タイトル:【NF】陥落の余波マスター:青井えう

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/10/12 14:31

●オープニング本文


 アメリカワイオミング州ナトロナ戦域の状況は現在、非常に芳しくないものだった。
 最大都市キャスパーが落ちた事で、ナトロナ主力軍は小さな前線基地に篭城。
 自分達で精一杯の主力軍から援軍を見込めるはずも無く、キャスパーを中心に広がっていた各人類側拠点はバグアによる各個撃破の憂き目に合っている。

 キャスパーより50km以上西北西に離れたバウダー・リバー。
 そこは中規模な後方兵站拠点である。
 しかし戦況の悪化につれて運ばれてくる物資は減少し、しかもそれを前線へ送る手段も無く、その機能はほぼ麻痺している状態に近かった。
 さらには日に日に周辺の拠点から連絡が途絶えていく。
 ほんの数週間前まではキャスパーから数キロの拠点と連絡を取り合っていたにも関わらず、現在ではその範囲は大きく縮まっていた。
「‥‥スミスキャニオン監視所からの応答無し。これで‥‥三日目‥‥」
「あそこからこのパウダーリバーまで距離は十数キロ‥‥。いくら相手が他の拠点を探索しながら進んで来ても、ここに辿り着くのは明日か、下手すれば今日中にも‥‥」
「え、援軍は!? 援軍は来ないのか!? レッドバードは!?」
「無理だ、いくらなんでもこんな後方までは来れないだろう!」
「だが二、三日耐えれば、RB隊ならっ‥!」
 微かな希望にすがってざわつく作戦室。
 ‥‥後方兵站基地に居を構える彼らは、未だに知らなかったのだ。
 ナトロナ軍の希望の星。華々しい戦果を挙げるエース。絶望的状況から甦る不死鳥。無敵のKV部隊。
 全軍の誇りである第一機甲中隊『レッドバード』。
 その部隊は既に――全滅しているという事実を。
 いや、ベッセマーベンドと連絡が取れないわけではない。実は地下回線で通信手段は確保されているのだ。ただ彼らが‥‥知らされていないのだった。
「‥レーダーに正体不明機多数!」
 切羽詰ったレーダー観測士の声が――狭い部屋を切り裂く。


「よぉっし、目標はっけーん。‥パウダー・リバーか。チッ、ここらで最後の獲物じゃねぇか」
 巨斧を背負った黒いゴーレム。そのコックピットで、褐色の肌を持つ短髪の男が険しい表情で吐き捨てる。
「弱いのは良いけどよぉ、あまりにも歯応えが無さ過ぎんだよなぁ。眠くて仕方がねぇ」
 そう言う側から、男はあくびを一つ漏らす。それからくっくっくっと思い出し笑いを浮かべた。
「‥に比べてキャスパーは良かったなぁ‥‥。あの赤い七機は熱かったぜ‥‥。マルケとか言う隊長機を叩き潰した時の快感‥‥。敵の雑魚どもが一瞬で黙り込んだのが笑えたよなぁ‥‥。くっくっく――はっはっは!!」
 コックピットの中で手を叩いて笑う男。
 そうして一頻り笑い声を垂れ流すと、目尻の涙を拭いながらもう一度『目標』に目を向ける。
 パウダー・リバー兵站基地。
 後方拠点にしてはかなり規模の大きい基地だったが、それでも所詮は兵站基地。物資などの供給がメインで、戦闘要員が少ない事は明白だった。
「チッ、ああ眠いなぁ‥‥。ま、チャッチャと終わらせて他の場所に飛ばしてもらうか。‥‥おら行くぞ、おめぇら」
 その声に呼応するように、周りに立ち尽くしていたワーム達が動き出す。
 ゴーレム四機、地上用ドリルHW『モグラ』八機、キューブワーム六機、タートルワーム二機。
 その先頭に黒いゴーレムが進み出て、フェザー砲を構えた。
「戦闘指示、ジェノサイドだ。ネズミの一匹も残すんじゃねぇ――皆殺しにしろやあッ!」
 狂ったように走り出すワーム群。怒涛の如く、十数キロ先の基地へ迫る。
 それと同時パウダー・リバーは、ベッセマー・ベンドに絶望的な救援を求めていた――。


