タイトル:【DR】湖丘の永眠マスター:青井えう

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/03/21 23:56

●オープニング本文


●魔女の婆さんの鍋の中
 廊下に響く靴音。一歩一歩進む毎に、ロングコートの裾がなびく。
 上層部において決した作戦の概要を思い出し、ミハイル中佐は思わず顎鬚に手をやった。諜報部が真面目に仕事をしている、という事なら歓迎すべき自体だ。だが、これまで思うような成果のあがらなかった情報戦で、突然優位に立ったとは考え辛い。
 ――とはいえ。
「考えても詮無い事だな」
 その裏に何らかの意図があろうと、無かろうと、そんな事はどうでも良い。
 彼自身、軍人は政治に口を差し挟むべきではないと考えている。それに、この偵察作戦そのものが、この情報の真偽を確かめる為のものだ。要は、作戦を成功させればそれで良い。権限以上の事に思いを馳せるべきではない。
(余計な事は忘れろ。まずは、この作戦に集中しなければ‥‥)
 ドアを開く。
「総員起立!」
 副官の鋭い言葉が飛んだ。
「敬礼!」
「構わん、楽にしてくれ」
「ハ‥‥着席!」
 作戦に集まった傭兵達を前にして、ミハイルは小さく敬礼を返した。
 彼等は、この偵察作戦を成功させる為にかき集められた。その数、数十名にも及ぶ。
「志願戴き、感謝する。それでは、さっそく作戦の概要を説明させてもらう」
 彼がそう切り出すと、副官が部屋の明かりを落とし、映写機の電源を入れた。
 画面に映し出されたのはシベリア、サハ共和国首都ヤクーツクを中心とした地図。北部からヤクーツクまではレナ川が流れており、南東にはオホーツク海が広がっている。南西のバイカル湖はバグアの勢力圏内に、南方のハバロフスクから北東のコリマ鉱山周辺は人類の勢力圏だ。
 そして、ヤクーツク北西、ウダーチヌイが地図上に表示された。
「作戦目標、ウダーチヌイ」
 ミハイルの言葉に、作戦室が静まり返る。
 ウダーチヌイにはウダーチナヤ・パイプと呼ばれる、直径1km、深さ600mにも及ぶ露天掘り鉱山があり、この鉱山施設を中心に複合軍事施設の建設が進んでいる――諜報部の得た情報を元とし、上層部が出したこの予測が正しければ、バグアは、このシベリアを中心に侵攻作戦を企てている事となる。
 問題は、その情報が果たして正しいのかどうかだ。
 これがもしブラフで、人類が大戦力を投じた結果何も無かった等と言うお粗末な結果に終わった場合、戦力が引き抜かれて手薄になった戦線に対し、バグアは嬉々として攻撃を開始するだろう。
「確証が必要なのだ。でなければ、貴重な戦力を振り向ける事はできない」
 事実であれば、敵の迎撃は苛烈を極めるであろう。
 まさしく、魔女の婆さんの鍋の中へ自ら飛び込む事になる。副官が作戦計画書を取り出し、ミハイルへと手渡す。
「では、各種作戦の説明に移る。まずは――」


●第二作戦『レーダー破壊』
 先ほどの作戦室とは打って変わって小規模なブリーフィングルーム。
 その薄暗い部屋に傭兵と正規軍兵士は一緒くたに押し込まれ、これから行う敵レーダー基地強襲の任務説明を受けていた。
「今日、三月十日中にウダーチヌイ偵察を成功させる。君達の任務は第二作戦に当たるモノだ。
 目標はここから350km北西、氷湖の丘とあだ名される丘陵に三箇所。2km感覚でレーダー群が配置されており、諸君は‥‥」
 作戦説明する士官の吐息が白く濁る。
 大規模な偵察作戦に備えて掛かる電力制限。エアコンがギリギリまで抑えられると、極寒の空気はこの部屋にまで忍び込もうとする。
 長年ここで生活している兵士はともかく、世界を転々とする傭兵達はロシアの気候に身を震わせていた。能力者である以上は常人より寒さに強いものの感覚が鈍感になるわけではないのだ。
 しかし説明役士官は、そんな寒さなど感じないかのように淡々と続けた。
「‥‥なお、敵レーダーは我々人類側のレーダーと同型のモノであるが、その中に見た事の無いレーダーが二つ交じっているという報告を受けている。これは恐らくバグア側技術によって作られたレーダーと見られ‥‥」
 重要目標としてスクリーンに赤くマークされた点。
 丘の両端にそれぞれ一つずつ存在するそこは、恐らく敵戦力の強固な事が予想され、相対的に中央に位置するレーダー群は守りが薄い。
 また、任務に掛ける時間も重要となってくる、と士官は説明する。
 破壊が長引けば長引くほど敵の増援が合流して任務達成が困難になるし、撤退自体も敵の熾烈な追撃で不可能になるだろう。
「敵に構い過ぎる必要は無い。最低限の火の粉を払いながら、迅速にレーダーを破壊して帰投せよ」
 まるで簡単な注文をしたように士官は言い放つ。
 しかし、その作戦の難しさをパイロット達は感じ取っていた。
 敵迎撃機と身を入れずに戦闘、レーダーを短時間で破壊、そして敵に背中を向けての撤退。
 始めから終わりまで無茶ばかりのこの任務が簡単なわけが無い。
 しかし。
 バグアとの戦争が始まってから、そもそも簡単な任務などは無いに等しかった。
 だからもう、彼らの感覚も麻痺していたのだろう。
「‥‥これにてブリーフィング終了、出撃準備が整い次第に任務開始となる。その間に各自でよく話し合っておけ」
 言い終えて部屋から出て行く士官。
 その背中を見送りながら、彼らの目には意地でも成功を掴み取ろうとする意志の光が強く宿っていた。

