タイトル:【NF】強行偵察マスター:青井えう

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/05/20 23:22

●オープニング本文


●Alcova
 ほとんど廃墟と化した町並みを、高い管理塔の上から壮年の男が見下ろしていた。
 町には全く活気が見られないが、人が居ないわけでは無い。崩れた屋根の隙間からは煤汚れた人間が見える。
 しかし彼らは活力も希望も無いまま、従順な家畜のように朽ちかけた家の中で身を縮ませていた。長い時間をそうして、動く時といえば壊れた天井から差し込む日差しや雨を避ける時ぐらいである。そうやって彼らは空腹に耐え続けていた。時々与えられる食糧は大概が得体の知れない肉だった。
 突如、町に悲鳴が響く。
 この生活に耐え切れず家を飛び出した一人の男が、三頭の犬に襲われた所だった。三頭‥‥三つの頭を持つ一体の怪物犬に。
 悲哀に満ちた断末魔の叫びを聞きながら、しかし管理塔に居る男は興味無さげに視線を空に転じる。
「‥‥二体」
 呟く男。空の中に現われた豆粒のような黒い影――。
 高速で接近してくる小型HW。二体はよろよろと町の中に入ってきて無造作に着陸する。民家の数件がHWに押し潰されて圧壊した。
 HW達はそのまま町を自走して、自らの格納庫に帰っていく。しかし二体はしばらく出撃できないだろう。装甲が大きく抉り取られ、見るに耐えない損傷を被っている。管理塔の上からでもHWの内部で弾ける青白い火花が見えた。
「良いようにやられて来たか‥‥劣勢だな」
 男は誰に言うでも無くポツリと呟く。
 その脳裏に過ぎるのは相手側のエース部隊。赤いS−01Hを駆るレッドバード。
 男は唇を噛み締め、そのまま口を歪める。
「‥今の内に勝利に酔いしれておけ、劣等な人間ども」
 堕した町――――アルコヴァ。
 男が見下ろす町はそう呼ばれていた。


●Bessemer Bend
  ワイオミング州ナトロナ郡地方におけるベッセマーベンド攻略作戦が成功に終わって約半月。ナトロナ郡の敵本拠地アルコヴァに近くなった事でしばらくは激しい戦闘が続いていたが、ここ数日は比較的に穏やかな日が続いている。
 しかし、戦闘が無くても基地が慌ただしいのはかわりが無い。特に攻略作戦で払った犠牲は痛く、敵の襲撃の無い日はもっぱら再軍備に当てられていた。
 一度全滅した第二機甲中隊の体裁を整え、第三、第四中隊と戦力比を調整する。その大掛かりな再編成は首都キャスパーの基地にて行われ、従って前線基地のベッセマーベンドに残るのは再編成を免れた第一機甲中隊のレッドバードと、第五機甲中隊のイカロスの二隊だけである。
 そのせいで両隊の稼働率は他の隊より倍近く高かった。
 ベッセマーベンド前線基地に帰還してくる七機の赤いKV。
 ポボス大佐はそれを作戦室から見て、彼らエース達が敵の迎撃に成功した事を悟る。
『レッドバード帰還。損失ゼロ、小型HW撃墜9、撃退2。迎撃成功』
「うむ、素晴らしい。では間を置かずにイカロス隊を出撃させろ! 第二号作戦、開始!」
「了解! 第二号作戦開始!」
 オペレーター達が復唱しつつ、命令を実行していく。イカロス隊に出撃許可を通知、さらにレッドバードに再出撃命令を出す。
 慌ただしく動き出した司令室を見て、ポボス大佐は葉巻に火を入れた。
「ふん、勝利は目前だな‥‥。一ヶ月もしない内に私も将官の仲間入りか」
 ニヤリと笑ってポボス大佐は喧騒に耳を傾けていた。

