タイトル:【DR】危機の裏側にマスター:青井えう

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 12 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/04/07 01:54

●オープニング本文


 ――極東ロシアに起こった異変。
 ウダーチナヤパイプに建設中の――軍事施設。
 ――現在敵勢力で最大級の脅威。
 東京から完全に北上した――ラインホールド。
 ――情報を得て動き出した人類。
 かつてない危機を前に動き出した――北米軍大兵団。

 極東ロシアに『ゲート』を完成させるわけにはいかない。
 現在バグアは、地上施設での生産や、本星からの細々とした援助によっている状態で一進一退、人類側にやや優勢。だがそこに、バグア遊星から物資を無制限に受け入れする巨大港湾施設などが完成すれば、どうなるか。
 ほぼ完璧に、人類の敗北が決定する事は明白である。
 UPC作戦司令部は北米に展開するUPC北中央軍に極東ロシアへの派兵を要請、北中央軍はすぐさまそれを呑む。人類にとって最大レベルの危機、既に本部と方面軍間での微妙な駆け引きを弄している場合では無かった。
 北中央軍は、対地攻撃兵器約400機、通常戦闘機約3000機、KV約1000機、兵士約90000人を大動員。さらにロサンゼルスに逗留していたUK弐番艦も極東ロシアへ発進、その大軍勢の指揮を北米方面将軍、ヴェレッタ・オリム(gz0162)中将自らが執った。
 これだけの援軍を持ってしても、集結しつつある極東ロシアのバグア勢力には劣勢の様相を見せていた。しかし、限界。ここが北米から出せる兵力の限界ライン。ギリギリである。
 いや、もしかしたら。
 もうそれは、限界を『超えてしまっている』のかもしれなかった――。


「‥‥仮に占領できたとしてもせいぜい数時間。それよりも、UK弐番艦が帰って来て万が一撃墜されたりすれば大失態になります。分かっていますね?」
「良く存じております」
 薄暗い一室。どこかの街の立体ホログラムが映写されており、赤いターゲットポイントがゆっくりと明滅している。それを挟んで、二人は静かに対峙していた。
 エミタ・スチムソンは奇妙に丸みを帯びた机‥‥のような物に腰掛け、自分に頭を下げる青年を見据えている。
 輝くような白銀の髪、気品がふっと香るような身のこなし。
 ゴシック調のスーツ、背中を飾るマントは部屋の闇に溶けるような黒。しかしそれに反して肌と髪は透き通るように白く、そのコントラストは見る者を幻惑する。暖かさも冷たさも無く、ただ全てを呑み込む深い闇、全てを消し去る無機質な雪のように。
「ならアルゲディ。シェイドに搭乗する事を許可します。ロサンゼルスを――火の海に変えなさい」
「御意」
 アルゲディは顔を上げる。
 そこには不自然なほど歪んだ、――狂気の笑みが浮かんでいた。


「くそ‥‥やはりハイエナしに来おったか、バグアめ!
 ――総員出撃ッ! アーバイン地区の橋頭堡を死守せよ! 市街に雪崩れ込ませるなッ!」
 カルフォルニア州ロサンゼルス。
 UK弐番艦の主要整備拠点であり、UPC北中央軍・UPC太平洋軍の主要基地、北米戦域の最前線に位置するそこは、他の地区に比べても非常に重要度が高い人類側都市だった。
 留守番を任された士官・下士官・兵士達の怒声が響く。ほとんどの戦力が出払った中で、いつもと同じ‥‥いや、いつも以上の敵襲に対応しなければならない。何故なら敵も、この機会を最大限に活かすべく大量の戦力を投入してくるからだ。
「アーバイン地区の橋頭堡防衛に向かった部隊より入電! 敵の中にステアー発見!」
「ステアー級とは‥‥敵も本気だな! 正念場だぞッ! 他が薄くなっても構わん、増援を回せ!」
 答えながら、へし折れるほど強く歯を噛み締める司令官。作戦司令室を襲う、ヒステリックな情報の洪水。想定されていた情報員一人一人の処理限界値を軽々と突破していく。司令官はまばたきする間も無いほど、リアルタイムで戦況データに目を通し、オペレーターの報告に耳を傾ける。
 その中でモニタを睨みながらパネルを叩いていた一人が、半ば立ち上がるように鋭く叫んだ。
「司令官! 敵の一部がアーバイン地区を突破、高速でこちらに向かってきます! 方位‥‥100! 敵――単機です!」
「単機――? ステアー二機目を投入してきたのか!?」
「現在識別中! くそ、処理能力が落ちてやがる‥‥! しかし、偵察装置が観測に成功した模様、映像をサブモニタ3に回します!」
 隙間に挟まれたオペレーターの悪態を咎める暇も無く、司令官は視線をメインモニタ脇の一つに振る。アーバインを抜けてきた以上は目標はここ、ロサンゼルス航空基地。相手がステアーだとしても、まだアーバイン地区に出撃していない部隊を割り振れば‥‥どうにか、という所だろう。まだ耐えられる。とりあえず最優先事項はアーバインの防衛ライン死守だ。やはり傭兵部隊はそちらに回して‥‥。
 そう一瞬で判断して、モニターの映像を捉えた司令官は――目を見開いた。
「傭兵部隊出撃、奴を迎撃させろ! 何としても止めるんだ! ――あの、『黒い悪魔』をここに辿り着かせるなっ!」
 サブモニタ3に映った映像。
 一瞬で司令官の判断を変えさせたその黒い機体――『シェイド』は、既に基地から50kmの上空に侵入していた――。

