●リプレイ本文
夕闇の空を白い雲が切り裂く。
二機の同型KVがワーム達の頭上を通り越していった。
『‥来る』
駆け出すオリージュ、サビーニ。
その前方約200mの荒れたアスファルトに、垂直着陸能力を使用してセラ・インフィールド(
ga1889)とリヴァル・クロウ(
gb2337)が着陸した。
「お久しぶりです大尉、加勢しますよ」
「‥‥可能な限りこちらで支援する。準備が出来次第、直衛としてこの戦域を離脱しろ」
『了解、援軍感謝します。‥‥作業、急いで!』
ヒータが言い放つと同時、紫の光条が直近の戦車を掠めた。
「煙幕展開する!」
鹿島 綾(
gb4549)機の直下に広がる白煙。
ヒータ部隊とは反対側。敵から200mの距離を取ってKV六機が着陸態勢に移る。
『ぶっ潰せえ!』
しかしガリアの号令でゴーレムが砲撃し、着陸を妨害。
――そこへ漆黒の機体がワーム達の頭上をブーストした。
通り過ぎた後、強烈なソニックブームが地上に巻き起こる。
「‥‥さて、タロスか。どんなものなのかな?」
咥え煙草に微笑みを浮かべ、UNKNOWN(
ga4276)が呟いた。
撹乱した隙に、他のKVが白煙の中へ着陸。だがその瞬間、敵の光線が閃いた。
「‥ツッ、タロス3機‥アイツらか? OK‥
不死鳥の代わりに――魂、喰らってやンよ」
被弾しながら聖・真琴(
ga1622)機は変形。
悪魔を刻印した機体が、機銃を握った。
施設側。ゴーレム二機の支援を受けながら、赤と青のタロスが接近してくる。
「例の新型か‥‥」
部隊を庇いながら反撃するリヴァル機。
20m横で、セラが赤いタロスへ声を掛ける。
「‥あなた方の相手は向こうです。傭兵の中でもエース揃いですよ?」
『そりゃ良かった。‥僕は適度に弱い奴とやるのが好きでね!』
サビーニは機銃を連射。セラ機は避けずにPRM強化、被弾する。
「‥‥交渉決裂、のようですね」
苦笑してセラ機がライフルで猛烈に反撃開始。
一方の青タロスの方では、
『‥どけ』
「拒否する」
発砲音。
一秒で交渉は決裂し、リヴァル機とオリージュが激しい火線を交換した。
滑走路側。ブーストを掛けた綾機と真琴機が弾丸のように疾駆する。
綾機が中央ゴーレムへM−12を発射。
迫る巨大光条、それをゴーレムは慣性制御機能を限界使用して直撃を避ける。
しかし光条が掠めた半身が焦げ、赤黒く融解。そこへさらに綾機がブーストで近付いて雪村を振るう。ゴーレムの片腕を斬り飛ばした。
「行け!」
叫ぶ綾機の背後を、赤い真琴機が走り去る。
その向かう先は――オリージュ機。
『ドクロエンブレム‥‥』
「青い機体‥お前だな? 今日は逃げんなよ!」
だがオリージュは一瞥しただけ。代わりに真琴機の前にはゴーレムが立ち塞がり、槍を繰り出す。
しかし真琴機はスラスターを噴かせて穂先をかわすと、そのままKVをドリフトさせて半円状の軌道を描く。
「逃げンなってンだろッ!?」
荒々しく回り込んだ真琴機の爪がタロスを切り裂き、火花と破片が空に舞い上がった。
『‥‥邪魔』
行く手を阻まれたタロスは刀を一閃させる。
鋭い斬撃。思わず真琴機はよろめいた。
『待てオリージュ、そいつは僕がやる!』
突如、セラ機と交戦していたサビーニ機が向きを変える。
だが真琴はそちらに目も向けなかった。
「‥お前ぇか。悪ぃな♪ 今日は遊んでる暇ねぇンだ。それよりそっちは強敵だぜ?」
『な、ふざけるなっ! あの屈辱を――』
喋る途中、突如サビーニ機を衝撃が襲った。制御不能に陥り、倒れ込む。
「‥失礼。赤、赤とばかり考えていてフライングした」
足元に立つ黒い機体。
サビーニ機の上には、機能停止したゴーレムがガラクタのように倒れ込んでいた。
