タイトル:【NF】厄介な囮マスター:青井えう

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/10/20 03:47

●オープニング本文


 アメリカ、ワイオミング州ナトロナ郡――赤土の大地がどこまでも広がる地域。
 そこで日夜繰り広げられるナトロナ軍とバグアの戦いは、ほぼ終始バグア側の優勢に終わっていた。
 しかし、ナトロナ地方におけるバグア本拠地『アルコヴァ』、その中心に立つ監視塔の中で司令官らしき男は嘆息を漏らす。
「まさか何の成果も無く、帰って来るとはな‥‥オリージュ」
「‥‥っ。申し訳ございません」
 地面に片膝と片手を置いて、深く頭を垂れるオリージュ。胸までかかる茶色の髪が揺れる。
 彼女は先日のベッセマー・ベンド強襲を見事なまでに失敗させてしまっていた。
「‥‥詰めが、甘かったようです」
 自分の失敗を認めてオリージュは目をきつく閉じる。
 それをフロア中央の台座の上から冷然と見下ろし、アルコヴァの司令官は鼻を鳴らす。
「‥‥当然の結果だ。厄介だと言っただろう、あの傭兵達の存在は」
「深く肝に銘じておきます‥‥」
「そうしろ。何の成果も挙げられないぐらいなら――その場で死ね、オリージュ」
「ッ‥。はいっ‥‥」
 主人の厳しい叱責に唇を噛んで、オリージュは頭を下げる。 
 だがアルコヴァの王はそちらへの興味を失くして、自らの玉座に据えられた装置を操作する。
 すぐに空中にホログラムが浮かび上がり、ナトロナ最大都市『キャスパー』の作戦司令室に繋がった。
 その中心で複数の機材を弄っていた小柄な男が顔を上げる。そして、慌てたように直立の姿勢を取った。
「し、司令! 御用でしょうか!?」
「サビーニ。‥‥キャスパーはどうだ?」
 サビーニと呼ばれた男は、その問いにメガネを押し上げて笑みを浮かべる。
「はい。キャスパーは完璧に制圧してあります!」
「ふむ。それで、お前はそこを離れられるか?」
「離れる‥‥?」
 キョトンとして呟いた後、サビーニは凶悪な瞳を輝かせて満面の笑みを浮かべた。
「いつでも――仰せのままに」
 サビーニは凶悪な笑みを隠すように恭しく頭を下げる。
 アルコヴァの王はその態度にも無表情なまま、口を開いた。
「――では、貴様に任務を与えよう」


 キャスパー基地・作戦司令室。
 元は人類側の基地だったその場所で、サビーニは両手両足を投げ出して椅子に腰掛けていた。
 司令室は暗い。電気も点いていない室内は、メチャクチャに破壊され尽くされている。擦りつけたような血の跡は壁や地面や天井にまで深くペイントされていた。
 耳を澄ませば――街でキメラに襲われる人間達の悲鳴が聞こえてくるようで。
「こんな子守り歌を聞いてちゃ‥‥僕だって眠くなっちゃうよ。ふふ、やぁっと出番か‥‥」
 手を伸ばして、暗闇の中で何かのスイッチを入れる。
 するとサビーニの周辺を取り巻いていた機械が唸りを上げて、あらゆる空間に映像を投影した。
「もうキャスパーはある程度攻められても大丈夫、と。んじゃあ、問題はベッセマーベンドだ」
 視界一杯にベッセマーベンド周辺の地図を投影させる。
 敵基地に残る現在の戦力は、約KV10機前後。その稼動状況は、現在の小競り合いの戦闘記録からして七、八機。
「すぐにも落とせそうだけど‥‥ま、ジックリ行こう」
 サビーニは小さく微笑んだ。


 ナトロナにおける人類側本拠地『ベッセマー・ベンド』。
 元々は前線基地だったそこに押し込められる形で、ナトロナ軍は圧倒的なバグアの攻勢に耐え続けていた。
 しかし貧窮する物資、戦力。そして先の見えない戦い。それらが兵達の士気を低下させていく。
 それでも彼らは――戦い続けるしか無かった。
『‥‥この辺ですね。少尉、警戒を』
『了解。‥‥にしても、ひどいジャミングだ』
 イカロス隊の二機が、外部スピーカーで会話する。
 偵察部隊『ホークスアイ』が確認した情報によると、ベッセマーベンド東数km地点に二十以上のCWが集合。
 しかし通常兵器の戦車などが進入できない地帯の為に、KVの投入が決定。イカロス隊の二機が駆除に乗り出したのだった。