●参加者一覧

リディス(ga0022
28歳・♀・PN
水上・未早(ga0049
20歳・♀・JG
クラリッサ・メディスン(ga0853
27歳・♀・ER
近伊 蒔(ga3161
18歳・♀・FT
水葉・優樹(ga8184
23歳・♂・DF
風羽・シン(ga8190
28歳・♂・PN
芹架・セロリ(ga8801
15歳・♀・AA
天城(ga8808
22歳・♀・ST
楓姫(gb0349
16歳・♀・AA
カララク(gb1394
26歳・♂・JG

●リプレイ本文

「ふふふ、久々に空を飛びます‥♪」
「オ〜レン〜ジしっぼっれ〜♪」
 格納庫へ向かう廊下の途中、芹架・セロリ(ga8801)と天城(ga8808)の二人はご機嫌だった。セロリは久しぶりの空が楽しみで、天城は何故かカチコチのバナナを嬉しそうに持っている。
 他にもこの永久凍土の大地にキナ臭さを感じて、全員で10人の傭兵が任務に参加していた。
 薄暗い基地の中で唯一明るい格納庫に入り、クラリッサ・メディスン(ga0853)は再び作戦要綱に目を通す。
「これを達成しませんと本作戦に支障を来すのですから‥‥、重要な任務ですわね」
「ああ、その通りだ。‥‥こんなところで躓くわけにはいかない」
 軽く拳を握って頷く水葉・優樹(ga8184)。
 しばらくの間、彼らは黙して時を待つ。無機質な駆動音、整備員達のチェック。格納庫を包む静けさ。
 その場の空気は穏やかで、まるで任務など無いような錯覚に陥る傭兵達。
 ――しかし直後。
 そんな場の沈黙を、現われた一人の士官が打ち破った。
「――出撃命令だッ! 偵察作戦に先んじて『氷湖の丘』を攻撃せよ!」
 叫びと同時、整備士がオペレーションルームのパネルを操作する。ゆっくりと解放されていく格納庫。曇り空が徐々に見え始め、隙間から忍び込む寒気が庫内温度を一気に低下させていく。
 −18℃という氷の空気。
 傭兵達はKVに乗り込んでキャノピーを閉じた。
「潰せる場所なら、少しでも多く‥‥」
 ――ロシア戦線は激化する。この偵察作戦をキッカケに。
 そんな直感めいた予想を携えて、カララク(gb1394)のバイパーが滑走する。
 シュテルン四機、バイパー二機、ワイバーン二機、ウーフーとディスタン、そうそうたる十機が空の上で編隊を組んだ。
「こんな形で‥‥皮肉なものだ。ここには忘れ物が多すぎる」
 肌を刺す冷気すら懐かしい。リディス(ga0022)はコックピットの暖房を緩めて凍土の空気を感じていた。
「‥‥故郷は必ず返してもらう。全てを取り戻すために」
『意味深だな。‥‥ま、気持ちは同じだ』
 同じ空に上がる十一機の友軍爆撃機。
 その最後の一機が編隊に加わった時点で、任務は開始された。