「パウダー・リバーから‥‥援軍要請!? ウチだってちょうど戦闘中だ! そんな余裕があるかッ!」
 ポボス司令が作戦地図から顔を上げて怒鳴り声を上げる。
 例によってアルコヴァ方面とキャスパー方面の二方向からの襲撃。
 つい先日の任務では傭兵達を使って敵の爆弾ワームを退けた事で、基地への損害は最低限に留まっていた。
 しかし、その裏で戦闘していたKV部隊は無傷では済んでいない。
 第三機甲中隊『クロウ』はバイパー二機が激しく損傷、修理中。
 同じように残存部隊『スワロー』では阿修羅一機が修理中。
 戦闘可能なKVはクロウ隊に三機、スワロー隊に三機、イカロス隊に二機。計八機しか残っておらず、その為に再び傭兵を呼ぼうとしていた所だったのだ。
「無理だ、このベッセマーベンドには千人の命があるのだッ! それを危険に晒す事はできん!」
 そう言い切って、ポボス司令はパウダー・リバーの要請を黙殺しようとする。
 そんな時、ふと――作戦司令室にKV隊からの通信が入った。
『話は聞かせてもらいましたが、司令! 俺達に援軍なんて必要ありませんぜ!』
 クロウ隊の隊長バルト。酒好きな彼は豪快にそう言って笑った。
『HWが五体ずつ‥‥。丁度良い腕慣らしだな』
 二週間ほど前に合流した残存部隊、その主力であるアロルド中尉が簡単そうに言い放つ。
『俺、パウダー・リバーに弟が居るんスよ‥‥』
 同じく残存部隊のタロー軍曹がしんみりと呟く。
 それらの声に、ポボス司令は怯んだ。
「し、しかし‥‥。八機だけで本当に守り切れるのか!?」
『もし俺達がレッドバード隊なら即断だったんでしょうが‥‥。まあ、守りきって見せますよ。でないと俺達も帰る所が無くなる』
 イカロス隊の副長、ライトは小さく息を吐いて頷く。
 そして、イカロス隊長のヒータもそれに同調した。
『それにパウダー・リバー基地にも――ここと同じぐらい人が居ますから』
「‥‥っ」
 ポボス司令が顔を歪める。震える手の中で、ULTへ送る書類が揺れた。その『任務地』の欄には今、ベッセマーベンドが書き込まれている。
 ふと顔を上げると、作戦司令室に居る全員がポボス司令に目を向けていた。無言の圧力を伴って。
「く、くそッ! ど、どうなっても知らんからな!」
 およそ司令に似つかわしくないセリフを吐いて、ポボスはその任務地を書き直す――。


「‥‥あ? オリージュは失敗しただと?」
 黒いゴーレムを駆りながら、男は眉をひそめる。
 するとコックピットに違う声が響いた。
『らしいよ。敵の傭兵部隊に邪魔をされたんだとさ』
「ヘッ、オリージュがねぇ。ざまぁねぇな」
『‥‥で、同じのが君の所にも来そうだ』
「同じの? ‥‥傭兵か?」
 男は呟くと、嬉しそうに笑みを浮かべた。
「そいつぁ良いぜ! はっはぁ、楽しくなりそうだなぁ!」
『‥‥‥‥。それじゃ伝えたから。返り討ちに遭わないようにね、ガリア』
「ああ!? ふざけんなよ、俺が‥‥」
 ガリアと呼ばれた男は尻切れに黙り込む。
 通信は一方的に切られていた。
「けっ、上等じゃねぇか。何が来ようと――ぶっ殺すだけだッ!」
 黒いゴーレムは吼えながら、加速。
 赤い砂埃がパウダー・リバーへと迫った。

●参加者一覧

リディス(ga0022
28歳・♀・PN
水上・未早(ga0049
20歳・♀・JG
月影・透夜(ga1806
22歳・♂・AA
夕凪 春花(ga3152
14歳・♀・ER
雑賀 幸輔(ga6073
27歳・♂・JG
聖・綾乃(ga7770
16歳・♀・EL
風羽・シン(ga8190
28歳・♂・PN
ルノア・アラバスター(gb5133
14歳・♀・JG