 ライムストーン渓谷。
 その切り立った両岸はゆうに高さ百メートルを越すだろう。そして谷底は横幅が三十メートル程度の、微かに湿った土が広がっていた。
『目標視認。ホークスアイの報告通りよ』
『やれやれ、よくまぁこんな僻地を見つけたもんですね』
 イカロス隊副長のライトは呆れたように声を出す。
 報告では敵はCWのみ。そして実際に見ても、現場には青いキューブ状のワームしか見当たらなかった。
 少なくとも、数秒は。
『‥‥ッ!? 大尉、危ない!』
 ライト機が隊長のヒータ機を突き飛ばす。その元居た位置を、地中から現われた巨大ドリルが切り裂いた。
『これは――HWモグラ!?』
 よく目を凝らせば、地表を盛り上がらせて動く幾つもの線がある。地中を数体のモグラが走り回ってるのだ。
『くっ、これは上空からじゃ気付かないわね‥‥!』
『敵に囲まれます! 大尉、撤退を――ッ!』
 ガドリングで弾幕に張りながら、ライトは身を呈してヒータ機を守ろうとする。
 だが――。
「‥‥そうはいかないんだよねぇ」
 突如聞こえた第三の声。
 そしてヒータの目の前、ライト機の立っていたすぐ下から――巨大なアースクエイクが地表を破り出現した。
『少尉ッ――!』
 悲鳴に近い声が、ヒータの口から漏れる。
 ライト機を飲み込んだEQ。それは噛み砕く動作をしてから、ペッと何かを吐き出した。
 激しい地響きと共に、ライト機バイパーの残骸が地面に叩きつけられる。
 一瞬の間で無惨に破壊されたKV。腕は引き千切れ、完全に大破している。半開きになったコックピットから、血塗れで気を失っているライトが見えた。
「片翼のエンブレム。ああ、君達がイカロス隊だね。‥じゃ、死んでね」
 有人アースクエイクが向き直る。
 ヒータは相手を真正面に睨んでから――ライト機へ走った。
「――!?」
 ヒータ機はバイパーのコックピットからライトを回収。ハッチを強制オープンして――シュテルンのコックピットに乗せる。
「――逃がさないよッ!」
 EQが襲い掛かった。
 しかしそこからのヒータ機の動きは、彼女自身でも驚くほどに冴えていた。
 シュテルンの四連バーニアで垂直離陸、上空へ飛んでEQの体当たりをギリギリでかわす。
「チッ!」
 EQは側面の崖に頭を突っ込み、切り立った崖の中を垂直に這い上がる。そうしてもう一度、空中の黒い機体を丸呑みしようと襲い掛かった。
 しかし、PRMを全力発動したシュテルンはまた辛うじて回避。そのまま崖を抜ける。
「ちぇ‥‥逃がしちゃったか‥‥」
 有人EQのコックピットから、サビーニは残念そうに空を見上げた。

 基地へ帰還したヒータ機から、すぐさまライトは軍病院へと運ばれていく。
 一命を取り留めたものの、ライトは重傷。意識を取り戻しても、起き上がれる状態にすら無かった。
 ワーム討伐は――傭兵に一任する事が正式に決定された。

●参加者一覧

藤田あやこ(ga0204
21歳・♀・ST
聖・真琴(ga1622
19歳・♀・GP
ブレイズ・カーディナル(ga1851
21歳・♂・AA
カルマ・シュタット(ga6302
24歳・♂・AA
ヴァシュカ(ga7064
20歳・♀・EL
ユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751
19歳・♂・ER
最上 憐 (gb0002
10歳・♀・PN
ソフィリア・エクセル(gb4220
19歳・♀・SF

