タイトル:【NF】突破強行軍マスター:青井えう

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/09/16 23:05

●オープニング本文


 アメリカ、ワイオミング州ナトロナ郡。
 荒涼とした赤土が広がるその地域で、人類側勢力は苦境を強いられていた。
 三ヶ月近く前、突然バグアに陥落させられたナトロナ最大都市『キャスパー』。繋がるようにして存在する南の町『レッド・ビュート』も、ほぼバグアの占領下に置かれているといって良かった。
「チッ、今日もワームどもがウロウロしてやがんな。‥‥ここが見つかるのも時間の問題か」
 双眼鏡を覗きながら、ボロボロの野戦服を着た男は呟く。頬がこけて目の光だけが異様に強い。それだけで過酷な状況下に置かれている兵士だという事が一目で見て取れた。
 レッド・ビュートからさらに南へ五キロの地点。この地帯を横一文字に貫いているキャスパーマウンテン。その西端の麓近くの地面に、ポッカリと目立たない横穴が開いている。
 そこはキャスパー陥落前から存在する、ナトロナ軍の秘密兵站拠点の一つだった。
 辺りは静寂に包まれているものの、近付いてみれば拠点の中から微かな人の気配がする事に気付くだろう。
 しかし、何も目印の無い荒野と山だけがどこまでも広がるこの地域で、バグア側はまだその場所を嗅ぎ付けてはいないようだった。
「‥‥まあ、ジリ貧だな」
「物資も無い、まともな整備施設も無いッスもんねぇ。いつかKV動かなくなるッスよ」
「‥‥。ッスッスうるさい奴だな。普通に喋れ」
「はあ、努力するッス」
「‥‥‥‥」
 双眼鏡を覗いていた男が、後ろを睨むように振り返る。
 茶髪に黒目、まだ幼さの残る顔立ち。「悪意は無い」という意思表示に両手を横に振りながら、強張った笑みを浮かべていた。
「‥‥お前なんかがよく軍に入れたな」
「はぁ、KVが操縦できたんで。訓練もそこそこにすぐ戦場行きだったッス」
「‥‥世も末だ」
「今さら何言ってんすか。十年も前からッス」
「まぁな」
 男は諦めたように溜め息を吐いて、また双眼鏡を覗く。
 その背中にまた声が掛かった。
「タロー・マエダ軍曹です」
「‥‥アロルド中尉だ」
「さっきから何を熱心に探してるんスか?」
「突破口」
 素っ気無い言葉を聞いて、一瞬だけ軍曹は沈黙する。
 中尉の隣に身を伏せながら遠くに目を向けた。
「‥‥見つかりそうッスか?」
「難しいな。220号線道路は敵が多いし、荒野や山を突っ切るにしても視界を遮るモノが無い。どうせすぐ見つかるな。どっちにしても全滅するのが目に浮かぶ」
「じゃあ、無理なんすか‥‥」
「‥‥だが、このままじゃジリ貧だからな」
 そう呟き、隣で不敵に笑うアロルド中尉。
 タロー軍曹はハッと息を詰める。それから恐る恐る、しかし瞳に希望の光を宿らせて、口を開いた。
「‥‥あの、噂なんすけど。
 もうすぐULTから援軍が来るってのは、――マジなんスか?」
 アロルドは微かな笑みを浮かべたまま、双眼鏡を覗いていた。


「初めまして。ナトロナ戦線担当ULTオペレーター、マヤ・キャンベルです。
 早速、依頼説明に移らせて頂きますね」
 十数名程が入れる小会議室にて、小麦色の若い女性がホワイトボードの前に立って言い放つ。
 彼女はペンを手に持ち、そこへ簡単な地形を書き込み始めた。
「依頼内容は、ナトロナ軍の残存部隊をベッセマー・ベンドまで無事に到着させる事。
 現在、残存部隊はレッド・ビュート南の第六兵站拠点に潜伏している事が分かっています。しかし戦力・物資共に乏しく、自力でバグアの包囲網を抜け出せそうにはありません。作戦決行日に彼らは強行軍を試みますので、皆さんはそれを支援して下さい」
 言いながら残存部隊の主な構成を書いていく。