 作戦。バグアレーダーの無力化。

 目標。北西約350km、氷湖の丘。

 管制塔の声を背に、二十一機は曇天を加速する――。


「目標地点まで残り8km」
 約二十分で二十一機は342kmを飛行、レーダー索敵範囲内に侵入する5km手前で水上・未早(ga0049)が全員に距離を通達した。
『爆撃隊W班、C班、E班、編隊完了』
「OK、そろそろ突入するよ」
 近伊 蒔(ga3161)の言葉に、爆撃隊はサムズアップ。傭兵達のKVも三班に分かれて攻撃態勢を整える。
 どこまでも広がる白い大地の上で、狼達は空を仰ぐ。その視界を一瞬で通り過ぎていく、黒い爆撃機隊、青や黒、鈍色のKV。
 それらはアフターバーナーで灰色の空を焦がしながら、――イエローゾーンに突入した。

「E班Holger、ブーストします」
「W班の天城も、‥‥ポチッと」
 距離にして5kmほど離れた部隊両端で、高機動を誇るワイバーンがそれぞれブーストを開始。同時に爆撃機隊も上昇、爆撃機と足並みを揃えていた他のKVも加速する。
 突如、それを迎撃するように響き渡るサイレン。
 何か特殊な音波でも交じっているのか、丘を中心に広い範囲で散在していた巨大キメラが一斉に飛び立った。集結し、各班の進路を阻むべく移動を始める。
 更に次の瞬間、通信に雑じるノイズ。怪電波こそ感じないが、電子機器に異常が走る。
「ルービックキューブの大合唱は、今日も元気に響き渡っています」
 沈黙した幾つかの機器を尻目に、ちょっとした軽口を叩きながらセロリはジャミング中和を開始。どうにか通信網を復旧する。
 敵、味方、全てが慌ただしく動き出した。

 先行したワイバーン二機は早々に丘へ到達、攻撃を仕掛ける。
「バグア製と思われるレーダーは黒塗り、鋭角の突起が多いです。近くに対空砲二機、巨大キメラも上空を旋回中」
「反撃能力とかは‥‥無いみたいかなぁ」
 後方にバグア製レーダーの情報を送りながら、未早はCWを攻撃、天城はGプラズマ弾を投下して来たのと逆方向へ一旦離脱する。
 HWやTWの姿は見えなかったが、多数展開されたCWと大型キメラが二機に襲い掛かった。戦線を離脱しようとする天城機を追いかけ、CWを駆逐する未早機に体当たりを仕掛ける。
「今の内だ!」
「進みますわよ!」
 しかしその二機のおかげで、相対的に後続のKV・爆撃機隊への攻撃は薄くなった。
 E班、W班は散発的に向かってくるキメラを軽く捻りながら高速前進。
 だがその本隊が丘へ到着する前に――、
『HW‥‥ゴーレムが‥‥出現し‥‥』
 ノイズ混じりの声がヘッドセットの中を流れた。

「おーお、正に選り取り見取りって奴だな。逆にどいつから手を付けようか迷うくらいだぜ」
 シュテルンが一機ずつ丘両端に到達。
 風羽・シン(ga8190)は目の前に広がる光景にほくそ笑む。
 半分以上の敵がヒットアンドアウェイした天城機を追いかけて手薄になっている。シンはTWの姿がまだ見えなかったため、代わりに対空砲に低空接近、スラスターライフルを射撃した。
「対地攻撃する暇は無さそうですわね‥‥!」
 反対方向、東側に到着したメディスン機は、迎撃に上がってきたHW相手に熾烈なドックファイトにもつれ込んだ。三対一ではあったが、未早機がCWと対空砲の掃討に奔走していた為、戦闘はやや劣勢程度。
 爆撃隊、護衛KV、後続KVも、後少しで東と西のレーダー群に到達しようとしている。
 それに対応して敵は、――丘の『両端』に別れつつあった。

「さて、そろそろカチコミかけようか‥」
 楓姫(gb0349)がC班全機に通達。今まで敵レーダーの外側に待機していた五機は、一斉に機首を揃える。
「敵索敵範囲に突入、敵中央レーダーの座標予測を各機に転送します――」
『了解、今受け取った』
 セロリ機から後方の爆撃機三機にデータが送られる。
 C班によるタイミングを遅らせての奇襲攻撃。
 ちょうど両翼では、砂粒のようなKVとワーム・キメラ達が激しく火線を交わらせている所だった。