●リプレイ本文

「なるほどな‥CWは囮、おびき寄せて地中からってわけか‥嫌な手を使ってくる」
「有人機も居るみてぇだし‥‥。まさか‥またRB隊絡みのヤツじゃねぇだろぉな‥」
 激しいジャミングのせいで、ブレイズ・カーディナル(ga1851)と聖・真琴(ga1622)は外部スピーカーで会話する。
「有人タイプのEQか。厄介なのが居るな‥‥。だが敵討ちはきっちりさせて貰おう」
 ユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751)は周辺地面に目を慣らして歩く。モグラの移動痕にすぐ気付けるようにだった。
「‥ん〜。嫌な地形だなぁ‥‥。ま、それはそれとして‥ライトさん大丈夫かなぁ‥早く治ると良いんだけど」
 ふとライト・ブローウィン(gz0172)を思い浮かべるヴァシュカ(ga7064)。心配そうに表情を曇らせる。
 それから傭兵達はエンジン音を響かせながら峡谷へと降りていく。
「このすぐ先のようだ。‥‥うん、だけど正直怖いな」
 カルマ・シュタット(ga6302)は薄装甲の電子戦機「骸龍」での出撃が初めてだ。
「‥‥でも、だからこそ集中しないといけなくなる。少尉の仇はキッチリとらせて貰おうか」
 気持ちを引き締めるカルマ。
 ふと前方の地面に見えた轍は、恐らくイカロス隊の二機がここを通った跡だろう。
 ユーリとツーマンセルを組んだ藤田あやこ(ga0204)のビーストソウルがその上を進む。
「‥知ってる? 奥州で土竜と言えば茸で食べられるけど、本物の土竜は猫も食べないの。玩具にするだけ」
「ふーん?」
 雑談して進む内、遂に前方でCWの群れを発見。
 それを視認してあやこ機が武器を構える。
「‥危ない玩具の兵隊、参上」


「ブレイズさん、背中は任せたよ☆」
「ああ、任された!」
 真琴とブレイズが渓谷の中央を駆け抜ける。それと共に強烈な不快感が二人を襲う。
「‥ンなろぉっ!」
 駆け寄りざま、真琴機がCWへ振るう爪。
 一撃目は外したものの、二撃目が敵を捉えて撃破した。
 しかし、真琴は苦々しい表情になる。
「CWに攻撃をかわされる日が来るなンて‥」
 呟くそこへ、モグラが接近する。
 だが手早く地殻変化計測器の設置を終えたブレイズ機が、その対応に向かった。
 慣れた様子で敵を捕捉すると、巨大ハンマーを振り下ろす――。
「なっ‥‥!?」
 しかし、ハンマーは全く狙いが外れた。
 代わりにモグラの標的は変わる。ドリルに装甲を削られて、距離を取る雷電。
 しかし、呆然としたのは被撃したからでは無い。
「CWのせい‥なのか?」
 これまで手足のように動いていたハンマーが、荒れ狂うじゃじゃ馬のように感じたからだった。

 先行班に一拍を置いてあやこ機達も突っ込んだ。
「よくも仲間を玩具にしてくれたわね。ウリャ〜」
 電動鋸を振り回してモグラを追い立てるが、しかしあやこもCWの悪影響をモロに受けている。まともに捕捉できない。
 それはユーリ機も同様だ。射撃はあらぬ方向に飛ぶので、接近してリヒトシュヴェルトをモグラに振り下ろす。
 しかし、回避するモグラの動きに反応できなかった。何も無い地面を切り裂いたユーリ機へ、逆にドリルの反撃が貫く。
「ああ、鬱陶しい!」
 ユーリが苛立たしげに叫ぶ。
 傭兵達は苦戦を強いられていた。

 後方各機は計測器を設置。
「さて、まずは邪魔者を沈黙させたほうがいいようですわね」
 ブレイズ機の計測器とも統合して、ソフィリア・エクセル(gb4220)機が武器を構える。
「お二人の身の安全は、この身をもって守らせてもらいます。‥手荒になったら御免なさいね」
 ヴァシュカが電子戦機の二機の前面に立って、SSライフルとアイギスで警戒に当たった。
「‥‥ん。援護と。計測器での。観測を。優先する」
 反対側、後方の守りには最上 憐(gb0002)機が配置に付く。
 カルマは早速、管制に入った。
「EQの姿は無し。だが代わりにモグラが一体接近しています。三時方向」
「私の方にもEQの影はありませんわね。でもどこに隠れようと無駄ですわよ‥‥! 撲殺姫の由来、とくと見せてあげますわっ!」
 電子戦機二機は接近する敵を迎撃。それを避けて反撃しようとするモグラへ、さらに苛烈な銃撃が見舞われた。
「‥‥ん。やらせない。護る」
 敵を引き付け、甘んじて被弾する憐機。淡々とした様子で敵が電子戦機に向かわないように注意を払った。