それを見下ろしながらUNKNOWNが言葉を投げる。
「――傷は浅いぞ。台詞を続けてくれたまえ」
トン、と煙草の灰を落とす音がスピーカーから響いた。
三体目の黒タロスには――ルノア・アラバスター(
gb5133)のS−01H「Rot Sturm」が肉薄していた。
『ふん、どっかで見たような奴だ。赤い奴らの亡霊か?』
「‥貴方の、相手は、私、です‥‥また、逃げ、ます、か?」
『あ‥‥?』
不意に黙り込み、ガリア機は巨大斧を抜き放って駆け出す。
ルノア機はライフルを二回連射。しかし黒タロスは火線を回避、距離を詰めて――両腕を振るった。
巨大斧がルノア機めがけて襲いかかる。直後に響く強烈な粉砕音。
装甲が砕け、骨格フレームが大きく歪んだ。
『誰が‥逃げるだぁ?』
「まだ、これ位、なら‥!」
ぎこちなくルノア機が半月刀を払う。
しかし‥‥、前回の戦闘と比べても、敵の能力は著しく上がっていた。
タロス。
ルノアは軽い焦りを覚えつつ、この新型機と対峙する。
青タロスを真琴に任せ、リヴァルはゴーレムへとブースト。
F砲の被弾をモノともせず、敵へ高速で振り下ろす剣。肩装甲を裂き、駆動機関の一部を切断する。
その間綾機は、各ゴーレムがタロスと連携出来無いように銃撃を間断なく放ち続けた。ライフルから排出された空薬莢で足元が真鍮色に染まっていく。
一方、セラ機はライフルで牽制しつつ、ゴーレム達へ接近していく。その反対側から敵を挟む形で、山崎 健二(
ga8182)機が急速前進していた。
ゴーレムは背中合わせに両方へ反撃。健二機とセラ機に紫の光条が乱れ飛ぶ。
砲撃に晒される味方を柳凪 蓮夢(
gb8883)機が援護。冷静に敵AIの行動パターンを記憶しつつ、健二機を狙うゴーレムへトリガーを引いた。
「うおらぁ!!」
そして全力疾走していた健二機が、ゴーレムへ跳躍。
ツインブレイドが甲高い音を上げて敵を切り裂く。さらにセラ機がゴーレムの背中をピンポイント射撃で穿った。
もう一体が助けに入ろうとした所を、後方、さらに接近した蓮夢機はレーザーで狙撃する。
だがゴーレムは練力消費で機体を一時強化――レーザーを回避した。
「‥‥外したっ!?」
想定以上の敵の動きに蓮夢は戸惑う。
その目前で、ゴーレム二体は至近の健二機を攻撃。ツインブレイドで防ぎきれない斬撃が、健二機を激しく切り裂いていく――。
『どうしたあ!? 吠える犬ほど弱いってのは本当だなぁ!』
「‥‥ッ」
ガリア機の挑発に耐え、ルノアは距離を取る。敵の近接戦の攻撃力は凶悪極まり無い。まともに戦えば勝ち目が無かった。
‥‥だが、それでも。
『その機体、あのレッドバードってのと同じかあ? 本当に弱ぇなあ、お前らは!』
「‥っ! レッドバード隊の、悪口は‥‥言わせない!」
ルノアには――譲れない部分があった。
赤いS−01Hは急停止、反転。向かって来る黒タロスへ向かって半月刀を構え、ブレス・ノウとブーストを発動。
――敵を高速で迎え撃つ。
両者の全体重を掛けた半月刀と巨大斧が激突。薄闇の空気に猛烈な火花を散らして――二つの武器が互いに突き刺さった。
だが。
『‥‥んー俺が強すぎんのかねえ』
「っ‥」
ルノア機がよろめき、損傷箇所から上がる不吉な火花。コックピットでうるさく騒ぐアラート。
――力は、ガリア機が上だった。
「あちらの状況が悪いようだ。‥‥頼めるか?」
「ああ、残りは潰しておく! 先に行け!」
リヴァルは返答を聞くなり黒タロスへと加速する。
それから、綾機は片腕のないゴーレムを振り向いた。
「お前はいい加減沈め!」
連射された三十発の弾丸がゴーレムの中枢機関に被弾。爆発を起こして大破する。