●Red Bird
「再出撃は三十分後。目標はアルコヴァ、強行偵察を仕掛けて可能な限り町と敵基地の様子をカメラに収める。それだけの任務だ。分かったら休め」
 レッドバード隊に割り当てられたKV格納庫の待機室で、隊長のマルケ大尉が言い放った。三十分後に任務を控えた上に触れれば切れるような刺々しい声で休めと言われても、普通の隊員ならば余計に緊張するだけだろう。
 しかし、レッドバードの隊員は慣れたのかズレてるのかその言葉通りに休めるようだった。
 大きく伸びをしながら、四番手パイロットスピキオ少尉が声を上げる。
「でもよーさすがに俺達だけでそれって厳しくねーかなー? アルコヴァって敵の本拠地でしょー?」
「任務はイカロスと共同で当たるわ。予想では敵戦力も分散されるから決して無理な任務では無いわ」
「あーあの可愛いお姉さんが隊長の部隊ねー。でもあんな操縦じゃおっかなくて見てらんなくない? こんなハードな任務を当てたらイカロスは落ちるんじゃねーかなー?」
 副長の説明に長々と答えながら、っても何だかんだ組む事が多いよなーと呟くスピキオ。
 それを聞きながら、沈黙を保っていた三番手パイロットのグラックはうるさそうに顔をしかめる。
「‥‥どうでも良いだろ」
 つれないねー、というスピキオの声が待機室に響く。
 しかし、他の隊員の反応はほとんどがグラック寄りだった。

●Ikaros
「アルコヴァまで約30km。私達の任務は陽動兼強行偵察です。敵の本拠地なだけに激しい抵抗が予想されますが、‥‥そこにはバグアの支配に耐えている沢山の人が居ます」
 第五機甲中隊イカロス、その隊長のヒータ・エーシル大尉が呟いた。
 その隣で愛機のバイパーを見上げながら、イカロス副長のライト・ブローウィン少尉も頷く。
「彼らに希望を与える為にも‥‥なんとかしてアルコヴァ付近まで辿りつきたいものですが」
「いえ、辿り着きます。絶対に」
 ヒータはライトに断言して、続ける。
「今回は戦闘機隊の代わりに傭兵達が作戦に参加してくれますしね。これで失敗したら、私達の責任ですよ?」
「‥‥確かに。意地でも成功させないと」
 神妙な表情でライトが答える。
 それに満足したようにヒータが頷くのと同時、突然に響き渡る基地のサイレン。ヒータとライトの二人は反射的に体を動かす。


 ――アルコヴァ攻略に向けて、作戦は動き出した。

●参加者一覧

リディス(ga0022
28歳・♀・PN
霞澄 セラフィエル(ga0495
17歳・♀・JG
聖・真琴(ga1622
19歳・♀・GP
ブレイズ・カーディナル(ga1851
21歳・♂・AA
威龍(ga3859
24歳・♂・PN
ヴァシュカ(ga7064
20歳・♀・EL
風羽・シン(ga8190
28歳・♂・PN
依神 隼瀬(gb2747
20歳・♀・HG

●リプレイ本文

●一斉トラブル
 七機のKVは基地を離陸する。赤いS−01Hが陽光にきらめいて空を染めた。
 この日ベッセマーベンドで発令された二部隊合同作戦、アルコヴァ強行偵察。‥‥はしかし、いきなりアクシデントに見舞われる事となった。

 基地上空を旋回しながら、レッドバード隊(RB隊)副長のファス中尉は眉をひそめる。ほぼ同じタイミングで隊長のマルケ大尉が管制塔に通信を入れた。
 イカロス隊が上がってくる気配が全く無い。管制塔からの回答は「出撃準備に手間取っている」というモノだった。
「‥‥。管制塔、燃料の無駄だ。先に向かって良いか?」
「ああ‥‥構わんぞ、作戦に支障が出るほどでも無いだろう」
「了解」
 短く返答し、マルケはKVの機首をアルコヴァの方へ向ける。
 他六機も隊長機を基準に編隊を組み直すと、RB隊は加速した――。