●参加者一覧

リディス(ga0022
28歳・♀・PN
御影・朔夜(ga0240
17歳・♂・JG
聖・真琴(ga1622
19歳・♀・GP
平坂 桃香(ga1831
20歳・♀・PN
ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416
20歳・♂・FT
終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
なつき(ga5710
25歳・♀・EL
ツァディ・クラモト(ga6649
26歳・♂・JG
風羽・シン(ga8190
28歳・♂・PN
ラウラ・ブレイク(gb1395
20歳・♀・DF
堺・清四郎(gb3564
24歳・♂・AA
鹿島 綾(gb4549
22歳・♀・AA

●リプレイ本文

●エマージェンシー
 ロサンゼルス航空基地に響く怒号。
「――ロシアで激戦中に、北米を爆撃? この時期に隙間産業とは、やってくれるわ!」
「シェイド‥‥たとえ勝てないとしても一矢報いてみせる!」
 鹿島 綾(gb4549)と堺・清四郎(gb3564)の二人が格納庫へ急いでいた。
 晴れ渡った陽気とは裏腹の緊張。基地に響くエマージェンシーコールに手招きされて、傭兵達が走る。

 格納庫に集まった傭兵十二人は、すぐさま内蔵式ラダーを駆け昇り自機に乗り込んだ。KV最終点検。聖・真琴(ga1622)が起動した通信装置に、シェイド侵入の通信が繰り返されている。
「はン、‥‥シェイド? マヂですかぃ、大判振る舞いやね♪ 敵さんも」
「鬼の居ぬ間にロクでもねぇ奴を送り込んできやがった。だが、無駄足踏ませてやろうじゃねぇの!」
 ドクロエンブレムの真琴機、そしてコバルトブルー塗装された風羽・シン(ga8190)機が前進を始める。
「エミタ‥貴女は今何処に‥‥?」
 次々に発進していくKVを見ながら終夜・無月(ga3084)が呟く。
 エミタ・スチムソン。その名を聞いては足を運び、無月は積極的に行動し続けていた。
 宿敵の相手を探し求めて、しかし出会えず。
「今宵相対するは‥果して‥‥? ‥皆にいと高き月の恩寵があらんことを‥‥」
 純白のXF−08Bミカガミ――『白皇』が始動する。

 ロサンゼルス基地上空に舞い上がるKV。
 潮風が吹きつけ、カモメが背後の海岸線上を漂う。陽光が眼下の景色を輝かせていた。
『任せたぞ傭兵達。対空支援は可能な限り行う!』
「シェイドは初めてだな‥‥だが、ここをやらせるわけにはいかん!」
 リディス(ga0022)が猛るように言い放つ。そのバディであるなつき(ga5710)も、静かな気迫を込めて迎撃態勢を整えた。
 ラウラ・ブレイク(gb1395)は、眼下の街並みを懐かしそうに一瞥してから、キッと顔を上げる。
「ロシアへ行く前に、後顧の憂いは断ち切りましょう」
「‥‥シェイドか」
 ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416)は、その強すぎる敵に対して眉をひそめる。
 シェイド、高速接近。