●リプレイ本文

 上空から迎撃に向かうKV群。
「あのタコ親父、いくら我が身が可愛いからって友軍見捨てかけるってのはどうしようもねぇな。‥‥わざわざ奴の言い分に付き合う義理もねぇ」
 風羽・シン(ga8190)が小さく鼻を鳴らして、レーダーに目を落とす。
「休む暇なしか‥未早、連戦だがKVの調子は問題ないか? 終わったら何か美味いものでも食べにいこう」
 小さく溜め息を吐きつつ、リディス(ga0022)が僚機に声をかける。
 水上・未早(ga0049)はそれを快諾した後、気持ちを戦闘へ移していった。
(「防衛戦を強要されるだけの現状ではベッセマーベンドが落とされるのも時間の問題‥どこかに反撃の糸口を見つけないと。
 奴等がその驕りに胡坐をかいている今、エースを落とす数少ないチャンスである今回は絶対に逃さない‥!」)
 決意を燃やす未早。その横で雑賀 幸輔(ga6073)のディスタンが戦闘モードへ移行する。
「‥数的不利を覆すのは、確かな連携力と奇策。敵を自由にはさせない。俺が戦域を作る。任務は確実に遂行する。‥作戦開始」

 そして両者は、とうとう視認できるほど近付いた。
「これ以上、暴れるのは許せませんっ」
 小さく眉をひそめた夕凪 春花(ga3152)が、シュテルンのコックピットからワーム群を見下ろす。
「ああ、好きにやらせるかよ。――ここで行き止まりだ」
 月影・透夜(ga1806)がFCSを起動、臨戦態勢に入る。
「この機体に、乗ろうと、思った、切っ掛けは、レッド、バードの、方々に、憧れて、です。
 あの方達、には、遠く、及び、ませんが、必ず、守って、みせ、ます!!」
 メタルレッドのS−01Hを駆りながら、ルノア・アラバスター(gb5133)が必死に言葉を紡ぐ。
「執拗なまでに破壊を尽くす‥貴方達には‥‥。
 さすがの私も我慢の‥限界です。
 これ以上の破壊は――私達がココで止めるっ」
 怒りに震える聖・綾乃(ga7770)の瞳が、氷よりも冷たく――敵を捉えていた。


 腕を振る黒ゴーレムに合わせて、空に光柱が打ちあがる。KV群は散開して回避。前後に四機ずつ分かれた。
「タートルが鬱陶しい‥舞台に乗らなきゃ始まらねえんだよ!」
 幸輔機が上空から牽制射撃。TWの一体はそちらへ反撃した。
 敵前面では綾乃機の滑腔砲による支援を受けながら、三機が着陸。最後に綾乃機も続く。
「着陸、成功。状況、開始、しますっ‥!」
 SSライフルで敵へ牽制しながら、ルノア機「Rot sturm」は味方機と共に前へ走る。
「えっと、モグラは‥‥」
 春花はディスプレイ上で敵を数え、足りない分を地表走査して探す。
 綾乃機は後方四機の着陸支援の為にCWとTW方面へ射撃。
 透夜機は前面に展開するゴーレムへ弾幕を張る。
「亀とCWは任せるしかないな。‥頼む」
 透夜の視線の先。
 敵の後背で、残りのKVが降下していった。

「雑賀機、着陸完了。これよりダンスを始める!」
 地上に着陸した幸輔機、未早機、リディス機が、敵の背後へブースト突撃していた。
 三人を襲う不快な怪電波。そして――二体のTWが砲身を動かす。
「‥‥ッ!」
 閃光。
 二手に分かれた内、CW班の未早機と幸輔機が巨大な光条に叩きつけられる。
「チッ、――貴様らの相手はこちらだ!」
 一機、TW鼻先に迫ったリディス機が跳躍。大型プロトン砲へ――剣の一撃を叩き込んだ。
 悲鳴を上げて形を変える砲身。
 さらに着地したリディス機は振り向きざま機槍を振るう。
 ‥が、機槍ブースターが不作動。「ジャム」った愛武器にリディスが舌打ちした。
「‥おいおい、大丈夫かよ姐御ッ!」
「ああ、問題ない!」
 TW二体の頭上を飛行して牽制するシンは、別の理由で舌打ちした。
「けっ、にしてもこっちはガン無視かよ‥‥良い度胸してらぁ!」
 TW達は攻撃が命中し難い空中のシン機を、脅威度が低いと判断していたのだ。
 それに気付いたシン機はすぐさまTW近くへ垂直着陸、地上からTWへ攻撃した。


