タイトル:【NF】侵略者たちマスター:青井えう

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/09/29 07:43

●オープニング本文


 ナトロナ地域における敵本拠地『アルコヴァ』。その中心にそびえ立つ塔の最上階で、男はHWの持ち帰った映像記録に目を向けていた。
「ふん、キャスパーの生き残りが合流したか‥‥」
「はい。力の無い羊は群れるもの。敵は自ら柵の中へ入って行きました」
 高台の玉座に着く男へ、胸までストレートの髪を伸ばした若い女がひざまずいて答える。
 だがアルコヴァの王らしきその男はそちらを見ようともせず、ただ残存部隊が強行突破する様子を見つめていた。
 男の意思を読み取って映像は任意の場面に切り替わる。その大部分は残存部隊ではなく――それを援護した傭兵達を映していた。
「面倒だな」
 ポツリと男はそれだけを呟く。
 女はしばらくの間を置いてからゆっくり顔を上げ、映像記録の方へ目を向けた。
「敵が不定期に雇う傭兵達の存在が、ですか」
「‥そうだ。奴らの存在は面倒だ」
 もう一度繰り返す男の言葉を女は黙って聞いていた。
 それから初めて男は女の方を向いた。
「オリージュ」
「はい」
「その面倒な傭兵どもをこの地から消すには、どうすれば良いか分かるか?」
 女、オリージュはやや黙考した後、やがてポツリと口を開く。
「‥‥雇い主を消します」
 アルコヴァの王を真っ直ぐに見据えて、オリージュは冷然と言い放った。
「つまり、この地における人類側最後の砦、――ベッセマーベンドを落とせばよろしいかと」
 何でもない事のようにオリージュは返答する。
 それを聞いて王は微かに唇を歪ませて頷いた。
「‥‥以前、サビーニの奴が実地試験を行ったワームがあったな。それを使え、オリージュ。貴様の手で――ベッセマーベンドを攻め落とせ」
「はっ」
 女は頭を垂れて一礼すると立ち上がり、去っていく。
「さて、‥‥どう出るかな」
 愉快そうな響きを含ませて、王は呟いた。


『エマージェンシー! 第一種警戒態勢発令!』
 ベッセマーベンド基地に警報サイレンが鳴り響き、慌ただしい喧騒の下に兵士達が走り回る。
 既に基地の一部で火の手が上がり、兵士達は消火活動に当たっていた。全く不意を突かれた敵の攻撃。しかし、現場に敵の姿は無く――ただ黒ずんだ残骸だけが落ちていた。
「おい、何があったんだ!?」
「分かりません! いきなりデカイのが突っ込んできたかと思ったら爆発してッ‥‥! どいて下さい、負傷者を運びます!」
 状況も把握できないまま現場の兵士達は対応に追われる。
 そしてそれは作戦司令室でも同じだった。

「くそ、どうなっとるんだッ!」
 ポボスが机を激しく叩きつけて叫ぶ。
 司令室はいまや混乱を極めたように喧騒に包まれていた。
「どうして敵をレーダーで捉えられなかった!?」
「いえ、捕捉してはいました! しかしKVの展開が間に合わずに‥‥! 敵が速すぎたんですッ!」
「なにッ‥そんな言い訳が通じるか! 戦車ならともかく、KVで間に合わんかっただとっ!?」
「ですが、事実ですッ!」
「クッ‥‥! 何をやっとるんだ、無能どもめ!」
 ポボス大佐が怒り狂ったように吼える。しかし緊急事態の今、そんな事をしている暇も無かった。
「十時・四時の二方向から敵第二波接近! 十近いキメラが迫っています! 中に数機、HWも混じっている模様!」
「なめるなッ! 出撃中のKV二つに分けて迎撃しろ!」
「了解!」
 すぐに通信士が各機に命令を伝達。
 その命令を出したのも束の間、新たな知らせがポボスの耳に届く。
「偵察部隊ホークス・アイから入電! 現在、220号線道路アルコヴァ方面の橋の上に展開している新型らしきワームの写真を入手したようです!」
「でかした! ホークス・アイは帰って来たか!?」
「現在帰還中! 三機が被弾した為、緊急着陸するそうです!」
「救急隊を滑走路上に待機させておけ!」
 そう指示するのとほぼ同時、別の声が司令室を切り裂く。
「七時方向高空から正体不明の機影複数! ‥‥これは、ジャミング! CW――敵です!」
「‥‥なんだとッ!?」