●邂逅
 流線型をした黒い機体。
 不気味な反射光を撒き散らして作戦区域に侵入してくるシェイドは、不吉な死神としか形容しようが無かった。
「来たか‥‥。今の私ではまだ役不足だろうが、よろしく頼むよ。無月」
 御影・朔夜(ga0240)は敵を肉眼で捉えながらペアの無月へ声を掛ける。
「フレア弾は‥‥落とさせません」
 司令本部施設屋上。平坂 桃香(ga1831)の雷電は膝立ちの姿勢でスナイパーライフルを構えていた。
「‥‥土壇場の決戦って所か‥‥」
 清四郎は苦笑しながら、敵が交戦距離に入るのを見た。
『たったこれだけか。くく‥‥舐められたものだな』
 迎撃KVに聞こえるようオープンチャンネルで、あからさまに挑発するような声が飛ぶ。何かが歪んだ、男の声。
 それを聞いた傭兵達の腕に――鳥肌がざわめいた。
「‥‥訪問者は自ら名乗るべきじゃないかしら? あなた、シェイドを任されるほどのパイロットなんでしょう」
『ああ‥‥失礼した。俺の名はアルゲディ。――お前達を滅ぼしに来た者だ』
 ラウラの問いかけに、含み笑いを潜ませてアルゲディが恭しく答える。
「貴方でしたか‥‥久方ぶりですね‥‥」
 無月の言葉に、しかし敵の声は怪訝そうに変わる。
『誰だったか。見覚えがある気もするが‥‥よほど印象が薄かったらしい』
「彼女は‥‥エミタは‥‥元気にしていますか?」
 挑発を無視して無月が質問する。
 一瞬の沈黙。
 しかし黒塗りの悪魔の中で、アルゲディがニタリと笑ったのが傭兵達には分かった気がした。
『雑魚の戯言に‥‥答えるほど暇では無い』
 同時にシェイドは猛加速。
 その主翼下部から解放されたバグア式長距離ミサイルが、白い噴煙を巻き上げて空を走った。
「ブレイク!」
 叫びと共に、KVが散開する――。

 基地の兵舎や格納庫上空を通り過ぎて、シェイドは司令本部など重要施設が集まる上空に侵入。
 その空域は一面黒い煙で濁っており、バグア式ミサイルの爆発力、破壊力の大きさを伺わせる。
 だがふいにその黒煙の中を――、ディアブロが高速で突き抜ける。
「アタシらは[平和]と[破滅]の門番だ! ‥これ以上の[破滅]はいらねぇンだよ!」
 真琴が言い放ち、試作型スラスターライフルの火を噴き上げる。
『お前らが門番? くく‥‥温い。アクビをかみ殺すのに必死だが』
 高速の弾丸をシェイドは難なく回避。アルゲディはそのままうるさいハエを叩き落とそうと、機首を傾ける――。
「今だッ、ウインドフェザー!」
「おうよっ!」
 地上。滑走路の都市迷彩シートの下で、シン機シュテルンの四連バーニアがフル稼働した。
 シュテルンは轟音を上げて垂直離陸、機首を上に向ける。
『‥‥ッ!』
 アルゲディは機体を慣性制御で水平移動。
 直後、下方より放たれたミサイルが機体脇を通り過ぎて上昇していった。
 そしてほんの一瞬、そちらに気を取られたアルゲディに――マイクロブーストを発動した機体が接近する。
 ツァディ・クラモト(ga6649)のワイバーン。
 シェイドへ放たれるM−12粒子加速砲の一撃。まばゆい光が空を焦がす。光条、直撃。
 ――赤いFFと激突した。
「‥‥命中だ。さすがに今のは応えただろう」
 離脱するツァディの視界の端で、粒子砲の強烈な衝撃に吹き飛ばされたシェイドが、――しかし突如空中静止。
 離脱するワイバーンへAAMを発射した。
「なっ――!?」
 鼓膜を震わすミサイルアラート。しかしツァディが反応するより早く、――機体を激しい衝撃を襲った。
 空中で大きくツァディ機が揺らぐ。
 ゆっくりと加速するシェイド。M−12粒子砲を被弾したその機体は――無傷のように見えた。