 ‥‥その赤い七機が基地上空を離れていくのを、イカロス隊の傭兵達は顔を上げて見送っていた。ニヤリというか、苦笑というか、何かしら含んだ表情で。
 それからたっぷり一拍置いた後、
「おぉっと、やっと計器が正常値に戻ったみたいだな! もう大丈夫だ!」
 突然、雷電の上からブレイズ・カーディナル(ga1851)が叫ぶ。
 今まで機体のチェックをしていた整備員が振り返り、怪訝そうな表情を浮かべる。
 更におかしな事に、機体の不調を訴えていた他の傭兵達も口々に異常回復、と唱え出したのだった。
「ほれ、直ったって言ってんだろーが。どけどけ、轢くぞー」
 しかし、疑問を挟む間も無く風羽・シン(ga8190)が乱暴に機体をタキシングさせる。誘導員の指示も無く動き始めたKVを見て整備員達が慌てて退避する。
 その後ろに他の傭兵のKVもゾロゾロと続いて、「では、整備お疲れ様です」「電子戦機はデリケートでな」「俺は新型機だしね」「行ってきますね〜」「‥‥申し訳ありません」「あはは〜☆」などなど、通り過ぎざまに声を掛けていく。訳も分からず会釈を返す整備員達。
 さり気なくバイパーとシュテルンも通り過ぎようとして――。
「隊長、副長、これは一体‥‥?」
 見事に見咎められた。
 ライト・ブローウィン(gz0172)少尉とヒータ大尉は整備員達に、とにかく今は任務中だから、という一言で振り切ったのだった。