「ふーん‥」
 崖の高い所から突き出したEQカメラで、サビーニは傭兵達の動きを観察する。
 最近よく姿を見せる傭兵部隊。その力が、あの元ナトロナエース部隊レッドバードに匹敵するのか、‥‥もしくはそれ以上なのかどうか。
「とりあえず、ちょっと挨拶といこうか」
 サビーニは笑みを浮かべつつ、EQを起動させた。


「‥CW分解! コレで何体目だっ!?」
 真琴機のショルダーキャノンの砲撃がCWを粉々に粉砕する。
「四体目、‥‥いや、今ソフィリアさんが撃破したな。五体目だ」
「みなさんの邪魔はさせませんわっ! 一匹残らずこの場で撲殺してあげますわっ!」
 ソフィリアは空恐ろしい弾んだ声で答える。叩きのめされたCWは地面で動かなくなっていた。
「軍人の玩具の怖さを知れっ。竜巻螺旋脚!」
 あやこ機は前方へは電鋸を、後方へはレッグドリルの回し蹴り。だがモグラはスレスレで回避する。
 その十メートルほど隣で、ユーリ機がCWへ剣翼体当たり、そのまま敵を地面に突き刺した。
「よし、これで六体目か!」
「‥あ、落石注意だよっ♪」
 ふと上を警戒していたヴァシュカが声を上げる。突如、崖から巨石が降り注いだ。
 前方のCW殲滅班はすぐさま回避。しかし後方の四機は互いに固まりすぎていた。
 ヴァシュカ機が頭上に銃を構えて、全弾射撃。すぐさまカルマ機と憐機も頭上へ向けてありったけの弾丸を注ぎ込む。
 激しい弾幕に巨石は粉々に姿を変えた。
 しかしそちらに対応している間に、ソフィリアはふと目の端でレーダーの巨大な光点を捉える。


「真琴さん、西の崖からEQが接近してますわ!」
「っ、オーケー!」
 常に道の真ん中を意識していた真琴だったが、今の落石で壁際に追いやられていた。すぐさま反転して全速離脱。
 直後、背後の壁が轟音を立てて突き破られる。
 飛び出したEQの巨大な口が高速で迫った。だが追いつかれる直前、真琴機は装輪走行から前方へダイブ。
 間一髪、EQの飲み込みを回避した。
「うーん‥‥奇襲は失敗しちゃったか」
 そこには、崖から十メートルほど身体を突き出したEQが居た。

 ブレイズ機と真琴機が斉射すると、また地中へと姿を消すEQ。
「とうとう現われたか! 早くCWどもを片付けねぇとっ!」
 ユーリが左右の崖と地面にも注意を巡らしながら、手近に居るCWへと肉薄して剣を振る。
 この状況でEQは圧倒的脅威。
 さらにモグラも活発化していた。