それを目の端で確認しつつ、綾は視界を巡らして状況把握。すぐさま次のゴーレムへと移って行った。
UNKNOWN機が怒涛の如くサビーニ機へ襲いかかる。
タロスの槍を回避、その柄を掴むと剣翼で――両断した。
『なっ‥‥』
相手の驚愕には反応せず、UNKNOWN機はグングニルを構えて懐へ。
機槍の最大加速に乗った一撃がタロスの右肩を貫き、腕ごと吹き飛ばすような衝撃をタロスに与える。
『こ、のっ‥‥!』
血を噴かせながら、赤いタロスは左手でF砲を撃つ。閃く紫の光条。――しかし、それは虚空へ吸い込まれる。
避けたUNKNOWN機はバルカン砲連射。三十発の弾丸が、F砲を腕の外部装甲ごと粉々に破壊。さらに敵の両足へ銃口を下ろし、十発ずつ見舞う。
一瞬の出来事。
赤いタロスは両手両足から血を流し、その右腕は動く気配も無かった。
「‥まだ、やるかね?」
余裕たっぷりの声がUNKNOWN機から響く。
『こんな、嘘だ‥‥有り得ない!』
サビーニが血走った目で叫ぶ。
しかし、一方のUNKOWNもこめかみに一筋の汗が伝う。余裕はあっても、油断は無い――。
突如、タロスの背後のパーツが一部変形する。
敵行動を反射的に悟ったUNKOWN機が手を伸ばす。が、その目前でタロスは高速上昇。空に舞い上がった。
『もう良い、下らない遊びは終わりだ‥!』
サビーニ機は低空飛行、ヒータ部隊後方へと高速移動する。
それを見て――綾が舌打ちした。
「やっぱりそう来たか!」
今はもう部隊後方、格納庫前に着陸している赤いタロス。綾機はその方向へブースト、ヒータ部隊をショートジャンプで跳び越す。着陸と同時、部隊へ放たれた射撃は――綾機の装甲上で暴れた。
間一髪で危機を回避。しかし代わりに、野放しになったゴーレムが部隊に迫る。
「手出しはさせないわっ‥‥!」
ヒータ機が対戦車砲を撃つ。
しかし動きは止まらず、ゴーレムは部隊へガトリングを構えて――。
ふと疾風のように現れたUNKNOWN機。ゴーレムの肩を掴んで投げ、頭部にグングニルを見舞った。粉々に砕け、機能停止する無人機。
「‥‥間に合った、かね? さあ、逃げるぞ」
「は、はい! 助かりました!」
ヒータが安堵の笑みを浮かべる。
対するサビーニは取り乱して叫んだ。
『なんだよ、何なんだよ!』
「‥俺の仲間は、貴様等との決着を所望している。‥逃げるなよ?」
綾機が赤いタロスへライフルを向けて、宣言した。
「頃合いですね、タロス班と合流します」
セラが健二と蓮夢へ通達する。ゴーレムは既に目前の二機のみ。
「了解。いけそうだよ、大体パターンも読めてきたしね」
「そういう事だ! 任せてくれ!」
蓮夢、健二は共に快諾。交戦を再開した。
健二機が放つ渾身の斬撃。それを辛うじて受け止めたゴーレムの背中へ、蓮夢機のライフル射撃が爆ぜる。
よろめくゴーレムへ、健二機は機刀の柄に手を掛けた。
「カートリッジ、セット! 一閃絶倒――ギガブレイクッ!」
抜き放たれた高速の一撃。遠吠えを上げる刃が敵を袈裟斬りに両断。
ゴーレムは二つに分かれて――地面に崩れ落ちた。
即座に、もう一体の方へ蓮夢機が接近する。
「そろそろ行こうか‥紅弁慶!」
呼応して駆け出す淡い朱と白のシラヌイ。その頭上に降ってきた鈍色の刃を、アイギスで受け止める。
「‥‥予測通りだね!」
がら空きになった脇へ向けて、練剣「白雪」を振り上げる。
溶け切れたゴーレムの右腕が宙を舞った。さらに勢いそのままに、機槍をその胸へ貫く。
ゴーレムは衝撃に仰け反り、――そのままゆっくりと後ろへ倒れた。
真琴機を切り裂く青タロスの鋭い機刀。
全身に裂傷を受け、各所油圧の出力低下。
一方で真琴機の与えた傷は、生体部分の場合ゆっくり回復していく。厄介な相手だった。