 四体のHWと六体のCWが雲の上を高速で移動する。
 その切れ間から時折見える広大なナトロナの大地。その前方にポツンと、小さなベッセマーベンドが見えた。
「‥目標確認。無人機の行動指示――A」
 唯一青いHWを駆るオリージュがコックピット内で一つ深呼吸する。息を吐き出すと共に、眼下に広がる光景を薄く目を開いて見据えた。
「作戦開始まで――残り一分」


「敵新型ワームについて判明! 照会の結果、ボアサークルというワームだそうです!」
 プリントアウトされたデータを受け取りながら、ポボスが唸る。
「高速で突進して爆発する敵、だと‥‥。それと空からHW‥‥。今、待機している部隊は!?」
「第五機甲中隊『イカロス』のみです!」
「二機だけか‥ッ!」
 そう叫ぶなり、ガックリと机にもたれかかるポボス司令。
 そうして無念そうにゆっくり首を振った。
「クソッ! レッドバード隊が居れば‥‥これぐらいの危機なんぞっ‥‥!」
 呟いたポボスの言葉を聞いて、作戦司令室の面々は辛そうに目を伏せる。
 キャスパーにてレッドバード全滅という連絡を受けて、既に数ヶ月。
 だがこの基地に居る大半の人間は、そのエース部隊の全滅という事実を――受け入れないでいた。
 ナトロナの不死鳥。その七機は未だに逃げ延びていて、その内ひょっこりと戻って来るのではないだろうか。誰もがそんな想いをヒッソリと胸に抱いたまま――。
 だが現実に。
 あの赤い七機はこの基地に居なかった。
「‥‥司令、イカロス隊のヒータ隊長が話したいそうです」
「繋げ‥‥」
 ポボスは受話器を取って耳に押し付ける。
 するとすぐさまヒータの落ち着いた声が響いてきた。
「あ、司令ですか。実は‥勝手ながら先ほど傭兵を雇っておきました。そろそろ到着する頃かと思います」
「なんだとッ!!」
 寝耳に水の話にポボスが目を剥いて怒鳴る。
「大尉! 貴様、何様のつもりだ!? この基地の司令官は私だぞッ! 傭兵の雇用許可を与えた覚えは無い!!」
「申し訳ありません。緊急事態だと判断しまして‥‥」
「越権行為だぞ貴様ッ!」
「‥‥司令! 複数の友軍KVが着陸許可を求めています! 傭兵部隊のようですが‥‥!?」
 ポボスが窓の外に目を向けると、複数の機体が上空を旋回している。
 見覚えの無い機体、――紛れも無く傭兵部隊だった。
「‥‥チッ。大尉、今回だけは目を瞑ってやる! その代わり、死んでも基地を守れ!」
「了解、許可感謝いたします」
 それを聞き終えるなり司令は受話器を叩きつける。
「司令、友軍機の着陸――」
「させろ! 決まっとるだろうが、さっさと基地に降ろせ!」
「りょ、了解!」
 管制官がマイクに向かって話し出す。
「フン、生意気なッ‥」
 ポボスの呟き。
 そして指示を受け取った傭兵KVは――混乱する基地へ悠然と降り立った。

●参加者一覧

リディス(ga0022
28歳・♀・PN
水上・未早(ga0049
20歳・♀・JG
聖・真琴(ga1622
19歳・♀・GP
月影・透夜(ga1806
22歳・♂・AA
ブレイズ・カーディナル(ga1851
21歳・♂・AA
風羽・シン(ga8190
28歳・♂・PN
天城(ga8808
22歳・♀・ST
ラウラ・ブレイク(gb1395
20歳・♀・DF