●爆撃の攻防
『くく‥‥蚊に刺されたようなモノだな。どうした、攻めてこないのか?』
 挑発しながらシェイドはゆっくりと旋回する。
 しかし傭兵達は動かなかった。射程が合えば散発的に攻撃を加えるものの、基本的には一撃離脱。積極的な攻撃には向かわない。
 傭兵達のそんな様子を見ながら、アルゲディは面白く無さそうに鼻を鳴らす。
『‥‥臆病者どもが。ならば下の人間に死を振り撒いてやろう‥‥』
 アルゲディから発せられた不気味な言葉と、様子の変化。
 機首を傾けもせずシェイドが垂直に上昇していく。その腹部に積まれているのは――四つのバグア製フレア弾。
『燃え尽きて死ね。無能な生き物』
「――本命が来る! 迎撃ッ!」
 リディスが叫び、KV全機が加速する。
『対空砲、撃てぇッ!』
 スピーカーを通じて、基地全体に将官の命令が響き渡った。
 けたたましい炸裂音。各所の対空砲がシェイドへ向けて集中砲火を浴びせかける。
 さらに数機のKVがシェイドに追い縋る。
「生憎と此方は直接戦闘が目的ではなくてな。だがそれは貴様とて同じ事だろう?」
 朔夜機のスラスターライフルが火を噴いた。交差するように白いミカガミ、ディスタンとバイパーの同時砲火。さらにラウラ機も火力に加わってシェイドの降下軌道を妨害する。
『その程度で‥‥俺を止められると思うか?』
 しかしシェイドはそれらを無視するようにダイブ、作戦司令部にフレア弾の照準を合わせた。
「困った鷲だな!」
 ホアキンが目標指示ボックスにシェイドを捉える。ブーストオン、アクチュエータオン、トリガー、――プル。
 突如として雷電『inti』から太陽の如く巨大な光条、――M−12粒子加速砲の一撃が発射された。
『‥‥ッ!』
 フレア弾を投下した直後、シェイドは光条に包まれた。

「フレアが落ちた、迎撃しろ!」
 言い放つ綾は自らも機体を駆ってフレア弾に追いすがった。
 続いて清四郎機、真琴機、シン機、ツァディ機もパワーダイブ。
 ‥‥しかしシェイドから投下されたフレア弾は速く、小さい。五機の攻撃はことごとく標的をすり抜けていく。高速落下する弾頭は司令本部施設の直上に迫る。
 インパクトまで一秒にも満たない時間――。
 それを、真下から捉えた。
「――ロックオンです」
 桃香機。
 屋上でスナイパーライフルを構えた雷電が、上方に向けて銃声を放った。
 同時、空中のフレア弾が――赤く閃光した。

●シェイド乱舞
『くく‥‥あはははっはは! あははひあはっはは! 良い。素晴らしい‥‥! おかげで少し目が覚めたようだ‥‥』
 シェイドに軽傷を受け、フレア弾も撃ち落され、初撃を見事に失敗したアルゲディは、――しかし心底楽しそうに笑った。
 呆気に取られる傭兵達の前で、シェイドはまた上昇。
 再び――爆撃降下に移った。
「‥‥速い」
 なつきが目を見開く。先ほどの降下に比べて、明らかに速度が上がっている。
「止めないと‥‥ッ」
 ブーストで猛進するなつき機。他のKVもシェイドに殺到する。
 しかしそれを待たずに――シェイドの腹から何かが落ちた。
 二発目のフレア弾。
 即座に各機が対応、シェイドとフレアの迎撃に分かれる。

 シェイドへの全方位からの一撃離脱攻撃。
 しかしその作戦は、反撃の隙を与えないほどの火力は集められなかった。
『どうした、弾幕が薄い‥‥死ぬぞ?』
 隙を突いてバグア式AAMが三発青空を舞う。それは優雅に旋回、回避機動を取るツァディ機となつき機に、直撃。
 ワイバーンが嫌な音を立ててひしゃげ、バイパーの主翼が爆発に巻き込まれて歪む。
「チッ、撤退‥‥させてもらえそうにねぇな」
 赤く滲むツァディの視界には、こちらを向いたシェイドが映る。
 直後、シェイドの放ったバルカンがワイバーンを蜂の巣にした。
 さらに黒い死神はなつき機に振り向く。
「――ぁ。死ぬ訳には‥‥いかない‥‥!」
 なつき機がG放電を放ち、ブーストで離脱を試みる。他のKVもそれを援護しようとして攻撃。
 ――だが、それでもシェイドはなつき機を逃さなかった。
 バルカンが胴体を薙ぎ払う。左翼完壊、エンジン引火、なつき機制御不能、墜落。
「クッ! そこだッ、アルゲディ!」
 ふいに綾機が太陽を背に急降下。つぶさに敵を観察していた綾は、アルゲディがKVを落とした後、獲物を探すように一瞬止まる瞬間を見抜いたのだ。
 その隙を逃さず、綾は渾身の気迫を込めて高分子レーザーを浴びせかける。
『良いぞ‥‥素晴らしい殺気だァ! あはひはははは!』
 だがシェイドはレーザーを避けもせず、まるでブーメランのように回転しながら逆に綾機へ突進。
「なっ――!?」
 綾の目前に迫った黒い主翼が――ディアブロの胴体部を両断した。
『あははっははは! 良いぞ、もっと足掻け! 泣け! 素晴らしいぞ! ひああっははけひぃっははぁ!』
 三機を下した敵の狂気に満ちた笑い声が能力者達の耳を侵食する。
 ――直後、下方でフレア弾が空中で炸裂した。