 KV:ナイチンゲール二機 阿修羅一機 スカイスクレイパー二機 スカイスクレイパー改一機
 装甲輸送車:十五台

 簡潔明瞭にそれだけ書くと、今度は地図の方へ二つ×印を書き加える。
「当日、残存部隊は荒野を渡ってベッセマー・ベンドへ向かいます。そこで傭兵の皆さんの選択肢は二つ。
 一つ目。
 残存部隊に合流して、直接彼らを支援しながらベッセマー・ベンドを目指す作戦。
 二つ目。
 敵の警戒が強い220号線道路上で陽動しながらベッセマー・ベンドを目指す作戦。
 一つ目の作戦は直接残存部隊を守れるので、上手くすれば全く犠牲を出さずにベッセマー・ベンドまで辿り着く事も可能です。ただし、敵が一点に集中するので、それだけ厳しい戦闘になると思います。
 二つ目の作戦は二手に分かれての作戦ですが、220号線道路はこの地域の幹線道路、交通の動脈です。そこに居ればこちらが陽動だと分かっていても、少なくとも半分以上のワームが向かってくるはずですよ。もちろん、皆さんが派手に暴れるほど荒野を行く残存部隊の脅威は減少します。ただし、残存部隊を追いかけた敵へは自力で対応してもらう事になりますが」
 そこでマヤは一旦口をつぐむ。
 傭兵達が今一気に説明した内容をちゃんと理解できるよう、少し間を置いてから部屋をゆっくり見回した。
「作戦決行日まではもう少し間があるので、ゆっくり考えて下さい。
 なお、約20%程度の損害は想定の範囲内ですので、それぐらいならこの作戦は大成功です。なので私としては、ある程度の被害は覚悟で二つ目の作戦を推奨しますが。
 ‥‥もちろん、全員を無事にベッセマー・ベンドへ送り届ける事が最善なんですけどね‥‥」
 マヤは少し辛そうに呟いたが、すぐに首を振って顔を上げる。
 傭兵達へ目を向けて精一杯の笑顔を浮かべた。そうする事が彼女の仕事だとでも言うように。
「それでは皆さん、よろしくお願いします! 私もここから――ご武運をお祈りしてますので!」
 明るく力強い声が、小さな会議室に響いた。

●参加者一覧

鷹代 由稀(ga1601
27歳・♀・JG
セラ・インフィールド(ga1889
23歳・♂・AA
榊 刑部(ga7524
20歳・♂・AA
聖・綾乃(ga7770
16歳・♀・EL
鴇神 純一(gb0849
28歳・♂・EP
鳳覚羅(gb3095
20歳・♂・AA
流叶・デュノフガリオ(gb6275
17歳・♀・PN
アトモス・ラインハルト(gb7934
19歳・♂・SN

●リプレイ本文

 作戦日当日。約束の時刻キッカリに、どこからともなく二機のKVが姿を見せた。
「ガーデン陸戦自走砲部隊ただいま到着、なんてね」
「はいはい、皆さんこんにちは。おはようからお休みまで、あなたの戦場ライフを猥談でサポートする鴇神さんの撤退支援でお送りします」
「‥‥何でここで猥談?」
 鴇神 純一(gb0849)の軽快なトークに、鳳覚羅(gb3095)は苦笑しつつ聞き返す。
 しかし、純一は至極当然のように答えた。
「猥談と昔話は戦場のお約束だろ? それに俺からエロ取ったら何も残らんし」
「一応、女の子も居るんだけどね」
「ようしそれじゃ皆、ケツの穴引き締めていこうぜオール」
「うわあ、聞く気無いなあ!」
 そんな二機の傭兵KVパイロットのやり取りを、既に出発準備を整えた残存部隊の面々が胡散臭げな目を向けていた。
「‥‥本当に大丈夫なんすか、中尉」
「知らんが、いける。むしろ信じるしかない」
「そうだぜボーイ。なぁに撤退支援は俺の十八番だ、やる事やってりゃお家に帰れるさ。安心してくれ」
「‥‥ってか、二機だけすか?」
「いや、他に仲間が六人居るよ。今ちょうど‥‥、着いたぐらいじゃないかな?」
 言って目を転じる覚羅。
 レーダー上を光点が六つ、220号線方面へ流れて行った。