『うぜぇ‥‥。前後から挟撃かよ、ボケがッ』
 前後で飛び交う火線。そのただ中でガリアは無人機へ指示、操作する。
 そして黒ゴーレム自身はモグラ五体を率いて後方へと駆け出した。

「CW二機撃破ですっ」
 未早機の機槍は、瞬く間にCW二体を爆散させた。
 同じく後方から弾幕を張って幸輔機がCW一機を撃破する。
 しかし幸輔は未早機へ声を荒げた。
「木偶人形が近付いているぞ、Holger!」
「ッ――!」
 警告とほぼ同時、二連射された紫の光が未早機を溶かす。
 さらに、地中から姿を現した五つのドリルが突撃した。
『CWはこっちの要だぜぇ!? 簡単にやらせねぇよぉッ!』
「くっ‥」
 未早機はモグラ二体までを機盾で防いだが、残りの攻撃を被弾。
「ふん、相方を途中退場させるつもりは無いんでな!」
 幸輔機から放たれる肩砲。それがモグラの一体を吹き飛ばす。
 しかしすかさず黒ゴーレムが応射。幸輔機は避けきれずに被弾する。
 火線と刃が交錯しあい、CW班はやむなく対応に追われた――。

 その様子を前面班の四機が苦々しく確認する。
 四機が交戦するゴーレム達とは距離を取った撃ち合いになっていた。
「攻撃、回避!」
 ルノアの報告。全機の機体損傷は軽度だ。
 しかし――戦果も芳しくなかった。
 シュテルンが全弾を撃ちつくす。だが春花はリロードせず、全機へ呼びかけた。
「このままじゃ‥‥各個撃破されますっ。突撃しましょう!」
 返事の代わり。三日月マークのディアブロが剣を抜き放った。
「綾乃、モグラは頼む。数は相手の方が多い、連携で死角をカバーするぞ」
「はい、邪魔者は排除します。月影さんはゴーレムを叩いて下さい!」
 アンジェリカがその背後に着いて、体勢を整えた。
 ――全機一斉ブースト。
 高く砂を巻き上げて四機は敵へ肉薄する。
 真っ赤なS−01Hが400発の弾丸を豪雨のように撃ち放った。
「彼らの、代わり、には、少し、でも!!」
 ルノアの心に焼きついた『赤いエース達』の姿。
 それをなぞるように機体特能を発動させて機動、目の前のゴーレムへ――機槍黒竜を突き出した。
 だがそれを、ゴーレムは辛うじて急所を外す。被弾しながら反撃のフェザー砲を三連射した。
「つっ‥‥」
 咄嗟にPフィールド展開、ダメージを軽減するルノア機。
 しかしその背中へ、不意に地中から現われたモグラの巨大ドリルが突進を掛ける。
 激しい衝撃。
 火花が散り、甲高い金属音が響いて――春花機のヒートディフェンダーが敵のドリルと拮抗していた。
「背中は私が守りますっ!」
 そう叫んで力を押し込むと、剣とドリルは弾き合う。
 さらに振るった春花機の一撃。しかし、それはCW電波に妨害されて空を切る。そんな二機へ降り注ぐゴーレムの弾丸。
 それでもなお、二人は戦闘行動を継続する。

 別のゴーレムへ吶喊する透夜機と綾乃機。
 そこへ不意に地表を突き破って現われたモグラが、透夜機へ襲い掛かった。
 だが、透夜機は敵を無視する。敵ドリルが今にもディアブロを貫く――その瞬間。
 後ろからブースト突進する影。淡色の青と白のアンジェリカが、その敵へ体当たりを掛けた。
 きりもみしてドリルに機体を削られながらも、――モグラの背中へ剣を刺し貫く。
 しかしそれだけでアンジェリカは止まらない。別方向からもう一体のモグラが出現していた。
「次々とっ‥邪魔だ! そこで悶えていろ!」
 ブーストの残り香を使いつつ、数mの距離を一瞬で踏破する。
 そして透夜機を狙うドリルに身体をぶつけて強引に狙いを外すと。
 滑腔砲をモグラに押し当てて――引き金を引いた。