●有効利用
 イカロス隊が基地を出発して敵影も無い空をしばらく進むと、ほどなくして二体のHWと交戦するRB隊を捉えた。
 手助けする間も無くHWは火を噴いて落ちていく。敵を倒して、また前進を始めるRB隊。そこへイカロス隊は接近した。
「どうも遅れました〜。RBさん方々、今回はよろしくなのですよ〜」
 赤い七機に向かって、ヴァシュカ(ga7064)は明るく声をかける。
 ‥‥が、しばらく待ってもRB隊からの返答は無い。むしろ突き放すようにグングンと加速する。
 作戦で使われる無線チャンネルは事前に統一されているので声は届いたはずだが‥‥。
「‥なんかあちらさん、つれないですね」
「まぁ今さらフレンドリーになられても不気味だからな」
 部隊内のみで使われる周波数に切り替えて、不服そうに呟くヴァシュカへライトが答える。
 さらに加速するRB隊を押し留めるように、今度は威龍(ga3859)が事務的に通信を行った。
「こちら電子戦機。RB隊、あまり離れるとアンチジャミング網下から外れる。七キロ程度に保て」
『‥‥了解』
 平坦な口調で一言。しかし確かにRB隊は速度を落とした。
 その態度に、ヒータはむっとして眉をひそめる。
「都合の良い事には反応するんですね。お礼の一つも言えないんでしょうか、まったく‥‥」
「気にするな。あちらさんはエース揃い、電子戦機からの援護を無駄にする事もあるまい。それで積極的に敵の迎撃に動いて貰えるのならそれで十分だろう?」
「それもそうですけど‥‥」
 支援している威龍自身になだめられては引き下がるしか無い。憮然とした表情でヒータは操縦桿を握った。
 それ以来、黙々と飛行する両隊。とはいえ今回はお互い様かなぁ、と依神 隼瀬(gb2747)はコックピットで苦笑する。なにしろ傭兵達が方針として提示したのが――、エース部隊のRB隊を囮にする事だったのだ。
 おかげで出発してから数キロ、イカロス隊の空の旅はさながら遊覧飛行である。前方でRB隊が戦闘を始めて速度が鈍っても、辿り着く頃にはほぼ終わっていた。
 そして一旦縮まった距離も、イカロス隊がやや遅めのためにまた離れてしまう。いつの間にかRB隊が前進して敵と先に衝突、辿り着く頃には〜という一連のサイクルが出来上がっていた。
 そんなイカロス隊へもたまにフラフラとキメラがやってくるが、すぐさま先頭の聖・真琴(ga1622)と霞澄 セラフィエル(ga0495)の二機が集中砲火で仕留める。戦闘とも呼べない一方的な攻撃、完璧な連携。
「‥にしても、また翼を並べられるなンて光栄だよ♪ [天使と悪魔]のバディ、再来だね☆ ‥‥ま、今回は作戦勝ちで活躍する場も無いンだけどさ」
「ええ。私としては、あまりに楽過ぎて悪い気がします‥‥」
 なにしろイカロス隊はいまだ被弾ゼロである。当然で、兵装発射ボタンを押した回数などは隊全体で数える程度だ。
 そのシワ寄せはもちろんRB隊に向かっており、機体ナンバーが大きくなるほど被弾の傷跡がポツポツと見え始めていた。
「‥ま、気にするこたあねぇよ。こっちの機種はバラバラだし、統率も向こうほど上手く取れねぇしでどーしても遅れるんだ。‥しかし、エリートに露払いさせてる俺達を見ればあのおっさんも目をひん剥くだろうがな」
 シンが基地司令をおっさん呼ばわりして楽しげに笑う。司令の事を知っている他の者にはその光景が目に浮かぶようだ。
 そうしてイカロス隊が悠々と半分の距離を越えた時――。
『イカロス、それ以上速度は上がらないのか?』
 ふいに三キロ前方のRB隊からそんな通信が入った。どうやらまた敵部隊と交戦状態に入ったらしい。
 霞澄と同じく良心の呵責を覚え始めていたヒータは一瞬逡巡する。本当はもう少し速度を上げられる――が。
「私のディスタンが遅くてすまない。が、快速自慢の機体には付いていくのでやっとでね」
 ‥‥その前にリディス(ga0022)がサラリと答えていた。ほのかに挑発的な口調で。
 『了解』と答えるRB隊長。その声は相変わらず無機質で、淡々としていて何を考えているのか分からない。
 ‥‥いや、少なくとも考えだけはその後の言葉で表明された。
『謝罪の必要は無い‥‥むしろ逆だな。ここから我々は突破を重視するので、敵はほぼそちらへ流れる。――快速ですまない』
「な、え、ちょっと‥‥!?」
「RB隊が加速、残った敵と俺達の進路が被るぞ! HW三、CW二、キメラ三!」
「うわー‥‥やっぱ一筋縄じゃいかないかぁ」
 隼瀬の言葉がイカロス隊各員の耳朶を叩く。敵部隊の向こうで七つの機影は悠々と加速していった――。

 ‥後方でイカロス隊が敵と交戦を始める。
 先頭、髑髏のディアブロと天使のアンジェリカが電光石火でCW二機を攻撃、跡形も無くCWを吹き飛ばす。
 負けじとHWが一斉プロトン砲撃を開始し、幾本もの赤い光にバイパー、ウーフー、雷電、シュテルンなど数機が包まれる。しかし、それを回避した機を主導に激しい反撃が行われた。
 ディスタンが放つ巨大光条、水色のアンジェリカが放つレーザー、ロビンのG放電――。
「本当に機種が統一してないのね‥‥」
 RB隊副長のファスがポツリと呟く。正規軍ではそんな部隊が珍しいからだろう。‥‥とはいえ、一瞬でもそちらを気にした自分に戸惑いを覚えた。すぐさまファスは後方の哨戒に集中する。
 異常無し。イカロス隊もほぼ敵の排除を完了。一応全機にその旨を伝えた。一段と加速する隊長機に合わせてファスもスロットルレバーを押す。
 右翼のスキピオが、「しっかし、隊長の皮肉なんてレアだよなぁ」などとのたまっている通信が耳に入ってきた。