「20%の損害、か。‥やはりそんなものを前提で話す事は出来ないな」
「私もそういうのは余り好きではありませんね。護衛に付いたお二人を信じて、我々は少しでも敵を釣り上げて、友軍の撤退を援護する事にしましょうか」
 漆黒のシュテルンを駆る皇 流叶(gb6275)とミカガミを駆る榊 刑部(ga7524)が兵站拠点の頭上を通り過ぎていく。
「オレ達の活躍次第で向こうの負担も減るから、頑張らないとね♪」
 アトモス・ラインハルト(gb7934)は眼下の残存部隊と二機へ向けてディアブロの翼を振った。
 さらに続くKV三機が――西の空へ吸い込まれて行く。
「着陸態勢に入ります‥‥三、二、一、――着陸!」
 セラ・インフィールド(ga1889)のカウントで各機が空中変形。完全武装のKV五機が、220号線道路に灰色の粉塵を巻き上げて着地する。
 鋼鉄の人型兵器達はすぐさま展開、――視線の先のワーム達へ武器を構えた。
 コックピットの中、首元のクロスを握り締めた聖・綾乃(ga7770)が顔を上げる。
「陽動班――状況開始しました」


 低く盛り上がった丘の上で、オリーブグリーンと白を基調にしたシュテルンがD−02ライフルを構える。
「OK。さ、エスコートといきましょうか。‥‥慎ましくね」
 そのコックピットで狙撃用ライフルを模したコントローラーのスコープを覗いて、鷹代 由稀(ga1601)が不敵に笑う。
「陽動班・撤退班へ共に敵が接近中。――始めるわよ。アルヒア‥、目標を狙い撃つ!」
 直後、一発の砲声が空を切り裂いて響いた。

 残存部隊を包囲しようとする敵群へ、真っ先に突撃したのは純一機と覚羅機だった。
「ようやく来なすったな。んじゃベッセマーベンドまで片道四キロ、パレードの花道を俺達で切り開くぜ!」
「だね。伊達に陸のガーデンに所属していない事を見せてあげるよ」
 敵群の一点へ切り込む二機。そのKV達へ、ワームは全方向から一斉砲撃を放った。豪雨のような砲撃で二機の表面を着弾の火花が踊り狂う。
 だが二機もすぐさま反撃に転じた。
「対FF徹甲弾装填完了‥目標固定‥3、2、1ファイエル」
 ゼカリアの滑空砲が火を噴き、前方のHWへ命中。追加スコープ二基が照準補助を行い、さらにもう一撃を加える。
 さらに突出するロジーナが敵正面へグレネードを撃ち放つ。轟音と共に炎と砂塵が舞い上がり、キメラ達は膨れ上がる熱風の中で悶えた。
「さあ今だぜ坊や達。基地へ帰って魅惑のレディ達と熱い夜を過ごしたいなら、死ぬ気で駆け抜けるんだ」
「了解。‥生き延びれば酒と女、死んだら鳥の餌か。利口な奴はあの二機に続け!」
 呼応して装甲車両が砂埃を巻き上げて全速で走り出す。六機の正規軍KVはその周囲に展開、迫り来るキメラに掃射を加えつつ下がっていった。