●リプレイ本文

「すぐ出ます。アイドリングのまま給油だけお願いします。それと司令室のほうへ繋いでください。状況の確認を―‥」
 水上・未早(ga0049)が機上から指示を送っていく。
「‥‥チッ、まぁーた七面倒臭い奴が来やがったもんだ。前回の失敗で懲りなかったのかよ」
 その間、風羽・シン(ga8190)は今回の敵へ悪態を吐く。それから通信装置に手を伸ばした。
 BC戦闘経験者の言葉に耳を傾け、ラウラ・ブレイク(gb1395)は眉をひそめる。
「車輪爆弾って前大戦の失敗作だと思ってたけど、異星人が実用化したなんて嫌な現実ね」
「‥たく、また厄介なブツが出て来たって訳? けど、‥‥ココは[彼らの巣]だ‥堕とさせないっ!」
「真琴、無理はするなよ。‥無茶はやるべき時にはするけどな」
 基地を振り返って言い放つ聖・真琴(ga1622)へ、恋人の月影・透夜(ga1806)が冷静になだめる。
 それと同時、『補給完了』の通信が入った。
 早速、流星の描かれた天城(ga8808)機が動き出す。
「夏の終わり‥夏休みが終わっちゃったー! あ‥もう秋休み‥うぅ‥練習してたインメルマンターンで気晴らし‥って気楽にはやれないなぁ‥‥。ロンゲのイケメンの未来の為に、基地は防衛だー!」
 悶々な天城を、ヒータは「気合い十分」と頷く。その後ろにライト・ブローウィン(gz0172)機もあった。
 ふとブレイズ・カーディナル(ga1851)はその二機を見つける。
「久しぶりだな少尉、大尉。‥以前会ったときとはまるで状況が変わっちまったな」
「ああ、久しぶり‥ブレイズか。全く、こっちも戸惑ってるよ」
『‥BC活動開始! 急げ!』
「っとのんびり話してる場合じゃ無かったな。まずは目の前の危機から乗り越えるぞ!」
 その声に、リディス(ga0022)がレーダーを注視。
「文字通り猪突猛進、か。
 未早、ブレイズ、今度は猪狩りだ――抜かるなよ。8246小隊、出撃する!」
「「了解!」」
 KV群が空へと舞い上がる。
 彼らが向かう方角には――不気味な影が迫っていた。


「敵KV捕捉‥‥十機。戦闘空域、突入」
 青いHW内部で淡々と響く声。
 その一キロ先でKV群が二つに割れた。


「下は頼む。上のCWはなるべく早く片付けてくる」
「了解、任せました!」
 透夜からの通信に答えて、ヒータ達は着陸態勢に移る。
 空班はライト・真琴ロッテ、透夜・天城ロッテに分かれて加速。
 対するワーム群は超低空、地上200mほどを直進してきた。
 意図不明だがKV部隊もその高度で迎撃する。
 そしてある一線を越えた時、全機に怪電波が襲った。
「来るぞ‥!」
 叫びと同時に奔る――四つの巨大光条。
 CWの影響でKV全機が被弾。閃光が各機を貫く。
 特にライト機と天城機は損傷が大きい。それでも、CWを照準に捉えていた。気付いたHW達が射線内へ動く。
「邪魔すンじゃねぇよ、このガラクタぁ〜! くず鉄にしてやンぜ♪」
 真琴機が8連装ロケット弾を発射するが、HWは回避。
 だがおかげでライト機の射線が通った。
 ライト機は特能も使ってCWを攻撃、撃破。
 それと同時、もう一方でも透夜機が牽制、天城機がCWへ攻撃する。
 しかし、被弾したCWは空中に留まった。
 そんなKV達へHW三機から反撃。天城機が一被弾で揺らぎ、ライト機が二被弾して傾ぐ。
 だが真琴機と透夜機には大したダメージではない。
 それを見た青いHWは、仕留めやすそうな天城機へ砲口を向ける――。
『‥‥ッ!』
 慣性制御で青HWが回避運動。白尾を引くミサイルを避けると、オリージュはその飛来方向にフォトン砲を三連射。
 一瞬遅れて、フォトンの爆発がそこに居た機体を包み込んだ。
 しかし――。
「‥‥。変わった兵器だが、俺には効かないな」
 爆炎の失せた空に、『三日月』マークのディアブロが浮び上がる。
 一瞬目を見開いたオリージュは、ポツリと呟いた。
『‥‥問題ない』
「こちらも、あまり時間はかけられない。邪魔だ――速攻で落ちてもらうぞ」
 僅かな沈黙の後、青いHWと赤いディアブロが砲を交錯させる――。