「モグラが九時、五時、二時の方向から接近していますっ!」
「いえ、二時方向のはあやこさんの方へ行きましたわ!」
「‥‥ん。五時の敵。捉えた」
「‥じゃあボクは九時の方に対応しますねっ」
 交錯する情報。それに冷静に各機が対応する。
 憐機が電子戦機との間に立ち塞がり、向かって来るモグラへ向けて何度も刃を突き立てる。
 電子戦機を挟んで数メートル離れた場所では、ヴァシュカが敵を激しく迎撃していた。
 二機に阻まれてUターンしていくモグラ。しかし、二人はそれを追おうとはしない。
「身体はホットに、頭はクールに、これ常識♪」
「‥‥ん。常識」
 あくまで護衛が急務。そう判断した矢先に、フィリアのレーダーがEQの影を足元に捉える。
 各機散開。
 同時、谷底の地面を破ってワームが姿を見せた。
『さて、RBと同じぐらいとは言わなくても‥まぁ楽しませてね』
 サビーニは電子戦機の二機を捉える。
 そこへ憐機とヴァシュカ機が動いた。
 ブーストを掛けてEQに肉薄。憐機は近付くなり、ハイマニューバの炎を機体後部から噴き上げて両刃剣を振るう。
 ヴァシュカ機も味方の電子戦機との間に自分を割り込ませ、真正面からスラスターライフルを全力射撃した。
 しかし、EQはそれらの攻撃を回避。二機を体当たりで強引になぎ倒すと、そのままの勢いで後ろの電子戦機に迫る。
「っ、撲殺姫の機動力を甘く見てもらっては困りますわっ!」
 ソフィリアは回避オプションを起動して、敵から距離を取る。
 しかし、残ったカルマ機は敵胴体の鋼剣に激しく打ち付けられた。
 骸龍は弾き飛ばされて転倒。その体勢を崩したKVへと、EQの飲み込み攻撃が襲い掛かる――。
「‥身代わりの術、なんてねっ」
 突如、ブーストで突っ込んできた――勿忘草色のアンジェリカ。
「ヴァシュカさん――!?」
 味方のアイギスに吹き飛ばされるカルマ機。その目前で、敵へ練剣を振るおうとしたヴァシュカが――EQに飲み込まれた。
「――ッ!」
「‥‥ん。吐き出させる」
 EQの脇にいつの間にか憐機が接敵していた。機体ごと押し込むように、今度こそ剣を突き立てる。
 続いてソフィリア機のメイスと、さらにカルマ機がデアボリングコレダーを全弾放射した。
 それらを回避しながらEQがKVを吐き出す。ヴァシュカ機は崖に激しく叩きつけられ、地面へと落下。
「‥たた」
 あちこち形を変えているものの、ぶ厚い装甲はEQの飲み込みにも耐えていた。
 ヴァシュカ機はどうにか無事に起き上がる。

 前方、CW対応班には五体全てのモグラが群がっていた。
 あやこ機のロケット弾と電鋸が地面に炸裂する。さらにブレイズ機が巨大ハンマーで蹴散らす。
 その隙に接敵した真琴機がファングでCWを何とか撃破すると、ほぼ同時にユーリ機も剣でCWを一体撃破する。
「あと一体で半分、‥ッ!」
 言う側からドリルに穿たれてKV達は火花を噴き上げた。

 EQはまた地中へと姿を消す。
 計測器が反応。EQは再び‥‥カルマ機とヴァシュカ機の足元へ向かっていた。二機はバラバラに駆け出す。
「俺の方か‥‥望むところだ」
 カルマはレーダーの光点がこちらに向かってきたのを確認。
 直後、渓谷の地面を突き破ってEQが襲い掛かった。
 多少のCWの影響はあったが、減ってきている上にジャミング中和が効いた。カルマ機は紙一重で回避。
「とった!」
 目前のEQの横面へ向けて愛槍のロンゴを振るおうとして――。
 しかし骸龍には積んでいない事を、思い出した。
「しまっ――」
 愕然とするカルマだったがもう遅い。
 ゼロ距離で立ち尽くす骸龍を、すぐさまEQが喰らい付いた。

 咀嚼して吐き出された骸龍は完全大破。
 圧壊したコックピットでカルマは気絶している。
 ほんの一瞬の出来事だった。
 他の三機が攻撃を仕掛けた時には、もう全て終わった後だった。
 憐機が接近、激しく切りかかる。黒い液体とEQの肉片が飛び散る。
「倍返しだ! ‥とっ」
 反対側からはヴァシュカが機体能力をフル使用。守りをかなぐり捨てて荒々しく練剣「白雪」を振り放つ。
「効かないなら効くまで殴るのみですわ」
 さらに後方からソフィリアがメイスで連撃。切り裂き、押し潰す三機の攻撃だった。
 随所で避けつつもEQは苦悶にのたうつ。
 形勢の不利を悟ってそのまま地中へ潜っていった。