●アルコヴァ
 既に出発してから二十キロを超えていた。
 KV感覚で言えばアルコヴァはもう目と鼻の先。両隊共に層が厚くなっていく敵部隊を迎撃し、強引に突破して、前に進み続けていく。
 幾度目かの敵部隊を切り抜けた所で、ライトとヒータの視界に地上の小規模な町が見えた。そしてその少し手前で――大規模な敵部隊と交戦するRB隊も捉える。
「中型機が複数‥‥あれが敵の主力部隊のようね」
「ron、別の突入コースを探せるか!?」
「既にやってる! 方位170に進路を取れ、そこが一番手薄だ!」
 その言葉に反応して全機が機首を翻す。しかし既に敵からもこちらを捕捉されていたらしく、敵部隊の一部がイカロスの進路上へ動き出していた。
 突破は間に合わず、アルコヴァの手前で敵部隊に展開される。その数、CWを抜いた純粋な戦闘力だけでも二十以上。しかも中型HWが二機、かなりの戦力だった。
「やはり簡単には通してくれませんね‥‥」
「へっ‥来いよ♪ イカロスの翼‥折らせやしねぇ!」
 遠距離から放たれる閃光をかわして、真琴機と霞澄機が先陣を切る。二機のロッテはCWを重点的に掃射して怪電波を黙らせた。
 すぐ後ろを続いて隼瀬機・ヴァシュカ機が左翼方面にレーザーをばら撒き、リディス機・ブレイズ機が息の合った連携で右翼方面の敵を射撃。CWを集中的に排除しつつ、両翼二班は目立つように敵全体へ攻撃を降り注ぐ。
 激しい近接戦が繰り広げられ、敵と味方が入り乱れる。硝煙に濁る空気を光線が切り裂き、連射される弾丸がHWの表面を撫でる。火を噴き上げる敵を見届けたのも束の間、四方から放たれたフェザー砲で機体装甲の一部が空を舞う。RB隊も敵の物量に苦戦しているようだった。
 際限無く加熱する戦闘。‥‥しかし、任務目標はあくまで偵察だ。
 敵戦力を注視していた威龍は頃合いを見計らって――突破の合図を出した。
「うし行くぜ、隊長ォッ!」
「ええ、抜けましょう!」
 合図でシン機がソードウイングを煌かせて突貫、ヒータ機・ライト機・威龍機も敵中央に殺到する。その四機を通すまいとHWが両翼から猛烈な砲火を浴びせながら移動する。
 それを妨害するため両翼の迎撃班は身体を張って攻勢に出た。激突寸前の超至近ドッグファイト。
 それでも突破班四機の進路上へ強引に集まった複数のHWは、KVに激突してでも止めようと加速する。HW達は目の前に突っ込んでくるKVを捉えながら――しかし上下から降って来た強烈なG放電とロケットに吹き飛ばされた。
「突っ込め、すぐに後を追う!」
「全力で援護します!」
 真琴機・霞澄機ロッテの機体特殊能力も使った全力援護だった。二機によって僅かに出来た綻び。それを四機が猛攻でこじ開けて、――突きぬけた。
 さらに真琴機と霞澄機の二機もその後ろに続く。そして最後に残った迎撃班の四機もその後へ続こうとするが‥‥突如、――大量のキメラがその穴を塞いだ。
「‥‥チッ、まずいぜ!」
 ブレイズが短く吐き捨てつつ、キメラ群に攻撃を加えた。
 ‥しかし、まるで手応えは無い。敵はキメラだけでなく、HWも増え続けている。このままではジリ貧だった。
「ここは諦めるぞ! 全機方向転換だ!」
 リディスの言葉で四機はその位置からの突破を諦める。そして代わりに機首を向けたのは敵主力部隊の方向。
 ――赤い七機が奮闘する空域だった。
 四機はそこへ乱入するなり、猛然とRB隊に取り付くHW達を撃墜していく。
『何のつもりだ‥‥?』 
「‥ボク達もご一緒してよろしいですか〜?」
 怪訝そうに呟いた隊長に、ヴァシュカの邪気の無い言葉が返ってきた。
 意図が分からないらしく沈黙したRB隊長へ、隼瀬が声を重ねる。
「六機は突破したんですが、その後に分断されてしまって。俺達四機だけだと無理そうなんで、協力してくれませんか?」
 一瞬の沈黙。
 しかしすぐに、RB隊副長のファスが声を上げた。
『‥‥私は賛成です。ファイブからセブンの損傷率も上がっていますので』
『‥‥こっちは作戦通りだ。ファイブからセブンが最初に突破、ワンからフォーが援護。その後に逆。‥‥協力したければ勝手に合わせるんだな、イカロス』
 ぶっきらぼうに言い放ち、RB隊長は猛烈な攻撃を開始した。RB五番機から七番機までが突破の機会を窺って編隊機動を始める。
「‥‥なるほど、ではその言葉に甘えさせてもらおうか。‥‥ブレイズ!」
「了解。まぁ邪魔はしないつもりだ」
 リディス機とブレイズ機がRBの突破組三機に加わる。
 さらにスキピオ機の隣に隼瀬機とヴァシュカ機が付いて、援護射撃を始めた。
「あーそういや傭兵って間近に見るの初めてかも」
「ん‥‥ボクはヴァシュカよろしくね〜」
「‥ッ、二人とも余裕だなぁ‥‥!」
 隼瀬の焦ったような声。敵は四方八方に居るのだ。むしろ囲まれている。
 ‥‥それでもイカロスとRBの混成部隊は猛攻撃を仕掛け、どうにか一時的に敵の中央に風穴を空けた。
『GO!』
 RB隊長の声を合図に、五機の機体が敵陣の中央を猛速で突っ込んだ――。