『くく‥‥二つ目も空中で落としたか。どうやら曲芸師が揃っているようだ』
「‥‥ヘッ! 奴にフレア弾を撃ち切らせた上で、地上施設を守り切ったらこっちの勝ちだ‥‥全部叩き落すぞ!」
 シンが全機に声を掛ける。
 フレア弾は残り二つ。絶対に守り抜かなければならない。
『ならばちょっとしたゲームをしてやろう。‥‥だがアレが邪魔だな』
 含み笑いを言葉に忍ばせながら、突如シェイドは無造作にフレア弾を投下。さらにフレア弾を追い抜いて超低高度まで侵入すると――作戦本部屋上にAAMをありったけ撃ち込んだ。
 桃香の瞳に迫る五つの弾頭と、その後方のフレア弾。
 照準する暇も無いまま――燃え盛る爆炎が桃香機を襲った。
「クソッ!」
 仲間の心配をする余裕もなく、KV各機はフレア弾に追い縋る。
 その中でホアキン機のG放電が命中、空中の赤い閃きが――作戦本部の一角を削り取った。

●最終降下
『あはははは! 危ない所だったな。さぁ、最後のフレア弾だ』
 高らかに言い放ち、シェイドは急上昇を開始する。
 2000m、3000m‥‥、中高度、高高度に辿り着いた所で――フレア弾を真上に放り投げた。
『この爆弾を俺が守りきるか、お前らが阻止するか。単純なゲームだ』
「良いだろう、乗ってやる!」
 元より遠距離で狙えば良いだけの話。
 リディスが撃ったアハトアハトの光条が、フレア弾へ走る。
 しかしその射線を――突如現われたシェイドが遮った。
 ほとんど瞬間移動。有り得ない機動力で、他の機の攻撃も全てシェイドは遮っていく。
『くくく‥‥どうした? 残り6000m』
 遠距離攻撃は無意味と分かって傭兵達は戦術を変更する。フレア班とシェイド班に分かれると、同時に突撃する。
 だが、それには手痛いほどの反撃が待っていた。バルカン、ソードウイング。狭い空域にKVが集中すると、それだけ敵もやりやすくなる。
『残り3000m。基地が良く見えてきたぞ。あははっははは!』
 哄笑が空に渦巻く。
 しかし攻めあぐねていた。
 近付いても、離れても、有効ではない。傭兵達は焦るまま、一か八かの作戦を練る。眼下には地面が迫る。
『1000m!』
 声が響く。
 同時――ホアキン機のディスプレイに『M−12冷却完了』の表示。
「よし、OKだ!」
「全力で畳み掛けるわよ!」
『来い、雑魚ども‥‥あっははひはははぁ!』
 狂った笑いを振りまくシェイドに、ラウラ機とシン機が全速接敵、全力の攻撃を仕掛ける。
 しかしシェイドはそれを避けもせず、真正面から二機に強烈なバルカンを叩き込む。両機大破――。
 しかし、その間にリディス機と真琴機がフレア弾に挟撃した。
 シェイドは真琴機にバルカンを当てながら、斜め後方に後退。向きを変えずにソードウイングでリディス機を止める。
 さらに逆方向からスナイパーライフルの銃声。
 朔夜機の一撃は、――しかし瞬間移動したようなシェイドの翼に弾かれている。
 だが、計算通り。
 そのシェイドの防御位置を予測し――ホアキン機がM−12砲を撃ち放っていたのだ。
『‥‥!』
 しかし。
 シェイドは機首を上げてギリギリでかわしていた。
『ひはっはははは! 残念だったな。あはははっはは!』
「‥‥えぇ。チェックメイト、ですね‥‥」
『――ッ!?』
 さらに。
 無月が放った二発目のM−12砲撃が、シェイドに――直撃していた。

「間に合え‥‥間に合えっ!!」
 全機の連携で作り出した一瞬。
 それを活かすべく、清四郎機ブースト降下する。
 ――300m上空地点。
 甲高い銃声が響き渡り、――作戦本部のすぐ上で巨大な爆炎が上がった。


●任務終了報告
 ‥‥その後、爆撃に失敗したシェイドは、狂った哄笑を上げながら撤退。傭兵達もそれを追わず、基地に帰還した。
 その内の撃墜された六人に関しては、病院に運ばれて治療中である。
 一方、建物被害に目を向けてみると、作戦本部は軽微な被害を受けたものの、十分な機能を維持していたので問題は無い。
 ――作戦は、傭兵達の手によって見事達成されたと言える。