 すぐ頭上で繰り広げられるドッグファイト。
 今、バルカンを撃ち放ちながら天城機が喰らい付くように三体目のCWをソードウイングで切り裂く。小さな爆炎を上げて、残骸がすぐ側に落下した。
「実際に見ると本当に出鱈目だな、こいつらは。まぁ‥やりがいはありそうだ。押しだけが強いのは女に嫌われる事を教えてやろうか」
 黒円進路上に展開する六機の中心で、リディス機が機銃を構える。
 8246小隊とラウラ機が正面で迎撃態勢を取り、シン機とヒータ機は側面に着く。
 その地上部隊の視界に、高く砂塵を巻き上げて迫る――黒円。
「目標、射程距離に入りますっ!」
 通達と同時、未早がトリガーを絞った。リディス機、ブレイズ機も射撃を開始し、三丁の機銃が火を噴き上げる。
 次々と着弾する火線は弾かれたが、――その衝撃はワームの装甲をも強引に穿った。
 しかしBCは速度を落とさず接近。ラウラ機が射程に捉えて、射撃を開始する。400発の弾丸を受けて、ダメージを殺しきれない黒円がまた穿たれていく。
 だがBCさらに接近。
 すぐさまラウラ機がグレネードを構え、両側面のシン機とヒータ機はロックオン。三機が各々の兵装で攻撃しようとした、――刹那。

 突如、目前にHWが出現した。

「なっ――っ!?」
 地上班と、空班が同時に上げる声。
 そのHW四体は空から急降下、高度『0』地点まで降り立ったのだ。
 対HWの真琴機と透夜機は当然着陸態勢など取っておらず、墜落手前で旋回。ライト機と天城機はCWの掃討を継続、
「えーい、IRSTで絶対命中だぁっ!」
 ‥丁度ミサイルとエルロンロールからのソードウイングで、天城機が最後のCWを撃墜した所だった。
 だが突然現われたHW達を見て、地上班の全機が一瞬だけ――硬直する。
 それはほんの一、二コンマ。
 だがBCが迫る時に見せた――僅かな隙。
『‥‥‥‥Your defeats』
 オリージュが、あなた達の負け、と呟いた。

 その瞬間に撃ち放たれたHW群の砲撃を、各機は反射的に避けた。戦闘慣れした傭兵達の当然の行動。
 だがそれが今、仇となった。
 砲撃の止んだ迎撃陣へ――ボアサークルが突進する。
「まずい、突破されるぞッ!」
 一機、HWから攻撃を受けなかったブレイズ機が、通り過ぎようとするBCにスレッジハンマーを横なぎに振るう。
 轟音。
 強烈な金属音を響かせると、BC一体を吹き飛ばして地面へ叩きつける。
 ――しかし、他の三体までは手が回らなかった。
「チッ、何が何でも止めてやんぜッ!!」
 シン機がバーニアをフル稼働して垂直離陸、ブーストを掛けて稲妻のように後方へ駆る。
 ラウラ機も変形、空高く舞い上がる。
 未早機はWブースト、機動力を活かしてBCに並走を試みる。
 しかし、リディス機だけが背中を見せずに――ハイ・ディフェンダーを抜き放って対峙した。
「幾ら全てを蹴散らす突進だろうが、このディスタンは越えさせんッ‥!」
 アクセル・コーティングの燐光を放ちながら、リディス機が剣を構えて腰を落とす。
 そして一拍を置き――両者インパクト。
「クッ‥‥!」
 電光のような火花が上がり、ハイ・ディフェンダーが悲鳴を上げる。真正面なら折れかねない衝撃。
 しかし、リディス機は角度を付けていた。BCはすぐ真横へ跳ね飛ぶ。その側面へ機刀『セトナクト』を叩き込もうとするリディス。
 ――しかし、機体の反応は一瞬遅れた。
 受け止めた衝撃は要塞化されたリディス機すら無傷で済ませない。装甲が破壊され、態勢を大きく崩す。
 故に一瞬の姿勢制御後に振るわれた一撃は――高速のBCを捉えていなかった。
「外したかっ‥!」
 リディスが歯噛みし、すぐさま黒円の背中へ機銃を射撃する。
 BCは大きく揺らいだものの‥‥倒れるまでには至らなかった。