 後方からの炸裂音。
 それを耳にしながら、透夜機は目前のゴーレムに接敵した。
 直後、敵から振り下ろされる斧の一撃。それに反応して透夜機も剣を振るう。
 甲高い剣戟音。
 だが両者の武器は伯仲――しなかった。
「一気に押し切るッ。穿たれて吹き飛べ!」
 AF発動。ディアブロの赤熱を帯びた剣が、斧を砕いてゴーレムの胸を貫いた。さらに剣から手を離した腕に装填される、‥赤熱の機杭。
 透夜機は即座に一歩踏み込んで右ストレートを放つ。FFに守られたゴーレムの顔面に拳が食い込んだ、直後。
 電磁誘導された高速の機杭が――ゴーレムの頭部を吹き飛ばした。

 一体のTWが擱座する。
 休む間も無く、KV二機はもう一体へと肉薄していた。
「‥昔は苦労したが、今となっては梃子摺っているわけにもいかないのでな!」
「オラァ、ひっくり返してやんぜッ!」
 機銃を撃ち放って接近するリディス機とシン機。その二機へ、TWは副兵装の戦車砲を連射する。
 シン機は直撃しつつ反撃。亀の真正面に回ってロケット弾を頭部に撃ち放つ。十六発の爆炎がTWの顔周りを覆った。
「今だ! やっちまえ、姉御!」
 即席の目眩まし。
 それに気を取られたTWは、――側面から突撃を掛けるリディス機に対して反応が遅れた。
 ディスタンの握るグングニルが柄後部から火を噴き上げる。
 最大加速からの必殺の一撃。
 全てを貫くその槍が――TWの甲羅をも深々と穿った。
 灰色のディスタンは血のように噴き出す液体を浴びながら、そのまま両手を振り上げる。
「幾ら甲羅が硬かろうが、今の私には関係ないな‥!」
 その手の中で吼える機刀『セトナクト』が、一閃。
 それはFFも甲羅も切り裂いて、――TW内部機関を破壊した。

「‥‥ッ!?」
 ガリア機の放つ一撃が未早機の盾に当たる。今まで直撃しか許さなかった、攻撃が。
 戸惑うガリアが視線を巡らすと、TWと戦闘していた二機のKVが――CWを全機撃破していた。ジャミングが晴れたのだ。その他無人機も次々撃破されている。
 撤退だ。
 ガリアがコンソールに片手を伸ばす。無人機を盾にする命令を出そうとして‥‥動きを止めた。
 ゴーレム達と乱戦を繰り広げるKV達が、ガリア機とワームの間に割り込んで立っている。敵が邪魔で呼ぶ事ができない。
 明らかに対策された――敵の作戦だった。
『そこだッ!』
「ぐっ‥‥!?」
 突然の衝撃がガリア機を襲う。


 ジリジリ距離を詰めていた幸輔機が最後の10mをブースト接近。肩の剣翼を翻らせて黒ゴーレムを切り裂く。
 体勢が崩れたゴーレムを、ディスタンはそのまま押し倒して馬乗りになった。
「幕は下りたぞ! チェックメイトだッ!」
 肩を押さえつけ、敵の鼻先に肩砲を突き付けるディスタン。幸輔がトリガーに力を込める。
『‥‥チェックメイト、だと? ククク、なら――盤ごと引っくり返してやるぜぇっ!』
「ッ‥‥!?」
 歴戦の幸輔にハッタリは通じない。
 だから、確かに異常を感じた。

「っ‥‥! 全員、注意、を!」
 ルノアが全機へと警告。敵が唐突に攻撃を止めたのだ。
 だが傭兵達は、無人機が指揮官機の盾になる可能性を考慮して作戦を立てている。
「‥‥来るなら来い、それこそ俺達の計算通りだ」
 透夜機が腰を落として突進に備える。同じように全機が身構えた、その瞬間。
 動きが起こった。

「なっ‥!?」
 予想外の行動。ワーム達は散開して身を翻すと、全速でガリアとは逆方向へ。
 ――パウダーリバーへ、進路を取った。
「わ、まずいっ‥! モグラを追跡しますっ!」
 春花機がすぐさまブーストで敵を追いかける。しかし、散開して走る敵は、とても少数のKVで叩けるモノでは無い。
「‥‥そんな。‥っ」
 綾乃が振り返り黒ゴーレムへ険しい視線を投げる。
 ‥そして、振り切るように前を向いて敵を追いかけた。