 ――堕した町『アルコヴァ』。
 ナトロナ郡におけるバグアの本拠地となり、跋扈するのがキメラに変わった時から、その町の主役は人間などでは無くなった。
 しかし今、その状況に変化が訪れている。
 町の空に響く爆発音。ワームやキメラに追いかけられながら、はるか彼方からやって来る複数の機影。
 アルコヴァの住民達は窓に駆け寄った。あるいは、崩れた屋根を登って見上げた。そしてその目に焼き付ける。――十数機のKVの姿を。
 KV達は町の上空を敵の攻撃をかわして飛び回りつつ、何か合図を送ろうとしているようだった。
 翼を振ってみたり、スモークで何かを描こうとしたり、赤い照明弾を撃ってみたり。しかしそれはほんの一瞬の出来事で、しかも敵の苛烈な攻撃をかわしながらだったので、ほぼ形になっていない。
 その間、およそ一分にも満たなかった事だろう。
 一通り町の上空を飛ぶと十数機のKVは撤退していった。それはまるで嵐のような出来事。幻だったのでは無いかと疑うほどの一瞬。
 だがアルコヴァはその一瞬に――歓声を上げる。
 いや、悲鳴なのかもしれない。人々は何かを叫んでいた。自分でも分からない、言葉にならない雄叫び。撤退する十数機のKVへ、届かない手を差し伸べて。
 一度は死んだアルコヴァの人々の目に、――希望の光が宿っていた。


●任務成功
 カメラを回収して調べた結果、必要な写真はどうにか入手できた。
 これでアルコヴァへの綿密な攻略作戦計画が立案される事になる。アルコヴァ解放は目前と言えるだろう。
 ‥‥しかし写真には、青色のHW三機がバグア基地に駐機しているのを捉えていた。詳細不明であり、稼動もしていなかったが、一応目に付いたものとして念のため追記しておく。

【NF】No.M005報告書