 残存部隊は敵ワーム群を強行突破。基地へと全速で撤退を開始する。
 その頃、220号線道路上でもワームとKVが激しく火線を交換していた。紫の光条や砲弾が空や道路を切り裂き、荒地に変えていく。
 埒の明かない砲撃戦は近付くにつれて精度を増し、互いに距離をさらに縮めて乱戦を繰り広げた。
「敵陣に突っ込みます! 援護を!」
「了解、弾幕は任せてよ♪」
 黒塗り青ラインのディアブロがガドリングを掃射する。側面のワーム群に降りかかる弾丸の雨。
 その正面へPRM四割を防御に回したセラ機が突撃。双機刀を両手に、敵複数体と激しい格闘戦を繰り広げる。
 続く綾乃機は一直線にゴーレムへ狙いを定めて走っていた。
 気付いたゴーレムが向き直るなり、綾乃機は鈍色の剣を一閃。
「邪魔をするな‥退いていろ」
 綾乃機『Angie』は相手の反撃を避けてさらに一撃する。
 そんな剣戟音が響く中に、激しい銃声が割り込んだ。
「刑部機、左側面へ突撃します!」
 ブーストをかけたミカガミが機銃を掃射しつつ高速移動。剣に持ち替えて数体の大型キメラへぶつかっていく。
「なら、私はあの余り物を貰おうか‥不味そうだがな」
 フリーのHWに目を付けた漆黒の流叶機が、盾を構えて戦火の渦へ身を投じる。直後、HW相手に激しい剣戟音が響いた。
 混沌とした白兵戦。
 乾いた大地に際限なく降り注ぐ血やオイル、破片。それを踏みしめて五機のKVは奮戦した。

 ジッと戦況を遠くからスコープを通して覗くKV『アルヒア』。
「‥隙を作る‥そうすれば自ずと流れは傾く‥っ!」
 銃声と共に銃の反動がKVの肩を一瞬揺らす。直後、遠方で弱っていたキメラの頭が吹き飛んだ。
 即座に薬莢排出、装弾。
 スナイパーはもう一度狙いをつけた――。

 砂埃を巻き上げて残存部隊は撤退を続ける。
 敵の戦力が二分されたお陰で、どうにか敵の攻勢を押し留めていた。
 その間、撤退行の要所要所で純一が軽快なトーク(管制)で部隊を指揮し、たまに飛び出るボケに覚羅は苦笑しつつトリガーを引く。
 その状況を無線で聞きながら、しばらくして陽動班も動き出した。両班で距離が空き過ぎないように220号線道路をゆっくり後退。その後には無数のワームの残骸、抉れた地面や割れたアスファルトの惨澹たる有様が延々と残った。
 しかし、いくら砲火を交えても敵勢が減る事は無かった。


「頃合いか‥」
 陽動班。周囲を敵に囲まれた流叶機が両手に砲を構える。その機体へ向かって飛びかかるキメラ。
「‥穿てッ!」
 流叶機の両手の砲がそれぞれに火を噴く。宙に跳んだキメラは吹き飛び、流叶機の回転にあわせ円状に火線が飛んだ。
 別の場所ではセラ機がスパークワイヤーから『白雪』の連続攻撃を放っていた。ゴーレムの片腕がもげて黒い液体が飛び散る。
 セラ機が戦闘に専念できるように刑部機はその周囲のワームへ射撃。弾幕に敵が怯んだのを見て、自らも剣に持ち替えて同方向へ切り込んでいく。
 だが幾体ものワームを叩き伏せながらその勢いを止められない。
 キメラ達が群がるようにKVへ突進し、その後方からHWやゴーレムがフェザー砲を浴びせかける。
 嵐のような攻撃に五機は必死に武器を振るい続けた。空薬莢が地面を埋め、火薬と硝煙で空気は濁っていく。そこへ遠くから狙撃して援護する由稀機。
 とはいえ、いまやKVを囲むワームの数は飽和状態だった。

 長い乱戦の末、ふと数体のHWとキメラがその脅威度を認識して由稀機へ移動を始める。
「敵に背を向けるとは余裕か? ‥それとも只のバカか?」
 すぐさま綾乃機が追撃して高分子レーザーを連射する。強烈な光線に切り裂かれるワーム達。
「そう簡単には行かせないよ♪」
 さらに別方向からもアトモス機がガドリングを撃ち放つ。
 その十字砲火で数体のキメラが崩れ落ちたが、すぐに別のワームがKV二機を攻撃。一瞬集中を削がれた隙に、敵は陽動班から大きく離れた。
「クッ‥‥!」
「そっちにHW二機抜けられた! 由稀、頼んだよ!」
 綾乃が歯噛みし、アトモスがすぐに連絡を入れた――。