 黒虎マークを尾翼に付けたディスタンが、スラスターライフルを掃射。弾痕を刻まれたCWが火を噴いて落下していく。
「三体目‥‥少しは飛びやすくなったか?」
 前方ではゴーレムや対空砲が放つ火線が見え、シン機や天城機が反撃を加えている。HWと大型キメラもその二機を狙って砲撃を加えていた。
「んなろぉッ! 俺が相手だ!」
 高高度で爆撃機の護衛に当たっていた蒔機が、飛来したHWとキメラに向かってガトリングを撃ち放つ。HWのプロトン砲は危うく爆撃機を逸れて虚空を貫いた。が、キメラによる体当たりが蒔機を揺らす。
『くっ、後もう少しだが‥‥』
 丘に近付くにつれ、徐々に敵の航空戦力による攻勢が激しさを増していた。W班は地上戦力、及びCWの掃討を重視していた為に、HWや大型キメラがほぼ手付かずのままだった。
「左方よりHW接近中、攻撃する!」
「了解だ」
 一方、E班では優樹機とカララク機が連携して爆撃機を護衛する。アハト・アハト、AAMが連続でHWに直撃、爆撃機が敵の射程内に入る前に撃墜した。
「撃破確認。次は‥‥」
 カララクが連絡を取りつつ、大型キメラに弾丸の雨を降らす。優樹機も別方向でCWを排除した。
 他にも遊撃として対地戦力には未早機が、対空戦力にはメディスン機が当たっている。優勢とまでいかなくても、バランスの良い役割分担によって安定した戦況を保っていた。
 しかし、ふいに。
 そんな各機の目の前で、ふいに丘の地面が割れた。地下から何かがせり上がってくる。鋭利な突起を付けた、伏せたお椀のような形状の――。
「タートルワーム‥‥! 皆さん、注意して下さい!」
 未早が全員に警告しながら操縦桿を引く。
 しかし、不意を突かれての回避機動は、例えマッハ2を超えていても遅く感じてしまう。強烈なGを感じながら、未早は衝撃に備えて歯を食いしばった。
 次の瞬間。低空飛行するワイバーンが、大型プロトン砲の光条に包まれる――。

『未早機‥損傷‥‥50‥‥!』
「ハッ、やっとお出ましかよ!」
 西側。ちょうど対空砲を一つ潰したシン機がTWへ機首を向けると、大型プロトン砲を狙ってスラスターライフルを射撃。
 ――しかし、ただでさえ難しい空対地攻撃では上手く集弾させられない。弾丸は甲羅全体、何発かは地面に着弾して土煙を上げた。
「‥‥仕方ねぇな」
 コバルトブルーのシュテルンは四連バーニアをフル稼動、変形してTWのすぐ側に垂直着陸。
 そのまま砲を担いだ小山めがけて駆け出した。
「えと、通常レーダーだけど一つだけ破壊。ロシア製IRSTも、祖国の危機にやる気かな‥?」
 天城はワイバーンの高機能照準システムに感心する。
 守りが固いバグア製レーダーには攻撃できなかったが、端っこの通常レーダーは天城機の攻撃で奇妙に傾いていた。
 少し離れた場所ではアクセル・コーティングを起動したディスタンが、低空飛行してゴーレムや対空砲を引き付ける。被弾しても反撃せず、代わりに通常レーダーへロケット弾を撃ち込んで破壊、東で二基目のレーダーが沈黙。
 攻撃は順調‥‥かに見えたが、その上空では――異変が起こりつつあった。
「あッ‥マズい‥ッ!?」
 他の敵に気を取られている間に、蒔機の横を通り過ぎたプロトン砲。
 光の柱に直撃した爆撃機は閃光を上げ、一言の断末魔も上げられないままバラバラの鉄片と化す。
『W4ッ!』
「‥‥ちきしょうッ!」
 黒藍色のシュテルンが狂ったように弾丸をバラ撒く。
 しかし増加する航空戦力に、蒔一人の護衛では対応し切れなくなり始めていた。

「丘に到達しました‥‥対空砲とCWを優先的に叩きます」
 セロリは報告し、やや低空を飛んで対地攻撃を開始。突入をずらした事もあり、C班は比較的容易にレーダー群まで辿り着いていた。
 しかし、そこは全くの無防備というわけでは無い。多少のCW、大型キメラ、さらにTWが一体配備されている。
 敵は上空に侵入してきたウーフーに気付き、翼を羽ばたかせて加速、援護する大型プロトン砲撃が空を迸る。
 ――だが直後。TWの甲羅に巨大な弾丸が穿った。
 FFの光が閃き、TWが不意の衝撃によろめく。100mほど後方になびく硝煙。
 スナイパーライフルを構えたバイパーが立っていた。
「私と遊ぼうか‥おいで亀ちゃん」
 弾丸装填、再び銃撃。被弾したTWは今度は怯む事無く、背中の砲口を楓姫機に向ける。

『E班爆撃隊、丘に到達‥‥爆弾を投下する!』
「了解、これより援護に回る。爆撃隊、当ててくれよ」
 カララクが返答しながら露払いに回る。
 メディスン機をかわしたHWやキメラも、爆撃機直衛の優樹機とカララク機に阻まれてその奥へは手が届かない。
 そして四機の爆撃機は照準に集中し、大型爆弾を切り離す――。