 CW三体が足元へと落ちる。それと同時、計測器の範囲が広がった。
『EQがそちらに向かっていますわっ! 警戒を』
 ソフィリアの管制が入る。どうやらEQは、あやこ機に近付いているらしかった。
「三、二、一‥‥浮上しますわっ!」
「了解」
 あやこ機が回避機動。そのすぐ横を、口を開けたEQが地面を突き破った。
 危険を承知で身を翻したあやこ機は応射。EQはそれを回避しつつ強烈な体当たりを食らわす。
 機体の震動を感じながらあやこは頬を緩める。
 反対側。
 ユーリ機がブースト接近、AFを発動した全力のソードウイングを翻した。
「初期機体を舐めるなよ!」
 咆哮と共に胴体を深々と切り裂く一撃。EQの巨体が小さくよろめく。
 そしてEQはまた地中に姿を消した。

 次にEQが接近したのは真琴機とブレイズ機ペア。
 しかし、今の間に後方からの射撃がCW三体を粉砕していた。
「浮上ですわっ!」
「オッケーっ♪」
「了解だ!」
 ソフィリアの声で、二機が背中合わせに全速散開。その間の地面を突き破ってEQが現れた。
「手前ぇ‥‥仇討たせて貰うぞ♪」
 真琴機とブレイズ機は反転。姿を見せた敵へ駆け出す。
 EQはその二方向へ体を薙いだ。
 真琴機を吹き飛ばされる。さらに迫るEQを――ブレイズ機は盾を構えて耐え切る。
 そして特注武器の鋼杭、MステークをEQ頭部の後ろへ深々と突き立てた。
「仲間を傷つけたんだ、タダで帰れると思うな!」
 ブレイズ機が振り下ろした巨大ハンマーがEQを地面へと強引に叩き付ける。
 さらに刺さったままのMステークはその衝撃でさらに深く刺さり、巨大ミミズを地面に磔にした。
『‥‥!?』
 動かなくなった自機に焦るサビーニ。
 その正面に真琴機が立つと、EQの口を無理矢理こじ開ける。
「これでも喰らってろぉ!

 ――ロケットパァーンチッ!」

 両手を突き出して真琴が叫ぶと同時、EQの暗い口内にカッと走る眩い閃光。
 爆炎を上げて切り離された真琴の拳に叩き上げられて、杭に突き刺さっていたEQは血飛沫を舞わせて跳ね上がった。

「つっ‥‥」
 辛うじて機体制御、朦朧とした頭でEQを操作する。
 モグラとCWが敵の攻撃を辛うじて防ぐ間に、EQは地中深くへと逃げ込んだ。
「やれやれ‥‥全員と手合わせなんて、するもんじゃないよ‥‥」
 額から血を流しながらサビーニはぼやいた。


 後の殲滅戦は圧倒的だった。

 あやこ機の電鋸でCWを寸断。
 ユーリ機は大量の弾丸を谷間にばら撒く。
 ヴァシュカ機が赤いマントを翻らせて剣を振るう。
 憐機も両刃剣を振り回して駆逐する。
 ソフィリア機はモグラに鈍器でドンッ!
 真琴機は肩砲でCWを木っ端にする。
 ブレイズ機は、モグラにとっての魔王と化した。


 帰還後翌日。
 ‥その病室にはライト少尉と、もう一人全身包帯のカルマも居た。
「これで仇を討てましたわね‥‥まぁ死んだ訳でゎありませんけど」
 二人を見ながらソフィリアが頷く。
「‥‥ん。お腹。空いた」
 自前のエベレストカレーを食べ始める憐。 
 ヴァシュカとユーリは新鮮な果物と手作りクッキーをお見舞いに持参した。
 あやこが早速、リクエストを聞きながら慣れた手つきで果物の皮を剥く。
「もし本当にRBがあの敵パイロット達にやられたんなら‥‥奴らを討ち取るのには大きな意味があるはずだ。‥‥必ず、倒して見せる!」
 ブレイズが胸の前で拳を叩いて窓の外を見る。
 その背後でふとライトが気配に振り返った。
「ライトさん、少しは良くなったぁ? ‥この際甘えちゃえ♪」
「‥‥え、いや、真琴さんっ?」
 ふいに背中から抱きついた真琴に慌てる少尉。
「なるほど少尉‥‥そうだったんですか」
 それを見て、何だか難しい顔で唸っているヒータ大尉が居た。
「いや、誤解で‥‥」
「あ‥‥大丈夫です。私でも部下の恋愛にまでは関与しませんよ」
 ニッコリ。
 とにかく、任務は成功だ。

NFNo.010