「ッ‥‥! だが、お前は逃がさんぞ!」
 幸輔機の肩砲が炎を噴く。
 しかし黒ゴーレムは直前に思い切り身をよじった。砲弾は頭部を避けて、肩の装甲へ食い込む。
 同時に射撃の反動でわずかに浮いた幸輔機を地面へ転がすと、黒ゴーレムはそのまま立ち上がる。
「‥‥っ、待て!」
 幸輔機の射撃。黒ゴーレムも応射しつつパウダーリバーと逆方向、――撤退へと移った。
 それに気付いたリディスが機銃を射撃する。
「臆病者が、逃げるのかっ!?」
『黙りやがれ! 次はブチのめしてやるぜ! ガリアだ、俺の名を覚えとけっ!』
 言いながらガリア機が全速で走る。
「けっ、口だけは達者だぜ‥‥!」
 シンが悪態を吐いてモグラを追跡。リディス機と幸輔機も黒ゴーレムを断念、モグラの後を追う。
 しかし、一機。
「ダメージコントロール、完了。システム、稼動に支障無し。‥‥名前なんて覚える必要ありません」
 ボロボロになった未早機だけが反対を向く。
「――Holger、敵指揮官機を追撃します!」
 ワイバーンが駆け出し、Wブーストを発動して――加速した。

『あぁ‥‥!?』
 ガリアは追跡されている事に気付き、全速で引き離そうとする。
 しかし、機動力に誇るワイバーンは――その背中に追い縋った。
「――逃がしませんッ!」
 未早機が飛びかかる。展開するのは全体重と速度を乗せた、ロンゴミニアトの一撃。
 それが黒ゴーレムの肩を貫いて、――爆炎を噴き上げた。
『‥クソ、しつけぇんだよこの犬コロがぁッ!!』
 慣性制御を最大使用したガリア機の反撃。
 その斧の強烈な一撃で未早機の盾がひしゃげ、悲鳴を上げていた骨格フレームの一部が衝撃でヘし折れる。
 ワイバーンは崩れ落ちるように倒れた。
「‥っ! あともう少しだけ‥‥動いて下さいっ‥!」
 額に血を滲ませてコンソールを操作する未早。だが、次々にシャットダウンするシステム。
 そして――機体は戦闘状態を終了した。
『チッ、‥‥トドメは刺さねぇでやる』
 既に数機のKVが追いかけて来ていた。正直、トドメを刺す余裕は無いのだ。
 ‥‥しかし手を伸ばせば届く距離から、少しずつ遠ざかるガリア機の姿。
 それを未早は‥‥唇を噛んで見送るしか無かった。


 ‥‥傭兵達がパウダーリバーへ帰還する。
 満身創痍で機を降りた未早が、リディスに肩を貸されて立ち上がる。駆けつけた医者が軽傷の判断をすると安堵の空気が流れた。
 それから帰還報告に向かう傭兵達へ、基地の人員は熱烈な歓声で迎えた。
 アイドルで、今は英雄でもある春花へむさ苦しい男の声が飛ぶ。
 その隣で愛機を本物のレッドバード機と間違えられて、ルノアは少し照れたように俯く。そんなRB隊を信奉する基地の兵士達へ何かを言いかけて――顔を背けた綾乃。
 ‥数時間後、一息吐いた全員がデブリーフィングで集まった。
 戦果報告をしながら、透夜は黒ゴーレムに一太刀も浴びせられなかった無念に目を閉じる。
 その横で幸輔も今回の戦闘を振り返って、問題点などを全て洗い直していく。
 そして会議も一通り終わり、会話が雑談に変わり始めた頃――。
 慌てたように入室してきた士官が、ベッセマーベンドで能力者のライト少尉が重傷を負った事を告げた。
 静まり返る会議室。
 いやその直後に、壁を叩きつける音が響く。
 先ほどまで雑談していたシンが、険しい顔で無言のまま――会議室を出て行った。

 傭兵達の活躍で危機を乗り越えた、パウターリバーの戦場。
 しかし戦線は飽く事無く――次の場所へ移行していく。

NFNo.009