『W班丘に到達、爆弾投下だッ! 機体を軽くしろ!』
 無誘導爆弾を投下、地面に火柱が上がる。
 しかし直後、左翼を飛んでいた爆撃機に紫の光条を被弾、そのまま火を吐きながら落ちていった。
「くそ、守り切れないよっ!」
 蒔が悲鳴に近い声で叫ぶ。デタラメに落とされた爆弾だが、一つが命中して西のレーダーは残り3基。
「‥‥ツッ、バグア製レーダーに全機火力を集中しろっ!」
 リディスが叫ぶ。西側は混迷を極めていく。

「対空砲破壊しました!」
「OK、亀は引き付けるから他は任せたよ‥」
 楓姫機とセロリ機が中央で暴れまわる。
 その後方を前進してくる爆撃機隊。
 HWと大型キメラは、そちらを振り向いた――。

「まだ一基残っているぞ‥‥! あれは‥‥!」
 優樹が眼下を見据えて叫ぶ。通常レーダーを全て壊滅させた東側。しかしそこに、まだ堂々と佇む黒塗りのレーダーがあった。
『何だと? あのレーダーにはさっき爆弾を落としたぞ!』
『俺もだ! 間違いない!』
 一瞬の混乱。E班に動揺が走る。その中をワイバーンが真っ先に動き、レーダーに攻撃を加えた。
 ロケット弾が着弾。そしてレーダーは――赤く発光する。
「FFですわッ! まさかレーダーにもッ‥‥!」
 メディスンが驚いて目を見開く。全員の気が一瞬そちらに逸れ――、
『しまっ‥‥!』
 突然、空を横切ったプロトン砲が爆撃機の一機を吹き飛ばした。

 光条が放たれてC班爆撃機の一機が消し飛び、セロリは自機レーダーに目を落とす。
「そんなっ、敵増援です‥」
「ったくマズいわね‥」
 楓姫が亀の装甲にレーザーを放ちながら呟く。
 C班爆撃機はちょうど今到着したが、大型キメラとHWに攻撃を受けて苦戦を強いられていた。爆弾を落とす暇もない。
 そして全体的に、全員が劣勢を感じ始めていた。
『これ以上は無理だ、撤退する――!』
 爆撃隊の誰かが叫ぶ。そして一気に、場の雰囲気が撤退の流れに変わった。
 セロリは三体目のCWを落として、口を開いた。
「‥‥私達も撤退しないと。楓姫さん、離陸援護します」
「チッ、仕方無いか‥‥」
 楓姫機は変形、滑走を開始する。
 しかしその離陸と同時――、C班爆撃機の二機目が火を噴いて地面に吸い込まれていった。
「‥‥クソッ!」
「煙幕、展開」
 感情を露わに舌打ちする楓姫と、押し殺して機械的な口調になるセロリ。二人の去り際のロケット弾が、通常レーダー二基を破壊していった。

 黒塗りのレーダーがへし折れるのと同時、四機のKVは機首を翻した。
「は、早く撤退しなくちゃ‥‥。爆撃隊が‥‥、あ――」
 天城の言葉が途中で止まる。その目の前で、三機目の爆撃機が墜落していく。
「‥‥この、野郎ォッ!!」
「撤退だよ、ウインドフェザー!」
 シン機が再び戦域に戻りそうになるのを、蒔が叫んで押し留めた。
 リディスもHWを撃ち落としながら、呟くように言う。
「その通り、撤退です‥‥敵の増援がもうすぐ来る。私達ももうボロボロだ」
 シン機は無言で機首を傾ける。四機は最後の爆撃機を守るように、加速した。

「くっ、やはり無理ですか‥‥」
 未早が黒塗りのレーダーにロケット弾を当てるが、火力が足りなかった。破壊までには至らず、少し傾いた程度。
「Holger! もう戻れ、これ以上は食い止められない!」
 カララクが叫ぶ。少しずつ湧き出てくるCW、キメラ、ゴーレム。さらにどこかの基地から派兵されたHW。
 最後に攻撃する時間を作っていた他の三機も、そろそろ限界が近い。
 未早機はそれ以上の攻撃を諦め、E班全機も撤退を開始した――。

 戦果、通常レーダー10基、バグア製レーダー1基。
 被撃墜、――爆撃機6機。
 この作戦を成功と見るか、失敗と見るか。それは各々の判断によって変わる。
 しかしこの結果は、ロシア戦線に確実な影響をもたらす事だろう。