 その隙にオリージュは再離陸して撤退に移る。しかし空では――四機のKVが待ち構えていた。
「ヨぉ‥不死鳥を狩ったのは手前ぇか?」
『不死鳥‥‥?』
 オリージュは質問を発してきた機体を見る。
 睨みつけるように機首を向けた、真っ赤なディアブロ。
 その色はちょうど‥「あの七機」と同じ色だった。
『ああ、レッドバード』
 微かに楽しそうな声音で、オリージュが呟く。
『そうよ。私も彼らを狩った内の――、一人』
「一人? ‥‥他にも居るようだな」
 透夜が言葉尻を取って言い放つ。
 しかし、目の前の青いHWは何も答えなかった。
「アルコヴァで見た時に潰しとくンだったよ‥後悔してる」
 真琴が無念そうに顔を伏せる。
 だが――。
『‥同じ事。勝つのは私達だから』
 ポツリと呟いて、ゆっくりとHW達は加速する。
 その進む方角はアルコヴァへ。
『‥‥じゃあね、間抜けな人間』
「ま、どっちにしろ――」
 HUD上でLockonを示すシュートキーが点灯を続けている。真琴機は青HWへ向けてブースト吶喊。
「‥手前ぇを帰すつもりはねぇがなっ!」
 バレルロールから――ドゥオーモを一斉発射した。
 ほぼ全方位から放たれるミサイル群。それでもオリージュは、冷静に弾幕の切れ目を見つけて機体を滑り込ませる。
 だがその先に――赤い悪魔ディアブロが先回りしていた。
『‥‥ッ! 01!』
 青HWが急角度で上昇する。それにブーストと補助スラスターによる急旋回で真琴が喰らい付いた。機銃の火線を吐き出しながら、剣翼を閃かせる――。
 だが、その両者の間に無人HWが割り込んだ。
 HWは真琴の連続攻撃を受け止め、爆発。
 だがその爆炎の向こうに――青いHWがすり抜ける。
「ちッ‥‥。透夜さん、お願いッ!」
「‥ああ、任せろ!」
 請け負い、二発の八式螺旋ミサイルを発射する透夜機。さらに自らブースト吶喊して、機銃を撃ちながら接近する。
『02!』
 対する青HWがパワーダイブ。それを追いかける透夜機との間に――またしても無人HWが割って入る。
 透夜機の螺旋ミサイル、そして機銃と剣翼がHWに命中し、オーバーキルで爆墜。
 青HWは危機を逃れる。‥が。
「そこだー! ロックオン、アターック!」
 Wブーストで接近したワイバーンがUKミサイルを撃ち放つ。不意を取られて、青いHWを爆炎が包み込んだ。
『‥軽傷。――03』
 オリージュは再度水平方向へ加速する。
 追撃の手を緩めず接近していく天城機。ワイバーンの『目』はその相手を完全に捉えていた。
 だが最後の無人HWが――両者の間へ強引に割り込む。
 天城機のソードウイングはそのHWを切り裂く。破片が飛び散り、――爆発。
 だがその向こうには、青HWが遠く撤退する姿があった。
「クッ、これ以上追撃は危険だ。‥いや、それよりも地上は!?」
 ライトは眼下へ目を向けると、地上の戦場は場所を変えて。
 ベッセマーベンド手前に移っていた。


 先頭BC頭上を通り越したシュテルンは、すぐさまフルバーニア着陸。
 人型形態に変形、BCと同方向へ全力疾走を始める。
 すぐ後ろから猛スピードで追いつく黒円。
 その巨体と並走した瞬間、シン機は剣翼を広げて――斜めに跳んだ。
「手前ぇは俺が止めてやるッ!」
 ブースト、ありったけの燃料でPRM剣翼強化。黒円へ真横からの体当たりを掛けた。
 強烈な衝撃と耳障りな金属音。
「つっ――!」
 激しい火花を上げて吹き飛ばされ、赤土を切り裂いてシュテルンが地面を滑っていく。
 しかしその前方で。
 同じく派手に吹き飛んだBCが――地面に横向きに倒れた。

