』
 一瞬そちらに気を向けた瞬間、――真琴機が肉薄した。
 赤タロスへ奔る眩い閃光。目を細めて回避するオリージュ機。しかしそれは――ただの照明弾だった。
『しまっ‥‥!』
「かかりやがったなッ♪」
 ディアブロはAF発動、銃口を敵の鼻先に突き付けてトリガーを引く。
 炸裂の連射音。鉛弾は激しく着弾してタロスが血の飛沫を上げる。真琴機さらに肉薄。AF発動の機爪で――オリージュ機の胸を抉り取った。
 血を噴いて後ろへよろめくタロス。真琴機も踏ん張りが効かずに地面へ手を突く。
 その状態で両者は‥‥一瞬、睨み合った。

『‥‥もう無理だ、撤退しよう!』
『ああ? 寝言か? 俺がやっと楽しめそうって時によお』
 ガリアの目前にはボロボロのルノア機を庇って立つ、シュテルン‥リヴァル機。
「機体の損傷が激しい、ここからをこちらで対応する」
「っ‥‥。分かり、ました。お願い、しま、す‥」
 ルノアは悔しそうに顔を伏せて、呟く。
 直後、リヴァル機とガリア機が高速で激突。
 PRM全力使用した剣がタロスの装甲を切り裂き骨まで断つ。代わりに巨大斧の一撃がシュテルンの胸部を押し潰して食い込んだ。
『良いぜえ、てめぇ!』
「損傷率20%‥‥戦闘を続行する」
 二機がもう一度武器を構えた時――。
『ガリア‥‥撤退よ。それとも8対1で勝てるつもり?』
『チッ‥‥。おい、勝負はお預けだ。そっちの赤いのも次は息の根を止めてやる』
 リヴァル機とルノア機へ捨て台詞を残し、ガリア機は空へ舞い上がる。上空には既に二機。手傷を負ったオリージュ機と、ボロボロになったサビーニ機が撤退に移っていた。
 ‥しかし。
「逃がすとは言っていないが」
 リヴァル機が垂直離陸。兵装をK−02ミサイルに切り替え、三機のタロスをロックオン。――親指を押し込んだ。
 白煙を撒き散らして大量のミサイルが空に広がる。
『『――ッ!』』
 三機は散開して辛うじて回避。だが分断された――そこへ。
「貰いましたッ!」
 遅れ気味だったサビーニ機へ、垂直離陸していたセラ機がブーストを掛けて射撃。
 赤のタロスが避けた方向を――完璧に捉えた。
 セラ機のソードウイングが直撃。千切れ飛ぶ肉、血飛沫。そしてその内側から――激しい火花が走る。
『おい、何だよコレ‥! 動かない‥‥!』
 サビーニが制御盤を叩く。高速で自由落下するタロス。
『脱出だ! コックピットを射出しろ!』
 ‥しかし音声認証でも、脱出レバーを引いても、サビーニは射出されなかった。
 サビーニは狂ったようにコンソールを引っ掻き回す。そんな哀れなパイロットの目の前で、――主モニタは赤く切り替わった。
<‥‥タロス完全停止――自爆>


「やめろおおおおおおおおお!!」


 断末魔、掻き消す爆発音。
 薄闇の空に――巨大な炎が噴き上がった。
『ガリア、脱出を‥見た?』
『いや‥‥見てねぇな』
 しかし、止まる訳には行かない。二人はそのまま撤退していく。
 一方、ヒータ部隊では歓声が沸き起こっていた。
「やったっ‥! 傭兵がタロスを堕としたわ!」
 赤いタロスは完全に消滅。灰となって降り注いでいるのみだった――。

 ‥‥その後、部隊は無事に撤退を開始して先行班と合流。腹ごしらえをすると、さらに後方基地へと進む。
 そして傭兵達は絶望的な撤退作戦に、華々しい戦果を飾ったのだった。

NFNo.011