「‥‥OK、と言いたい所だけど」
 スラスターライフルに持ち替えて首を巡らす由稀機。
 ‥陽動班側と違う方向からも、一体のゴーレムと二体のキメラが迫っている。一人で相手するには辛い数。
 すぐに『アルヒア』は地面へ掃射、巻き上がる砂埃を煙幕代わりに距離を離そうと試みる。
 ‥しかし、相手は完全に由稀機を執拗に追いすがった。そして強烈な砲撃を撃ち放つ。
 アルヒアの周囲の地面に着弾、土塊を跳ね上げた。

「うじゃうじゃとまぁ‥でるはでるは」
「まったく、しつこいと嫌われると思うんだけどね」
「その通りだな、こういう場合は囲み狼って言うのかね? とにかくま、俺たちが総て――」
「「撃ち砕くっ!」」
 盾を対戦車砲の支持脚にして純一機が砲撃を敵へ浴びせ、覚羅機が420mm砲を砲撃。
 激しい攻撃に前面のワーム達がバタバタ倒れる。しかし――すぐさま後ろから次のワームが追いかけてきた。
「多すぎッス!」
「チッ、‥大所帯だからな! 寄って来るんだろうよ!」
 軍曹と中尉も必死に応戦。他の正規KVも円形に展開し、中心の装甲輸送車を守っていた。パイロット、ドライバー達の怒号や悲鳴に近い通信が飛び交う。
 しかし、その攻防は際限なく苛烈さを増して、遂に――砲火は円の中心にまで及んだ。
『A三号車被弾、――大破ッ!』
 怒鳴るような通信に一瞬、全員が凍り付く。
 KVの隙間をすり抜けたゴーレムの砲撃を受けて、車輌は黒焦げの鉄片と化していた。

 状況は劣勢。キャスパーから離れる程に敵増援は緩慢になったが、各機、特に正規軍の消耗が激しかった。
 作戦開始から既に十数分。全機は死に物狂いで踏破していく。
 ――しかし、敵の追撃も執拗だった。

 ゴーレムを相手に由稀機がメアリオンを振り下ろす。さらに、側方のHWへ掃射。
 しかし、すぐにキメラやHWは反撃する。数に劣る由稀機の機体が軋み、背中と側面を覆うKVフルシールドが形を変えた。
 たまらずブーストで突き放しても、ゴーレムとHWは赤く発光しながら追いかけてくる。
「つっ‥‥しつこいッ!」
 由稀が目を落とすと、機体損傷率は八割を超えていた。

 陽動班も既に損傷率五割以下を保っている機体は無い。
 全機が機体特殊能力をフル起動、迫り来る敵を全力で迎え撃つ。五機が死力を尽くして戦う事によってようやく、敵がゆっくり減少に転じる。
 そんな彼らが通って来た220号線道路上を延々と続く戦闘の傷痕。それは戦闘が過激で終わりの無いモノだった事を物語っていた。
『B一号車、C三号車被弾、大破ッ!』
「クッ、もう少しだけ耐えて下さい‥!」
 刑部が敵を撃ちながら叫ぶ。
 セラ機、綾乃機も周囲のワームへ向けて奮迅の活躍を繰り広げる。
 その後方でアトモス機が機体各所から火花を散らしていた。そこへゴーレムが剣を振りかざして迫り――振り下ろす鋭い一撃。
 それを、――ブーストを掛けた流叶機がアイギスで止めた。
「やらせはしない‥盾の役割、しかと知れ‥」
「助かります、流叶さん!」
 目の前のゴーレムへゼロ距離射撃を放つアトモス機。
 激戦を繰り広げる220号線道路の向こうにはもう――薄っすらとベッセマーベンドは見えていた。