 その両者の間を風が通り過ぎる。
 高速で走り続ける黒円と、Wブーストで追いかける四足のワイバーン。激しく揺れるコックピットで、未早が冷静に距離を測る。
「百、八十、六十‥‥」
 長い長い距離をひた走り、基地の門が前方に薄っすら見えた辺りで。
 ようやく未早機が頭一つ飛び出した。
「――今ッ!」
 四足のKVが地を蹴って飛びかかる。
 全体重を掛けてアイギスで突進、背中のソードウイングで黒円側面を切り裂く。耳障りな音と火花が辺りに吹き上がる。
 そのまま未早機は回転に巻き込まれて地面へ激しく叩きつけられた。痛々しく転がるワイバーン。
 だがBCもバランスを崩すと、円を描いて廻り――。
 そして最後には轟音を響かせて――倒れた。

 残るBCは一体。
 リディスに受け止められてやや遅れたそれが今、ベッセマーベンドまで1kmを切った。
 だが、その頭上を追い越してラウラ機「merizim」が基地三百m手前に到達。空中変形して――着地。
 衝撃でラウラ機の全身が沈む。姿勢制御、衝撃吸収、各種システムが作動――十秒間レスポンス不可能。
「‥‥でもそれじゃ、間に合わないのよね」
 BCは目前。数秒で基地に突っ込む位置なのだ。
 ラウラは「Merizim」のブラックボックス、スタビライザー発動。
 機体安定化が図られ、システムレッドからイエロー。同時、フェニックスが立ち上がる。
 その時点でBCまで距離――五十。
 素早く右手に射出される練剣『雪村』。それをラウラ機が強く握りこむと――。
「もう少しだったわね。‥ご愁傷様」
 目の前を通り過ぎる黒円へ、強烈な光柱が横薙ぎに奔る。

 高速のBCは真っ二つに割れて――強烈な閃光を放った。



 帰還後。
 交戦データを提出した空班が、廊下の休憩所でくつろぐ地上班を見つけた。
「あ、お疲れさまです」
 ヒータが差し出す缶ジュース。
 それを受け取りながら、透夜がイカロス隊の二人に目を向ける。
「指令と司令部があんな状態じゃ二人も大変だと思うが、手を尽くして頑張ってくれ。ここが落ちたら後がないしな」
「‥‥連中、何が何でもここを堕とすつもりの様だからな‥‥上等じゃねぇか、こう見えても俺は諦めの悪さじゃ人一倍って自負してるんでね。そう簡単に思い通りにゃさせねぇぜ」
 胸の前で拳を叩きながらシンが吐き捨てるように言う。
 そのすぐ隣から、ブレイズが困惑したように顔を上げた。
「だがレッドバードが全滅したって話、本当なのか。‥正直ちょっと信じられないな。一緒に戦ったのは一度だけだがあいつらの実力は確かだった。‥‥できれば、生き残ってて欲しいとは思うが‥」
 少し途方に暮れたように顔を伏せるブレイズ。その斜め前方では、未早が窓からひしゃげた自機を見ていた。
「RB隊‥‥」
 拳を握り締めて真琴が呟く。
「まぁ‥‥敵の口振りからすると、本当に全滅したようだ‥な」
 ライトの言葉が一瞬の沈黙を生む。
 だがすぐに天城が口を開いた。
「で、でもとにかく今日は勝ったし、大丈夫ですよっ」
「そうですね。あの青いHW‥‥次に会ったら叩き落としますが」
 リディスが紫煙を吐き出して言い放つ。
「でも今回は制圧に向けた総攻撃、というには緩いわね。まるで猫が追い詰めた獲物をいたぶるみたいに。‥‥バグアらしいやり方だけど」
 ふと漏れる、ラウラの言葉。
 それが基地の空気に溶けて。
 ――消えていった。

NFNo.008