『意地でもどかないなら‥‥楽にしてあげるわ‥!』
現在KV数機が固まるヒータ部隊を攻めるには、側面か後方より正面からの射撃の方が有効。しかし、真琴機が邪魔だった。
赤タロスが刀を握る。真琴機も構えた。
振られる一閃。だがその腕を――セラ機がD−02の狙撃で撃ち抜いた。
「援護します!」
『クッ‥!』
一瞬そちらに気を向けた瞬間、――真琴機が肉薄した。
赤タロスへ奔る眩い閃光。目を細めて回避するオリージュ機。しかしそれは――ただの照明弾だった。
『しまっ‥‥!』
「かかりやがったなッ♪」
ディアブロはAF発動、銃口を敵の鼻先に突き付けてトリガーを引く。
炸裂の連射音。鉛弾は激しく着弾してタロスが血の飛沫を上げる。真琴機さらに肉薄。AF発動の機爪で――オリージュ機の胸を抉り取った。
血を噴いて後ろへよろめくタロス。真琴機も踏ん張りが効かずに地面へ手を突く。
その状態で両者は‥‥一瞬、睨み合った。
『‥‥もう無理だ、撤退しよう!』
『ああ? 寝言か? 俺がやっと楽しめそうって時によお』
ガリアの目前にはボロボロのルノア機を庇って立つ、シュテルン‥リヴァル機。
「機体の損傷が激しい、ここからをこちらで対応する」
「っ‥‥。分かり、ました。お願い、しま、す‥」
ルノアは悔しそうに顔を伏せて、呟く。
直後、リヴァル機とガリア機が高速で激突。
PRM全力使用した剣がタロスの装甲を切り裂き骨まで断つ。代わりに巨大斧の一撃がシュテルンの胸部を押し潰して食い込んだ。
『良いぜえ、てめぇ!』
「損傷率20%‥‥戦闘を続行する」
二機がもう一度武器を構えた時――。
『ガリア‥‥撤退よ。それとも8対1で勝てるつもり?』
『チッ‥‥。おい、勝負はお預けだ。そっちの赤いのも次は息の根を止めてやる』
リヴァル機とルノア機へ捨て台詞を残し、ガリア機は空へ舞い上がる。上空には既に二機。手傷を負ったオリージュ機と、ボロボロになったサビーニ機が撤退に移っていた。
‥しかし。
「逃がすとは言っていないが」
リヴァル機が垂直離陸。兵装をK−02ミサイルに切り替え、三機のタロスをロックオン。――親指を押し込んだ。
白煙を撒き散らして大量のミサイルが空に広がる。
『『――ッ!』』
三機は散開して辛うじて回避。だが分断された――そこへ。
「貰いましたッ!」
遅れ気味だったサビーニ機へ、垂直離陸していたセラ機がブーストを掛けて射撃。
赤のタロスが避けた方向を――完璧に捉えた。
セラ機のソードウイングが直撃。千切れ飛ぶ肉、血飛沫。そしてその内側から――激しい火花が走る。
『おい、何だよコレ‥! 動かない‥‥!』
サビーニが制御盤を叩く。高速で自由落下するタロス。
『脱出だ! コックピットを射出しろ!』
‥しかし音声認証でも、脱出レバーを引いても、サビーニは射出されなかった。
サビーニは狂ったようにコンソールを引っ掻き回す。そんな哀れなパイロットの目の前で、――主モニタは赤く切り替わった。
<‥‥タロス完全停止――自爆>
「やめろおおおおおおおおお!!」
断末魔、掻き消す爆発音。
薄闇の空に――巨大な炎が噴き上がった。
『ガリア、脱出を‥見た?』
『いや‥‥見てねぇな』
しかし、止まる訳には行かない。二人はそのまま撤退していく。
一方、ヒータ部隊では歓声が沸き起こっていた。
「やったっ‥! 傭兵がタロスを堕としたわ!」
赤いタロスは完全に消滅。灰となって降り注いでいるのみだった――。
‥‥その後、部隊は無事に撤退を開始して先行班と合流。腹ごしらえをすると、さらに後方基地へと進む。
そして傭兵達は絶望的な撤退作戦に、華々しい戦果を飾ったのだった。
NFNo.011