『‥皆さん、無事ですか!? こちらベッセマーベンドのイカロス隊ヒータ! 今から援軍に向かいます!』
『一分以内にはそっちへ着くはずだ! それまで持たせてくれ!』
 その通信に耳を傾けながら由稀はトリガーを引く。
 振り落ちたメアリオンがゴーレムを切り裂き、沈黙させた。
「ふぅ。‥‥あともう少し早ければ、ね」
 響く警告音。
 左右、両モニタにHWが迫るのが見えた。しかし距離にして僅か数メートル、既に回避できないタイミング。
 直後――HWのドリルは由稀機を深々と貫き、叩き伏せた。

『由稀機大破! こっちも機体が持ちませんッ‥!』
「チッ‥‥。俺も同じだがここは我慢だ。石の上にも三年って言うが今はたかが五十秒の辛抱だぜ!」
「まあ、三年分は濃縮された五十秒だけどね!」
 殿を努める純一機と覚羅機が敵の追撃を引き受ける。いまや敵の数も減り出していた。
 強引に突破しようとしたHWを覚羅機がルプスで刺し貫き、そのまま重機関砲のゼロ距離射撃で仕留める。
 周囲に展開するKVも襲い来るワーム達へ弾丸の雨を降らしていく。
 しかし、側面へ回りこんだゴーレムの一機が弾幕を超え、円陣に接敵した。既にボロボロだったKVを、剣の連撃で――撃破。
『イーグル隊四番機、大破!』
「くそっ! 木偶を防衛線の中に入れるな!」
 すぐに両側二機のKVがゴーレムを叩き伏せる。しかし、それによって周囲への弾幕が止まった。純一と覚羅はそれに気付くものの、後方への牽制を中断するわけにもいかない。
 その隙を突いて側面から大型キメラとHWが突撃。HWのフェザー砲がスカイスクレイパーを貫き、沈黙させる。さらに装甲車の一台も大破。
 そしてそのままワーム達がなだれ込もうとした時――。
 突如、ワーム達へ大量の砲弾が降り注いだ。
『お待たせしました、撤退を支援します!』
 数十メートル離れた所に――四機のKVが着地していた。

 それから数分後、残存部隊が無事に安全地帯まで到達。
 その連絡を受けた陽動班も戦闘から撤退へシフト。敵に最後の掃射を加えて引き返した。
 相当な被害を出した敵も、それ以上の追撃を断念する。
 ‥‥そうして砲火は鳴り止むと、それで戦闘は終わりを告げたのだった――。


「クッ、レッドバードが一人も居らんとは‥‥。やはり本当に全滅してしまったのかッ!? 誰か知ってる者は!?」
 ポボス司令が帰還兵達を前に呻くように叫ぶ。
 しかし傭兵も含めて兵士達の表情には温度差があった。
「‥‥ちなみに鷹代 由稀さんは無事に回収され、病院に搬送されました。命に別状は無いそうです」
 ヒータの言葉に、ほぅと初めて穏やかな表情が全員に浮かぶ。
 それから三十分ほど任務報告で拘束された後、彼らは解散となった。

 夕暮れ、疲れ切った兵士達はささやかな祝宴を開く。
 食堂には残存部隊や基地の兵士達、そして傭兵の姿があった。
 テーブルを囲んで兵達とジョッキを合わせる純一や覚羅、喜ぶ生還兵達の言葉に本当に僅かに微笑んで頷く流叶。末席で落ち込む綾乃をライトとヒータが慰め、飄々としたアトモスがパフェを三人分運んでくる。
 刑部は瞑想するように瞳を閉じ、ふと窓の外を見たセラは笑顔に微かな憂いを帯びさせる。
 ゆっくりと終わりを告げる今日。
 ――しかし、この基地は無事に明日を迎えられるのだろうか。
 そんな空虚な問いが誰の胸にも浮かび、‥‥誰も気付かないフリをしていた。


【NF】No.M007報告書